世界の片隅の、とある艦娘達のお話   作:moco(もこ)

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従軍記者見習いの、とある日の潜水艦娘達と元艦娘との邂逅


本日晴天、ところにより潜水艦にあたるでしょう (舞鶴鎮守府:伊19、??)

 

 桟橋沿いに一列に並ぶ護衛艦を遠目に見ながらゆっくりと海岸沿いを歩く。首からさげた一眼レフを無意識のうちに握りなおしながら、目的地へと向かっていた。

 深海棲艦の出現、艦娘の台頭によりその存在は日の目を見ることが少なくなってきたが、前線が遠く離れた基地に構築された際に、場合によっては要人を運ぶ役目を担う護衛艦は今日も出番を待ちながらひっそりと停泊していた。

 

 周りを山に囲まれた舞鶴湾の海面は今日も穏やかだ。

 ──天然の要塞。湾内の干満差が少なく、周囲の山により強風や荒天から守られた場所。湾内を囲む左右の山には、敵深海棲艦の艦載機を撃ち落とすための防空砲台が設けられているこの土地は、太平洋戦争時に対ロシアを目的として発展してきたこの場所は、今や対深海棲艦に対する防御の要だ。

 

 ぼんやりと艦艇を見ながら歩いていると、ちょうどその隙間から航跡(ウェーキ)を描きながら飛び出してくる人影を見つけた。

 一眼レフの望レンズ越しに、その人物を捉える。

 

 ──カシャ。

 

 護衛艦の甲板にいた人達が彼女に気づき、一斉に帽振れをする。

 それに気づいた彼女、及び、それに続くように海に飛び出してきていた他の艦娘達が、手を上げて答えながら湾外を目指す。

 

 ──カシャ。

 

 ただ無心にシャッターを切りながら、その姿をカメラにおさめた。

 

 ──俺は、これから。あの娘達の取材をするのだ。

 

 

 ここ、舞鶴で育った俺にとって、艦娘の存在は日常の一部のようなものだった。

 街中でふとしたとき、すれ違う少女から香る海と、仄かな火薬の匂い。沿岸を歩けば、ときたま、少女達が海上に航跡(ウェーキ)を残しながらなめらかに海を駆けてゆく姿が見られる。そうやって、生活の端々に彼女達の存在を感じながら育った俺が彼女らに興味をもって従軍記者を目指すことになったのは、まぁ自然な流れといってもいいかもしれない。もっとも、いざ見習いとしてこの世界に足を踏み入れてみると、俺の姿を見た皆が揃ってこう言うとは思っていなかったけれど。

 

『──そんなひょろっこい体じゃ、前線にはいかせらんねぇなぁ』

 

 と。体に肉がつきにくい体質なんです、と何度も主張し、筋トレだって毎日しっかりとしていたが、結局皆の意見は変えられず、まぁ、こういうところから始めたらどうだ、とこの仕事をもらったのだ。

 地方新聞の片隅の、小さな小さなコラム。艦娘の日常とやらをただ綴っていくだけの、毒にも薬にもならないような記事を。

 

 きっと他の地域の人達より、俺達にとって艦娘は身近な存在だろう。しかしながら、では艦娘について何を知っているかと問われれば、言葉に詰まる。

 どこか遠くの海で、俺達のために戦っているらしいとか。水着にパーカーを羽織った女の子達が、駄菓子屋の前に設置されているクーラーボックス内に並ぶアイスクリームを顔を寄せあって眺めている姿を見かけると、夏が来たなと感じるだとか。俺が知っているのは、それくらい。だけれども、それくらいの情報でさえ、一部の人達にとっては物珍しいという。

 だから、そういうの書いてみろ。お前がニュートラルな立場から見た彼女達を、と言われ、そうしてここまできた。

 

 ニュートラルって、それが一番難しいんだけどなぁと思いながら、海軍基地の入り口で入館証をもらう。その場で撮られた写真がのっている入館証を首にかけながら、門をくぐって北吸桟橋に出る。このエリアは深海棲艦との戦いが始まってから一般開放がなくなったため、実際に足を踏み入れるのは初めてだ。

 梅雨から夏に入り、日も大分長くなってきた。まだまだ居座る太陽によって照らされた護衛艦から少しばかり影が落ちているのをいいことに、その影の中を黙々と歩いて気持ち程度涼む。直射日光によってじりじりと焼かれた首元から流れ落ちる汗をハンカチでぬぐいながら進むと、ちょうど護衛艦の並びがきれたところに一人の少女を見つけた。

 

「あのー」

「……?」

 

 こちらに振り返った際に、さらりと癖のないショートボブの左側の長い一房の黒髪が、海風にさらわれ踊る。

 水着の上から少し大きめのウィンドパーカーを羽織り、そしてこちらを静かに見返す瞳は、よくよく見ないとわからないが左右で色が異なっていた。

 ──舞鶴名物、潜水艦娘だ。

 

