【完結】鶴が恩返ししないんだが   作:エタリオウ

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鷺里さんですが、実に4年ぶりの登場になります。
第1話で鷺里さんは草履を履いているのに、第5話で下駄になっていたので修正しました。誰か僕を殺してください。


12. 恋は盲目

 心に鉄球でも繋がれているかのように、足取りはひどく重かった。

 

 どうにか我が家の玄関扉を押し開け、靴を脱ぐ気力すら湧かずにその場にへたり込む。胃の奥から込み上げる冷たい不快感が、全身から急速に体温を奪い去っていくようだった。

 

 夜鳥さんが告げたのは、凰佳が僕を孤立無援に追い込み、甘い言葉で縛り付けようとしていた、ということだけだった。

 

 けれど、それだけで十分だった。

 

 誰も僕に近づかなかった理由。

 凰佳だけが当然のように隣にいた理由。

 

 優しさの形をした檻。

 そう考えてしまうくらいには、すべてが嫌なほど噛み合っていた。

 

「お帰りなさいませ、佐鳥さ――佐鳥さん!?」

 

 奥の廊下から足音が近づいてくる。

 現れたのは、雪模様の割烹着をまとった居候、大鳥鷺里さんだった。

 

 台所からは、仄かな出汁の香りが流れてきていた。

 いつも通りの夕食前の匂い。

 けれど鷺里さんは、僕を見るなり表情を強張らせた。

 

「いかがなさいましたか!? 顔色が尋常ではありません!」

「だ、大丈夫です……。ただ、ちょっと、知りたくないことを知っちゃっただけで……」

 

 大丈夫。そう言ったはずなのに、声は自分でも驚くほど頼りなかった。

 

 鷺里さんはそれ以上問い詰めず、僕の手を優しく包んだ。

 そこでようやく、自分の指先が氷みたいに冷え切っていることに気づく。

 

「まずは、お座りください」

 

 柔らかな両手に支えられ、僕は居間のソファまで導かれた。

 湯気の立つほうじ茶を前にして、ようやく少しだけ呼吸が戻ってくる。

 

 それでも、口は重かった。

 

「……今日、夜鳥さんに教えられたんだ」

 

 僕は、途切れ途切れになりながらも事の顛末を吐き出した。

 

 クラスメイトたちが僕と距離を置いていたこと。

 腫れ物にでも触れるような視線を向けられていたこと。

 

『佐鳥は、莫大な遺産と保険金を手に入れるために、自分の両親を事故に見せかけて殺害した』

 

 そんな悪評が校内で囁かれていることは、僕の耳にも届いていた。

 誰が言い出したのかなんて考えないようにしていた。

 

 それなのに今になって、その噂の向こう側に凰佳の影がちらついてしまった。

 

 凰佳なら、できた。

 僕のことを誰よりも知っている幼馴染の言葉なら、周囲は信じる。

 

 みんなが僕から離れていく中で、凰佳だけは変わらず隣にいた。

 ずっとそれを、優しさだと思っていた。

 

 そう信じていた。信じていたかったのに。

 優しさだったはずのものまで、僕を繋ぎとめるための鎖に見えてしまう。

 

 すべてを語り終えると、部屋には痛いほどの静寂が満ちた。

 

 僕は両手で頭を抱え込む。

 怒りも、騙されていた悲しみもあった。

 それ以上に、ずっと近くにあった違和感から目を逸らし続けていた自分自身が、何より情けなかった。

 

「……なるほど。事の次第は、おおよそ理解しました」

 

 ふいに鷺里さんが沈黙を破った。

 静かな声だった。けれど、薄い氷にひびが入る直前みたいに張り詰めていた。

 

 部屋の空気が、すっと冷える。

 割烹着姿のまま、刀も持っていないはずなのに、彼女の周囲だけ、抜き身の刃のような気配を帯びていた。

 

 鷺里さんは、深く息を吐いた。

 次の瞬間、部屋の冷たさは嘘みたいにほどけていた。

 

