第FⅦ特異点 片翼の天使   作:陽朧

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3-9 マスターの危機④

 

 

「ぐぐぐ……!なんてこと、この女神イシュタルに!!

美の女神にして金星を司る……この、私に!!

なんて屈辱!!なんて不敬……!!」

 

「……」

 

「はあ……セフィロス。

アンタの撒いた種だぜ? 自分の(ケツ)ぐらい自分で拭きな」

 

 

カルデアの多種多様な部屋の1つであるキャスターの調合室は、木張りの床に壁という木造であった。部屋の中央には様々な器具が並び、部屋の端には本棚とテーブルとイスが置かれている。洒落たカフェのような造りだが、よくよく見るとえげつない試薬や薬草といった代物も目にすることができる。

セフィロスが毟り取った薬草も一般に出回っているものではなく、とある禁足地のごく僅かな間にしか生えない貴重なものであった。マスターの危機という免罪符を手にだいぶ好き勝手してくれる男に、キャスターの額には青筋が乱立していたが、当の本人は涼しい顔だ。

 

慣れた手つきでフラスコを熱しているセフィロスの後ろには、木製のイスに座り怒り狂う女神の姿があった。「お前のマスターの危機だ。暫く大人しくしていろ」と言い放ったのみで、後は放置することにしたらしい。気位の高いところもあるが根は素直な女神は、言葉通り大人しくしているようだ。相変わらず口は良く動いていたが、すべて受け流されていた。

 

がるるる、と今にも噛み付かんばかりに吠え立てるイシュタルに、キャスターは呆れた顔をしてセフィロスに一瞥をくれた。

 

 

「……はあ。これ以上なにを説明しろと?」

 

「はああ!? アンタ私になにか1つでもまともに説明した!?

突然背後から襲われてこんな草臭いところにぶちこまれて!

私女神よ!?女神なのよ!?」

 

「―――星痕症候群の発症。

おそらくライフストリームを浴びた際にジェノバの思念を浴びたのだろう。

今、あの少年の体は限界を迎えようとしている」

 

「……っ、ライフストリーム。

え、ええ、ええ……もちろん、知っているわ。

すべての星のエネルギー源となる、精神エネルギー。

宇宙に在るあらゆる星に蓄えられているもので、……私の星も、例外ではない。

ねえ、あのマスターの体から漏れ出ているのはなに?

あの真っ黒な、靄は、……すっごく気持ち悪いわ」

 

「あれは……。そうだな、こちらでいう“穢れ”だ。

生体内の細胞を腐らせ、内側から喰らうもの」

 

 

こぽり、とフラスコの中の液体が揺れる。

イシュタルはテーブルに頬杖を突くと、長身の背中を見上げた。

木のテーブルには彼女の黒髪が滑り、美の女神の名に相応しい眼差しに憂いが差す。

彼女とて、何だかんだ自分のマスターとして認めている存在をみすみす見捨てるわけにはいかない。我儘放題であった金星の女神は依り代の少女の影響も相俟って、庇護する人間への慈悲を目覚めさせていた。だからこそ、治療方法を知りながら黙って行動をしているセフィロスに不信感(いらだち)を抱いていたのだ。

 

 

「それで? アンタはその治療方法を知りながら、黙っているわけ?」

 

「……黙っているわけではないが?」

 

「はあ!もう! 一々まどろっこしい男ねえ。まるでどっかの誰かさんみたい。

あーあーいやになるわ」

 

「そもそも俺が言わずとも、お前らは動くだろう」

 

 

肩に掛かった髪を払うとセフィロスは、顔を動かし瞳だけを彼女へと向ける。

彼が治療法を知りつつもそれを口にしなかった理由の一つに、カルデアの監視システムと一部の英霊が持つ“千里眼”によってもう既に情報共有がなされていることがある。

張り巡らされた情報網はマスターのみならず英霊たちの現在地や行動を監視しており、もちろん彼らの持つスキルなどでブロックすることも可能であるがセフィロスはそれをしていない。だから、彼の情報はカルデア職員及び英霊たちに筒抜けの状態であった。

