ルルーシュ皇帝がアッシュフォード学園から去って3日が経った。
合衆国首脳陣のほとんど全員が誘拐されるという前代未聞の大事件に世間は完全に浮き足立っていた。
戦争が始まる
とか
世界が滅ぶ
とか
人間が死に絶える
とか。まあ、騒いでいる内容は様々だが一つの結論になるであろうことは一致している。
黒の騎士団とブリタニア帝国の一騎打ちの天下分け目の決戦が起こるということだ。
そのブリタニア帝国のトップであるルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
若くしてブリタニアを手中に収めた彼は世界が注目する大人物。
その人物はシャーリーの最愛の人でもある。
シャーリーは彼を信じていた。何かあるのではないかと。こんなことをしたのにはきっと理由があると。
もう一度会って話したい。ずっとそう思っていた。
そしてその夢は叶ったのだ。本来であればどんな姿になったとしても喜ぶべきなのだ。
でもだからといって
「ほら、ルルーシュ。さっさと歩いて」
「…」
「何?不機嫌そうじゃない。お腹減ったの?さっき食べたばかりじゃない」
「そんな訳ないだろうが!この状況に不服しかないからに決まっている!」
パンイチの格好で頭に女物のパンティと首輪を付けられてカレンに引っ張られながら四つん這いで街中を歩くのは間違ってると思う。
「どうしてこうなったんだろう…」
自分の最愛の人が考えられない姿で外に連れ出されているのを見てシャーリーは遠い目をして呟いた。
〜30分前〜
「そろそろシャーリーの家から移動しなきゃいけないわねぇ…」
シャーリーの家でルルーシュを含めた生徒会メンバーと食事を食べていたカレンは思い出したように呟いた。
最初はルルーシュは断固として食事を摂らないと主張していたのだが、彰の作戦を実行したカレンによりその主張はアッサリと覆ったので今では普通に食事を摂っている。
抜け出そうとしたことも度々あったが、そもそも身体能力が低い上にカレンが居ない時はギアスを警戒して目が塞がれた上に手を縛られているので全く抜け出せない。
カレンがいる時?逃げられる訳ないだろ。
「何で?」
カレンの声を聞いていたリヴァルが疑問の声を発する。
「シャーリーのお母さんが帰ってくるからよ。こんな所にブリタニア皇帝がいたら一大事でしょ?常識で考えて」
「…一国の首脳を国際会議で誘拐するという非常識を働いた女が良く言えるな」
「計画を考えたのは私じゃないわよ。彰よ」
「ノリノリで実行したのはお前だろうが!」
そんなルルーシュの正論は当然のように無視される。
「まあ、そんな訳でこれから彰が用意していた隠れ家に移動するわよ。ルルーシュ。準備して」
「何か逞しいねそっちのカレンは…ところで、彰はどうやって部屋なんて用意したの?」
「さあ?脅しでもしたんじゃない?」
「…とんでもないことを普通に言うなよ」
「とんでもないこと?何が?」
「…いや、もう良いです」
リヴァルの質問に疑問符を付けたカレンを見てシャーリーは苦笑いを浮かべる。
並行世界とやらから来たのは知ってるが、これでは最早別人ではないだろうか。顔が同じな分、違和感がとんでもない。
「まあ、良いわ。私も軽くご飯持ってきたからこれ食べたら行くわよ。ほら、これは男子の分。こっちは私たち女子の分」
そう言ってカレンは自身が買ってきたサラダをテーブルに置いて話を進める。
文句は色々とあるがルルーシュも渋々と食べ進める。ここから移動するのであれば、その道中に抜け出す隙があるかもしれない。
「でもカレン?移動中見つかったら大問題にならない?また気絶でもさせるの?」
食事をしていたルルーシュの顔がミレイの発言を聞いて青褪める。
アッシュフォード学園からシャーリーの家まで自身を運ぶためにカレンは、再び首を締めて気絶させてから運んだのだ。人権も何もあったものではない。
しかしミレイの発言にカレンは静かに首を振る。
「いや、あまり乱暴なことはしたくないんですよね。私の良心が痛みますし」
