SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory11 ヘカトンケイル

 跳躍。そして墜落。

 青ざめた肌の巨体は病的なまでに体は細いが、見かけによらない超重量を持つ。

 その巨体が床に落着した瞬間、凄まじい衝撃が神殿を揺らした。

 床が砕け、飛び散る礫が冒険者たちに襲いかかる。

 咄嗟に頭を下げてそれを回避し、銀髪武闘家とリューがヘカトンケイルへと肉薄。

 巨人は吼え、背中から生える腕を伸ばして二人を迎撃。

 十数の拳を銀髪武闘家は右へ、リューは左に跳ぶことで回避。

 二人がいた場所に拳が突き刺さり、床があまりにも容易く粉砕される。

 当たれば体が粉砕されることは間違いない。銀髪武闘家とリューの額に冷や汗が流れた。

 だが二人は前へと進む。間合いに捉えねば勝負の土俵には上がらないのだから当然だ。

 二人を床を蹴り走り出す。放たれる拳を掻い潜り、ヘカトンケイルの懐に飛び込んだ瞬間、

 

「イィィィィヤッ!!」

 

「ハッ!」

 

 銀髪武闘家の拳が脇腹にめり込み、リューの木刀が足の腱を削ぎ落とす。

 

『グギ!?アアアああああああ!!』

 

 ヘカトンケイルは濁った色の血を吐きながら苦悶の声をあげ、体を痙攣させた。

 身動ぎの度にぼとぼとと音を立てて肉塊が落ちたかと思えば、肉塊たちが蠢き、内側から突き破るように手足と頭が生えた。

 それはゴブリンのようでいて、人のようでもある。醜く歪んだ、人の形をした何かだった。

 

「なにあれ!?」

 

 銀髪武闘家は驚倒の声をあげ、飛びかかってきた肉塊を殴りつけた。

 人のそれではない。不快な柔らかさと、骨の欠片で満たされたようなざらついた手応え。

 銀髪武闘家はその不愉快な手ごたえに鳥肌を立てるが、それを振り切って背後から跳びかかった肉塊に蹴り一閃。

 殴り飛ばされた肉塊は壁に叩きつけられて滲みとなり、蹴りを入れられた肉塊は体を横一文字に両断される。

 だが壁に叩きつけられた肉片はやがて一つに集まり、両断されたものも断面を押し付け合って人の形を取り戻し、動き出す。

 妖精弓手が舌を弾きながら矢を放って肉塊の頭を撃ち抜くが、止まらない。

 

「黄泉返り(ゾンビ)の類でもなさそうね!」

 

「見ればわかるよ!?」

 

 とりあえず頭を潰すというお約束(テンプレ)も通じないと嘆く妖精弓手に、銀髪武闘家の驚倒にも似た悲鳴がぶつけられる。

 迫ってくる肉塊たちを殴り、蹴り、バラバラに解体しながら包囲されないように広間を駆け回る。

 動きこそ鈍い。ただ歩き、時には小走り程度の速度で移動し、銀髪武闘家を捕縛しようと迫ってくるが、間合いに入った瞬間に肉片へと変えていく。

 青ざめた肉体は爆ぜるたびに濁った色の血をぶちまけ、彼女の四肢を汚していく。

 それが放つ強烈な刺激臭に銀髪武闘家は余計に表情を歪め、さっさと慣れろと言わんばかりに鼻での呼吸を心掛けていた。

 友人曰く、人とは慣れる生き物らしい。多少の異臭なら割とすぐに。

 

「ディィィイイイヤッ!!」

 

