カルデアの職員たちが慌ただしい足音を立てて仕事に戻っていく。
今やすっかり台所の主となっている英霊が召喚されてからというもの、お手本のような不規則な生活をしていた職員たちも少しは決められた時間に食事を取るようになっていた。
だが全ての職員が揃ってというのは難しいので、彼らの仕事場となっている部屋に出前を持っていくのもまた、その主の仕事であった。
いそいそと大きな籠を持って食堂を出て行った赤い背中を横目に、優雅に紅茶を嗜んでいた一人の英霊が立ち上がる。何かを探すように視線を滑らせるが、どうやら目的のものは見つからなかったらしい。
不機嫌そうに眉を顰めた英霊は一つ溜息を吐くと、食堂を出た。
「全く……この我との約束を破るとは、とんだ雑種よ。
時が時であれば打ち首にも相当する不敬である」
風を切って歩くその姿にも、人々の目を惹き付ける威厳と神聖さを感じさせる。
ふわりと揺れる金の糸が、キラキラと光を残していくようであった。
そんな輝かしい容姿とは裏腹に、口から零れ出る言葉は悪態そのものである。
見るからに機嫌が宜しくない
艶やかな黒髪の一部を高い位置で二つに結い上げた
そんな
「なんだ、おらぬのか……。
折角この
気配がないことは入る前から察知していたが、あのままでは見ているだけで腹が立つ英霊と鉢合わせになりかねなかったので、取り敢えず部屋に入ったのだ。
予想通り、がらんとした部屋には英霊も人間もいない。
怒りを通り越して呆れた表情を浮かべた英霊は、ふとソファーの上に置かれた一冊の本に目を留めた。
「ほお?これは、中々愉快なものを持っているではないか」
本から零れ出る異質な魔力を感じ取った英霊は、横に結んでいた唇をつり上げた。
ずかずかと歩みを進めるとソファーに腰を下ろし、躊躇なくそれを手にする。
そしてパラパラとページを捲っていくと、その擦り切れた本が、前にセトラから聞いた『物語』であることに気が付いた。
「ふん。このような小細工で
百年、いや千年早いわ!!」
本を引っ繰り返しその背表紙に手を翳す。
異質な魔力の根源がそこにあることに、英霊は本を手にした瞬間から気付いていた。
英霊の魔力が本へと注ぎ込まれていく。
ぽわり、と本の裏表紙に描かれていたエンブレムが光り輝いたかと思うと、本の中から本が出てきたのである。どうやらマトリョシカのような構造であったらしい。
隠されていた本をこれまた躊躇なく開いた英霊は、ぱらぱらとページを捲り……。
そして初めからじっくりと、目を通し始めたのである。
***
此処に残すのは、無数に広がる木の根の一つの記憶だ。
作り話だと思えばそう思ってくれて構わない。
だがどうしても残しておかなければならないことがある。
これはただの日記だ。そして同時に手紙でもある。
長くなるかもしれないが、いつか、*****に*くことを****(何故か此処の部分だけ滲んでしまって読めない)
齢五つだというセフィを連れて、何千年、いやもしかしたら何千年以上ぶりになるかもしれない旅を再開した。星を旅して回り、約束の地を目指すというのは、古代種にとっては遺伝子レベルで染み着いている本能であるので、正直に言うと懐かしい高揚感に心が躍っていた。
一定の場所に留まることなく、渡り鳥の如く飛び回り時折羽を休ませる。
それでも
旅をすることを生業としていた古代種も、最近ではぽつぽつと村や町そして都といった、規模は違えど集落をつくりあげ、定住するようになって来た。
セフィのように過酷な旅の中で家族を失うものも多くいるのは事実で、課せられた命題である約束の地の探索は、己の生涯を掛けても見つからない可能性の方が高い。
それならば家族と共にその地で生涯を終えた方が、良いと考えるものが出てきても特におかしいことではなかった。
女神の贈り物が眠るという『約束の地』を求めるのは古代種の宿命ではあるが、自らの幸福を
