金カム主人公の近所のお兄さんポジだが俺は杉元佐一の支えにはなれない   作:MM*K

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お待たせしたところ申し訳ないですがガチで閑話です。
次の話のための繋ぎだったり理由付けなので、これ読んでなくても次の話は多分読めます。あと短い。



【閑話】

【軍医の懸念】

 

ある野戦病院の天幕で、軍医は重い溜息を吐き出していた。

 

原因はある横暴な命令のせいである。自分が手当てを施した第1師団所属の高橋軍曹を、衛生隊に加え面倒を見ろ、というものだった。

 

はっきり言って不可能だと思っている。衛生隊は第一線で戦う兵士たちと共に行動し、銃弾飛び交う戦場で負傷した兵を素早く救助・応急手当を施す部隊だ。交戦の為の部隊ではないが、それでも前線部隊と同等の危険を伴う。倒れた同士を救わんと飛び出した衛生兵が流れ弾に当たりと、まさにミイラ取りがミイラになってしまう事も少なくない。

 

そこに、まだ本調子ではないあの軍曹を連れて行けという命令は、あまりにも分かりやすい死刑宣告だった。

 

そもそも彼、高橋唯之軍曹は、未だこの野戦病院にいるのがおかしい存在なのだ。

 

あくまで野戦病院は応急の手術を行う場であり、その後は後方の兵站病院へ送られる手はずとなっている。治療の見込みがあるならば入院する事になるし、それが難しいならばさらに後方の定立病院へ、そして病院船で帰国することとなる。

 

彼の体を診た自分と衛生兵なら分かる。彼の受けた傷はあまりに多く深い。生きているのが不思議なほどで、普通ならとっくにもっと後方の病院へ送られている筈だ。

 

たまたま収容されたここが、廃墟となった洋館を利用したもので、天幕だけの野戦病院よりはマシかもしれないが、この設備で治療を続けるのは異常だ。何度考えたって、ここに居るのはおかしいとしか言いようがない。

 

傷の数で言えば、不死身の杉元と呼ばれる一等卒も同じくらいの傷を負っているが、彼はやられる度に野戦病院に運ばれて来る。それ故の傷の多さだ。

 

だが高橋唯之軍曹は、たった一度の戦闘でその不死身の杉元に並ぶかそれ以上の負傷をしている。例えるならば、不死身の杉元は弾丸を一発食らう日が一週間続いたが生きていて、高橋唯之軍曹は一度に七発銃弾を食らったが生きているという感じだ。

 

まぁ、どっちも化け物並ではあるが正直後者に関しては死んだほうが楽なほど酷い。出血量に関しては比でない。深い傷がいくつもあって止血が上手くいかず、なんとか処置が終わった頃には手術台が血塗れになっていた。

 

今は驚異的な生命力で骨折や打撲、銃創などもゆっくり治ってきているが、固定のための包帯を外した腕や足は細っそりと痩せ衰えている。歩く練習をしているが、あまり好調とは言えない。また、全身の傷の回復のための栄養が足りていない状態だ。幸いな事に今は脚気の症状は出ていないが、時間の問題かもしれない。

 

再び以前の様に走り回れる様になるにはまだまだ時間がかかるはずだ。それなのに、彼を戦場へ出せという命令が下る。意味が分からない。一体何が起きているというのだ。苦戦を強いられているのは分かるが、そんな事をしても事態は悪化するだけだろうに。

 

重傷者に満足な治療を受けさせない。

回復傾向が見られたばかりにも関わらず前線復帰命令。

 

更にそこに付け加えるならば、第1師団少将の大和閣下が直々にこの命令を下した事だろうか。

 

今回の件について自分は逆らえる立場でないが、胸の内を覆う不可解さを無視する事は難しい。晴れない疑問たちを浮かべては、軍医はまた一つ大きな溜息を吐いた。

 

 

【野戦病院にて】

 

知り合ったきっかけは故郷への便りと煙草だった。口数はそれほど多くはなかったが、彼の話はいつも興味深かった事を覚えている。

 

