【本編完結】原作に関わりたくない系オリ主(笑) IN ダンまち   作:朧月夜
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「うん、それでそれで」
「そうですね、沢山の人と出会いました」
「うんうん」
「それに沢山の人の死を見ました」
「……うん」
「……沢山の人を殺しました」
「そっか、それでキミは何か見えたのかい? キミが目指した英雄とは何か、とか」
「……多分、いまも分かってません」
「うん」
「でも、それが正解かなんて僕にはわからないけれど……でも」
「うんっ」
「生きている限り、正しいと信じる物があるなら、進み続ければいいんだっ! その想いだけが今も僕の胸の中にあるんです」
「うんっ!」




原作に関わりたくない系オリ主、まさかの覚醒? えぴろおぐ

「ご、ごめんよエイナ君」

「ごめんなさいエイナさん……」

「もうしわけありませんエイナ様……」

 

 ギルドの一室に呼ばれたヘスティアファミリアの面々。

 主神とリリルカ、そして新メンバーの春姫は殊勝な顔でエイナ職員に謝罪をしていた。

 その前でエイナ職員は腕組みをし、端正な顔のコメカミあたりに盛大な青筋を浮かべて立っている。

 

「で、団長であるライト氏はどう思ってるんです?」

 

 エイナ職員はキッ! と部屋の隅を睨む。

 そこにはいつものニンジャスーツ姿のライトがいた。

 

 するとライトは華麗に空中に飛び上がると、グルンと前宙をし、エイナの前に着地した。

 そして目で申し訳なさを表す。

 若干潤み、だが忙しなく泳ぐ、そんな風に。

 縋る様な様子が痛々しい。

 

 そしてそこから一気に5歩下がると共に、ニンジャパンツの膝上15センチの所をつまみ、股関節のやや下まで引き上げた。

 すかさずライトは右ひざから地面につけ、左もすぐにおいかける。

 そのまま手は自然と地面につくが、彼の両手は綺麗なハの字になっている。

 この間ライトは、常にエイナ職員の目を見ている。

 

 そこから一気に頭を床上1センチの所まで下げるっ!

 気が付くと何故かメンポは無くなっており、彼の綺麗な銀髪は乱れている。

 何とも必死さが伝わるようだ。

 

 これが土下座である。

 古き良き日本の伝統。

 相手に対し最大級の誠意が込められた最高の謝罪である。

 背中のぴしっとしたラインは、和の心、つまり凛とした様子を表してる。

 エイナ職員はその姿に思わず息を飲んだ。

 

「エイナ職員、本当に申し訳ない」

「ら、ライト氏、そこまでしなくてもっ、頭をあげてくださいっ」

「………………」

「こ、困りますッ! 頭をあげてくださーい」

「………………」

「ほんと、困るんです。ほら、立って下さい、気持ちはわかりましたからっ」

 

 そうしてエイナ職員はライトの肩に手を触れ、立ち上がる様に促した。

 ライトはそんなエイナを涙を浮かべた目で見あげながら、とても申し訳なさそうに立ち上がる。

 ギルドの固い床での土下座のせいか、足がプルプル震えてもいた。

 

「ま、まあ、今回の件で首謀者であるライト氏も反省しているようですから、これで不問としますっ。ですが、これからは気を付けてください、いいですね!?」

「はい…………」

「ではこれで……」

 

 そう言ってエイナ職員は部屋を出ていこうとする。

 まだ頭を下げながら申し訳ない顔をしているライト。

 

「………………」

 

 エイナは何度か振り返るが、ライトの申し訳ない顔を見て苦笑い。

 そして彼女が部屋を出た。

 

「カ~~~~~~~~~~~ペッ!!」

 

 ライトが憎々し気に唾を吐き捨てたのである。

 

「「「えっ!?」」」

 

 そして唖然とするヘスティア以下二人に向かって清々しいまでのドヤ顔を見せた。

 

「見たか? これがDOGEZAだ。あの堅物のエイナでもあっさり許しただろう? 今回はちょーっとはしゃぎ過ぎたけど、別にそこまで悪い事した気がしねえ。つまり、こういう不本意だが社会的に謝罪を求められた時にするオレの国での伝統的な作法がこれなのだっ! いいか? きちんと唾を吐く所までが土下座だからな? これにはかなりの鍛錬がいる。お前らも精進するんだな」