家族と共に過ごすその場所が、幸福の地であるとするならば、それで良いと私は思う。
そんな中でもひょんなことから過去へと戻った私が選択したのは、やはり旅を続けることであった。
此処で私が旅を止めるということは、来るべき時を壊すことになるだろう。
かの厄災の襲来は、絶対に封じなければならない、それが私の使命だとも感じていたから。
これは驕りではなく、経験から推測される事実である。
「セフィ、……セフィロス。
幼いお前に選べという方が残酷かもしれないが、両親亡き今お前は自由だ。
今まで以上に過酷になるだろう旅を、本当にこの兄と続けるのか?」
「なんどもいっているだろう。
おれは、たとえしんでも……にいさんといっしょにいるってきめたんだ」
これは紛れもなく私の記憶を辿る旅路だ。
だが未だに、このセフィロスという子どもの存在は疑問に残るところである。
とはいえ、私を兄と慕うセフィを連れて旅を続けている内に情が芽生えない筈もなく、何度か平和そうな町を見つけて、置いていくことも考えた。
酷いようだが彼には彼の幸せを生きて欲しいという願いが、いつの間にか私の胸に生まれていたのだ。
……だが、その度に本人に泣かれ続け、少しばかり成長すると達観した強い瞳を返すようになっていった。
子供らしくない静かな涙、そして何かを決意したような綺麗な瞳を向けられては、白旗を揚げる他はない。
寧ろ、それを見て誰が無理矢理置いていくことを選択するであろうか。
私の知るセフィロスと同じ容姿をしたこの子供にとって『置いていかれる』ことは、トラウマにも等しいだろう。なんてそこまで考えてしまった私は、兄馬鹿というのだろう。
それに本当に安全な場所などないことを、他でもない自分自身が一番良く知っていた。
「にいさん、いこう」
「ああそうだな。セフィ、手を」
相変わらず、セフィのことはちっとも思い出せない。
だがその小さな手を握り共に肩を並べて歩いていると、何故か懐かしい気持ちになる。これは何なのだろうか?
セフィは相変わらず感情の機微に乏しい。
しかし意外と顔に表情が現れやすいことに、最近気が付いたのだ。
それに、口数は少ないものの仕草や素振りで伝えてくれる。
最近では私の真似をして、剣を握るようになった。
流石に剣筋が良く、将来ああなるのも頷ける素質を持っていた。
――なんていうことをつらつらと書き綴っていると、私の兄馬鹿さが露呈した子どもの成長記録のようになってしまうので、いい加減此処までにしておくとしよう。
そもそも何故私が、二度目の旅でこうして記録を残そうと思ったかというと、もしもこのセフィが私の知るセフィロスであるならば、私に出来ることは二つだ。
一つは、揺らぐことのない強さを教えること。
これは死んだ両親に代わり、兄としての役目であると思う。
そしてもう一つ。それは、セフィロスを心より
「にいさん、つぎはどこにいく?」
「うーん、次は東に行くか。
北は寒いし、南は暑いから、いずれ行くにしても相応の装備が必要だろう」
「……にいさん」
「ん?」
「ひがしは、こっちだ」
「……。そ、そう、だったか?」
「……あいかわらず『ほうこうおんち』だな」
「ぐ……。お前、そんな言葉いつ憶えたんだ……。」
「さあな。にいさん、手」
「……」
確かに、私は生前極度の方向音痴であった……ようだ。
正直自覚はないが出会う人間全員がそう口を揃えていうのだから、よっぽどなのだろう。
馬鹿は死んでも治らないというが、方向音痴も不治の病であったらしい。
残念ながら、今でもこの
そんな俺の背中を見て育ったセフィは、成長していくにつれて随分フォローを入れてくれるようになった。
