世界の片隅の、とある艦娘達のお話   作:moco(もこ)

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機械人形は笑わないのネタバレを含みます、読む際にはご注意ください。
ビスマルク視点による機械人形は笑わない前日譚及び後日譚。


ドイツより来たりて(呉鎮守府:グラーフ、ビスマルク)

 ふくよかな体を揺らしながら、綺麗にととのえられた白髪を一撫でして。

 

「やっぱりビスマルク君は頼りになるねぇ」

 

 にこにことドイツ海軍所属の提督(admiral)であり私の上司である彼が執務机越しに話しかけてきた。規律を重んじるドイツ海軍において厳めしい人達が多い中、このちょっと小太り気味の我らが提督はいつも柔和な態度とちょび髭の形を崩さないことで有名である。

 

「そうでしょうそうでしょう」

「こんなに難しいと言われてる日本語の習得が早いとは思ってなかったなぁ」

「そうでしょう、もっと褒めてくれていいのよ?」

 

 彼のその態度に鼻高々に答える。こうやって彼は人をよくおだてる。そういうのが好きな私は、それを受けて悪い気などするはずもなかった。

 

「よっ、ビスマルク君かっこいい、ドイツ一~」

「もーっと褒めてもいいわよ!」

「我がドイツ海軍の期待の星! これならどこに出しても恥ずかしくないねぇ、日本とか」

「そうでしょうそうで……うん? 今なんて?」

 

 最後にぼそりと呟かれた言葉がよく聞き取れず、聞き返す。

 

「あのね」

「はい」

「日本に行ってくれる?」

「はい……はい?」

 

 条件反射で頷いてしまってから、思わず首を傾げる。

 

「日本とね、ようやく話がまとまって。技術者数人と艦娘二人をね、こちらから送ることになったんだよ。いやぁ、助かるよぉほんと、皆日本語がネックでさぁ」

「それで最近日本語講座だとか、日本語習得で給料アップとか色々やってたわけ……?」

「あ、お給金はちゃんと上乗せするからね、安心してね」

 

 モラハラ、パワハラ、セクハラで訴えられたくはないからねぇ~とのらり、くらりと会話を続けながら、予め用意していたのだろう、件の書類をこちらに寄越してきた。

 

「技術開発部からも一人ね、艦娘が日本へ行くから」

「技術開発部ぅ? あそこ、辛気臭いやつが多いから苦手なのよねぇ」

「そんなこと言わないの、今回は君達だけなんだから、日本に行く艦娘は」

「そうは言っても……げっ」

 

 まだまだ技術発展途上のドイツにおいて、艦娘は主に二つの部門に所属がわかれる。ひとつが私の所属する実戦機動部隊。一般人のイメージである艦娘はこっちだろう。そして、もうひとつ。技術開発部。この部署は主に新たな艤装開発、試作型艦娘艤装のデータ収集を中心に活動をしている。そこに所属する艦娘は有り体に言ってしまえば実験体だ。外部との接触もあまりなく、いつの間にか消えていく──そういった仄暗さを合わせもつ部署。実戦機動部隊であるこちらとはほぼ関わりがない。それでもその中で、ひとり。有名人がいた。

 

「……機械人形(autonomer roboter)

 

『また不具合か、何がいけないんだ』

 

 一度だけ遠目で見たことがある。史実では未成艦として実現しなかった、グラーフ・ツエッペリンの艦娘に選ばれた彼女を。試作段階であるため、どうやら不具合を起こして大怪我を負っていたようだったが、技術者達はその状態に頓着することなく結果を見て不平を溢す。いやいやその前に早く治療してやりなさいよ、と眉を潜めて件の彼女を見やると。

 

『──』

 

 大量の血の海の中で。その大怪我に眉ひとつ動かすことなく、そんな自身にまるで興味がない技術者達になんの感慨もないかのような視線を向けていたのだ。正直に言うと、ぞっとした。だってそうでしょう? 怪我を負ったらうめき声なり悲鳴なりあげてのたうち回るのが普通だ。あんな扱いを受けたら怒りを感じていいはずだ、なのに。静かにそこに佇み、その瞳にはまるで何も映っていないかのよう。のちに彼女が噂の機械人形(autonomer roboter)であると知って合点がいった。

