「…………呆れた。あんたも仙術を利用しようってこと? 今の話を聞いてなお?」
「利用したい……とは実はちょっと思ってます。というのも、小猫チャンの訓練がちょっと頭打ちでして」
隠すことではないし、恥ずべきことでもない。僕は堂々と胸を張ってソレを肯定する。
「ちょっと前に、僕が小猫チャンの姉……つまり黒歌サンが冤罪か嵌められてはぐれ悪魔になったのでは、という話をしてから。小猫チャンは仙術の習得に前向きになりました。なりました……が、肝心の仙術を教えられるヒトがいません」
「……そ。だから私に声を掛けたいってことね。それで、前と同じことが起こった場合はどうするの?」
「同じことは起こらないと見たから小猫チャンを置いてったのでしょう?」
「…………」
まあ、誰かがそうしようと思う可能性はゼロではないな。とはいえ……
「それに、ソレを僕が許そう筈がありません。そしてウチの主も。家族の、仲間のためならなんだってやりますよ。それはもちろん、魔王の力を借りることだって吝かではありません。小猫チャンや、取引に応じてくれるならその家族の黒歌サンだって。そんな無体は絶対に許しません。そうなったら……僕の影からもう一人が這い出てくるレベルです」
『(ざわり)』
演出ご苦労ヴォーティガン。まあそういうワケなので、基本的にはそういったことは起こらないと見て欲しいところです。
「まあぶっちゃけ本題はそこじゃありません。そこも上手くいけばいいな〜、程度で本命に対してのオマケです。第一そんな個人的なことで魔王サマがゴーサイン出すわけもなくてデスね」
「……話が見えないわ。仙術や種族、力以外に私の何処に利用価値があるの?」
「『被害者の立場』、です」
ニッコリ、警戒心を抱かせないように笑う。笑う……のだが、あまり効果が見られないどころか引かれてる。ちくしょう。
「ご存知の通り、現在聖書の三大勢力は同盟を結びました。そしてこれは僕の憶測なのですが、これから他の勢力とも停戦協定、ないし同盟を結んでいくと思います。そうなった場合、転生悪魔にした眷属の扱いって、結構デリケートなんですよね」
「ああ、だから『被害者の立場』ってわけ? 人の心が無いわね」
「悪魔で、ドラゴンですので」
いやぁ、頭の回転が早くて助かりますわァ。賞賛も込めてパチパチと手を叩く。
「ま、詳しくは引き受けてくれたら話すとして。あなたの構成情報は、僕らにとって非常に都合がいい。妖怪で主殺しの加害者で転生悪魔システムの被害者だ。あなたに誠意を見せることは多少妖怪勢力からの印象を良くできるでしょうし、あなたに恩赦を与えることで主殺しがちょっとの罪で済む範囲の線引きができます」
「分からないわね、そうしたら上級悪魔の何十人かは死んでしまうわよ? ただでさえ悪魔は数を減らしたっていうのに……」
「ふふふ…………」
まぁ、ここまでは辿り着かねェわな。辿り着かれても困るっちゃ困るんだが。それだけ悪辣ド外道ってことだしな。
「我々悪魔は天使、堕天使と協定を結び、さあこれから平和な世界を目指して頑張ろう! と一丸となって邁進していく段階です。そこにそぐわない悪魔の一人や二人、消えてくれた方がいい緊張感になると思いません?」
まあ、つまり。僕たちの手を汚さずに暴徒を作り上げて粛清……ってのもやってやれないことはないワケだ。もちろん下僕悪魔側がカスの場合の方もトントンぐらいで存在しているし、きっちりとした線引きは必要。線さえ引いてしまえば、下僕悪魔はギリギリを狙うために慎重になるし、上級悪魔は無体を働き過ぎれば自分が処されることを理解する。いい塩梅で釣り合いが取れるでしょう。
「…………白音、こいつ本当に元人間?」
「非常に残念なことに」
「失礼だなそこの猫又姉妹」
まったく、失礼しちゃうワ! などとカワイこぶってみるも効果無し。全員こちらを見る目が悪魔を見るソレだ。……間違っちゃないんだけど、3/4は悪魔なんだよね、このメンツ。
「ま、白状しちまいますとデスね。小猫チャン姉……つまり黒歌サンをどうすればこちらに引き入れられるのかという部分から考えてみまして、一番丸く収まる方法を考えたらそうなったということです。あれやこれやと魔王様と相談した上での落とし所。気に入られてるとはいえ、あれやこれやと便宜を図ってもらえるわけでもなし。まぁ、あなたの様な方ならむしろ……こちらにも裏があると分かった方が信用はしやすいでしょう?」
「それが本当だという証拠は?」
「結界を、外しましたでしょう? つまりコレは聞かれてもいい会話ってことですよ。あとは、僕がドラゴンだということを念頭に置いていただけると」
とはいえ信じるに足る理由にはならんだろうな、というのが正直なところ。小猫チャンは信じられても、その仲間を信じる理由が何処にあるのか。
「第一、お目付け役の俺っちがいるんだぜ? 仮に黒歌が乗り気だったとして、それをみすみす見逃す程甘くはねぇやな」
「ああ、そこはご心配なく。二重の意味で」
訝しげにするもんだから、種明かしも込みで解説をしよう。ふふふ……状況は僕の手の内に、とまでは言わないが、策ってのは十重二十重と重ねるもんだからねェ?