 

 そう言ってライトは足早に部屋を出ていった。

 

「流石はライト様です……あれが伝統……春姫の国にも通ずる物がありましたッ」

「いやいや、いやいやいや、春姫君、騙されてるよ! あれただの逆切れだからね!?」

「そうですよ。ちょろすぎませんかね春姫さんは……」

 

 結局メンバーが増えようと、いつものヘスティアファミリアであった。

 因みに何故エイナに呼び出され長い説教をされたか。

 

 それは春姫が新メンバーとして竃の館にやってきた。

 その日はミアのところからこれでもかと豪華な料理を取り寄せ、盛大な歓迎会が行われた。

 

 全員が酔いで正体不明になり、ライトが勢いのまま腹に変な顔を書いて踊り始め、宴は最大級の盛り上がりを見せた。

 その時ふと、ライトは思い出した。 

 

 ────そう言えば昼間、ヘルメスの野郎からサンダル貰ったんだ。

 

 そう、ヘルメスがライトへの落とし前の証として寄越した空飛ぶサンダルである。

 これは魔力を通す事で自由に空が飛べるという素敵アイテムだ。

 

 そしてライトは早速飛んでみた。

 凄まじいスリルと爽快感。

 屋上から奇声をあげて空に飛び出したライトは、グルングルンと宙返りを繰り返し、そしてまた屋上に着地。

 

 それを見たヘスティア達が自分も飛びたい! と大騒ぎ。

 なら来い! とライトは順番に抱き上げながら空中遊泳を始めた。

 それは結局数時間にも及び、その間空には半裸のニンジャと半裸の娘達が「FOO↑」だの「ヒャッハーーー!」だのと叫びながら飛んでいたのである。

 

 当然静まり返った深夜にこのばか騒ぎだ。

 近隣住人からの苦情がギルドに寄せられた。

 結果、ヘスティアファミリアがギルドから呼び出しを喰らったのである。

 

 まったく、残念でも無いし当然の結果である。

 とは言えライトは一切悪びれる事も無く、今度はどこで飛ぼうかなんて考えていた。

 あまつさえ、ヘルメスからあと5足程奪えば、空飛ぶサンダルのアクティビティでガッポガッポ稼げるとほくそ笑む。

 

 全然懲りないライトにヘスティアは、「この前のカッコいいライト君はどこに行ったんだい!?」と涙目になったものだが、リリルカが深いため息と共に、慈愛の表情でヘスティアの肩を叩いたのである。

 

 ────諦めてください^^

 

 そう、このファミリアで一番精神年齢が高いのは、リリルカ・アーデその人なのかもしれない。

 

 

 ★

 

「ふぁ……おはようございます……」

「おはよう! 春姫君! ほらこっちだよこっち」

「はぁい…………」

 

 歓楽街での騒動から10日程経ったある日、ヘスティアファミリアの一員として溶け込みつつある春姫だったが、如何せん遊郭での生活習慣のせいか、朝が弱かった。

 ライトの「もう着付けの面倒な和服はええやろ」の一言で、赤を基調としたガーリーな服を身に着ける様になった彼女だが、如何せん自慢のブロンドからアホ毛が何本も飛び出ている。

 ヘスティアに手招きされ、大きなダイニングテーブルに座ると、渡されたパンを咥えたまま、春姫は座った姿勢のまま二度寝に移行しそうになっている。

 

「ハル、しゃきっとしろ。今日はオレについてくるんだろうが?」

「!!! はいっ!」

「やりゃ出来るじゃねえかポンコツ狐」

「むう……」

 

 羊皮紙に目を落したままコーヒーを啜るライトに窘められ、春姫の狐耳がへにょりと垂れる。

 

「まあまあライト様、その内なれますよって」

「まあ、ええけど」

「うー……ライト様がなんか怖いですよ?」

「あー、この人が仕事モードの時は大概こうなんです。ま、朝は我慢してやって下さいな。お昼頃になればいつものライト様に戻りますよっ」

「はい……」

 

 そんな眷属たちの様子を眺めながら、ヘスティアは嬉しそうにくすくすと笑った。

 ライトは派手な活動こそしていないが、現在のヘスティアファミリアとして動いている事業はいくつもある。

 それ故、ライトはそちらに手いっぱいなのだ。

 こうしてファミリアが一堂に会する朝食の時間も、一分が惜しいとばかりに書類を見ている。

 

