「遂に、この時が来たか…」
ルルーシュは空を見上げた。
空は暗い雲に覆われており、太陽は完全に姿を隠している。まさに今のブリタニアの、いや、人類の未来を暗示しているかのようだ。
「殿下!これは殿下のせいではありませぬ!」
「ジェレミア…気は使わなくて良い。こうなるまで不毛の戦いを止められなかった私の責任だ」
思えば急ぎすぎていたのかもしれない。急速な文明の発展と支配欲の向上は止まるところを知らなかった。
「今となっては全てが遅いのかもしれないが…思うんだよ。人類はもっと早くに平和への道を共に考えるべきだったのだ」
「殿下…」
沈痛な面持ちのルルーシュ(偽)に、ジェレミアは涙を禁じ得ない。
どうしてこうなってしまったのだ。何故、自分はこうなる前に止めることができなかったのか。
無言が支配する空間に一人の声が響いた。
「随分と辛気臭いな。葬式でもやっているのか?」
「「大ババ様!」」
「誰が大ババ様だ。C.C.様と呼べ」
無礼極まりない言葉を投げかける二人にC.C.は拳を振り下ろす。こんな若い娘に対して大ババ様呼ばわりする奴らなど殴られて当然だとC.C.は思っている。実年齢など気にしてはいけない。女性に歳の話などしてはならないのだ。
「こ、これは失礼を…では、C.C.様!子供たちの避難は完了しておりますか?」
「当然だ。とは言え、相手が怒る王蟲の集団ともなれば焼け石に水だがな。何処に逃げても結果は同じだ」
王蟲を怒らせた段階でこの結末は見えていた。王蟲の怒りは大地の怒り。ブリタニアは大地を怒らせたのだ。
大地の怒りを体現した王蟲の群れは凄まじい勢力となり、今やルルーシュ達の目前にまで迫っていた。
しかし、それでも諦めない者たちはいる。人類の歴史とは苦難と革命で構成されている。
「確かにこのままいけばその通りだ…が、俺たちには最後の切り札がある。そうだろう?ロイド」
「もちろんですよぉ、殿下。僕はそのためにいるんですから」
何時の間にか側にきていたロイドはルルーシュの言葉にふっと笑う。その姿を見てC.C.は眉を顰めた。
「まさか…ルルーシュ。お前、あれを使うつもりか?」
「今、使わずに何時使うんだ。セシル。準備は良いか?」
『はい、ルルーシュ皇帝。王蟲は充分に近づいてきています。今ならば問題ないかと」
途中で電話に切り替えたルルーシュは、セシルからの報告を聞き、こくりと僅かに首を縦に振った。それを見て周りの全員はいよいよ始まるのかと身構えるがその瞬間に頭上から声が響いた。
「やめろ!そんな方法は間違っている!」
「スザク…か。遅かったじゃないか。貴様のいう平和的手法でこの戦いを収める方法でも見つけたのか?」
メーヴェに乗って文字通り飛んできたスザクは降りるや否や、ルルーシュの前に立ち塞がった。
「あの王蟲達は怒りの余り、我を失っているだけだ!落ち着かせることができれば事態を鎮静化できるはずだ」
「それができないから問題なんだろう?あれだけの王蟲の怒りをお前はどうやって鎮めるというんだ?」
スザクの言っていることは正しい。しかし、正しさに方法がついてきていない。方法を伴わない口だけの正義など、この場においては何の役にも立たない。
「僕が止める。誠心誠意向き合えば気持ちは伝わるはずだ」
「理想論だねぇ、スザク君。君の正しさはいずれ君を殺すと僕は以前言ったけど、その通りになったみたいだねぇ。今必要なのは言葉じゃないよ。為せる力さ」
話終わるとロイドの身体が光を放ち始めた。しかし、その光は決して見るものを安心させる光ではない。むしろ、不安に貶める闇の光だ。
「ついに僕の研究の成果を見せる日が来たねぇ…この世で最も邪悪な一族の末裔の力を遺伝子に組み込んだ僕の力を」
話しながらも光はどんどん膨張していき、ロイドの身体を完全に包み込んでしまった。その光が取り払われると、そこにはロイドの姿はなく巨大な謎の生命体が誕生していた。
「で、殿下!な、何なのですかあれは」
「巨神兵だ」
「巨、巨神兵!?あの火の7日間を引き起こしたという伝説の…!?し、しかし、ロイドが何故そんなものに?」
「セシルの卵焼きを食べ続けた弊害のようだ。その中に含まれていたダークマターとロイドの血が奇跡的な科学融合を成し遂げたらしい」
「卵焼き恐るべし!!」
ジェレミアの顔が驚愕に歪むのを尻目にルルーシュはロイドに命令をくだそうと口を開いた。
「焼き払え!」
そのルルーシュの言葉が聞こえたのか巨神兵となったロイドは口を開くと迫り来る王蟲を殲滅せんと、口から光線を発した。
しかし…
「殿下…あの光線は私には卵焼きに見えるのですが…」
「卵焼きだからな」
「何故、そんなものを吐き出してるんですか?」
「人が食べられる許容範囲を超えていたんだろう。人の身体に収まらないダークマターをああやって吐き出してるんだ」
「なるほど…流石です、殿下。地上が火に覆われた理由がはっきりと分かりました」
