第FⅦ特異点 片翼の天使   作:陽朧

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2-11 宝条研究室にて⑥

ぱあん、と鋭い銃声が遥か遠くに揺れる的を射抜く。

人間の肉眼では捉えることすら不可能な距離に、エネミーを模した的が不規則に歩き回っており、放たれた銃弾が狂いなくそれらの急所を貫いた。

 

カルデアの豊富な施設の一つに、トレーニングルームの隣に併設されている射撃場がある。

主にアーチャークラスの英霊たちが利用しているそこは、あらゆる場面に対応した最新鋭のバーチャルシステムが導入されていた。

単なる腕試しとしても、カスタマイズをした武器の試し撃ちとしても用いられており、個室で分かれている。

一人でも複数人でも利用出来るため、使い勝手が良いと好評を博しているのである。

 

 

「見事なものだな」

 

「なに、当然のことさ。

こんな身形でも(腐っても)弓兵(アーチャー)なのでね」

 

 

しなやかな指裁きでリロードを行い、碌に標準も合わせずに引き金を引く。

魔力を駆使すればリロードすら必要はないが、そこは本来の性質(カッコ付け)に無意識ながら引っ張られているのかもしれなかった。

それに、この英霊は機械音を好んでいた。

カスタマイズにより異なる音色は、銃の悲鳴でもあり歓声でもある。

何処かに狂いが生じればその音色は不快なものとなり、細部に至るまでが完璧に仕上がるとその音色は軽やかなものとなる。その繊細さが堪らなく、男の性質を擽るのだ。

 

あくまでも効率を重視した武器だ、と無感情に銃を繰る持ち主であるが、彼のマスターは見抜いていた。

拘りに拘り抜いて造り上げたその銃が、何もかもを失った男(ロストマン)が唯一持つ意志なのだということを。

 

全ての(イミテーション)を殲滅したことを告げる音が鳴ると、構えられていた銃が下げられる。

 

 

「それで、何用かね。アンタも訓練か?

まさか、その(なり)弓兵(アーチャー)の適性があるとは言うまい」

 

「お前には言われたくないがな。

……依頼だ、傭兵」

 

「依頼……?」

 

「無論、それなりの報酬は払うさ」

 

「ほう?……話は聞こうじゃないか」

 

 

射撃中に、突然入ってきたその気配に気付いてはいた。

振り返らずそれに問うと、意外な言葉が返された。

思わず眉を顰め、入口の扉の横に凭れた黒いコートを振り返る。

 

 

「もう一度、宝条の研究所に行く」

 

「……それで?

まさか、この俺に同行しろとでも?」

 

「そうだ」

 

「はあ、概ね予想が付くが……。

何故俺に依頼する?」

 

「お前の力を借りたい。それだけだ」

 

「……だろうな。

俺は、アンタの武器庫ではないのだがね」

 

 

呆れたような仕草で溜息を吐くと、傍若無人に自分を利用しようとする男を睨む。

だが腕を組むその男は、涼しげな顔で言葉を繋げた。

 

 

「融けゆく記憶に、抗う気はないか?」

 

「……」

 

「一時的であるが、歯止めを掛けることは出来る。

例えそれがお前が望んだことであろうとも、日記を綴り続ける日々は退屈だろう」

 

「マスター、か。全く少しはプライバシーというものを尊重して欲しいものだ。

それが報酬というわけか?」

 

「悪くない条件だろう」

 

「余計なお世話というヤツだよ。

……だが、そうだな。

例え一時的であったとしても、取り戻せるなら……味覚の方が、良い」

 

 

虚ろな金の瞳が明瞭な光を宿すのは、敵を殲滅するという己の存在意義を満たすその時だ。

しかし、今、遠くを見据える金色は、何かを懐かしむように、柔らかな光が浮かんでいた。

 

 

「交渉成立だな」

 

 

青い瞳を伏せた男は、静かに呟く。

そして踵を返して背を向けると、ゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。

 

 

「ふん。……何を企んでいるかは知らんが、暇潰しぐらいにはなりそうだ」

 