 ライト本人は”なんで異世界に来てまでリーマンやってんだオレ”と密かにボヤくも、善意で何かをしてもはいそれで終わりとはならない。

 手を出したなら責任は持たねばならない。

 

 立場的には明らかに経営者なのだが、実務を賄える人材がリリルカしかいない以上、経営者兼従業員にならざるを得ない。

 つまるところこれが、彼が常々ボヤくマンパワー不足であった。

 投資事業に踏み出した切っ掛けも結局はコレだ。

 溜まる一方の金貨をどう足掻いても回せない。

 

 貧乏ファミリアから見れば贅沢な悩みだろうが、現実ここで金の流れを止めているのも事実。

 結果立ち上げた事業だが、これがとにかく反響がでかい。

 ライト的にはそろそろギルドに丸投げしたい所だ。

 

 オラリオにおける借金とは、現代の金融業の様なシステムは無い為、いいところ個人間融資レベルだ。

 後はパトロンの様な流れもあるかもしれない。

 なので当然利率などの規制も無い訳で、貸し手側が圧倒的に立場が強い。

 とは言えダンジョン産の魔石を一手に管理しているギルドがその業務を行うのがいいのだろうが、ギルドだってそこまで人材を割く余裕も無いのだ。

 

 そんな時にライトの法人は成長の見込みさえあれば商売の初期費用と運用コストを投資と言う形で得られる。

 そりゃ皆飛びつくに決まっている。

 

 ライトは思う。

 圧倒的な信用を持つヴァリス金貨があるんだから、最後までやれよギルド。

 出来んだろもっとガチな銀行業をよお! と。

 

「んじゃいくかハル」

「はいっ! えっと、私はどうすればいいですか?」

「んー特にねえけど。この鞄を持つか」

「はいっ!」

 

 良い時間になったとライトは出かける事にした。

 赤いタイトなワンピース姿の春姫がその後を追う。

  

 それを見ながらリリルカは思わず笑ってしまった。

 春姫の様子が、狐と言うより飼い主に懐く子犬に見えたからだ。

 

「んじゃそろそろリリも出ますかね」

「いってらっしゃいリリルカ君」

「ヘスティア様はもうでますか?」

「ボクはもう少し後かな? 屋台のメンテナンスがあるみたいでさ、午後からしか出せないんだ」

「わかりました! では洗い物はリリが後でやりますので、水に浸けといてください!」

「わかったよ~」

 

 そうしてリリルカもスーツ姿で飛び出して行く。

 現在のリリルカは主にポーションと武器販売の集金と、注文を受ける仕事をライトから任されている。

 本人も満更じゃなく、今では自分の裁量で在庫の管理をし、クライアントとの交渉も行っている様で、やる気に充ちている。

 今までの彼女の生い立ちを考えれば、どんなきつい仕事も幸せに思うらしい。

 そんなブラック社員まっしぐらなリリルカであった。

 

 さてのんびりと通りを歩くライトと春姫。

 今日のライトはビジネスモードなので、ニンジャではなく黒いスーツ姿だ。

 

 春姫は驚いた。

 何故ならライトが歩いていくと、見知らぬ大人たちが次々と声をかけるからだ。

 何かの商売をやっているおじさん。

 大剣を背負った大きな冒険者。

 

 ライトも声を掛けられる度に足を止め、酷く柔和な笑顔で応対する。

 そして手を振って別れてもまたすぐ誰かが声をかける。

 

 ライトは見知らぬ大人との話の最中でも春姫を呼び、「こんどうちの家族になった春姫だ。よかったら顔を覚えてやってくれ」と紹介する。

 その度に春姫は耳をピョコン! と立たせながら緊張した面持ちで自己紹介をした。

 

「んふふー」

「どうした? なんか嬉しい事でもあったか?」

「はい! 外の世界はなんでも珍しいです! それに知り合いが増えるのは嬉しいです!」

「そっか、良かったな」

「はいっ!」

 

 ライトに頭を撫でられ、満面の笑みの春姫。

 彼女はライトの後ろを跳ねるようについていく。

 

 ────ああ楽しいです。世界はこんなに綺麗なのですね。

 

 そんな風に感じながら。

 ライトの鞄を両手で抱いて。

 

 さてここで、ライトの頭の中を少しだけ覗いてみよう。

 

(クックックッ……ハルの奴は見た目も良いから人のウケがいい。いまは世間知らずだが、仕事を叩きこんでやれば……ふふふっオレが楽隠居出来るぜ……我慢だ、もう少しの我慢だっ……!)

