アルタラス王国を侵攻せんとする、パーパルディア皇国反乱派に属する艦隊と、防衛の為出撃した港湾都市マ・ハーヨコを母港とするマ・ハーヨコ防衛艦隊がぶつかり合う戦場に、北から1条の光線が走った。
その光線、日本皇国製収束魔力砲による砲撃は見事にパーパルディア反乱艦隊の魔導戦列艦に突き刺さり、その艦体を吹き飛ばした。
「騎兵隊の到着、だな」
「こちらアルタラス王国海軍航空艦隊旗艦【エルム・アルタラス】。我が航空艦隊はこれより戦闘に参加す」
○
時を少々戻して。
マ・ハーヨコにパーパルディア反乱艦隊接近の報を聞き付けた、アルタラス王国海軍航空艦隊は先程までの戦闘の後始末をパーパルディア皇帝派の第3艦隊に押し付けると即座に南下。
全速力でマ・ハーヨコを目指していた。
そこにマ・ハーヨコに展開する日本皇国海軍18戦隊からの情報が齎される。
「日本皇国海軍第18戦隊より入信!」
「読み上げろ!」
「ハッ!読みますッ『発【神通】宛【エルム・アルタラス】。マ・ハーヨコ防衛艦隊ハ勇猛果敢ニ敵艦隊ニ対シ突撃ヲ敢行』!!」
通信士が読み上げた内容に【エルム・アルタラス】のCICは騒然となる。
マ・ハーヨコにはそれなりの数が展開しているが、それらの艦艇は凡そ半数程度も改装が済んでいなかった筈だ。
日本の技術で改装された魔導戦列艦は一対一ならばパーパルディア製魔導戦列艦相手でも劣らないとされているがそれでも数が数だ、突撃をしたところで押し潰されるのは目に見えている。
「詳細データ来ました!!」
「内容はッ!?」
そこにデータリンクを通して、突撃に至るまでの流れと、現在の動きが共有される。
「マ・ハーヨコ防衛艦隊は18戦隊の先制攻撃による敵竜母及び、大型戦列艦の撃破による指揮系統混乱に乗じて突撃した模様!!」
「なるほど、航空戦力が展開される前に竜母を潰し。更に大型戦列艦を優先して潰す事によって指揮官級の将校を潰し、指揮系統の混乱させたのか」
「たしかにそれならば、マ・ハーヨコの艦隊が突撃すれば、混乱は更に大きくなりますか」
情報に海軍司令ボルドや【エルム・アルタラス】艦長イグノアが感心した様に何度も頷く。
実の所、最初の攻撃で偶々旗艦を潰せた事に始まる、行き当たりばったりな行動ではあったのだが、まぁ態々そんな事は伝えないので、彼等の感心は大きくなる一方だ。
「マ・ハーヨコ防衛艦隊の指揮官はタランドだったな。艦長、奴が敵の混乱を大きくする事を目的としているのはどう言う事だと思う?」
「は、つまり我々を待っているものかと。18戦隊が防衛艦隊の掩護、進路を塞がれない様にと進路前方の艦のみを選んで撃破しているのも、また我々を待っているからかと」
軍人としてでは無く、あくまでもいちアルタラス王国人として言わせて貰えるならば、そんな風に選んで攻撃するくらいなら、とっとと全部沈めてくれ。
ボルドの脳裏に浮かんだそんな考えは海軍のトップに立ち、政治の事も考えなければならない立場にもある軍人としての己が、即座に否定する。
竜母や戦列艦を吹き飛ばしておいてどうなのか?と言う話ではあるのだが、日本皇国はパーパルディア反乱派とは別に戦争状態に無く、本格的な参戦は憚られる。
というか実はそもそもからして、アルタラス王国だって、果たして国家間での戦争状態にあると言えるのかは微妙なところなのだが。
なんたって、皇帝ルディアスを頂点とする所謂現状での皇帝派をパーパルディア皇国正統政府と認識する日本皇国とアルタラス王国にとって、反乱勢力は国家では断じて無いのだから。