「恩人たる佐鳥さんの心を弄んだ罪は、決して許されるものではありません。……ですが、これは私の感情を優先すべき問題ではないでしょう。

 佐鳥さん、あなたはこれから、彼女とどう向き合いたいですか? どのような結末を、お望みですか?」

 

 それは極めて冷静で、理知的な問いかけだった。

 怒りを飲み込み、僕の意思を待ってくれているような声だった。

 

「どうしたい、か……」

 

 ひらがな数文字の問いが、重くのしかかる。

 

 縁を切るべきだ。当たり前じゃないか。

 そんな恐ろしい本性を隠し持っていた狂人とは、今すぐに関係を断ち切り、二度と顔を見ないのが正解だ。

 

 僕を依存させるためにありもしない悪評を吐いた。人として到底許されるものではない。

 彼女に向かってありったけの罵倒を浴びせ、完全に決別してやるべきなんだ。

 

 ――いや、本当にそうか?

 

 僕は本当に、ただ一方的に騙され、虐げられていた可哀想な被害者だったのか?

 

 その問いは、記憶の底に沈めていたものを、ゆっくりと掻き回していった。

 

 凰佳が流した『親殺し』という悪評は、動機こそデタラメだが、僕が抱えていた罪悪感の中心を、嫌になるほど正確に突いていた。

 誰も僕に近づかない。誰も僕を見ない。腫れ物として扱われ、息を潜めるように生きる日々。

 

 その圧倒的な孤独という名の『罰』を――他でもない僕自身が、無意識のうちに望んでいて、受け入れていたのではないか?

 

 両親を殺めた罪人である僕にとって、周囲から見放され、凰佳の用意した狭い箱庭に閉じ込められる日々は、あまりにも馴染みのいい牢獄だった。

 窮屈ではあった。

 けれど、それすらも心のどこかで当然の報いと受け入れてしまっていた。

 

 そうか。認めてしまえば、意外なほどしっくりとくる。

 僕たちは、歪な共依存関係にあったのだ。

 

 そう考えた瞬間、どうしても切り離せない記憶が浮かんだ。

 絶望と孤独のどん底で、不格好に握られたおにぎりと温かいお茶を持って現れたのは凰佳だった。

 

 私がずっと一緒にいてあげるから。

 泣きそうな顔で僕を抱きしめた彼女の温もりも、すべて打算の上だったのかもしれない。

 罪悪感で弱り切った僕に差し出された、猛毒の染み込んだ蜘蛛の糸。

 

 疑心暗鬼が心を蝕む。

 気持ち悪い。怖い。彼女のすべてが恐ろしい。

 

 それでも、どれほど動機がおぞましいエゴイズムで塗り固められていたとしても。

 

 ――あの時の温もりで、僕の命が繋がったという結果だけは、決して嘘にはならない。

 

 もし彼女が傍にいてくれなかったなら、僕は罪悪感と自責の念に耐えきれず、自ら命を絶っていたかもしれない。

 

 打算まみれの救済。狂気に裏打ちされた優しさ。

 僕は確かに、それに縋った。

 

「正直、凰佳は正真正銘のサイコパスだと思うし……今は顔を見るのも怖い」

 

 僕は、自分の声が微かに震えているのを感じながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「でも、僕の心が壊れずに今日まで生き延びてこれたのは、あいつがいてくれたからなんだ。それに、僕自身も……どこかで罰を求めて、凰佳の作った檻の中にいることに甘えていたんだと思う」

「佐鳥さん……」

 

 それはただの自己欺瞞かもしれない。あるいは、重度のストックホルム症候群か。

 

 騙されていたと知ってもなお、その蜘蛛の糸を手放すことができなかった。

 自分自身の弱さと未練に、自嘲の笑みを浮かべる。

 

「動機がどうであれ、凰佳が僕を救ってくれたのは……紛れもない事実だから」

 

 僕の痛切で、泥臭い吐露を聞いた鷺里さんは、わずかに目を見開いた。

 

 そして、張り詰めていた気配をふっと和らげ、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。

 

