第FⅦ特異点 片翼の天使   作:陽朧

10 / 44
1-9 カルデアにて⑥

はらりと散った漆黒が、純白に落ちる。

染み付いた赤と、黒、そして白のコントラストが、二人の間を彩っていた。

トレーニングルームの壁に背を凭れ座るスカサハは、口の端から流れ出る赤を拭い笑うと、更に込み上げてきた鉄の味を噛み締めた。

 

 

「見事だ、セフィロス」

 

 

室内灯の光を反して、白銀にも見える髪が地に広がることはなかった。

悠然と佇む長身は、一つ大きく息を吸い込む。

上下した胸には、朱色の槍が突き刺さっていた。

黒い手袋をした手がそれを掴み、ずるりと引き抜く。

途端に、塞ぐものの無くなった傷口から夥しい量の血が噴き出した。

 

 

「……大したものだな、影の女王よ」

 

 

からんと、音を立てて転がった槍に付いた血が、飛び散る。

変わらぬトーンで紡がれた言葉は、珍しく称賛の意味を持っていた。

 

もはや傷を塞ぐ術を唱える魔力すら、セフィロスには残されていない。

スカサハの『死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)』と、セフィロスの『心無い天使』によって、互いの魔力は削り尽くされていた。

しかし、それが白旗を挙げる理由にはならなかった。

お互いに得意とするのは魔術でもなければ、魔法でもない。

最も得意とするもの、それは己の武器、即ち肉弾戦である。

再びぶつかり合う二人は、存分に槍と刀を揮った。

 

死を許されたスカサハと、ジェノバにより驚異の回復力をもたらされたセフィロスとの差であったのかもしれない。

それを含めたリミットを理解した上での勝負なので、勝敗はついたといえよう。

 

刀を納めたセフィロスは、その回復力を以てしても塞ぎきれない傷を抱え、スカサハへと近付く。

そのゆっくりとした足取りを、スカサハはただ見上げた。

 

 

「……」

 

 

革の手袋の上からはめられた腕輪から、下がる青い石のチャームが揺れる。

目の前に差し出されたそれに、スカサハは目を丸くした。

 

 

「ふ、……ははっ!!なんだ、少しは女の扱いを心得てはいるようだな」

 

「そういう意味じゃあないさ」

 

 

抱腹絶倒といわんばかりに笑い出したスカサハは、薄らと目に涙を湛えていた。

何をそこまでと眉を顰めたセフィロスは、手を引こうとするが、それを察したスカサハがまた笑う。

そうして乗せられた手を引くと、流れ落ちる血が嘘のように、彼女は立ち上がった。

 

 

「……合格だよ、セフィロス。

私はお前を実に気に入った」

 

「死の宣託か。悪いがまだその時ではない」

 

「なんと失礼な。このスカサハからの希少な言葉を、素直に受け取らぬか」

 

「趣味ではないものでね」

 

 

あまりにも張り詰めた空気は、第三者がいれば、いつ破裂するかと肝を冷やすほどであろう。

戦いの名残を瞳に浮かべるスカサハに、セフィロスはその青い瞳で一瞥をくれる。

そして、黒いコートを翻すとその背を向けた。

 

 

「セフィロスよ。一つ、忠告してやろう」

 

「……なんだ」

 

女性(レディー)のエスコートぐらいは、利き手でやるものぞ」

 

 

鋭い視線を背中で受けたセフィロスは、一瞬、その足を止める。

だが、その唇は動くことはなく、彼はそのまま部屋を出て行った。

 

スカサハは武器を納めると、傷ついた体を見つめる。

痛みを、死を忘れた体に、降り注いだ斬撃はじんわりと脳に刻み付けられた。

拳を、武器をぶつけ合うことをコミュニケーションツールとする彼女は、セフィロスとの斬り合いで、その力のみならず人となりを見抜いていた。

赤き瞳に、他者の素質と気質を見抜く優れた鑑識眼を宿す彼女は、直接力をぶつけ合うことで、それを確信したのだ。

 

 

「継ぎ接ぎの男か、……人形にしておくには、ちと惜しいな」

 

 

くつくつと、沸き立つ笑いを零す。

掲げた指先をぱちりと鳴らすと、荒れ果てたトレーニングルームは元の白い空間を取り戻した。……たった一つを残して。

スカサハは、つるりとした床に膝を落とすと、落ちていたそれを拾い上げる。

 