とは言えそのおかげで、今まで曖昧であったアルタラスが宣戦布告したのか?パーパルディアが宣戦布告したのか?と言う、日或軍事同盟の参戦要項に関する問題は解決に向かいつつあり、間も無く日本軍の本格参戦もなされるだろうと予想されるが、しかし。
「日本の参戦を待っていていい筈が無い、か」
「故にこそ、タランド提督は突撃と言う選択を取ったのかと」
戦場になっているのはアルタラスの海だ。
国家ですら無いならず者たちが蹂躙せんと押し寄せているのは、我らが故郷、我らが祖国アルタラス王国だ。
結局の所は他国である日本におんぶに抱っこなんて事が許される筈もない。
「間も無く主砲の最大射程ッ!!」
「航空戦列艦は?」
「まだ暫くかかりますッ!!」
日本皇国海軍が使用していた艦艇である【エルム・アルタラス】と取り敢えず空を航行できて、魔導砲が撃てれば良いとされた程度である航空戦列艦とでは、速力差はいかんともし難く。
仕方なく【エルム・アルタラス】が先行する形となっていた。
「待ちますか?」
「待たん」
イグノアの問いかけにボルドは即答する。
「確かに火力を考えれば、航空戦列艦を待った方が良いのは間違い無い。が、手が届く距離にいるのだ、これ以上仲間が散っていくのを黙って見ているなど出来るものか。違うか?艦長?」
「はっ、愚考でした」
ボルドは軽く頭を下げるイグノアに頷くと命令を発する。
「では艦長、我々も戦列に加わるとしよう」
「はっ!対海上戦闘用意!航海長高度下げ!戦闘高度!!」
〈〈高度下げます!戦闘高度まで降下!!〉〉
〈〈よーそろー戦闘高度まで降下!!〉〉
先ず、艦橋に命令が伝えられアルタラス島中央部の山脈を超える為、高く取っていた高度が戦闘高度まで下げられる。
「砲雷長!初弾から当てて見せろ!出来るな!?」
「お任せをッ!!」
最悪第3艦隊に当たっても、何だかんだと言い訳のしようはあった第4艦隊との戦闘とは違い、いま渦中にあるのは完全な味方艦隊。
万一にも誤射があってはならない。
「主砲砲戦用意ッ!!レーダー連動射撃!」
「主砲砲戦用意!レーダー連動射撃!」
【エルム・アルタラス】艦首に装備された127mm収束魔力砲が起動し、レーダー魔法[スサオノ]からのデータを基に照準を合わせる。
「砲撃用意よし!」
「主砲撃方始めぇ!!」
「うちーかた始めぇ!!」
➖バシュゥゥ➖
放たれた一条の光線は寸分違わずパーパルディアの魔導戦列艦を吹き飛ばした。
○
北からの砲撃で魔導戦列艦が吹き飛ぶ姿と、それを成した北の空に浮かぶ大型艦の勇姿は【シディ】のタランド達にもよく見えた。
「提督っ!!」
「間に合ってくれたかッ!!」
航空駆逐艦【エルム・アルタラス】を旗艦とする航空艦隊が全速力で此方に向かって来ているのは知ってはいたが、
だが、彼らは我々が全滅する前に来た、来てくれた。
覚悟は有った、けれど生きている事を喜ばない理由は無い。
〈〈マ・ハーヨコ防衛艦隊の奮戦に敬意を表す。後は我々に任せ貴艦隊は離脱されたし〉〉
〈〈【神通】より【シディ】へ我々にはマ・ハーヨコ艦隊脱出掩護の用意がある〉〉
空にある力強い友人達の言葉、タランドの涙腺が思わず緩みそうになる。
「ッマ・ハーヨコ防衛艦隊は離脱するッ!!【神通】に離脱支援を要請!!」
「はっ!残存艦に通達!!離脱する!!」
「マ・ハーヨコ防衛艦隊旗艦【シディ】より【神通】へ、我離脱する支援求む。繰り返す我離脱する、支援求む!」
【神通】へと離脱支援を要請した瞬間、【エルム・アルタラス】の登場に最早意地になったのか、せめてマ・ハーヨコ防衛艦隊だけでも叩こうと考えたのか距離を縮めて来ていた敵艦が、次々と降り注ぐ魔力砲の光線に捕らえられ爆散した。
