時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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ハマーン様を持ち上げては落としていくスタイル(ゲス顔)




女帝と赤い彗星

 オアシスの町でジオンの残党とつなぎを取ることに成功したガランシェールは早速その支援を受けた。船が飛び立てるようになるのももう間もなく。衛星通信装置の修理は一足早く完了していた。

 

 そのガランシェールのブリッジで現在、三者の会談が行われている。一つはガランシェールのクルーたち。もう一つはガランシェールに助力したジオン残党軍。そして最後の一つは衛星通信により繋がった宇宙のネオ・ジオンだった。

 

 それぞれの勢力から集まっているのは以下の通り。ガランシェール船長のジンネマン、ジオン残党軍からは、ヨンム・カークス少佐とロニ・ガーベイ少尉。そしてフル・フロンタルとアンジェロだ。そしてその会談ももう間もなく終わりを迎えようとしていた。

 

『私は宇宙に拠点を置くネオ・ジオンを預かっている身だ。一年戦争以来地球でゲリラ活動を続けてきた君たちに命令する権利はないよ』

「では、止める権利もないと理解してよろしいのですね?」

『マハディの意思を継ぐものに加護あれと』

「ジーク・ジオン!」

 

 ジオンらしく敬礼とかけ声を持って会談を締めると、ジオン残党軍の二人はガランシェールのブリッジから出て行った。静まりかえったブリッジでこれまで黙っていたジンネマンが口を開いた。

 

「大佐……よろしいのですか? ダカールのことといいこれでは……」

『キャプテンの危惧は分かる。だが彼らはずっと待っていたのだ。止まった時の中で。人は待つことにもなれてしまう。そのまま待ち続けることも出来ただろう。だが時は流れ始めた。ガーディアス・ビストの手によって。放っておけばそれは千々に乱れた濁流となる。そう思わないか、キャプテン? ハマーンの遺産を持つ彼らが暴走すれば厄介だ。そうさせないためにガランシェールにはもう一働きしてもらいたい』

 

 ジンネマンの問いに対するフル・フロンタルの回答はもっともらしいものだった。けれどその言葉を額面通りには受け取れないと感じたのか、その真意を探るようにジンネマンは強い視線を向け続けていた。

 

『ふむ……ハマーンの遺産と言えば、ガランシェールには今、あのキュベレイのパイロットがいるのだったな?』

「ええ……」

『そのパイロットから話は聞いたんだろう?』

「はい。年齢はおそらく17~18の少女。ハマーンと名乗っています。大佐の推測通りハマーン・カーンのクローンで姫様の専属の護衛だと。ただ我々もシャア・アズナブルから姫様の守りを託されてそれなりに経ちますが、そのような専属の護衛の存在など聞いたことがありません。大佐の方では何かご存じですか?」

『いや。私も初耳だ。あるいはこのタイミングで穏健派が用意したのかもしれんな』

「そうですか…………後、報告することがあるとすれば……強化処置は受けていないようです」

『なるほど……ハマーン由来のNT能力だけで十分だと踏んだか。あるいは強化してバランスが崩れることを恐れたか…………もしくは特殊な用途だったのか……そうだな。是非一度会ってみたい。この場に呼んでくれないかな、キャプテン』

「…………承知しました。少々お待ちを」

 

 そう言うと、自ら呼びに行くべくジンネマンはブリッジを出た。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 離陸に向けて補給物資の積み込みに忙しいガランシェールのクルーたち。バナージもハマーンもそれを手伝っていた。あまり戦力になっているとは言い難かったが。ハマーンはあまり腕力が無く一度に運べる荷物には限りがあった。

 

 そしてバナージは目のやり場に困りながら作業をしていたからだ。その原因は隣で作業をしているハマーンにあった。作業しやすいように二人ともつなぎ姿なのだが、砂漠の暑さもあり前のジッパーを大きく開け放っている。

 

 つなぎの下には肌着として着ているシャツ一枚だけ。肌に張り付くそれは、華奢な体つきのくせにそこだけは豊満なハマーンの双丘をまったく隠してはくれなかった。ノーマルスーツ越しのシルエットで何となく分かってはいたがハマーンはかなりスタイルが良く、それがバナージにとっては目に毒だった。

 

 同じく積み込み作業をしているガランシェールのクルーたちもチラチラとハマーンの胸元を覗いているのが分かる。NTとしての洞察力でハマーン本人が気づいてくれればとも思うが、残念ながら男たちの邪な気持ちにはセンサーが働かないようだった。

