紅魔館。
湖のほとりに建つ、窓の少ない悪魔の館。
これは、そこで働く1人の少女の物語だ。



※本作品は、東方Project二次創作「吸血鬼人間の幻想生活」(R-18)の外伝(三次創作?)です。
本作品をより楽しむには、先にそちらを読破されるのをお勧め致します。(上記作品を未読の方は)

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ロリっ子メイドは今日も働く

 ─────ここは幻想郷。忘れられ、存在を否定されて、外の世界では幻想となった者達が最後に行き着く、秘密の楽園。

 私は存在を否定されたり、外で忘れられたというワケではなく、生まれも育ちもこの幻想郷だ。

 ここでの暮らしはとても楽しく…飽きがこない。

 この世に生まれ落ちてたった10年の私だけれど、これは断言できる。「生涯飽きる事は無い」と。

 

 

 ◆

 

 

「弦月姫。後は私がやるから、旦那様を起こして来てくれるかしら?」

 

「はいっ!」

 

 数の少ない窓から暖かな日差しが差し込んでくる頃に、私は、上司であって母でもあるメイド長の指示で、キッチンを早歩きで出る。

 旦那様とは、お母様の夫であり私のお父様であるエスカルゴ・スカーレット。「雷速の吸血鬼」、

「アマルガムの吸血鬼」等を自称し、妖怪の山に住む妖怪達からは「山の英雄」とも呼ばれているとても強い力をお持ちの方だ。

 お父様は、ある事情で毎日あちこちの家を転々としており、どこか1ヶ所に定住なさらない。普通ではないのかもしれないが、私が生まれた時には既にこの様な生活を送っていたので、私にとって普通となっていた。そして、昨晩は私とお母様と3人で眠った。つまりお父様は今、私達の部屋で眠っていらっしゃる。

 

「おはようございます、お父様。もう朝ですよ、起きて下さい」

 

「んぅ゙ー……朝ぁ……早くない……?」

 

 目を強く擦りながら、そう呻くお父様。昨晩は、妹様ことフランドール様と弾幕ごっこをしすぎたらしく、疲労困憊という様子。そんなお父様には申し訳ないと思うが、起こすのが私の仕事だ。

 

「もうっ……そんな事を言っていたらまたお嬢様達に怒られてしまいますよ?」

 

「そうだな……ご褒美だけどな……ふあぁぁ〜……」

 

 どうやらまだ寝惚けておられるらしい。怒られるのがご褒美とは……。そんな言い間違いをするほどお疲れらしい。すると目を覚ますためか、毎度の如く、頬を両手でパチンと2度軽く叩いた。

 

「っし、目ェ覚めた。おはよう、弦月姫」

 

「おはようございます♪」

 

 私の名前は、十六夜弦月姫(ゆづき)。紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の娘。種族は吸血鬼と吸血鬼の純血。

 時を操る程度の能力、植物を操る程度の能力の、2つの能力をこの身に宿しているただのメイド。

 長いようで短い1日は、まだ始まったばかりだ。

 

「おはようございます、美鈴さん。今日もしっかり起きていますね」

 

「おはようございます、弦月姫ちゃん!もう私は、あの頃のように毎日は寝ませんよ!」

 

「できれば毎日起きていてほしいのですが……」

 

「……あはは〜……」

 

 朝の挨拶は基本。メイドとしての心得の1つだ。寝てないか見張るという意味もある。それから、私は彼女を美鈴さんと呼んで、美鈴さんは私を、弦月姫ちゃんと可愛らしく呼んでくれている。

 私をそう呼んで下さるのは美鈴さんだけだから…なのか、自分で言うのも烏滸がましいが、自分を客観的に見たら、かなり懐いていると思う。別に悪い事でもないので、これを治すつもりは無い。

 

「あっ、そうだ!今日は何時ぐらいにしますか?いつも通り9時と16時で良いですかね?」

 

「はい、それでお願いします」

 

「分かりました!」

 

 美鈴さんは門番。けれど、もう1つ仕事がある。乃ち、ハーブ園や花壇の手入れ、水やりなどだ。これは私も手伝っている。

 9時は朝の仕事が終わり始めるので比較的時間を作り易く、一方16時はおやつの片付けも終わり、これもまた時間を作りやすい時間帯なのだ。

 どちらも、お昼ご飯やお夕飯の仕込みよりも前の時間だからこそ、私にとっては自由時間になる。

 それ以外の時間は、洗濯物を干し、舘内の掃除、侵入者の対処等を主に行っている。……もっとも、美鈴さんが居るので侵入者など滅多に来ないが。

 外に居る美鈴さんが何故、時間を把握出来ているのかというと、紅魔館には時計台もあるからだ。ビッグ・ベンのようだ、とお父様は仰っていた。それを生で見た事は無いらしいが、とてつもなく大きな時計台だ、とも聞いた。いつか見れる時が来るといいな、と密かに思っている。