「お前にそんなものが残っていたのか、ってグオォォォォ!!」
「何か言った?ルルーシュ?」
ルルーシュの言葉にカレンはニコリと笑いながら無言でフォークをルルーシュの額に投げつけた。このコントロールは見事なもので見事にルルーシュの額に直撃した。
半泣きになりながら呻いているルルーシュを見て「うわぁ」と言いながらシャーリーとリヴァルの顔が引き攣る。
「…お前!一体何をする!?」
「フォークを投げたのよ」
「そんなことを聞いているのではない!」
「アンタが悪いんでしょうが。彼女にそんなことを言うもんじゃないわよ」
「お前!今まで俺にどんな対応を…待て。今何と言った?」
怒り狂っていたルルーシュの心がカレンの言葉を聞いて一時停止する。
それはシャーリーやリヴァルどころかミレイも同様である。
「そんなことを言うもんじゃないわよ?」
「もっと前だ!」
ルルーシュは全身から冷や汗を流しながら全員が何を疑問に思っているのか分からないカレンの言葉を待つ。
「彼女にそんなことを言うもんじゃないわよってところ?」
「…ま、まさかとは思うがその相手は誰だ?」
「アンタに決まってるでしょ」
何を今更とカレンはため息を吐くが、それ以外のこの場の全員はそれどころではない。
「「「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」」」」
全員が今まで食べたものを吐き出す勢いで絶叫をあげた。それぐらいあり得ないことだったからだ。
「何を驚いてるのよ。告ったのアンタの方じゃない」
「しかも俺が告白したのか!?」
「ど、ど、ど、ど、ど、ど、どういうことよルルぅぅぅぅぅぅ!!」
カレンの言葉に半分以上泣きながらシャーリーはルルーシュの肩を掴んで揺さぶる。
何とか宥めようとルルーシュだけではなくリヴァルとミレイも加わるが、この二人もかなり戸惑っているためあまり効果がなかったりする。
そんな四人の様子を見てカレンはふと思った。
「もしかしてこっちの私ってルルーシュと付き合ってないの?」
「当たり前だ!」
「いや、そんな当たり前知らないけど…ってことは第一回!チキチキ!ルルーシュの本妻は誰なのか!!選手権!もやってないの?」
「やってるわけないだろうが!何だそのバカみたいなネーミングは!」
「ねぇ、カレン!その選手権について詳しく教えて!」
「何、目を輝かせて楽しそうにしてるんてすか会長!?」
殆どのメンバーが完全にパニックになっている様を見てカレンは自分の思っていた以上に歴史が違うことに顔をしかめた。
「ここまで歴史が違ってるのにはちょっと驚いたわね…このメンバー以外にはバレないようにしないと」
下手に昔の話をするのは危険だとカレンが考えていると、テンションが上がったミレイがカレンの肩を掴んで話しかける。
「そんなことより、ねぇねぇ!ということはその選手権で優勝したのはカレンってことよね?」
「えーと…まあ、一応」
「凄いじゃない!そんな選手権に出るくらいカレンはルルーシュのことが好きだったんだ?」
「…ええ」
その回答に完全にテンションが上がりきったミレイはカレンの目が死んでいたことに気付かなかった。
場の空気的にほとんど彰に嵌められただけだと言えなかったのだ。
「ルルーシュには何て告白されたの?」
「…確か「決勝の勝者はカレンだ!だから、ゲームを終わらせろ!俺はカレンを愛しているぞ!」だったような…」
「ねぇ、聞いた!?ねぇ、ねぇ、聞いた!?どうすんのよルルーシュ!シャーリーという人が居ながら!どうすんのよ?」
「ちょ、ちょっと会長!並行世界の話ですから!」
「そ、そうですよ!こっちのルルとカレンがそうなるとは限らないじゃないですか!」
ルルーシュだけでなく多少は落ち着いたシャーリーも弁護に加わるが、ミレイは顔を赤くしたカレンを見てニヤリと笑う。
なお、カレンが顔を赤くしているのはミレイが考えているような理由とは全く違うのだが、選手権を見ていない人間にそんなことが分かるはずもない。
