金カム主人公の近所のお兄さんポジだが俺は杉元佐一の支えにはなれない 作:MM*K
評価・感想ありがとうございます。もしかしなくても数名評価上げてくださった方いらっしゃいますよね……?有難や……。
眩しさで目が覚めた。
朝だ。頭上の小窓から柔らかな白い光が差し込んでいる。まだ暖かいというほどでは無いから、日は昇ったばかりなのだろう。俺は体を起こして寝台から降り、身支度を始めた。
まずは包帯を交換する。腕、腹、首、左脚の太もも。消毒の為に水筒に入れておいた酒を、傷口に少しだけ掛ける。寝台のシーツで濡れた場所を拭き、側の戸棚から包帯を拝借して、解けないよう、なるべくきつく締めて結ぶ。一人でも何とかなるものだ。難なく全ての包帯を変えることが出来た。
脱ぎ捨てた負傷者用の白い病院服は、包帯から滲んだ血で茶色く汚れていた。元が白いと余計に汚れが気になり、洗おうかとも思ったが、そんな余裕も水も無いだろうから諦めて畳んで置くことにした。
寝台の横の雑な作りの椅子に置かれていた、恐らく俺のものであろう軍服に手をつける。所々破れ、千切れ、病院服以上に汚れていたが、着れない事はない。ボタンを外して広げると、バサリと何かが落ちた。
拾い上げてみればそれは自作の帳面だった。相変わらずいつ見ても恥ずかしいくらい出来の悪い汚い帳面は、血に浸されていたのだろうか。殆どのページが張り付いてしまったり、字が滲んで読めなくなっている。
しかし、あるページからは無事だったようだ。
この世界の人間なら知るはずもない歴史を纏めた、一見何の脈絡もないそれ。消えかけていた記憶から捻り出した史実。これを書いた時は、これは役に立つに違いないと、得意げに信じきっていた。
現実は自分の頭の中ほどうまくいかないものだ。歴史が分かってどうなる。結局この通りだ。全部知っていた通りだ。旅順での戦いは難航を極め、多数の死者を出し、第一師団は壊滅。次の第三回総攻撃の後も、奉天での戦いが持ち受ける。
これからの事もこれまでの事も。全て決まっていた事か?筋書きをなぞるだけなのか?ただ直進することだけしか許されないと?
つまりなんだ。みんな最初から定まっていた事とでもいうのか。
こんな、どうしようもない俺は生きて、少尉や中尉は死ぬ。それが定めだとでもいうのか。
バシンと床に帳面を叩きつける。身体の中を熱湯が駆け回るような感覚がした。必死で頭の中で言葉を重ねる。定めなんて、そんな事有るわけがない。そんな風に人の命が、運命が決まっていいはずないじゃないか。何かの間違いに決まっている。
これは紛れも無い非情な現実で、漫画という作られた虚構でも、何処かの世界の複製でも無いはずなんだ。
そんな事ばかり考えてしまう自分の頭に嫌気がさす。もっと、何も知らない彼のままだったら。俺が『高橋唯之』だったら良かったのに。そうすればきっと、もっと素直に大切な人の死を、理屈抜きで受け止められたはずだ。
人は、死ぬときは呆気なく、逝ってしまうものじゃないか。人間はこんな過酷な環境で生き続けられるほど強く出来ていないのだから。
運命でも何でもなく。死んでしまうのは、仕方のない事なのだ……。
ふーッと息を吐いて肩を下ろす。足元の帳面を見れば、衝撃でひしゃげたそれは、運悪く糸が切れてしまったらしい。元の状態よりみすぼらしくなったそれを、俺はまた何時ものように懐にしまった。
胸元の違和感は不快ではあったが、なぜか捨てるべきでは無いと思った。
*
白襷隊という名が生まれたのは、戦後の事だ。この部隊は特別支隊であり、正式な部隊ではなかったから、のちの人々が身に付けていた白襷に由来してそう名前をつけた。
十字を背負うかのように掛けた白襷は、夜襲部隊であったために、暗がりでも味方識別を容易にするためのものだったという。
「…遺書は書けたか。回収するぞ。」
隊の部下たちに声を掛けていく。皆俯いたり、黙ったままで、俺に薄い紙を差し出してゆく。担当分を回収し出来上がった束の一番上に、自らの遺書を乗せる。