「……本当に、呆れるほどに底抜けで、哀しいほど優しいお人。だからこそ私は、この身に代えてでも貴方をお護りしたいと思うのです」

 

 そう言って、鷺里さんの柔らかな手が僕の頭を撫でた。

 

 打算も狂気も孕まない、純粋な手の温もり。

 その確かな感触に、荒れていた僕の呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻していった。

 

 すっかり温くなったほうじ茶を一口啜る。

 じんわりと広がる香ばしさに、胃のあたりが少しだけ落ち着いた。

 

 凰佳の作り上げた異常な箱庭と、そこに甘んじていた僕自身の依存心。

 それらについては、ひとまず自分の中で落とし所を見つけることができた。

 

 けれど、その穏やかな時間に縋っていられたのは、ほんのわずかな間だけだった。

 夜鳥さんが置いていったものは、凰佳の真実だけではない。

 

 黒羽美烏。鳳凰。八咫烏。そして、夜鳥雀自身のこと。

 目を逸らしたままでは、きっとまた、手のひらで踊らされる。

 

「鷺里さん。実は夜鳥さんから教えられたのは、凰佳の真実だけじゃないんです」

「と、おっしゃいますと?」

「凰佳がただの人間じゃなくて別格の鳥、『鳳凰』だってことと――もう一人、黒羽美烏についてです」

「……別格の鳥、鳳凰ですか」

 

 鷺里さんが静かに呟き、その静謐な瞳の奥に微かな剣呑さが過った。

 

 そういえば、彼女が傷ついて学校の行き道で倒れていた理由は、別格の鳥に闇討ちされたからだと言っていた。

 凰佳への異様な警戒心は、本能的に察知していた因縁ゆえだったのだろう。

 

「道理であの小娘から、目障りな気配を感じるわけです。それで? もう一人の、黒羽美烏とはどのような者ですか?」

 

 彼女はふっと冷たい気配を引かせ、先を促した。

 僕は黒羽美烏について、胸の奥に引っかかるものを一旦脇に置き、手元にある要素だけを並べていく。

 

「僕が口走った軽はずみな呪いを現実のものにして、両親の事故を引き起こした存在です。美烏っていう名前や雰囲気から、たぶんカラスの妖怪なんじゃないかとは思っていたんですが……。今日、夜鳥さんは彼女のことを『神様』って呼んでいた」

「神、ですか」

「そうです。僕の言葉を聞き届けて、両親を交通事故へと導いた神様。ただの比喩かもしれないけど、本物の妖怪がいるんだし、そういう存在もいるんじゃないかと思って」

 

 僕が提示した不気味な符合の数々を聞き、鷺里さんは静かに目を伏せ、思案するように細い顎に手を当てた。

 

「カラスに、交通事故へと導いた神……ですか。なるほど」

 

 しばしの沈黙の後、鷺里さんはゆっくりと目を開いた。その瞳には、確信めいた光が宿っている。

 

「……『八咫烏』。日本神話に名を残す、導きの神ですね。人の運命を捻じ曲げ、交通事故という因果を引き寄せるほどの力。おそらく、黒羽美烏の正体はそれでしょう」

 

 鷺里さんから告げられたその名前に、僕は息を呑む。

 

 やはり、そうか。

 僕の身勝手な言葉一つで両親が死んだというあの凄惨な出来事は、偶然などではなく、本物の神の力が介入した結果だったのだ。

 

 改めて突きつけられた冷酷な真実に、背筋が冷え、膝の上に置いた両手が震え出す。

 

 僕が殺したのだ。僕の呪いが神を動かし、両親を不可避の死へと追いやった。消えることのない絶対的な大罪。

 

 それでも。

 今は絶望に呑み込まれて立ち止まるわけにはいかない。

 

 僕は冷めかけた湯呑みを両手で強く包み込み、もう一つの整理したい議題へ意識を向ける。

 

 夜鳥雀の過去についてだ。

 なぜ彼女はあそこまで僕に執着し、異常なストーキング行為に及んでいたのか。

 

