第FⅦ特異点 片翼の天使   作:陽朧

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2-6 宝条研究室にて④

かつて女王メイヴがクーフーリンオルタを呼び出したように、宝条もまた聖杯に願いを捧げた。

そうして呼び出された英霊(セフィロス)は、まさに混沌と悪を体現した姿をしている。

黒衣を揺らし銀を靡かせる男の目は、暗い闇に張る氷のようだ。

温度を拒絶する青い瞳を灯せるのは、復讐という名の業火のみ。

 

その生涯から人類への復讐にしか興味を示さない男には、唯一の存在があった。

それが厄災(はは)なるものである。

悲しき英雄を狂わせた宇宙からの侵略者は、英霊となって尚もセフィロスという男の心を雁字搦めに縛り付けている。

 

 

「お前も、私の一部ならば憶えている筈だ。

私に残った最後の尊厳すら奪い去った、あの痛みを。

一つ一つが、罅割れ、壊れていく音を」

 

「……ああ、その痛みは知っている。

しかし、お前の行為はその傷を広げるだけだ」

 

 

目の前の宝条の聖杯(セフィロス)は、宝条の思い描いた姿そのものであり、完全にジェノバと一体化した存在であり完成品である。一つの星を崩壊へと追いやった力を持ち、神へと代わる存在になり得るものと言って良いだろう。

 

 

「……何故、あの男に従う?

少なくとも、俺にはただの狂人にしか見えないがね」

 

「ふん、従う気はないさ。科学者としても二流以下の役に立たん男だ。

しかし……アレの狡猾さは悪くはない。

私という作品の為ならば、アレは何でもするだろう」

 

「それが例え、無垢なる命の上に成り立つものだとしても……か」

 

「ふふ、いずれ失われるものだ。何を嘆く?」

 

 

エミヤオルタは、己が知るセフィロスよりも表情豊かなその英霊を睨み付けた。

表情豊かといえど、そこに人間らしさはない。寧ろ背筋を撫でる嗤い方は宝条と重なって見える。

 

 

「まさか、此処で終わりではないだろう?カルデアの英霊よ」

 

「誰に向かって言っておる。頭が高い、神にひれ伏せ」

 

「ふん。神はこの私だ。神は一人で良い」

 

 

薄らと浮かぶ妖しげな笑みを、スカディが冷たく睨み付けた。

 

そして再びぶつかり合う剣と銃剣、弾き合う剣と氷、鬩ぎ合う剣と剣。

しかしそれが何度繰り返されようとも、その英霊の余裕が崩れることはなかった。

 

傷を負っても直ぐに修復される身体は、セフィロスと同じものであるが故に、敵に回すと相当厄介なものである。

しかもその力は完全なるジェノバの力を継いでいる分、セフィロスよりも英霊の方が上回っていた。

 

 

「っち、しぶとい奴だ……っ」

 

「どうした?使いこなせない武器(おもちゃ)なら片付けろ。目障りだ」

 

「生憎……これは、俺のオリジナルでね……っ!」

 

 

鋭い咆哮と共に放たれる数多の銃弾を、英霊の刃が全て切り裂く。

生じた隙に素早く距離を詰めると、手にした銃剣を振り翳した。

 

だが、銀の糸から覗く口元は、歪な笑みを浮かべていたのだ。

 

誘い込まれたのだと気付いた時には、エミヤオルタの心臓部へと長い剣先が伸びていたのである。

ぷつりと肌を刺す感覚に身体を逸らそうとするが間に合わない。

それならばと、ダメージを最小限とする為に魔力を練り始めたその時、何かがエミヤオルタを突き飛ばした。

咄嗟に受け身を取り床へと着地した彼は、直ぐに顔を上げ己がいた場所を見て、その目を見開く。

 

そこには、恐ろしい程に長い刃に貫かれたセフィロスの姿があった。

しかも、細い刃先は心臓部を突いているようにも見えるのだ。

 

後方で上がったスカディの悲鳴に、エミヤオルタははっと意識を取り戻した。

 

 

「っ……ぐ、」

 