意外にも、遺書を書くのは初めてだった。これまでも書こうとした事はあったが、結局最後まで書かずに燃やしてしまうのが常だった。とはいえ、他の者たちより淡白な内容のそれは、まるで報告書類のような出来に思える。自分が死ぬこと、父母の健康を祈っていること、兄は桜の下に眠っていること。それだけだった。
上官に遺書の束を渡した後、見知らぬ一等卒が俺に声を掛けてきた。
「高橋軍曹殿、第七師団の花沢少尉がお呼びであります。」
「…そうか。ありがとう。案内してくれるか。」
通りで見ない顔なわけだ。まだ汚れの少ない背中を見つめてそう思った。第三回総攻撃に向けて、我々第三軍に第七師団が増援された。一個師団分の被害が出たならば、その分増やそうという単純すぎる理屈だ。
しばらく歩き、辿り着いたのは第七師団の天幕だった。直前で身なりを整えようと帽子をかぶり直したが、ボロボロの軍服では何をしても無駄だと気付く。出直すため踵を返そうとすると、丁度勇作少尉の呼び声が聞こえたため、諦めてそのままの格好で天幕に入ることにした。
「久し振りだな高橋軍曹。ボロボロじゃないか。」
「このような姿で申し訳ございません。優作少尉殿。お呼びと聞きましたが、何かございましたか。」
「実は大和の戦死を知ってね。君が気を落としているんじゃないかと、心配になったんだ。」
「……そうですか。」
輝かしい笑顔を向ける勇作少尉は、とても親しい友人が死んだことを知った様には見えない。そんな姿を見て、やはり自分はこの人が苦手だ。と、そう思った。どこか人間味が足りない。そんな感じがする。
もし、俺が彼の立場なら。俺のことを許しはしないだろう。
親友の信頼の厚い側近でありながら、親友を死なせてしまう。理屈抜きで思うところはあるはずだ。また、部下として上官を守りきれなかった俺は、本来ならば罰せられてもおかしくない。
友人の立場から見ても。軍人の立場から見ても。普通俺に対してもっと感情を露わにしてもおかしくはない。
それがこんなにも穏やかな空気を纏って、あろうことか責めるべき俺を思いやるなんて。普通の神経とは思えない。自分でも捻くれているとは思うが、そういう風にしか考えることができなかった。
「大和は軍人として誇らしい死に方をした。軍曹、君が気に病むことはないんだよ。」
「誇らしい……。」
まただ。彼の言動は何かと引っかかってしまう。俺の感覚がズレているから違和感を感じてしまうのだろうか。でも俺の本心が言っている。それは可笑しいんじゃないか?と。
死に方に、誇るべきものなどありはしない。
ただ事実として、そこに死があるだけだろう。
僅かにもやもやとした気分を抱きながらも、俺は彼の話に付き合った。彼の個人的な相談を聞いたり、世間話をしたりして、会話は終わった。
天幕を後にする俺を、始めに俺を案内してくれた一等卒がまた呼び止める。
「お待ち下さい高橋軍曹殿。」
「…どうした。何か用か。もしそうでないなら、今夜の作戦のために、すぐにでも隊に戻りたいのだが…。」
「その必要はなくなるかもしれないぞ、高橋軍曹。」
低い声に思わず心臓が跳ねる。ゆっくり後ろを振り返れば、そこには懐かしい人物が立っていた。
何故ここに、とも思ったが。ここらは第七師団の天幕ばかりなのでここに居るのは当たり前なのだろう。問題は、彼の様な人が、一体俺ごときに何の用なのか。それに限る。
「お久しぶりです。鶴見中尉殿…。」
「ほう。私のことを覚えているのか。」
黒々とした瞳がすぅっと細められた。
・
・
・
「出来れば単刀直入に話を進めたいところだが、君は慎重だから私が要件を伝えても納得しないだろう。だから、まず君にこれを読んでもらいたい。」
「これは、手紙ですか。」
真っ白で鶴見宛の、送り主の名が無い手紙だった。
他師団とはいえ上官宛の手紙を読むのは気がひけるのだが仕方がない。開いてみると、見覚えのある字体だと思った。
この字。大和中尉の字によく似ている。