 

 摂政として、アクシズのアイドルとして、男女問わず憧憬の対象になっていたハマーンは周囲の注目を集める事になれきっていた。故に一々そんな視線に気を払っていては切りが無く、むしろ無頓着になっていたのだが、そんなことバナージは知るよしもない。結果視線が引き寄せられては理性で引き戻すという無駄な視点移動を強いられ、そのことがバナージの作業効率を落としていた。

 

 そして今もハマーンから視線を外し彼女とは反対方向。ガランシェールのタラップへと足をかけた。と、同時にガランシェールのエアロックが開き、人が二人出てきた。前を歩くのは褐色の肌にウェーブのかかった青黒い髪の娘。歳の頃はバナージやハマーンよりやや上くらいだろうか。上は旧ジオンの士官服を襟まで隙なく着こなしているが、下は土地柄かキュロットを履いていて、裾から褐色のほっそりとした脚がのぞいていた。

 

 バナージの前を通り過ぎようとした時に彼を認識し話しかけてきた。バナージは一瞬息を呑む。そのエキゾチックな整った容貌もあるが、何よりその瞳がオードリーと同じく美しいエメラルドだったから。

 

「あなたが角割れのパイロット……箱の鍵ね。期待しているわ」

「鍵……?」

 

 シニカルな笑みを浮かべ意味深な一言を述べると、バナージの戸惑いにも構わずそのままタラップを降りていった。そしてハマーンの後ろ姿を認めるとそちらにも声をかけた。

 

「あら? ガランシェールにも私と同じ年頃の女の子がいたのね」

「……なにか?」

 

 その声に振り返ったハマーンは声の主、ロニ・ガーベイと向き合う。その顔を見て眉を顰めた。

 

「あなた……どこか見覚えがあるような? ねぇ、私たち以前にどこかで会ったことないかしら?」

「いや。私のほうには貴様に覚えなどないが? 初対面だろう」

 

 だが、ハマーンはすげなく返した。おそらくロニの方は未来の自分を報道か何かで見ていたのだろうと分かってはいたが。

 

「そう…………ねぇ、あなたの名前って———」

「お嬢ちゃん! ちょっといいか!?」

 

 どこか納得いかない顔のロニはなおもハマーンに構おうとして。その声を遮るようにハマーンを呼ぶ声が響いた。ガランシェールのエアロックから顔を出したジンネマンがハマーンを手招いている。

 

「失礼。キャプテンに呼ばれたのでな」

「え? ええ……」

 

 これ幸いとハマーンは会話を打ち切り、小走りにタラップを駆け上がるとジンネマンについてガランシェールの中へ消えた。一方のロニも「仕方ない」と溜息を着くと、もう一人の旧ジオン士官服の男と共にルッグンヘと歩いて行った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『ほお……これはこれは』

 

 ジンネマンに呼ばれてガランシェールのブリッジへと顔を出したハマーンを待っていたのは、モニターに映る二人の男。フル・フロンタルとアンジェロだった。アンジェロは敵意の籠もった眼差しを、フル・フロンタルは興味深そうな視線を投げかけてきている。そして最初に口を開いたのは仮面の男だった。

 

『お嬢さん、お名前をうかがってもよろしいかな?』

「ふん。貴族趣味は上っ面だけか。どうやら礼儀を知らんとみえる」

 

 話を切り出したフル・フロンタルに対して強烈に撥ね付けるハマーン。それにアンジェロが「貴様ッ」っと激高するが、フル・フロンタルが手で遮って押し留めた。その一連の茶番をハマーンは冷めた目で眺めている。

 

『アンジェロ、今のはレディに対して礼儀を欠いた私が悪い』

 

 フル・フロンタルが仮面を外す。その上で改めて名乗った。

 

『私はフル・フロンタル。現在ネオ・ジオンの首魁を務めている』

「……ハマーンだ」

『忙しいところ申し訳ない。あなたとは一度どうしても顔を合わせて話をしてみたくてね。キャプテンにお願いしてお呼びだてしてしまった。どうか許して欲しい』

「能書きは結構。貴様が今言ったとおりこちらも忙しい身だ。さっさと用件を述べるがいい」

『貴様! 黙って聞いていればどこまでも増長してッ! 大佐がお優しいのをいいことにッ!』

 