 彼女が語っていた通り、あの時の鳥かごから逃がした雀、そのものだとすれば……。

 僕のプライバシーを完全に無視した好意も、命を救われた『恩返し』だとするのなら、辻褄が合う。

 

「……腑に落ちたよ」

 

 僕は深く、長く息を吐き出した。

 

 理由のわからない好意ほど怖いものはない。

 これまで、接点もないはずの彼女から向けられる重すぎる偏愛は、ただただ不気味で恐ろしかった。

 

 だがその狂気じみたストーキングの根底に、『かつて命を救ってくれた恩人に報いたい』という純粋な動機があったと分かれば、少しは納得がいく。やり方は完全に間違っているが。

 

 得体の知れない恐怖だったものが、不器用で歪な恩返しに見えてくる。

 それだけで、心の底にこびりついていた気味の悪さが少しだけ薄れた。

 

 しかし、致死量を超える情報の連続に、僕の精神はとっくに限界を迎えていた。

 泥のような疲労感が全身にのしかかってくる。

 

「……今日はもう疲れました。頭の中を整理するためにも、少し横になろうと思います」

「ええ、それがよろしいかと。佐鳥さんのことは私が必ずお護りしますから。何も案ずることなく、安心しておやすみください」

 

 鷺里さんの温かい言葉に甘え、僕はソファに深く沈み込み、目を閉じた。

 

 そうだ、今日はもう休んでしまおう。朝からいろんなことがあったじゃないか。すべては明日の自分に任せてしまえばいい。

 

 眠気はすぐにやってきた。

 身体は休息を求めていて、頭ももう、これ以上何も考えたくないと訴えている。

 

 それなのに。

 

 沈みかけた意識の端で、夜鳥さんの笑みがちらついた。

 あまりにも多すぎる情報。あまりにも都合よく、僕をこの家に縫い止める真実。

 

 ――待て。

 

 まどろみの底へ落ちる寸前、ひとつの違和感が、釣り針のように僕の意識を引っ掛けた。

 

 なぜ夜鳥さんは、これほどまでに脳の処理能力を超えるような情報を、一気に暴露したのか?

 

 まるで、情報のスタングレネードだ。

 大量の真実を一度に叩きつけ、僕の思考をショートさせる。

 

 さらに幼馴染がサイコパスだと知った今、僕が頼れるのは鷺里さんが護るこの家だけ。

 僕が『凰佳とは心の整理がつくまで顔を合わせたくない』と強く思い、この唯一心が休まる安全地帯に引きこもることを――夜鳥雀は、計算しているのではないだろうか?

 

 そこまで思考が至った瞬間、背筋にぞわりと冷たい氷をねじ込まれたような悪寒が走った。

 

 今日の放課後、僕のペンケースを奪い去った黒羽美烏に対し、凰佳は理性を焼き切るほどの凄まじい殺意を燃やしていた。

 

 もし今、夜鳥さんが凰佳に、黒羽美烏の居場所をリークしていたとしたら?

 

 間違いなく、二人はぶつかり合う。

 そして、そのために僕というストッパーが動けない状況を作り出したのだとしたら。

 

 夜鳥さんは、凰佳と美烏の動きだけを読んでいたんじゃない。

 僕が何を知れば折れるのか。誰のそばなら安心して動かなくなるのか。

 

 そこまで含めて、最初から計算していたのだとしたら。

 

「……今夜だ。決戦は、今夜なんだ」

 

 声に出した瞬間、それは単なる妄想ではなく、夜鳥さんならやるという確信へと変わった。

 

 僕は弾かれたように目を開け、ソファから跳ね起きる。

 

 その言葉だけで、鷺里さんの表情が強張った。

 彼女は一瞬だけ目を伏せ、僕の言葉の先にある最悪の可能性へ辿り着く。

 

「……まさか。鳳凰と八咫烏が、今宵潰し合うとおっしゃるのですか?」

 

 僕が答えるより早く、鷺里さんは僕の前に立ち塞がった。

 

