金カム主人公の近所のお兄さんポジだが俺は杉元佐一の支えにはなれない   作:MM*K

9 / 14
感想・評価・お気に入りありがとうございます!
日露戦争編です。今回は一切原作キャラは出てきません。次回からはバンバン出せるかと思います。


日露戦争

史実における日露戦争の旅順攻囲戦は、明治37年の8月19日から、翌年元旦まで続いた。かと言ってその四ヶ月弱の期間、毎日戦闘ばかりしていたのではない。

 

えっちらおっちらと土を掘る。村では飽きる程やった作業だ。さして苦痛ではない。ひたすら掘り、掘った土を運び、必要であれば木の杭を打ち込む。なかなかの重労働に弱気になる兵たちを励ましながら、俺もまた同じことを何度も繰り返す。

 

掘ろうとした土の壁に、自分の影とは別に誰かの影がかかったのを見て、俺は後ろを振り返った。

 

「精が出るな高橋軍曹。」

「大和少尉、お帰りでしたか。作戦の方はどうでした。」

「…やはり決定は覆らん。まだまだ土を掘らねばならぬよ。」

 

少尉が拠点から深く、長く、敵陣まで迫りつつある塹壕を見つめる。1メートルを超える深さで、十分な幅になるよう朝から晩まで毎日掘り続けた。便利な機械など無いし、爆薬を使うには敵陣が近すぎるため、師団総出で手作業で行なっている。

 

遠くまで続く何本もの溝を眺めながらフゥと一息つくと、それまで感じていなかった疲れが体にのしかかってきた。目眩がして少しだけよろついた俺に、少尉が手を差し出した。

 

「おい、大丈夫か軍曹。まだ傷の具合も良く無いだろう。折角今日だけ俺の補佐から外れろと言ったのに、お前がそう働いては意味がない。」

「ですが、上官や部下を働かせて自分だけ休んでいるなんてできません。それに俺がいた方が作業は進みます。」

「まったくお前は部下に甘すぎる。負傷しているお前がいなければ作業が進まないなんて、軟弱にもほどがある。」

 

そう言いながら少尉が包帯の巻かれた俺の腕をつつく。ちょっと痛いが問題はない。鎮痛剤が良く効いているようだ。

 

この傷は前回行われた第一回総攻撃で負った傷だ。一師団分の死傷者を出したものの、俺はなんとか生き残った。しかし、補給のため大隊を離れた時に腕に銃弾を数発受けてしまった。

 

まぁ、それだけで済んだのは運に恵まれているだろう。あの時の戦場の地形的に、補給のためには敵陣に非常に近い道を通る必要があった。後ろに続いていた仲間は一人二人と死んでいったのだ。命を失うことに比べれば腕の負傷など安いものだろう。

 

まったくお前は〜、と少尉殿が小言を続ける。少尉殿は随分俺に懐いたらしい。普通ならこうも俺に構ったりしないと思う。心配されるのは素直に嬉しいことだと思ったので、俺ははいはいと相槌を打った。すると少尉は拗ねたみたいに少し怒って、それを見ていた隊のみんなが笑った。それでますます少尉は拗ねてしまって…。

 

つかの間の安息のようなひと時だった。砂と汗にまみれて、腹も減っていて、同志を亡くしたが。和やかな空気の流れる時間が、酷く心地いいものに思えた。

 

 

夜、大和中尉殿に呼ばれた俺は、中尉の天幕まで来ていた。一度身だしなみを確認してから天幕の中に入る。

 

「失礼します。」

「高橋軍曹、来たか。まぁ座りたまえ。」

「ありがとうございます。」

 

入った瞬間、酒の匂いが鼻をかすめた。天幕の中は質素な感じだが、簡易的なテーブルの上には地図や書類が積み重なっており、中尉殿の座っている側には、洋酒のボトルと小さなグラスがあった。一人で酒盛りをしていたらしい。ザルで有名な中尉殿だが、よく見ると少し顔が赤く、珍しく酔っていることが分かって、俺は少し目を見開いた。

 

「君の戦いぶりはよく聞いている…見事だ。その一言に尽きる。もう聞き飽きた賛辞かもしれないが受け取ってくれ……事務に追われていて時間が取れなかったが、どうだ。一杯飲んで行け。」

