金カム主人公の近所のお兄さんポジだが俺は杉元佐一の支えにはなれない   作:MM*K

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今回は尾形編です。めちゃくちゃ捏造の塊です。


俺が金カムに転生したと気付く前2

八月になると、いかに体が丈夫な人間でも炎天下の中倒れてしまう事はあるだろう。俺も一度倒れたことがあるからあの気持ち悪さはよくわかっている。俺が倒れたと知ってみんな大騒ぎだし、両親なんて兄のことがあるから顔を真っ青にして右往左往していた。村にいる唯一の医者はちょっと驚いてから、塩を振ったきゅうりをたらふく俺に食わせた。今でも思い出すが、かなり吐き気がして頭痛が酷い時に無理矢理きゅうりを口に突っ込まれたものだから、暫くきゅうりを見ると吐き気がしてしまうほどだった。多分先生も慌てていたのだろう。普段は人の口に無理矢理きゅうり突っ込むような医者じゃない。

 

俺は自分のような被害者を出さないために、積極的にきゅうりの栽培と配布を行なっている。農作業中の仲間や遊んでいる子供達に塩振って配れば、水分とミネラルが補給できて、しかも軽食になる。冷蔵庫もないこの村では、長期間保存できない生鮮食品は積極的に食べるに限る。それでも食べきれない分はまとめて漬け物にしてしまえば暫く持つので、俺の家には栽培しすぎたきゅうりの漬物壺の貯蓄が万全だ。きゅうり美味いぞ。

 

今年はきゅうり配りも佐一が手伝ってくれるから例年よりはるかに楽だ。お礼に一緒に西瓜を食べる事にしよう、と言うと。佐一は目を輝かせて、やったー!と大きな声を出した。元気なのはいい事だ。実の所佐一は甘い物が結構好きだ。人間誰しも甘味というのは生まれて初めて口にする母乳の味なものだから、本能的に自然と安心感などの好感を持つものだろう。けれど男の身で甘いものが好きだというのはちょっとだけ気恥ずかしいような気持ちになるので、佐一は隠しているらしい。まぁバレバレだが。

 

休憩のため日陰で休んでいると、村のじいさんがでかい声で俺を呼んだ。

 

「おーい、唯之ぃー。お前んとこの親父宛に電報来とるぞー!」

「はぁい!ありがとぉ!」

 

父は今商売の関係で都会に出ているから、俺が父の代わりに電報を確認しておかなくてはいけない。佐一と一緒に俺は村の郵便局へと向かった。

 

村には小さいながらも郵便局がある。インターネットやスマートフォンはないが、日本国内の情報網としては十分だろう。時間はかかるが郵便局のおかげで遠くの親戚とも遣り取りが出来るようになった。商売柄あっちこっち移動している相手にも届けられるように局で預かってくれるタイプの電報もある。

 

郵便局へ行き俺は父宛の電報を受け取った。電報の発信者は茨城の親戚のものだった。電報はうねうねとしたカタカナなので俺は慣れない。初めて見た時はソなのかンなのか、ワなのかクなのか判別できなかった。癖強いのに加えて、全文カタカナだからうまく文章として理解しにくい。短い一文はゆっくりと俺の頭の中に入ってきた。

 

「…?唯之にい、どうした?」

 

電報を持ったまま棒立ちの俺に佐一が問うた。どうしたもこうしたも、はぁ、どうしてこんな電報が来る時に限って何故父は居ないのだ。あと二週間は帰ってこないのに。

電報には親戚家族の訃報の旨、3日後に葬儀を執り行う事が短くまとめられていた。

 

 

俺は知り合いの商人に頼み込んで茨城まで馬車の荷台に乗せてもらう事になった。親戚は茨城の北の辺に住んでいる。死ぬ気で頑張れば歩いても行けるが到底3日後の葬式には間に合わないだろう。メロスのように休みなく走れるほど俺は強くない。200kmを余裕で超える道のりなんて考えたくもない。ウルトラマラソンじゃないか。

 

本来ならば父が行けば済む話だと言うのに、父が行けないのなら俺が行くしかない。父はどれだけ遠くとも親戚の葬式には必ず行く人だったので、本人に確認したわけではないが、俺が行けないからお前が行って来いと絶対に言うと思う。