 アンジェロがまたも激高して口を挟むがハマーンはそちらを見もしない。そしてわざとらしく溜息をついて見せた。

 

「はぁ。飼い犬の躾もろくに出来ぬ男と話をせねばならないのか。さすがに気が滅入るな」

『な、ななな……』

 

 ハマーンから痛烈な揶揄が飛ぶ。悪質なことにアンジェロを出汁にしてその主を面罵して見せたものだからアンジェロとしては立場がない。あまりの物言いにアンジェロは口を開くも言葉になることはなかった。その様を見て相手方モニターから見えない位置にいるフロストなど必死に笑いを堪えていた。

 

『アンジェロ……少し下がっていてくれ』

 

 主の命令に、憤懣やるかたないという顔をしながらも渋々と画面外へ下がっていくアンジェロ。

 

「お優しいことだ。私なら飼い主の会話を遮ることを忠義と勘違いしているような駄犬は即放逐してしまうがね」

『彼は彼なりに精一杯尽くしてくれている。そう苛めないでやってくれ』

「何を言っている? 貴様の駄犬のことなど私が知ったことか。私は一貫して飼い主の器量を責めているのだよ」

『これは手厳しいな』

 

 もはやアンジェロの顔は真っ赤に染まり、その表情は顔芸の域に達していた。ジンネマンは必死に顔が歪みそうになるのを堪えながら、一刻も早く画面の外へ消えてくれと本気で祈っていた。

 

「もうよい。時間がないと言っている。さっさと本題へ入れ」

『ではそうさせていただこう。ハマーン嬢、君はハマーン・カーンのクローンということでいいのだろうか?』

「答える必要性を認めんな。そんなもの貴様の好きに考えれば良かろう。クローンだろうと他人のそら似であろうと大した差はあるまい。私も一々喧伝する気はない」

『ふむ。では少なくとも君はジオン側の人間であると考えていいのだろうか?』

「Yesだ」

『では、なぜ我々ネオ・ジオンと宇宙において戦闘を行ったのだろうか?』

「それがミネバ様の命だからだ」

『なぜ姫様は君にそのような命令を?』

「さてな。今のネオ・ジオンにラプラスの箱とやらを渡してはならぬと仰せだったが……案外貴様のことが嫌いなだけだったのかもしれんぞ?」

 

 丁々発止のやり取りが続く。ブリッジクルーが驚くことにこの少女は赤い彗星の再来と呼ばれる程の男を相手に一歩たりとも引くことはなかった。

 

『……姫様がそのような個人的な感情で動かれるような方だとは考えたくないな』

「いやいや。むしろさすがはミネバ様。まさに慧眼だと思うぞ。私としても貴様のような俗物と組むなど御免被るところだ」

『ふむ……一つ個人的な質問をしても構わないだろうか?』

 

 フル・フロンタルの確認に好きにしろとばかりに顎をしゃくって答えるハマーン。おそらく画面の外ではアンジェロが怒りに悶絶しているところだろう。

 

『宇宙での戦闘中から不思議に思ってはいたのだが、なぜ私は君にそこまで嫌悪されているのだろうか? 確かに不幸な巡り合わせから君とは幾度か矛を交えたが、そんなものは兵家の常だろう。その他で君とは特に接点がなかったと思うのだが』

「しれたこと。貴様の存在自体が今すぐにでも消し去りたいほど許しがたいのだよ」

『それはなぜ?』

「そうだな。貴様のような世界を否定したいだけのがらんどうが赤い彗星を気取っているのが許せんのだよ」

『…………つまり私が赤い彗星を僭称しているのが気にくわないと?』

 

 フル・フロンタルは眉を顰めながら問いただす。それにハマーンは明快に答えた。

 

「そうだ。その二つ名、貴様如き愚物が騙っていいほど安くはないぞ」

『ほぉ……』

 

 仮面の男はそのハマーンの一言に面白がるような笑みを浮かべた。それは嫌悪する男に嗤われたようでハマーンの癇に障る。

 

「何が面白い?」

『いやなに。君がまるでシャア・アズナブルに思慕を抱えているような物言いをするのでね』

「…………?」

 

 二人の話がなぜか噛み合わない。そこでフル・フロンタルから確認を取ることにした。

 

『うん? 否定せんのかね?』

「あれはジオンのNTの先頭に立ち、先駆者として道を示した男だ。特に否定する必要性を認めんが」

 

