第FⅦ特異点 片翼の天使   作:陽朧

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3-5 セトラの過去④

繰り返される動乱の時は、どの時代においてもどの世界においても共通することがある。

平穏な日々ほどあっけなく崩れるものはないということだ。

たとえ星を詠むことで未来(さき)を知る古代種であっても、避けられない運命は存在した。

運命に『抗う』かそれとも『受け入れる』かの選択肢のその先は神の領域であり、時に神でさえも見通せない答えが在る。それを、解する『知恵』、突き進む『勇気』と、切り開く『力』を持ち合わせるものだけが、その聖域へと辿り着くことが出来るのだ。その三つを持ち合わせるものを人は『英雄』と呼ぶ。

弱き者には盾を、強き者には剣を与える存在は、時に神の代弁者として人々から崇められ、時に悪魔の使いとして葬られた。

 

後に古代種の英雄(セトラ)と謳われし男も、また選択をする。

古代種に襲い来る運命を変えようと思わなかったわけではない。

しかしそれよりも、セトラは己の使命を果たすことを優先とし、抗うよりも受け入れることを選んだのである。

 

一方、セトラよりも先に厄災の足音に気付いた男は、そんな兄の背中を見て、彼もまた選択をした。

もうすぐそこに迫る別れにただ畏怖し怯えているだけでは、守れないとわかっていたから。

 

 

「ふ、ふふ……完成だ。これで……」

 

 

一面に敷かれた魔法陣は、兄から教わった知識に手を加え改良を重ねたものである。

魔法の基礎から応用まで兄の持ち得る知識はすべて、弟へ受け継がれていた……ように思えた。

だが弟は知っていた。兄は決して『禁忌と呼ぶ魔法』については語ろうとしないことに。

 

兄がマテリアを生み出し、他の古代種たちに伝道したことから魔法は急速に発達していった。

それはあくまでも生活をより豊かにするものであって、傷付けるためのものではなかった。

兄は人々に教えた。攻撃魔法よりも防御魔法を、黒魔法よりも白魔法を――。

 

この時代の禁忌は、蘇生と破壊の二つであった。

だから『死』と『生』に干渉する魔法は封じられ、よっぽどのことがない限りは兄自身も使用することはなかった。禁忌を知るのは兄だけであったが、彼の書いた書物の中に禁忌についてもまとめられていた。

それは先を見通してのことであり、実際にヒトに見せることはしなかったのである。

 

しかし兄は気付いていなかったのだ。

兄に見つからないように夜な夜なその書物を漁り、読み解いて更に研究を重ねている弟のことに。

書物は暗号化されており解読が必要であったが、その弟は非常に優秀であった。

 

 

「……黒マテリア。メテオを呼ぶ魔法(もの)

 

 

兄が白マテリアをつくり始めたことに弟が気付いたのは、『あの夢』を見はじめてからのことである。

とある夜、全身に鳥肌が立つほどの何かを感じて目覚めたことがあった。

今までに感じたことのない強大な力だった。飛び起きて兄のもとへと急ぐと、そこには何かに憑かれたように無心に魔法を編み込んでいる兄を見つけた。それに恐怖すら感じながらも、呆然とその姿を見つめた弟は理解した。

 

『兄は自分の運命をずっと前から知っている。神々と契約し魔法をつくり上げたのも、自ら禁忌に触れる魔法をつくり出そうとしているのも、そのための準備なのだ』と彼は思った。

 

 

『ん……?ああ、どうしたセフィ』

 

『……にい、さ』

 

『ああ、すまない。お前は魔力に敏感だから、驚かせてしまったか』

 

『それ、は……?』

 

『白マテリア。ホーリーを呼ぶ魔法(もの)

 

『……ホーリー……?』

 

『この星を守る魔法だよ。

例えば外から敵が来るとするだろう?