 

別に俺は葬式に行きたくないわけではない。むしろそういうのは父以上に大事にしているつもりだ。弔花も必ず持参するし父が行くときも無理矢理持たせる。俺は妙な体験をしているものだから、亡くなった知り合いの死後は出来る限り安らかなものであって欲しいと願うばかりだ。

 

それでも今回ばかりは躊躇した。理由は佐一だ。この一年はずっと離れないという約束を一時だが破ってしまう事になる。それだけの事が酷く気掛かりなのだ。徴兵まで半年もなく、俺も佐一も少しでも長く共に在りたいと望んでいる。そう予想した通り佐一は葬式に行く話をすると眉を寄せた。ちょっとくらいいいじゃない、我慢しなさいな。と佐一の母が諭す横で、不満ですという顔を隠そうともしない佐一をどうするかとみんなと一緒に困ったものだ。最終的には俺が、こっそり甘味を土産に持って帰るから一緒に食べよう、と約束してなんとかなった。

 

「なぁ御者さん。茨城出身だと聞いたんだが、うまい甘味は何かないかい。」

「へぇ、あんた甘味好きなのかい?」

「俺も好きだが、年の離れた弟に甘味を土産にするって言っちまったんだ。」

「そうさなぁ、俺も暫く故郷に帰ってないから何があるかは知らないんだが、新しい和菓子が出たとは聞いたぜ?餡を紫蘇の葉で包んだやつ。」

「紫蘇の葉かぁ、面白いな。」

 

最近じゃ洋菓子が推してきているから、新しい和菓子の開発なんて面白い。紫蘇の葉で包むって、いったいどんな味なのだろう。葬式に出向いた先で売っているかは分からんが、路銀は多めに持っているので何かしら買って帰ることは出来るだろう。

 

「取り敢えず水戸まで行ってからあんたを送るからな。帰りはどうすればいい。」

「えっと、今日水戸に泊まって、3日後が葬式なもんだから、4日後以降に来てくれれば良いよ。悪いな仕事あるのに送ってもらっちまって。」

「いいさ、水戸までの仕事も丁度あったし、あんたの目的地くらいどうって事ない。」

 

それから御者さんと会話しながら時間を潰して、あっという間に水戸まで来た。かなり時間はかかっているが、歩きに比べたら遥かに楽だ。無茶しなくてよかった。

 

御者さんが荷物を運んでいる間に、例の和菓子屋に行って来いと言われてしまったので、お言葉に甘えて俺は道行く人に尋ねながら目的の和菓子店までやってきた。

 

「へぇ…。」

 

思わず声が出るのも仕方がないだろう。前世では和菓子なんて給食の行事食とか団子とか煎餅とかで、ちゃんとした和菓子屋で和菓子を買うなんて初めての体験だ。店内はほんのりと優しく、上品な甘い香りが漂っている。御者さんが話していた和菓子は星の梅という名で売られていた。餡というから黒いこし餡を想像していたのだが、白い練り餡が美しい赤色の紫蘇の葉に包まれている。俺は迷わずそれを二個買った。

 

「お客さん毎度あり、生ものなもんで早く召し上がってくださいね。」

「え。早くってどれぐらいですか。」

「そうですねぇ、作りたてが一番いいですし2日以内に食べた方が美味しいと思いますよ。」

 

衝動的になり過ぎてしまった。そうだ、大抵の和菓子は数日以内に消費するのが常識だ。砂糖が入ってる分長持ちするとかなんとか聞いたことあるような気がするが、こんな八月の暑い時期に俺の懐にしまっていたら数時間と経たずに腐る。いやでも紫蘇の葉って消毒作用があったような。消毒作用にも限界があるからなんとも言えない。村に帰れるのは4日後以降だからその時にはもうアウトだろう。

 

「……この店で一番日持ちするのどれですか。」

「それでしたら干菓子がありますよ。」

「買います。」

 