 

「はぁ〜、疲れたよぅ……」

 

「私もー……ちょっとダルくて眠いー……」

 

「そんな事言ってたら弦月姫さんが来るよー……。時間止めて来るから瞬間移動みたいなものだし……サボってたら絶対にバレるって……」

 

「「分かってるけどやる気が出ないのーっ!」」

 

「そんな事を私の前で言ってて良いのかしら?」

 

 メイド妖精の溜まり場に出向くと、案の定数人の妖精が掃除をサボって壁に寄りかかって床に座り込んでいた。そんな所へ、私が時を止めて現れたものだから、妖精達が驚くのも仕方ないと思う。

 

「「「ひぃぃぃっ!!!出たぁぁぁ!!!」」」

 

 声を揃えて叫ぶ妖精達。見慣れている光景であるはずだが、イタズラされる側なのは全然慣れないらしく、毎度こんなノリだ。

 

「『出た』って……お化け扱いするのは酷いわよ?

……って言うのも、お化けさんに失礼かしら?」

 

「「えへへ〜……ちょっと今日は、少しやる気が出なくて……。身が入らないと言いますか……。でも遊ぶ気力だけは出てくるような……。早く遊びたいけど、掃除を終われる気しなくて……」」

 

「もう、そんなモロに……!」

 

 2人が悪びれずにそう答えると、もう1人はその2人の口を塞ごうとして黙らせようとする。

 

「あなた達がやる気無いのはいつもの事でしょ?メイド長に言いつけるわよ?」

 

「「「それだけはご勘弁を〜!!」」」

 

「大体ね、作業しないから終わらないのよ。早くやればそれだけ早く終わるのだから、遊びたいのならテキパキ行動しなさい」

 

「「「そういえば!!!」」」

 

 そんな基本的な事も忘れていたのかと、心の中で大きめの溜め息をつく。メイド妖精へ注意をした私は、自分の仕事に戻る。乃ち、ベッドメイクとお部屋の掃除だ。

 私がお父様を起こし、美鈴さんと話し、妖精達に注意している間に、お母様はお嬢様方を起こして食堂にエスコートしている。

 食後にお嬢様やお父様の自室でセ……スをされる場合もあるので、乱れたシーツや枕を直し、主に使用されているそのお部屋を一番先に掃除する。

 こうして仕事を分担することで、皆様が食後すぐ自室に戻られても、部屋は掃除されて、ベッドも綺麗にされている、という状況にしている。

 私が産まれる以前は、この一連の流れをお母様が1人でこなしていたと聞いている。やはり、私のお母様は凄い。

 

 

「レイチェルったら……。お嬢様の髪の毛が……」

 

 お嬢様のベッドを掃除していると、細かく切れて落ちている毛を多数発見した。レイチェルとは、私の異母姉妹でありお嬢様の娘である、お嬢様にかなりそっくりな子だ。眠る際、近くに居る人の髪の毛を引っ張るクセがある。お父様とお嬢様、レイチェル、妹様の4人で眠る時は、両脇にいるご両親の毛を引っ張っているのだそう。

 お父様は「禿げないか心配でしかねぇぞコレ」と仰っていたけれど、どう考えても細胞分裂の(毛が伸びる)方がずっと早いので、心配は無いだろう。

 

 主な部屋のベッドメイクの後はキッチンに戻り、朝食に使用した皿をお母様と洗う。それが終わる頃には、9時前という丁度いい時間になっているので、外の納屋に行ってジョウロを2つ用意し、水を入れてから美鈴さんを呼びに行く。

 

「美鈴さん、そろそろ時間ですよ」

 

「あっ、はい!わかりました!もうそんな時間になってたんですね〜……。つくづく、時間が経つというのは早いものです」

 

「そういうものなんですかね?」

 

「ふふふっ、弦月姫ちゃんも大きくなれば分かるようになると思いますよ♪」

 

「……?」

 

 時間を進めることも出来る私には、「時間が経つというのは早いもの」の意味が分からなかった。大きくなれば分かるとの事なので、分かるようになるまで楽しみに待っていよう。そして、2人で花壇に行くと、お花さん達が私を迎えてくれる。

 

『弦月姫〜、パンツ隠さないでよぉー。ドロワーズなんて色気ゼロじゃないかー』

 

『『『そーだそーだー!』』』

 

