金カム主人公の近所のお兄さんポジだが俺は杉元佐一の支えにはなれない 作:MM*K
小銃は重い。約4kgの重量は伊達ではない。数字だけで見れば想像し辛いが、まぁまぁな大きさのハンマーと同じぐらいの重さだ。
簡単な話、人間の頭に向かってハンマーを振り下ろしたらただでは済まないだろう。運が悪ければ即死もあり得る。つまり、小銃の銃床をロシア兵の頭に向かって振り下ろすだけで、かなりの負傷を与えられるという事だ。
「Aaaaaa!!!」
「オラァ!!」
叫びを上げるロシア兵のおぞましい顔がまた一つ脳裏に焼き付いた。俺に戦友を殺されたロシア兵達が、よく分からないロシア語を撒き散らしながら飛び掛かる。右頬を拳で思い切り殴られて地面に倒れるが、直後に自身の脚を思い切り伸ばしてロシア兵の脚に絡める。体勢を崩した大柄な男に巻き込まれて、俺を囲むように居たロシア兵が次々に地面に倒れ込む。
殴られた頬が痛い。口の中が切れて鉄の嫌な味が広がる。いち早く体を起こして、俺は無防備に散らばっている脚を遠慮なく斬りつけた。脚は兵の機動力だ。ここまでやれば、もう立ち上がるのも辛いだろうし、走って逃げる事は困難。もうこれ以上は意味がないかもしれないが、不安を解消する唯一の手段だ。これでもかというくらい腱をズタズタにしないと安心できない。痛みに呻きフラつきながらも立ち上がろうとするロシア兵を、モグラ叩きの様に淡々と銃床を振り下ろす事で倒していく。ベキ、バキ、と変な音が銃から伝わり、ロシア兵は動かなくなった。
ふと、耳に土を蹴る音が入ってくる。振り向かずに素早く体を捻って横に避ければ、先程立っていた場所に真っ直ぐ銃剣が通り過ぎる。驚愕に開かれた目に、俺は口に溜まっていた血混じりの唾を吐く。反射で目を閉じたロシア兵の背後に回り込んで軍刀を突き刺すと、ビクッと一度身体を痙攣させて地面に平伏し、手足を毛虫の様にモゾモゾと動かした。
俺はロシア兵達のそんな死に様を見ながら、なんとなく羨ましいと感じていた。
自分でもこの感覚はイかれていると分かっている。でもそう感じてしまう事は止められなくて、思わずロシア兵の息が絶えるまで、じっと見つめてしまった。
命のやり取りに手加減は許されない。必死に抵抗して、抗って、もがき苦しんで、最後まで生きようとして殺されなければいけない。だって自分がしてきた事だ。楽に死ぬなんてそんなのは許されない。
その点、このロシア兵達の死にゆく無様な姿は完璧だった。生きたい、という正しい願いを抱いているはずなのに、何処か浅ましい様に見えるその姿。俺もこんな風に死ななければ、と羨ましく感じてしまうのも仕方ない事ではないだろうか。それに、これだけ暴れてくれればトドメを刺す側としても、心置き無く殺せるというもの。
だから俺は自分が殺されるためにも、手加減する気はさらさら無い。機関銃の雨に突っ込んでも、最後まで生きようとしがみつく。
醜く死ななくてはいけないのだ。俺が軽々と刈り取った命の数に見合うよう。惨たらしい最期を迎えなければ。誰に言われたわけでもなく、そんな義務感が俺の心に深く根付いていた。
体はそろそろ限界だ。どこもかしこも穴だらけ。今は不思議なくらい痛みを感じないが、ぬるぬるとベタつく体の血が出血の酷さを確認させてくれる。頭だってフワフワしている。
目だけを動かして敵影を確認する。なんだ、この堡塁、これだけしか居なかったのか?さっき見た時はもう少し人がいると思ったのに。気を落としつつ顔を上げれば、斜面の上の方に別の堡塁を見つけた。