「……ほう?あの男が生み出した模造品(おもちゃ)の一つだと思っていたが、どうやら違うらしいな」

 

 

英霊がその剣を握る手を上げると、セフィロスの体が浮き上がる。

溢れ出る血と、黒いコートから滴る血が、白い床を染め上げた。

 

英霊はセフィロスをまじまじと見上げると、ねっとりとした蛇を想わせる瞳を細めた。

交わう青と青の、瞳。それが全く異なる色を持つことを、知る。

 

 

「セフィロス!!」

 

 

クーフーリンオルタやスカサハの朱槍で心臓を抉られようが、悠然とした表情を浮かべていたセフィロスに、始めて苦痛の色が浮かぶ。英霊の剣で貫かれた部分から、これまでにない身体の内側から焼けるような激痛が走ったのだ。

逆流する血が、その唇から伝う。

それを見たスカディが杖を振るい魔術を唱えると、ぱきぱきと音を立てて英霊の足元が凍り付く。

同時に出現した氷の矢が英霊に向けられたかと思うと、一斉に放たれた。

 

凄まじい速度で迫り来るそれに視線を流すと、英霊は足に絡む氷塊へと炎の魔法を放つ。

だが氷雪の女王が生み出す氷は、慈悲なきもの。炎を以てしても簡単に溶かすことは出来ない。

 

 

「……ぐう……っ」

 

 

降り注ぐ女王の矢を受け、英霊の手から剣が零れ落ちる。

それと共にセフィロスの身体は床へと崩れた。

すかさず駆け寄ったスカディは、突き立つ剣を引き抜く。

心臓からは外れているが、出血が多い。太い動脈を損傷したらしいことが窺えた。

 

しかし通常ならば、セフィロスの自己治癒力は凄まじく大抵の傷は直ぐに塞がってしまう筈である。

だがその傷は一向に塞がる様子はなかった。

スカディは表情を歪めて、セフィロスの顔を覗き込んだ。

 

 

「セフィロス、セフィロス……。ああ、痛いだろう?

すまぬ……私は、回復魔術を持たぬのだ」

 

「……問題ない」

 

「待て、動いてはならぬ……!」

 

 

身を起こそうとするセフィロスを、スカディがそっと抑えた。

そして、床に膝を付いて座ると、その頭を己の膝に乗せる。

スカディが扱う術は、主に自然の力を借りそれを刃とするものであった。

 

故に回復させる術を持たない彼女はせめてもの応急処置として、止血の為に自らのドレスを引き裂いたのだ。

 

英霊は死ぬことはないが、一定の傷を負うとカルデアへと強制送還されてしまう。

セフィロスがそれの対象となるかは微妙なところではあるが、しかし、彼女が止めたのはそのような理由ではなかった。

 

スカディの処置により抑えられているものの、流れ出る血は止まることを知らない。

大丈夫だと無理にでも体を起こそうとするセフィロスの顔色は、かつてない程悪かった。

殺しきれない苦痛に歪む顔と零れる声からは、いつもの余裕は欠片ほど見えない。

あの英霊の攻撃はセフィロスにとって重大なダメージになるようだと、遠目から見ていたエミヤオルタは眉を顰めた。

彼は今までセフィロスという男を、尋常ではない自己回復に優れ、クラス及び属性共に相性の良し悪しがない、使い勝手の良い存在であると認識していた。しかし、どうやらそれは間違えであったらしい。

 

 

「ふっふっふ……」

 

「……大した、回復力だ。久方ぶりに背筋が凍ったよ」

 

 

それに対してゆらりと立ち上がった英霊は、あれだけの攻撃を受けながらも傷一つ負っていなかった。

英霊の動きを警戒していたエミヤオルタが再び銃剣を構える。

だが、英霊はゆっくりと顔を上げると、セフィロスにその目を向けた。

 

 

「お前の、大切なものは……『それ』か?」

 

 

低く喉を鳴らした英霊が、仄暗い冷笑を浮かべる。

その含みを持った言葉を聞いた瞬間、エミヤオルタの脳内に警報が鳴り響く。

剣を構え直した英霊がセフィロス目掛けて地を蹴るのと同時に、エミヤオルタも足を動かした。

 