「恐縮です。しかし私だけの功績ではありません。弟殿の、大和少尉の活躍あってのことです。少尉殿は率いる力に秀でておられる。あ、中尉殿、私はあまり酒は…。」

「遠慮するでない。」

 

小さなグラスに蜂蜜色の酒がなみなみと注がれた。恐らくウイスキーだろうか。こんなものをストレートで飲んでいたのか?しかも水無しで。そりゃあ酒に強い中尉が酔ってしまうわけだ。

 

差し出されたそれを一口飲んでみたが、あまりの強さに喉が焼けた。ゴホゴホと咳き込む俺に中尉は少し笑ってまた口を開いた。

 

「ははは、お前には強すぎたな、悪い事をした…。だがあいつのように下戸ではないなら、もう少し付き合え。」

「中尉殿、困ります。まだ一口しか飲んでません、って、もしかして床に転がってるやつ全部お一人で空にしたんですか。」

 

少し赤いだけで分からなかったが、相当酔っているらしい。ほんの少ししか減っていない俺のグラスに新たな酒を注ごうとする中尉に、慌てて俺はグラスを煽った。しかしいくらグラスが小さくとも流石に半分飲むのが限界でグラスを置くと、ふと視界の端に同じ洋酒のボトルが三本転がっているのを見て声が出そうになる。化け物か。よく急性アルコール中毒で死なないものだ。

 

中尉は自分のウイスキーを一口飲むと、ボトルとグラスを端に避けて俺の前に地図を広げた。指で指し示したのは砲台の配置図だった。

 

「次の戦いも熾烈を極めることだろう…。だが工兵が頑張ってくれている。二八センチ榴弾砲を使えるやもしれん。」

「それは凄いですね。あれは本来要塞に配置してあるものでしょう。使えれば一発でかなりの兵を吹き飛ばせます。」

 

二八センチ榴弾砲は元々海岸に配備されており、対艦用の大口径砲だ。持ってくることも大変だろうが、固定するのも一苦労だろう。しかし戦艦を攻撃するための大砲を、この白兵戦の舞台で使うなんて、とんでもない威力を発揮するに違いない。

 

俺の言葉に中尉は深く頷いた。

 

「そうだ、我々が優勢に戦えば、必ずや多くの同志を家族の元に……。」

 

伏せられていた目が俺を捉えて言った。

 

「そしてお前も、意地を張らずに故郷に帰れ。」

 

どきりとした。一瞬、心のうちを見透かされているような感覚だった。なんて人なのだろう。この人は。死んでも祖国のために尽くすよう、俺たちは軍人として教育された。そんな俺たちに、死ぬまでが償いである俺に、生き残れと言っているのか。

 

口を開けたまま間抜けな顔を晒していると、中尉の目元から涙が膨れて、ぽろっと溢れた。俺は慌てて手ぬぐいを差し出そうとしたが、中尉は俺を制し、俺の軍帽を優しく取り上げて深く被った。

 

「なぁ、高橋軍曹。弟を頼む。どうか頼むよ。あいつはまだ二十歳になったばかりで、結婚したばかりで……。」

 

どんどん掠れる中尉の声に俺は何も答えることができない。本当は心の底から勿論です、と。絶対に少尉殿と生きて帰って来ます、と。そう言いたいのに。

 

でも冷静な頭が俺に現実を突きつけていた。生き残れる確証は何一つない。むしろ、前線で兵士を導く彼が狙われるのは必然だ。撤退しようにも命令がなくてはどうにもならない。敵前逃亡は軍で厳しく裁かれる。

 

中尉も分かっているのだろう。高威力の二八センチ榴弾砲が投入されるという事は、多少味方を殺してしまっても敵兵より優位に立ちたいという事だ。あんな馬鹿でかい大砲に味方識別などできるはずがない。敵味方問わず蹴散らすだけだ。日本軍は勝つために多少の犠牲はやむ終えないと考えている。

 

何も言えない俺に中尉は済まないと謝り、俺に軍帽を返して深く被らせた。

 

「もう戻りなさい。つまらない用事で呼び立てて済まなかったな。」

「いえ、つまらなくなどありません。中尉殿の期待に応えられるよう、善処します。」

 

一礼して逃げるように天幕から出た。外は真っ暗で、俺は帽子を取って空を仰いだ。

 

