シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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エピローグ

 

 ホグワーツの校長室に、二人の来客があった。

 

 一人はシェリー・ポッター。生き残った女の子として魔法界の注目を集め、ヴォルデモートと再び対峙して生き残り、そして三年の失踪を経て魔法大戦に貢献した運命に愛された英雄。

 

 もう一人はベガ・レストレンジ。純血一族に生まれながらも血に拘泥することなく世界最強の地位にまで上り詰め、数多くの人を救ったことから今やシェリー以上の人気を誇るもう一人の英雄。

 

 二人の英雄の来訪を、歴代校長の肖像画はとびきりの拍手で出迎えた。爆竹でも破裂したかのような音量にビクッとするシェリーをベガが小突く。

 いやほんと、攻撃されたかと思った。

 

「……ダンブルドア」

 

 シェリーとベガの視線は、彼等がもっとも尊敬する偉大な魔法使いの肖像画へと注がれた。

 敬意からか、肖像画達は静まり返り、別の肖像画へと去っていった。今からする話は、シェリーとベガとダンブルドアだけのものだ。

 

「久しぶりじゃの、シェリー。ベガも」

「お久しぶりですダンブルドア先生。……ええと、この度はご冥福をお祈りします……?」

「ああこれはどうもどうも」

「遅くなって、ごめんなさい。……本当に、ここに辿り着くまで時間がかかってしまいました」

「良いのじゃ、シェリーよ。かかった時間が問題なのではない。辿り着いた事実と、それまでの行程に意味があるのじゃ」

 

 シェリーの旅と試練は、当初予定していたよりも長く曲がりくねったものだった。魔法の存在を知ってはや十年……ヴォルデモートとの因縁が、長いことかかってしまった。

 

「ダンブルドア先生にとっては、いったいどこまでが計画の内だったんですか?」

「計画などと、そのような大仰なものではない。ただの推量じゃ。じゃが幸運なことにその推量は概ね当たっておる。

 ヴォルデモートは本来、死を最もおそれ、極端に忌避する傾向にあった。それが紅い力の魅力に憑かれてしまい、恐怖ではなく力で支配する傾向があったように思う」

「それは……はい。分霊箱を作ったのなら、それを隠されるだけで私達にとって脅威だった筈です。だけどあいつは分霊箱の役目を幹部に与え重用した」

「紅い力も呪いの一種……ヴォルデモートほど優れた魔法使いであっても、扱う魔法が強力であればあるほどその身を蝕んでしまう。

 道具とはそれを求めない者が、真に相応しい所有者と言えるものじゃ。そうは思わんか、ベガよ」

「……俺も守るために力を求めたクチだがな」

 

 確かに……紅い力を強めるのに執心したことで、ヴォルデモートは勢力を拡大する気がなくなり、弱肉強食の個人主義的な生き方にシフトしたようにも思える。

 

(ヴォルデモートも……違う生き方をしていた?)

 

 シェリーが、本来あるべき気高い勇敢な性格ではなく、捻くれた死にたがりだったように。

 ヴォルデモートもまた、正史とは異なる精神構造のもとに生きていたのかもしれない。

 

「……人の身を越えた力とは、そういうものじゃ。欲にまみれた者は手にすることができんか、真価を引きだせないかの二択じゃよ。賢者の石、死の秘宝、紅い力……そのいずれものう」

「そいつの世界の中心が、自分じゃなくて、紅い力や死の秘宝になっちまったんだな」

 

 深く頷くダンブルドア。

 ……紅い力といえば。最後、ヴォルデモートと魔力がぶつかり合った時、どうしてシェリーが勝てたのかが分からなかったが、あれは……。

 

「ヴォルデモートに殺された人達の魂が……良いように使われることに抵抗した?」

「じゃろう。死ねば終わりと考えるヴォルデモートが想定できる筈もない。奴は死した後も残り続けるものに興味はないのじゃ」

「……大勢の人が、応援してくれた気がします」

「人徳じゃのう。若作りの気持ち悪いうるさいヒステリー蛇面じーさんより君の方が応援したくなるってもんじゃろ」

「言い方」

「……あの時、私とヴォルデモートの杖が光で繋がったような気がしたんですが……」

「兄弟杖同士の対決じゃな」

 