発信にはラグがあるためすぐには行き渡らないのがデメリットの1つであるが、カルデアに召喚された英霊たちに対して平等に情報を与えることが可能である。マスターが倒れてからそれなりの時間は経過していた。その情報を観覧するかは彼らの意思に任せられているので、すべてとは言えないが殆どの英霊にマスターの危機及びセフィロスの行動の意味を知っているだろう。

 

 

「もういいだろう。……キャスター」

 

「あ? おい、セフィロス!?」

 

 

長い指がフラスコをくるりと回した。青にも緑にもみえる不思議な色をした液体が揺れ、粘性のあるそれはどろりとフラスコの側面を伝い落ちていく。セフィロスはキャスターへとそれを押し付ける。キャスターは持ち前の反射神経で受け取ると、そのまま扉の方へと歩き始めた銀髪に声を上げた。

 

 

「今ある分を溶かしておけ」

 

「……いいねえ、俺をタダで使おうっつーその豪胆ぷり」

 

「お前のマスターのためだ。

褒美が欲しければ、そっちからもらうんだな」

 

 

背中に向けて飛んできた揶揄いを含んだキャスターの軽口を一蹴すると、セフィロスは再び廊下へと出ていく。時刻は深夜をさしていた。カルデアにおいて規則正しい生活を送っているのは主にマスターぐらいであるので、あまり時間には意味はないが英霊たちの行動が少し変化する。中には人間と同様に寝ているものもいるが、彼らに考慮する理由はセフィロスにはなかった。

 

今日は廊下に出ているものはいないらしく、静まり返った廊下にセフィロスのブーツの音が響いていく。かつん、かつんと甲高い波紋を描くそれは確かに1人分であったが、天井から垂れ下がる人工灯に照らし出された影は―――2つであった。

 

 

「まだ何か用か?」

 

「うっ、うるさいわね! 別にアンタの後をつけているわけじゃないわよ!

た、偶々行き先が同じなだけ……!!」

 

「……そうか」

 

 

そう呼び掛けた声に、一拍置いて返ってきたのは先ほどまでイスでふんぞり返っていた女神の声であった。すすす、と忍ぶように近付いてきた彼女は視線を逸らしつつ、威勢よくセフィロスへと噛み付く。重力を無視した彼女は彼の隣につくと、不機嫌まる出しの顔で言葉を続けた。

 

 

「それで、あと何が必要なのよ」

 

「女神の涙、妖狐の毛、聖女の血―――は、任せてある」

 

「任せて……?

って……女神の、涙……?

ちょ、ちょっと待ちなさい。確か、あの女……」

 

 

イシュタルがぶっきらぼうに問うと、まずセフィロスは『彼女』に任せた素材を口にした。それに彼女はこれ以上ないほどに反応を見せる。先程彼女の相反と共に追いかけられた『紫の女』が、言っていたことを思い出したのだ。

『ごきげんよう、貴女の涙を下さいな』とその女は言った。もしかして『貴女』という意味は、『女神』という意味であったのではないかと気付いたのだ。そうするとあの英霊に狙われるのは、女神であれば誰でも良かったということになる。このカルデアには多くの女神がおり、何もイシュタルやエレシュキガルだけではない。ということは、女神であるにも関わらず死ぬほど恐怖に追い回された原因は―――。その考えに行き着いた瞬間、イシュタルは目を見開いて叫ぶ。

 

 

「え、ええ、ええええええええ!!??

あ、あ、あの女を仕向けたのは、アンタってこと!?」

 

「……俺はなにも指示していない。

あれが勝手に動いただけだろう」

 

「う、う……。すっごくこわ、い、いや……驚いたんだからっ!