これを発動すれば、星に膜を張るようにバリアが張られる。

星の脅威を認識して排除する……ようにつくったんだ。

上手く発動するかは……わからないがな』

 

『……』

 

『セフィ?参ったな……驚かせないように遮断していたのだが……』

 

『……白、マテリア』

 

『お前が興味を持つものでもないさ。

そろそろ寝ようか、セフィ。もうこんな時間だ』

 

 

それを目にした時、弟は震え上がった。

古代種の見る夢は『予知』の意味を持つ。

夢が現実になろうとしていることに畏怖した。

その夜は眠ることもせず、ぐるぐると回る思考と震える身体を抑えつけながら必死に考えた。

そしてその時、弟に一つの考えが浮かんだのだ。

白マテリアを応用すれば星を滅ぼせる魔法がつくれるのではないか、というとんでもない閃きであった。

しかしもう弟は止まらない。

 

 

「兄さんの命と引き換えるほど、この星に意味などありはしない」

 

 

闇を具現化したような黒い球体(マテリア)

それを見つめるその青い瞳には、恍惚すら浮かんでいた。

 

 

 

***

 

 

 

「た……っ、たすけ……、たすけてくれ!!」

 

「お、おい!大丈夫か?どうしたんだ!?」

 

「わ、わからねえ……。と、とつぜん……襲い掛かってきたんだ!!

襲われた奴ら、みんな……ば、ばけもんみてえになっちまってよ……!

ごほっ、ごほっ!!お、奥の村だ、お、俺、嫁も、子供も……置いてきちまった……」

 

「と、とにかく、治療を……!」

 

「たのむ!助けて、ごほっ、助けてくれ!」

 

「落ち着け。良いから治療を受けるんだ。

……私が見に行ってやるから、な?」

 

「ほ、ほんとか……!ありがてえ、……ごほ、ごほっ」

 

「ひでえ咳だな、苦しいだろう?今運んでやるからよ」

 

「あ……ああ、なんか、くるしくて、よ」

 

 

血相を変えた一人の男が飛び込んで来たのは、セフィが正宗を手にした数日後であった。

悲鳴交じりのその叫びを聞いた、都中の古代種たちが集まっていた。

来るべき時が、来たのだ。騒然とする周囲の声を聞きながらも、どこか冷静な自分がそう囁いた。

 

この都から更に北にある村から来たという男は、ひたすら村を助けてくれと繰り返していたので、私が様子を見に行くと告げる。すると縋るような目が私を真っすぐ見つめた。それにずきりと痛んだ胸に気付かないフリをして、安心させるように笑う。

 

少し落ち着きを取り戻した村の男は、都の男に肩を借りて、治療所へと向かっていった。

 

 

「……兄さん、」

 

「いや良い。中に入ってしまった以上、もう意味はない」

 

 

あの男がキャリアであることは、一目でわかった。

いずれウィルスを撒き散らしながらモンスターと化すだろう。

刀を取り出そうとしたセフィを止める。

この都も、もう汚染され始めてしまった。

今更あの男を殺しても意味はない。

 

 

「始まった、か」

 

 

どうやらこの世界はジェノバの襲来が運命付けられているようだ。

もしかしたらと、究極防御魔法(ホーリー)が封じられた白マテリアをつくってみたのだが、上手く発動しなかった。理論も魔力も完璧な筈であった。何故そう言い切れるかというと、前も同じ方法でつくり上げて問題なく発動しているからである。材料も魔力も全く同じでも発動しないのならば、考えられるのは世界の干渉だ。条件が違うのはそこだけなので、断定しても良いだろう。

 

厄災ジェノバの襲来は、古代種には予知できないものであった。

これも星が定めた運命なのかもしれない。

ヒトが星を守っても、星が人間を守るとは限らない。

残酷なことだがそれが摂理なのだ。

 

 

「……さて、」

 

 

ならばヒトはヒトが守れば良い。

だが守ってばかりでは救えない。

取り零さずにいるだけでは、皆死んでしまう。

 

 

「……行くのか」

 

「ああ。お前は?」

 

「ふん、愚問だな」

 

 

一度目の時はなかったその存在は、頼もしいの一言に尽きる。

しかし本音を言うと、できるなら連れて行きたくはなかった。

あの厄介なウィルスにセフィが感染しない保証がないのだ。

感染して発症を迎えれば、セフィもまたジェノバの一部と化すだろう。

 

