剣術狂いが剣姫の師を務めるのは間違っているだろうか   作:土ノ子

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皆さま高評価頂き誠にありがとうございます。
例え一瞬だけでも評価9.0に到達したのは自慢してもいい…よね?(思わずスクショ撮った)




第五話

 酒場、豊饒の女主人。

 まさに客の書き入れ時に訪れたそこは既に席が半分以上埋まっていた。

 

 料理が美味く、店員は美人揃いの酒場なので、繁盛するのも当然と言える。

 

 

「……また珍しい組み合わせだね。ロキ、ガレスに『首刈り』とは」

 

 

 空いている席を探す三人にそう声をかけたのはこの酒場のおかみ、ミア・グランドであった。

 ドワーフと思えないほどの大柄で、その存在感は第一級冒険者のガレスにも劣らない。

 

 

「やあ、ミア。悪いけれど奥の席を借りても良いかな? これから三人で秘密の内緒話をする予定なんだ」

「……ふん。何を話すんだか知らないけどね、この店じゃ荒事はご法度だ。叩きだされたくなければ精々大人しく飲むんだね」

 

 

 センリがさらりと話を通すと、女ドワーフは露骨に顔を顰めるとストレートに釘をさす。

 秘密の内緒話などと戯言を吐いているが、彼らの間に流れる空気が決して安心できるものではないと悟ったからだろう。

 

 

「それと見ての通り客はもう少ししたら満員だ。うちの店員の手も足りなくなるだろうから、あんたらに構っている余裕なんてなくなるよ。それでも良ければ奥の隅っこにでも座ってな」

「ありがとう。助かるよ」

「はっ! この店で騒ぎを起こさなければその礼も受け取ってあげるよ。……ま、精々上手くやんな。お前さんはとんでもなくはた迷惑だけど性根だけは真っ直ぐだからね。馬鹿みたいに誠実に話せば分かってくれる奴もいるだろう」

 

 

 皮肉と呆れ混じりのミアの返答にも青年への親しみが僅かだが籠っている。暗にロキ達へ目配せしている辺り、彼の評価をロキ達に聞かせる目的もあるようだ。

 

 

(んー。ミアの言うことを聞いてる限り悪い奴ではないんかな? とはいえただ()()()って訳でもなさそうやしなぁ)

 

 

 あくまで参考情報として聞き流しながら、三人はミアに促されるまま店の奥の方へと歩を進めていく。少なくともオラリオにおけるイタドリ・千里(センリ)の評価は『触っちゃいけないヤベー奴(ミスターアンタッチャブル)』である。

 

 ただ他人の評価だけを聞いて判断を下すのは余りにも愚かだろう。

 

 とはいえただ腹に一物を抱えた不逞の輩という訳ではなさそうだと若干対面へ向ける敵意を和らげる。腹の底の警戒心は微塵も減っていなかったが、少なくとも最初の喧嘩腰な態度からは大幅に軟化したと言える。

 

 その後、店内の一卓に腰を落ち着けた三名は注文した麦酒(エール)とおつまみが届くまで無言の時を過ごした。立ち込める沈黙が相当に重苦しく、居心地の悪い空間だがセンリだけがやはりふわりとした笑顔を浮かべている。

 

 

(このクソ度胸だけは認めたってもええかもしれんなー。単に度を越して能天気なだけかもしれんけど)

 

 

 仮にも都市二大派閥の一角、その主神と幹部に睨まれていると言うのに青年の挙動には些かの乱れもない。

 仮に虚勢であっても虚勢を張れるだけ大したものだ。

 

 

「お待たせしましたー。ご注文の品です」

「お疲れちゃーん。あ、しばらくうちらはこれで時間を潰すから当分こっちに来なくても大丈夫やでー」

 

 

 ロキは山ほどのおつまみとエールを運んできた店員に笑みを返すと、そのままさりげなく店員らを遠ざけにかかる。

 

 

「はいー。店長からそういう風に聞いてますので」

「そか。サンキューな」

「あ、それと店長から伝言が。『長く居座るんならしっかり食って金を落としてきな』だそうですー」

「……オッケーやー。ミアにもそう伝えてな」

 

 

 厄介事の種を持ち込んだことを微妙に根に持たれているらしい。

 この店は冒険者からはがっつり料金を取る値段設定なので、居座る分しっかり注文するとなると結構な出費となるだろう。とはいえこの場にいる面子は全員懐が十分に暖かいのでさして問題とはならないだろうが。

 

 

「ほな、始めよか。『保護者面談』や」

 

 

 若干冷えた空気を振り払うように真っ先に口火を切ったのはやはりロキだった。

 口元だけは笑みの形に歪めているがやはりどこか語調が鋭い。

 

 飄々とした気風だが己の眷属への情愛が深く、最近では特にアイズがお気に入りの女神である。そんな少女に腹のうちが読めない怪しげな冒険者が近づいているのだから警戒するのも尤もな話であった。

 

 

「で、ぶっちゃけアレや。お前何を企んでるん?」

 

 

 女神の言う『保護者面談』が始まってからの第一声はそんな不審と猜疑に満ちた問いかけであった。

 直球かつ剛速球極まりないが、ある意味ロキの本心だったろう。

 

 今日一日、ロキは青年と少女の交流を覗き見た。

 その上で今のところセンリがアイズに稽古をつけているということくらいしか分からない。

 