こうして繋がれた手がいつか見向きもされなくなる時が来るのだろうかと思うと、少し寂しい気分になるがその成長は素直に喜ばしい。懐いてくれているのが純粋に嬉しいというのが本音だ。……決して、私が抜けているから呆れてフォローせざるを得ないのではない、と思いたい。
「なあセフィ。お前随分髪が伸びたな。
そろそろ切るか?」
「……いい。もっと伸ばす」
「そうか?剣を振るとき邪魔だろ?」
「それなら、にいさんだってそうだろ」
「私?……私はもう慣れてしまったからな」
「なら、おれもおなじだ」
「ふむ……。まあ、お前がそういうなら」
肩に付かないくらいであった白銀は、今や背中の真ん中ぐらいまで伸びていた。
セフィロスの髪が長いのはもうデフォルトというか見慣れていたので、つい反応が遅くなってしまったが、あまり同一視が過ぎるのも良くないだろう。
そう思ったついでに提案をしてみる。予想通り、仏頂面で一蹴されてしまったが。
私自身も人のことは言えないくらいに伸びていたので、それ以上は言うことはしなかった。
それに本人の好みにまで口を出す気はないので、セフィがそうしたいのならば、良いと思う。
ちなみに、私が髪を伸ばす理由としては魔術師のそれと同じである。
まだ魔法が確立されていない時代であるので、魔力は非常に貴重なものであった。
回復にも時間が掛かるので、いざという時に貯めておかないと困ってしまう。
なので仕方なく伸ばし続けているが、私の髪はセフィロスのそれと異なり癖が強い。
奔放な髪を持つ身としては、その性格を表すように真っ直ぐなその白銀は羨ましい限りだ。
さて、また随分と話が逸れてしまった。
厄災ジェノバが襲来するまでに、やらなければならないことがいくつかあった。
その一つは、魔法の構築である。
別にジェノバを撃退するために必要なだけではなく、これはセフィのためでもあるのだ。
これから先、超極寒の地や超熱帯の地も旅をすることになる。
私は慣れているが、まだ幼いセフィには辛いだろう。
先に言ったが、今のこの世界には魔法も
よって魔法を使うことが出来ず、怪我をしても治してやれないのだ。
それならば、とまず私が向かったのは神々のもとである。
契約をし直すことからはじめるのは、若干面倒ではあったが……。
これもセフィのためと思えば苦ではなかった。
炎神イフリート、氷神シヴァ、雷神ラムウ、水神リヴァイアサン、剣神バハムート、巨神タイタン ……。どれも顔を合わせたことのある神々である。
神と契約を結ぶのは骨が折れる。私が知るその神々はどうも好戦的なのだ。
案の定契約を結ぼうとすると逐一力を証明しろと言われ、再契約が全て完了するまで戦いに明け暮れた。
それまでには、セフィも充分な戦力となってくれたこともあり、苦戦を強いられたことに間違いはないが勝つことが出来たのである。
そうして再契約をしてくれたのだが、流石は神の座に坐すものたちといったところか、全員が私が今どういう存在であるのかを把握していた。
反応は様々であったがその中で特筆するとすれば、燃え盛る炎を掻い潜った先で待ち受けていた一人の神のことであろうか。
「ふははっ!!何やら愉快なことになっておるな」
「……イフリート。そう思うなら、なんとかしてくれ」
「それは出来ぬ。それはお前に課せられた使命でもあるのだ」
「使命……か。とにかく状況が掴めないんだ」
「そうだろうな。お前が困惑するのも無理はあるまい。
ふむ……。それならば、我が知ることのみ教えよう」
かつての親友である炎神イフリートの元を訪れた際には、記憶通りの尊大な態度で大笑いされた。
私がセフィを連れて
周囲を煮え滾るマグマに囲まれ、中央に置かれたこれまた豪奢な玉座に腰掛けて踏ん反り返ったままイフリートは口を開いた。
「お前からすれば、今までの全ては予定調和に過ぎなかった。
初めから知識と力を持ち、ある程度の筋書きを知るお前にとってはな」
「……ああ。確かにそうだ」