「月島、知ってるか。この頃脚気が流行っているが、あれは飯が白米ばかりだから起こってるらしい。」

 

煙草を吸っている途中で不意にそう彼は呟いた。どこから仕入れてくるのか知らないが、妙に知識豊富な彼はよくこうして色んな話を持ってくる。

 

「軍医たちは細菌病だと言ってるぞ。」

「それが違うんだな。ああ、海軍では原因は栄養だとして解明を急いでるそうだ。海軍が模範としているイギリスの主張だからだがな。」

「じゃあ陸軍は何故細菌病だと?」

「ドイツを模範している陸軍は、ドイツが細菌病だと疑っているからそれに倣ってるんだよ。」

 

あ、そうだ。お前もこれ食っとけ。

そう言って渡されたのは小さめの巾着だ。紐を解いて中を覗き込むと、薄茶色の砂の粒が袋一杯に入っていた。

 

「…嫌がらせか?」

「は? 違うよ。玄米嫌いだった?」

「玄米?」

 

そう言われて見ると、確かに。砂の割にはほんの少し透けている様な気がする。なるほど、形は米の姿をしていないが、これは玄米を粗く砕いたものなのだろう。それに若干ではあるがもみ殻が混じっていた。

 

「生米のまま食べるのはあまり良くないが、水に浸しておけば多少は食い易くなる。ついでにその水も飲んでおくといい。水に溶け出す栄養というのもあるからな。」

「ああ、だから砕いてあるのか。水に浸すことが前提なわけだな。」

 

ありがたく玄米の入った巾着を受け取り、試しにそれを口にしてみた。小さな粒は何度噛んでもビクともせず、俺は諦めて唾液ごと飲み込んだ。

 

そんな俺を見て、顎に手を当てながら彼が話す。

 

「……村じゃ白米なんて贅沢品だった。甘くて美味い白飯を軍ではこうして毎日食えるのは俺だって嬉しかった。でも、そのせいで死んじまう奴がいるのは不憫だ。」

 

だってそうだろう? 食べることは生きることなんだ。生きる為に食べたのに、そのせいで死ぬのは、酷いことだ……。

 

それを聞いて俺はなんとも言えない感情が胸を覆うような気がした。軍人は庶民と違い様々な面で優遇されている。白飯もその一つであった。軍が推奨する食事によって兵士が死んでいくのは確かに変な感じがする。

 

けれど、それは思うだけだ。心のうちに留めておかなければいけない。口に出した日には、軍に反逆するのかと尋問されてしまうだろう。

 

「なぁ、月島。死ぬなよ。お守りもなくすなよ。俺が必ず取りに行くんだから。」

 

 

日清戦争から十年もの年月が流れて、俺も高橋も色んなものが変わってしまった。

 

包帯まみれの青白い肌顔を見て、随分老けたなと感じる。温和で繊細だった彼には、軍での生活も二度目の戦争も、気苦労が絶えなかっただろう。目の下に鎮座する隈が過酷な日々を思わせた。

 

寝台の横の机に置かれた小さなお守りを、俺はそっと摘まみ上げ手のひらに乗せる。お守りは彼の血が滲み込み、元の鮮やかさが想像できないほど茶褐色に染まっていた。

 

約束は結局のところ果たせなかったのだ。高橋が告げた「戦争以外で人を殺さない」という条件を破って父親を殺したあの時。お守りを返すことがどうでもよくなり、黙って死刑を受け入れるつもりだった。

 

けれど鶴見中尉に救われ、自分の元に在るお守りを見て、ハッとして。俺に会いにくると言った高橋の顔が頭の中に浮かんだ。父親を殺したことに後悔はなかったが、彼との約束が果たされなかったことにだけは悔いがあった。

 

それにしても、再会を期待して大切に持っていたこれが友の元に戻り、さらには命まで護ってくれるとは。まさか十年前のあの時には考えもしなかっただろう。

 

「月島、なんだ。来てたのか。」

「すまん、起こしたか?」

「いや…夢見が悪くて。」

 