「美猴サン、あなたは512倍に強化された黒歌サンを相手に戦えますか?」
「……ちっ、そういうことかよ。流石の赤龍帝、強化するのはお手の物ってか」
「そして黒歌サンが乗り気じゃなかったとして、この場ではいサヨナラとなったとしたって、僕の策は終わらない。いいですか、結界はもう解除しました。聞かせていい……
敵のお二人はピンと来てねぇ様だな。野生か何かの勘でろくでもないこと言ってるのは理解してそうだが……今警戒してるようじゃあ……遅えわなァ?
「話は変わりますが、先程の結界は外の景色以外全てを遮断する結界だったみたいです。通信や何やら、魔力に魔術……生体反応まで追えなくなってたんじゃないでしょうか?」
「それがどうしたって言うんだ?」
「……急にお二人の反応が消え失せたら、探したり探査を飛ばしたりすると思いませんか?」
「「!!」」
あは! 読めちゃったね? 読めちゃったね? 青くなるほどじゃあないが、明らかに下手を打ったと顔に出ている。
「思うに情報の速さからお二人はヴァーリとチームか何かを組んでいるのでしょう。そしてヤツのセリフを思い出すなら、禍の団に入ったのはつい最近の話。……仲間内以外からも監視の目、あるんじゃあないですか? そしてその反応からビンゴ! 僕の
「あんた……他の目がある状態で、勧誘したという事実を作ったわけ……!!?」
「YES!! 大っ正解!!」
クカカカカ!! 気ィ抜いて小猫チャン、妹に対する思いが察せられる台詞も、結界無い状態で吐いちまったもんなァ? マルっとマルっと聞かれてんじゃーねーのー?
「さァ黒歌サン! これでアナタも信用の置けない駒に早変わりだ! 目には目を、歯には歯を! 自分が妹にした仕打ち、その意趣返しってヤツだ! …………あ、小猫チャン。こんな感じでいい?」
「!?」
黒歌サンの視線が、小猫チャンに突き刺さる。可愛い可愛い後輩は、いたずらっぽく笑うのみである。
「ちょっとやり過ぎな気もしますが、スッキリしました。ありがとうございます先輩」
「白音…!? 一体何を……!!」
「私は、私の知る黒歌姉さまのままだと知って、本当に嬉しかったです。でも、この胸のわだかまりが解けたわけではないです。姉さまに置いて行かれたあの日から、私がどれだけ苦しかったか。姉さまは分からないでしょう?」
「……っ」
「だから先輩にお願いしたんです。ちょっとだけ姉さまを困らせつつ、冥界に戻って来やすい状況を作ってくださいって。……まさかこんな方法で来るとは思いませんでしたが」
「白音、あなたそこの悪魔から悪いこと勉強し過ぎたんじゃないの……!?」
はっはっはっは! 賞賛があまりにも気持ちいいなぁ!! あ、違う?