 何故かここのお花さん達はスケベだ。水やりこそ立って行うものの、手入れはしゃがんで行うのでミニスカートだとパンツが見えてしまうのだ。

 私は寒色系の色が大好きなので、白や水色…青、紺などの色を使った、水玉や横縞のパンツをよく履いている。子供っぽいとお花さん達に言われた時は、ナイフで根ごと刈ってやろうかと思った。

 

「隠すに決まってるじゃないですか。パンツなんて誰にも見せたりしませんからね」

 

『お父様はー?ねーねーねー?』

 

「見せま……って、何を言わせるんですかぁ!」

 

『あー、これもうイエスだよね、イエスだよね。弦月姫って、こういうのポロッと言いやすいし』

 

『『『イエスイエスイエスぅ〜、やっぱり見せるんだねぇ〜♪エッチなメイドさ〜ん!』』』

 

「ったく……しょうがないお花さん達ですね……」

 

「お花さん達、また何か言ったんですか?」

 

「パンツ隠さないで、などと……」

 

「え〜……スケベなんですねぇ。あっ、もしかして私も見られてたりするんですか!?」

 

 焦った美鈴さんはスカート?を押さえて少しだけお花さん達を睨むが、私は冷静に、彼らにそこのところを訊ねてみる。

 

「……どうなんです?」

 

『『『スカート長くてギリ見えなーい』』』

 

「スカートが長くて見えない……だそうです」

 

「良かったー……見えてたら埋めちゃう所でした」

 

『『『ヒィッ!?』』』

 

「あ……あははは〜……」

 

 まぁ、美鈴さんの事だから冗談だとは思うけど、久しぶりに見たその真顔に、少し身震いがした。そして、視線を彼らに移し、伸び伸び育つように心を込めて、水を優しくかけていく。

 すると、黄色のパンジーさんが話しかけてきた。

 

『ねーねー、もう種出来たよー?回収回収っ♪』

 

「あら、ありがとうございます♪」

 

 私の花は一年中咲き誇る。季節なんて関係無い。季節の花が見たければ、その1ヶ所だけにお花を咲かせればいいだけ。なので、戦闘に使用出来るように常に四季の花を咲かせている。必要なのは私の妖力だけだからだ。

 それから、回収した種は拡張したポケットの中に種類毎に分けて入れているので、いつでも正確に的確なお花さんを取り出すことが出来る。

 次に、ハーブ園の方に向かう。紅茶に使うハーブから、私とパチュリー様だけで育てている危険なハーブまで、あらゆる種類が揃っている。

 

「うぅ〜ん……最近、ここに来ると頭が……」

 

「ふむ……どうやら勝手に出ているようですね」

 

「ふえぇ……?何が出てるんです……?」

 

「あぁいえ、こちらの話です。戦闘に使えるかと思うんですが…どうでしょうね」

 

「ふーむぅ……んー……眠い……」

 

「幻覚のみならず睡眠作用もあるんですね……。後でパチュリー様に報告せねば……。皆さん、少し花粉出しすぎでは?」

 

『意識してなかったな〜』

 

「して下さい……」

 

『はーい』

 

「ん〜……あぁ、ついウトウトしてしまった……!寝てませんよね!?私、寝てませんよね!?」

 

「ええ、ギリギリ」

 

「あっぶな〜……良かったです……」

 

 やはり、眠かったりするのは花粉の効果らしい。それと匂いなどの目に見えない成分も当然ながら含まれているが。意思疎通出来るのなら……いや、出来なくとも、植物というだけで私は操れるが。

 

「種はまだ……ですね?」

 

『まだだよ〜』

 

「分かりました」

 

「……ところで、弦月姫ちゃん。最近、あまり妖舞君来ませんね?どうかしたんでしょうか?」

 

 妖舞というのは私の異母姉弟の魂魄妖舞の事だ。私の5つ年下の弟であり、半人半霊の妖夢さん、吸血鬼のお父様の間の子だ。そばに半霊が居て、背中には蝙蝠の翼もあり、瞳の色は紅だ。

 

「さぁ……。流石に、懲りたんじゃないですかね?毎回毎回一撃も入れられない上、この前は全身を切り裂かれましたから」

 

「それでも、血が少し流れる程度にしか切らない辺り、弦月姫ちゃんも優しいですよね〜!それにしても、お姉さん達も含めて、どうして妖舞君に対してキツく当たるんです?男だからですか?」

 

「……私……っていうか、巫月お姉様達もですけど、ああいうタイプが嫌いなんですよ。男や女なんて関係無く……」

 

「と、言うと?」

 