キィン、と響いた金属音は、繰り出された英霊の刃を一対の剣が受け止めた音であった。

セフィロスを庇うように杖を手にしたスカディは、己を守るように立つエミヤオルタに、守りの魔術を掛ける。 

 

 

「……狙撃手(アーチャー)が前線に出るとは、愚かな。

さて、どこまで耐えられる?」

 

「ぐ……っ」

 

 

ぎりぎりと交わう刀同士は鍔迫り合いとなり、至近距離でぶつかる青と金の瞳が射るような眼光を放つ。

見るものを気圧すような互い瞳に、違う色が滲み始めた。

剣を扱うもの(セイバー)であろう英霊と、真正面から打ち合っては少なくとも力勝負では負けるだろう。

宝具を展開しようにも近くにマスターがいない今、魔力を大幅に消費することは避けたい。

どうする、と焦りを滲ませるエミヤオルタを、愉快とでも言うように英霊が嗤った。

 

 

「いい顔だ……。しかし、此処で終わりにしよう」

 

 

縦に裂けた瞳孔が目の前に迫ったかと思うと、突如込められた力に押し切られるように弾かれる。

そして次を構える隙を与えず、横に振られた刀に薙ぎ払われ、エミヤオルタは壁へと激突した。

壁に頭をぶつけるも、ぐと唇を嚙み意識を保った彼は、ふらついた身体で起き上がろうとする。

 

 

「例え、お前に何が混ざっていようとも……。

所詮は私の模造品(コピー)であることに、変わりはない。

まずは、そうだな……。お前の大事なものを、壊すとしよう」

 

「っ、……やめろ」

 

 

セフィロスは、突き付けられた刀と言葉に、目の前の英霊が何をしようとしているのかを察した。

叫ぶように声を上げると、全身が麻痺したように動かない身体を力付くで動かして片手に剣を握り締めた。

だがその瞬間、柔らかい手がセフィロスの身体を抱き締めたのだ。

 

それにより塞がれた視界の中で、セフィロスの耳に肉を裂く音が響く。

 

 

「……っなに……!?」

 

「くっ……ああ、痛い……。私は、痛いのが嫌いなのだ」

 

「……な、ぜ……、なぜ、そこまで」

 

「お前こそ何を言っている、私は、人を愛する神霊(はは)であるぞ。

生きとし生ける大地の子は我が子であり、愛するもの。

……故に、問う理由はないだろう」

 

「……私の、母の名はジェノバ。

そして私を、愛するものは……。私が、愛するものは……」

 

「お前はもう、人の道理を外れた化け物よ。

どのような運命の下であろうが、な。

……だが、せめてもの情け、最後にこの私の慈悲を与えよう」

 

 

セフィロスを掻き抱く腕に、一切の迷いも震えもなかった。

それと対比する刃は小刻みに震え、浮かべられていた薄笑いが完全に崩れている。

スカディはその胸を貫いた刃にも動じず、ただ静かに、英霊の顔を見上げていた。

明鏡止水を映した赤みを帯びた紫の瞳が、英霊を揺るがしていたのだ。

 

彼女が言うように、その英霊は大いなる地母神の慈愛から外れた存在である。

心身ともに英雄(セフィロス)という存在をまるごと乗っ取ったジェノバの分身、それは彼女の庇護下(こども)ではない。だが英霊の言葉の端々に感じる狂気から、時折垣間見える母親への想いをスカサハ=スカディは哀れんだのだ。

 

 

「……お前に残った、心は泣いているよ」

 

「何を、馬鹿なことを」

 

「いくら成り代ろうと、その心は代わりはせぬ。

お前の怒りの、そして嘆きの根源が悲しみである以上、お前の企みは決して成就することはない」

 

「悲しみ?……悲しみだと

私に、何を悲しめというのだ……?」

 

 

ずるりと、長い剣がスカディから抜き取られる。

そして震えた声が、噛み締めるようにゆっくりとそう問うた。

英霊の表情は嘲笑のそれであるが、声には確かに怒りの感情が込められており、スカサハを射抜く瞳にもそれが滲んでいる。

 