気休め程度に白魔法を応用してウィルスを防ぐ魔法を掛けておいたが、果たしてどこまで通用するか……。

とはいえ置いていこうにも、いずれこの都も汚染されることになる。やはり安全な場所など何処にもないのだ。

 

確か一度目は、汚染された集落から逃げてきた古代種たちの治療に追われながら、モンスターと化していく彼らに止めを刺した。段々と正常な者がいなくなっていく中で、こうなったら仕方がないとジェノバを破壊するために旅立ったのだ。そうして、戦える古代種たちを率いて戦い続けた、のだが――。

 

 

「兄さん」

 

「ん?あ、ああ……悪いな、少しぼうっとしていた」

 

「……寒いのか?」

 

「大丈夫だ。これくらいなら問題ないさ」

 

 

ジェノバが落下したことにより星が傷付いたのだろう。

星を修復しようとライフストリームが動き始めている筈だ。

ライフストリームはヒトで例えると瘡蓋のように傷口を覆い、内側から修復する。

だが大いなるその力は、周囲に多大なる影響を及ぼすのだ。

生態系の崩壊や気候の変動などをもたらし、生体にも害をなす。

 

 

「急ぐぞ。セフィ」

 

「……ああ」

 

 

たださえ低い気温が、更に下がっているのを感じる。

普段の旅の途中ならばさっさと引き返しているだろうが、今回はそうはいかない。

都を北に出ると、洞窟を抜けて雪原へと辿り着く。その雪原には村があり、その村を抜けると確か絶壁が出来ている筈だ。そしてその先にジェノバがいる。そこへ行くのは二度目であるので地理は覚えていた。

 

迷うことも躊躇することもなく進んでいく私に、セフィは何も言わなかった。

説明しろといわれても困るが、いやに静かなのである。確かに口数が少ないのはいつものことなのだが……何か違う気がした。少し気になったので確かめようと口を開いたが、目の前に見えた村の様子に言葉を切り替えて足を止める。

 

 

「セフィ、下がれ……って、おい!前に出るな」

 

「断る」

 

「断るってお前……。ああもう、わかったよ……。

左だ。頼んだぞ」

 

「……わかった」

 

 

最北端に小さな村は、静まり返っていた。

降り頻る雪に埋もれるように佇む家々に、ヒトの気配は感じられなかったのである。

その代わりとでもいうように無数の『それ』が、ふらふらと村の中を彷徨っていた。

 

不意に『それ』の中の一つが、ぎょろりとした目が此方を向いた。

呻きとも咆哮とも取れる獣じみた声が上がる。すると、それを合図に『それ』は一斉に此方を捉えた。

 

『それ』をもはやヒトとは呼べなかった。

反射的にセフィを下がらせようとしたが、一蹴されてしまう。

ちらりとその表情を見る。……どうやら、引き下がるつもりは毛頭ないようである。

そんなことをしている間に『それ』は私とセフィの周りを囲っており、そんな状況で言い争うほどの余裕はなかったので、好きにさせることにする。

 

 

「――グルるるル……、ぐ、ぐァああアああアああ!!!」

 

 

まだヒトの意識はあるのだろう、それ余計に生々しさを与える。

剥がれ掛けた皮膚に鋭くなった爪と(きば)、飛び出した目がぐるりと動いた。

全身の至る所から滴る夥しい血が雪を赤く染めていた。感染者はそうやって全身の血を抜かれ、ジェノバの体液に置換されるのだ。

 

血涙(なみだ)を流しながら飛び掛かって来るそれを、切り裂く。

無慈悲に見えるだろうが、これは私に出来る唯一の弔いなのだ。

 

 

「あ、ァあああああああ……!!あ、あ……、いたいイタイ痛い……ぃ、た……、」

 

「……」

 

「……に、い……、ちゃ……おいて、いかな、……」

 

「……!」

 

 

濁り切った目に、差した光。

例え一瞬でも我に返ることが出来たのだろう。

その状態で自我を取り戻すことは哀れでしかない。

何度も見てきた光景である。自我を取り戻したそれらは、最後に最愛の名を呼んで星へと還っていく。

何度も、何度も、何度も、見てきた。それが厄災ジェノバの戦い方であるから、必然的に私は仲間を手に掛けることになる。逃れようにも逃れられない運命であった。その運命を知っていたから私は――。