普段は大和少尉の補佐ばかりしていた俺だが、大和中尉の事務を手伝う事もあった。と言っても、書類を効率よく処理するために分類分けをしたり、第三者の点検が必要そうな場合に確認したくらいだ。
そのため、大和中尉の字の癖はよく覚えている。兄弟揃って似ているけれど、兄の方が達筆だなぁと記憶に残っていた。
手紙を読み進めると、ますますこの手紙の送り主は大和中尉だろうという確信が深まる。
当たり障りない世間話。中でも「弟」と「部下」とだけ書かれた人物とのやり取りは、俺にも覚えがある。確実にこの「弟」とは大和少尉のことであり、「部下」の方は俺のことだ。
さらに目を通せば、「弟」が勝手に繋ぎ目の件に「部下」を巻き込んだ、とも書いてある。驚きだった。俺が内通者の様なことをさせられたのが、少尉殿の独断だったことも。
その件に関して鶴見中尉が関わっていることも。
鶴見宛の手紙にその件が話題として上がると言うことは、つまりそう言うことだ。直接的な言葉がある訳ではないが、中央の情報を第七師団に流すようにさせたのは鶴見中尉だと分かった。こんな時期から企てをしていたとは、知ってはいたが恐ろしい男だ。
長くない手紙は、あっという間に読み終える事ができてしまった。手紙の最後には、自分に何かあったら「弟」を頼む。勿論「部下」の事も。そう書かれていた。
「分かっているとは思うが、それは私の友人である第一師団の中尉が書いたものだ。私はそれを彼の遺言だと思っている。」
鶴見は兵に命じて、何かを持って来させた。兵は俺の目の前にそれを差し出す。
それは新品の軍服だった。俺の着ている軍曹用のものと変わらない。ただ一つ違いがあるとすれば、連隊番号が27であることだろう。
「君には第七師団に移ってもらう。」
ぐいっと近寄ってきた鶴見がそう言い切る。とても真剣な表情で俺の肩を掴んだ。そして耳元で囁く、亡き友人の思いを汲んでやってくれ、と。
正直、俺は場違いなくらい感動していた。感動、と言う言葉は適切ではないが、胸に来るものがあったのだ。多分目の前にいるのが鶴見ではなかったら涙を流していたかもしれない。大和中尉殿の人柄の良さを再確認して、これまでの思い出が蘇るようだった。
ゆっくりでいい、話してごらん。まるで幼児を嗜めるように俺に言う鶴見に、俺は素直にこう返した。
「お断りします。」
●
はぁ、と、何度目かのため息が溢れる。その度に頭に浮かぶのはあの軍曹。高橋唯之の顔だった。傷だらけで、鋭く尖った切れ長の瞳。日清戦争で見かけた時は、もっと柔和な顔立ちであったと思うのだが、今はその穏やかさは鳴りを潜めて、精悍な軍人の顔になっていた。
しかし、自分の見立てが甘かった故だが、まさかあそこまで頑なだとは思いもしなかった。
引き込むことが出来ると確信を持って呼び出した。
見せたのは二枚あるうちの一枚ではあったものの、あれは本当に友人である大和中尉自身が書いたものだ。読んでいる時の様子を見ても、そのことには確実に気付いていたはず。
情に厚く誠実な性格の彼ならば、亡くなった上官の心配りを無碍にはしない。その筈だ。現に自分は助かったというのに、親密な仲であった少尉と中尉の死に精神を病んで、暫く軍医が目を離せないほど危うい状態だったと聞く。
多くの屍を積み上げてきた彼は、敵には一切の容赦をしない代わりに、身内にはとんと甘かった。怪我のおおよそが回復したのちは、病院内の部下たちを励まし、時にはその死が穏やかであるようにと、最期の時まで傍で看取る献身ぶり。
彼のように上官を慕い、部下を気遣う事の出来る男が一人居れば、隊の結束はより固くなるだろう。それにいつでも切り捨てられる存在だ。利用価値は計り知れない。
まあ、例の件に首を突っ込んでいるため、今更野放しにはできないのは確かだ。私に着くか、死ぬか。その二択しか彼は選べない。
