前編:音楽家と王妃様
後編:3本の朱槍と1本の杖
充実した設備を誇るカルデアでは、造り替えがなされることが多々ある。
それは、様々な分野で名を遺した英雄たちが持つ強いこだわり故のことだ。
例えばトレーニングルームは、主に戦闘に長けたものたちが全力で楽しめるよう強固な造りとなっている。
最近では、シミュレーションの導入により
それとは別にシミュレーションルームもあり、此方は戦闘に不慣れな英霊であったり、そもそも英霊であることに慣れていない者たちが、体を慣らす為に使用している。
また、娯楽室では古代のものから現代のものまでの『遊び道具』が揃っており、日本のテレビゲームも大いに人気を誇っていた。
このように、多くの設備が充実したカルデアでは、任務が入っていない英霊たちがそれぞれ好きに楽しんでいる。
各分野で才能を見せた英霊たちは個性が強い者が多いので、書斎から出てこなかったり、夜にしか行動しなかったりと、生活リズムはバラバラであるものの、それぞれが充実した日々を過ごしているのだ。
「……」
セフィロスもまた、自室やトレーニングルーム、屋上といった、ある程度居場所が決まっている一人である。
最近は任務の入っていない日は、賢王に仕事を振られたり、王たちと言葉を交わしたり、騎士たちと剣を合わせたりと、中々に多忙なスケジュールをこなしていた。
要するに、神羅の
そして、久しぶりに訪れた休日の始まりは、賢王に渡された書類の消化からであった。
どう判断したのか、セフィロスを使える人材として認識したらしい。
自分を容赦なく手足として使おうとする賢王に、力を貸してはいるものの、それは決して『タダ働き』ではない。
賢王に『とある交換条件』を取り付けたセフィロスは、ジェノバや
「おーい、セフィロス。
起きてっかって、まあお前さんが寝てるとこ見たことねえが」
ノックもせずに入ってくるのは、同じ顔故の特徴の一つであろうか。
確かに、鍵は掛けていないのが悪いと言われればそこまでだが、それを差し引いても粗暴な男であるとセフィロスは眉を顰めた。
一通りの礼儀を知っている癖に、最低限の所以外ではそれを発揮しようともしないのは共通点であろう。
とはいえ、これがどこぞの騎士王のように礼儀正しくても気持ちが悪いだけかと、セフィロスは些か理不尽とも言える思考を溜息に代えて吐き出した。
無造作に跳ね上がる群青色の髪に、快活そうな赤い瞳を緩めた英霊は、クーフーリンの名を冠する者の中で一番若い男だ。プロトタイプのクーフーリンということもあり、マスターリツカ達からはプロトと呼ばれている。
ずかずかと部屋に入ってきたプロトに、セフィロスは手元の書類の束を手渡した。
「また俺にお遣いしろってか?」
「使われているうちが華と思え」
「相変わらずの横暴ぶりだな。
ま、アンタの頼みなら聞いてやらないこともないさね。
その代わり後で俺の相手しろよ?」
「……気が向いたらな」
記憶に在る『とある子犬』を彷彿とさせるプロトを、セフィロスが構い始めたのはいつからであったか。
他のクーフーリンと比べると、未成熟故の青臭さが残る彼は一言でいうと扱い易い。
セフィロスが彼にある程度の勝手を許すのは、そのような面を気に入っているからかもしれなかった。
「そーいや、マスターが探してたぜ」
談話室にいるんじゃねえかな、と言って笑ったプロトはどうやらセフィロスを呼びに来たらしい。彼の言葉にそうかと、一つ頷いたセフィロスは、その儘部屋を出て行った。
「って、そのついでにコレ渡してくれば良い話だろ……。
はー、全くとんだオヒメサマだぜ」
それを見送ったプロトは、はっとしたように声を上げた。
しかし、その物言いや性格など何処かスカサハにも似ているセフィロスに、彼は何だかんだ逆らえず言うことを聞いてしまう。
