だがしかし、夏休みを利用すれば更新速度は上がるはずです。
がんばりまふ。
青年は非常に疲れていた。かなりの量の魔力と魔法をデバイス無しで行使し、自らの変換資質の炎熱の余波で喉が焼けるように熱く、汗が滝のように地面に流れ落ちる。
「だぁぁぁ....はぁ、はぁぁ....こなくそッ。硬すぎるぞこんにゃろぉー......!」
青年––紅影零は、Stヒルデ魔法学院の敷地内の魔法戦技場の中心で、二○メートルほど先に各々のデバイスを構えて立つ三人の教会騎士を忌々しげに見つめ、悪態をつく。変身魔法により少年から青年へと変化を遂げ、魔力運用効率が上がったはずの身体が、異様に重く感じていた。
後方型を自称するだけあって強固なバリアジャケットは所々が焦げ、鋭利な刃物に切り裂かれたような跡も見て取れる。しかし、それは零だけではなく、相対する教会騎士三人も同じ状態––いや、もっと悲惨な状態と言っても過言ではなかった。
基本的にミッド式魔導師のバリアジャケットよりも強固に形成するベルカ騎士自慢の騎士甲冑だが、一人の甲冑は上半身部が完全に焼け落ち、もう二人のものも、一部分がごっそり焼けたように消え去り、炎熱付与の魔力刃で斬りつけられたであろう跡が甲冑全体に切り込まれている。
(最初の方、派手に魔力を使いすぎちゃった....これじゃ"飛べて"あと四回、『コレ』は今のを含めて三回ってところかな)
四○センチほどの朱い魔力刃を出力する黒いナイフを逆手に構える左手とは逆の右手を、目だけ動かして見る。
手の平に浮かんでいるのは、高濃度に圧縮され、本来の朱色の魔力光を通り越し、禍々しい黒みがかかった魔力球。"ものすごい圧縮魔力をぶつけて相手を魔力爆発で吹っ飛ばす"という零の持つ、いたってシンプルな、ごくごく単純な純粋魔力攻撃。
ただ魔力を圧縮してぶつけるだけなので、術式をいちいち組む必要もなく、AMF状況下やデバイス無しの状態にはまさにもってこいの技と言える。
("目的地"は長剣騎士さんの後方五メートルに一つ、斧騎士さんの前方八メートルに一つ、盾剣騎士さんの足元に一つで、こちらの手持ちは三つ。無難に考えて次の攻撃に派生し易い盾剣騎士さんに飛ぶのがベスト....てか、これ以外は道がない)
構えていたナイフの出力する魔力刃の展開を停止し、少しだけ腰を屈め、腕に勢いをつけてナイフを地面に突き立てる。
三人の騎士たちは、零の奇妙な動きに警戒を強め、各々がナイフに、魔力球に、零に意識を集中させる。三つのうちどれかに異変があった場合、一人が真っ先に対処できる三人一組の役割分担を組み上げ、隙を見せない威圧感で牽制する。
騎士称号を得る実力者の威圧感を肌で感じつつも、これからの動作のために魔力球の圧縮率を下げ、零の準備は整った。
(目くらましに炎の津波でも出せればいいんだけど、贅沢言ってられないし––––これでっ!!)
そう決断し、零は魔力球を"地面に叩きつけた"。
ゴバッ!! と、今にも爆発するのではないかと思われるほど圧縮された魔力の塊が、魔法戦技場の地表を無理矢理抉り、大量の魔力と土煙が舞う。
爆発の余波は一○メートル離れた騎士たちに、大型の津波のように覆い被さる。熱を帯びた魔力と土煙に目を潰されないよう両目を閉じ、少しでもダメージを軽減するために前方に向けて各々の武器を盾のように構える。
いつ奇襲が来てもおかしくない状況になり、盾剣の騎士は、デバイスに探知魔法を発動させ、零の魔力反応を確認する。視界が潰されている今、頼れるのは探知魔法による発見のみ。
反応は直ぐにあった。多量の魔力を持つ者だけあり、探知されるスピードも早い。魔力量の多い者のデメリットの一つだ。
盾剣の騎士のデバイスは探知結果を淡々とした電子音に変えて自分のマスターに伝える。
〔Zurück, überflügeln Sie 0(後方、距離0)〕
◆
「ほんっと、いくら強いからってデバイス無しで正騎士三人に挑むなんてバカの極みじゃないかと思うんだよ。それに......? リオ、コロナ、聞いてる?」
「あーはいはい聞いてるよー....」
「うんうん。聞いてる聞いてる」
戦技場に行くまでの長い渡り廊下の道のりをリオ、コロナの二人はヴィヴィオの愚痴のようなノロケ話のようなものを聞かされながらてくてくと歩く。
ヴィヴィオの"いつもの"行動で慣れたとはいえ延々とそんな話を聞かされるのは苦痛である。
「あ! いたぞっ! あそこ!」
渡り廊下の向こうから声がした。すると、バタバタと激しい足音を立て、初等科生の制服を着た少年が十人ほどヴィヴィオたちに向かって走って来た。
出会い頭に真竜クラスとばったり遭遇したりした経験を持つヴィヴィオにとってはこの程度たいしたことではないが、他の二人は一斉に駆けてくる男子生徒に驚きと戸惑いを隠せない。
「ツンま....高町さん!」
「高デ....高町さん!」
「高ま....ツンマチさん」
「高町....ツンデレさん」
「高町ネキっ」
男子生徒たちの発言に高町ヴィヴィオは青筋を浮かべざるを得ない。今すぐにでもアクセルスマッシュを打ち込みたい衝動に駆られるが、相手は零のように避けたり防いだりしてくれそうにないのでグッと堪えておく。