汗を滴らせながら高橋が起き上がる。傷が癒えていないからとそれを阻めば、お前が来ているのに寝っぱなしでは居られないと無理やり体を起こしてしまった。

 

「今日は居ないんだな。」

「ああ、鶴見中尉なら、今は師団の天幕に居られるだろう。どうかしたか。」

「……いや、俺はあの中尉が苦手なんだ。毎度のように師団を移れと勧めてくるだろう?」

 

俺が高橋の元へ行く時、ついでと言って鶴見中尉殿はよく見舞いに着いて来ていた。その都度高橋は第七師団へ来ないかと熱烈な勧誘を受けている。最初こそ丁寧に断りを入れていたが、あまりに執拗なそれに辟易して、今では中尉を見るだけで疲れた顔をしていた。

 

「そもそもお前はどうして中尉殿の提案を断るんだ?お前にとっても悪い話ではないだろう。」

 

鶴見中尉は、亡くなった大和中尉、少尉殿たちの代わりに軍での後ろ盾になる。さらに、直属の部下として迎えようとまで高橋に言い切った。

 

聞けば家を出た身だそうで、行き場所のない彼にとっては破格の条件だろうに。

 

「客観的に見ればそうかもしれないが、俺からしてみればメリットは全然無いんだよ。俺は軍に残らない。……戦争はもうこりごりだ。」

 

彼の中で誘いを受けないのは決定してしまっているのだろう。呟くように溢れた最後の言葉に内心同意しつつ、俺は少し残念だと感じた。つまり、この戦争が終わればたわいない会話すら出来なくなるという事だった。

 

「それに俺を助けるような真似をすれば、大和閣下から要らぬ怨みを買うだろうさ。そこまでして俺を引き込みたい理由は……。ま、分からんが、死ぬほど働かされそうだ。兎に角俺は遠慮させてもらうよ。」

「なぁ、高橋。」

「何だよ月島。」

「もう一度。生きられそうか。」

 

決死隊に志願したのだと知ったあの日。バカな事をするなと殴ってやるつもりだった。結局は意思のこもった強い瞳に貫かれて、引き留めることすらままならなかったが。

 

俺の問いで高橋の瞳が揺れる。強張った顔には、明らかに以前にはなかった迷いが見えた。

 

それはきっとこの世への未練だと、俺は思った。

 

 

【諦観】

 

負傷し、野戦病院で治療を受ける過程で、佐一も交えて久し振りに寅次と話をした。世間話や互いの近況など色々と話したが、やはり一番驚いたのは寅次と梅子が結婚したという事だろうか。

 

正直意外だった。佐一と梅子、寅次。幼馴染同士の三角関係なんて、少女漫画かドラマの様だ。二人はもうその事を自分達の中で消化してはいるのだろうが、俺はなんとなく気まずくて早々に話題を変えたのを覚えている。

 

その後に続けて寅次が話し出したのが、梅子の目の事だった。日に日に視力が落ちているらしい。

 

アメリカの医者に目を診せてやりたいが金が足りない。唯之の兄貴がもし良いのなら、少しばかり工面してもらいたい。そう寅次は俺に深々と頭を下げた。

 

しかし俺は残念な事にそれに応えることは出来なかった。梅子は俺にとっては可愛い妹の様な存在だし、寅次も佐一と同様に弟の様に可愛い。金を出してやりたいのは山々だった。ただ本当にそれができないのだった。

 

村を出てから箱屋として働いていたが、あまり給料は良くなかった。殆どが煙草代に消えたのもあって、貯金は全くと言っていいほどなかった。

 

更に痛いのが、俺が軍で働いた分の給与は大和少尉達の戦死で全てパァになってしまった可能性があることだ。俺の軍曹という立場は、大和中尉のコネで師団に入り、成り上がった様なもので、師団の中には俺をやっかむ者も多かった。

 