 

頑なに自分を語ろうとせず、単独行動を旨としていた男の『依頼』に興味がないといえば嘘になる。

男が自分に何をさせようとしているのかは、これまでの一連の事から想像に容易い。

宝条のデータから見つけ出した『とある剣』を、投影した己を、再び使おうとしているのだろう。

提示された報酬は、もはや己にとって必要とはしないものであったが。

良いように使われているのは、慣れている。

依頼を受けたのは、唯の興味から来る、気紛れであった。

 

銃をしまうと先に出て行った男を追うように、明け方の静寂に包まれたカルデアの廊下に出た。

宵が残る空の色に染められた銀髪が、遠くに見える。

そして、その隣に見えた青い色に、ただ溜息を零したのである。

 

 

 

***

 

 

 

 

「おいおい、セフィロス。

そいつも連れて行くのかよ」

 

「何があるか、わからんからな」

 

「ったく、何でこうも縁があるのかね」

 

「腐り果てた縁など、縁とは呼べんよ。

相も変わらず小さな男だな」

 

「あァ?こちとら、てめえの顔なんざ見飽きてんだ。

愚痴ぐらい零しても罰はあたりゃしねえよ」

 

「はっ。それは、俺の台詞だとは思わんかね」

 

 

例え辿って来た運命が異なったとしても、その名を持つものである限りこの二人の仲に変化は無いようだ。

背後で、絶えず言い合いを続ける彼らに、構うことなくセフィロスは足を進める。

何故か行き先を知っていた彼女(かれ)の、絵画に見るよりも麗しい微笑みに見送られながら、カルデアを出た三人は再び地上へと降り立つ。そして記憶に新しい道を辿り、研究所へと着いた。

更におどろおどろしい雰囲気を感じるのは、研究所内で行われていたこと、そして研究所内に潜んでいたものを知ってしまったことに起因するのだろうか。

 

セフィロスは、あの宝条という男がどういう男(狂人)であるかを身を以て理解している。

だが、あのマスターを始めとした所謂この世界の人間たちが、その異常性を明確に把握したのは、カルデアへと持ち帰った資料と、データを目にしてからである。

しかし、あの菫の少女がセフィロスに語ったように、元々はカルデアという組織も変わりはないことをしていた。

今はドクターロマニとダヴィンチを筆頭とした優れたスタッフたちによって管理されているが、それ以前は魔術師たちの研究所であったのだ。

要するに、確かに宝条研究所で行われていたことは異常ではあるが、特例ではない。

偶々白日の下に晒された、氷山の一角という扱いとなるだろう。

 

 

「そんで、どうするんだい大将。

使えそうなモンは粗方回収しただろう?」

 

「地下だ」

 

「なるほど。あの場は未探索だったな」

 

 

相変わらず無人の警備室を後目に、この前と同様に正門から入ろうとしたが、この前とは異なる気配に気付いた三人は一度足を止める。唯一、先日の編成に組み込まれていなかったキャスターは、ぴくりと眉を動かした。

 

 

「……大層賑わってんじゃねえか。

人気がねえって聞いていたがな」

 

「その筈だが、どうやら状況が変わったようだ」

 

 

研究所の中に多数の気配が在るのだ。

気配一つ無かったと、マスターから報告を受けていたキャスターは、その赤い双眸を光らせると己の武器を握り締めた。

戦闘モードに切り替わったキャスターに、呆れたような表情を見せたエミヤオルタも、手に一対の銃剣を握る。

そんな英霊たちを横目に、認証装置へと近付き解錠すると、セフィロスは躊躇なく扉を開け放った。

 

 

「っと、手厚い歓迎だ、なっ!!」

 

「おい、扉は閉めておけ。

外に出すと色々と面倒だ」

 

 

開かれた扉に、中にいたそれらが一斉に顔を向けた。

そして三人を認識すると、獣を想わせる唸り声を上げ、襲い掛かってきたのだ。

先陣を切ったキャスターが、杖を振るい、術を放つ。

怯んだその隙を突いて、見事にヘッドショットを決めたオルタが、セフィロスに向けて声を飛ばした。

 