当然の如く人を使うので、流されてしまうのである。
やれやれと肩を竦めたプロトは、渡された紙の束を抱えて部屋を出て行った。
***
その扉が開かれていることに気が付いたのは偶然であった。
防音の為か、常に閉ざされている重厚な造りの扉は、掌ほどの無防備な隙間が出来ている。
隙間からは赤い絨毯に覆われた室内が窺えた。
主に『音楽』に関する英霊たちが集うその部屋は、ピアノをはじめ様々な楽器が並んでいる。
常に音が絶えない部屋だが、どうやら今は空いているらしい。
セフィロスは、暫く何かを考えるように立ち止まっていたが、ゆっくりとした足取りで赤い絨毯を踏み締めたのだ。
教会のそれと似た、ステンドグラスがうつくしく並ぶ室内は、荘厳な造りとなっている。
一切の雑音を許さない静寂に包まれた空間を飾るのは、豪奢な花であった。
洋風の花瓶に生けられた花々は、高貴なその身を惜しげなく煌めかせている。
鮮やかなガラスが差し込む光に色を付け、毛の長い絨毯に映えている。その上をセフィロスの影が滑って行った。
中央に置かれたグランドピアノは、この部屋の主だといわんばかりの存在感を放っていた。
艶やかな黒い体は、常に適切な手入れがなされているのだろう。
音楽家たちの魂が宿っているかの如く、生きているようにそこに在る。
「おや、珍しいお客さんだね」
ふと聞こえた声に、振り返るとそこには赤みの濃い紫を纏う一人の英霊がいた。
癖のある長い金髪を揺らし緑の瞳をセフィロスに向けた英霊は、不敵な笑みを浮かべる。
「僕はアマデウス、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
澄んだ声音がうつくしく部屋に響く。
神の域ともいえるその
モーツァルト。音楽史を語る中で絶対に外せない、天才の名。
「此処に来たということは、君も何か音楽を奏でるのかい?」
「……気まぐれだ」
セフィロスの息遣い一つ一つに興味を示すかのように、音を探りながらアマデウスは問い掛けた。
ここ最近の騒動の中心にいるセフィロスのことは、彼でも知っていたし、実際に何度か作業妨害をされたこともある。
一応戦う力を持つがどちらかというとサポートに回りたいアマデウスは、武闘派であろうセフィロスがこうして此処に姿を現したことに素直に驚いていたのだ。
戦うものが教養を持たないというわけではないが、カルデア内の傾向を考慮すると、そう思うのも納得出来よう。
「はは、まあ折角だ。何か弾いていけよ」
音楽を奏でるのか、という問いに、セフィロスは首を横に振らなかった。
ということは心得はあるということだろう。アマデウスは、それを確信していた。
自分以上の音はないという自負を持つ彼がそう言ったのは、ただの気まぐれに過ぎない。
他人の音が、何かしらのインスピレーションに繋がることもあるので、とんでもない無作法者でない限り、アマデウスは拒否はしないのだ。
「俺は、「その手袋は取ってくれよ。剣を握ったものだろう」」
長身の男に近づいたアマデウスは、セフィロスを見上げて言った。
奔放な性格である彼は、一度言い出したら聞かない性格でもあるらしい。
仕方なく手袋を外したセフィロスは、アマデウスにより蓋を開けられたピアノに視線を移す。
白雪を想わせる白鍵に艶やかな黒鍵が引き立つ、調和された世界がそこにあった。
アマデウスに言われるがままに、セフィロスはうつくしい彫刻がなされた椅子に座ると、その指を鍵盤へと乗せる。
そうして記憶を手繰るように、浮かんでくる旋律をそのまま音にしていく。
瞳を閉じたアマデウスは、珍しく黙したままそれを聞いていた。
「……
滑るように動いていた指が止まった瞬間、アマデウスはその瞳を開けた。