「──社の者です、本日取材のためにお伺いしたのですが、こちらの責任者はどちらにいらっしゃいますでしょうか」

「……取材?」

 

 こてんと首を傾けられ、違和感。あ、あれ。

 

「本日三時から、艦娘さん達の取材をすると提督さんにお話を通してもらったんですが?」

「特に聞いていないん、ですが……」

 

 そんなバカな。電話で了承を確かに得たはずだ。ここの責任者があんなに年若そうな女性だとは思わなかったから彼女の声を聞いて驚きはしたけど、日時を二回確認した上で自分の手帳にしっかりと記入していたはずだ。

 不安にかられ、慌てて手帳をめくっていると、女の子が腕にまきつけているホルスターから無線機を取り出した。

 

「こちらヒトミ、ゴーヤちゃん、どうぞ」

『こちらゴーヤ、なにかあった? どうぞ』

「北吸桟橋に新聞社の方がきています、予定はありましたか、どうぞ」

『……ないはずだけど、その対応は誰がしましたか、どうぞ』

「提督らしい、です、どうぞ」

『なら予定表への記載を忘れた可能性があるでち、どうぞ』

「……えっと、どうしましょうか、どうぞ」

『提督もう帰ってるし、とりあえず今日は中で取材は無理でち、どうぞ』

「そ、そんなぁ」

 

 思わずがっくしと肩を落とす。気合いをいれてきたのにあんまりだ。

 そんな俺を気の毒に思ったのか、ヒトミ、さん? が再度呼び掛けた。

 

「取材可能な範囲はありますか、どうぞ」

『あー、非番の娘に雑談振るくらいならいいよ、どうぞ』

「非番……今、誰かいますか、どうぞ」

『イクが鍋の買い出しにいって……だからぁ! 潜れてないんでちよ、足がぁ!! 嘘じゃな、あ、ごめん、以上』

 

 途中誰かに怒鳴りはじめたゴーヤさんの大声に、思わず無線を顔から離したヒトミさんが、ゴーヤさんからの応答が切れると同時にポツリと呟いた。

 

「イクちゃんだけ、か……」

「あ、あの~」

「今、手があいている人が一人しか、いません……商店街に買い出しに行ってるので、雑談程度の取材なら、大丈夫、です……きちんとした取材は、後日……すみません。電話番号を、伺っても……?」

「あ、はい、ありがとうございます……ええと、ヒトミ、さん? は、今お忙しいんですか?」

「私は……今、訓練の監督をしてる、ので」

「訓練?」

 

 懐から名刺を取り出してそれをヒトミさんに渡しながら質問を投げ掛けると、ヒトミさんが無線機とはまた別の小型デバイスを見せながら答えた。

 よくよく見ると、その根本からはケーブルが伸び、その先は海に漂う浮きに繋がっていた。

 

「それは……」

「魚群探知機、を、改造した……ポータブルソナーのようなもの、です……これで、簡単な指示を出して、います」

「指示、というと」

「海の中、は……音がよく響くので、簡単な、モールス信号、で」

「今誰か海の中にいるんですか」

「そう、です……」

 

 目を凝らして見たものの、静かに青い海面が揺蕩うばかりで、魚の影すら見当たらなかった。きっと深く深く、潜航しているのだろう。

 海上艦娘はよく目につくが、潜水艦娘はこうやってひっそりと海の底を進むため、舞鶴に住む人であっても潜水艦娘に対する認知度は低めだ。

 寒い寒い冬の舞鶴東軍港を潜水艦娘が水着ひとつ身にまとい歩いてれば通報されることもしばしば。

 曰く、冬の舞鶴でスク水姿で歩き回る痴女がいる、と。いや、気持ちはわからないでもないが、日夜海に潜って敵と戦い、必要資源を集めてきてくれる彼女達にその扱いはさすがに同情する。

 大した影響力はないだろうが、彼女達潜水艦娘についても、日常を綴ることで少しでも認知度をあげられたらとひそかに決心して今日の取材に向かったわけなのだが。

 まぁ、いい。時間はある。これが最後でもないのだから、気を取り直してその非番の娘に取材をしようではないか。

 

「ここから徒歩で……十五分くらいのところにある、──精肉店、わかります、か?」

「あ、はい。ここ、地元なんで」

「そこに、一人潜水艦娘が向かっているはずなので……彼女に聞いてみてください」

 

 潜水艦娘。本格的な取材のアテは外れたが、これはこれで幸運なのかもしれないと少しばかり気を持ち直したところで、でも、とぼそりとヒトミさんが付け加える。

 

「でも?」

「断られ、ちゃう、かも……」

「え」

 

 その言葉に思わず固まる。その真意がわからず思わずヒトミさんを凝視していると、彼女は困ったように曖昧に笑った。

 

 

 お鍋パーティーをするから、買い出しに行ってもらったんですというヒトミさんに、こんな暑いなか鍋ですか、と問えば、温かい料理って貴重なので、と返された。

 