 

体を這いずらせ、何処かへと手を伸ばし……息絶えたその子供の姿に、胸が詰まるのを感じた。

 

 

「……」

 

「……セフィ?」

 

「……」

 

「どうした?何処か怪我でもしたか」

 

 

切り口から噴き出すのは、赤い血液ではなく緑の液体であった。

それはヒトではなくモンスターと成り果てた証拠でもある。

 

降り注ぐ雪は時間が経つにつれて大きくなり、ぼたぼたと地に落ちていく。

数分もすれば、このひどい亡骸たちは白銀に閉ざされるのだろう。

せめてその魂は星のもとで安らかに在ることを、祈るばかりだ。

 

雪に埋もれていくそれを食い入るように見る姿があった。

白く染まる視界に、纏う黒が異様に浮き立っている。

俯いたその顔は長い髪に覆われて見えなかったが、何となくその心はわかる気がした。

 

ジェノバウィルスにより、ヒトがモンスターと化す。

何度もその光景を見てきた私とは違い、セフィが目にするのは初めてのことだ。

セフィは感情の機微は見えにくいが冷酷非情なわけではない。ショックを受けてもおかしくはないだろう。

そう考えて佇むその背中に手を伸ばした。

 

 

「……兄さん」

 

「っ、」

 

 

ゆっくりと振り返ったその目に、声に、ぞくりと背筋が震える。

それは昏い、幽冥を覗いているような目であった。

それは暗い、妖麗とした蕩けるような声であった。    

 

 

「せふぃ、ろす……?」

 

 

泣いているようにも、笑っているようにも聞こえるそれに、思わずその姿を凝視する。

 

 

「兄さん、……此処までにしよう」

 

「……?」

 

「この先は駄目だ。兄さんは、此処で待っていてくれ」

 

「お前、何を……っ!」

 

 

目の先を滑り落ちた刀。

意表を突くように繰り出された白刃を何とか避けるが、周りの白に溶け込むそれは容赦なく追撃を仕掛けてきた。

 

 

「くっ……」

 

「兄さんの、しようとしていることはわかっている。

魂を賭けた厄災の封印。確かに星を救うためには、それしかないのかもしれない。

そしてそれができるのは、兄さんしかいないのかもしれない。

だが……俺の、家族は、兄さんしか……いないんだ」

 

「……っ」

 

「なあ兄さん……良いものが出来たんだ。褒めてくれるだろう」

 

「なっ!?そ、れは……!」

 

 

コートのポケットから出てきたものを見て、全身に動揺が走った。

濁りない黒のマテリア。究極の攻撃魔法であり、星ごと全てを打ち砕く力。

この世界ではその存在すら明かしていなかったのに、何故その手にあるのだろう。

 

 

「お前……。それを……どこで」

 

「ふ、……ふふ。相変わらず甘いな兄さん。

……俺がいつまでもずっと兄さんの背中を追っていると思っていたのか?」

 

「……っ、その力は禁忌だ。お前もわかっているだろう!?

それを発動させれば星が滅びる……!何故、お前は……!」

 

「それがどうした?星など、滅びてしまえば良いだろう」

 

「お、まえ……」

 

「同じことだ。……兄さんを失うのも、」

 

「……セフィ」

 

 

一段と吹き荒れた雪により、視界が白に閉ざされる。

お互いの顔すら見えない。だがそこにどんな表情があるのかをお互いにわかっていた。

そして私は、その表情を見てやっと理解したのだ。

綻びははじめから存在していた。旅を続けているうちに綻びが亀裂となり、そして――。

 

思い返してみれば、私はずっとジェノバとの戦いを見据えてきた。

繰り返される悲劇を見過ごすことも出来ず、かといって止めることも出来なかったが……。せめて私の使命は貫こうと此処まで来たのだ。

セフィは……。そんな私の背を見て何を思ったのだろう。

この世界では幼い頃に両親を失い、あの世界では――。だからセフィロスの家族というものに対する執着が半端ではない。『孤高なる英雄(片翼の天使)』の裏側にある孤独。それに手を差し伸べるということが、どういうことか。私の考えが甘かったのかもしれない。