──きゅるるる。

 紅い炎を揺らめかせながら、美しい音色を響かせてフォークスがベガの肩に飛び乗った。不死鳥はとても頭が良い鳥だ、自分の話をしていると理解してやって来たのだろう。

 ベガは随分と懐かれているようで、シェリーはちょっと羨ましくなった。

 

「フォークス先輩! お疲れ様です」

「先輩???」

「バッカお前、俺の炎はフォークス先輩のを観察させてもらって作り上げた力だから、敬意を払うに決まってんだろ」

「そ、そう……えーと、そのフォークスちゃんの尾羽根が私とヴォルデモートの杖の素材になってるって話ですよね?」

「うむ。兄弟杖同士でひとたび戦いになれば、どちらが上かを争うものじゃ……君の杖は、芯を分けたにも関わらず不倶戴天の敵である存在を認識し、相争ったのじゃ。兄弟が二段ベッドでどちらが上かを決めるようにのう」

「例え方」

 

 ヴォルデモートは頭が良い。シェリーの何倍もの知識と知恵を持っている。しかし自分は全てを知っているという傲慢が、自分が殺した人達の霞を見るという不可思議な現象への……まったくの未知への恐れを生んだ。

 その恐れは杖に伝わり、シェリーの杖が帝王の杖を打ち負かした……というわけだ。

 

「奴が自分の杖で直接君を攻撃する時、君の持つ紅い力と杖が爆発的な力を生むことは確かじゃ。わしはそれを計画の主軸とした」

「……私が三年間ずっと寝てたことで、計画が狂ってしまったのですか?」

「いや、予言では戦いはもつれにもつれて長引くと言われておった。時間が経てば経つほど奴の被害は増えてしまう。わしは被害を少なくするために奴に挑んだ……結果、死んだ。それだけじゃ」

 

 ……それでも、だ。

 ダンブルドアであれば、より細かく、より効果的な策謀を考えついていた筈だ。シェリーという駒さえあればできた筈の、策を。

 

「わしはいつも、運命を先送りにする悪癖がある……来るべき時があまりにも早すぎたことが、計算の外じゃった。まさか魔法省の戦いの後、丸一年も眠りこけてしまうとはのぉ」

「……グリンデルバルド、ですか?」

 

 シェリーの指摘に、ダンブルドアは唸った。

 

「大切な人と戦うことは……その……身を引き裂かれそうなくらい辛いと、思うので」

「……そうじゃの。奴は友人じゃった。大胆で頭が良く極めて優秀で……当時、若く、自らの才に自惚れていた儂にとって、あまりに魅力的じゃった」

「耳が痛ぇ」

「退屈と才能を持ち余した若者二人で、『大いなる善のため』を言い訳に、マグルを支配してやろうという壮大な計画を練る時間が──とても甘美で楽しいひとときだったのじゃ」

 

 そして二人が求めたのは、死の秘宝。

 権力へと導くための、究極の魔法道具。その内の二つ……マントと杖は、縁あってダンブルドアのもとへとやってきた。

 だがそれらは、シェリーとベガに継承された。

 ダンブルドア曰く──より力を発揮することのできるまことの所有者のもとに。

 

「ベガ、ニワトコの杖は……」

「ここにある」

 

 ベガが胸ポケットから取り出した杖を、シェリーはどこか恭しく見上げた。ベガはそんな彼女の姿を見たくないと感じた。

 

「色々考えたが……これは元の場所に返す。杖もそこに留まればいい。俺が自然に死を迎えたら、最後の持ち主は敗北しないまま終わる。世界最強の魔法使いには、自分の力でなる」

 

 もう一本、布が巻かれた折れた杖を大事そうに取り出して、「レパロ」と一言告げた。みるみるうちに杖は修復され、かつての勇壮な輝きを取り戻す。

 

「……直すのが遅れて悪いな。お前は親父達が遺した金ではじめて買ったものだからな……」

 