冷たい風に煽られた砂埃が邪魔で、星は綺麗に見えなかった。

 

 

 

 

「突撃ィ!!!」

 

将校の合図で一斉に兵士が塹壕から飛び出す。銃剣を構えて敵陣めがけて突撃する。俺も仲間に負けまいと雄叫びを上げながら、一発の銃弾のように駆け抜けた。

 

目を刺し、口を刺し、首を刺し、心臓を刺す。狙われている仲間を見つければ肩を軽く引っ張り、素早く銃を構えて敵兵を殺す。

 

日清戦争でも思った事だが、人間はまるで血袋だ。穴が開けば、ビシャッと血が吹き出す。人の体の半分以上が水分らしいのも頷ける。

 

考え事をしていると、思わぬ死角から敵兵が飛び出してくる。目の前を刃先が通り過ぎたところで、無防備に差し出された敵兵の首を腕で締め、そのまま骨を折る。ごきりと音が鳴ると、体はだらんとして動かなくなった。

 

「さ、さすが軍曹殿だ…!」

「圧倒的な強さだ!ああも簡単にロシア人を投げ飛ばして!」

「お前ら!無駄口を叩く暇があるなら周囲を警戒しろ!殺されたくなければ殺される前に殺せ!!」

 

戦闘中なのに余裕ぶっこいてるんじゃねーぞこの野郎。俺の腕はそんなに広い範囲まで届かないというのに、油断してやられるなんて許さないからな。俺の怒声に飛び上がった兵たちが急いで駆け抜けていく。俺は襲ってくる敵兵を次々に殺しながら、少尉の方向に目線を向けた。

 

「躊躇してはどこにも進めんぞ!貴様ら!足を止めるなァ!!」

 

やはり、少尉殿には何かカリスマのようなものがある。そこに居るだけで、常に兵たちの士気を上げ続ける才能を持っている。かく言う俺も、その叫びに応えるために、力強く大地を踏みしめた。

 

最早前に立つ者、何人たりとも俺の障害にはなりはしない。勢いに押されたロシア兵たちは少しづつだが、怯んでいるようだ。

 

すると土嚢の影からロシア兵が何かを放り投げる。飛んできた黒いそれの正体にいち早く勘づき、俺はできる限り大きな声で呼びかける。

 

「散れ!固まっていては全員吹き飛ばされるぞ!」

 

ドンッ!と派手な音が鳴り始める。ここまで攻められてようやく手榴弾を使い始めるなんて、随分と舐めてくれたようだ。しかし投げるためにその無防備に晒した体は格好の的だぞ。

 

銃を構えて撃つ。弾を節約していた分、俺は有利だ。こんな状況で弾を込める馬鹿を真っ先に殺す。体ごとぶつかってくる兵士など、その勢いで銃剣を突き刺してやれば事足りる。銃剣が抜けないうちに来た奴は突き刺した死体を盾に撃ち抜いてやればいい。

 

我ながらえぐい戦い方だとは思う。しかし手段を選んでいられるほど、俺に選択の余地はないのだ。俺が殺せば殺すほど味方は有利になる。少しでも多くの兵たちがここから帰還するために、俺は生きるために立ち塞がる障害たちを薙ぎ払う事に躊躇はない。

 

この不毛な殺し合いを俺は否定しない。戦争は何も生まない、無意味な行為だ。などと考えていた平和な凡人はもういない。そんな事では、ここまで来る前にとっくに死んでいる。

 

「ぐうッ!!」

 

構えた腕に、ロシア兵の銃剣が刺さった。深々と刺さったそれを抜かずに距離を詰めて、渾身の頭突きを食らわせる。怯んだそいつの頭めがけて、刺さっていた銃剣を腕から抜き、差し込んでやった。

 

そちらに気を取られていると、至近距離に手榴弾が飛んでくる。落ちてきたそれを素早く死んだロシア兵の体で覆う。数秒も経てば爆発は死体を吹き飛ばしたが、俺に来た衝撃はそれほどではない。飛び散った肉片が顔につくと気持ち悪いというだけだ。

 

「軍曹!大丈夫か!」

「少尉殿、よそ見をしてはなりません!!」

 

俺に声を掛けた少尉に向かって呼びかける。案の定飛んできた銃弾に、少尉を押し倒して避けさせた。

 