 

 

「っ、セフィロス!やめろ……!」

 

「俺は、こんな星よりも兄さんを救いたい。

兄さんは?……兄さんは、俺を選択して(えらんで)くれる?」

 

「……!」

 

 

それは、己に課せられた使命(ほし)と己の大切な家族(もの)を天秤へ掲げられた瞬間であった。

星を守ることにより家族を守ることに繋がるならば、私は即答していただろう。

だがセフィロスの問いは、真逆のものであった。

 

一度目の世界では私は失いものを持っていなかった。あるとすれば共に戦った者たちだが、彼らもまた同じ決意を胸に宿していた。

二度目の世界では私は失うものを持っていた。掛け替えのない弟という存在は、私の決意を理解してくれていると思っていたが、それは自惚れに過ぎなかったらしい。

 

 

「……私は、」

 

 

覚悟が迷いに変わり、迷いが覚悟に代わる。

重い口を開きながら伏せていた顔を、上げた。

 

 

「――っ!?」

 

 

目前に迫った黒い影。

灰白に紛れた白刃。

ぽたりと落ちた雫が、地を濡らす。

 

 

「―――」

 

 

微かに、聞こえたそれは、吹雪く音に掻き消され、白の中へと溶けていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、う、……っ」

 

 

ぽた、と頬を弾いた冷たい何かによって意識が呼び戻された。

途端に全身を襲った冷気に、体が震えあがる。

体の下に感じる柔らかなものはどうやら分厚く積もった雪らしく、周囲を見渡すと四方を崖に囲まれていた。仰向けになった体勢のまま空を仰ぐ。

 

崖や地表に張り付いた氷雪に月明かりが散らばっていた。

遥か遠くの空に浮かぶ星々が、よく見える。

その中でも特に強い光を放つ星があった。

点滅を繰り返すそれが指し示している(つげている)

……はじめからこの別離(わかれ)も、運命の一つであったように。

 

己を急かすように瞬く星に、白色の溜息が零れた。

いつの間にか別の道を選んでいた弟に思いを馳せる時間すら、くれないらしい。

 

随分上に村のようなものが見える。おそらくそこから落ちたか落とされたかしたのだろう。

軋み痛む身体はきっと……そのせいだ。

 

 

「……セフィ、……セフィロス……」

 

 

幼い頃から私の後ろを付いて来た弟を、守り抜いて来たつもりだった。

しかし実は、それは彼が求めていたことではなかったのかもしれない。

だから食い違っていく気持ちにも気付けなかったし、気付こうとしなかった。

その結果が……。まさか黒マテリアを手にすることだなんて。

 

セフィは何処に行ったのだろうか。

黒マテリアを発動させるには多大なる魔力が必要だ。

星を崩壊させることを目的とするならば、それでこそあの『原作』でセフィロスが成したことと同じことが必要だろう。

 

一つだけ心当たりはある。ジェノバが衝突し降り立った地点はその衝撃でひどく損傷している筈で、その損傷を直すため多くのライフストリームが集まっており、おそらくそこには多くの魔力が渦巻いていることだろう。その魔力を使ってメテオを唱えれば、星の一つや二つ破壊することは容易い。

 

 

「……星ごと、ジェノバを破壊する気か」

 

 

死なば諸共、それが私が気付かぬ内にセフィがしていた選択であった。

ならば尚更急がねばならないだろう。もしもセフィが感染してしまったとしたら……。

 

 

「まず此処を抜けなければ……。

氷河、いや大氷河か……。しばらく氷はトラウマになりそうだ」

 

 

尋常ではない寒さに体温が奪われていく。

あまりこの場所にいない方が良いだろう。

低体温症や凍傷で苦しむのは御免である。

 

 

 

 

 

今思えば、この時私は『セフィロスの存在』を顧みれば良かったのかもしれない。

一度目と二度目の世界を混同していた私は、弟が求めるものの意味に気付いていなかったのである。

それに気付いた時は……もう――。

 

 

 

 

 

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