『私達、は……いつも冷たく暗い、海の底でじっと息をひそめてます、から……。こうやって(おか)にあがって、温かいものを口にいれることで、ようやく人心地が、つくんです』

 

 気難しいという潜水艦娘の外見的特徴などを教えてもらったついでに、なんの買い出しなんですか、と何気なく質問を投げ掛けて、まさかそんな重い話になると思ってなかったものだから、俺はそうですか、と相槌をうつことしかできなかった。訓練監督中だという彼女の迷惑になるだろうから、と最もらしい言い訳を自分自身にしながら、ありがとうございましたと頭を下げて踵を返し、その足で商店街へと向かった。

 商店街の一角。肉じゃがコロッケがうまいんだよな、と自分もよく知る精肉店へと足を進める。学生時代は部活帰りによく行っていたが、最近はとんと行ってないな、とぼんやりと店内の様子を思い浮かべた。

 決して広いとはいえない店舗の壁には、何枚か、艦娘らしき女の子達が映っている写真が貼られていた。

 店舗中央には小さな丸机と、その上にノートが置かれ、なかには誰が書いたとも知れぬ文字の羅列が並ぶ。あんたもなんか書いてってよ、とたまに声をかけられたものだが、羞恥が勝ってしまいついぞ書けなかったあのノートには、もしかしたら艦娘からのメッセージものっていたのかもしれない。

 目的の店舗まで後数十メートル、というところに差し掛かると、ちょうど店先から誰かが出ていくところのようだった。

 

「今日はコロッケ食べていかないのかい?」

「うーん、魅力的なお誘いだけど、お鍋入らなくなっちゃうのね」

「イクちゃん少食なんだから。もっとしっかり食べないと倒れちゃうよ」

「んー、燃費がいいだけなのね、でもありがと」

 

 背丈の低い、スポーツキャップを目深に被り、色の薄いスポーツサングラスをかけた女の子が笑って店内に向かって声をかける。

 そうして一目みてわかった、彼女は艦娘だ。帽子から微かにこぼれ落ちる髪の色は綺麗な桜色で、その髪色は、日本人ではありえないような鮮やかさであった。それこそ艦娘でもなければ。

 ヒトミさんから容姿を聞いていたとおり、彼女が伊号潜水艦、伊19なのだろう。

 

「私は頂いちゃいますけどね~」

「ほんとよく食べるのね……その栄養どこに……ああ」

「イクちゃんも似たようなものじゃない?」

「一緒にしないで欲しいのね、ボンキュッボンお化け」

「ナイスバディだなんてそんな」

「言ってない」

 

 そうして後から、その子よりも一回り背丈の高い女性が店から美味しそうにコロッケを頬張りながら出てきた。

 両手からぶら下げる買い物袋の大きさにも目をひかれるが、それよりもなによりも、日の光を受け、きらきらと光を乱反射するその蜂蜜色の髪の色が目についた。

 髪の毛や素性を隠そうとしているイクさんとは対照的に、外国人のように美しいその髪を惜し気もなく晒している彼女は──イクさんがその一点を見つめてぼやくよう、なにとはいわないが、その、とても大きかった。

 思わず目を泳がせたところで、ふとイクさんと目が合う。こちらに気づいたイクさんが不機嫌そうに眉をひそめた。

 

「見世物じゃないんだけど」

 

 そうしてその視線は、俺が首からかけている一眼レフへと向けられていた。

 ……あれ、これ俺もしかして盗撮野郎と思われてる!? 

 艦娘はどの娘も美少女であるから、隠し撮りをする輩が後を絶たないという話を聞いたことがあるが、それと一緒にされてはかなわない。

 

「あ、俺、いや、私は決して怪しい者ではなく!」

「そう言う人って大抵怪しいわよねぇ」

「いや、えっと、その!」

 

 鎮守府内から外に出た際に、個人情報流出を気にして写真と名前入りの入場許可証を懐にしまってしまったのが裏目に出た。

 慌ててポケットをひっくり返し、じとっとこちらを睨み付けるイクさんと、その隣でにこにこと笑顔を崩さない女性に名刺を差し出す。

 

「……従軍記者、見習い?」

「ヒ、ヒトミさんが今いる潜水艦の方で取材できそうなのはイクさんしかいないから、こちらをお伺いしてみては、と」

「ただのパパラッチじゃなかったのねぇ」

「違います!」

 

 頬に手をあてて、うふふ、なんて笑いながら、背の高い女性がこちらにゆっくりと歩み寄ってきた。それとは対照的に、一定の距離を保って胡散臭そうにこちらを見つめるイクさんに、少し心が折れかけながらも、イクちゃんに話しかけるときはきちんと目をみてはっきりと話してくださいね、煮え切らない態度だとスルーされますから、というヒトミさんからのアドバイスをもとに、気持ち声を張り上げる。

 