応戦を二人に任せたセフィロスは、地に伏せたそれの隣に膝を付く。

ぼろぼろの白衣に、首に下がる名札用のストラップは、それが人間であった名残であろう。

腐食し変色した皮膚、死人の濁った瞳……。それが生ける屍(ゾンビ)であることは、軽く見ただけでもわかった。

 

 

「全員失敗作ということか」

 

 

英霊の力を以てすれば、それらを倒すことは容易い。

次々と炎に焼かれ、頭を打ち抜かれて倒れていく、ゾンビたちに目を移す。

英霊の力を以てしても、それらを殺すことは困難だ。

時間経過と共に再生する、腐敗した肉体は、また直ぐに起き上がるのだ。

 

 

「とんだ生物学的危害(biohazard)だな。

相手が、人間ではないだけ気が楽だよ……っ!」

 

「けっ、似合わねえ台詞だなあ!」

 

「時間の無駄だ。地下に行くぞ」

 

「ってか、剣兵(saber)がサボってんじゃねえよ!

アンタが唯一の前衛だろ!?」

 

「……前衛しかいないと思うが?」

 

 

悠長にエレベーターを待つ時間はない、と判断したセフィロスは、非常階段のある方へと走り出す。

セフィロスの背に続くキャスターがそう声を上げるが、戦力は足りているだろうと、一蹴される。

その様子を見ていたオルタは溜息を吐くと、走りながら魔力を練り上げた。

 

 

「お望み通り、仕事をしてやろう。使え」

 

「……」

 

「まさか心得がないとは言うまい?」

 

「……趣味ではない」

 

「ふん。俺の知ったことではないな。

それに、ああいう類の敵(ゾンビ)といえば銃が相場だろう」

 

「何の話だ」

 

 

手渡されたのは、銃剣の形を模した銃であった。

銃口が縦に二つ並ぶ、二連装で、十発装填可能の銃を渋々といった様子で手に取ったセフィロスは、洒落たデザインのそれに目を滑らす。

 

 

「ベルベットナイトメア。宝条のデータにあった武器の一つだ」

 

「……そうか」

 

 

宝条のパソコンにアクセスをして、データを引き抜いたのはこのエミヤオルタである。

そして、その中にあった武器のデータを記憶しているらしく、その造りも把握済みであるらしい。

ベルベットナイトメアという名の、銃を手に、セフィロスは小さく溜息を吐いた。

セフィロスは剣士でありながらも、一通りの武器を扱うことは可能だ。

だがしかし、英霊たちとは違い、付け焼き刃に過ぎないだろう。

愉快そうに目を細めるキャスターのように、本来の武器ではなくとも、英霊として独立した存在になり得るほど熟練した腕ではないのだ。

 

 

「さあて、お手並み拝見といこうじゃねえか。セフィロスさんよ」

 

 

廊下の曲がり角のその向こうからぞろぞろと現れた、腐敗し果てた屍たちに、オルタの銃剣が向けられる。

そして三人を追って後ろから迫って来た、それらに向かって、キャスターの炎が放たれた。

だが数が数だけに、全てを足止めすることは不可能であった。

セフィロスは、近距離から飛び掛かって来たそれに、一度銃を噛ませると勢い良く蹴り飛ばした。

その反動で後続の敵たちを巻き込みながら、吹っ飛んでいったゾンビ目掛けて、弾を叩き込んだ。

 

 

「……性に合わん」

 

 

銃は面倒だ、と顔に浮かんだ表情に、オルタが嘲笑を浮かべる。

その面倒なことに付き合わされたツケ代わりの、ほんの戯れであったが、これはこれで中々に愉快だとオルタは軽々と銃剣を振るうと、敵の頭を飛ばした。

 

 

「今のうちだ、一気に突破するぜ!」

 

 

言葉通り、一気に練り上げられた濃厚な魔力を感じたかと思うと、巨大な炎の玉が進行方向の敵を吹き飛ばした。

その隙を突いて、再び走り出した三人は非常階段を下りて行ったのであった。

 

