それでも彼は『木原』である 作:コズミック変質者
原作:とある魔術の禁書目録
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 アンチ・ヘイト クロスオーバー Fate 問題児たちが異世界から 来るそうですよ? 他殺志願者 木原 似非科学
誰よりも愚かで、一人で、強く、哀しい『木原』が。
「人の感情とは素晴らしい。美しく煌びやかでその輝きは、価値は、形は、質は、一瞬のうちに変化して行く。じっくり観察することすらままならない。そもそも観察すらできない。だってそれは見えないんだから。どれだけ目が良くても、どれだけ相手のことを理解しても、感情は所詮、不可視のものでしかないのだから」
「ならばどうやって観察してるかって?」
「表情?違うよ。全然違う。君だって愛想笑いや気分、その場で取り繕う為に表情を変えたことくらいあるだろう?表情なんて当てにならないよ。そもそも表情と感情は別物さ」
「私は行動で見ているんだよ。時間はかかるが、対象の行動を観察し、取り囲む状況を掌握し、関わった因子を観測する」
「手っ取り早く済むのならそれが一番さ」
「では君に聞こう。私が思う最も美しく素晴らしい感情とは何だと思う?」
「喜び?悲しみ?怒り?恐怖?哀れみ?同情?差別?無関心?好奇心?正解は勇気だ」
「勇気は時として人に素晴らしい力を与える。火事場の馬鹿力、と一緒にする気は無いが概ね似たようなものだ。要は、火事場の馬鹿力と勇気、共通する点は絶体絶命になるかだ」
「命の危機に接した時、大切な何かを守りたい時、人はバカみたいな力を発揮する。体力の有無は関係なく、才能の有無は関係なく、限界の有無は関係なく、ただ一点、勇気があるかないかで変わってしまうんだよ」
「君だってそうだ。勇気を持ってここにいる。勇気があったからここにいる。それはほんのちっぽけな、見落とすほどの小ささではなく、見上げるほどに膨大な、恐怖などの悪感情を乗り越えてここにいる」
「そしてあれだけ弱かった君が、怯えていた君が、こうして私の前に立ち私の心臓を破壊した」
「私という強大な敵に立ち向かう勇気。私という恩師に立ち向かう勇気。私という魔王に立ち向かう勇気。素晴らしい。素晴らしいことだ。君は勇気の力であらゆる枷を引きちぎった」
「だから、泣かないでおくれ。挫けないでおくれ。君は一人ではないのだから。君が勇気を出して守ってきた人達がいるのだから」
「悲劇に幕を閉じた、勇者である君は賞賛される。私のことなど気にせず笑い飛ばすといい。アイツは弱かったと。貧弱でひ弱で華奢で愚かだったと。君にはその資格がある。君にはその権利がある」
「だって君は私を殺した。恥に思うな。心に隠すな。これは素晴らしいことだ。人間の可能性が、私という絶対悪を打ち倒したのだという証明だ。だから、受け取れ。そして踏みつぶせ。私の掲げた御旗を」
「だって君は、勇者なんだから」
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「全く、こんなの『木原』としてはどうなんだ?これじゃあ私は失格もいい所だ。良くて及第点を貰えるか。少なくとも花丸なんて夢のまた夢だな」
『ふむ、君はこの結果に満足していないのかね?君のことだからもう次のことは決めているだろうに。手始めとして限界点を調べるのであれば、これは『木原』としてはいい、と言っていいのかは分からないが当然の結果では?』
異様な光景があった。廃墟に、白衣を着崩した青年と一匹の
「ダメだよ、だめ駄目。私はただ『木原』の真似をしただけに過ぎない。同列に語るなんて烏滸がましいにも程があるだろう?どれだけ私が特殊な『木原』とはいえ、『木原』としての意地にかけて目指すべき基準というものがあるのさ」
そう言って、青年は目の前に広がる光景を見てため息を吐く。見るだけで気分が落ちてくる。自分の未熟を痛感させられる。
目の前にあったのは地獄絵図。小学生から大学生。性別に偏りはない。彼らには学生であるということ、そして皆等しく血塗れで地面に倒れている。
あるものは体がくの字に折れ曲がっている。ある者は腹部に穴が開き、そこから大量に出血している。ある者は四肢の関節の先が消えている。全員瞳に光はない。彼らは呼吸を止め、心臓が停止し、当然のように死んでいる。
『これが失敗か。結果はどうあれ過程としては素晴らしいものだったのだがね。木原病理の『諦める』を応用して君に襲いかからせる』
「応用?改悪の間違いさ。そもそも私は諦めさせようなんて思ってないし、知っているはずだろう?私が彼らに与えたかったのは全く違う感情さ」