 加速する勢いで跳び膝蹴りを放ち、肉塊の頭部を粉砕する。

 着地も早々に再び走り出し、ゴブリンが落とした武器を拾い上げ、振りかぶり、投射。

 肉塊の片腕を抉り飛ばし、そのままもう一体の腹を貫いた。

 それでも致命傷とはならない。そもそも死体は壊すことはできても殺すことなどできないのだが。

 ふっと息を吐き、群れを成して迫る肉塊たちを睨む。

 視界の端に映るのは、妖精弓手の援護の下でヘカトンケイルと戦闘を繰り広げるリューの姿。

 迫り来る多腕を木刀で捌き、鋭い斬撃をもって異形の肉体を傷つける。

 風のように舞いながら、嵐のような苛烈さを持って異形を切り刻む様はまさに物語に出てくる森人の戦士のよう。

 だが、彼女がいくら奮闘しても状況は好転しない。

 つけた傷は断ちところに修復され、心臓とおぼしき胸部の球体(オーブ)と、それと同じ材質の仮面には傷一つつけられない。

 リューでさえもそれには瞠目するが、攻め手を緩めることなく肉を削いでいく。

 返り血一つ浴びず戦場を舞う森人の姿のなんと美しいことか。

 対する銀髪武闘家は全身を血で汚し、生者に関わらず全身から腐臭を漂わせる。

 いまだ慣れない嗅覚が与えてくる強烈な腐敗臭いに銀髪武闘家は小さく身震いしながら、それでもなお闘牛の如く暴れ狂う。

 逃走を繰り返し、群れから突出した一体を叩くやり方ではなく、自ら群れへと飛び込み、鍛え上げられた肉体を躍動させて肉塊たちを解体していく。

 殺すことはできないが、せめて次の一手(アクション)を遅延させる彼女の行動は、この状況においては最適解だった。

 悲鳴もなく、何より碌な抵抗もせず、肉塊たちは肉片となって飛び散っていく。

 半ば作業的な戦闘に、けれど銀髪武闘家の行動に澱みはない。

 周囲を観察し、死角を意識し、間合いに捉えた獲物を屠る。それを繰り返すだけの戦い、余計な感情など不要だ。

 真上から見て半月の軌跡を描く蹴りが肉塊たちを纏めて斬断し、噴き出した青ざめた濁血が雨のように彼女に降りかかる。

 銀の髪を青く汚し、髪に吸い付く水滴を振り切るように彼女は加速。

 水が飛び散る音を立てながら、一体、二体と解体速度が加速する。

 肉塊を彼女が引き付けているその隙に、リューとヘカトンケイルの戦いは苛烈さを増していく。

 放たれる拳の鋭さが増し、時には蹴り技さえも交えながら、巨体は暴れ狂う怪物から『技と駆け引き』を行使する人を感じさせる動きへと変わっていく。

 

(成長。いや、適応されている……!?)

 

 先程なら通ったはずの攻撃を腕で受けられたリューは怪物の変化をそう捉え、長期戦は不可能と判断。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤(ちりばむ)無限の星々】」

 

 ヘカトンケイルには初見となる魔法での早期決着に踏み切る。

 高まる魔力を警戒してか、ヘカトンケイルはリューを捉えんと腕を伸ばすが彼女は詠唱しながらそれらを迎撃。

 肉を打つ重々しい音を轟かせながら、剛腕を退けていく。

 それに気づいたのはヘカトンケイルだけではない。銀髪武闘家もまた彼女の必殺の発動に気付き、肉塊たちを引き連れながらヘカトンケイルへと突撃。

 リューもヘカトンケイルの撃破と共に肉塊の一層を狙い、さらに魔力を練り上げる。

 彼女が詠唱に集中できるように銀髪武闘家がヘカトンケイルの腹を蹴り付けた。

 凄まじい打撃音が広間に轟き、怪物が血の塊を吐き出す。

 リューと妖精弓手は明らかな痛痒(ダメージ)の発生に反応するが、二人の驚倒を掻き消す咆哮が広間に響く。

 

『ぐるぅあああああああ!!』

 

 憤怒に塗れた怪物の視線が銀髪武闘家に向く。

 何かをしようとしている森人よりも、鬱陶しい矢を放ってくる森人よりも、明確にこちらを破壊できうる只人を抹殺せんと殺意が爆発する。

 それに晒されながら、銀髪武闘家は笑みを浮かべて拳を構える。

 放たれる十数の拳を掻い潜り、時には拳を合わせて相殺しながら、巨体故にガラ空きの懐に飛び込み、迎撃の拳をくるりと回って避け、鳩尾に後ろ回し蹴りを放つ。

 彼女の脚が膝下まで一気にめり込み、継ぎ接ぎされた肉塊の縫い目を破壊。

 胸を蹴って離脱しながら脚を引き抜けば、肉片がこびりついた脚絆が姿を見せる。

 ぶん!と空を蹴って血払いをくれ、掲げた足を手招きのように揺らしてヘカトンケイルとその取り巻きを挑発。

 ヘカトンケイルの咆哮と共に肉塊たちが動き出し、彼女に襲い掛からんとした瞬間、彼女は彼らに背を向けて走り出した。

 恥も外聞もない、全力逃走である。

 ヘカトンケイルたちが驚き固まる中、妖精の詩が完成。

 