「ついでに言うなら、僕らの方の反応も途切れたんだ。ウチの上司だってそうなりゃ何かしらのアクションを起こす。援軍、ってヤツだな?」
「……そう、何から何まで計算ずくってこと」
「まぁさか、それは僕を高く見積もり過ぎだ。何度も言うが僕は凡人、弱っちいなりたての赤龍帝だ。この状況はあなたが愛情深かったから起こったことだ黒歌サン。僕が誠実に対応しているように見せたから、否小猫チャン関係のことに対して真実誠実に対応した自負があるから、あなたは構えたファイティングポーズを少し下ろさざるを得なかった。あなたの情に頼った言葉回しだ、僕はこれを手のひらの上とは言いたくありませんね」
とはいえ、それで彼女の状況の悪さが変わるわけでもなし。状況を打開される前に選択肢を畳み掛ける。
「もうこれで、あなたが完勝を狙う目はものすごく薄くなったワケだ。小猫チャンだけを攫って逃げようにも、ここに殺到するだろう援軍がそれを許さないでしょう。ただここから逃げ去るだけではあなたは組織で肩身の狭い思いをすることになる。かと言って冥界に下るのはどうにも嫌そうだ。理由は読めるぜ、何せあんたらの首魁はオーフィス。世界最強のドラゴン! どんな気まぐれで三大勢力がプチッといかれるか分かったもんじゃねぇもんな?」
…………
「だったら、だったらだよ黒歌サン。状況を最低限いい方向に持ってくなら…………僕をぶち殺すしかねェわな?」
本当はもう幾つか無くはないけれど、思考が狭まってるだろう相手には気が付けないだろう。……気が付かないで欲しい。鍍金がハゲると急に弱くなっちゃうの僕。
「……これ以上何を企んでるの? 赤龍帝は戦うのが嫌いだと、ヴァーリは念を押してきたわ。そんなあんたが、自分から戦おうとしている」
「疑われても仕方がないけど、一応抱えたタネは出し尽くしたんだなーコレが。今考えてるのは、仙術ってのがどういうシロモノなのかってことだけさ」
この場にいるヤツにしか分からないように、視線を一瞬小猫チャンに向ける。それだけで彼女は意図を察したようだ。
「それに次善の策ってヤツでもある。僕が足止めすればするほど、しょっぴける可能性も高まる。時間は今、間違いなく僕の味方だ。…………本音を言うと、僕の提案に飛びついてくれると助かったんだけど。人生ってままならないね」
「アンタが言うと果てしなく嫌味にゃん」
けはははは、そうかもしれないね。
しっかしなんでだろうなぁ。最善は黒歌サンの勧誘に成功することだったのに、なんだかこの状況が正解な気がしてくる。……今気にしても仕方がないだろう、構えをとって黒歌サンを見据える。
「よし、追加で脅しとくか。乱戦になったら僕は広範囲爆撃使いまくるよ。小猫チャン巻き込まないようにはするけど、保証はできないなぁ」
「最後の最後まで性根が腐ってるわねこの野郎! 美猴、赤龍帝は私が始末するから絶対に手を出すんじゃないわよ!」
「へーへー……もう好き勝手やってくれや……」
最低限の場も整ったのなら、あとはもう順次自分の機能を起動していくだけだ。自分に喝を入れるように、左腕に籠手を装備する。
「さァドライグ、またもまたもや命の危機だ。全力で時間稼ぎしなくちゃな?」
『だいたい己のせいだろうにまったく……そういうところだぞ相棒』
字面こそ呆れ全開だが、声の調子は凄く良さげだ。分かるぜ、僕が自発的にかつ前向きに戦おうとしてるのが喜ばしいと感じているのだろう。人間だった僕としては良い変化とは思えないが、悪い気分でないことは確かだ。
「そして持て余していた憤怒の使い所もここだ。……行くよ相棒、今回も細い可能性を掴んでみせる」
『いいだろう、相棒。約定通りに、俺はその道行に手を貸そう』
『Upgrade:Frame Gear Booster!!』
『Frame No.5:Wrath!!』
最早慣れてしまった鎧う行動に、一つ異物を刺し込む。視界は赤黒く染まり、思考が狭まっていくのを感じる。
『手綱を握れ! お前の憤怒は理性を失わせるものではない、目的の先鋭化だ!』
「ケハハ……っ! 猪突猛進せよ、ってことね……!」
『そうだが違う! 存外余裕あるな貴様!?』
視界とは逆に単純化していく思考に、目的とその為の道筋を思い描く。目的は、『仙術を余すところなく使ってもらうこと』。その為に必要なのは、『仙術を使う状況を作ること』。だから……!
「情報に無い形態……というか見間違いじゃなければ、あんた今ガリガリ生命力が削られてない?」
「その通り、その通り! 補填するアテがあるからできる、命懸けモードってヤツ! ……この方が都合が良さそうだろう、仙術ってヤツは!」
「……っ」
ダメかな、ダメかな!? 回復技も使えっていう結構図々しいお願いしてる自覚はあるんだけど!! それとも一歩間違って殺しそう? じゃあ後押しせにゃならんな!!
「どう転んだって同じことだろう野良猫!! 僕をぶっ飛ばせたら妹を連れていける、僕を殺せなかったら妹の肉壁にはできる!! ココまでさんざ命を秤に掛けてきたんだろう……今更躊躇う理由はありゃしねぇだろうが!!」
笑って、嗤って、哂って。恨みはナシだと高らかに宣言し、僕は力いっぱいに拳を振りかぶった。
※徹頭徹尾善意です。
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