『私には、『木原』には分からないな』
本心は分からないが、さも残念そうに犬が言う。どうやって発生しているのか、青年はおおよその見当はついているが決して言うことはない。今の現状で『木原』のまとめ役である犬の機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。
『そこまでして君の言うモノは素晴らしいのかね?』
「当然」
犬の問いに青年は躊躇なく答える。
「どれだけ困難な状況でも、どれだけ過酷な環境でも、どれだけ絶望的な戦況でも、人間の持つ勇気は全てを跳ね返す。科学も、
『君を殺せる存在の間違いじゃないのかね?』
「そうとも言うね、脳幹さん」
『やはり君は異常だよ、改悪君』
互いに腹の探り合いでもするかのように視線を合わせる。片や『木原』という異常者達を纏めあげる存在と、片や『木原』という異常者達から異端として扱われる存在。
両者共に規格外。一人一人が軍隊を相手取っても無傷で完勝するような化物。
「今はやめておこう。私も貴方も、ここで潰れるのは本意ではない。やるべき事だって沢山残っている。時は金なり。くだらない所に割いておくリソースなんてないでしょう」
やめだやめだ、と降参するかのように両手を上げる。正直いえばここで殺し合いをしても良かった。が、それでは周りにある死体の原型が分からなくなってしまう。それは少しだけ困るのだ。
「ふむ、時間かな。では脳幹さん、私はこれにて退散と致します。引き継ぎ準備もありますので」
『そう言えば明日からだったね。君が教師になるのは。頑張りたまえ。『木原』としては応援する気は無いが、私個人としては応援しよう。加群君の二の舞にならないようにくれぐれも
「はは、怖い怖い」
ケラケラと軽く笑い飛ばしながら、青年はスキップしながら出口へと消える。その後ろ姿を見た脳幹と呼ばれたゴールデンレトリバーは、周りの空気が歪んでいるのではと錯覚せるほどの、邪悪を見た。
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「ふんふふん〜ふんふふん〜」
「大分機嫌がいいですね、所長」
執務室で、先程まで脳幹と話していた青年が楽しそうに書類を片付けていく。今までは散々面倒だと押し付け抜け出していた彼が、真面目にやっているのを見ると同室にいて、同じく書類を片付けていた女性は嬉しく思う。ようやく成長したのだなと。
「もう所長じゃないぜ純真ちゃん。頭に元ってつけないとダメだろう?」
「貴方が元所長になるまであと6時間24分あります。私にとってはまだ所長です」
「やっぱり純真ちゃんは頑固だなぁ。まぁそこがいいところだと私は思うけど。おっといけない間違えちゃった」
純真と呼ばれた女性に軽口を叩きながら、青年は自分の机に置かれた役職板を手に取る。そこにはいつもと変わらない無機質で無意味な役職名と、名前の部分を上から削られ、上書きされているかのような自分の名前がある。
『木原改悪』と。
「まだ間違えるんですか?そんなに間違えるのなら名前、『交差』に戻してしまえばいいじゃありませんか」
「ダメだよ、だめ」
青年———改悪は布を出して板を磨く。
「『交差』の出番は終わったんだ。もう裏方でもアシスタントでも観客でもない。完全に退場したんだ。そう、『交差』はあくまで『改悪』が舞台に戻るための繋役でしかないんだよ」
改悪はそう言って、丁寧に磨いた板をダンボールに詰める。が、直ぐに純真が元の場所に置き、時計を指差す。仕方ないね、と言った調子で布を元の場所に戻し、改悪も作業を再開すると
「そう、『木原交差』はもういらない」
改悪はそう言って、デスクから二枚の書類を取り出す。その書類には、これから改悪が赴任する学校の、『
「既に両者の線は交わり合い、絡み合った。その始まりに『交差』は留まっている。誰でもない、自分の意思で。だから私がここにいる。
書類を見る。書類の中でも最も注視されるべき点、能力強度の欄には学園都市で七人しか受け取ることの出来ない『5』が刻まれている。
「おいでよ、新入生。そしてどうか、どうか、勇者として俺の前に立ってくれ。正義の味方でも、英雄でも、ヒーローでもダークヒーローでもなく、勇者として。俺を殺してくれ」
どうしようもない自殺願望。止めることなどできるものか。これがあるからここにいる。それがあるから生きている。
くだらないと吐き捨て、気持ち悪いと突き飛ばし、貫き通した果てがここなのだ。悲しいものか。自分の望む未来に、何を嘆こうか。
大丈夫だから。ちゃんと教えよう、与えよう。その心を、誰よりも優しくするための栄養を。