少し距離のある場所にロシア兵達がわらわらと群がっているのが見える。機関銃が有るのに使っていないところを見るに、弾切れなのだろう。同胞達と銃剣でぶつかり合っているようだ。俺は迷わずその方向へ駆けた。
全速力で突っ込むと目の合ったロシア兵の動きが少し固まる。よほど俺の姿が恐ろしいらしい。味方で有るはずの白襷の兵からも動揺の声が聞こえてくる。
「高橋軍曹、か!?」
「お、お前ら!軍曹に負けるな!血みどろになっても戦え!」
士気が上がったのか、より一層大きく雄叫びをあげながら、敵味方入り混じるぐちゃぐちゃの戦闘は続く。手負いの俺は始末しやすいと思ったのか、こぞってロシア兵が俺の方に押し寄せる。
これ程に敵兵の動きが目で見えるのも珍しい。囮状態の俺に向かってくる兵の動きは極めて単純で、それに気付い兵達が攻撃を加える。ロシア兵も負けじと踏ん張りを見せ、一進一退の攻防が続いた。
敵も味方も数がどんどん減っていく。地面に積み上がった死体と血溜まりが気持ち悪い。踏みつけた死体の鈍い弾力で体がフラつかないよう踏ん張りつつ、小銃を振り回した。
最早俺に向かうのも躊躇し始めたロシア兵だが、一人の兵が銃剣の切っ先を震えさせながらじりじりと距離を詰めてくる。覚悟を決めたのか、ロシア語で何か怒鳴りながら、俺に突っ込んだ。
俺も銃剣を構えながら、それを受けるために足を踏み出そうとする。そして、驚愕した。
足が動かない。
思わず敵から目を逸らして足元を見れば、そこには死体に混じって潜んでいたのだろう、虫の息のロシア兵が俺の右足にへばり付いていた。動かそうにも、太腿に抱きつく様に掴まれているせいで、屈むことも身を捻ることも難しかった。最早この状態で避ける事は出来ないだろう。
ようやく、か。こんな状況であるのに、俺は確かな満足感と虚しさを感じながら、銃を下ろして目を閉じた。終わりを悟って安堵した途端に、ズンと体が重くなるような気がした。
死ぬのが恐ろしくないわけではない。むしろ、誰より死にたくなかった筈だ。誰より生きることを望んでいたから、自分の生きる居場所を、意味を、求めていた。
でも、そうやって足掻くのに疲れてしまった。『高橋唯之』に成れず、良い人に成れず、周りの人間に不幸を呼び込む。
______じゃあ何で、死ぬべきだと思うんだ。
逆に、生きるべき理由もなかったからだ。
迫り来る叫びに俺は抵抗せず、懐にしまったお守りをボロボロになった軍服の上から握りしめた。
「唯之ッッッ!!!」
ザシュッと皮膚が切れる音がする。額に走った熱い痛みから、ぬるい血が顔を伝って目に入る。
傾く真っ赤な視界の中で、俺の名を呼んだ男の姿が鮮明に映る。
次々に敵兵を薙ぎ倒す姿。止めどなく繰り出される攻撃の嵐。そして、男の顔に刻まれた特徴的な傷跡。
見紛う事なく、杉元佐一その人であった。
●
目を覚ました時。真っ先に軍医に聞いたのは、あの人の所在だった。まだ安静にしていろと煩い衛生兵を無視して、俺は寝台から起き上がって通路へ飛び出す。驚いたような顔の寅次と目が合ったが、その横をあっという間に通り過ぎて野戦病院の中を駆け抜けた。
辿り着いたのは一番端の一室。扉の前に立っていた軍医が俺の入室を拒んだが、無理矢理押し退けて部屋に割り入ると、重症患者達が寝台に並べられている。ぐるぐると目を動かして、ようやく視線が一点に定まった。
いくつかあるうちの寝台の一番奥。窓際の隅にその人は眠っていた。
「唯之にい…。」
あれから、もう十年だ。
十年間ずっと会いたかった人が、ようやく俺の目の前にいる。
望んでいた再会とは程遠いが、今は重傷を負いながらも生きているだけで良かった。カサついた口がほんの少し隙間を開けていて、そこから小さく、ひゅー、ひゅー、と空気の音が聞こえる。呼吸は浅く顔色が悪い。当分は目を覚まさないだろう。