表面上はとても美しい、しかし中身が
セフィロスの音は正確無比な、機械的なものであったのだ。
それは、セフィロスにとって音楽というものは、研究データを取る為に与えられた一つに過ぎないからだろう。
誰の為でもないその音は、曲ではない。
ただ楽譜を読み取り音にしただけの心無きものだ、と言われてしまえばそこまでなのだ。
しかし、アマデウスはその中に埋もれる一つを見抜いた。
だからこそ、途中で演奏を止めさせはしなかったのである。
「女神の加護が泣いているよ」
「……女神?」
「いい鍵盤には女神の加護が宿るものさ。
そして鍵盤は、この僕であり、このピアノである。
演者は時に愛を、時に涙を、時に苦悩を込めて、世界をつくるものだ。
そうでなければ、女神への冒涜に値するからね」
ぽん、とアマデウスの指が一つの音を鳴らす。
たった一音、それでもその音は星が降りる如くうつくしい響きを孕んでいた。
「……でも、君に奏でる資格がないとは言わない。
セフィロス。今の君は、芽生えだ」
音の天才は、音を通して人を知るらしい。
全てを見通した緑の瞳は、揺るぎない自信に溢れていた。
セフィロスが椅子から立ち上がると、アマデウスが椅子へと座る。
それと同時に、まるでタイミングを図ったかのように、軽い音を立てて扉が開かれた。
「ごきげんよう、アマデウス。
……あら、あなたは……天使さま!!」
「ぶっ!!アハハハハハハ!!
ま、マリア、て、て、天使って、ハハハハッ!!」
「もう!!アマデウスったら、はしたない。
そのように笑うだなんて、失礼だわ」
可憐な愛らしさを具現化したような少女は、弾むような足取りでセフィロスに近付いた。
彼女の動きに合わせて跳ねる金の糸に、慈しみが滲む青の瞳はあたたかな温度を湛えている。
生まれながらの
「はじめまして、セフィロス。マリーよ」
国を魅了したその微笑みは、まさにその生き様に似合うものであった。
そこに哀しき王妃の姿はない。陽だまりの中にきらきらと輝く、宝石のような英霊が、セフィロスを見上げていた。
「そうだ、マリア。君に送りたい曲があるんだ」
「まあ!素敵だわ、アマデウス。聞かせて頂戴」
「セフィロス。君も聞いていきたまえ」
「ええ、ええ。それが良いわ。
ねえ、セフィロス……此方へ。貴方も一緒に聞きましょう」
滑らかなマリーの手が、セフィロスの手を取った。
そうして、特等席だという場所まで王妃自らエスコートをしたのだ。
その天真爛漫さは、隔たりなく国民を愛した彼女が持つ魅力なのだろう。
あたたかなその手を振り払う隙はなかった。
仕方なくセフィロスは、音楽界至高の聖人が奏でる
「君は、何処となく僕の友人と似ているよ」
演奏を終えたアマデウスは、セフィロスに視線を移すと小さくそう呟く。
その言葉にぴくりと反応したのはマリーであり、一瞬ではあるもののその瞳に影が走ったことに、セフィロスは気が付いた。それは、どんな悲劇があろうとも、常に笑顔で在ろうとする彼女が見せる、珍しい
「また気が向いたら、弾きに来ると良い。
……君の変化には、僕も興味があるんだ」
何かを想うようなその瞳は、セフィロスを通して誰かを見ているようであった。
***
「おや、セフィロス。此処にいたのか」
セフィロスの視界に、赤紫の髪がふわりと広がる。
体のラインに沿ったスーツを纏う影の国の女は、ヒールの音を響かせてセフィロスへと近づいた。
「ずっと考えていたのだがお主……ランサーの特性もあるだろう」
「……使えぬことはないが、必要はない」
「まあそう言うな。何事も経験だぞ、セフィロスよ」
にいと口角を上げた、その笑い方は弟子のそれとも似ていた。
弓を使わない弓兵もいるくらいなのだから今更だが、英霊たちは皆、主なクラスとは別に特性を持っている。