 

「……仲良くね?」

 

 にっこりと笑いながらそう念を押す提督(admiral)。そもそも日本語以前に誰も引き受けてくれなくてねぇ、いやぁ助かるなぁと懐からボイスレコーダーを取り出して先程の会話──思わず了承してしまったときの会話を再生する彼を見て。あ、これまたハメられたわ、と思わず頬がひきつるのであった。

 

 

 ずび、と鼻を啜りながらここ、ちょうど高台になっていてドイツ軍港を一望できる小高い丘で人を待っていた。鼻を啜っているのは冬に差し掛かり少々寒くなってきたこの気候のせいではなく。日本への渡航を言い渡されて一週間。出港まで後二時間。あまりにも故郷に別れを告げる心の準備をするのには短すぎた、特に愛しの妹と別れるのには。

 手すりに寄りかかってぼんやりと港を見下ろす。まさか轟沈以外でこの軍港に別れを告げることになるとはついぞ思っていなかった。なぜ軍が最近日本語に力を入れているのか。疑問に思うことはあれど、とにかく目立ちたがり屋である私は深く考えもせず、皆を出し抜いてあっと言わせてやろうと裏でせっせこつこつと日本語の勉強を続け、最終的にこのような栄誉を授かってしまったのである。ビスマルク姉さまのそういうところ、尊敬してるけど嫌いです! とプリンツには泣きながら怒られた。ぐうの音もでない。

 

「──ビスマルクか?」

 

 またちょっぴり先程の別れを思い出してセンチメンタルな気分になっていると、後ろから落ち着いた声が聞こえてきた。そういえば声を聞くのは初めてだ、存外綺麗な声をしている、と振り返ると、そこにちょうど思い描いていた人物を見つけた。厚手のコートに身を包み、手には黒皮の手袋を嵌めて。目深に被られた帽子の下から、紫色の瞳がこちらをじっと見つめていた。

 

「そうよ。初めまして、グラーフ・ツェッペリン」

 

 そう言って手を差し出す。それをしばらくじっと見つめていた彼女は、徐にこちらに歩み寄ってきて──

 

「……ちょっと、喧嘩売ってるの?」

 

 握り返すその仕草に思わずムッとする。ドイツ人にとって握手は挨拶の基本だ。初対面の握手で相手の印象が左右されると言ってもいい。だから初対面はお互い力強く握手を交わし、すぐには放さずに会話を少々続ける、それが一般的だ。特にこの人と仲良くなれそうだな、と思えばぐっと力を入れて相手の手を握る。それが友好の始まりの合図なのだ。

 だというのに、こいつは。触れるか触れないか程度の弱々しさで握り返してすぐに放した。すなわち、私なんかと友好を育む気はないということなのだろう、と考えて思わず抗議の声をあげたのだ。

 

「……」

 

 じっとこちらを見返す瞳にはなんの感情も浮かんでいないように見えた。ええい、やりづらい。私は自分が直情的であることを理解しているがゆえ、こういう輩が苦手であると自覚していた。それでもこれは仲良しごっこではなく仕事だ。栄えある戦艦ビスマルクとしてやれること、言うべきことは言ってやるわよ。

 しばらく黙ってグラーフを見つめていると、ようやく彼女がその重い口を開いた。

 

「……すまない。言い訳にはなるが他意はないんだ、ただ」

「なによ」

「……力加減が、わからないんだ」

「はぁ?」

 

 予想だにしない言葉に思わず素っ頓狂な声がでる。そんなこちらの様子も意に介さず、グラーフは淡々と続けた。

 

「資料は読んでいるだろう。私は痛みがわからない。だから、相手が痛いと思うほどの力をかけたとしても気づけない」

 