 そのハマーンの答えに、仮面の下で見えないものの心底驚いているように感じた。そして驚きはやがて嗤いへと変わる。心底おかしいというような哄笑が通信を介してガランシェールのブリッジへ響いた。

 

「どういうつもりか。無礼であろう!」

 

 目を細め、仮面を睨み付けながら怒りを露わにするハマーン。その様にフル・フロンタルはなお嗤いを大きくした。

 

『いや失礼。君の言葉があまりに意外だったものでね』

 

 ハマーンはどういう意味だ、とばかりに肩眉を上げる。

 

『まさかハマーン・カーンのクローンと思われる相手からシャア・アズナブルへの賛辞を聞かされるとは……思いも寄らぬ事が起きるものだ』

「貴様、何を言っている?」

『不思議かね? ここにいる大半は私の感想に賛同してくれるものと思うが。そうだろう? なにせ君のオリジナルとシャア・アズナブルは憎悪しあっていたはずなのだから。それがクローンの方はシャアを慕っているように見える。これには皆、驚きを禁じ得んだろうさ』

「なん……だと……? 私と大佐が憎しみあっていた……?」

 

 フル・フロンタルの言葉にハマーンは呆然としてしまう。

 

『まあ君ではなくあくまでオリジナルの話ではあるが。もともとの関係性は知らんが少なくともアクシズが地球圏に帰還して以降は激しく反目し合っていたはずだ。実際クリプス戦役の末期にハマーン・カーンはシャア・アズナブルを散々に叩きのめしているし、シャア・アズナブルも決起に当たってはハマーン・カーンをこき下ろしている…………まさか知らなかったのかね?』

 

 話を黙って聞いていたハマーンの顔色は茫然を通り越して真っ青になっていた。その様子に気づいたフル・フロンタルが声をかけると、我に返ったハマーンは「失礼する」とだけ言って、ブリッジを飛び出した。

 

 

 ブリッジを後にしたハマーンは近くの一室へ飛び込んだ。備え付けの端末にスイッチを入れ目的の情報を漁る。そうして一つの映像に行き当たったハマーンはずるずるとその場に崩れ落ちた。

 

『ザビ家一党はジオン公国を騙り地球へ独立戦争を仕掛けたのである。その結果は諸君らが知ってる通りザビ家の敗北に終わった。それはいい。しかしその結果地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった。これが難民を生んだ歴史である。ここに至って私は人類が今後絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである。それがアクシズを地球に落とす作戦の真の目的である。これによって地球圏の戦争の源である地球に居続ける人々を粛正する!』

 

 モニタの中では金髪をオールバックに撫でつけた男が赤の衣装に身を包み、演説を行っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

『それでは姉は地球に降りたと?』

「あくまでハマーン・カーンに似た少女、です」

『……そうでしたね。すいません。少々逸っていたようです』

 

 地球軌道上を周回するネェル・アーガマの通信室。ダグザとコンロイはそこから地球へと通信を繋いでいた。相手はネオ・ジオンの穏健派、セラーナ・カーンだ。先の低軌道上での戦闘の結果、ハマーンという少女がどうなったのかを話していた。

 

『その少女がどこに降下したかは分かりますか?』

「いえ……ただおそらくは袖付きに身柄を押さえられたものと思われます」

『フル・フロンタルに、ですか?』

 

 姉かもしれない少女の行方に顔を顰めるセラーナ。

 

「申し訳ありません。大気圏突破に際して貨物船に偽装した袖付きの船に取り付かざるを得なかったようです」

『偽装貨物船……ガランシェールですか』

「ご存じなのですか?」

『ええ。船長のジンネマンは道理をわきまえた慎重な人物です。フル・フロンタルとも一定の距離を保っているはず。滅多なことにはならないとは思いますが……』

「そのジンネマンとやら、どのような男なのでしょうか?」

『一年戦争からの勇士で、クリプス戦役の折、シャア・アズナブルからミネバ様の身を託された人物です。ミネバ様への忠誠も厚く、さりとて言うべきことは言える男でした。ミネバ様が合流されるのに合わせて今のネオ・ジオンに参加していて、フル・フロンタル派というわけではありません』

「なるほど。であれば確かに」

 

 フル・フロンタルという危険な人物にそうそう利用されるということもなさそうだと、一旦会話が途切れる。そこでダグザは間を持たせる意味も込めて別の話題を振った。

 