「ふん。予定調和というものは、所詮世界という大木の根のたった一つに過ぎぬ。
その根は神や人間の数だけ存在し、尚且つ複雑に絡むもの。
自我を持つものたちは皆、選択を繰り返しながら生を全うする。
よって選択された世界と、選択されなかった世界は同じ数存在するのだ」
「全く、わからん」
「はあ……思考を放棄するな。
その思考能力こそ、神々が人間に与えしものである」
「お前の言葉は一々難解が過ぎる。
シンプルに言えば良いものの、変に深みを入れて捏ね繰り回すから、わかりにくいんだよ」
「不敬であるぞ、我が友よ。
我は神である。答えを与えるものではない。
神を解すのが人間であり、人間を神が解すことはないのだ」
「……わかっているさ。
だが今は違うだろう。私はお前と友として言葉を交わしているつもりだが?」
「……ぬ。……そう、か。そうであったな。
……お前が辿っているのは選ばれなかった世界だ。
正当な歴史から外れた世界は、悪しきものの干渉を得やすい」
「それなら、あの厄災が訪れなかった世界……。
古代種が生き残るという世界も、あるというのか」
「……否定はせぬ。
しかしお前がその世界に干渉することは出来ぬ。」
「だろうな。それならば、何故私はここにいる?」
「覆そうとしているものがいるのだ。
それは神にあらざるもの。今まで積み重ねて来た
「……似た話を知っている。
また人理定礎の崩壊を狙うものがいるということか」
頭に過ったのは、カルデアのマスターが成し遂げた
そもそも彼の旅の始まりは、とある『獣』が人理定礎を掻き乱したことにあった。
それによって人理定礎のエラーが生じ、人類のターニングポイントとなる『
人類の行きつく先を決定する重要にして究極の選択点であり、人類史の運命を決定付ける分岐点であった。
まさか同じことが起ころうと、いや起こっているのだろうか。
そう問おうとしてイフリートを見上げた。
「事はもう始まっておる。
存在する筈のないものが存在し、存在するものが存在しない。
行き着く結末は……我の口からは言えぬがな」
「私は……。私の記憶だとこの先ジェノバと共に封じられ、セフィロスの中で眠り続ける。そして次に目覚めるのは異なる世界だ。これもまた変わるというのか?」
「……」
「イフリート?」
「……いや、お前は……一時的に紛れただけであろう。
時が過ぎれはいつか、元に戻る」
「そうか……。わかった。
だがそうなると、この世界にも私と同じ存在がいるということになるな。
世界には同じ顔が三つあるというが、もし何処かで出会ったら面白いことになるだろう」
私は偶々紛れ込んだイレギュラーな存在に過ぎない。
ならばあまり大きくこの世界に干渉するべきではないだろうと思い、冗談半分にそう言った。
イフリートは一拍間を置いた。嫌な間の取り方であった。
一応長い付き合いであるので、ちょっとした仕草が何を意味するのかぐらいは読み取れる。
そして向こうも私がそれを察していることに気付いたのだろう。
大きく溜息を吐いたイフリートは、やがて口を開いた。
「我が友よ。お前は……この我の古き理解者でもある」
「……突然だな。どうした?」
「まあ、聞くが良い。
我は古の時代、人間たちに知恵の炎を授けた。
人間たちはその炎を手にしたことで、文明を開化させ繁栄へと辿り着いた。
そうして大きな力を持つようになっていったのだ」
「……」
「はじめは炎神として我を崇め奉っていた人間たちが、反旗を翻しはじめたのもその頃だ。
力は人間に欲深き傲慢さも与えたのだ。驕り高ぶった人間は世界に仇なす存在にしかならぬ。
だから
……だが、それを他の神は許しはしなかった。
戦いに敗れた我は、「裏切り者の神」として封じられた。
お前に
「……」
「お前の
……お前という存在はこの世界には、存在しない」
「存在、しない……?」