セフィロス、アンタ憶えていなさいよ!!この私に、二度ならず……!」

 

 

ぶつぶつと恨みがましい声で言ったイシュタルは、何一つ表情を崩さないセフィロスを睨み上げた。どうやら相当な恐怖を経験したらしく、彼の言葉は彼女の耳を通過しただけに終わったらしい。

イシュタルの視線を受け流したセフィロスは、少しばかり首を傾けて考え始める。

 

 

「残るは、太陽の花の花弁、憎悪の炎……良質な酒だが」

 

「……太陽と、……憎悪、ねえ」

 

 

太陽、憎悪、2つの単語を耳にしたイシュタルは脳内で数多の英霊の中から2騎ピックアップした。姿を想像しただけで何故か高らかに響いた笑い声に頭痛を憶えたイシュタルは、首を振ってそれを打ち消す。さて浮かんだ名前を口にしようとして、ぴたりと口を噤んだ。理由は思い当たらなかったが、嫌な予感がしたからである。女神の名を冠する彼女の勘はこういう時によく当たるのだ。

 

セフィロスは急に黙り込んだイシュタルに視線を移すも、ふと正面を見据えた。

 

 

「げっ!」

 

「おっ!」

 

 

セフィロスとイシュタルが廊下を歩いていると、不意に扉が開いて1人の英霊が姿を現す。彼らが歩いていたのは英霊たちの部屋が並ぶエリアなので、それ自体は特に不思議なことではない。ただタイミングが重なっただけのことである。しかし、出てきた英霊の姿を目にした途端イシュタルは、顔を引き攣らせて悲鳴じみた声を上げた。

 

 

「ひ……っ、な、なんで、あんたが……!」

 

 

数メートル先に佇むのは、剥き出しの肉体を晒した男。セフィロスより背は低いものの強靭な筋肉に包まれた肉体はとても目を引いた。イシュタルの声に反応したのかその男は、セフィロスたちへと顔を向ける。それは、落ち着いた雰囲気を持つ糸目の英霊であった。

おっと声を上げた男はにっと口角を上げると、片腕を軽く上げてみせる。

 

 

「そこにあるは、美の女神イシュタルではないか……!

おお、相変わらずの美人っぷりだ。どうだい? いい酒が手に入ったのだが」

 

「ちっ、近付かないで!ってくさっ! 酒くさっ!

アンタねえ……。マスター(アイツ)が大変な時になんでお酒なんか呑んでいるのよ!」

 

「はっはっはぁ! おまえは誰の心配をしているんだ。

俺のマスターならなーんにも問題ないさ」

 

「っ、なにを根拠に」

 

「根拠? 根拠ならあるだろう。

これまで数多の危機を退け勝ち抜いてきたあの男が、卑劣極まりない病魔に負けるはずがない」

 

「人の体は弱いものです。いくらあの頑丈で頑固な人間でも……」

 

 

コンパスの長い足で大股に歩いてきた男は、豪快かつ快活に笑った。あまりにも普段と何も変わらない様子に、思わずイシュタルが声を荒げるがどこ吹く風である。それは、この英霊のマスターへの信頼(あい)の印であった。しかし、制限時間(リミット)が迫った今イシュタルにはそれはとても悠長すぎるセリフに思えたのである。

鋭い眼光で自分を睨み付ける彼女にただ笑みを深めた英霊は、ふともう1人に視線を移す。

 

 

「ほお? 確かおまえは……ふむ。ふむ、だとすれば、おまえたちの目当ては、これか!!」

 

「……」

 

「はっはっはっ!!

―――いいだろう!!だが、これは俺が勝ち取った一級品だ。

それをおいそれと渡すのは、つまらん!」

 

「ま、待ちなさいよ!!

アンタさっきからそんなノンキなこと言っている場合!?」

 

「マスターのことなら大丈夫だと言っただろう?」

 

「いくらアンタだからって、そんな根拠もないことを―――!」

 

「応!! このフェルグス・マック・ロイだからこそ、だ。

この名を賭けても良い、あのマスターは死なない!!