一枚の黒い羽根であった。

 

柔らかくも、芯の通ったそれは光を受けて艶やかに光る。

ほんのりと感じる魔力に、良い素材になりそうだと考えた。

 

 

「……それで、お前はいつまであの男をストーキングしているつもりだ?」

 

 

呆れた声でそう言ったスカサハは、扉へと視線を投げる。

すると、棘の尾を揺らして彼女の前に、一人の英霊が現れた。

赤い刺青が入った顔に、いつも以上の不機嫌さを浮かべた英霊は、スカサハを睨みつけた。

 

 

「あれは、俺の獲物だ」

 

「ほう……一丁前に嫉妬とはな。

だが、お前にあの男は手に負えんよ」

 

「知ったことか。あの男を殺すのは、この(オレ)だ。

あんたの出る幕じゃねえ」

 

「聞かん奴だな。まあ、元からか」

 

 

苛立ちの籠った声に、これはこれで面白いとスカサハは目を細める。

ぎろりとした視線を向けた英霊は、スカサハの体に刻まれた、あの長い刃の痕跡を注視した。

クーフーリンの師匠である彼女の、その強さは身を以て知っている。

例え英霊として召喚されたとしても、実に敵に回したくない女性であることに違いはない。

 

クーフーリンという男にとって、彼女は強さの象徴であった。

神に名を連ねるものであろうとも、彼女の前で膝を折らなかったものは見たことはなかった。

 

 

「……」

 

 

本気ではないとはいえ、あのスカサハさえも、かのものに敗北を与えられないのだ。

喉元に込み上げる何かを耐えるように、英霊はスカサハに背を向ける。

そうして、セフィロスと同じように部屋を出ていく、その唇には、歪んだ笑みが浮かんでいた。

 

 

 

***

 

 

 

「うわっ!!セフィロス、大丈夫?」

 

「掠り傷だ。問題ない」

 

「……え、ええ…」

 

「はあ……お前に問題はなくとも、此方にはある。

食堂前を血塗れでうろつくな。汚らわしいぞ」

 

 

心臓部を槍が貫通した痕は、もう消え去っていた。

しかし、一度心臓を潰されたのだ。

血の輸送を司る臓器の損傷は、勿論夥しい出血を伴う。

コートの色でカモフラージュされてはいるが、滴る赤は一切隠せていない。

 

廊下に転々とつけられた血痕と足跡に気づいたのは、リツカであった。

『魔術協会から視察の知らせ』が届いたという通達は、一気にカルデアに拡散された。

申し入れではなく知らせ、というカルデアの都合を丸々と無視したそれに、職員は一様に青筋を浮かべたという。

リツカも顔を青くした一人であるが、管制室にいても出来ることはないと判断して、部屋を出た。

そして、ふと足元に視線を映すと、彼はぎょっと目を見開いたのであった。

 

慌てて血痕を追うと、見えてきた長身にリツカは何が起きたのかを察した。

偶々食堂から出てきたエミヤも廊下を見下げると、リツカと同じような顔をして、溜息を一つ零した。

 

 

「……朱の槍は見飽きた。

暫く近づけないでくれ」

 

「また、クーフーリン関係かね」

 

「今度はその師匠だ」

 

「え……っ。ええ!!??

す、スカサハが……?」

 

「驚いたな。お前が好かれているのは、呪いの槍そのものか」

 

「……さあな。好かれた記憶もないが」

 

 

人間や英霊を含めた物事を俯瞰する立場であるスカサハの姿を、リツカは頭で描く。

この英霊が来てからというもの意外な英霊たちが動くなと、エミヤは腕を組んだ。

 

 

「す、スカサハと……戦ったの?」

 

「……ああ」

 

 

息を呑んだリツカは、平然と構えるセフィロスの全身を見回す。

その出血からすると、酷い傷を負ったのだろうことは想像に容易いだろう。

しかし、やはり傷は見当たらない。

 

 

「暫く『赤』はごめんだ」

 

 

深い溜息を吐いたセフィロスは、リツカの隣にいる弓兵に視線を流す。

私は関係ないだろうと、顔を呆れさせたエミヤはいつものような笑みを浮かべた。

 