 木材、イトスギ。芯材はドラゴンの心臓の琴線を使用しており、25センチ。ややしなる。

 グレイバックに折られた杖は完全復活した。

 ダンブルドアは尊敬のこもった眼差しで修理の瞬間を見届けると、にこにこしながらシェリーの方へと視線を向けた。

 

「君はどうするのかね?」

「……先生。私、前に先生が仰っていた、『心がきちんと整理された者にとって死とは次の旅に出るようなもの』って言葉が、印象に残ってて……」

「うむ。老いぼれの言葉を覚えてくれて嬉しいの」

「そんなこと……。えーと、私、最近になってようやく死ぬのが怖いって自覚したんです。先生の言葉を借りるなら、私の心はまったく整理されてない。未熟で世間知らずのままです」

 

 シェリーはまだ、何も知らない。

 身体ばかりが大きくなった未熟者のままだ。

 

「だから──兎にも角にも、まずは生きてみたいと思います。私の人生が、素晴らしいものだと言えるように」

 

 ダンブルドアは満足気に頷いた。

 

「シェリー、紅い力によって削れた君の寿命を回復させる方法がある。フラメルと研究して一つの成果を上げることができた。

 誰かの寿命を貰うことで、君の寿命を伸ばすことができる。今ある生を伸ばすか、それとも、残された生をまっとうするか」

「……私は……」

 

 

 

 それからシェリーは、しばらくして。

 ハグリッドと話してシリウスのバイクを譲り受けることになり、白いふくろうを連れて、ふわっと、ぱぱっと、いつの間にか。

 消えるように魔法界を去った。

 最初こそ騒がれたシェリーの失踪も、やがては噂に埋もれていき、英雄ベガの存在もあって、歴史には影の英雄として刻まれることになった。

 

 時折、魔法界の空には手紙を抱えた白いふくろうが羽ばたいていたという。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 イギリスのとある孤児院に来客があった。

 月光のような銀髪を伸ばした背の高い美青年で自らを教師と名乗る男だ。とてもハンサムで礼儀正しくユーモアもたっぷりな男の存在に、孤児院の女性達はいつになく色めきだっていた。

 

「あのう、これ私の連絡先です」

「ありがとよ。……で、あの子はどこに」

 

 案内された部屋には、ベガと似て銀髪の、物憂げな表情をした少女がいた。目鼻立ちの整った、明らかに特別だと分かる女の子。

 警戒はなかったが、拒絶があった。

 見知らぬ男性に対して、その美少女は、僅かながらに表情を強張らせる。

 

「ようやく見つけたぜ……お前の存在を知ったあと、八方手を尽くしてようやく会えた」

「……あなたは?」

「失礼、レディ。俺の名前はベガ。ベガ・レストレンジだ。まずは、誕生日おめでとう。……お前に渡したいもの、教えたいこと、いっぱいあるんだ」

 

 少女に、直感という名の稲妻が駆け巡る。

 この人は何かが違う。

 自分の持つ名前も知らないナニカに、きっと名前を与えてくれるのだと。

 

 

 

「君の名前を聞かせてくれ」

「……デルフィーニ」

 

 

 

「デルフィーニ・レストレンジ」

「よろしく、デルフィーニ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パーパ! 早く早くー!」

「こ、こいつ……分かった、分かったからちょっと待ちやがれ、おい、デルフィーニ! こら! 父さんを置いていくんじゃねえ!」

 

 キングス・クロス駅の構内を、トランクを乗り回して爆走する銀髪美少女がいた。それを追いかける、長身のこれまた銀髪のイケメン。

 良いところのお嬢さんとその父親……いや歳の離れた兄?といった二人組は、わいわい騒ぎながら駅の中を走っていく。

 

「ヤーホホホホーゥ!」

「ハァ、ハァ、誰に似たんだマジで……」

 

 荷物を纏めたトランクの上に乗り、まるでスケボーのように操る少女。周囲の人間達はタイヤに何かエンジンでもついているのだろうか……と物珍しげにカートを見やる。

 だが、実のところトランクには種も仕掛けもありはしない。せいぜい『WWW』と書かれた見慣れないロゴが刻まれているだけで、ほんのちょびっと魔法が仕込まれている程度の、普通のカートだ。