「『ルミノス・ウィンド』!!」

 

 数十の風纏う光球が放たれ、ヘカトンケイルとその取り巻きへと殺到。

 次々と着弾し、炸裂し、轟音と共に彼らの肉体を引き裂き、破壊していく。

 怪物の悲鳴が遺跡を揺らし、冒険者たちは思わずその耳を塞いだ。

 魔力による煌びやかな爆炎の向こうで、ヘカトンケイルの千切れた腕が宙を舞う。

 警戒を緩めず、けれど確かな手応えに息を吐くリュー。

 銀髪武闘家も彼女が起こした大爆発に煽られ、飛び散る砂塵や肉片から顔を庇いながら様子を伺う。

 

『が……あぁ……ぉお……!』

 

 ヘカトンケイルはそこにいた。

 腕の大半を脱落させ、両脚も膝下からを消失。

 腹から臓物と思われる筒状の何かを溢れさせ、濁った色の血を滝のように流している。

 己の血溜まりの上で動かず、呻くばかりの巨体に銀髪武闘家とリューは同時に走り出す。

 周囲に飛び散った肉片が這いずるようにヘカトンケイルに集まり、その肉体を再生させようとしているからだ。

 仕留めるなら今しかないと冒険者の経験が即断し、体を前へと押し出した。

 相手は瀕死。腕もなければ足もない。このまま決める。

 

『子供……惨劇……血肉……苦悶……』

 

 銀髪武闘家が胸部を、リューが首を落とさんとしたその瞬間、ヘカトンケイルが譫言のように言葉を紡ぎ、仮面の下でにたりと醜悪な笑みを浮かべた。

 直後、ヘカトンケイルの肉体が一気に膨張。二人は驚倒しながらも即座に退避を選択。

 距離を取ろうとするが、銀髪武闘家の足を地面から生えてきたヘカトンケイルの腕が掴んだ。

 腕は脱落したのではなく、そう見せかけて何本かを地中に潜行させていたのだろう。銀髪武闘家は舌を弾き、己の油断を呪う。

 

「シルヴィア!」

 

「いいから逃げて!」

 

 戻ろうとするリューに銀髪武闘家は牛飼娘と女神官、千草を示しながら叫び、リューは苦虫を嚙み潰したような表情になりながら三人の下へ。

 それを見送るのも早々に残る足でヘカトンケイルの腕を踏み砕かんとするが、さらに地面から生えてきた腕が彼女の全身を拘束し、動きを封じてくる。

 足を持ち上げることはおろか、腕を振る事さえも封じられた彼女は歯を食い縛りながら、ヘカトンケイルを睨みつける。

 そして限界まで体内に瘴気を溜めた怪物は、咆哮と共にそれを解放。

 瘴気による大爆発が遺跡を揺らし、遺跡最深部の一階部分を吞み込んでいく。

 冒険者たちはそれから逃れるように上を目指し、一人一階に取り残された銀髪武闘家は瘴気を吸うまいと必死に息を止めていた。

 爆発時の衝撃。全身を締め付けてくる骨が軋むような鈍痛。それに耐えながらいつ来るかも分からない瘴気が止まる瞬間を待つが、衝撃が腹筋を貫いた。

 

「……ッ!」

 

 凄まじい衝撃と鈍痛にそれでも息を止めたまま腹部に目を向ければ、そこには青ざめた拳がめり込んでいた。

 瘴気の向こう。何かが笑った気配に銀髪武闘家は胸中で悪態を吐いたその瞬間、ヘカトンケイルの乱打が彼女の全身に打ち付けられる。

 彼を拘束していた腕ごと彼女の体を攻撃し、鎧に阻まれようが僅かな身じろぎで受け流されようが関係ない。

 

「づッ……!」

 

 銀髪武闘家の口から呻吟の声が漏れる。吐く分には問題ない。問題ないが、酸素を一方的に消費していることに変わりなはい。

 連続する打撃音を響かせて彼女を滅多打ちにするヘカトンケイルだが、その肩に矢が突き刺さった。

 

「こっち見なさいよ、化け物!」

 