 

 やれやれである。

 この男、中途半端に格好つけるくせに、基本はグータラしたいダメ人間なのである。

 啖呵を切って格好つけた挙句の人助け→FOO↑~気持ちいい~→ああ、仕事だりーのサイクルである。

 これが今までのライトの行動の記録だ。

 

「え、ここは……?」

 

 ライトが目的地についたのは昼には少し早い頃か。

 門の前で立ち止まったライトに春姫は戸惑った。

 

 なにせそこはつい先日まで春姫がいた場所だ。

 そう、歓楽街である。

 

 とは言え春姫にネガティブな感情は無い。

 ライトが春姫を引き抜く際、彼はイシュタルに対し後の遺恨が残らないように仁義を通している。

 故に引き抜きとは言え円満な物だった。

 

 勿論対価としたサシの酒宴があっての事だが。

 これはお互いの身辺が落ち着いたころに履行される事になっており、ライトは干からびなければいいなぁ……と遠い目をしていたものだ。

 リリルカなどはぐぬぬ……と歯噛みしていたが、事情が事情だ、流石に諦めた。

 

 さもありなん。

 イシュタルは美の女神だ。

 フレイヤもそうだが、性質が全然違うのだ。

 イシュタルの時代に男女の営みは、何というか奔放だったのだ。

 セックスに対しての価値観が現代とは違う。

 

 故にイシュタルがライトを酒の席に呼ぶという事はそう言う意味なのだろう。

 オレはっ女神なんかにっ負けたりしないっ!! と彼は言うがさてどうだろうか。

 

 それはさておき、ライトは首を傾げる春姫の手を引きながら、遊郭のある通りを抜け、イシュタルの神殿にほど近い建物に入った。

 そこにいたのは、

 

「やあライト来たね。悪いね、足を運ばせちまって」

「いいさ、気軽に外に出られる立場でも無いだろうし」

「アイシャさんっ!」

「ははっ、春姫、随分と見違えたじゃあないか」

「はいっ!」

「んじゃアイシャ、オレはちっと資料を確認すっから、ハルとお喋りがてらメシでも行って来いや」

「ありがとよ、春姫、行こう」

「はい、えっとライト様?」

「いいから行って来い。オレも結構時間かかるんだ。小遣いは渡してあるだろう? 帰りにオレが摘まめる物を買って来てくりゃいいさ。ま、旧交を温めて来いってこった」

 

 アイシャであった。

 春姫のお目付け役であり、彼女からすれば唯一頼れた姉代わりと言う所か。

 ライトは嬉しそうに語り合う二人をしっしと追い出し、春姫に持たせていた鞄を引っ繰り返した。 

 

 中から出てきたのは、イシュタルファミリアに所属はしているが、恩恵を刻まれていない女たちが作った借金の借用書に当たる物だ。

 さて、ライトはあの時、ギルドの後ろ盾を得る事で争いに介入した。

 

 その協力を引きだせたのは、ライトが個人で動いて集めたイシュタルファミリアの不正の証拠だ。

 或いは法に触れるかギリギリのグレーゾーンで動いた結果等も含めて。

 その数は相当の量だ。これには普段の気の抜けたライト像しか知らないエイナも認識を改めた程のち密さだった。

 

 これを持ってイシュタルに矛を収めさせるのがライトの目論見だった。

 フレイヤに関しては実はそれほど心配していない。

 というのも構図的にはフレイヤ側が不利だとライトは見ており、その上で彼が間に入って取りなす事で彼女のメンツが保たれたなら、フレイヤには充分利になるのだ。

 最悪オッタルを煽って有耶無耶にしてもいいし。あの男はフレイヤの為なら泥を被れる男だ、そう言う風にライトは評価している。

 