「身の程知らず……とでも言いますか。言い方は悪いですが…大した力も無いのに、ああいう風に喚き散らすのがどうも嫌いなんです……。お父様が偉大すぎる故、でしょうか……」

 

「あー、それはあるかもしれませんねぇ。身近に凄い人が居たときなんて、その人を基準に見がちでしょうし。ですが、もう少しだけでも、優しく接してあげては?」

 

「ダメですよ。樹里愛が良い例ですけど、誰かが妖舞に優しくしたり、ヨイショすると絶対天狗になるんです。痛い目みないと分からないんです。

……何年経っても分かってないらしいですけど」

 

「何年経っても分からないのなら、攻め方を少し変えてみる、というのはどうですか?押してダメなら引いてみろって感じで!」

 

「なるほど……それはいいですね。もし次来たら、少し攻め方を変えてみますね」

 

「あーいや、攻め方というのは接し方って事で」

 

「あぁそうでした……。でも、思い付きませんね……倒し方を変えれば少しは変わるでしょうか?」

 

「どう……でしょう?やり方によっては、変わるかもしれませんね。頑張って下さいっ!」

 

「ふむ、次回はお花さんも使いますかね」

 

「これまではナイフだけでしたもんね〜。それも良いかもしれませ……おぉ、噂をすれば。妖舞君来ますよ。気を感知しました」

 

「え〜……分かりました、行ってきます……」

 

 その場にジョウロを置き、私は門へ急ぐ。そんな私を、美鈴さんは手を振って見送ってくれた。

 門に行くと、美鈴さんの言っていた通り、真剣を抜いて構えている妖舞が居た。ギリギリ敷地内に入っている。

 

「……懲りないわね、あなた」

 

「っせーな!今日こそ攻撃ぶち込んでやるぜッ!いつまでも余裕で勝てると思うなよ!」

 

(そういう発言が嫌いなのよ、私達は……)

 

 私と妖舞の戦いには幾つか約束がある。

 1、先に相手に攻撃を入れた方が勝ち。

 2、弾幕ごっこor弾幕格闘のルールで戦う。

 3、能力の使用は自由。

 4、妖舞は侵入者扱いなので弦月姫が勝った場合速やかに紅魔館から出ていく。

 

 私がレイチェルの相手をするのは仕事の範囲内。でもパーティでも無いのにレイチェル以外の異母姉妹や異母姉弟とプライベートな理由で戦うのは仕事の範囲外という扱いだ。なので妖舞を侵入者扱いにすれば合法的に戦えるというワケだ。黒霧異変のときに霊愛お姉様と戦ったのも、お姉様を侵入者扱いしたからだ。

 

「はぁ……。良いわ、かかってきなさい。今日は時間止めないで相手してあげる」

 

「どこまで俺をっ……!これまで通りでいい!!」

 

「私が時を止めたらあなたは眠っているも同然。そんなに寝首を搔かれたいのかしら」

 

「それでいいよ、どーせ殺し合いじゃねーんだ!俺だって父上の子供なんだ、上手く言えねーけど、俺だって、俺だってやれるんだよ!!」

 

「……日本語が下手ね。なら、遠慮無くやらせてもらうわ。後悔しない事ね」

 

「おうッ!」

 

 威勢よく声を張り上げた妖舞は、水色と黄の交差する弾幕を放ってくる。お父様はこういう弾幕が苦手らしいが、私は特に、そういうことは無い。

 寧ろ、見慣れすぎて得意なパターンとも言える。

 時間も止めず、弾幕も放たずに避け、ポケットに手を入れ種を多数取り出し、それを投げる。

 

「薔薇符『棘蔓地獄締め』!!」

 

 今投げたのは私が品種改良した特殊な薔薇の種。触手のように畝ねる蔓に、薔薇のような棘がそこかしこに存在している。私が指示を出せばすぐに妖舞へ向かっていき、彼を絡め取らんと、多くの方向から一度に攻めていく。

 

「っ……うォらぁぁっっ!!!」

 

「ッ!?」

 

 力の篭もった叫び声と共に、私の薔薇達が無惨に切り裂かれていく。どうやら刀剣使いを縛るのは愚策だったらしい。少し甘く見ていたか。

 

「……そう来なくちゃつまらないわ。なら次は少し厳しめに行くわよ。植壁『オールプラント』!」

 

 ありとあらゆる植物の種を投げ打ち、即座に発芽

・成長させ、植物の壁を作り妖舞を囲んだ。剣の範囲より外なので、一度に切ることは叶わない。

 

「舐、め、ん、なァァァッッ!!!」

 