 妖精弓手が外周に沿う螺旋階段の塀に登り、そこから攻撃しているようだ。

 彼女は矢継ぎ早に矢を放つが、当たりはすれど痛痒(ダメージ)はない。

 ヘカトンケイルは鬱陶しそうに腕を振るって肉片を飛ばして攻撃し、肉の散弾から逃げるように彼女は身を隠した。

 横槍に気を逸らしていたヘカトンケイルだが、すぐに銀髪武闘家に意識を戻す。

 拘束はもう最低限しか残されていないが、酸欠に内臓にまで届く深刻な損傷(ダメージ)に膝をついていた。

 ヘカトンケイルは腕の拘束を解くと、彼女の頭を掴んで地面に叩きつけた。

 

「ッ……!?」

 

 消えかけた意識が激痛で覚醒するが、対処するにはあまりにも手遅れだった。

 ヘカトンケイルが彼女を頭上に放り投げる。

 瘴気の霧の中から飛び出した彼女を仲間たちは確かに見たが、助けるにも位置が悪すぎる。

 ヘカトンケイルが伸ばした腕が彼女の足を掴み、半月の軌跡を描きながら地面へと叩きつけた。

 

「がッ……!?」

 

 残り僅かな肺の空気を残らず絞り出された銀髪武闘家は最後の悲鳴を漏らし、無意識の内に一呼吸してしまう。

 瘴気を取り込んでしまったその瞬間、肺が焼かれるような激痛と全身を虫が這いまわるような不快感に襲われ、彼女は首を押さえながらのたうち回り始める。

 

「ぎ……!?あ!?あああああああ゛あ゛ああああ゛ああ゛……!!??」

 

 口から血を吐きながら悲鳴をあげ、その度に瘴気をその身に取り込んでしまう。

 故に終わらない。痛みは増し、体内を這いまわる不快感は増し、正気が削られていくのがわかってしまう。

 何かに頭の中を捏ね回されるような心地よい激痛に胃の内容物を吐き出し、涙が溢れ出す。

 吐瀉物に濁った色の血が混ざっていることにも、頬を濡らすのが涙だけではなく血だということにも気づけず、彼女は自分が吐き出したものの上で悶え続ける。

 ヘカトンケイルは彼女の悲鳴を聞きながら、ばらまいた瘴気と肉塊を吸い上げていく。

 怪物が現れた時と同じ事を行い、削られた破片を、吐き出した血を、砕かれた肉体を、元の形へと戻していく。

 瘴気と肉塊の全てを回収し、損傷も完治させたヘカトンケイルは冒険者を警戒しながらも銀髪武闘家の下へと向かう。

 

「ぁ……ぅ……」

 

 白い肌を痣だらけにし、濁った色の血管を肌に浮かび上がらせたまま、ピクピクと痙攣するばかりで反応しない彼女を見下ろし、トドメを刺そうと拳を振り上げる。

 意識が霞み、視界も濁る中、それを見上げた銀髪武闘家は小さく笑みを浮かべた。

 それは自暴自棄でも、絶望の果てに浮かべた笑みでもない。

 

 ──ヘカトンケイルの頭上に、黒鷲の姿を見たからだ。

 

 遺跡の三階に当たる踊り場から両手に握る二刀を逆手に持ち替え、跳躍。

 落下に身を任せ、殺意を胸の内にのみ秘めた不意打ち(エア・アサシン)が、ヘカトンケイルのうなじを貫いた。

 

『グギ!?ガアアアアアアアアア!?!』

 

 突然の激痛に巨人が吠え、背中に張りつく何者かを振り落とさんと暴れ狂い、多腕を振り回すが、彼は落ちない。

 隠す必要なないと全開にした殺意のまま、ヘカトンケイルの背に刃を突き立て続ける。

 返り血を浴び、噴き出す瘴気を全身で受け止めながら、最後の一突きがヘカトンケイルの脳天から顎下までを一気に貫いた。

 

『────…………』

 

 一度体を痙攣させ、そのまま体を倒すヘカトンケイル。

 頭部に刺した剣をそのままに巨体から飛び降りるのは、返り血で全身を汚したローグハンターだ。

 彼はヘカトンケイルを一瞥すると、急いで銀髪武闘家へと駆け寄った。

 

「おい、生きてるか!?」

 

「ぁぃ……っ」

 

 ローグハンターの心配の声に銀髪武闘家は辛うじて声を絞り出すが、顔色は悪く、呼吸も上手くできていないのかひゅーひゅーと妙な音が口から漏れている。

 ローグハンターは彼女を抱き起こしながら、毒消しの水薬(アンチドーテ)を飲ませようと彼女の口元に持っていくが、彼女は唇を震わせるばかりで口を付けることさえもできない。