身体中に包帯を巻かれて痛々しいその姿を見ると、かつて子供の頃、自分が頼りにしていたこの人が、酷くか弱くて、儚い存在に見える。
…いや、違うのかもしれない。本当は昔から、強くなんてなかったんだ。この人は弱い人で、それを上手に隠していたから、俺も皆も気が付かなかっただけなのかもしれない。
だからなのだろうか。俺が間一髪で助けたあの一瞬。突っ込んでくるロシア兵の方を向いて、銃剣まで下ろしてしまって。唯之にいは微笑んでいた。生きる事を諦めて笑っていたのだ。死を目前にしたあの瞬間だけ、唯之にいは本心を露わにしたのではないだろうか。
思い出すと背筋を冷たいものが駆けていく。そうだ。あの時、ほんの少しでも遅かったら、唯之にいはこの世には居なかっただろう。間に合ったとはいえ、本当にギリギリだった。微笑みを向けられたロシア兵が、一瞬躊躇してくれなければ確実に…。
ふと視界の端の机に、何か置かれているのが見える。何かと手に取れば、それは自分にとっても馴染み深いものだった。
「……梅ちゃん。」
昔日清戦争の時に、梅ちゃんが唯之にいに渡したお守りだった。とても大切に使ってくれていたのだろう。血で赤黒く汚れてしまってはいるが、ほつれは見当たらなかった。
そしてその横にあったもう一つ。血でガサガサで一瞬ゴミかと思ったが、どうやら帳面に使っていた紙の束のようだ。乾燥した血の塊が貼り付いて、ページをめくるたびにその粉が落ちる。
事務の内容だろうか、何月何日までとか午後の予定とか、備品の補充などの雑務まで書かれている。走り書きが多い中、あるページで目が留まった。
「小樽に、札幌?それに何だこの漢字…。」
他のページとは明らかに雰囲気が違った。露とだけ書かれた横に1904と書かれていたり、小樽と地名が書かれていると思えば横には明日と書かれている。
意味のない単なる落書きのようなものなのかとも思ったが、それにしてはきっちりと整えて書いているような気がする。前後のページも確認してみるが、帳面の中ほどの二ページのみが、妙に浮いているような違和感があった。
分かるのは、北海道に何か鍵があるのではないか、という事だけだった。本人に確認するのが一番手っ取り早いのだが、生憎すぐには無理だろう。俺はお守りと帳面を元の位置に戻して、包帯の巻かれた腕に手を伸ばす。
冷え切っていて冷たい。タコの多い手を、そっと握りしめた。
●
気が付けば身体中を覆う鈍痛に支配されていた。なんとなく寝転がっていることは感覚的に分かったが、背中も腕もそこら中ぶよぶよした感じがして、どうにも気持ちが悪い。覚えのある感覚だ。多分、麻酔が回っているのだろう。
なんとか瞼を開くと、ぼやっとした視界が朱色に染まっていた。所々に輪郭の見えない陰が浮かぶ。不便だ。殆ど見えないじゃないか。
霞む視界をどうにかするために目を擦ろうとして、腕が持ち上がらないことに気が付いた。いや、もしかしたら少しは持ち上がっているのかもしれないが、麻酔のせいでそれが分からない。指はなんとか動く様だが開こうとすると圧迫感があるような気がするので、何か遮るものが手の周りにあるのかもしれない。
一体どうしてこんな事になっているのだろうか。そこまで考えて、微睡む思考は急激に加速していく。
後先考えず突っ込み、これでもかと傷を負い、迫り来るロシア兵に抵抗する事なく殺されたはずだ。なのにどうして俺は死んでいない。