「失礼しました、少尉。怪我はありませんか。」

「も、問題ない。それより軍曹、無茶な戦いをするな!俺の肝を冷やすんじゃない!!」

「この程度、無茶の内には入りません。さぁ、立ってください!我々がこうして話している内に、同志は死んでいくのです!!」

 

決して比喩表現ではない。本当に秒単位で仲間が死んでいくのだ。まるでゲームのように、攻撃させてぶつかった集団が次々に死んで行く。俺たちは戦争のためには道具であるべきだ。それでも、こんな風に死んでいくのは、あまりに虚しすぎる。

 

「そう、だな。多少の無茶には目を瞑らねばやっていけないか。」

「ええそうです。さぁ、立ってください少尉殿。一進一退を繰り返していた戦場も、今は我が隊が優勢です。押し切りましょう。」

「分かった、急がねばな。」

 

その一言に安心したものの、よく見ると少尉殿の腕が少し震えているのに気付く。なんと、まぁ。先程味方を鼓舞していたあの姿からは予測もつかない。

 

そんな少尉に俺は手を差し出した。弾かれたように俺を見上げる少尉は、ふっと笑って俺の手を掴んだ。

 

「俺はふらついた覚えはないのだがな。」

「はいはい。行きますよ、少尉殿。」

 

立ち上がり敵陣に向かって再び駆け出す。最前線でぶつかり合う兵士達の背後から、敵兵の頭を順番に撃ち抜いて行く。綻んだ敵兵の壁に割り込んで、更に仲間達が侵攻する。

 

既に敵陣が構える丘を次々と占領しており、永遠に続くような消耗戦は、もう少しで終わるかに見えた。

 

走り続けていたせいか、目眩がする。くらりと、視界がわずかに揺らいだその時。一発の銃弾が空を切った。

 

 

「ぅ、アッ…!」

 

銃弾は少尉の腹にめり込んだ。

 

「少尉殿ッ!」

 

思わず少尉殿に駆け寄り、近くの岩陰に引き摺り込む。ドンドン、と岩に銃弾を受ける音が聞こえるが、そんなことは気にしてられない。少尉の軍服の釦を外し、腹に指を突っ込んで弾を抜く。痛みに呻き声を上げながらも、少尉は自分の腕を噛んで必死に意識を保っていた。

 

どくどくと溢れ出す腹に手拭いを当てて圧迫する。鞄から包帯も取り出し、手拭いを固定するようにキツく体に巻きつけた。

 

「少尉、今からあなたを背負って本営に戻ります。」

「や、めろ。俺のことなど捨て置け、戦わねば、俺はお前の手を煩わせたく、ない。」

「そこまで強気なら大丈夫です。行きますよ!」

 

荷物をその場に放り、身軽になったところで少尉を背負う。なるべく身を低くかがめながら、蛇行するように本陣へと下っていく。

 

しかしそれを見逃してくれるほどあちらも甘くない。明らかに俺の方を狙っているような弾が何発も飛んでくる。無防備な背中を狙わない奴などいないか。分かってはいたが、苦しい状況だ。

 

「ッ!」

 

思った通りしつこく狙ってきた弾丸が、足の横を削ぐように通り抜ける。カッと熱くなって痛くなる。血もどんどん出て靴の中がだんだんと湿ってきた。

 

それでも足を止めるわけにはいかない。中尉殿にも約束した。俺も、ここで少尉を見殺しにしたくない!

 

「ぐん、曹、置いていけ、私を置いていけ、このままでは共倒れに。」

「うるさいッ!黙れッ!舌を噛むぞ!俺は死なない、少尉も死なない!まだ助かるはずだ!」

「無理だ、自分の体のことは、自分がよく、分かって。」

 

ドン、ドン、ドン!