 先天性無痛症。事前に渡された書類に記載されていた彼女の体質。馴染みのない言葉だったので軽く調べたが、どうやら痛みを感じることができないらしいということまではわかった。わかってはいたけれど、それが真に何を意味するのか。こうやって彼女の口から説明されるまでイマイチ実感できないでいた。

 

「艦娘になるとどうやら一般人よりも断然力が強くなるみたいだな。……以前、人を助け起こそうとして。腕を握りつぶしかけた」

 

 そう言って少しだけ表情を緩める。それは微かに笑っているようでいて、そうではないような。どこか、諦めにも似たような感情が混じっているように思えた。

 

「それ以来人との接触を断っている。だから人に触れるのも、触れられるも慣れていない。さらに言うなら、苦手だ」

 

 そう言って自身の右手に視線を落としながらきゅ、とそれを握り込む。

 

『──何考えてるかわかんなくて、ちょっと怖いよね』

 

 そりゃあ遠目であの姿を見たときは私も薄ら寒ささえ感じたけれども。今私の目の前にいるこいつはどうだ。私が怒れば反応を返す。真摯に答える。

 

『被弾しても眉ひとつ動かさないんですって。まるで殺戮兵器よね』

 

 今になって腹が立ってきた。あんなどうしようもないゴシップを鵜呑みにしてしまっていた自分自身に。

 

「だから、極力接触は最低限の業務連絡に抑えよう。その方がお互いのためだろう」

「……はぁ!?」

 

 そう、有り体に言えば私はむしゃくしゃしていたのである、自分自身に。だからそんなことをほざいたこいつに声を荒げたのは完全なる八つ当たりなのだけれど、ついつい私は怒りのまま言葉をそこにのせてしまった。

 

「あなたが人に触れられるのが苦手なのはわかったわ。でもそれとこれは話が別でしょう」

 

 びしっと人差し指をそいつの胸に向けながら語気荒く言ってやる。もう失礼だなんだという配慮は一切なかった。そんな私の様子に少し押されてグラーフが目をしばし瞬かせる。その様子にふん、と鼻で息をつきながら腕を組んで言葉を続けた。

 

「大体ねぇ、こっちはただでさえ愛しの妹と離ればなれで人恋しいのよ、雑談くらいは付き合いなさいよ」

 

『ビスマルク姉さまぁ~!!』

 

 つい先ほど愛しの妹、プリンツ・オイゲンと涙ながらに別れてきたところなのである。涙ながらに一時間ほど抱擁し合っていたがそれでも足りない。絶対にすぐに私も日本に行きますぅ~! と泣きながら溢していたプリンツの姿を思い起こし、鼻の奥がつんとなるのを感じて慌ててふんぞり返ってごまかした。

 

「……君は、私の噂を知らないのか」

機械人形(autonomer roboter)でしょ? まぁ痛みがわからないって知った今ではくだらない噂よね」

「……」

「感情がないってわけでもないでしょう。それに」

 

 そこで言葉を区切って彼女を見返す。彼女は視線を逸らさない。きちんとこちらと会話する意思を一応は見せている。根が真面目なんじゃないかしら、きっと他人の気持ちを無下にできないやつなのだろう。

 

「……なんだ」

「こうやって私の会話に付き合ってくれるくらいには、人を嫌ってるわけでもないでしょう?」

「……」

 

 黙り込むグラーフを見て、それを肯定と勝手に受け取って会話を続けた。

 

「要はあなたに触らなきゃいいんでしょ? 簡単じゃない。他に気をつけることは?」

「それを聞いてどうするんだ」

「? サポートするに決まってるじゃない。たった一人の同郷の仲間でしょう?」

 

 呆れるようにそう言ってやると、グラーフはふと息をついて。ゆるゆると首を掻きながら呟く。

 

「……ビスマルク」

「なによ」

「君、よく人に騙されるだろう」

「なんで知ってるの!?」

 

 エスパー!? あ、もしかして提督(admiral)、書類になんか余計なことでも書いたわね!? と慌てるこちらを、なんとなく、そう。若干呆れるような表情で見ながら。

 

「……いや、なに。人が良すぎるのも考えものだな、と」

「褒めてる? けなしてる?」

「両方だな」

 