 

「そもそも、君が応じなければ良い話だろう?」

 

「ほう?……常に噛みつき合っているお前が、言う台詞か?」

 

 

嘲笑するように言葉を放ったセフィロスに、リツカは目を瞬かせた。

感情の抑揚が抑えられた態度は出会った時から変わらないが、その表情にふと疑問を感じたのだ。

それは、悪い疑問ではなかった。

寧ろ良いと言っても過言ではないだろう。

 

身長の関係から見下げるような形になるその顔が、ほんの少しではあるが和らいでみえた。

 

息を吸うように皮肉を練り込んだ言葉を返すだろうエミヤが、それ以上何も言わなかったのは、彼もリツカと同じ驚きを露わにしている証拠である。

 

ぽかんとした顔を見せるリツカに、怪訝な表情を浮かべたセフィロスは用は済んだと背中を向ける。

はっとしたリツカは慌ててコートの袖を掴むと、立ち去ろうとする彼を引き留めた。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!!聞きたいことがあるんだ」

 

「……」

 

「さっきのレイシフト先で見た、あの建物を……神殿だとわかったのは、なんで?」

 

「……特に意味はないさ。そう感じた。それだけだ」

 

「なら、……これ、知ってる?」

 

 

リツカは腰に付けていたバッグから、ドクターに見せたものと同じカードキーを取り出す。

一歩離れたところからそれを見ていたエミヤは弓を扱うが故の優れた目で、セフィロスの瞳孔が微かに揺れたのを捉えた。

 

 

「これ、あの中で拾ったんだけど……。どこの鍵かわからないんだよね」

 

 

カードキーにつけられた黒いコードは残っているが、それ以外の文字などはもうすっかり薄れている。

浮かぶ微かな痕跡に目を細めたセフィロスは、静かに首を横に振った。

 

 

「知らないな」

 

「そっか、セフィロスも知らないんじゃ……。

ドクターの解析待ちかあ」

 

「解析に掛けているのか?」

 

「うん、此処の文字なんだけど……『Shin-Ra』って書いてあるらしくて。

どこかの組織じゃないかって今、ドクターが調べてくれているんだ」

 

「……そうか」

 

 

交わされる会話を耳にしながらも、エミヤはセフィロスを注視していた。

浮かぶ表情も、視線も、瞳孔の動きも、変化があったのは先ほどの一瞬だけのようだ。

余程用心深く感情を制御しているのか、それとも只の間違えか。

それを判断するには、まだ材料が揃っていない。

エミヤの唇は黙していた。しかし、その瞳は獲物を狙う狩人のそれであった。

 

 

「あ、そうだ。あのね……明日、魔術協会が視察に来るらしいんだけど」

 

「……魔術協会?」

 

「魔術師の理をつくり上げ、管理を行っている、魔術師の為の団体だ。

一般社会(外の世界)で魔術がらみの事件を起こすと、直ぐに処刑される。

一部とはいえ……気難しい、プライドだけの連中が多くてね。」

 

「なるほど」

 

「明日来るのは、研究機関の人達みたい」

 

「ふん、あの中でも特に変わり種だな。

正直……私は、あまり好ましいと思わない」

 

 

他人(一部を除いてだが)をあまり悪くは言わないエミヤが、苦言を呈したことに、リツカは苦い笑いを浮かべる。

生粋の魔術師であればあるほど、そして家柄が良ければ良いほど、態度も比例する傾向にあることを彼らは身を以て知っている。それの良し悪しは置いておくとして、研究関係の人間は更に性質が悪かった。

 

 

「うーん、なんか……実験動物(サンプル)として、見られている気がするんだよねえ」

 

「研究熱心なのは構わないが、ね。

あれでは狂気の科学者(マッドサイエンティスト)と呼んだ方が似合いだろう」

 

「……科学者とは然もありなん、か」

 

 

思い出すのも疎ましい記憶を払うように、セフィロスは首を横に振る。

どうやら明日は部屋にいた方が賢明なようだ。

そのような状況ではレイシフトどころか、カルデアの職員はきっと己の仕事ですら手につけられないだろう。

 

 

「そういえば、その男も来るのか?」

 

「ああ、研究部門のボスの……えっと、宝条……だっけ。

来るらしいよ」

 