「今度、地方新聞のいちコラムを担当することになりまして。その内容が、艦娘の日常を綴るようなものになるので、よろしければ取ざ」

「お断りなのね」

「……い、を」

 

 にべもない。なるほど、ヒトミさんをして、そういうの、嫌いだからと言わしめるだけのことがある。控えめに言ってめげそう。

 そんな様子を見ていた女性が、くすくすと笑い声をあげた。

 

「潜水艦の娘は結構警戒心強い娘が多いから、これでめげてちゃやっていけないわよ、記者見習いさん」

「ええと、貴女は……」

 

 あらためて、その女性と相対する。金色の髪に、紺碧の瞳。もしかして、外国の方なのだろうか。その割には流暢な日本語に内心首を捻っていると、ふいに、背後ですっとんきょうな声が上がった。

 

「ひったくりだぁ! だれか捕まえておくれぇ!!」

 

 驚いてそちらを見ると、ちょうど百数メートル先の角からこちらに向けて駆けてくる男と、それに追いすがろうとして倒れこんだ老婆がいた。

 こちらの存在に気づいた男が、舌打ちをしながらそれでもこちらに突っ込んできた。

 年端もいかない少女、可憐な女性、そしてひょろっとした俺を見て押し通せると思ったらしい。

 内心おろおろとしていた俺とは対照的に、俺の目の前にいた彼女は、はい、とすれ違いながらイクさんに荷物を預け、ゆったりとした足取りでひったくり犯の前へとたちはだかった。

 

「どけぇえ!!」

 

 と、叫びながら、胸ぐらでもつかんで引き倒そうとでもしたのか、ひったくり犯は突進しながら右手を彼女の胸元へと伸ばした。

 

「あらあら」

 

 そんな緊迫したシーンであるというのに、その女性は、穏やかに微笑みながらその男に相対する。その男の右手が彼女を捉える寸前、思わず危ない、と悲鳴を上げそうになったところで。

 

 ──ダンッ!! 

 

「……え?」

「いっでぇ!!」

 

 一瞬、なにが起こったのか飲み込めなかった。それほどまでに、彼女の流れるような体さばきが見事であったから。

 右手を伸ばされた瞬間、すっと体を流し、勢いのまま前につんのめりそうになっている男の右腕を左手で上から掴み、その勢いのままくるりと体をひねって男の体勢を崩す。そうして地べたにスッ転んだ男の右腕を、思い出したといわんばかりによいしょ、と小手を返してひねりあげたところで──男が痛みに耐えられずに悲鳴をあげた。

 

「は、はなせってぇ!!」

「おばあさんのカバン、返してもらえるかしら?」

「うるせぇババア! 引っ込んでろ!!」

「……」

「っ、だだだだ! 折れる! やめろぉ!!」

「うーん、折れるだけですむといいのね」

 

 ひったくり犯が女性に対してあらぬ暴言を吐き、それが逆鱗に触れたのか、彼女はにこにこと笑顔を崩さないものの、より強く男をひねりあげた。

 そうして、いつの間にかお婆さんのそばにいたイクさんが、のんびりと声をあげた。

 

(ちか)さんが本気だしたら、腕の一本くらいねじ切れるのね」

「失礼しちゃうわねぇ、そのくらいの分別はあるわよ?」

「ほら、できないとは言ってないの」

 

 ──しゃら。

 

 ひったくり犯とのすったもんだで女性の胸元からこぼれ落ちた認識票(ドッグタグ)に、思わずあっと息を飲んだ。

 それと同時に、イクさんがにやっと人の悪い笑顔をその男に向ける。

 

「艦娘がいるこの舞鶴で悪いことするやつなんて、地元じゃいないのね。おにーさん、外の人?」

「な、な」

「ほんとよ、もう。子供達の教育に悪いからやめてくれるかしら?」

 

 ──ME54-777568A JN CA ATAGO Blood-Type B ──

 

 自慢じゃないが視力のいい俺の目は、彼女の認識票に刻まれているそれを、はっきりととらえていた。

 認識番号、血液型、それから日本海軍(Japan Navy) 重巡洋艦(Cruiser, Armored) 愛宕。艦名には、ひっかくように線が引かれており、艦名の横には小さな桜がひとつ咲いていた。

 

「だいじょーぶ、おばあちゃん?」

「うぅ……足が」

「うーん、折れてはなさそうだけど、一応診てもらおうか」

 

 イクさんは、てきぱきと触診をしたと思ったら、手持ちのミネラルウォーターボトルでお婆さんがこけたときにできたであろう擦過傷の傷口を軽く洗い、犯人のそばに落ちているカバンを奪い返して斜めがけして、またお婆さんのもとに戻って彼女をひょいと背中に抱えた。

 そうして思い出したように、ひったくり犯をふんじばっている女性に声をかける。

 