 そう呟いて手すりに寄りかかり、グラーフは黙って静かに海を見つめた。それを横目に、私も手すりを背にしてもたれ掛かりながら空を見上げる。相変わらず空は厚い雲に覆われている。日本の冬は、どんなものだろうか。この時期は太陽が恋しくて仕方がなかったが、いざ故郷を離れると思うとこの曇天さえ惜しまれた。

 しばらくそうして互いに黙っていたが、何の気なしにぽつり、と言葉を溢してみればグラーフもぽつり、と返事をする。そんな言葉の応酬をしばし繰り返した。元来自分はお喋りな方だとは思うが、存外この会話のテンポも悪くはないな、とぼんやりと思った。

 

「あ! そうだ、言い忘れてたけど!」

 

 ふと先ほどのやり取りで一つ文句を言い忘れていたのを思い出してがばり、と身を起こす。

 

「私はドイツが誇る戦艦ビスマルクよ。あなたがちょっと力加減間違えたくらいで死ぬほどやわじゃないわ。そこんところ、勘違いしないでよね」

 

 全力で握り潰そうとしたって問題ないんだから、と続けながらふんぞり返る。

 

「あなた、私が相方でよかったわね。文字通り大船に乗ったつもりでバンバン頼ってくれていいのよ!」

 

 ふふん、と鼻息荒く胸を叩いて言い切る。それを聞いたグラーフは、また何を考えているのかよくわからない瞳をぱち、ぱちとゆっくりと瞬かせながら。

 

「……君は」

「なによ?」

「……話してて、気が抜けるな」

「どういう意味よ!?」

 

 そうして私が噛みつくのをのらり、くらり、とかわす。その、ドイツの軍港出港前のやり取りが。私達の関係の始まりだったのだ。

 

 

 椅子の背もたれに頬杖をついて、こっちを見向きもしないそいつに話しかける。

 

「なーんか、最近アカギと距離、近くない?」

 

 第一士官次室(ガンルーム)。基本的に談話室、食堂などが艦種ごとに分かれている呉において、唯一艦種関係なく集まって雑談できる休憩室。最も、駆逐艦の娘は他の艦種と同席なんて畏れ多いとあまり近寄らないから、専ら空母や戦艦、巡洋艦が使っているのだけれども。

 

「……そうか?」

 

 ぺらり。こちらを見ることもなく手元の新聞をグラーフがめくった。最近は漢字の勉強に新聞を読むようにしているらしい。私はごめんこうむる、夕張から借りた漫画を読む方が何倍も楽しい。

 

「この前手を繋いでたの見たわよ」

「それくらい普通だろう」

「触るのも触られるのも苦手な誰かさんにとって? 普通なの?」

「……」

 

 じとーっと見つめていると、さすがに気まずくなったのか顔を上げた。

 

「……あれはな」

「なによ」

「練習だ」

「なんの」

「……人と、触れ合う、的な」

 

 わーめっちゃくちゃ歯切れ悪い。視線も泳いでる、珍しいから暫くこのままじと目で見つめてやろう。

 

「……なにを怒ってるんだ?」

「怒ってないわよー」

「……」

「興味ないな」

「……」

「日本の艦娘なんて、どうでもいい。どこに行ってもやることは変わらないだろう」

「……おい」

「なーによ」

 

 ばさり、と新聞を机に置いてグラーフがこちらを睨みつけてきた。

 

「あれっ、は、な……!」

 

 ……わ、めっずらし。彼女の頬が仄かに赤く色づく。怒りからくるものだとしても珍しいけれど、これはそんなもんじゃなくて。

 

「アオバァ────!! シャッターチャンスよ!!」

「なっ」

「呼ばれて飛び出て青葉ですぅー!!!」

 

 カシャシャシャと小粋のいい音が響き渡る。こいつの照れ顔なんて今度いつ見られるともわからない、ととりあえず叫んでみたものの本当に近くにいるとは思わなかった。スライディングをかましながらベストショットをかっさらった青葉に思わず駆け寄る。

 

「でかしたわ、いい仕事するわね」

「いやいや恐縮ですぅ」

 

 今度の一面はこれで決まりね! と二人でわはは、と笑っていると。ゆらり、と座り込んでいた私達に影が落ちた。と、同時にぐわしっ、と頭を鷲掴みにされる。ちょっとまってメリメリって音が聞こえる、いくら私がかっこよくて強い戦艦ビスマルクでもちょっと加減してくれないかしいだだだだ!!! 