 ちなみに税込7ガリオン。

 

「服入れすぎだろ……拡大呪文使ってもパンパンじゃねえか。こんなに要らねえだろ」

「え〜〜〜っ!? 父さんだってホグワーツ行く時にトランクをパンパンにしてたってじいじから聞きましたけどぉ〜〜〜???」

「そりゃ〜〜…せいぜい二〇着くらいだわ! 父さん魔法界の流行のファッションよく分からなかったんだから!」

 

 二人組──ベガとデルフィーニは歳の差も感じさせずにぎゃいぎゃいと言い争う。その様子はどこか微笑ましく、仲睦まじいものだった。

 

「よっ、英雄。闇祓いに、教師に、子育て。三足の草鞋で大変そうだね?」

「おう、そっちも尻に敷かれて大変そうだな?」

「ロンおじさん! クリスマスプレゼントに貰ったこのトランク、マジで最っ高!」

「おう、今後ともご愛顧にー」

 

 ニヤニヤしながらやってきたノッポの赤毛と、彼の周りをうろちょろする子供達。

 幸せ絶頂のロンは浮かれた顔をしていて、ハーマイオニーが子供達が転ばないようヒヤヒヤしながら歩いていた。

 

「ハァイ、ベガ。ほら、ローズ、ヒューゴ? こういう時は何ていうか教えたでしょう?」

「ベガさん、マーリンのひげ!」

「マーリンのひげー!」

「……もう、ロンったら! 子供達におかしな言葉を覚えさせないで!」

「な、なんだよ!」

「おう、ちびども。マーリンの髭ぇ」

「チビどもマー髭ぇ!」

「ベガもデルフィーニも悪ノリしないの!」

 

 大人になってもまったく変わらない、いつも通りの怒り方でハーマイオニーはぷんすこした。

 

「いやぁ、わざわざデルフィーニのホグワーツ入学を見送りに来てくれてありがとな。仕事抜けるの大変だったろ」

「いやぁそうでもないさ。ウチの仕事は入学前が一番忙しいからね」

「お前に言ってねえよロン! ハーマイオニーの方がお前の倍は稼いでるし忙しいだろうが」

「ば、倍は言い過ぎだろ! 1.5倍くらいだ!」

「まったく亭主がこんなんで苦労するなァ、ハーマイオニー・ウィーズリー婦人?」

「な、なによ……ウィーズリー婦人だなんて……照れるじゃないの、もう」

「新婚さんですか?」

 

 見ればロンの方も顔を赤くして鼻をかいている。結婚してしばらく経つ筈なのだが、この二人はいつまでも恋人のような距離感だ。

 いつもならその甘酸っぱい雰囲気を茶化すのはデルフィーニの役目なのだが、何故か今日は静かにしているな……と思って見やると、い、いない!

 デルフィーニがちょっと目を離した隙にどこかに行ってしまった!

 

「あの悪ガキどこに……」

「「────っへーい!!!」」

 

 バチーン、思いっきり手を叩いた音が響く。

 なんだなんだと見てみると、デルフィーニと、彼女よりもより濃い色の青い髪をした少年が、なんか物凄くパンクな挨拶をぶちかましていた。

 

「テーーッド! この間のクィディッチ見た!? マジで最高だったわよね、あの大逆転!」

「勿論だよデルフィー! 僕、ホグワーツに入学したら絶対クィディッチ・チームに入るよ」

「あんた最高だよテッド! 私と別の寮に入っても容赦しないからね!」

「望むところだ」

 

「……て、テッドは、私と同じ寮に入るの!」

 

 わちゃわちゃと騒ぐデルフィーニとテッドの間に挟まるように、赤毛の少女が声を上げた。

 