 何故、何時、センリとアイズがそんな関係になったのか。

 如何なる理由で目の前の青年が動いているのか。

 

 肝心要のセンリ自身が何を考えているのかは当然さっぱり分からない。

 幼く、かつ力への渇望に苛まれるアイズは無視しているが、その振る舞いは客観的に見て怪しいことこの上ない。

 

 故に疑問をそのまま問いかける。

 人間同士ならばどうとでも切り抜けられる問いだが、人の嘘を見抜ける神が相手となると下手な答えは命取りだ。

 

 

「企む…ですか。恐縮ですが神ロキ、御身は何のことについて仰っているのでしょう?」

 

 

 対し、問われたセンリは困ったように首を傾げた。

 確かに今の問いかけは含意が広すぎたかもしれない。

 

 

「…あー。あれや、お前何でアイズたんの面倒を見てん? 他派閥の人間にわざわざ関わっても良いことないやろ」

「何故…。うーん、最初のキッカケは偶然ボクの稽古を覗いたあの子から剣の指南を請われたことが始まりなんですが」

「ちなみにそれは何時の話や?」

「一週間前のことですね」

 

 

 少し問いかければ特に口ごもることもなく滑らかに喋っていく。

 フィンのような智慧者が神と話す時は下手に情報を漏らさないように大抵一拍を置いて頭の中で言葉を吟味してから話すのだがそうした様子もない。

 

 ただ正直に、ありのままに答えているといった印象である。

 

 

「お前さんとアイズたんが知り合った経緯は分かった。ほな、動機はなんや? ただ頼まれたから快く承諾したお人好しとか言わんよな」

 

 

 そうは言いつつその朴訥した様子を見ているとありえるんじゃないかなーと思えるから不思議だ。裏表がないというか価値観がどこか普通の常識、損得勘定から外れているように見えるのだ。

 

 

「動機、動機ね…」

 

 

 青年はどうにも口下手な自覚があるらしく、どう答えれば理解してもらえるのか青年自身が悩んでいる様子である。

 

 

「どうしたんや? まさか怪しい企みがあるんとちゃうやろなー」

 

 

 口ごもる青年へ向ける語調こそ軽く、冗談じみているがやはり目だけは笑っていないロキである。

 

 

「いえ、そういうことではなく。それを話し出すと少し回りくどく、長くなるのですがよろしいですか?」

「可愛い眷属のためやからなー。この後は空けてあるから幾らでも付き合うで」

「元々酒をかっ喰らって寝台(ベッド)で寝っ転がるだけの予定じゃったろうが」

 

 

 心なしかキリッと顔を引き締めたロキにぼそりと突っ込むガレス。

 そんな彼らの掛け合いにセンリはふわりとした笑みを大きくし、嬉しそうな気配を漏らした。

 

 

「どした? そんなにうちらのやり取りが面白かったんか?」

「いえ、ようやく貴女の本音に触れられた気がしたので。貴女は眷属(あの子)を深く愛しているのですね。素晴らしいことです」

 

 

 慈愛すら漂わせる菩薩じみた笑顔とともに無邪気に剛速球を投げ込んでくる。

 その笑みからは一切の含みは見受けられず、心底からそう思っての発言であると神ならざるガレスにも分かった。

 

 

「…………おぉう」

 

 

 その無自覚な精神攻撃に羞恥心を焼かれ、カハッと幻の血を吐いて突っ伏す主神にガレスが声をかける。

 

 

「おい、ロキ。大丈夫か?」

「ヤバいわ。何がヤバイってこいつ、最初から最後まで何一つ本音しか言ってないんや」

 

 

 ひねくれ者を自任するロキには天然かつド直球の賛辞は却って効果的だったようだ。

 珍しく本気でダメージを食らった様子のロキにこりゃ意外な難敵じゃなと老ドワーフは胸の内だけで呟く。

 

 天然、直球、善良な面が目立つ青年。

 だが同時に一筋縄ではいかない曲者でもあるようだ。

 

 

「? 何か無作法でもしてしまったでしょうか。ただ本心を語っただけなのですが…。遺憾ながら神格者の神は少ない。貴方のような良識神があの子の主神ということはとても幸運だと思います」

「あ、止めて。もう止めて。これ以上うちを褒め殺すのは止めてーや。いい加減羞恥心で死にそう。こんなんうちのキャラちゃう」

 

 

 あくまで悪意なく無邪気に追い打ちをかけられ、ロキはテーブルに突っ伏したままプルプルと全身を羞恥で震わせる。

 

 

「―――はい! この話はやめやめ! そんなことよりうちお前さんの話に興味あるなー!」

 

 

 とにかく勢いで流そうと無理やり軌道修正すると、センリは特に思うこともなさそうに、

 

 

「それもそうですね」

 

 

 と頷く。

 分かってはいたがやはりその言動に一から十まで裏は無さそうだ。

 

「それでは―――まずボクは極東で生まれました」

「……え、話が始まるのそこからなん?」

 

 そうして始まったセンリの語りであるが、その開始点が予想外過ぎて思わず素で突っ込むロキ。

 彼自身は全く意図していないであろうに完全にペースを握られ、振り回されっぱなしのロキ・ファミリアの主従であった。

 

 

 




また1時間後にもう1話投稿予定です。

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