英雄たちは多芸なものが多いので、クラスを越えて武器を振るったり、騎乗スキルを発揮したりと、比較的自由にしているらしい。
セフィロスも、剣以外に興味を示さなかっただけで、使おうと思えば使用することは可能だ。
しかし戦力に溢れるこのカルデアで、愛刀以外を振るう理由は無い。
そう判断したのだが、どうやら英霊というのは自分の意見を曲げないらしい。
スカサハは、セフィロスの腕を掴むと、その儘トレーニングルームへと向かったのであった。
「物は試しだ。ふふ……私の教えは、実践あるのみ。
付き合ってくれような、セフィロス」
「……それが目的か」
「なあに、戯れよ。私は弟子を虐げる趣味はない」
投げ渡された真紅の魔槍を受け取ると、くるりと回す。
慣れない感覚だが、言った通り使えないことはなさそうであった。
問題は、目の前にいる相手にあるのである。付け焼刃が通じる相手でもあるまいに、とセフィロスは溜息を吐いた。
どの口が、とか、いつの間に弟子に数えられていたのか、とか、第三者がいれば口を挟んでいただろう。
セフィロスが次に口を開く前に、襲い来た朱色を、朱色で弾く。
こうなっては意地でも槍を使うしか、生き残る術はないだろう。
くつくつと愉快そうに笑う女王は獲物を見定める双眸を煌めかせると、再びセフィロスへと槍を向けた。
勿論、そこに手加減などはなかったのである。
「派手にやられたな」
「見ていたなら、なんとかしてくれ」
「そりゃ無理だ。俺にだって戦いたくない相手はいる」
容赦なく突き立てられた無数の槍を引き抜くと、トレーニングルームの白い床が赤に染まる。蜂の巣となることからは逃れられたが、前に手合わせをした時よりもダメージは大きかった。それもその筈である。慣れない武器を押し付けられ、全力で手合せをさせられたのだ。
当の本人は満足げに艶々と顔を輝かせると、またな、という不穏な言葉を残して去って行った。どうやら適いたくない、御眼鏡に適ってしまったらしい。
自らに回復魔法を掛けて損傷部位を塞いでいたセフィロスに、足元から声が掛けられる。似て異なる本人より少し高めのトーンの声は、顔を見なくともわかった。
「塞いだのか」
「ああ」
血濡れのコートはどうしようもないが、傷の方は問題はない。
セフィロスは、床に転がるスカサハから借りた槍を拾い上げる。
すると足元にいたそれは、セフィロスが屈んだと同時に床を蹴り、軽快な身のこなしで体をよじ登った。
肩に座ったそれは、黒い棘を宿した尾をセフィロスの首に巻くと、赤い瞳を向けた。
「お前も、厄介なのに好かれやがる」
「……お前程ではないさ」
縫いぐるみのような小さな体に鋭い目と尻尾を持つ小さな獣は、クーフーリンの名を持つ一人でもあった。
その
マスターリツカがバレンタインのお返しとして受け取ったらしく、クーちゃんという可愛らしい愛称で呼ばれているが、その力は決して可愛らしいものではなかった。
ちなみに、以前セフィロスの寝床に潜り込んでいた所を引っ張り出したのが、二人の出会いである。
「血生臭ぇ、さっさと着替えろ」
「言われずともそのつもりだ」
会話自体は淡々としているが、相性は良いらしい。
テンポ良く会話を重ねながらトレーニングルームを出ると、遠くから勢い良く何かが近付いて来るのがわかった。
「あーーーーーっ!!クーちゃん、此処にいたのね!!!!」
「うるせえ、チー鱈ぶつけんぞ」
風に靡くピンクの髪に、勝気な金の瞳が星のように輝く。
勢いに任せて姿を現したのは、白い衣を纏うコノートのうつくしき女王であった。
肩に座るクーにそう声を上げると、彼女はぐとセフィロスへと詰め寄る。
「あら、貴方が……片翼の。うん、いい男じゃない!!