干菓子というのは砂糖をかちんこちんに乾し固めたものだそうだ。薄いが大きめの箱にずらりと淡い色の干菓子が並ぶ様子はとても可愛らしい。女子が好きそうだと思う。佐一も好きだと思う。親切な店員さんが一口試食させてくれた。干菓子は口に入れた時じわっと唾液で溶けて上品な甘さを口内に充満させた。これはうまい。お茶と一緒に食べたい気分だ。星の梅は佐一と食べることはできなさそうだが、干菓子もとても美味しいし、一口サイズで数がある。きっと喜んでくれるだろう。

 

和菓子屋から帰り、丁度御者さんも荷降ろしが終わったようで、宿に向かい明日に備えて早々に床に着いた。

 

一人で眠るのは、久し振りのような気がする。

 

ここ最近はいっつも佐一と一緒に寝ていたから、急に一人で寝ると寂しい。暑いと言い布団を投げ飛ばす癖に俺の体に自分の体を付けるようにして眠る佐一の姿が目に浮かぶ。最初の頃は週に一度だったのが、今やほぼ毎日だ。こうやって距離を取ってみると自分の行動を客観的に見れるようになる。ちょっとここ最近の行動のおかしさに気付いた

 

10歳年下の少年と毎日一緒に寝て、暑い日ですらびっとりくっついているのは如何なものか。ちょっと犯罪臭しないか。兄弟ならともかくとして、いや、兄弟だとしても、うーん。距離近過ぎないか。兄との思い出がいまいち少ないせいか適切な距離が分からない。周りも今更何も言わないからこんな事になってしまっているじゃないか。

 

佐一は大丈夫だろうか。俺はちょっと寂しさを感じているが、佐一は寂しくしているだろうか。もしそうだとしたらちょっと可哀想な事をしてしまった。あんまり一緒にいると、こういう時に悲しくなってしまうとは想像もしていなかった。この一年の約束も、徴兵で会えない間の分一緒に居るというものだったが、余計に佐一を苦しめてしまわないだろうか。

 

自分の為にも、佐一のためにも、約束したとはいえもう少し距離を取る方が、別れが楽なのかもしれない。

 

戦争で死ぬ気は無いが、死なない保証はどこにもない。勝手に死ぬなんて自由俺には生涯許されないが、それでも死ぬ時は死ぬ。人間だから当然だ。

 

悶々とこう考え込むのは一生治らないだろう。俺はまた背中を丸めて眠りに落ちていった。

 

 

翌朝早朝から馬車を走らせ、海沿いを通りながら親戚の住む村までやって来れた。見慣れぬ人間が来たせいか、村人の視線を感じる。それでも騒ぐまで行かないのは、葬儀の事が伝わっているからだろうか。俺以外にも遠方から来る親戚も居ない訳ではない筈だ。

 

「じゃあ俺はもう行くぞ、ちゃんと葬式の後には迎えに行くから心配すんなよ。」

「ありがとうございました。仕事あるでしょう?多少遅れたって俺平気ですよ。」

「馬鹿、そんなことしたらお前の親父に暫く小言言われるぜ。」

 

なんかあったら連絡だぞー!と言いながら御者さんは来た道を戻って行った。それでも村人の視線が少し気になってしまったものだから、俺は御者さんに向かって手を降ってから、親戚の家を訪ねる前に海に行ってみる事にした。

 

暫く歩けば自ずと砂浜へたどり着く。俺の村から海はなかなか見れないから、ちょっとテンションが上がる。海を見たくらいでこれだから、俺もまだまだ子供気分が抜けていないようだ。一旦荷物を岩場に置いてから、海の方へと駆けた。

 

青黒い広大な海が遙かまで続いている。天気がいい分空も海もその広さと力強さを最大限に発揮している。自然という圧力、とでもいうのだろうか、偉大な存在感に瞬間何も言えなくなる。視界の端いっぱいの自然は、知らないうちに頭を空っぽにしてくれる。潮の音を聴きながら、遠い記憶に想いを馳せた。俺が今いるのは前世から百年以上前らしいが、海は何も変わっていない。懐かしさを覚えるほどだ。

 

海を眺めて一日中ぼうっとしたいという願いをあの頃は持っていたが、今は眺めるだけじゃなくて海に浸りながら眠りたい。こんな広い海だ。きっと浸かっているうちに意識が遠のいて、眠っているうちに身体も何もかもが海にスッと溶けて消えて行けるのではないだろうか。