「残酷なことだが、選択肢には存在そのものも含まれるのだ」
「……ま、さか……っ!!」
「そう。少なくともこの世界には存在することのない存在、それがお前だ」
「……!」
「繰り返される選択によって人類史は、一本の道を成して来た。
あぶれたものたちは皆、歴史の闇に沈み飲まれ消え失せる。
お前にとってはとんだ皮肉であろう。
今動いておる『大いなる力』によって、運命に僅かな
その歪から生まれたのが、お前という存在だ」
「……待ってくれ、話が、良く」
「聞いておけ。これは我が慈悲よ。
それにお前も気付いていたのだろう。
お前が知る世界とは異なるものがあった筈だ。
歪は命運すらも大きく動かした。
途切れる筈であったものを繋ぎ留め、崩壊する筈であったものを塞き止めた」
「っ、」
「……わかるか、友よ。
お前の紡いできた時は、全て――」
神妙な表情を浮かべたイフリートが何かを口にしたが、此処から先は憶えていない。
奴の言葉を咀嚼することも出来ず、頭が真っ白であったのだ。
歪められた世界に生きる私という存在は、特異点の一部であることになるのだろうか。
ならば、私の存在は――。
「兄さん……?」
「あ、ああ……セフィロス。
良かった無事だったか」
「……顔色が悪い。回復を」
「いや大丈夫だ。
長いこと炎にあてられていたからな、調子が狂ったのだろう。
それよりこれで炎の力を借りれた。やっとマテリアがつくれる」
「……兄さん」
「問題ないさ、大丈夫。
お前が心配することではないよ」
この時はセフィと珍しく別行動をしていたので、幸いイフリートとの会話を聞かれることはなかった。
相当ひどい顔をしていたのだろう。セフィの視線が痛かった。
イフリート曰く、やはり私にはこの世界で成すべきことがあるらしい。
私という存在が存在しない世界で何を成せというのだろう。
それを探すためにも、かつて私が辿った道と同じ道を行くことにした。
同じようで違う道を行くことは、言葉にしがたい不思議な感じがしたが。
「ふう、これで完成だ」
「それは?」
「マテリア。魔法を使うための触媒となるものさ。
これでお前も魔法を使うことができる」
「……これで、魔法を」
「お前は私と違って器用だから、直ぐに使えるようになるだろう」
「そんなことはない、兄さんの方がよっぽど……」
「……?」
「いや、なんでもないさ」
神々の世界を離れ星に戻ると、賜った力の一部を結晶として魔法石を作り上げた。
これで後世にまで残り続ける……であろう魔法の源は完成した。
それを『私』の手で作り上げることに迷いは生じたものの、これはセフィの生存率を上げることにもなるのだ。理由はそれだけで充分であった。
この世界にジェノバが襲来するのか否かということは、置いておくとしよう。
備えあれば憂いなしだ。思いつく対抗手段は網羅しておくことにした。
ジェノバの発生させるウィルスを防御できる魔法があれば良いのだが、生憎私は回復呪文などに特化した白魔術については、さっぱりなのだ。
身体能力や魔力は当時の自分に引っ張られているらしい。
当時の自分というのは、攻撃は最大の防御であると豪語し攻撃から身を守るのは攻撃でしかないと、敵陣に突っ込んでいたという、今思うと頭を抱えたくなるくらいの攻撃一筋で脳味噌まで筋肉な男であった。
これについては、あまり思い出すと自己嫌悪により正気ではいられなくなるので此処までにしよう。
それから、東へ西へ南へ北へ旅を続けた。
細かい旅路は、個々の日記を見て欲しい。
どうやら私は、永い旅に出なければならないようだ。
何故ならば――。
***
「……」
本に流れる赤い瞳の視線が、ぴたりと止まった。
その目に浮かぶのは、困惑、そして――。
「……やはり、」
ゆっくりとその顔が上がる。
「お前はこの
おかしいと思ってはいたが……。よもや……」
笑う赤と黙す青が対峙し、燃える