途端に思い切り体を起こしたい衝動に駆られるが、体はビクともしない。動かない。もどかしさに体の内側が捩れる。意味が分からない。普通あの状況なら死なない方が難しいはずだろう。トドメを刺されなかったとしても、出血はかなり酷かったのに。気を失う前だって、アレは攻撃を避けられたんじゃない。頭に確かに痛みがあったし、流れてきた血が目に入ったんだ。
そうだ、そのせいで視界が赤くなって……。
そして俺は鮮明に思い出した。
ロシア兵に銃剣で切りつけられる直前。肩の辺りを掴まれて俺は体勢を崩し、そのせいで体のど真ん中を狙っていた銃剣は俺の額を撫でる様に切ったのだ。
思わず地面に倒れ込み、呆然と見上げる俺の瞳に映ったのは『杉元佐一』だった。紛れも無く、原作主人公として成長した、あの……。
「……ッ!!唯之にい!」
瞬間、視界に大きな陰が差す。突然の事に驚き声すら出せず一度呼吸が止まる。唯之にい。俺のことをそう呼ぶのは一人しかいない。そんな、まさか…そこに居るのか?
「さ、い。」
「なぁ!そこのアンタ!軍医を呼んで来てくれ!意識が戻った!!」
言葉を紡ぐことすらままならない。ろくに動かない口でなんとか話したが、掠れていて、息を吐いた様にしか聞こえない。耳だけははっきりとしているお陰で、近くの大声も遠くの慌ただしい空気も何となく伝わってきた。
ここは恐らく野戦病院。周りから負傷兵の小さな呻きが止まない。死にかけの俺が助かったのは、一重にここの軍医の腕のお陰か、それとも悪運の強さが招いた結果か。何れにせよ、俺は死ねなかったようだ。
そう、死ねなかったのだ。
落胆、そして絶望。どうして生きている。生きる目的も希望も価値も何もかも持ち合わせない俺が。これで漸く、俺は自身の呪われた生に終止符を打てたのに。命を投げ出す覚悟を決めて、戦場へ飛び出したのに。
神がもし居るなら、責めずにはいられない。俺よりも若い青年達が何人、何百、何千と命を落とし、愛すべき家族の元に二度と帰ることが出来ないというのに。
何故、俺を生かした。俺よりも優遇されるべき人は幾らでもいたはずなのに。もしや此れも贖罪に伴う痛みとでも言うのか。
「唯之にい、良かった。良かった。」
俺の手を握り締めながら佐一が呟く。そんな佐一を俺は冷めた目で見ていた。何が良かったものか。麻酔のせいで鈍くなっている手は、握られているのかハッキリとしなかったが、生温さに包まれて変な感じだった。
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立ち直りが早いというのは美徳である。いつまでも悩み続けていても答えの出ない問題は存在するし、そればかりに気を取られては新たな躓きでさらに悩む事になる。
だから心が立ち止まりたそうにしていても、無理やり体を動かし、頭を働かせ、立ち直りに努めるべきなのだ。
「まったく、第一師団は化け物の住処なのか?アンタも、アンタに付き添っていた一等卒も。よくそれで生きてるもんだ。」
「そうでもない。運が良かっただけ、その証拠に生存者は殆ど居ないだろう。」
「軍曹殿、そうは言ってもあの戦闘はアンタとあの不死身の杉元以外一人残らず逝っちまってるんだ。運の良さは化け物級だろうよ。」
軍医が呆れ混じりにそう言った。しかし、本音を言うならば俺はそんなに大したことない。怪我の治りが遅いし、寝台を占領するだけの置物状態だ。これなら俺の周りの寝台の兵士の方が良い。すぐに死ぬから次の患者を受け入れられる。
運だって、良いのか悪いのか…。生き残ることができたのは、不本意ではあるが非常に低い確率を通ったのだろう。普通に考えて、運は良かったのだ。しかし俺自身が投げやりになって暴れまくった代償が大きすぎる。