「ビクトワール! ええ、勿論!貴方もかかってらっしゃい! 貴方のお母様は五大魔法学校対抗試合で活躍なされた人だものね!」

「え? そ、そういうわけじゃ」

「君が一緒の寮に入ってくれたら、嬉しいな。きっと学校生活が華やかで楽しいものになる」

「〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 顔を髪と同じくらい赤くするビクトワール。

 彼女達の親──ビルとリーマスは、お互いの子供達のことでつまらない諍いごとをしていた。

 

「うちの娘を誑かさないよう言ってもらえるかな」

「あー、まあ、それは、うん。いったい誰に似たのやらだね、そのー…やめてくれその顔は……」

 

「イェーイ、フラー元気ぃー!?」

「そっちこそ息災でーすか、ニンファドーラ! イェーイ!」

 

 女親の方はめっちゃ楽しそうだった。

 あちこち勢揃いで、晴れ舞台に相応しい賑やかぶりに、ベガも笑みをこぼす。

 

「あ、いた! 父上、ロンおじさんがいますよ!」

「ん、そうか……ごフォン、いや、ごフォイ。ふーっウィーズリー、お前達の間抜け面を見るのも久しぶりだなぁ? ん?」

「おうおう社交辞令どうも。スコーピウス、今年の夏は何をしてもらったんだ?」

「外国に旅行しに行きました!楽しかったです!」

「す、スコーピウス!」

 

 恥ずかしそうに顔を歪めるドラコを、けらけらとロンが笑った。二人はもう、友人だった。

 

「父上、僕、ベガさんとお話したいです!」

「おーなんだ? お前に似ないで可愛い奴だな」

「スコーピウス、お前なぁ」

「だって父上! ベガさんは世界最強の闇祓いとして名を轟かせた英雄で、ホグワーツにも度々講習をしに行って、生徒の名前を覚えてる! 大戦以降宙ぶらりんになった大勢の純血貴族達に機会を与えた英雄だ、こんなに格好良い人はいません!」

「……私は?」

「ち、父上は別枠です!」

 

 ドラコそっくりのスコーピウスがベガの素晴らしさを熱弁するのを見るというのは、何とも不思議な気分だった。スコーピウスに強請られてサインを書いたのも一度や二度ではない。

 

「本当に格好良いのはハーマイオニーの方さ。アズカバンの仕組みを変えたり、多くの種族の地位向上を目指したり……今や現代魔法界において最も偉大な魔女と言われてるんだぜ?」

「そんな、照れるわ」

「僕の妻を口説いてるのか?表に出ろ」

「こういう時だけ殺気出すのやめてくんない?」

 

 ふと時計を見ると、もう汽車が出る時刻だ。

 世間話もいいが、早く「9と4分の3番線」に行かなくてはなるまい。ベガはデルフィーニの首元を掴むと、いたってどこにでもある柱の前に立たせて背中を叩く。

 

「ま、マジであの柱に向かうワケ?」

「大丈夫。さあ、勇気を出して」

「ふーっ……よしっ」

 

 デルフィーニは目を瞑りながら走る。カートごと柱へと突っ込んでいき、勢いよくぶつかる……ということはなかった。

 目を開けると、全く違う景色が広がっていた。

 

「って、わ、わ!? あ、あれっ、カートが勢いつきすぎて止まらな……っ!?」

「──っ!」

 

 デルフィーニの向かった先には、赤く長い髪をした女性が立っていた。ぶつかる──と思ったが衝撃がいつまでも訪れない。

 どうやら、その女性が杖を軽く振って止めてくれたらしく、デルフィーニに怪我はなかった。

 

「あ、ありがとうございます!」

「あっぶなぁ……新入生かな?気をつけてね」

「はい! デルフィーニ・レストレンジです!」

「…………っ」

 

 その赤い髪の女性は目をぱちくりさせて、デルフィーニの顔を覗き込んだ。とても綺麗な女性で、前髪で顔の半分が隠れているのが勿体無いくらい美しいハシバミ色の瞳をしていた。

 

「……そっか、あなたが……。これも運命だね。色々大変だと思うけど、きっと大丈夫! 頑張って」

「──っ、父をご存知なんですか?」

 