「……宝条?」

 

 

揺れ動いた青い瞳は、エミヤのみならずリツカにも捉えられるものであった。

表情を歪ませたセフィロスに、思わずリツカにも動揺が走る。

 

 

「うん、宝条先生っていう人が統括しているみたいで」

 

「……」

 

「おい、もしかして知っているのか?」

 

「……いや、……似た名前を知っているだけだろう」

 

 

魔術師関係に知り合いはいない筈だと、呟いたその顔はいつも通りであった。

驚いたように自分の顔を見るリツカと、何か言いたげな顔をするエミヤに、溜息を一つ吐く。

 

 

「昔から、研究者と関わると碌なことにならない。

明日は大人しくしているさ」

 

 

セフィロスはそう言うと、自室の方へと足を動かした。

その背中を見送ったリツカは首を傾げる。

そして、隣に佇む英霊を見上げようとして、ふと何か影のようなものが動いたのを感じた。

素早く視線をその方へと動かすと、もうその影は消えていた。

 

 

「……?」

 

 

きょろりと周りを見渡すリツカの横に佇む英霊の目は、その影をしかと捉えていた。

しかし、それ以上に彼は気にしていたことがある。

 

 

「さて、どうしたものか」

 

 

小さく呟いたエミヤは、セフィロスと……その影が消えていった方に、その鋭い眼光を向けた。

 

 

 

***

 

 

 

「よお、やーっと戻ったか。待ちくたびれたぜ」

 

「……約束をした記憶はないが?」

 

「何言ってやがる。アンタがレイシフトに行く前に、しただろ」

 

「今日とは言っていないがな」

 

 

自室の扉を開けると、まず目に飛び込んできたのは見飽きるのにも飽きた青であった。

革のソファーに流れるそれに、溜息すらもう出ない。

我が物顔で寝そべる英霊、キャスターはセフィロスの表情に笑い声を上げた。

 

 

「槍、だけではなかったな」

 

 

先ほどのリツカとの会話を思い出して、そう呟く。

セフィロスは向かいのソファーに腰を下ろすと、キャスターは腕を付いて頭を支える姿勢で赤い瞳を向けた。

 

 

「聞いたぜ。師匠とやりあったんだってな」

 

 

すと落ち着いた光が宿る。

杖を持つ英霊に流れる血も、ケルトのそれなのだ。

気になって仕方がないらしい様子が、ありありと浮かんでいた。

 

 

「……本人に聞け」

 

「つれねえこと言うなや。

なあ、俺の相手もしてくれるだろう?」

 

「はじめにしただろう」

 

「あん時は、誰かさんの召喚の為にえらい魔力を割いていてね。

アンタ相手にデカすぎるハンデだと思わねえかい」

 

「……言い訳は無用、だろう。

それにお前の用件はそれではない筈だが?」

 

 

 

不機嫌そうに眉を寄せたキャスターは、その台詞にぱと目を輝かせる。

ランサーよりも落ち着いた印象を受けてはいたが、これではあまり変わらないとセフィロスは思った。

 

 

「しかし、わからんな。

お前はもう……あの影の女王から、充分高度な魔術を与えられているのだろう?」

 

「ほう、そいつを知ってんのかい」

 

「……身を以て、な」

 

「そりゃ、興味深い話だな。

あれを喰らってピンピンしてるとは……」

 

 

よっこいしょ、と体を起こしたキャスターはソファーに体を凭れさせる。

 

 

「まあ、いいさ。アンタを信頼すると言ったのはこの俺さね。二言はねえ。

その代わりに、セフィロス……。アンタの使うモンを教えてくれるんだろ?」

 

「面倒だが、な」

 

「そういうなって。こう見えても俺は知的好奇心に溢れてるんだ。

あと向上心にもな」

 

「……少なくとも、言動は伴っていないが」

 

「うるせえ!時には殴った方が早いんだよ。

槍と杖は使いよう、っていうだろ」

 

「……。まあ、いい」

 

 

英霊たちからの信頼を特に得たいとは、考えていなかった。

このカルデアにおいて、己の身が異端であることは充分に理解していたからである。

それと、もう一つ。あまり長く留まるつもりはないのだ。

 