軍服はもはやボロ切れと化した。体中酷いとしか言いようがない。まず苦しんだのは、肋骨で止まった銃弾を数発抜く治療だ。鎮痛剤くらい打って欲しかったが、物資の供給がままならないため、節約のためだからと口に布を噛まされた。
眠っていた時は打ったくせにと俺がぼやくと、絶対死ぬと思ったから、穏やかに死ねるように打ったと告白された。その分取り返すためにも我慢するよう迫られた。
軍医が包帯を変えながら状態を確かめる。包帯が取れると、冬の冷たい風が肌を撫でて、少し鳥肌が立った。
「傷口は問題ないな。数は多いし深いし、どうなる事かと思ったが…。ただボロボロなことに変わりはない。恐らく完治はしないな。何かしらの軽い後遺症が残る可能性がある。」
「後遺症?」
「ああ。反応が少し遅れたり、早く動かせなくなったり。あとは力が入らなくなったり。まだ治りかけの段階では可能性の話しかできん。もしかしたら何の心配もなく治っちまうかもな。」
「もしかしてアイツと一緒にしてるのか?不死身の杉元と。やめてくれ。アイツは冗談抜きで神様に愛されてるからああなんだ。俺とは違う。寧ろ俺は見放されてる。」
「随分卑屈なもんだ。アンタもまだ残ってる師団の連中からは『忠臣』なんて渾名で呼ばれてるじゃねぇか。」
「……忠臣、ね。」
まただ。ズキズキと内側からこみ上げる痛み。見ないように目を逸らしても、こうして誰かがそれを指差すから、忘れるなんて出来ない。
忠臣。というのは、俺が殉死するために決死隊に志願したという噂によるものだ。間違ってはいない。大和少尉、中尉、同志たちと共に死ぬための志願だった。しかし別に俺がそれを口に出したわけではない。酒の酔いでうっかり俺の口が滑ったのだろうか。それとも、あの恐ろしい中尉の情報操作だろうか。真相はどうであれ、俺の志願はそう捉えられてしまい、忠臣という渾名が付いた。
勿論良い意味ばかりでない。忠臣として後追い自殺の如く戦場へ出たくせに、のうのうと生きている俺への当て付けである。要するに嫌味なのだ。
軍医と話していると、外の戦闘音がいつの間にか止んでいた。俺の口から重い溜息が出ると、それに目ざとく気付いた軍医が口の端を釣り上げる。
「お前は人気者だからな。そう嫌そうな顔をせず付き合ってやれ。」
「軍医殿はアレを見舞いだと思ってるんだろう?…月島軍曹や部下達はともかく、アイツらはダメなんだよ。あの中尉は滅多に来ないが、アイツに至っては頻度が異常だ。」
「ははは!酷い言いようだ!じゃああの不死身の男は、見舞いではなく何をしにここに訪れているんだ。」
「…監視だよ。アイツは捕まえた虫を手の隙間から覗き込んでるだけさ。」
「軍医殿!急いでいらしてください!」
「ああ、分かった。すぐ行く。悪いな、軍曹。行かなくては。」
「早く行ってやってくれ。助からなくても、死に際はせめて穏やかに逝かせてやってほしい。」
勢いよく部屋に入ってきた衛生兵が焦った様子で軍医を呼ぶ。軍医が少し顔を強張らせてそれに頷いた。彼らも辛いな。十分とは言えない設備。足りない人手。にも関わらずわんさか出る死傷者。前線から最も遠い此処も、戦場となんら変わらない壮絶な命のやり取りの場だ。彼らにのし掛かるストレスは計り知れない。
出て行った軍医と衛生兵と入れ替わるように、部屋に佐一が入ってきた。
「唯之にい、怪我の調子はどうだ。」
「見ての通りだ、杉元一等卒。」
「その呼び方止めろよ、んな他人行儀な…。」
口を尖らせながら歩いてくる佐一の腕に、真新しい軍服が抱かれている。回復の見込みがあるから、流石にあのボロ雑巾を着せるわけにはいかなかったのだろう。
佐一が机の上の俺の手帳とお守りを退けて軍服を置く。それをきっかけに、故郷の話題が上がった。
