三ヶ月前ならば思いもしない光景であっただろう。
目の前の人を見ながら神楽耶はそんなことを思った。何故なら
(ゼロ様…)
自分が恋い焦がれ、日本を解放してくれる唯一の希望だと信じて疑わなかったゼロが、いやその正体であったルルーシュ皇帝が恐らく自らの敵として目の前にいるのだ。
本心から言えば信じたくなかった。彼を敵だと思いたくなかった。全てこちらの思い過ごしで世界の平和のために彼はここにいるのだと信じたかった。ゼロとしての裏切りもこちらの誤解なのだと思いたかった。
しかし、今の神楽耶は日本を代表する立場である。そんな自分が私情で動くことなどあってはならない。
その考えに至った神楽耶は気を引き締め直し、目の前のルルーシュ皇帝をしっかりと見つめる。しかし、ルルーシュ皇帝も予想外と言うような顔で私のことを見つめてくる。何かあったのだろうか。
「私の顔に何か付いておりますか?ルルーシュ皇帝」
「いえ。そんなことはありませんよ」
ニコリと笑いながら答えるルルーシュ皇帝に気のせいかと考えた神楽耶は話を進めようとするが、その前にしなければならないことがある。少しの躊躇いを覚えたが神楽耶は目の前のボタンを押した。
その瞬間目の前に巨大な壁が出現し、ルルーシュ皇帝を閉じ込めた。目を合わせた相手を操るというギアス対策である。
普通に考えたら無礼以外の何者でもないのだが、ギアスという異能を相手にしているのだからしょうがないとも言える。
予定通りの展開に神楽耶は内部のモニター越しにルルーシュ皇帝と会話を始めようとしたが、ルルーシュ皇帝は閉じ込められたにも関わらずニヤリと笑っていた。
神楽耶に戦慄が走る。まさか自分たちのこの行動を彼は読んでいたと言うのか。
「ふ。悪くない考えだが…甘いな。貴方は何も分かっていない」
「…何が仰りたいのですか?」
強気に見せる神楽耶だが背中には冷や汗が浮かんでいた。自分たちはギアスのことをほとんど知らないからだ。そんな自分たちが小手先で打った対策など彼には効かないというのか。
神楽耶のその心情を知ってか知らずか、ルルーシュ皇帝は余裕の表情で告げる。
「残念ですね神楽耶様。私は閉じ込められるよりも…
閉じ込める方が好きなんです」
「いや、何の話をしているのですか!?」
予想外の話の展開に神楽耶は思わず素で返答してしまう。
「何の話?ご謙遜を。私を誘惑したくてここに閉じ込めたのは分かっているんですよ。貴方が使いそうな手だ。此方でも変わらずに安心しました」
「何でそんな話になるんですか!私はそんなことを考えてはおりません!」
「隠さずとも良いですよ。私は貴方の性癖を知っていますから。貴方も私と同じだ。相手を責めることに興奮を覚えるタイプだ」
「私はそんな性癖は持っておりません!勝手に捏造しないでください!」
突然始まった自分の性癖の暴露を神楽耶は必死に否定するが、それを見たルルーシュ皇帝は哀れむような目で見つめていた。
「可哀想に…忙しすぎて自分の性癖に気付く暇がなかったとは…ですがもう大丈夫ですよ。貴方は今解放された」
「解放されていませんし、そんな性癖など眠っておりません!良い加減にしてください!」
バンバン机を叩きながら真っ赤な顔で画面に向かって怒鳴っている神楽耶とルルーシュを映像で見ている黒の騎士団の全員はこう思った。
これって一体何なんだろう。
一方、その頃本物のルルーシュ皇帝は
「おい、何をやっているんだアイツは!?完全に俺になる気がないだろうが!」
神楽耶との会話を写したテレビに向かって全力で怒鳴っていた。当然の反応である。
それを見ていたミレイは腹を抱えて笑っているが、シャーリーとリヴァルは流石に顔を引きつらせていた。
「な、なあ…?こんな作戦だったっけ?」
「た、多分そうなんじゃないのかなー。ね、ねぇ、カレン?そうなんだよね?」
頼むからそうであってくれと希望を込めてシャーリーはカレンに電話で尋ねる。だが
『こんな作戦あるわけないでしょうが!』
全力で否定された。シャーリーの希望が崩れた瞬間である。
「で、ですよねー。じゃ、じゃあ、彰はアレは何やってるの?」
『知るわけないでしょうが!』
「えええ!?付き合いが長いんじゃないの!?」