私はメイヴ。女王メイヴ!私のために戦ってくれる素敵な勇士に、貴方はなって下さるかしら」
うっとりとした蕩けるような瞳は、メイヴのロックオンのサインであることを肩の上の獣は知っていた。
スイッチが入ってしまったらしい、と面倒そうに目を細めたクーに、セフィロスもまた溜息を吐く。
良い男と財を愛するメイヴは、天真爛漫な少女のようであると共に、淫蕩を好み暴悪さも持ち合わせる破天荒な女性であった。特に
クーは、彼女が求める男の条件を思い浮かべる。
彼女がもう何度も口にしている為、不本意ではあるが覚えてしまっていたのだ。
『気前よく、嫉妬せず、恐れを知らない勇士』確かに、当て嵌まりそうな気もした。
「……探し物は見つかっただろう」
「うん?あ、いいの、貴方と一緒なら大歓迎だわ」
「おい、メイヴ」
「きゃあ……セフィロス、貴方血塗れじゃない!
血も滴るイイ男、だけど……折角の綺麗な髪が、痛んじゃう!」
「マスターが、呼んでたぞ。さっさと行ってやれ」
このままだとセフィロスごと彼女の部屋に連れ込まれる、と先手を打ったクーの言葉に、メイヴはぴたりと動きを止める。彼女の優先順位は言わずもがなではあるが、このカルデアにいる間はそうも言っていられないのだ。
クーフーリンという男に執着していたメイヴだが、カルデアで過ごす内に彼女の中の蟠りが少し解消されたらしい。
勿論それが失せることはないのだろうが、以前ほど付き纏われなくなったと、彼らは口を揃えて言う。
その変化を齎したのは、マスターリツカの影響でもあろう。
実は世話焼きの一面もある彼女は、マスターを時に弟のように面倒を見るのだ。
「……仕方ないわ。残念だけど……。
ねえ、セフィロス。私、もっと貴方のことを知りたいの。
今度また会って下さる?」
クーちゃんもセットだと嬉しいわ、と無邪気に笑ったメイヴは、そのまま返事も聞かずに来た道を戻っていった。
その足取りが妙に軽く見えたことから、彼女の中ではもう決定事項なのだろう。
嵐のような彼女に、なんとも言えない顔をしているセフィロスの肩を、クーの尻尾が叩いた。
***
「お、戻ったか……って、その槍、まさか」
「師匠がまた何かしたのかい。
全く、ちっとは歳考えろってんだ」
「おいやめろ俺、不用意な発言すると俺らまでとばっちり食らうんだよ」
「……勝ったのか?」
自室の扉を開けると、ずらりと並ぶ青い頭が目に入る。
部屋を間違えたのかと思うくらい、我が物顔で揃ってソファーで寛ぐクーフーリンたちに、セフィロスは溜息を禁じ得なかった。だが、まあ丁度良いかと、手にしていた朱槍をキャスターへと投げ渡す。
「っと、」
「借り物だ。返しておいてくれ」
「あ?借り物だと?」
不思議そうに槍を見るキャスターとランサーに、セフィロスは簡易的に説明をする。
「あー、そりゃ……なんつーか、良く生きてんなお前さん」
一気に同情の眼差しとなった4つの紅玉に、苦く笑ったプロトが労うように言葉を掛けた。
「ふん、つまらんな。てめえの得物で本気で
オルタがセフィロスにそう吐き捨てた。
だが、元々はあの師匠の思い付きであるので、セフィロスはそれに巻き込まれたに過ぎない。
黒い色のコートは一見わかりにくいが、濃厚な血の匂いに濡れており、その匂いに触発されたオルタの目が変わった。
それを察したセフィロスは踵を返して背を向けようとしたが、伸びて来た狂王の手に腕を掴まれ阻止される。
「丁度良いじゃねえか。てめえも中途半端なんだろう?」
くつくつと笑う棘の王に、8つの赤が爛々と燃え盛った。
呆れたような顔を見せたセフィロスも、遊びという名の鍛錬は嫌いではない。
立ち上がった猛犬たちに、セフィロスもまた続いていく。
こうして休日は過ぎていくのである。
*終わり*