 

「……お前は、人間であったよ」

 

「黙れ、……お前に、何がわかる……」

 

 

研ぎ澄まされた刀身が、赤を滴らせてぬるりと光る。

スカディの凪いだ顔と声を拒絶するかのように、顔を歪めた英霊は彼女に向けて刀を振るう。

びちゃ、と飛び散った、赤い飛沫がセフィロスの頬を濡らした。

 

 

「……っ……!!」

 

 

ひと際強く込められた腕は、スカディの想いを表していたのかもしれない。

するりと解かれた腕に、セフィロスが身体を起き上がらせると、後ろへと倒れ行く彼女の姿が見えた。

まだ麻痺の残る身体を無理矢理起こして、彼女の身体を受け止める。

首を走る深い傷を見るに、致命傷であることは間違えなさそうだ。

 

セフィロスはスカディの身体を抱き上げると、剣についた血を払い構え直した英霊と距離を取る為に、後ろへと跳躍した。そして回復魔法を唱えようとするも、不気味な笑い声と共に放たれた斬撃派はその余裕を与えてはくれない。

 

 

「……連れて、撤退しろ」

 

「お前はどうする」

 

「後を追うさ」

 

「仕方ない……か、わかった。だが、必ず来い」

 

 

狙撃手らしく物陰に潜み、英霊の攻撃を妨害していたエミヤオルタに目配せをする。

傭兵として数多の戦場を駆け抜けてきた英霊は、冷静に現在の状況を見極めていた。

セフィロスの言葉に静かに頷いた彼は、片手の銃をしまいスカディを受け取った。

 

 

「ククッ、逃げられるとでも、思ったか?」

 

「……俺が、相手になろう」

 

 

すかさず振り下ろされた刀を、セフィロスが弾く。

そして、エミヤオルタに早く行けと視線を送ると、阻止しようと動き出す英霊の足止めをする。

 

 

「セフィロス……これを使え」

 

「これは……」

 

「セトラブレイドという剣だ。

あのデータに残っていたものを再現した。

……あくまで模造品だがな」

 

「……」

 

 

魔術を発動させたエミヤオルタが、一本の刀を投影し、セフィロスへと差し出す。

それは、柄の部分に片翼があしらわれた、黒い洋剣であった。

宝条の研究室にあったパソコンのデーターの中にあったというその剣を忠実に再現した彼が、それを憶えていたのは偶々のことであったのだ。

 

エミヤオルタは、そうして改めて見たセフィロスの表情に静かに息を零す。

静かな、だが、隠しきれない確かな怒りが、今にも噴出さんばかりにそこにあった。

 

 

「貸しはつくらない主義でね」

 

「そうか」

 

 

帰還する為に必要となる魔力だけを残し、エミヤオルタに残る全ての力を込めて作り上げたそれは艶やかな漆黒に相応しい力が込められていた。その剣に持ち替えたセフィロスは、ぴったりと手に馴染む感覚に不思議な懐かしさを覚える。

 

 

「……約束を、違えるなよ。セフィロス」

 

「わかっているさ」

 

「帰る場所を、決して間違えるな。

俺に言えることは……それが、全てだ」

 

「……ああ」

 

 

無感情にも思えるその言葉は、何処か重々しい響きを持っていた。

頷いたセフィロスに一瞥をくれたエミヤオルタは、スカディを抱え直すと扉の方に向けて床を蹴った。

そして彼らの前に立ちふさがった英霊を、セフィロスが代わりに応戦する。

そうして、始まった剣戟に背を向けた彼は、一度も振り返ることなく部屋を出たのである。

 

 

 

***

 

 

 

「やあ、無事なようでなりより」

 

「……どうやら、視力に問題があるようだね。

老眼なら早めの対処をお勧めするよ」

 

「やだなあ、私はそんなに老いたつもりはないよ」

 

 

一階のフロントへと戻ったエミヤオルタは、待ち受けていたリツカ達と合流することに成功した。

花の魔術師の『眼』に狂いはなかったようで、現状を把握しているらしいリツカが、慌ててエミヤオルタに駆け寄ると意識をなくしてぐったりとしたスカディへと魔力を送る。

 