また、付き添っていた大和少尉殿は喧嘩っ早い性分で、俺は頻繁に仲裁に入っていた。そのせいか少尉に向いていた怒りだのなんだのが、何故かベクトルを変えて俺に降りかかる始末。部下や面倒を見ていた兵たちはともかく、一部の将校には生意気な青二才がと厄介者扱いされていた。

 

今回の失態は、気に食わない俺に処罰を与えるいい機会だろう。理不尽な要求も免れられない。そういう陰険で、意地の悪い事には頭の回転が早い奴は多い。難癖つけられて給与を剥ぎ取られることになるだろう。

 

あともう一つ理由を付け加えるとするならば、それは鶴見中尉の存在だ。本当ならば俺をもう殺していてもいい頃合いなのにそれをしない。それどころか月島の見舞いに引っ付いてきてまだ勧誘してくる。殺せない理由が出来たか、殺す必要がなくなったかのどちらかだろう。高確率で後記だと俺は考える。

 

虫の息で生き残った俺だが、軍の中での立場が残っていない事に気付いたのだろう。俺一人が「鶴見中尉は叛逆を企てている」などと喚いたところで、厄介者の狂言と嘲られるのがオチだ。逆に殺さない方が都合が良いのだ。

 

だが生かしておくにはリスクがある。その場合何をするのが効果的か。金を奪う事だ。

 

金に目が眩む人間は多い。人は大金を積めば簡単に手のひらを返す。最早軍に後ろ盾のない俺が鶴見中尉に楯突こうとするならば、金の力に頼らざる得ないのだ。

 

横暴な上官と鶴見中尉。この二つが組み合わさって、俺の金は確実に奪われてしまうのだ。どれだけ武功を挙げてもそうなるだろう。

 

詰まる所、梅子の為に金をひねり出す事は不可能だった。何とも忌々しい。貯金もない。収入もない。完全にお手上げだ。無一文ではないだろうが、海外へ行くには足りるわけがない。

 

全てを語ったわけではないが、理由を告げると寅次はがっくりと肩を落とし、北海道に行くしかないかと呟いた。

 

北海道に行くしかないってどういう事だ、と佐一が問いかける。成る程、ここでその話題が出るわけかと俺は黙って二人の会話を聞いていた。

 

ゴールドラッシュ。実際行ったわけではないが、風の噂でその凄まじい採れっぷり耳にしている。ザクザク砂金がとれるなんて嘘みたいな話だが、それが本当だからこうも話題になるのだ。砂金は一応混ざり物で、純度100%では無いのだが、それでも量が多ければそんな事気にならない位の価値がある。

 

寅次はもう一度俺に頭を下げて、この戦争が終わったら砂金採りを手伝ってくれと言った。

 

ここで頭に浮かんだのは一つの懸念だ。

未だに第七師団の軍曹になれと執拗な鶴見中尉。北海道は彼の懐に等しい。そこに飛び込むのははっきり言って良い気分ではない。

 

俺は寅次に出来る限りの手伝いはするとだけ伝えた。

曖昧な言葉だったのに、寅次はありがとうと何度も礼を言って頭を下げた。

 

なんて、偽善だろうか。俺は寅次が死んでしまう事を知っている。どこで死ぬのかは知らないが、多分死んでしまうのだろう。佐一は原作通り不死身の杉元と呼ばれ、第七師団の連帯旗手も死んだと月島に聞いた。

 

結局こうして約束しても、それが果たされない事は分かっている。聞けば、次の戦いでは俺は衛生隊に加わるそうじゃないか。きっと寅次の死体も運ばなければいけないし、処理しなければいけないんだろう。

 

 




次の話は原作に入りたい。受験終わったら書きます。
進捗はたまにTwitterで呟いてます

月島と高橋唯之仲良すぎですね。十年会ってなかった人のことそんなにも心配できないわ。月島は【約束破った】をずっと抱えてた感じで、高橋唯之は【知り合いの原作キャラ】としか思ってないので感情の重さは全然違います。

この後主人公は寅次の死体を処理するし、怪我した月島に鶴見中尉から逃げろって言われるし、杉元と一緒に里帰りするし、北海道行きます。
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