(ちか)さーん、ちょっとおばあちゃん病院に連れていくのね。それ終わったら荷物、門の前にいる駐屯地警備隊のお兄さんに預けといてもらえる?」

「いいわよ~」

 

 にこやかに犯人を地面に押し付けながら、その人が答えたのを確認して、ゆっくりとイクさんが歩き出した。

 

「すまないねぇ、せっかくの非番だろう?」

「いいの、悪いのはあの男なの」

 

 俺に対するつっけんどんな態度に比べ、いくらか柔らかな態度でお婆さんに接しながら歩くイクさんを少し意外に思いつつ、なんというか、この状況に似つかわしくないほどにいつも通り、それこそ雑談をするかのような気軽さで会話をしながら鮮やかな手腕で事を片付けた二人に思わず舌を巻いた。

 そうして、いつの間にか精肉店のおばさんが警察に通報していたようで、遠くからパトカーがサイレンを鳴らしながらやってきた。

 パトカーから降りてきた警官二人は、(ちか)さんが片手で男を拘束しつつ、もう片手で首にかけている認識票を掲げて見せたことで、あ、となにかに気づいたように敬礼をした。それに返礼しながら愛さんは、てきぱきと事のあらましを説明して男を警官に引き渡した。

 その間、ほんの数分程度であろうか。二人はひったくり犯をパトカーに押しやり、そうして車内に戻る前にもう一度敬礼をしてからその場を離れていった。

 

「あ……事情聴取、とか」

「この程度ならないわよ〜。なにかあるとしても私に連絡くると思うわ、一応私、警察組織の末端に所属しているらしいから」

 

 そうのんびりと答える彼女を、じっと見つめる。にこにこと、胸元の認識票を指先で揺らしている彼女を。

 

「これがなにか、知ってる顔ね」

「……お強かったんですね」

「ん〜、そうでもないわよ? 一優等だもの」

 

 ──認識票、あるいは、ドッグタグ、IDタグ。

 軍隊で兵士の個別認識に使用されるものではあるが、本来海軍にはこれを使う習慣はない。特に艦娘に関していうと、轟沈した場合は艤装と共に海の底にのまれてしまうことがほとんどで、認識票を回収するのはほぼ不可能だと以前それについて取材をしていた先輩から聞いた。潜水艦なんかほとんど単独行動だし、死ぬときは誰にも気づかれずに死ぬものだから、こんなもん着けてたら無駄に海を汚すだけだと笑われたとか。

 そんな彼女達ではあるが、認識票を装着しなければならないときが一応ある。それは、海軍敷地外に出るときと、解体といって無事に生き残り、艤装が全く反応しなくなってしまった娘達が人としての生活に戻るとき。彼女は、後者なのだろう。

 二枚でセットの認識票の一枚を差し替え、そうして肌身離さず着用するよう求められる。

 彼女のIDタグの方に刻まれた、愛宕という以前の艦名の前に描かれた一つの小さな桜模様。上位三割にあたる一優等武勲艦であることを察してそう言うと、あっけらかんと彼女が答えた。

 

「一優等って、それでも上位三割ですよね」

「そんなこと言ったら姉さんは三優等だもの」

「お姉さんがいらっしゃるんですか」

「ええ。私も引退したので今は二人でのんびり」

 

 三優等は上位一割の、最優秀武勲艦だ。いったい彼女のお姉さんは、どれほど強面なのか──と思ったところで考えるのをやめた。そもそもこの目の前にいるふわふわとした印象の彼女が一優等の世界である。姉妹であるというし、案外美人さんなのかもしれないと思ったところで、彼女が指先で認識票をいじっていた関係でサイレンサーつきのIDタグではない、もう一枚も見えてしまった。そこには、A/3と刻まれていた。

 ……退役したばかりなんだろうか。Dランクまで能力が落ちれば、ほぼ人として扱われ、大分制限が緩くなると聞いたけれど。Aランクだと移動制限が大変そうだ。

 ──艦娘民間適性指標。いわゆる、民間人に対する解体後の艦娘の危険度を表したものだ。

 解体後、半年に一回の検査によって現役艦娘程度をSとしたA、B、C、Dの五段階と、各レベル0から4までの二十五段階で示される。数字が小さいほどレベルが高いと聞いたから、彼女は現役時代よりちょっとだけ力が落ちた程度のようだ。

 

『愛さんが本気だせば──』

 

 あれは、本気だったのだろうか。彼女の見た目と能力が全く一致せず、思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 

 元々人であり、ただの一般人に戻った彼女達になぜ認識票と民間への脅威度を示すタグの装着義務が下されたのか。簡単なことだ、()()()()()が、元艦娘を人として受け入れづらかったからだ。その証拠に、艦娘が現れてから数十年、親艦娘派と反艦娘派の小競り合いが相次ぎ、最終的に元艦娘の居住区画まで制定されることとなった。