更に急速に高度を落としたマ・ハーヨコ防衛艦隊の前後左右を囲う様に着水する。
〈〈【神通】より【シディ】へ、我の先導に従われたし〉〉
「了解した、貴軍の援護に感謝する!!」
こうして、最早パーパルディア製の魔導戦列艦ではでも足元出せない存在に守られて、マ・ハーヨコ防衛艦隊は悠々と戦闘海域を離脱して行く。
それでも、生き残った艦艇は【シディ】を含めたったの3隻。
残る8隻は己の役目を全うし沈んで行った。
「総員に通達、手の空いている者は皆英霊となった戦友に敬礼を捧げよ。【カクラン】と【レテム】にも通達せよ」
タランドの指示で艦を走らせる為の必要最低限を除いた生き残った兵士達は整列し、日本艦艇の隙間から見える戦場に対し敬礼する。
➖ボォォォォォ➖
その様子を見た榊准将の指示で【神通】が弔笛をならした。
それはアルタラス王国海軍臨時編成艦隊マ・ハーヨコ防衛艦隊の戦いの終わりを告げる音だった。
○
マ・ハーヨコ防衛艦隊の戦いは終わったが、【エルム・アルタラス】及び到着した航空戦列艦からなるアルタラス王国海軍航空艦隊の戦いはむしろこれからだ。
彼らはマ・ハーヨコ防衛艦隊の離脱の際、日本艦隊によって行き掛けの駄賃とばかりにボコボコにされたパーパルディア皇国反乱派の残存艦隊に襲いかかる。
〈〈敵艦隊への攻撃は【エルム・アルタラス】が主となって行う。各航空戦列艦は敵を牽制しつつ、残弾の許す限り散発的に砲撃を行え。優先は敵魔導戦列艦以下の先頭艦、後方の輸送艦は後回しで構わん〉〉
とは言え、魔力を収束して撃ち出す魔力砲を搭載している【エルム・アルタラス〉と違い、航空戦列艦が搭載しているのは実弾を撃ち出す魔導砲だ。
5隻ともに反乱派第4艦隊との戦闘で相当数の弾頭を消費しており、当然ではあるが補給をしてくる時間なんて殆どなかった。
その為、ボルドは航空戦列艦には積極的に攻撃せず敵を牽制しながら、時折砲撃を行う様に指示を出した。
航空戦列艦の残弾が少ない事を知らない敵は急速に距離を縮めたり、頭を抑える様に動く航空戦列艦の動きに大慌てとなり、次々と【エルム・アルタラス】の砲撃や航空戦列艦が時折行う砲撃によって沈んで行く。
「このまま行けば殲滅も時間の問題か」
「敵の脅威がもう如何程か下がれば航空戦列艦は着水させて、マ・ハーヨコ防衛艦隊の撃沈艦の生存者捜索をさせましょう」
「そうだな。彼等は皆勇者だ出来るだけ早く引き上げてやらねば」
ボルドとイグノアがそんな会話をしている頃、パーパルディア反乱艦隊の後方に居た輸送艦でも輸送艦隊の指揮官と、乗り込んだ陸軍の指揮官との間で話し合い、では無く罵り合いが起こっていた。
「今すぐに引き返せっ!!敵は戦闘艦を優先して狙っているのだろうっ!?ならば此方に矛先が向く前に撤退すべきだ!!」
「貴様ッ!!友軍を見捨てて逃げろと言うのかっ!?」
「逃げるとは言っていないッ!!戦力温存の為にも撤退すべきだと言っている!!」
「それを逃げると言っていると言うんだ!!」
直ちに撤退すべきだと主張しているのは陸軍の指揮官で、それを否定しているのは輸送艦隊の指揮官だ。
前者は船上では何もできないが故に、このまま反撃すらまともに出来ていない海軍に巻き込まれて戦力を損耗するのはまっぴらごめんで、後者は戦闘艦と輸送艦という違いはあれど、目の前で沈んで行っているのは紛れも無く同じ海軍の仲間だ、見捨てるなんて事は出来なかった。
だが、だからと言ってこの場に腹に陸軍将兵や、大型の生物であるリンドヴルムやら牽引式魔導砲やらを抱えた鈍重な輸送艦がこの場にいたとしても......