「父さんと母さんは、元気か。」
「…俺はちょっと、徴兵前に数年村から出てたから分からない。寅次に確認してくれ。」
「お前も村を出たのか?一体何で。」
そういえば原作でもそんなことを言っていたか?わずかに記憶はあるが、杉元の過去は偶にしか描写されていなかったから、イマイチ覚えが悪かった。
俺がそう問いかけると、少し間を置いて佐一は俯いて話した。
「俺以外。みんな結核で死んだんだ。」
「それは…。すまん……。」
「気にしないでくれ。俺は大丈夫だ。それに、俺には唯之にいがいる。」
デリカシーに欠けた質問だった。そうか、確かにそうだった気がする。結核はこの時代では不治の病だ。治療薬の抗菌剤、つまりワクチンが開発されるまでは手の施しようがなかった。
結核は肺の病という印象が強いが、結核の症状は何も咳だけではない。全身の倦怠感から始まり、症状が進行すれば異常な汗や、高い微熱が長期間続く。肺以外にも感染することがあり、その場合は嘔吐や昏睡、痙攣などの症状が出る、非常に重い病である。
そんな家族を一番近くで見ながら、死を看取ったのだろう。徴兵の数年前という事は、十代半ばか。
ふと、あの村を出た日の佐一を思い出す。小さな心細そうな立ち姿。俺のせいで人を殺め、歪み、さらには若くして天涯孤独の身になった。
可哀想だと思う。しかし、捨てたくせに何を思うかと責め立てる声が聞こえるようだった。
「唯之にい。手、握っていいか。」
「……ああ。痛むから、軽くにしてくれ。」
「分かった。」
キュッと暖かい佐一の手が俺の冷えた手を包む。いつもの事だった。何かを確かめるように、何回も何回も、佐一は俺の手を握っていた。
______俺には唯之にいがいる。
もう、俺しか残っていないから、それに縋らずにはいられなかったのか。もしそうなら、この行動にも小さな束縛も納得が行く。
もう会う事はないと思っていた佐一。その不憫な人生を思うと、俺の心の底が何度もチクチクと刺激される。
何も考えないように、そっと目線を窓に逸らした。日はもう傾いており、大きく赤い太陽で空が朱色に燃える。夕暮れの光が静かに胸の内に物悲しさを生んだ。
そろそろ原作入りてぇ。
佐一くんはめっちゃ入り浸りますが、月島軍曹や鶴見中尉とは出会いません。月島軍曹が、出来るだけ同郷だという佐一くんとの時間を邪魔しないように避けてます。鶴見中尉は基本月島軍曹のおまけみたいな感じで付いてくるので自然と不死身の杉元スカウトチャンスを逃してます。
アンケート終了しました。皆様ご協力ありがとうございます。今後もボーイズラブタグは付けないで行こうと思います。また、かなり先の展開もやっと決まりました。今後ともどうぞよろしくお願いします!
今後の展開としてラッコ鍋とかスチェンカとか「これは……ホモ、か…?」というような内容も入る(かもしれない)のですが、その時はボーイズラブタグを付けるべきでしょうか。
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原作の展開的にもタグを付けるべき!
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原作と同じイベントだし付けなくても良し!
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もうホモでいい
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そもそもそのイベント回避してみなYO