 

またもや弾丸が飛んでくる。運良く、肩やら耳やら、俺の体の端をじりじりと削るだけで済んでいるが、それも時間の問題だ。もう大分丘を下ったから、そろそろ塹壕に入れるはずだ、急がなくては。

 

「ク、ッソ…!」

 

そんなタイミングで銃弾が俺の太ももに直撃する。俺は堪らずバランスを崩して少尉もろとも地面に転がり込んだ。

 

だが、間に合ったようだ。転がった目の前には塹壕の壁が見える。俺は半ば這うようにして少尉の体を掴み、塹壕に雪崩れ込む。ここまで来れば、銃撃など屁でもない。あとは本陣を目指してひたすら移動するまでだ。片足を引きながら少尉の体を懸命に運んだ。

 

「なぁ、なぁ軍曹。俺は、立派な軍人に、なれただろうか。」

「ええ、そうですとも。貴方は、中尉殿が誇りに思えるような、そんな軍人ですとも!」

「そうか、ああ、最期に、一つ聞きたいことが…。」

「そんなこと、仰らないでください!最期と言わず、一つと言わず!幾つだって聞いてください!」

 

なんだか、訳もわからず涙が出てきた。視界はグニャグニャと滲んで、とても先を見通すことはできない。腕で乱雑に拭って少尉殿を見る。

 

少尉殿は、笑っていた。泣きながら笑っていた。

 

「いや、一つで、いいよ。高橋軍曹。ずっと、気になっていたんだ。お前は、頭のキレる男だから、俺がお前の事を、補佐官にしたいと、兄達に駄々をこねた事を、知ってるんじゃないか?そんな俺を、どうだ、お前は、どう思った。」

「…ッ、最初は、なんて我儘なと、思っていました、でも、貴方とともに過ごす内に、そんなこと、気にならないくらいに!貴方を支えたいと、思いましたよ!」

 

それこそ、捨てた過去に置いてきた佐一のように、放っておくことなどできなかった。お互いに途切れ途切れで言葉を紡ぐ。俺の言葉を聞き終えた少尉は、乾いた笑い声をあげて、咳き込んだ。血を吐いている。もう少し急がなくては…。

 

俺は精一杯歩いて、歩いて。少尉殿の意識を落とさぬよう、色んな話をした。

 

やがて、野戦病院まで辿り着き、俺は軍医に少尉を引き渡した。

 

「少尉を、助けてください。おねがいします。」

 

しかし帰ってきたのは軍医の非情な言葉だった。

 

「残念だが、もう手遅れだ。これだけ傷が深いとなると、もう助からない。」

「なんとか、してください!」

「無理だ。設備の問題でもなんでもなく、本人の体力的に望みはない。出来るのは君の手当てと、この少尉の死に目に立ち会うことだけだ。」

「そんな……!」

「……すまない。おい!二人を同じ部屋の寝台に運んでやれ!」

「はい!」

 

待ってくれよ。そんな事はないだろう。まだ受け答えもちゃんとしてる。それなのに、こんな、じわじわと殺すなんて酷いじゃないか。誰も助けてくれない、ただ死に向かう感覚があるだけなんて、そんなこと。

 

けれど、軍医は、悪くない。

俺が無力だったのだ。もっと早く、ここにたどり着けることができれば。もっと上手に止血ができれば。少尉に弾が当たる前に俺が敵兵を殺していれば。

 

「軍曹、できるなら、俺の手を、握っていてくれないか。」

「少尉…お安い、御用ですよ。」

「離すなよ。握られた手を、離されると、今は子供のように心細い……。」

 

俺は少尉の手を握りしめた。ただ、そうし続けた。

やがて少尉はあまりにも穏やかな顔で、永遠の眠りについた。

 

 

夥しい数の犠牲者を出して、第二回総攻撃が終わった。

第1師団は壊滅状態。

知っている顔が、何人も遺体で帰ってきた。

その中には、大和中尉の姿もあった。

 

一体何故俺だけ生き残っているのだろうか。

 

分からない。解らない。判らない。

どうしてこうも、俺は大切な人を失ってしまうのだ。

 

しかしそんな事を考えている暇など、戦争は与えてくれなかった。少尉達の死を心に受け止める余裕などなく、次回の作戦の算段が建てられる。

 

海軍から要求された新たな目的。二百三高地の攻略だった。

 




なんか途中からオリキャラ殺すの惜しいなぁと思ってしまったのですが、殺すのは決定事項だったので退場してもらいました。

主人公割と強いように見えますが、金カムキャラと比較するとそんなにだったりします。生き残っているのは、精神力の賜物です。攻撃を受けたらすぐ腕でかばっているので、胴体の怪我が少ない割に腕はズタズタです。

もし良ければ評価、感想などお待ちしております!
誤字脱字報告も大歓迎です!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。