「そんなこと言ってる場合じゃないと思うわよシャーリー。向こうのカレンとルルーシュがそんなにラブラブだってことは、こっちでもそうなる可能性は高いんじゃないの?ねぇ、カレン?」
「いや、それは知りませんが…ただ基本的に人間関係はそんなに私の世界と変わりませんね」
「だってさ。ヤバイわよーシャーリー!何とかしないと!しかも告ったのはルルーシュ何だから!」
「こっちの俺にはそんな予定はありませんよ!」
「分かんないぜ〜ルルーシュ。好きになるのは突然だって言うからな」
そんな風にこちらの生徒会メンバーは騒いでいたが、比較的落ち着いていたカレンが手を叩いて騒ぎを終わらせる。
「はいはい。騒ぎは終了よ。別に私とルルーシュが付き合ってることなんて大した問題でもないでしょ」
「…私にとっては世界の終わりくらいに大切なことなんだけど」
そんなシャーリーの言葉を完全に無視してカレンは続ける。
「とりあえず、ルルーシュの変装から始めないとね。この格好だとバレるし」
「どうするんだ?」
リヴァルの質問にカレンはノートを出して答える。
「前にも言ったけど彰から貰ったノートがあるから基本的にはこれで対応ね」
「…本当に大丈夫なのか?」
顔を蒼褪めさせながらリヴァルは尋ねる。以前にこのノートのせいで酷い目にあったが故の反応だ。
「大丈夫よ。効果は保証するわ」
「…むしろ効果のことしか考えてないから不安なんだが」
〜10分後〜
「さて、こんなもんかしら。さあ、行くわよルルーシュ」
「…おい、ちょっと待て」
ルルーシュは震えながら声を絞り出す。それは怒りによる震えだった。まあ、カレンに無理やりさせられた格好からすればしょうがないことではあるのだが。
その姿を見てシャーリーとリヴァルは言葉を無くし、ミレイは我慢できずに床を手で叩きながら爆笑していた。何せ…
「何よ?」
「何よ?じゃないだろうが!何だこの格好は!こんな格好で外に出ろと言うのか!?」
ルルーシュがパンイチで首輪を付けられた状態でいるのだから当然の反応だろう。
「気持ちは分かるわ、ルルーシュ。でもこれは逆転の発想よ。隠そうとするから逆に目立つのよ。なら、逆に目立とうとすれば逆に隠れるはずよ」
「馬鹿か!?そんな訳ないだろうが!」
「うっさいわね!見つかるのがアンタの目的だからアンタには害はないでしょ!」
「あるに決まっている!人としての尊厳の問題だ!」
当然のように抗議するルルーシュと揉めているカレンを見て流石にルルーシュが可哀想になったシャーリーが援護に入ろうとする。
「あ、あのさー、カレン。ちょっと良い?」
「ん?どうしたの?」
「あ、彰の狙いは分かるんだけど流石に顔が丸見えだと気付くんじゃないかなー」
「それは大丈夫よ。まだ途中だから」
ニコリと笑ったカレンはポケットからパンティを取り出し抵抗するルルーシュの頭から無理やり被せた。
良しと言ったカレンはシャーリーを見る。
「どう?これで完璧よ」
「何処も完璧じゃないよカレン!?」
とんでもない方向に舵を切った友人にシャーリーは絶叫する。
「え?何処が?」
「全部だよ!だって不審者だもの!これ完全に不審者だもの!」
「ああ、安心して良いわよシャーリー」
「だ、だよね流石に冗談だよね!」
「これ使用前だから」
「誰もそんな心配してないよカレン!」
「こんなもの被ってられるかぁ!」
当たり前だが納得などカケラもしていないルルーシュは怒りながら被せられたパンティを床に叩きつけた。
「あ!何勝手に脱いでるのよ!」
「脱ぐに決まっている!何だお前は!常識を向こうに置き忘れてきたんじゃないだろうな!」
「ふっ…そんな訳ないじゃない。アンタは勘違いしてるわルルーシュ」
ルルーシュの質問にカレンは死んだ目で答えた。
「私の世界に常識なんてものはないのよ…」
カレンの言葉と迫力にルルーシュは何も言えなくなった。
そして抵抗も虚しく強引に外に連れ出されたのは言うまでもない。
アカン。向こうのツッコミ役のカレンですらコッチに来たらボケになってしまう