「いや、汚いだけだろアレ。光線という名のゲロだぞ」
「大した違いはない。見ろ。王蟲にも効いてるようだぞ?侵攻のスピードが鈍ったようだ」
「流石は巨神兵ですな」
「流石なのはセシルだ。もう、アイツに料理作らせとけば色々解決するんじゃないか?」
現状を冷静に分析しているルルーシュとジェレミアにC.C.は、淡々と疑問を投げかけるが、王蟲に効果がある以上、文句を言うわけにはいかない。まあ、言ったって良いと思うが。
だが、その状況にも徐々に変化が訪れる。
「殿下!ロイドの身体が溶け始めています!」
「急速に摂取したダークマターの反動に身体が耐えきれなかったか…!!くそっ!やはり、1週間セシルの卵焼きしか食わせない生活をさせたのは無理があったのか!」
「悪魔かお前は」
溶け始めたロイドの光線では、王蟲の行進を止めるには至らない。皆が絶望感に包まれる中、スザクは一人スッと前に出た。
「いや、これで良かったんだ。王蟲の怒りは大地の怒りだ。あんなものにすがって生き延びて何になる」
「これが皆が生き延びる最善の手段だった…大事なのは結果だ。結果を伴わない綺麗事こそ一体何の役に立つ?」
「確かに綺麗事だけじゃ意味がないかもしれない…だからこそ!僕は自分の言葉に責任を持たせる!」
スザクはそう言うと、青い衣を見に纏い、メーヴェに乗ったかと思うと直ちに王蟲の戦闘集団の方へと向かっていく。
その姿にほとんど全員が無謀だとか、馬鹿だとか騒ぎ立てていたがC.C.だけは違っていた。
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし…まさか、奴こそが予言の…?」
「何の話だ、C.C.?」
「古い話さ。今のスザクの姿を伝承で聞いたことがある。本当に奴なら王蟲と会話が出来るかもしれんな」
そのC.C.の言葉を裏付けるかのように王蟲の行進は少しだけゆっくりになっていった。それと同時に王蟲の攻撃色が消え始めた。スザクの無謀とも言える行動は成果をあげたのだ。おもえば人間の歴史は不可能への挑戦でもあった。スザクの行動は人間の価値観すら変容する勇気ある行動だった
ラン ラン ラ ラ
ラン ラン ラン
ラン ラン ラ ラ ラン
ラン ラン ラン ラ ラ
ラン ラン ラン
ラ ラ ラ ラ ラン ラン ラン
ラン ラン ラ ラ
ラン ラン ラン
ラン ラン ラ ラ ラン
ラン ラン ラン ラ ラ
ラン ラン ラン
ラ ラ ラ ラ ラ ラン ラン ラン
ラン ラン ラン ラン
ラ ラ ラ ラ ラ
ラン ラン ラン ラン
ラ ラ ラ ラ ラ
ラン ラン ラン ラ ラ
ラン ラン ぐしゃ
ぐしゃ?
訳がなかった。
『ルルーシュ皇帝。スザク君が王蟲に踏み潰されました』
「だろうな。ところで何か言ったかC.C.?」
「気のせいだろう」
少しだけ行進の速度が遅れたかに見えた王蟲の軍勢の姿はどうやら気のせいだったらしい。木っ端微塵という言葉通りに、立ち塞がったスザクを踏み潰した王蟲の軍勢はもうすぐ側まで迫っていた。
「殿下!お逃げください!ここは私が!」
「無理するな。お前一人が頑張って何とかなる相手ではない。お前の方こそ下がっていろ」
「殿下!?一体何を!?」
庇うように前に出たジェレミアを押しのけたルルーシュは皆の前に出た。勝算があるのか口元には不適な笑顔が見えた。
「覚悟はできているのだろうな、王蟲。撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけだ。お前らにはその覚悟があるのか?」
ルルーシュは王蟲に向かって何やら話しかけているが、当然会話が成立するはずもなく、無視してルルーシュに迫っていく。その姿に気付かないはずがないのだが、ルルーシュは話し続ける。
「あるようだな?ならば良い。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!貴様らは」
その言葉と同時にルルーシュの目が赤く光る
「死ね!」
プシュー
こともなく、隠し持っていた殺虫スプレーを王蟲に振りかけた。その効果たるや凄まじく、王蟲達の軍勢はあっという間に地に伏していった。
その姿を確認したルルーシュは満足げに頷くと、振り返り笑顔で告げた。
「どんな蟲もこれ一本で全て解決!蟲に困った人たちはすぐに購入してくれ!」
『明日を笑顔に。ブリタニア製薬がお届けしました。』
それと、同時に画面が切り替わる。
その映像をずっとTVで見ていたルルーシュ(本物)とシャーリーとリヴァルは行動を完全に停止するが、暫くしてから同時に声を発した。
「「「いや、CMぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!????」」」
そろそろツッコミ役入れないとなぁ…だって、話が進まないから笑