「何が出来ると言うんだ!輸送艦が!!貴様等がここにいて!!空に浮かぶあの敵を相手にッ!!一体何が出来るッ!?」
「くっ、だが、一矢報いる事は出来るッ!!」
「純粋な戦闘艦すら反撃すらできていない様な相手にッ!!たかが輸送艦がどうやって一矢報いる事が出来ると言うんだッ!!陸軍軍人たる俺だって輸送艦の武装が大したものではない事位知っているぞ!!」
パーパルディア皇国海軍の輸送艦の武装はほぼ無いに等しい。
基本的に水兵が扱うマスケットが30丁あるか無いかで、船によっては大型のバリスタを1基2基載せているかいないかと言った有様で、魔導砲に関しては一門たりとも搭載していない。
これは、パーパルディア海軍にとって輸送艦を活動させる海域と言うのは、既に友軍艦隊によって制海権が完全に確保された海域であると言うのが大前提にある為で、輸送艦が独自に防衛戦闘を行うなどと言った状況が発生するなどとは、一切考えられてなどいなかった。
無論揚陸もまた、ワイバーンが上空から焼き払い、魔導戦列艦や砲艦がしこたま砲弾を撃ち込んだ後に、悠々と揚陸すると言うのが彼等に持っての常識であり、強襲揚陸なんてシュチュエーションなんて全く考慮されていないので、輸送艦は本当に大勢を乗せられるだけの大型艦にしか過ぎない。
「だがなッ!蛮族相手に背を向けて逃げるなど!!」
「現実が見えんのかッ!?貴様はッ!?アレのどこが蛮族だ!!我が皇国の海軍が蛮族の海軍を屠るかの如く、我等の海軍を殲滅するアレの!どこが!!蛮族だ!?」
陸軍指揮官にとっても、認め難い光景である事は確かだ。
第三文明圏において、皇国の誇る強大なる海軍は圧倒的な存在であった筈だ。
だが、皇国海軍を絶対者せしめていた象徴の一つであるワイバーンロードを乗せた竜母は早々に排除され、哨戒に飛んでいた者を除きただの一騎たりとも竜騎士を空にあげる事は叶わず。
蛮族の軍船如きでは傷一つ付ける事など出来ず、蛮族の手の届かない距離から攻撃する事の出来る魔導砲を載せた魔導戦列艦は、突入して来た敵艦隊に翻弄され、幾らかは沈めたようだが今となっては一切の抵抗を許されず、ただ沈められて行く。
「貴官があの光景を受け入れられないのは理解できる、俺だって実際にはそうだ。だがな、我々は指揮官だ、兵の命を預かる立場にある将だ。己の感情だけで判断する事は許されん」
たとえ認め難くとも、たとえ受け入れ難くとも
それでも、指揮官として目の前の光景を理解しない訳にはいかなかった。
「ぐっうぅ.......わかった、輸送艦隊全艦に通達ッ!!直ちに反転!当海域を離脱するッ!!第5第6の残存艦にも通知しろッ!!」
「貴官の決断に敬意を表そう」
拳を血が滲む程に強く握り締め命令を発した輸送艦隊指揮官、陸軍指揮官は彼の判断に安堵した。
「安心するのはまだ早いぞ。言っておくが輸送艦の足は遅い、戦闘海域とは未だある程度距離が有るとは言え戦闘艦の数は大きく減っている。いつ奴らが此方へ喰らい付いて来るかわかったものでは無い」
「もちろん、理解しているとも。敵が、海上では何の役にも立たない我々を乗せているだけの輸送艦を、見逃してくれる事を祈るとしよう」
「ふんっ」
暗くなっている雰囲気を和らげる為か、冗談めかして言った陸軍指揮官を一瞥して輸送艦隊指揮官は操艦指揮の為離れて行った。
陸軍指揮官は離れていくその背中から目を逸らし、戦場の方へと視線を向ける。
「なに、希望はあるさ。アルタラスにとって我々は見逃しても良い存在の筈だ、それに彼方にも余裕は無いと見える」
先程までいた4隻の巨大艦と入れ替わった巨大艦は兎も角、戦列艦の様な形状の5隻は殆ど攻撃をしていない様に見える、舷側にはいくつかの魔導砲が顔を覗かせていると言うのに。
おそらく、あの6隻は北に向かった第4艦隊とやり合ってから此方にやって来たのだろう。
彼方の結果は判らないが、彼等がここに現れたと言う事は第4艦隊は負けたと言う事だろう。
幸いなのはそのおかげで、敵の残弾が殆ど無くなっている様だと言うところだろう。
まぁ巨大艦は謎の光線で次々と味方艦を沈めて行っているのだが。
「問題はルディアス帝に付いた艦隊か。帰り際に遭遇する可能性は高いが、まぁ問題無い。我々はここで生き残った、ならば
小さく呟かれたその言葉は騒がしくなった船内の喧騒にかき消され、呟いた本人以外の耳に入る事は無かった。