 だがこれで上手くいかなかった場合の事もライトは保険を掛けていた。

 どう足掻いても衝突は避けられない、そうなった場合の為、いまライトが机に広げている証文が生きる。

 これらはイシュタルファミリアの恩恵なしな女たちの借金の証拠だが、この債権をライトは事前に買い占めている。

 額面の80%と言う価格で債権者から買い取ったのだ。

 

 これをカタに、大量の娼婦を手に収め、イシュタルが引かないなら直ぐに娼婦たちを歓楽街から引き上げる。

 実はその根回しも済んでいた。

 

 ────これがお前らの母親を止める唯一の手段だ、だから心情的には辛いだろうが協力して欲しい。

 

 これをする為にライトは毎晩の娼館通いをしていたという訳だ。

 最悪原作の様な結果になろうと、後はガワだけ用意してやれば歓楽街は復活出来る。

 そこまでの保険をかけての、あの日のライトの行動なのだ。

 

 とは言え思ったよりも最良な形での決着となった今、この債権はもういらない。

 そこでライトはイシュタルに提案し、まずはイシュタルファミリアに債権を買い取って貰った。

 それと共に娼婦たちの借金は、今後ファミリア内でやりくりできる方法を提示。

 その内訳をファミリアで把握できるようにしたという訳だ。

 

 いまライトがいる建物は、元々は娼館だったのだが、今は使われていない。

 2階建ての石造りの物でなんの飾り気も無い物だ。

 ただここはイシュタルが歓楽街を作った時の最初の店だったという。

 なので未だ壊されず残っていた。

 

 これを娼婦達の相談所として今後は利用する。

 その所長としてアイシャが着任したのだ。

 彼女は今後、娼婦たちの抱える心配事などの相談にのり、出来るだけそれを解決する事で歓楽街の女たちのメンタルのケアを担当する。

 借金問題もこれに含まれ、常駐はしない物の、ライトはこの相談役という立場だ。

 

 ライトが今日来たのは、春姫をアイシャに会わせてやる事もそうだが、債権の引き渡しと、アイシャの業務の中で想定される問題に対してのFAQを纏めたマニュアルを渡すためだ。

 ただ時間がかかっているのは、債権の中で優先的に対応する物の仕分けが必要だからだ。

 そうして机が置かれただけの伽藍洞なオフィスの中、ライトは黙々と仕訳けを続けたのである。

 

「…………つかもう夕方なんですけど。オレのランチはいつくるんだオイ」

 

 女が集まるとお喋りが長くなるのは、オラリオでも一緒らしい。

 結局アイシャ達が戻ってきたのは、すっかりと暗くなった頃である。

 とは言え、嬉しそうな春姫の姿を見ると、結局は許してしまうライトであった。

 

 

 ★

 

 

「はぁ……うめえ……染みるわぁ……」

「はふぅ……おいしいれすぅ……」

 

 結局ライトの作業は夜までかかった。

 まあアイシャが戻ってくるのが遅かったというのもあるが。

 なのでホームで夕食を摂るのを諦めたライトは、春姫がいた遊郭の座敷を借りて一杯やっていたのである。

 

 春姫も客として来るとは思ってもいなかった様で、最初は挙動不審だったが、ここの娼婦たちは快く春姫を迎い入れ、良かったねと心から歓迎してくれたのだ。

 そんなお姐さん達に春姫も感激し、感極まった春姫が号泣するというアクシデントはあった物の、今は漸く落ち着き、運ばれてきた酒を飲んで頬を染めていた。

 

「ライト殿、おまたせいたしました」

 

 そんな声と共に襖が開く。

 入ってきたのはすっかりと遊女姿が板についたヤマト・命である。

 赤と黒の染め物をした着物が妙に似あっている。

 彼女の長い黒髪は、今は頭の上に結ってあり、朱塗りの簪で留めてある。

 

「おーすっかり板についちゃって」

「ええ、始めは春姫殿の護衛と言う事で潜入したつもりでしたが、存外ここの空気はあった様で。流石に客を取りはしませんが、配膳や給仕として雇ってもらっております。春姫殿も壮健な様で良かった」

「はい、命さん。おやすみの日は一緒にどこかにいきましょうねっ」

「ええっ、楽しみにしておりますっ」

 

 そうしてヤマトは楚々とした身のこなしで出ていった。

 その後ろ姿を見て、随分と様になってるなと感心するライトであった。

 