 彼は急いで水薬を口に含むと、そのまま口移しで彼女へと飲ませてやった。

 こくこくと喉を鳴らしてそれを飲み込み、彼が顔を離すと少し楽になったと微笑んだ。

 それでも顔色は戻らず、息苦しそうではあるのだが。

 心配するローグハンターの元に女神官がたどり着き、錫杖を掲げて奇跡の準備に入る。

 

「あとは頼む」

 

「はい!」

 

 ローグハンターからの言葉は手短で、けれど全幅の信頼が込められていた。

 

「私がいたのに、ごめん……」

 

「気にするな。どうせあいつが何か無茶をしたんだろ」

 

 彼女の護衛としてだろう。同行した妖精弓手が謝罪するが、ローグハンターは首を振った。

 自分がいない分、何かしらの無茶をしたのだろうとは想像がつく。いつもはどこか抜けているが、やる時はやるのだ。

 それはそれとして、しばらく単独行動を禁じるつもりではあるが。

 地母神に祈りを捧ぐ女神官と彼女を守る妖精弓手に背中を向け、彼が向くのは仲間たちの方向。

 視界の端ではゴブリンスレイヤーと牛飼娘が、ベルとリュー、千草が合流を喜んでいた。

 ゴブリンスレイヤーは彼女の手を握って無事を確かめあい、ベルたちは銀髪武闘家の心配をしながらも誰かを探すように辺りを見渡している。

 自分たちも剣の乙女たちとの合流がまだなのだ。無事だといいのだが。

 ローグハンターは息を吐き、次の行動に思慮を向けた瞬間、ずん……と重々しい音が彼らの耳朶を撫でた。

 冒険者たちが一斉に構える。彼らの視線を独占するのは、倒れ伏すヘカトンケイル。

 巨人は多腕を床につき、体を起こそうともがいていた。

 己の血で手を滑らせながら体を持ち上げ、脚をつき、さらに血反吐を吐きながら立ち上がる。

 脳天を貫く剣を乱暴に引き抜いた巨人は、一人一人を観察するように画面を巡らせた。

 冒険者の増援であるゴブリンスレイヤー、ベルを見つめ、最後にローグハンターを視界に捉えたその瞬間、

 

『ぐるぅぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 衝撃波が伴う咆哮をあげ、冒険者たちの全身を殴りつけた。

 ローグハンターが持つ古き血に反応したのか、あるいは裏切り者たる彼を抹殺するように仕込まれていたのか、理由は定かではないが、どうやら彼の存在がとことん煩わしいらしい。

 彼らはその場で踏ん張り、ゴブリンスレイヤーは牛飼娘を、ローグハンター、女神官、妖精弓手が銀髪武闘家を庇う中、ヘカトンケイルに変化が起こる。

 心臓のように明滅を繰り返していた胸部の金色の球体(エデンの果実)から光が溢れ、それが主腕とも言うべきニ対の腕へと収束。

 手のひらに収まっていたそれはやがて棒状となり、雷を帯び、そして光が弾けた。

 そこに現れたのは四振りの剣だった。

 金色一色に染め上げられ、刀身から鍔、そして柄に至るまで刻まれた幾何学模様が不気味に輝く剣。

 ヘカトンケイルが持つ故に剣に見えるが、普通の人間であれば持ち上げるのすら苦労するだろう特大剣。

 

『人間……イス……全てに……死を……!!!』

 

 そんな四振りのエデンの剣を軽々と振り回し、雷撃をばら撒きながら吼えるヘカトンケイル。

 ローグハンターは足元に着弾した雷に怯む様子もなく、全身に殺意を滲ませる。

 

「死ぬのは、お前だ……っ!」

 

『かつて来たりし者』と自分を繋ぐ宿命(フェイト)を恨みながら、そんなものに負けてたまるかと吼え返す。

 

「やるぞ。殺せない生き物などいるものか……!」

 

 ローグハンターの声に冒険者たちの戦意が膨らむ。

 ヘカトンケイルは彼らが放つ戦意を、殺意を、そして覚悟を受け止めながら、そんなものは無駄だと言わんばかりに雷撃を解放する。

 雷にその身を焼かれながら、抗えぬ滅びをその身に宿しながら、道連れを求めるように走り出す。

 冒険者たちとヘカトンケイルの戦い。第二幕が、始まった。

 

 

 

 




感想等ありましたら、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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