「だとしたら尚更いけません! 別格同士の死合いなど、佐鳥さんが踏み入って良い領域ではありません!」

 

 ――それでも、止めなきゃダメだ。

 

 小鳥遊凰佳は、僕を依存させるために孤立を誘導した、どうしようもなく歪んだ幼馴染かもしれない。

 でも、両親の死後、孤独と絶望のどん底にいた僕の心身を支えてくれたのは、紛れもなくあいつだ。

 

 黒羽美烏は、初対面で盗みをかますイカれた後輩かもしれない。

 でも、あの両親の呪縛から解き放ってくれたのは、紛れもなく彼女なんだ。

 

 どちらも、絶対に死なせていいはずがない。

 

「それでも――!」

「場所は、分かるのですか」

 

 図星を突かれ、僕は言葉に詰まる。

 

「……っ、そう、ですね」

 

 鷺里さんの冷静な言葉で我に返った。

 

 そうだ。今すぐ夜の街を駆けずり回ったところで、見つけられる保証なんてどこにもない。

 今こうしている間にも、戦いが始まっているかもしれないのに。

 

 壁掛け時計の秒針が進む音が、やけに大きく耳に響く。

 一秒進むたびに、凰佳も美烏も、取り返しのつかない場所へ近づいていく気がした。

 

 くそっ、焦るな。

 焦って動けば、今度こそ夜鳥さんの盤面から抜け出せなくなる。

 

 あの夜鳥雀が仕掛けた盤面だ。

 僕の行動パターンも、心理状態も、逃げ込む場所も、全部読んだ上で組まれている。

 なら、今度は僕が読む番だ。

 

 灰色の脳細胞をフル回転させて、頭の中を整理する。

 くだらない軽口ではなく、今度こそ本気で。

 

 鳳凰と八咫烏の殺し合いだ。

 互いに同格。しかし、相討ちとなって倒れる保証はどこにもない。

 

 僕の行動すらも掌握しようとした夜鳥さんが、そんな詰めの甘いことをするのか?

 

 いや、しない。するはずがない。

 凰佳に対して強い殺意と執念を燃やす彼女が、その可能性を考慮していないわけがない。

 

 彼女は必ず『二の矢』を用意して、戦いの行く末を観測しているはずだ。

 つまり夜鳥さんの居場所さえ分かれば、二人の場所も分かる。

 

 でも、どうやって彼女を見つける。

 あの闇に紛れる夜雀を。僕を見失わないためなら、どこにだって目を仕込むような彼女を。

 

「……っ! そうだ!」

 

 恋は盲目。

 僕のすべてを掌握しようとした彼女が生み出した、たったひとつの致命的な綻び。

 

 スマートフォンを取り出し、いつの間にか夜鳥さんに仕込まれていた『位置情報共有アプリ』を起動する。

 僕を逃がさないための鎖が、今だけは彼女へ辿り着くための糸になる。

 

 画面に、ひとつの座標が表示された。

 

「見つけた……っ!」

 

 その一点を、食い入るように見つめる。

 近くの山にある古びた神社。距離だけ見れば、決して遠すぎる場所ではない。

 

 けれど、今から僕の足で向かって間に合うかどうか。

 夜道を走って、山道を登って、その先で神話級の殺し合いに割って入る。

 

 無理だ。

 僕一人では、届かない。

 

 だから。

 

 僕はスマートフォンを力強く握りしめ、こちらを見つめる鷺里さんへと振り返った。

 

「鷺里さんっ!」

「いけません、佐鳥さん! 危険すぎます――」

「分かってます。でも、どうしても止めなきゃいけないんだ」

 

 僕は必死に止めようとする彼女の瞳を真っ直ぐに見据えて、これまでで一番のわがままを口にした。

 

「お願いです。僕を背中に乗せて、飛んでいってくれませんか」

第2回:一番好きなヒロインは?

  • 大鳥鷺里
  • 夜鳥雀
  • 小鳥遊凰佳
  • 黒羽美烏
  • 松井ぽっぽ
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