「......まあ、わたしは心が広いからそんなこと気にはしないんだけどさぁ....。何か用?」
ヴィヴィオは若干苛立ちを覚えながらも、男子生徒たちに尋ねて来た理由を問う。よく見ると全員服や肌に黒いススをつけている。男子生徒が口を開く前に、彼らが何をしてきたかの予想はついた。
「実はさっき、零のやつとホームルーム長を決める魔法戦をしたんだけどさ......これが僕たち惨敗だったんだ」
「一応、AAAランクの魔導師だからね。そこらの騎士なんかよりよっぽど強いよ?」
自分のことではないのだが、友人の能力の高さを自慢げに語る。ドヤ顔な微笑に数人が一瞬心奪われた。伊達に美少女と呼ばれてはいないようだ。
ぽけーっとする同級生に目もくれず、最初にヴィヴィオに話しかけて来た男子生徒は会話を続ける。
「そう。零はAAAランクの魔導師....僕たちが下手に飛びかかっても勝てる見込みは少ない。そこで考えたんだ! あの零の相棒と名高い高町さんなら、零を相手にしたときに有利な立ち回り方を知ってるんじゃないかってさ!」
「んー........そういうことね」
一瞬、なにか迷うような素振りを見せたが、「いいよ。教えてあげる」と気前良く了承する。
黙って会話を聞いていたリオ、コロナは驚いた。ツンの成分が強めな彼女とはいえ、零が不利になるような情報をあっさり提供するのは意外な行動と言えた。ましてや、現在デバイスを携帯してない零は致命的な弱点が露呈している。それを知られれば、AAAランクの魔導師であっても十人もの数を相手取るのは非常に厳しい。
紅影 零を攻めるにあたっての"最も効果的"な位置を木の枝で土に書いて説明するヴィヴィオを眺めながら、二人はただただ首を傾げていた。
五分ほどたったところで男子生徒達はヴィヴィオに礼を述べ、手を振りながら魔法戦技場へと消えて行った。ひらひらと手を振り返すヴィヴィオを見てリオが疑問に思っていたこと口にする。
「ねぇヴィヴィオ....なんで零の弱点とかをあんなあっさり教えちゃったの? いくらあいつでも、弱点がばれた状態で多人数相手は......」
「それならなーんにも心配はいらないよ、リオ」
「....?」
「わたしが教えたのは彼と戦うにあたって最も効果的かつ効率よく攻撃できる場所。具体的には彼の宿敵"なのはママとの交戦距離"になるとこ」
コロナが「ああ、そっか」と、納得し、リオがさらに頭を捻らす。
ヴィヴィオの母親––エースオブエース、高町なのは。もちろん超有名人である彼女のことをリオは知らないわけではない。しかし、何故その人との交戦距離だから心配いらないのかがわからない。
高町なのはは大出力砲撃がメインの遠距離(ロングレンジ)と中距離(ミドルレンジ)を得意とする砲撃魔導師だ。
"自分だけでは"射砲撃魔法を使用出来ない零が、有利に立ち回れるはずがない。
「リオは師匠と会ってまで日が浅いもんね。まだ格闘戦技くらいしか見たことないんじゃない? あれだって本当はおまけみたいなもので....」
「おまけ? あいつってFA(フロントアタッカー)じゃないの」
「......師匠は召喚士だよリオ。本領を発揮するのはFB(フルバック)で、後方からの火力支援が本来の戦い方」
あんなガサツな召喚士がいてたまるかと、リオは思わずにはいられない。
このままでは話が進まないことに気付いたヴィヴィオは二人の手を引き、戦技場へ歩き出しながら会話を続ける。
「とにかく、その距離は彼が最も警戒して対策を練ってるの。だから負けることは無いから、さっさと迎えに行く。おーけー?」
「お、おーけー....」
「ズドン」
反射的にコロナの口からこぼれた謎の効果音がちょっと気になるリオだったが、気に留めず歩くヴィヴィオについて行くうちに、疑問は耳の穴から通り抜けていくのだった。
一方、戦技場は。
『刻めェッ! 血液のビィィトォォッッ! 燃え盛れスピリットォォォッ!!』
『あっづづづづづっ!? 無理無理無理っ!! なんだよあれっ!?』
『な、なんて馬鹿魔力....!』
『こいつ今さっき正騎士三人と戦ってたくせにってわああぁぁぁ!?』
戦技場ではテンションMAXの零が持ち前の大魔力で大暴れしていたりした。
数十分後。
「このクレープうめぇうめぇ」
「梅ソース入りなだけに? やかましいわ。....ん? なのはママからメール? なになに、『早く帰ってきたいいことがある可能性がなきにしもあらずと言えなくもないよ』。なんでこんな回りくどいの......」
「どしたのヴィヴィオ。メール?」
「うん、なのはママから。早く帰って来たらいいことあるかもしれないだってさ。というわけでさっさと家に帰るよ。あと口元、クリーム」
「おりょ、失敬失敬....拭いてくれてもええんや––––あ! ちょっと待って! 置いてかないでっ!?」
物語をサクサク進めたいのに出来ないとはこれいかに。
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次回→なるべく早くしたい。