世界の片隅の、とある艦娘達のお話   作:moco(もこ)

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陽炎と不知火の昔と現在


ふりまわし、ふりまわされ(陽炎、不知火)

最近、試行錯誤していることがある。

 

「おっ。ご飯一緒に食べない?」

「……いいですけど」

 

そう、こいつこいつ。最近うちの泊地にやってきた陽炎型駆逐艦二番艦、不知火のことである。

こいつと一緒に囮となって深海棲艦の群れと戦ったあの日から。なんだこいつただのいーやつじゃん、と認識を改めた私は、積極的に不知火に絡むようになったのである。

相変わらず砲撃訓練では目、ついてるんですか?とか生きてて恥ずかしくないんですか?とかうん結構きついな?まぁこんな感じのきついことをずっと横で言われ続けているんだけど、なんだかんだ最後まで付き合ってくれるし教え方は丁寧だしでこれはあれね、ツンデレってやつね!と思うことにした。

そんなわけでこれからしばらくここで一緒に暮らしていくことになるんだろうし、よくよく考えたら私こいつのこと何も知らないな、と思ったのでこうやってちょくちょく絡むようにしているんだけれど。イマイチまだ距離感が掴めないというか。昔から距離感が近いとは言われ続けているので、そこをわきまえて接していこうとは思うんだけれど、ついついうっかり距離を縮めてしまうのが私である。そして、何回かやらかしてちょっと思うところがあったというか。ここ、もっと攻めていいんじゃない?と思い立って、今に至る。

 

「今日は豪華よねー」

「そうですね。果物は、貴重ですから」

 

今日のデザートは桃の缶詰である。缶詰とはいえ、果物はわりかし貴重だから一品でもこういったものが添えられていると嬉しいものだ。ちなみに数は限られているので一人二切れまで。よし、最後にじっくり味わおう。頂きます、と声をあげてから食事に取り掛かる。

 

「そういえば指導要綱どう?」

「第一案は出しました。といってもまだまだ粗いので今追加資料を作成中ですが」

「……え、もう原案できたの?」

「はい」

 

私や瑞鶴さんの訓練の面倒を見ながら自分の訓練をしつつ、隙間時間で、もう……?恐るべき処理能力。軽く慄いていると、なんでもないことのように不知火が続けた。

 

「呉に比べれば大したことはありません。あそこの秘書艦業務はこの比ではなかったですから」

「は〜……」

 

……あれ、呉って確か最前線じゃなかった?そこの秘書艦?もしかしなくても不知火ってすごいやつ?いや、あの戦いっぷり見てればそりゃわかるんだけれども。こっちの仕事も出来るのか、天は二物を与えないんじゃなかったの。

 

「よーし、頑張った不知火にご褒美!」

「は?」

「はい。あーん」

 

おねーちゃんとしてはこの出来た妹を労わねばなるまい。本当の姉妹じゃないけど。

ご飯をあらかた平らげていた不知火にフォークでさっくりと一口大に切った桃を差し出した。

 

「……」

 

あ、めっちゃこっち睨んでる。だがしかしここで挫ける私ではない。さぁ、今日のチキンレースはここよ。

 

「桃、好きでしょ」

「……なんで、そう思うんですか」

「ん?桃見たときの顔かな、いつもより嬉しそうだったし」

「……」

 

黙り込んだ不知火にめげることなくフォークを差し出し続ける。

そう、これなのである。割とよく距離感をミスって抱きついたりぐいぐい絡んだりしてしまうのだけれど、きっとそういったスキンシップがあまり得意ではないだろう不知火はそういうとき、一瞬固まったのち拒絶するでもなくそのままにしておくことが多いのだ。ただしやりすぎるとぞんざいに引っぺがされる。

だから、これ、嫌がられてはないんじゃない?続けていけばもしかして慣れていってくれるんじゃない?と思って絶賛試行錯誤中なのである。本日の実験はここ。果たして、食べてくれるのか、どうなのか。

 

「……」

「……おぉ!」

 

しばらく私と桃を交互に見ていた不知火は、ぱく、とそれを口に入れて視線を私から逸らしながら黙ってもぐもぐと食べ始めた。

あ、なんかすごい感動。例えて言うならば今まで懐かなかった野良猫に懐かれたかのような。この一歩は歴史に刻まれる大きな一歩よ。

 