 

「……消すのは貴様らの命か、その写真のデータか。選ばせてやろう」

 

 その顔、深海棲艦に向けるにはちょうどいいかもしれないけれど、仲間にみせるようなもんじゃないわよあだだだだ!! 

 

「頭潰れる!!」

「強くてかっこいい戦艦ビスマルクなら例え脳漿が飛び散ったとしても問題ないんだろう」

「表現がグロテスク!!」

「消しました! 消しましたから!!」

 

 念入りにカメラのデータをチェックされようやく解放された青葉は、しょんぼりした様子で第一士官次室(ガンルーム)を出ていった。うん、でもカメラ握り潰されなくてよかったわね、こいつならやりかねない。

 

「油断も隙もない」

「そう? でも今までならどんな時も隙なんて見せなかったでしょう?」

「……」

 

 口数は多くないけれど喋ればそこそこに面白い。意外と聞き上手。付き合ってみればグラーフとは存外に馬が合った。それでも、彼女をここまで変えることは私には恐らくできなかっただろう。お互いに余計なことには干渉しない、そういう付き合い方をしてきた。それが今さらながらに少し寂しくもあり、悔しくもあり、それでいて。

 

「ねぇグラーフ」

「なんだ?」

「好きな食べ物なに?」

「最近はサバの味噌煮だろうか」

「……甘味は?」

「ヨーカンだな。前にアカギがくれたマミヤのヨーカンはうまかったぞ」

「あなた、日本のがあってるんじゃない……?」

「そうか?」

 

 あの薄暗い施設の中から。こいつがここに出て来られて本当によかったと思うのだ。

 グラーフさん、と赤城が寄り添う。それを皮切りに飛龍、蒼龍を初めとする空母、なにやら楽しそうに隙を探っている川内や、尊敬の眼差しを向けながら寄ってくる駆逐艦達。いつの間にか彼女は人の輪の中にいて、そして徐々に徐々に。彼女は赤城に対してだけではなく皆に対して歩み寄りを見せていた。

 

「……ねぇグラーフ、握手をしましょう」

「なんだ、藪から棒に」

「練習よ。最初があんなだったでしょう?」

 

 だから、ここいらで一丁私達も歩み寄ってもいいんじゃないかしら。そういった意味も込めて手を差し出した。

 

「……」

 

 それを黙ってしばし眺めるグラーフ。そして。

 

「……あだだだだ!!!」

「痛いか」

「わざとでしょあんた!?」

 

 いつしかの時のように思いっきり手を振りほどいて噛みついた。

 

「戦艦は頑丈なんだろう?」

「頑丈だけども!!」

「最初が、あんなだったからな。それが私の答えだ」

 

 そう言ってグラーフが薄く笑った。笑顔も、以前より柔らかくなったように思う。きっとこの茶目っ気も本来の彼女から来るものなのだろう。

 ドイツ人にとって、握手は挨拶の基本だ。初対面の挨拶が第一印象を左右するといっても過言ではない。だから、特にこの人とは親しくなれる気がする、と思ったら。力強く握りしめるのだ、それこそ痛いくらいに。

 

「……待って、だまされないわよ。あなたアカギにはこんなことしないでしょう」

「するわけないだろう」

「即答したわね!?」

 

 私はドイツの誇るビスマルク級超弩級戦艦ネームシップ、ビスマルク。このいけしゃあしゃあとしているこいつ、グラーフとは。仕事仲間であり、まぁ、なんていうのかしら。そう、親友というよりかは悪友、なんて表現がもしかしたらお似合いなのかもしれない。

 

 

 


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