 ここ、舞鶴──というより、各鎮守府、警備府の周辺地域がまさにその区画にあたる。漁業を中心とした人々の生活と艦娘は切っても切れない関係であるから、親艦娘派の人が多いのも居住制限区画に選定される理由のひとつだ。

 一概には言えないものの、内陸部に住む彼女らと縁遠い生活を送っている人達は、差別的態度を示すものも、少なくない。

 

「警察に、お勤めなんですか」

「え? 違うわよ、解体された艦娘は自動的に警察組織所属になるの、知らなかった?」

「知らなかったです……」

「ちょーっと力持ちな私達が、警察所属とわかったら民間人の方は安心するでしょ?」

「そう、ですかね」

「ええ。まぁ肩書きだけでお仕事はボランティア活動程度ですけど」

 

 ──日本人であるならばありえないほど美しい金色の髪、吸い込まれそうなほど透き通った紺碧の瞳。艦娘時代に変色した髪や瞳は、長く艦娘として戦っているほど元に戻りにくくなるという。

 この人の髪や瞳は、もしかしたら地毛なのかもしれないけれど。それでも、目立つ容姿は人目をひく。

 そして、ひったくり犯を鮮やかに捕まえた手腕、自分に向けられる敵意をものともしない胆の座り方。そうだ、そう。雰囲気から違うのだ、元艦娘のこの人は。可憐な雰囲気に混ざる、海と、火薬と、戦いの気配。

 ──だから人々は恐怖を覚える。恐ろしいほどに美しい、女の形をした、()()()に。外見が全くの人であるからこそ、その腕力を、戦場を生き延びたが故の胆力を畏怖する。せめて肌の色が違うとか、尻尾でもはえてりゃ納得いくんだろうな、俺達とは違う存在だって、と支局長が皮肉げに言っていたっけ。

 ──だから解体後の艦娘は管理される。認識票(ドッグタグ)という名前の通りの首輪をかけられ、そして移動の自由すら奪われる。旅行の申請には、Aランクであるならば、大量の書類を六ヶ月以上前に提出しなければならなく、しかも却下されることもあるのだという。こっそり行けばいいのでは、と思ったものだが、認識票には生体センサーとGPSが組み込まれており、勝手に外せばバレ、認識票を首にかけた状態でどこかに行ってもバレる、という具合らしい。

 それをあんまりじゃないか、と思うのは、俺がここに生まれ、ここで育ったからなのだろうか。

 

「私はあの丘の上の児童養護施設で働いているの」

「児童、養護施設……」

「ここは、他に比べるとなかなか復興が進まないから。全ての子供を受け入れられるわけではないけれど」

 

 津波、地震、崖崩れ。人々がそれなりに普通の生活を送れるようになってきている一方で、ことあるごとになぜかそういった災害がここ、舞鶴では起こるため、未だにそれらの爪痕は残ったままだ。崖崩れで壊れた擁壁の修復まで手が回っておらず、危険表示のバリケードテープが張り巡らされたままの場所も何ヵ所もある。

 それは、住むところも親もなくし、あてもなくさ迷う戦争孤児しかり、だ。

 

「……なぜ、艦娘を退役しても、そこで働こうと?」

「え?」

「その、言い方は悪いですが、退役した艦娘の方は働かなくても生きていけるくらいの補助金が出ると聞いたのですが」

 

 風の噂程度だが、艦娘には専用の積み立て年金制度のようなものがあり、艦種や武功にもよるが、一優等ならば、五年も働けば解体後そこそこつつましい生活をしていれば働かなくてもなんとかなる程度のお金が振り込まれると聞いた。仕組みとしては轟沈していった仲間の積み立て分がプールされるとかなんとか言われているが、実際のところよくわからない。

 だがそれが事実だったとして。それこそ生死をかけた死闘を何度も繰り返し、多くの仲間さえ見送り。そうして、人々のために働いたというのに、認識票(GPSで管理される)という首輪をかけられ、旅行さえままならない不自由さを強いられる。いい加減人に愛想を尽かしたっておかしくないのに、どうしてこの人はまだ世間に貢献しようと思えるのか、純粋に不思議だった。

 

「うーん、そうねぇ。……子供が好きだからかしら」

「……え? それだけですか?」

「こういう動機に、大した理由はいらないと思わない?」

 

 がさり、と道の端に置かれていた買い物袋を両手にかかえ、あっけらかんと彼女は言いはなった。

 

「例えば住む地域を限定されたり、例えば旅行申請に何枚も書類を書かされたり、その上却下されたり。そういう不自由はあるけれど、私としては、不自由のなかで、譲れない自由を謳歌していきたいわね」

「譲れない自由、ですか」

「そうよ〜? 子供を愛でる自由。この不自由の罪は子供にはないし、子供の未来が明るくない国なんて、深海棲艦がいなくたってお先真っ暗じゃない?」

 

 こちらを振り返りながら、笑って。

 

「全てを救えるとは思わないけれど。せめて私の手の届く範囲であの子達が笑ってくれることが、私の幸せだもの」

 