しかし、このままこのキャスターという英霊を放っておくと、何とも面倒な探られ方をするだろう。

エミヤオルタのように、じわじわと探られるのは好まない。というのが本音であった。

とはいえ、毎日のように槍や杖と自分の剣を交えるつもりはない。

 

そう思考を巡らせたセフィロスは、キャスターの提案を受け入れたのである。

 

 

「俺らの使う魔術は、ルーン文字を刻むことで発現させるものだ。

アンタの付けているヤツと同じさね。呪文詠唱とは違う」

 

 

セフィロスの腕輪から下がる、青い石に視線を移したキャスターはそう言った。

確かに、魔力の込められた石ではあるがルーンを刻んだ覚えもない。

その辺は此方と彼方の違いに値するので、取り敢えず口を噤んでおくことにした。

 

 

「まあ、その気になりゃ……何だって作り出せるモンだ。

だが……アンタの使う魔術は違うだろう?」

 

「……」

 

「キャスターとして顕現したんだ、いつまでも槍にしがみ付いてるわけにはいかねえのさ。

それに、このまま打ち止めじゃあつまらねえ」

 

「それで、俺を利用すると?」

 

「ははっ。そりゃ語弊ってやつだろ。

良いか?これは協力だ、セフィロス」

 

「……協力、か」

 

「何事も組み合わせが大事ってね。

俺のルーンと、アンタの魔術……。

こりゃ星の一つや二つ、ぶっ飛んじまうかもなァ?」

 

 

 

にい、と歯を見せて笑ったキャスターは、体を前に倒すとセフィロスを見上げる。

実に体のいい言葉だが、待ち受ける厄災を考えると、それもまた一つの手になる可能性もあった。

 

 

「合体魔術、っていうのも面白いと思わねえかい?」

 

 

その言葉に、セフィロスは眉を顰める。

世界の違いと言ってしまえば、そこまでだろう。

 

この世界において、魔術師の基本は等価交換である。

科学を用いて、結果を起こす。自然の流れを利用したもの。

魔法と定義されるのは、原理がないもの。他人には絶対に再現できないものを示唆する。

魔法使いが一つの魔法を担うからこそ、価値のあるものなのだ。

 

セフィロスの世界では、基本的に用いられるのは魔法であった。

マテリアという魔晄(ライフストリーム)を、凝縮して結晶化されたものがある。

マテリアは、『古代種の知識』が蓄積されているとされ、一つ一つにそれらが込められている。

故に、攻撃魔法から回復魔法、そして召喚魔法を使用することが可能となるのだ。

因みに、色々な魔法を用いる為には、その分のマテリアが必要とされる。

 

これをこちらの定義に当てはめると、魔術と言った方が良いのかもしれない。

 

 

「……」

 

 

そうすると、こちらの世界にいるのだから、言葉もこちらに合わせるのが通りだろう。

郷に入ればなんとやら。セフィロスは、元から身に着けていたマテリアを出した。

 

球状の掌に収まるサイズのそれは、様々な色の輝きを放つ。

惑星を縮めたような模様をしたマテリアを、キャスターは物珍しそうに見つめた。

 

 

「これは……」

 

「媒体だ。魔術を用いる為には、必要となる」

 

 

純血の古代種である中の男には必要ない、と説明するにはまだ早いだろう。

 

最高位の魔法が詰め込まれたそれを手にしたキャスターは、感じたことのない、濃密なそれに背筋を凍らせた。

己の使うルーン魔術も、スカサハのそれも、原始のルーン文字を用いた神代のもの。

北欧神話における最高神オーディンが編み上げたその性能も、言葉では示せない、神の領域である。

 

目の前の結晶の持つそれは……また違う、恐ろしさを秘めている。

伝う魔力から、それを感じたのだ。

 

 

「使うものの魔力にも依存するが、上手く用いれば死者の蘇生も可能だ」

 

 

此方の世界ではそこまでの効果をもたらせるかは、正直わからない。

しかし、回復魔法は問題なくその力を発揮したので、可能性はあるだろう。

そう判断して告げた言葉を、どう捉えたのか。

キャスターは手に乗せたマテリアに意識を集中すると、流れる魔力を紐解くように分析する。

 

 

「……参ったな。想像以上だ」

 

 

静かに、低く呟かれた声。

ふと上げられた赤が、青とぶつかり……そして。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。