 

 

***

 

 

 

地下に降りた三人は、先日の英霊(セフィロス)と戦った部屋へと足を進めた。

天井に穴が開いている以外は、変化はない。

一階と同く部屋中には敵たちがいたが、キャスターの炎により灰と化した。

 

 

「……ジェノバの姿がない」

 

「ジェノバ?ああ、あの生命体のことか。

持ち去られたのだろう。アンタのお友達にな」

 

 

緑色の液体に満たされた培養槽の中は、全て空となっていた。

あの英霊が『母さん』と呼んだ、ジェノバの姿も消えていたのである。

 

 

「這いずり回った痕跡が残ってんな。

アイツら、全部この中にいたヤツらっつーことか」

 

「恐らくな。もう用済み、ということだろう」

 

「はっ。都合の良い掃除屋として使われた気分だぜ」

 

 

被験体が解放される時は、基本的にデータを取り切った(用済みとなった)時のみである。

敢えて始末はせずに、放置したのには何か理由があるのだろうか。

散らばった書類に目を通しながら、セフィロスはこの研究所が残された意味を考えていた。

宝条のして来たことが明るみとなった今、証拠隠滅も兼ねて研究所ごと焼き払うことも出来た筈だ。

しかし、こうして研究所も、研究所内の資料やデータもそのまま残っている。

セフィロスには、あの狡猾な男(宝条博士)が、ワケもなくこの研究所を放置するとは思えなかった。

 

 

「にしても、勿体ねえな。

こうも敵がうろついてんじゃ……無理か?」

 

「そういえば、アンタは……何故此処に来たのかね」

 

「あー。まあ、アレよ。

外にでけえ薬草園があっただろ?

此処が無人になるっつーんなら、俺の工房にすんのもありかと思ったんだが……」

 

「物好きな男だ。何が植えてあるかわからんぞ」

 

「ははっ、まさかアンタに心配される日が来るとはね」

 

「誰が心配などするか」

 

 

資料に目を通しながらも考え込むセフィロスの背後で、壁に貼られていた地図を凝視していたキャスターは小さくぼやく。

敵の気配を絶えず探っていたオルタは、キャスターの零した言葉に眉を顰めると、関係のない彼がこの研究所を訪れた真意を訪ねた。

マスターからこの研究所のことを聞き、持ち帰った資料に目を通したキャスターは、正面玄関から東の方に、温室と研究室を兼ねた巨大な建物があることを知ったのだ。

使わないのならば、貰ってしまおうと訪れた場所では、敵が大量にうろついており、工房とするには危険であろう。

そう嘆いたキャスターは、セフィロスへと視線を向けた。

 

 

「なあ、あの薬草園……どうにかなんねえかい」

 

「敵を殲滅すれば良い話だ」

 

「……だよなあ。それが一番手っ取り早い……んだが。

偶にはこう、知的にいきてえな」

 

「キャラではないだろう」

 

「どう見ても、知的キャラだろうが!」

 

「いずれにせよ、アレらのことを報告すれば殲滅命令が下りる筈だ。

野放しにしておけば、増えるだけだろうからな」

 

「ほう?奴らは感染するということかね」

 

「ああ、人間が噛まれれば仲間入りだ。

……それに、一部のヤツに噛まれれば英霊も感染する」

 

「なんだと?」

 

「もしかしたら、それが狙いなのかもしれん。

仲間内で争わせるのが、一番手っ取り早い」

 

「……黒化みてえなモンか。

それで、その一部っつーのは?」

 

「さあな。そこまでは書かれていない。

ただ……成功した、という記載があるのみだ」

 

「成功、ねえ。おっそろしいこと考えんなあ、ったく」

 

 

英霊の、所謂ゾンビ化というところであろう。

力を持つものが、敵味方見境なく襲い掛かると考えると、恐ろしいものがある。

無論それだけではない。数多の英霊たちと絆を繋いで来たリツカが知れば、間違いなくショックを受けるであろう。

そして、そんなものが、もしカルデアに放たれたら、壊滅する可能性だってあるのだ。

 

 

「目当てのものは、見つけた。撤収するぞ」

 

「目当てって、その資料のことかい」

 

「ああ。恐らく、宝条がいるであろう場所の『座標』だ」

 

「座標だと?……それに、何故そんなものがある?