 そんなことをのたまう彼女を。人となんら代わりない、いや、もしかしたらもっと気高い魂の持ち主である彼女を。

 どうして人は、恐れるのだろう。

 普通の人より身体能力は高いかもしれない。深海棲艦を倒せるのは、彼女達だけかもしれない。

 それでも、人が恐怖し、それこそ銃口を向け、引き金をひいたとしたら死んでしまう存在だ。艦娘でいる間は成長が止まるというから、不老をイメージはするかもしれないが、決して、不死ではなく、ただの兵器でもなく。

 それこそ、ささいなことで笑い、幸せを感じるだけの、ただなんとなく日々を過ごす人達なんかよりずっとずっと人らしい人だと思うのは。

 俺が、この舞鶴で生まれ育った、親艦娘派だからなのだろうか。

 

『──お前が見た、ニュートラルな』

 

 だからそんなの。艦娘達と一緒に育った俺には、到底不可能な話だと、思わないか。

 

「……荷物、持ちますよ」

「あら、いいの?」

「女性に荷物を持たせたとあっては、男の面目が立ちません」

「……うふふ」

「な、なんですか」

 

 さっきは身動きひとつとれず、情けないところを見せたが一応毎日筋トレはしているのだ。重そうな方をひょいと奪うと、なぜか彼女に笑われた。

 

「貴方みたいな紳士(ジェントルマン)がいるなら、日本もまだまだ捨てたものじゃないわね~」

「いや、このくらいは普通でしょう」

「艦娘は兵器よ?」

「……意地悪しないでください」

 

 ぼりぼりと頭を書きながら、ちょっと気まずくて視線をそらす。きっとこの人は、俺がちょっとビビっていたのもお見通しなんだろうな、と思いながら、えいやっともうひとつの荷物も奪う。

 

「あら?」

「艦娘、艤装外せばただの人、です。海軍基地ですか? あ、そうだあそこに行くなら寄っていきたいところがあるんですが」

 

 チィーと透き通るような高い蝉の鳴き声が聞こえる。空を見上げれば、まだまだ太陽は空に留まったまま。夏が来たな、と感じるもの。蝉の声、雲の形、軒先で揺れる風鈴に、精肉店にいつの間にか設置される音のうるさい扇風機。それから、それから。

 

「はぁい、お任せします」

 

 腰をかがめ、笑いながらこちらを上目遣いで見上げる、美しい女性──。

 いや、違うな、違うか。それにしても。

 夏の陽によく映える人だな、と思った。

 

 

 がさごそとさらに重くなった荷物を両手に引っ提げながら海軍基地の入り口に向かうと、門前に三人の小さな女の子達がいた。

 そのうちのひとり、目にも鮮やかな桃色の前髪に左へ向けて白い二本のラインが入った独特な桜の髪飾りをつけている、そのなかでは比較的年上に見える女の子が、俺の隣にいる(ちか)さんを見て、微かに目を見開いた。

 

「……あれ、あた……(ちか)さん?」

「知ってる、ヒト? でっち」

「いやだからそれで呼ぶんじゃ……はぁ、もういいか……」

 

 彼女の後ろの陰に隠れるようにして、外国人形のように可愛らしい女の子が少し癖のあるイントネーションでぼそぼそとその子に話しかけると、どこかうんざりした様子で彼女がため息をついた。

 そんな二人の様子を見比べ、そしてその横で所在なさげに立っているもうひとりの女の子を見やって、(ちか)さんが声をかける。

 

「そっちの二人は見ない顔ね?」

「は、はい! 陸軍所属、三式潜航輸送艇、通称まるゆであります! よろしくお願いいたします!!」

「あ」

「陸軍?」

 

 びしっと敬礼を決めてさらさらと自分の正体を教えてくれた、ひときわ小さい、首にゴーグルをかけた少女に(ちか)さんは思わず固まり、そしてなにも知らない俺は首を傾げた。

 

「このバカ! 一般人に素性晒すバカがどこにいるんでちか!!」

「あいたぁ!!」

 

 スパァン! といい音をたててその子の頭をひっぱたいた女の子の声に、聞き覚えのある声だと思ったところで、あ、と無線の娘だと気づく。

 無線の娘は、じとっとこちらを睨み付け、低く言い放った。

 

「……お兄さんはなにも聞いてない、いい?」

「え? え?」

「さもなくば息の根を止めるでち」

「はい!! 忘れました!!!」

 

 とんとん、と自身の首に手刀を当てて、命はないと真顔の幼女に脅される恐怖、プライスレス。

 

「こほん、気を取り直して。今日は豪華ね?」

「あー、二人の歓迎会も兼ねてるから……」

 

 俺からビニール袋を受け取り、はい、と愛さんがその子に渡すと、がさごそと音をたてながら三人が袋の中を覗く。

 