やはり失敗があったとすれば、例の件に関して書かれた手紙を見せてしまった事だろうか。大和中尉から聞いた話では、彼は本来巻き込む予定ではなかったため、文書を読む事も何が書いてあるのかも知らない筈だ。実際、読んではならぬと命令を出して処置したとも。
仮に、内容を知っていたとすれば、お喋りな少尉が漏らしてしまったのだろう。不謹慎だが死んでくれて助かった。だからこそ彼も心を決めて自分から死ににいくのだろう。
はぁ、と、再び溢れたため息に部下の冷めた視線が刺さる。
ふとそこで思いついた。試しにやってみようと口を開く。
「そういえば…お前の知り合いに高橋唯之、という男がいただろう。死んだ友人に彼のことを頼まれたんだが、彼はもう心を決めてしまったようで、何を言っても無駄でね。お前も最期の挨拶を済ませてきた方がいい。」
「最後の、ですか?一体どういうおつもりで…。」
「彼は決死隊に志願したそうだよ。」
聞くや否や、部下は第一師団の天幕へ駆け出した。その背中を見ながら自分の口元に手を当て、思わずつり上がった口角を隠した。
*
鶴見が見せた手紙は不完全であったと俺は予想している。
手紙のギリギリに書かれていた[自分に何かあったら「弟」を頼む。勿論「部下」の事も。]という文章。ここにはおそらく続きがあった筈だ。文章の最後に付け加えられたであろう句点の[。]の先には、大和中尉があの戦いの前に俺を呼び出した時の言葉が続かなければおかしい。
『そしてお前も、意地を張らずに故郷に帰れ。』
実際どんなことが書いてあったのかは分からないが、そのような内容であったに違いない。もし、軍に残るように面倒を見てくれ、とでも書いてあったのなら、鶴見はあんな中途半端な手紙を見せなくても良かった筈だ。むしろその二枚目があったとしたら、最後に書かれた送り主の名まで確認できるそれを出し惜しみする必要はない。
ならば、第七師団に移るよう俺に勧めたのは、いつでも俺の口封じを出来るように手元に置いておきたかっただけでは無いだろうか。恐ろしい男だ。そんな男と先程まで話していたと思うとぞわぞわしてくる。
多分そこまでしつこく無かったのは、俺が決死隊に志願し、自分で手を下さなくても勝手に死んでくれるからだろう。きっぱりと断りを入れたら、驚いた様子を見せて「本当にそれでいいのか?」と聞き、「ええ」と返した俺にそれ以上何も言わなかった。
あの男の望んでいる通りになるのは癪だが、事実俺はこの地に骨を埋める覚悟ができている。遺書まで書いて尻込みするような馬鹿ではない。
ここで、この戦場で。多くの友と親しい人たちが死んだ。埋葬にも立ち会った。戦死した者たちはあまりに数が多く、全員の遺体を持って帰るのは難しいため、遺体の手から小指を切り落とし、それだけが骨つぼに収められ故国へと還って行く事になった。
それはあまりに小さな骨だった。
今でも思い出す。手に持った、さほど大きくない筒の中を覗くと、底に1センチほどになってしまった、大和少尉の小指があった。
白く、本当に小さいだけの骨だった。小指ではなく、歯の骨かと思ってしまうような。筒が傾くとそれは底で転がって、カランと乾いた音を響かせた。
あれを見てしまっては、とても自分だけのうのうと生きていることが許せない。ここが死に場所だと悟るより他なかった。
だから今夜の作戦の決死隊に志願した。知っている通りならば、惨敗である。無意味とは分かりつつも、いつもより念入りに銃剣の点検をする事にした。
暫く黙々と作業をしていたが、少し外が騒がしい気がする。天幕から出て部下に何事かと尋ねると、第七師団の男が来たと返って来た。
今度は一体誰だろうか。また勇作少尉が来たのだろうか。まさか彼のアニサマと来たなんて事ないよな?考えながら声の方へと向かうと、走り回る他師団の兵が。背の低い軍曹だ。
まさかと思った時にはもう目が合った。
「高橋!」
今日は知り合いによく会う日らしい。
それともみんな俺の死に目に合わせてくれているのだろうか。
息を切らした月島がそこには立っていた。
・
・
・