 

「仮にも神に名を連ねるものだ、大したことはないだろうが……早く帰還する必要があるな」

 

「……そう、良かった」

 

「ねえ、……おにいちゃんは?」

 

「取込み中だ。時間が掛かるだろうね」

 

「あくまでも今回の任務は、視察なんだろうマスター?」

 

「うん、そうだけど……でも」

 

「うーん。私は撤退をお勧めするかなあ。

ちょーっと相性が悪そうだ」

 

「でも、セフィロスが」

 

 

不安げに瞳を揺らすジャックに、エミヤオルタが淡々と返した。

その『眼』を通して敵を見たマーリンが険しい顔を見せる。

スカディが戦闘不能となってしまった今、一度戻って編成を組み直すべきだと、リツカは頭の隅ではわかっていた。

しかしセフィロスを一人残していくのは嫌だったのだ。

 

 

「……マスター」

 

「うん、わかっている。わかっているけど……」

 

「しょーがねえなあ、マスター。俺が残ろう。それなら良いだろ?」

 

「燕青。でも」

 

 

任務における最優先は、マスターリツカの安全であり、全滅の回避である。それを忠実に守るエミヤオルタが鋭い瞳を向けるが、リツカは素直に頷けなかった。

それを察した燕青が、明るい笑みを浮かべてそう提案した。主であるリツカの性格は重々承知していたので、彼の考えることなどお見通しであったのだ。

 

 

『リツカ君、事情はわかった。此方からも撤退を推奨するよ』

 

「ドクター……」

 

『……送ってもらったデータの解析が全て終了した。

調べるべきことは、一通り完了したと言って良いだろう』

 

「でもドクター!セフィロスが」

 

『ああ、勿論把握している。

だから……編成を替えよう。そのメンバーだと相性が悪すぎる』

 

「……なら俺は此処に残るから、カルデアから英霊を送って」

 

『それだとリスクが高い。スカディも戦闘不能だ。

万が一のことを考えると、賛成できない』

 

「そんな」

 

『わかるだろう、そこは宝条博士のテリトリーだ。

詳しくは後で話すけど、……敵は一人とは限らないんだ」

 

「え……」

 

『……一度、帰っておいで』

 

 

軽い音を立てて通信機が作動したかと思うと、ドクターからの連絡が入った。

今までにないくらいに神妙な顔をした彼は、いつもよりも低いトーンで指示を出す。

その後ろでダヴィンチやホームズを筆頭とした頭脳班が、ドクターと同じような顔をして、書類と思われるものと向き合っている姿が見える。

 

セフィロスたち探索組を待っている間に、リツカ達は宝条の研究室を調べ尽くしていた。

すると膨大な記録の中から、内部秘として扱われている重要書類が多く出て来たのだ。それにパソコンの中に入っていた実験データを重ねると、宝条が行おうとしていたことの予測が付いたらしい。

今行われているのは、ディスカッションを含めた解読であろう。

 

 

「……おかあさん」

 

「うん?どうしたの、ジャック」

 

「わたしたちも、残る」

 

「え、でも」

 

「……お願い」

 

 

くい、と服の裾が引かれる感覚にリツカは目線を下げると、そこには真剣な顔をしたジャックが見上げていた。

いつもの子供らしい無邪気な明るさはそこにはなく、浮かぶのは不安と心配といったセフィロスを案じる表情である。それをみたリツカは、考えるように眉を顰める。だが、彼にはジャックの気持ちが良くわかった。

 

 

「わかった。……俺の分も、頼むよジャック」

 

「うん!」

 

 

リツカは託すように願いを込めてジャックの頭を撫でた。

それに強く頷いたジャックに、決心がついたリツカは改めて撤退を宣言した。

 

こうして燕青とジャックを残して、リツカ達はカルデアへと戻ることとなったのだ。

その間も何かを考えるように黙したマーリンの表情を見て、エミヤオルタは静かに目を細めた。

 

 

 

 

 


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