「ゆー、肉食うでちよ、肉」

「にく」

「ただでさえほそっこいんだから……これ食べて大きく育つでち」

「そだつ」

「わ、わ、これ結構いいお肉なんじゃないですかゴーヤさん……?」

「新人はそんなこと気にしなくていーの」

 

 ゴーヤさんの言葉をおうむ返しする少女と、あまりの豪勢さに思わず恐縮する少女の頭をぽんぽん、と軽く叩きながら。

 

「新人は目一杯もてなされるのが義務だよ」

 

 と、ゴーヤさんは微かに笑った。

 

「ゴーヤちゃん達、仲いいわね~」

「面倒みさせられてるだけ」

「へや、いっしょ。でっち、いい、ヒト」

「あら~」

「だからそれ……」

「わ、私だって補習に付き合ってもらってますよ! ゴーヤさんは、いい人です!!」

「オメーは補習にひっかかるなでち」

「いひゃいいひゃい!!」

 

 わいわいがやがやと盛り上がる女の子達に少し置いてけぼりをくらっていると、遠くからおおーい、と声が聞こえた。

 

「あれ、イクだ」

「結構早かったわね」

 

 ゆったりとした足取りで、両手に大きなビニール袋を提げたイクさんがこちらに近寄ってきた。

 

「なにそれ」

「スイカ」

「いやそれはわかるでち……」

「なんか……もらった。いる、(ちか)さん? 二玉おばあちゃんの息子さんからもらったのね」

「あら、いいの?」

 

 スイカを一玉受け取って、(ちか)さんがにこにこと笑う。

 はっちゃん達は? 定刻通りならそろそろ。お酒はどうしようか。イヨとヒトミが秘密基地からとっておき持ってくるって……なにこれ。花火ももらった。できる場所あったかな……。

 

 わいわい、がやがや。女の子達が、楽しそうにこれから開く歓迎会について語る。そこには、目の前には確かな実体を持った、彼女達がいた。

 そうして気づけば、カシャ、とシャッターをきっていた。

 その微かなシャッター音に、反射的にじろりとこちらをにらんだゴーヤさんに今撮った画像を見せる。

 

「いきなりシャッターをきってすいません、いい絵だな、と思って」

「許可なしで撮影するのは盗撮と変わんないよ」

「すいません、今後気をつけます。撮ったものはすべて提出させて頂いて、不快に思うものがあれば削除させていただきます。……あの、事後報告で申し訳ないのですが、こちらの写真を記事に使ってもいいですか?」

「これ? なんの変哲もない写真だけど」

「だからいいんです」

 

 ぐるりと、写真に写っている娘達に写真を見せて、最後にもう一度ゴーヤさんに見せる。

 黙って判決を待っていると、はぁ、と長いため息と共に、ゴーヤさんが重い口を開いた。

 

「この写真で、どんな記事にするの?」

「そうですね……とりあえず完成したら皆さんに見てもらいます、そしてこちらの責任者の許可がおりなければ、記事にもしないとお約束します……あ、あと忘れないうちに」

 

 自分の足元に置いておいたビニール袋の中の紙袋を取り出す。そうしてごそごそと袋を開いて、彼女達に見せると、一拍置いて。

 

「……やべぇ幻のハーゲン○ッツでち!!」

「あ、期間限定あるの、もらい」

「こらイク!!」

「Häagen-○azs?」

「発音いいですね! ドイツが発祥でしたっけ」

「いや、発祥はアメリカのニューヨークだったはずでち」

「なんでも知ってるのね……」

「スイカを先に食べるか、アイスを先に食べるか……それが問題です……!」

「アイスなんて液体だからノーカンノーカン、スイカは冷やして鍋の後に食べるでち」

「のーかん!」

 

 わぁ、と黄色い歓声があがったのち、何味を食べるかで揉め出した彼女達であったが、その様子はどこか楽しそうでもあった。うちの新聞社のとっておきだ、流通制限がないことはないので、たまにコネで手に入るやつを予め上司に頼んで少し取っておいてもらったのだ。ああ、やはりなんだかんだいって年頃の女の子達なんだなと思ってると、こっそりと愛さんが寄ってきた。

 

「中々心得てるわね」

「将を射らんとすれば、まず胃袋から、です」

「ちょっと違わない?」

 

 くすくすと笑いながら、それで? と彼女が聞いてくる。

 

「記事のタイトルは決まったの?」

「うーん、そうですね……」

 

 これで、いいのだと思う。今俺の目の前で、実体を伴って笑い、喜ぶ彼女達をありのまま書けば、きっとそれは、誰かにとっての実体のある、血の通った艦娘という存在になる。

 何がニュートラルだとか、正直なところはわからない。それでも、俺が感じた、俺が思ったこと、書きたいことを通して、誰かの心が動くことになるのだとしたら。

 

「お手柄、艦娘。本日の収穫は甘味なり、ですかね」

 

 きっとそれは、意味があるものだと。そう、思いたいのだ。

 

 

 




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