二人して上手く声が出ない感じだった。俺も、もちろん彼も、こうして再開できたら話したいことの一つや二つあっただろうに、いざその時になってみると何も言えなくなってしまった。
黙って見つめあっていたが、不意に月島がポケットに手を突っ込んで何かを出した。遠目から見ても分かる。それは俺がよく吸っていた銘柄の煙草だった。俺もポケットから同じ様に箱を取り出す。俺が持っていたのは、月島がよく吸っていた銘柄の煙草だった。
隊から離れた場所まで二人で歩き、積みかけの土嚢の上に並んで座る。先に話し出したのは月島の方だった。
「その銘柄は好きじゃないと言ってなかったか。」
「お前こそ、俺の吸ってるやつじゃ物足りないって言ってただろうが。」
お互いに持っていた煙草を相手に差し出して、それを吸ってみる事にした。
月島に会いに行こうとした時に、俺は選別にと大量に彼に渡す為の煙草を買っていた。結局渡す相手を見つけられず、大量に手元に残ったそれを、やけくそになった俺は吸いまくった。それ以来煙草はそれじゃないと吸えなくなり、稼ぎの大半が煙草に消えた。
最近では、大和少尉が吸いたいなどと言いださない様控えていたため、煙草自体は久しぶりである。日清戦争の頃吸っていた銘柄なんて、十年ぶりくらいだ。
立ち上る煙を目で追って空を見上げると、日没が近いのか、空は真っ赤に染まっている。月島も俺と同じ様に空を見ていた。
ポツリ、と月島が言う。
「決死隊に志願したと言うのは、本当か。」
「ああ。お陰で今日は皆、日が暮れる前だというのに呑んだくれてるよ。俺も、少し飲んだ。」
「……そうか。」
とても死地に赴く前とは思えぬ賑わいだった。酒を飲み、歌い、語り。遠慮する俺に部下たちが引っ切り無しに酒を勧めてきたため、逃げる様に銃剣の手入れをしていたのだ。
「お前は、どうしてそんなに生き急ぐんだ。」
「別に生き急いでるわけじゃないさ。ただ、そうするべきだと思ったから、こうなってるだけで。」
「じゃあ何で、死ぬべきだと思うんだ。」
その言葉が俺の中で反響する。なぜ俺が死ぬべきなのか。そんなの、数え切れない。
黙った俺に月島は何も言わなかった。煙草を咥え直した彼を真似する様に、俺ももう一度煙草を咥えて煙を吐き出した。
だんだんと太陽が動いてきた頃。月島がまだ煙草を吸っていると言うのに、ポケットから箱を取り出した。疑問に思っていると、その箱の中から煙草ではなく、見覚えのある小さな赤いものが出てくる。
「こんなところに入れるのもどうかと思ったが、汚すとお前が怖いから、ずっとここにしまっていた。」
もう、一生返せないかもと思っていた。
懐かしいそれが俺の掌の上に乗せられた。随分大切にしてくれたみたいだ。色も昔のまま。鮮やかな赤に、優しげな色合いの薄桃や山吹が乗っている。括り付けた紙も、少し草臥れているだけだった。
「ありがとう。月島。」
「なぁ、高橋、お前本当に…。」
「ははは、くどいなぁ。行くよ。今夜。」
帰ってきたお守りを懐に入れる。地平線に沈む夕日の輝きが眩しくて、光を手で遮った。
「眩しいなぁ、月島。」
話しかけたが、返答は返ってこない。どうしたのだろうと俺は首を横に曲げて隣を見る。強烈な光で黒い影が色濃く際立つ。そして普通とは違う輝きが見えて、俺は息を飲んだ。一呼吸置いて、小さな笑いがこみ上げてくる。
「はは、なんだよ。」
お前、泣いてんのかよ。
そろそろ日露戦争編も終わりが見えてきました。
最初勇作さんのシーンに鶴見中尉も月島軍曹も居たんですけど、渋滞しちゃって上手に書けなかったので小分けにしました。
鶴見中尉の企んでる感じが上手に見せれなくて残念です。勇作さん同様これも個人的解釈ではありますが、鶴見中尉は頭ぶっ飛ばす前と後で何か変わったというわけではなく、もともとあった性質が表に出やすくなっただけだと思ってます。
金カム三期決定おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!