そうだろう? クー・フーリンの認めた男(セフィロス)よ」

 

 

筋骨隆々を惜しげもなく晒した男―――フェルグス・マック・ロイはその性格を表すように豪快に笑うと、事情を察したらしく顎に指をあてがい何かを思案する素振りをみせた。

セフィロスは、何処かの誰かと似た雰囲気を醸し出すフェルグスから視線を逸らそうとしたが、その腕に抱えられているものが何か気付いてしまったのだ。フェルグスは得意げに笑うと、腕に抱えていたものを掲げた。

 

―――腕には酒樽が抱えられていた。今夜の晩酌用かはたまた宴でもしようとしていたのか、酒豪な彼が持っているに相応しい量の酒が入ったそれは、今集めている素材になり得るものであったのだ。それはぼんやりとした朧の光を放つ酒樽を見れば、一目瞭然である。

『良質な酒』を探していた彼らにとっては幸運なのだが、問題は薄らと開かれたフェルグスの瞳に愉快とも好戦ともとれる光が煌めいていることである。

なんでよりによってこの男が、とイシュタルは唇を噛み締めたが不意に何かを思いついたように彼女は目を光らせた。

 

 

「ねえ、フェルグス」

 

「どうした美の女神よ。もしやこの俺と……」

 

「ええ、そうよ!」

 

「へ?」

 

「この私が、相手してあげるわ!!

その代わりその酒樽を献上しなさい!」

 

「……ほお?」

 

 

この時2つの英霊の間でひどい齟齬があった。それぞれの言葉をイシュタルは『酒』の意味で、フェルグスは『女』の意味で捉えていたのである。本人たちはそれに全く気付いていない。しかし、イシュタルは自信満々に胸を張って見せたのだが、フェルグスは腕を組んだのみで動じていない。

イシュタルは怪訝そうな表情をしつつも、浮かせている体をフェルグスへと近付けようとしたのだが横から伸びてきた腕がそれを阻止したのである。

 

 

「悪いが、時間を掛けている暇はない」

 

「はっはっは!!そうだろう。

それに、そこの女神さんには悪いが……。

俺は今おまえの方に興味がある。

よって、取引の相手になるのは……あんただけさ」

 

「はああ!?アンタ、この私を振ろうって……むぐっ」

 

 

結果としてイシュタルの身にとっては僥倖であったといえるのだが、美の女神が自分以外をしかも男を指名したとあってはプライドが許さないというものだ。余計な火種を生み出そうとしている女神の口を、黒い手袋をした手が塞いだ。呻きながらも噛み付こうとするイシュタルを後ろに下がらせると、セフィロスは歩を進めた。

 

 

「―――その酒を、渡してもらおうか」

 

「さあて―――そいつはおまえ次第ってやつだな」

 

 

にやりと唇をつり上げたフェルグスは、酒樽を抱えた手とは逆の手に大振りの剣を顕現させた。

刀身に螺旋が刻まれている大柄の体に似合いの大剣は、かの伝説においても名高い名剣カラドボルグである。伝承にて『振り抜いた剣光によって丘を三つ切り裂いた』と謳われるそれは、冴えた光をその身に滑らせた。

 

セフィロスは知り得なかったが、フェルグスもまたケルトの1人であった英雄である。故に彼を説得するにしろ必要なのは言葉ではない。デジャヴを通り越してもはやケルトとの恒例行事と化している今後起こるであろう展開が容易に想像できたセフィロスは、諦めたように『右手』に己の武器を出現させた。

 

 

「ならここで切り捨てるまでだ」

 

「はっはっはっ!!

その心意気や潔し!!

しかしここでは、お互い存分に力を揮えぬとみた!」

 

「では、俺は相応しい舞台を用意するとしよう!

存分に力を合わせられる場所を整えるのも男の役目……。

力による蹂躙など下種の極みに過ぎぬもの……!

互いに気持ちよく汗を流し、どちらかが地に伏せるまでぶつかり合う……!

おおう! 想像しただけで武者震いが……っ!」

 

「……ねえ、何言ってんのアイツ」

 

「俺に聞くな」

 

 

確かに彼の得物は、廊下で振るうには不利なものであろう。加えてセフィロスの武器『正宗』も同様であるが。主に女性に対してであるが、戦闘においてもフェルグスは平等を重視する性格であった。強制を好まず、あくまでも対等に力と力を肉体と肉体をぶつけ合うことを好む英霊は、ぱっと顔を輝かせると雄叫びを上げるが如く宣言をし軽い足取りで踵を返した。

 