 

そう思うと無意識のうちに足が波打ち際まで迫る。ギリギリ波が足にかからない浜まで来て、そっと押し寄せる海水に指先で触れる。柔らかな衝撃とともに爽やかな音が手を包んで冷やしていった。進んでは退く波の攻防をぼうっと眺めて、ハッと我に帰る。いかん。気分転換にと思ったが、なんかリラックスしすぎてしまった。

 

流石に葬式前に海に入るのはどうかと思ったので、砂浜に打ち上げられたヒトデやら貝やらを拾ったり投げたりして遊んでから、おれは漸く村の方へと歩き出した。

 

ミーンと蝉の鳴き声が聞けるのもあとどれぐらいのことだろうか。蒸し暑い中煩いくらい鳴いているせいで、涼しげな風鈴の音も情緒に欠ける。親戚は訪れた俺を歓迎して、暑かったろうとすぐに室内へ案内してくれた。

 

「唯之ちゃん、わざわざ来てくれてありがとう。」

「いえ、こちらこそ父が来れなくてすみません。仕事の都合がつかなかったみたいで。」

「唯之ちゃんが来てくれただけで充分よ。長旅で疲れたでしょう?湯屋に行って来なさいな。」

「ありがとうございます。あ、両親から手紙預かってます。あとこれお供え物です。」

「あらまぁ、ありがとう。部屋はここの隣を使って頂戴。じゃあ、ゆっくりしていってね。」

 

叔母さんに言われたように隣の部屋を使うことにする。風呂敷を広げて数珠とか着替えとかを確認していると、あることに気付く。佐一の土産にと買った和菓子屋の菓子が無い。くまなく調べるがどこにも見当たらない。これは海辺に置いて来たか御者さんの荷台の中だなぁ、と焦っているくせにのんびりと考えながらおもむろに障子を開ける。

 

がっと戸を引けば、待ってましたと言わんばかりに風が通り抜けてから緩やかな空気の流れを生み出した。部屋の風鈴も呼応するようにチリーンと音を立てる。さっきまで煩かった蝉の鳴き声も、場所が離れたのか気にならなくなった。

 

真っ先に湯屋に行こうかと思ったが、少しの間こうして外を眺めていよう。どこの村もそう大して変わらない風景だが、ちょっと落ち着くような気がして安心した。和菓子がどっかに行ってしまったことだけ残念だが、まぁもう仕方がない。帰りにまた買えばいいさ。

 

青々と茂る稲穂の中で農作業をする人々。俺の村とやることはそう変わらない。少し違うのはこっちは海が近いということだ。潮風の影響か俺の村よりは田園が少ないし、海の匂いが鼻をかすめる。農具も普通より傷みやすいのではないだろうか。

 

柱を背にしてぼけっと考えていると、視界に一人の子供が映った。坊主頭で体格のいい少年だ。猟師なのか小銃を持っている。その少年はどうやら俺の方へと歩いて来ているようだった。疑問に思いつつも、それは少年の片手に握られている見覚えのある風呂敷によって解決される。菓子を包んでいたものだ。

 

「これ、あんたのだろ。岩場に忘れてたぞ。」

「これはまた親切にどうも、助かりました。」

 

少年はわざわざ自分の元に忘れ物を届けに来てくれたらしい。見ず知らずの余所者にこうも親切にしてくれるとは、少年が優しい子なのだという事がよく分かる。別に、と言って立ち去ろうとする少年を引き止めて風呂敷を開いた。

 

「土産に持って帰るつもりが、急ぎすぎてね。日持ちもしないものだから、君が食べて行ってくれないか。」

「大したことはしてないし、受け取れない。」

「大事な風呂敷届けてくれた礼だよ。遠慮せずに貰ってくれ。ほら、こっちに座りなよ。茶も持ってこよう。」

 

渋る様子の少年を無理やり引き止めるために、よく考えずに買ってしまった星の梅を握らせ、腕を引いて戸の縁に座らせた。少年の表情はあまり動かないが、なんとなく不服そうな空気を感じて、一口食べてみなよ。不味かったら置いて行っていいからと言い残し、俺は叔母さんに茶を貰いに行った。