「……なんですか」

「おかわり!」

「……」

 

気が大きくなった私はさらにもう一切れの桃を差し出した。不知火は躊躇いながらもちゃんとそれを食べ、気をよくした私はもう一個、とやっているうちに最終的に全てを不知火にあげてしまっていた。

うん、デザートが消えたのはちょっと悲しいけどそれよりも達成感が半端ない。

 

「美味しかった?」

「……まぁ」

 

うんうん、パッと見不機嫌そうだけどこれって照れ隠しよね、と気づいたのも最近である。無愛想には違いないけどなんだかんだわかりやすい。

 

「……」

 

あれ、今度は本当にちょっと不機嫌になってる。これはあれだな?このままやられっぱなしは面白くないとか考えてるな?相変わらず負けず嫌いなんだから。そもそもあーんし返そうにもそっちの皿もう空、あれ?なんで私の皿じーっと見てるの?何もないわよ?そう、苦手で端に寄せておいた揚げ茄子以外──

 

「……」

「……いやいやいやいや」

 

さくーんと私の皿のナスをフォークでぶっ刺すと無言で差し出してくる不知火。いやいや待って待って茄子嫌いなんだってあの食感、あと色。紫ってなに?食物の色じゃないでしょ。

 

「不知火の茄子が食べられないと言うのですか」

「待って!!これ私の知ってるあーんと違う!威圧感パナイ!ていうかそれ私の茄子!!」

「好き嫌いはよくありません」

「それはそうなんだけど!」

「あーん」

「そんなドスの利いたあーんがあってたまるか!!」

 

あっなんかちょっと拗ねてるわね!?これ食べないと今日一日中ネチネチ言われるな!?せめて可愛く言ってくれればまだ頑張れるものを待ってこれはこれで不知火的にはデレなのではでもちょっと茄子は

 

「早くしろ」

「ふごぅ!」

 

私の逡巡などなんのその。その日は不知火に無理矢理茄子を口に突っ込まれKO負けしたのであった。

 

 

「……仲、いいですね」

 

目の前で行われたあーんに対してあまりに自然すぎてツッコミが遅れてしまった。

 

「え、そう?普通よね?」

「そうですね、普通です」

 

予想外の大和の燃費の悪さと目下の強敵だったらしい武蔵を倒したのもあってか、しばらくこの泊地で英気を養え、という上からの命令によりここで訓練および鳳翔さんのお手伝いを続ける日々を送っていた大和です。提督が資源がぁ!!と叫んでいるのを聞いて申し訳なく思いつつ、かといって何をするにも資源をドカドカと食べてしまうこの身をどうすることも出来ず日々慎ましやかに生きている、大和です……。

そんなある日。たまたま時間が合った陽炎さんと不知火さんと一緒にご飯を食べていたわけだったんですが。今日のデザートは苺で、そしてそれをひょいっと陽炎さんが不知火さんに差し出し、不知火さんは何でもない風にぱく、と受け取ったのを目撃したわけです。

え、これ普通なんでしょうか。大和はあんまりこういったことをしたことがないから羞恥心が前面に出ちゃうんですけれど……こういったことに疎そうな不知火さんが平気な顔をしていると、こっちがおかしいかのような気分になります。

せめて他に反論してくれる人がいれば……あ、だめ蒼龍さんと飛龍さん普通にやりそう。金剛さんとかも気にしなさそう。あれ?大和がおかしいんでしょうか。

 

「ていうか、大和さん苺もらい忘れてない?」

「あ」

 

ついうっかり。せっかくの数少ない楽しみである、もらわなければ損だ。

カウンターの方に向かうと、ちょうどこっちを見ていたのか鳳翔さんと目があった。

 

「苺、もらい忘れてしまいました」

 

その言葉を聞いて小鉢に盛り付けられていた苺を手に取り、しばし鳳翔さんが考え込む。あれ、どうしたんでしょう。

 

「鳳翔さん?」

 

首を傾げて声をかけると。鳳翔さんは徐にフォークで苺を刺すと、

 

「はい、あーん」

 