「ところでセラーナ次官。そう言えばなぜあなたはシャアの派閥に加わらず穏健派へと加わられたのでしょうか? やはり姉君の影響ですか?」

『そうですね。確かに強硬派だった姉がああいうことになってしまったからというのはあります。それに亡き父の志を継ぐ意味も。でも一番大きいのは……単にシャア・アズナブルが嫌いだったからかもしれませんね』

 

 その言葉は冗談めかしていたが瞳に浮かぶ憎悪は本物だった。ダグザにとっては意外なことに。

 

「そうなのですか?」

『ええ。あの男は最低のクソ野郎でした。正直死んでくれて清々しています』

「…………」

 

 続けてセラーナの口から飛び出したのはその顔に似合わぬどぎつい台詞だ。ダグザは返す言葉もない。

 

『ご存じですか? 当時16歳の小娘に過ぎなかった姉をミネバ様の摂政に、アクシズの指導者へと推挙したのはシャアなのですよ』

「それは、はい」

『当時のアクシズは穏健派と強硬派の内紛で揺れていました。その上、総督である父が亡くなり、すぐにでも両派閥をまとめ上げるための象徴が必要だった。そこで白羽の矢が立ったのが、アクシズのジャンヌ・ダルクが如き扱いを受けていた姉でした。上層部でどのようなやり取りがあったかは知りませんが、その話を持ってきたのが一年戦争のトップエースとして両派閥からとして一目置かれていたあの男です。アクシズで赤い彗星と言えば女子の憧れの的でした。ご多分に漏れず姉もね。その憧れの相手からの申し出を断れるわけもありません。けれどあの男はもともとアクシズに嫌気が差していたのか、さっさと地球圏へと去りました。姉が摂政の座に着いてわずか二ヶ月後のことです。それ以降二度とアクシズに戻ることはありませんでした。この時点で既に私にとっては許しがたいことですが——』

 

 そこで一度話を切ったセラーナは憎々しげに顔を歪めた。語るのも汚らわしいと言わんばかりだ。そうして続けた。

 

『グリプス戦役でエゥーゴのクワトロ・バジーナとしてアクシズに同盟を求めてやってきたあの男は、当時のミネバ様の様子を見て姉を激しくなじったそうです。よくも偏見の塊に育ててくれたと。全ての責任を小娘に押しつけて逃げた男が恥知らずにもよく言えたものです。そして極めつけは第二次ネオ・ジオン抗争時のあの演説。姉をその死後までご丁寧に嬲ってくれましたよ』

 

 セラーナは大きく溜息をついた。

 

『シャア・アズナブルは責任というものを解さない男でした。その時の気分であっちにフラフラこっちにフラフラ。態勢が悪くなればすぐ逃げ出す、やり遂げるということをしないクズです。そのような男に取り込まれた強硬派になど属する気には到底なれませんでしたね』

 

 と、ここまでで吐き出すだけ吐き出したのか、セラーナは顔を手で覆い、話をハマーン・カーンへと戻した。

 

『そんな男に生け贄として捧げられたのが姉です。身内の贔屓目を差し引いても、指導者として、政治家として、あるいはモビルスーツのパイロットとして才気豊かな人でしたが、残念ながら男を見る目だけはなかった。それに冷徹な指導者として振る舞ってはいましたが、一方で少女っぽさがいつまでも抜けないところがありました。繊細で潔癖で。未熟な初恋に延々と固執したりね。それがあんな悲劇的な最後になってしまった原因でしょうか』

 

 セラーナが語ったハマーン像はあの少女と多分に重なるところがある。そう考えながらダグザは地球へと降りた少女を思い起こしていた。

 

 ———バナージ。彼女を守ってやれよ。

 

 彼の希望に向かって心の中でそう呼びかけるのだった。

 




セラーナ「ロリにバブみを求める野郎はクズ。はっきりわかんだね」
赤い彗星「ふぁッ!?」




今話の後半を書くために、CDA13・14巻とかZのシャアの動きだけを羅列してみたんですが、
「っはーなんすかそのクソ野郎。クソオブクソじゃないですか」
って某会計風の感想になりました。
こんなん絶対セラーナさんブチ切れやろう。
ということで大佐にはかなり厳しめな内容に。
全世界の大佐ファンには申し訳ない。

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