十中八九罠に決まっている」

 

「……だろうな。しかし、放ってはおけない」

 

 

様々な危険性を抱え込んでいる、あの宝条を野放しにはしておけなかったのだ。

例え、無造作に置かれていた資料に書かれていた座標(いきさき)が、目に見えた罠であったとしても。

ミッドガル、と書かれた下に並ぶ幾つもの数字達を、カルデアに持ち帰れば直ぐに解析してくれるだろう。

 

 

「どうやら……。その話は戻ってからにした方が良さそうだな」

 

 

神妙な顔を崩したオルタは、再び手に銃剣を構えた。

三人の声と気配を辿って来たのか、いつの間にか部屋の直ぐ近くまでそれらは来ていた。

低く濁った呻き声が、壁一枚を挟んだ向こう側から聞こえて来る。

 

 

「お?毛色の違うヤツがいんな」

 

「なんにせよ、相手をしているだけ時間の無駄だ」

 

「ふむ、注意したまえ。アレがアンタの言っていた、英霊を蝕むものかもしれんぞ」

 

 

白衣や検査着を着た人間であったものたちの中から、姿を現したのは小さな子供であった。

体中に黒い模様のようなものが刻まれ、目や口から黒い瘴気のようなものを吐き出している。

苦しげな呻き声が、絶えず漏れ出ており、目を覆いたくなる程ひどい姿をしていた。

 

 

「えげつねえことをしやがる」

 

 

表情を歪めたキャスターが、言葉を吐き出す。

表情こそ変えないものの、瞳に鋭い色を宿したオルタは、小さく息を吐いた。

体を這う黒い模様を注視したセフィロスは、その『症状』に覚えがある気がして、手にした武器を降ろす。

 

 

「あれは……「ヴヴ…ヴ、あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 

小さく動かされた唇から発せられた言葉は、その子供の発した物狂おしい悲鳴に掻き消された。

苦しみに悶え啼く声に、引き寄せられるかのように、更に敵の数が増していく。

あっという間に出口を塞がれ、逃げ場を失くした三人は、静かに己の武器を手にした。

 

 

「ヘマをしたら言え。直ぐに葬ってやろう」

 

「へえ?アンタにしちゃ、お優しい言葉だな」

 

「……」

 

「ぼけっとしてんじゃねえぞ、セフィロス!

もうこの施設には用がないんだろ?」

 

「良かったじゃないか、ご自慢の長刀を存分に振るうが良い。

なに、間違って頭の青い魔術師を切り刻もうとも構わないさ」

 

「あァ?てめえ、誰に向かってモノ言ってやがる」

 

 

得体の知れない嫌な予感が、胸を過ったのだ。

セフィロスがそのことに一瞬意識を取られると、すぐさまキャスターの叱咤が飛ぶ。

確かに今は不透明な予感よりも、目の前の危機を解決する方が先であろう。

今にも襲い掛かりそうな敵を再び見据えると、セフィロスは慣れた武器を顕現させた。

 

キャスターが短く呪を口遊み、足元に大きく広がった魔法円が炎を呼び出す。

かちゃ、と軽やかな音を立てて、銃剣が構えられた。

その音を開戦の合図とするように、飛び掛かって来た無数の敵を、しなやかな刃が切り刻んだのである。

 

 

 

***

 

 

 

「い、った……っ!」

 

 

欠けた月が闇に融けた、新月の夜。

任務を終えて自室へと戻るために、廊下を歩いていたリツカを、突然激痛が襲った。

身を引き裂かれるような、鋭い痛みは、全身を走り抜け余韻を残しながら消えたのだ。

思わず蹲ったリツカは、ふと自分の腕を見る。

 

――その白い腕には、切りつけたような黒い傷が刻まれていた。

 

 

 

 

 

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