發、戦技研究本部長 ターニャ・フォン・デグレチャフ
宛、参謀本部戦務参謀次長 ハンス・フォン・ゼートゥーア閣下

初夏の候、閣下におかれましては、戦争指導においてますますご活躍のことお慶び申し上げます。
さて、厄介な敵というものはとことん厄介なものではありますが、それは何も対外的な敵に限った話のみではございません。強国である我が帝国が、現に今、世界という荒潮に飲み込まれ、世界大戦という大嵐に吹かれている船だとすれば、万が一敗戦という暗礁に、少しでもその船体を擦らせでもすれば、この船は瞬く間に浸水し、大海原に姿を消すこと間違いございません。しかしそれが、もし何らかの整備不良で隔壁が降りなかった、あるいは、応急修理用の建材をどの船倉に置いたのかわからなかったから、といった原因だとすれば、それはその船の船員たちにとっては、末代までの恥となるに違いありません。
小官はなにも、東部で気を病んで、帝国に愛想を尽かせてこのようなことを申し上げているのではございません。
我々は、変革する必要があるのです。船の作りを頑丈なものにし、大嵐をくぐり抜けねばならないのです。不幸にも我らが皇帝陛下は、ご病気を患ってお先は長くないと存じます。なれば、その時が帝国最後の好機でございます。その時に何もしなければ、今の政治屋連中ときたら、おそらくとんでもないことを言い出すに相違ありません。それでは、本日はこの辺りで失礼致します。

追伸 先日折もよく、大公女殿下に御目通りが叶いました。大公女殿下は我々と考えを同じくしていたただけるそうです。この情報が、閣下の有益となりますよう、よろしくお願い申し上げます。

1926年×月××日



帝立王立公文書館 「ターニャ・デグレチャフの書簡」より第000046号
※日付解読不能。時候の挨拶から、同年6月頃に書かれたものと推測される。

作者  https://twitter.com/hellmuth_1900
ツァーリ道派の戦友様 https://twitter.com/Patriot_Purple
  第一話 大戦略()
  第二話 マリア・アンナ・ヴィクトーリア・フォン・ハービヒツブルク2019年03月11日(月) 22:00()
  第三話 帝国前史、そして()
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