 およそ妖舞らしくない怒号と共に、妖舞を囲んだはずの植物の壁が、細切れになって弾け飛んだ。同時に、私の方に斬撃の様なものが飛んできた。それを避けると背後の玄関に傷が付いてしまう。喰らったら私の負けなので、せめて相殺すれば良かったと内心舌打ちをする。

 

「あんなんで俺を倒せるとでも?いくらなんでも舐めすぎだぜ、姉上……ッ!!」

 

「あら、そうかしら?ちょっと成長したからってイキってると、痛い目見るわよ」

 

「〜〜〜〜ッ!!!姉上ェェアァァッッ!!!」

 

 一振りの真剣をあらゆる方向に振り、先程と同じように斬撃を飛ばす妖舞。それは全方位に及び、背後の門に亀裂が走って、館の壁にヒビが入り、地面にも切り込みが入っていく。

 

「ちょっ……あなたね、少しは周りの事もっ……」

 

「うるっせぇ、ンなこと知るか!俺はもう姉上に負けたくねーんだよォッ!!遠距離から攻撃して今日こそ勝ってやるんだ!!」

 

「……あまり私を甘く見ない事ね!調子に乗った事を今すぐ悔やむがいいわ!メイド秘技『お仕事は効率的に』!!」

 

 数秒間だけ時を止め、目の前、膕付近、手元、腹辺りにナイフを設置する。時間停止を解除すれば妖舞は目の前のナイフを首を曲げて避け、空中に回避してそれぞれの攻撃を避けていく。そして、空中から地上に居る私に斬撃を放とうとしたその瞬間。

 

「ガッッ……ぐ、うぅ……!」

 

 地上にパラパラと落ちてくる真っ赤な血。今回は妖舞の逃げた先にもナイフを設置していたので、剣を持っていた腕を貫き、妖舞は剣を手放した。

 

「─────はい。私の勝ち……ね」

 

「……ちくしょぉぉっ……!」

 

「もっと腕を磨いてから挑みなさい。尤も、今のあなたは……腕を磨くのではなく、治してからね」

 

「っ……上手いこと言ったつもりかよっ……」

 

「……じゃ、私は仕事があるからこれで」

 

「待てよ姉────」

 

「約束は約束よ」

 

「……くぅぅっ……クソォォォッッ!!!」

 

 地面を踏んで悔しさを露わにする妖舞を置いて、私はハーブ園に戻る。接し方などはとうに忘れていたが、別にいいかな、と開き直ることにした。

 

 

 お昼の時間が過ぎ、やがておやつの時間がやってきた。今日は確かお父様が白玉楼に泊まる日だ。お父様はもう、紅魔館を出てそちらに向かった。妖舞はきっと私に負けた事をお父様や妖夢さん、妖忌さん…幽々子さんに言うだろう。

 けれど、その話を聞いた皆さんが口を揃えて言う言葉は決まっているはずだ。「修行不足だ」と。

 

「また侵入者が来ていたって?最近多いわねぇ、美鈴は一体何をしているのかしら」

 

「美鈴さんとハーブ園の手入れをしていたときに来たので…仕方ないと思います。私がいつも通り追い返しましたので、ご安心下さい」

 

「そう……。手加減はしてるわね?」

 

「ええ、すぐ治る程度に」

 

「へぇ……?ナイフでつけた傷がすぐ治るなんて、なんとまぁ再生力が強い者なんでしょう。まるで吸血鬼やその血を引く者みたいね」

 

「さ、さぁ……人それぞれですから……」

 

 私が咄嗟にそう誤魔化すと、ホットケーキを焼きながら、お母様は呟くようにしてこう言った。

 

「……遊ぶのは良いけど、ほどほどになさいね。仕事に支障をきたさない程度なら遊んでいいわ」

 

「え……」

 

「もう、それくらいの判断は自分でつくでしょ。10歳になったんだから、これまで以上にしっかり働いてもらうわ、覚悟なさい」

 

「は……はい……!」

 

「返事が小さい」

 

「はいっっ!!!」

 

「よろしい。じゃあ、お嬢様方呼んでくるから…あなたが仕上げをやってみなさい。ホットケーキくらいなら出来るでしょう?」

 

「しかしっ、私がやったら失敗するかも───」

 

「何事も練習よ。……それと、今日はテングダケの粉末をお嬢様のティーカップに」

 

「分かりました!」

 

 

 私は今日も働く。一所懸命……いや、一生懸命に。もう1から10まで指示されず、自分で考えて、行動できるようになろう。

 私だって、いつまでも子供じゃないのだから。




初めて?外伝なるものを書いてみました。しかも、何故か四女からという。
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