意気揚々と下の階へと向かっていったフェルグスに、頬を引き攣らせたイシュタルが顔を蒼褪めさせた。所謂ドン引きである。遠退いていく肌色の背中を、1人はげんなりと、1人は呆れたように見送った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

以前にも述べたかと思うが、任務に出ている時以外戦闘要員(サーヴァント)の過ごし方はそれぞれ自由である。何処で何をするかというのは生前の記憶に由来することが多く、あるものは締切りに追われ、あるものは鍛錬に追われ、あるものは調理に追われている。

セフィロスはといえば、このカルデアに来てから一番使用している部屋はトレーニングルームで、次いでシミュレーションルーム、自室と続く。トレーニングルームについては、ほぼ自発的に足を運ぶことはないのだが考えない方が良さそうだ。

 

久々に青く澄み渡った空の中を落ちる。降り立った場所は、高低差の激しいフィールドであった。

青空と大地が交差する地平線がうつくしい平地に、凸凹とした小高い山が並ぶ。まるで剣山を想わせるつくりをしたその場所は、製作者の気合の入りようが伺えた。

これはシミュレーションルームを利用した模擬戦を行うためのフィールドで、使用者の思うがままに変えられるのが特徴だ。生成時に注ぐ魔力が多いほど、フィールドの規模や地形を広大かつ複雑にできるのである。

 

 

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ!

シャワーでも浴びて来たのか?」

 

 

針山の先端に立ったフェルグスは大剣を肩に担いだまま空を仰ぎ、降臨するセフィロスを迎えた。

セフィロスは彼のいる向かいの山の頂上に降り立ち、フェルグスを見下す。

 

その姿を見てフェルグスは豪放磊落に笑み荒々しく剣を構える。

その姿を見てセフィロスは森閑を湛え流れるように剣を構える。

 

2人の間を一陣の風が吹き荒れた。

 

 

「1つ聞きたい」

 

「おお、なんだ?

なんでも聞いてくれ、特に異性のことなら……いや同性のことでも構わんぞ!」

 

「酒は撒き餌に過ぎないのだろう?

一体何が狙いだ」

 

「ははっ!! 流石は奴が認めただけあるな。

いやあ、おまえと一度手合わせをしてみたかった。これが本心だ。

あのクー・フーリンを負かし、姐さんに傷を入れたおまえとな」

 

「仇討ちの真似事か?」

 

「はっはっはっ!! それは外れだな。

宴の度にあいつらがお前の話をするのだから、そりゃあ気にするなといわれても無理であろう」

 

 

豪快さを潜めた静かな笑みを溢したフェルグスは、毎晩のように行われる宴会を思い出した。

かつてケルトの名を背負ったものたちが集い酒を煽り騒ぐ、ある意味では豪華な、ある意味では地獄の宴である。そこで、最近の酒のツマミとして挙がっていたのが『スカサハすら退けた剣士』の話であった。永遠の友といっても過言ではないクー・フーリンたちが悔しげに、女性としても慕うスカサハが愉快そうに口にする名に、いつしか心揺さぶられるようになっていた。

 

偶然にも廊下でばったりと出くわした時、彼はその時が訪れたと考えたのだ。

マスターの危機であるのはもちろん知っていたし、そのためにセフィロスが奔走していることも知っていた。だが同時に、フェルグスは確信していた。

 

 

「さあさ、参ろうぞ!!

数多の英霊を退け、我が友を認めさせたその腕!!

―――この俺に見せてみせよ!!」

 

 

セフィロスから放たれる絶対的な威圧感は、『立ち塞がるもの』のそれであった。フェルグスは肌を突き立てるそれに、己の心臓が打ち鳴らされぐるりと喉を鳴るのがわかった。武器を取らずとも弱きものを絶望の淵へと突き落とす圧倒的な威圧感は、強気ものに激発を与えるらしい。なるほどこれは、と乾いた唇を舌で湿らせた英霊は、猛き咆哮をあげる。

 

恐れを知らず嫉妬を嫌う誠実なるケルト軍の将フェルグス・マック・ロイは、すうと息を吸い込んで吐き出す。それは昂る体を表すように熱く燃えていた。

 

 

 

 

 

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