 実はあの日の翌日、ライトはもう仕事は終わったぞとヤマトを呼んで少なくない給金を渡し、解散を命じた。

 一応ロキに払う賠償金を立て替えたライトだが、彼らにさせるつもりだったビジネスの根回しに時間がかかる為、暫く借金は気にするなと言い含めてある。

 

 だがヤマトはそのままこの遊郭にアルバイトを決め込んだ。

 それはパスパレードの際のごたごたで、自身の装備がかなり破損したからだ。

 その修理費をダンジョンに潜らずに稼ぐなら、ここは最適だったのである。

 

 彼女は客を取らないのだが、スタイルは良いし、オリエンタルな雰囲気のする美人である。

 なので寝なくてもいいから酌をして話に付き合ってほしいという客も実際多く、こう見えて馴染の客が結構出来たというのだ。

 当然チップも期待でき、ヤマトはここを気に入ったという流れだ。

 

 問題はカシマである。

 あの男は木乃伊取りが木乃伊になるを地で行ったのだ。

 彼にライトが与えた役割は連絡員である。

 

 遊郭の客として遊びながら、事前にライトが集めたフレイヤファミリアの眷属たちの特徴を伝え、歓楽街で見かけたなら直ぐに連絡を寄越せ、そう言う仕事である。

 それはまあ、遂行できたからこそあの日のライトの突入に繋がる訳だが、お役御免となった後も、彼は遊郭通いを繰り返し、傷の癒えたヒタチにグーで鉄拳制裁をされたらしい。

 

 それはそれとして、実は彼らの主神タケミカヅチもこの歓楽街でバイトをしている。

 遊郭の裏方と言うのは存外男手が必要な仕事も実際多い。

 

 彼らは忘八(ぼうはち)と呼ばれ、その意味は仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つを忘れた人非人という意味だ。

 本来は遊郭を経営する者を指し、彼らは羽振りがよくとも、社会的な地位の低さも相まって蔑みを込めて忘八の名で呼ばれたのだ。

 とは言えそれは形骸化し、遊郭の裏方となって働く男達全般を忘八者と呼んだのだ。

 

 タケミカヅチはこの手の裏方として手伝い、その武人然とした毅然さを持って、ちょいとばかり粗相をする客から遊女を守るボディーガード的な立場にいる。

 が、アマゾネスも多くいるここではモテにモテ、それを見ていたヤマトが常に不機嫌という有様だ。

 元々ヤマトは主神にただならぬ想いを抱いていたが、彼女が報われるのはいつになるだろうか?

 それもまあ、神様にもわかるめえってとこだろう。

 

「ハル、どうだい? しがらみのない今、こうして歓楽街の夜景を見下ろした気分は」

「はい、とても綺麗です……」

「だろ? お前には牢獄でしか無かったここは、違った場所から見ればこんなにも生き生きとした街に見える。オレは、この街が大好きなのさ」

「…………はいっ」

「なあハル、こっちきて枕になってくれ。少し疲れた」

 

 いつかの日の様に春姫はその膝にライトを乗せた。

 そして彼の頭を撫でる。

 さらりとした髪がほつれ、ライトの顔が擽ったそうに歪む。

 もう春姫は孤独じゃない。

 

 そして春姫はその日、ずっとそうして窓の外を眺めていたのである。

 

 

 




幾十年、幾百年、幾千年……ベルは歩き続けた。
歩いて歩いて、時には倒れ込み。
それでもまた立ち上がり彼は進んだ。

様々な人がいた。
怨嗟、怒り、悲しみ、全てのマイナスな感情をまるで血を吐く様に叫ぶ人。
戦乱に巻き込まれ理不尽に死ぬ人。
だがベルはその果てに一つの希望を見た。
屍の積み上がったその先に。

それは光だ。全てを照らすまばゆい太陽の光。
ただそれが欲しくて、人は歩みを止めないのだと気付いた。
だから死して尚、人は営みを止めない。

ベルは答えを得た。
進み続ける自分の道が、ただ只管に求めるその道程が。
やがて誰かがそれを英雄と評するのかもしれない。
けれど自分はただ前を向いて歩き続けるのみ。

────なんだ。今までと一緒じゃないか

ベルは笑った。声をあげて。
それは賛歌だ。
己は英雄なんかじゃない。
ただ一人の人間なのだ。
だからこそ歓びの声をあげるのだ。

人間賛歌こそ最も尊い。
ならこの声は?
僕の産声だ。
ありがとう。
ありがとうみんな。
貴方たちのおかげで僕は答えを得た。

光だ。目が眩むほどの光だ!
だから僕は進もう!