 去ろうとする女性を、デルフィーニはほとんど反射的に呼び止めた。何故だか、呼び止めなければならないと感じたのだ。

 

「私の、ほんとうの、父親を──あなたは」

「…………」

「知っているん、ですね?」

 

 女性の沈黙こそが答えだった。

 デルフィーニは唾を飲む。どうしてだか、その女性に聞きたいことがあったのだ。

 彼女の望む答えを、その人は持っている。

 そんな直感にも似た閃きがあった。

 

「き、聞いてもらえませんか」

「……どうしたの?」

 

 声は震えていた。

 ベガにも話したことがない、弱々しい本音。

 

「わ、わたし……神様ってやつがいるなら、絶対に嫌われてるヤツだと思うんです。今の父さんは、私のことを愛してくれた、けど……でも、わたし……わたしの本当の親は……。

 や、やっていけるんでしょうか。わたし、馴染める自信がなくて、その、怖くて……!」

 

 紅い女は──優しい顔をして、答えた。

 

「大丈夫。私もホグワーツに通っていたんだけど、そこでの日々はとても素晴らしかった。掛け替えのないものを沢山貰った。不安なんて吹き飛ばしちゃうくらいに素敵なものをね。貴方だって、きっとそうだよ。保証する!」

「……でも、わたし、父さんみたいに魔法を使うことができない。期待はずれだって言われるかも」

「自信を持って、デルフィーニ」

 

 言葉は慈愛に満ちていた。

 混じり気のないそれが、デルフィーニの心を満たしていくのを感じた。

 

「どうしても怖いなら、薬草学の先生に相談してみてごらん?とても気高くて、尊敬できるひと。

 辛かったなら森番の小屋に行くといいよ。彼はお茶とケーキをご馳走してくれるだろうから。

 悩みがあるなら校長先生だね。どんなに仕事が忙しくても生徒のために時間を取る人だよ」

「どの寮も素敵だけど──わたし──何か問題を起こしてしまうかも──」

「良いんだよ、それで」

「え?」

「間違いは誰しもが起こす。そこから何を学べるかが重要なんだよ。あなたは選ばれし子。たくさんの愛が詰まってる!

 ホグワーツはあなた歓迎する。貴女が勉学に励むのなら、その頑張りを評価するし、その生活はきっと楽しいものになる筈だよ!」

「楽しい……」

「頑張れ、デルフィーニ!」

 

 女性は快活に笑った。

 

「おーい、デルフィーニ!」

 

 声がして振り返ると、ベガが手を振っていた。

 ようやく柱を通り抜けてやってきたらしい。デルフィーニがもう一度女性の方へと振り返ると、そこには誰もいなかった。

 

「……誰かと話してたのか?」

「うん、ここにいた筈なんだけど」

「……そか。幽霊でも見たのかもな」

 

 汽笛が鳴った。

 ホグワーツ特急の紅い車体が煙を吐く。

 出発の時が来たのだ。デルフィーニはコンパートメントに乗り込むと、ベガに手を振る。窓には蛙チョコレートがへばりついていた。

 

(これから始まるんだ)

 

 どんどん離れていくキングズ・クロス駅を見て、何故だか鼓動が高鳴った気がした。

 

 

 

 ホグワーツでの生活は、デルフィーニにとって、大勢の子供達にとって、初めてのことばかりだ。

 初めての友達。

 初めての知識。

 初めての冒険。

 

──初めて知る、愛情。

 

 初めてだらけで目が回ってしまいそうだが…それでも、この経験は、彼等にとって大切な思い出になると思うのだ。

 

 今年は何があるだろう?

 どんな出会いがあるだろう?

 

──未来が輝いて見えた。

 

 

 

──『SHERRY POTTER AND THE BOY BLESSED BY GOD』、the end──

 

 




終わりました!!!!!
6年かかりました。初めて完結した長編小説ということで感激もひとしおです。皆さんの感想と評価、今まで書いた文字の一つ一つが財産になりました。それでも拙い部分は修正していくと思います。
これからも小説は書いていきます。興味があったら読んでくれると嬉しいな。またどこかでお会いしましょう。ではまたー!
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