なんて、あーちょっと待ってくださいそれは大和予想できなかったなー!さっきの会話聞かれてたのかなーいやなんか茶目っ気が出ちゃった鳳翔さん可愛いなーやったもののちょっと照れちゃってるところまで可愛いです待って下さいこの人神様ですよね確かこんな可愛くていいんですか神様だからこんなに可愛いんですかねなーるほどーあーどうしましょうこれ受け取らないと鳳翔さんが羞恥のあまりフォーク下げそうでも大和ちょっといやかなり恥ずかしいだってこの人憧れの人なんですよー!戦艦の時代の記憶思いっきり引き継いじゃったもんだからもー大変あああ大和はどうすべ

 

「食べないなら貰うネー!」

 

わずかに逡巡しているその間。横からするっと金剛さんが割り込んで鳳翔さんが差し出している苺をかっさらっていった。思わず口をあんぐりと開けてその様を呆然と見つめる。

 

「Wow, sweet!いい感じに熟してマース!」

「今が旬ですから」

「Great!ほらほら、大和も食べるといいですヨー?あれ?大和?」

「……こ、」

「こ?」

「金剛さんの、ばかぁああああああああ!!」

 

万感の思いを込めて、金剛さんに半べそで八つ当たりした。

 

 

「大和さんもすっかりここに馴染んだわねー」

「そうですね」

 

もういっちょひょい、と不知火に苺をあげつつ会話を続ける。

 

「いやーしかしホント賑やかになったわよね、ここ」

「ええ。たまにうるさすぎますが」

 

不知火が提督や金剛さんをどつき回してるときも結構騒がしいわよ、とはあえて言わなかった。たまに巻き込まれて一緒にうるさくしてるし。

 

「はい」

「う」

「いい加減観念したらどうですか」

「不知火も、いい加減私の好物をくれてもいいと思う……」

「いいですよ、勝負に勝てればですけど」

「ぐっ」

 

初めてこいつにあーんをした日から、なにかにつけて賭けをして、その大体が訓練に関することだったのでほぼこっちが不知火の好物を捧げる日々を送ってきたわけだけれど。こいつはこいつで私の苦手なものを差し出してくるわけである、どういうことよ。絶対不知火ってSでしょ、途中から何だか楽しげだったもの。

 

「不知火の茄子が食べられないと言うのですか」

 

ほらこれよ。フォークをゆらゆら揺らしながら楽しそうにしちゃってさぁ。

 

「思えばあの日も揚げ茄子だった……」

「そうですね、よく覚えてます」

「ふーん?」

 

ちょっと意外。

 

「陽炎の嫌がる顔が中々に面白かったので」

「おいこら」

「あーん」

「だからドス利かせないでよ」

 

渋々茄子を口に入れる。う、食べられるようになったけどやっぱりこの食感、好き好んで食べようとは一生思えない。

 

「不知火のおかげですね」

「下手したらトラウマよ……」

「そう言う割に、素直に食べますね」

「まぁね」

 

お茶を飲んで口の中をリフレッシュする。うん、まぁ実際食わず嫌いなとこあったし。食べてみたらやっぱり嫌いだったけど。

 

「妹がくれるものを無碍にはできないわよねー」

「……陽炎って」

「ん?」

「Mなんですか?」

「違うわよ!!」

 

最近表情が柔らかくなってよく笑うようになったと思ったらこれよ!ちょっと不知火におもちゃにされてない、私?と思わなくもない時が割とあるのは内緒よ。姉としての尊厳に関わる。

 

「出来た姉を持てて不知火は幸せものですね」

「思ってないでしょ」

「本心です」

「む」

 

だ、騙されないからね。こうやって言葉巧みに毎回おちょくられるんだから。

 

「本当に、陽炎は可愛いですね」

「おちょくりがいがあって?」

「ええ、おちょくりがいがあって」

「ぐ、ぬぬ!」

「一生見ていて飽きなさそうです」

 

それはなんとなくこぼした言葉なんだろうけれど。一生、一生か。生きることに前向きになってきたのかなぁ、と、こんな言葉の端々でほろりと来てしまうのも、まぁしょうがない。

 

「……一生笑わせてあげるから。余所見するんじゃないわよ」

 

そう言ってずずっとお茶を啜る。それを不知火はきょとんと見ていると思ったら。

 

「……しませんよ」

 

ふっと笑いながらそんな言葉を返してくるくらいには。まぁ、ね、結構一緒にいるわよね。

もちろん、これからもずっと一緒にいるけどね。

 

 

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