『神だってアイツが何考えてるのか何て分からないわよ!良いことを教えてあげるわ。アイツは
頭が良いけど、バカなのよ』
「それって両立するんだ!?」
『多分暫くシリアスが続いた反動ね…マズイわ、このままだと流石にバレる』
「ど、どうするの?」
『大丈夫よ。そのために私がいるんでしょ。ルルーシュの馬鹿も!彰の馬鹿も!私が二人とも止めてやるわ!安心してて!』
そう言うとカレンは電話を切った。
何をするんだろうとそこはかとなく不安を感じたシャーリーはコントが続いているテレビを凝視する。そのコントの場面で突然、入り口を太い木の幹が粉砕し、その勢いのままルルーシュ皇帝が閉じ込められている壁の中に突き刺さった。
「「何かイキナリ木の幹が出てきたんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!!??」」
衝撃すぎる展開にシャーリーとリヴァルは全力でツッコミを入れ、ルルーシュは言葉もなくし画面を見つめる。何が起こったのだろうか。
再び会議場では
突然入り口から突き刺さった木の幹に参加者全員が当惑していた。
だがその混乱の最中、当たり前のように入り口から紅月カレンが参上した。
皆の戸惑いなど気にせずに堂々と歩きルルーシュ皇帝の側まで辿り着いた紅月カレンはニコリと笑いながらルルーシュ皇帝に問いかける。
「すいません、ルルーシュ皇帝。手が滑ってしまいました。大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です。いや、本当に」
頭から血が吹き出しながら答えるルルーシュ皇帝に、いや、何処が大丈夫なのと問いかけたい周りの人達の気持ちは無視されて二人の会話は続いていく。
「そうですか。良かったです。ところで当然ですが、これからは真面目に皇帝として会議に参加していただけるんですよね?そうでなかった場合、今度は足が滑って何かを投げてしまうかもしれませんが」
カレンはそう言うと笑いながら、石や木の破片を取り出す。阿修羅だって逃げ出すほどの殺気である。
「ふーん、心配ない。何故なら…人は平等ではない!」
「いや、それ別の皇帝ィィィィィィィィ!!」
「べるぜバブ!?」
怪我のショックからか別の皇帝を演じ出したルルーシュ皇帝にカレンは全力で石の破片を投げつける。
そんなあり得ない展開に呆然としていた神楽耶はようやく正気に戻り、カレンを諌め始めた。
「な、何をやっているのですか紅月隊長!仮にも国王陛下ですよ!」
「あ、大丈夫ですよ神楽耶様。頑丈なのでオロナインでも塗っとけば治りますから」
「そんなわけないですわ!大丈夫ですかルルーシュ皇帝?」
流石にというか当たり前だが、神楽耶はルルーシュ皇帝を心配し始めた。普通に国際問題の案件である。
そんな神楽耶の視線を受けてルルーシュ皇帝は平気の態度を装う。
「ご心配なく。問題ありません。何故なら私はナナリーを愛しているのだから「すいません、神楽耶様。先程のショックで記憶が曖昧になっているようです」ウルグアイ!」
アホの言葉を最後まで聞く気がなかったカレンは容赦なく木の破片をルルーシュ皇帝の頭に突き刺して地面に叩きつける。
頭から血を流して石と木の破片を刺しながら倒れるルルーシュ皇帝を見て、シャーリーとリヴァルはこれ死んでるんじゃね?と思ったが、その考えを裏切りルルーシュ皇帝はフラつきながら立ち上がる。その顔は邪悪に笑っていた。その笑みのままにルルーシュ皇帝は話し出す。
「くくく…こんな茶番など時間の無駄だ。何故なら答えは最初から決まっているのだからな」
ポケットからキセルと眼帯を取り出して装着したルルーシュ皇帝は話を続ける。
「俺はただ壊すだけだ…ナナリーのいないこの世界を!」
「そりゃ、ルル杉晋助でしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルル杉晋助に対してこの日最大のカレンのツッコミ(回し蹴り)が炸裂し、ルル杉晋助は宙を舞う。
黒の騎士団だけでなく会場中の全員が思った。
この会議どうなるんだろう。
何でこんなことしてルルーシュ皇帝じゃないってバレないんだよっていうツッコミは無しでお願いします。