 

戻って来た時、まだ少年は縁に座っていた。手にはもう一口二口で食べきれるか、という程度の星の梅が握られている。俺は少年の横に茶を置き、挟むように座ってから自分の分の星の梅を食べ始めた。

 

真っ赤な紫蘇の葉は和菓子だというのにほんのりと塩気があって、中の白い練り餡の甘味を引き立てている。紫蘇特有の爽やかな風味が鼻を抜けるのも新鮮な感じがしてとても美味しい。まだ砂糖は高価な時代だから、日頃こういう甘味を味わう事が少ないというのも、美味しいと感じる要因の一つだろう。

 

「少年、どうだ。美味いか。」

「普通。」

「普通って、まぁ好みは人それぞれだからなぁ。」

「でも嫌いじゃない。」

「なら良かった。」

 

無愛想な少年と感じるのは日頃佐一の百面相を眺めているからだろう。佐一は一際表情が豊かな子だ。対して少年はピクリとも表情筋が動くような気配がない。若干の緩みは感じるが、何処か冷たさを感じるのは何故なのだろうか。

 

「なぁ、あんた。」

「なんだ少年。」

「これ本当は誰と食べる物だったんだ。」

「弟のようなやつとだよ。甘いもんが好きでね?水戸でこれ見つけて咄嗟に買ったんだけど、後から長持ちしないのに気づいたもんだから。本当に少年がいて助かった。流石に二個一人で食べるのは贅沢が過ぎると思ってたんだよ。」

「弟のようなやつ?」

「そう。弟のようなやつ。血は繋がってないし、歳もかなり離れてる。」

「他人じゃないの。」

「他人だよ。結局家族だろうと血の繋がりがあろうとなかろうと、自分と他の人間という括りは無くなる訳じゃない。」

 

雰囲気だけでなく、会話の隅にも冷たさを感じる。訳ありな少年なのだろうか。多分家族関係で揉めてるんだろうな。弟になにか関係してるんだろう。早々に菓子を食べ終わっても、少年はまだそこに座り続け、ぽつぽつと会話を繋いだ。

 

「あんたはどうしてここに来たの。」

「んー?親戚の葬式さ。」

「仲良かったの。」

「俺じゃなくて親父と仲良かったのかな。今仕事で来れなくて俺は代わりに来たんだよ。」

「じゃあもし死んだのが親戚じゃなくて、自分の奥さんだったらあんたの親父さんは来てた?」

「母さんの死に目には間に合うように来ただろうなぁ。」

「じゃあ、奥さんじゃなくて愛人だったら?」

「愛人…、愛人かぁ……。それは俺にも分からねぇなぁ。少年の親父さんは来なかったのか?」

 

あくまで予測だったが、当たっていたようだ。少年はちょっと驚いたようにして俺の顔を見た。

 

「俺はお前の父親じゃないから、本当のところは何も分からない。でも来なかった、という事に対して、俺は愛情を感じる事はできない。」

「……。」

「そこまで気になるなら、一度文でも書いてみるか、会いに行けばいい。」

「無理だよ、そんなの。」

「やけに否定的だな少年。すぐには無理でも、生きてるうちに確かめられれば良いのさ。今から5年かけて、10年かけて…そうやって考えれば出来ないことの方が少ないものだよ。」

 

そうかな、と呟く少年に、そうだよと言って頭を撫でた。頭に手が触れた時びくりと一度跳ねた少年は、ゆっくりと撫でているとそのうち上がっていた肩がゆるゆると落ちて、なされるがままにしていた。俺よりも随分と年下なのに苦労しているな。俺なんて本来向けられるはずだった愛情をたっぷり横取りにして生きているから、耳が痛い話だ。

 

最後に少年は俺に名前を尋ねてから去って行った。俺は少年の名前を聞きそびれてしまい、これからずっと今日の日を思い出す時は、彼の事を少年と呼ぶのだろうと思った。

 




原作の尾形は絶対こんなことしねぇよと思いつつ、あのこじれ様は入営して勇作さんと出くわしてから闇闇し始めたのかなという解釈で書きました。星の梅は茨城で売ってる水戸の梅の初期の名前だと友人から聞いたので使いました。
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