  ◇ ◆ ◆ ◇

どこかの街。
石と木組の暖かい景観。

そこには小さな屋台があって、長い黒髪を2つに束ねた少女が売り子をしていた。
子供がそれを買い、ばいばいおねーちゃんと手を振り走っていく。
それを微笑みながら見送った少女は、ふとそちらを見た。

「ねえそこのキミっ! ボクのファミリアにならないか!」
「……………………」
「なんてね。…………随分と待たせてくれちゃって。でも、おかえり、ベル君」
「…………ただいまっ、神様っ」
「ははっ、子供みたいに泣いちゃって。キミは沢山の旅をしてきたんだろう?」
「はいっ、はいっ……」
「でもそうだね、うん。もうボクを一人にしないでくれよ? こう見えてボクは結構寂しがりやなんだぜ?」
「僕を、僕を神様のファミリアにしてくださいっ、もう一度」

こうしてベルの旅は終わった。
いや、彼はこれからも歩き続けるのだろう。
一度は歩んだ英雄の道。
それでも救えない命があった事を納得できなかったベル。

失意の英雄を彼の祖父は暖かく見守り、そして魂の頸木を切り離すという試練を与えた。
その呪いにも似た時間の牢獄の果てに、答えを得たベルは帰ってきたのだ。

これからの彼はもう迷う事は無いだろう。
何故なら、帰るべき場所は自分の隣に在るのだと気が付いたのだから。

冒険者ベル・クラネル

レベル1

力 I0
耐久 I0
器用 I0
敏捷 I0
魔力 I0

【スキル】

・鉄華魂(フリージア)
鉄の意思を持って歩き続ける心。
その想いが続く限り、決して心が折れる事はない
副次効果 バッドステータス無効

・神愛一途(Εστία)
試練により摩耗仕切ったベルの魂の一番底にあったのは、ただ一つ、無償の愛を己に与える神の笑顔だった。
Εστίαと共にある限り、いくらでも強くなれる。
副次効果 早熟する 


────────────────

ベル君劇場完結

ネタばらしをすれば、オリ主が現れた事で歴史が分岐した。
ベルがいる歴史と、ベルがいない歴史。
ベルは原作の通りに歴史を歩んだが、将来原作が完結しただろうさらに未来。
ベルには絶対に許容できない出来事があった。
それは愛する主神の喪失である。

英雄と呼ばれ無意識に増長していたかもしれない。
そうでなければ守れたかもしれない。
慟哭するベルにゼウスは己の権能のいくつかを放棄する事を対価に、ベルとヘスティアを最初に出会ったあの街角まで時間を戻す奇跡を起こす。
これは自分のある種の駒として試練を与え続けた己の傲慢に対しての贖罪でもあり、孫への愛情でもあった。

ただしそれは、無限とも思える無数の並行世界を彷徨い、その果てに己の中の答えが見つけられたと確信できたなら、その場所に戻る事が出来るという、相当にリスクの高いモノでした。
故にもしベルがどこかで諦めた時は、ベルもヘスティアも魂ごと消滅していたかもしれない。

そしてベルとヘスティアはあの場所でもう一度再会を果たしました、という妄想であります。
ちなみに本編でゼウスがヘルメスを動かしているのは、ベルがいない事で英雄の代わりとしてオリ主をターゲットにしたから。まあゼウスは自分でベルを飛ばしたので当然理解した上で。なのでヘルメスにはベルの事を教えていない。

最後に、オリ主に原作ヒロインと仲良くさせた上で、私にはここにベルを絡ませていい感じにする力量はございません。
なので最初の段階からベルは本編に出さない前提でベル君劇場を書いていたって感じです。
だってリリがライト様♡とかやってる姿をベルに見せたくない物。
アイズとヘスティア、リューとか色々いるかもだけど、それはそれとして、私がなんか嫌だった。

ま、そんな感じでお粗末様でした。

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