だが他の補正を無くすとは言っていない

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彼らから主人公補正が無くなった話

IS学園の廊下を、一人の男が歩いている。

彼の名は織斑一夏、世界初の男性ISパイロットだ。

正面からは、彼の幼馴染である篠ノ之箒が歩いてくる。

二人は姉同士も友人同士であり、同門で剣術を学んだ仲であったが

一夏は、彼女に関わりたくないという態度を隠そうとせず、わざわざ距離を取ってすれ違い

箒は、一夏が存在しないかのように、彼を無視して真っ直ぐに歩き続けた。

箒をスルーした一夏は、その先に居た女子生徒―――「原作」では名前も台詞もイラストも無い

ごくごく一般的なモブの少女に朗らかに朝の挨拶をした。

突出した力もなく、特筆する出自もなく、これといった特徴もない女子生徒と一夏は

先日のテレビ番組に関する話を始めたようだ。

二人が談笑していると、二人、三人と話に加わる生徒が現れ、その内の一人が何やらおどけて見せると

「どっ!」とみんなが笑って見せた。

何処の高校でも珍しくない、よくある普通の光景である。

 

「いいなぁ・・・」

 

そんな普通の光景を、一夏に次いで現れたもう一人の男性パイロット、刹那 零がじっと見つめていた。

一夏の周りを囲んでいる女子は、特に全員が美少女という訳でも無く、別に一夏に惚れてる訳でもない。

それでも彼は、一夏が羨ましくて羨ましくて仕方が無かった。

 

「何を―――」

 

そんな「女生徒に囲まれる環境を羨ましそうに見ている零」を見ていた美少女―――篠ノ之箒は足を大きく振り上げた

 

「―――考えている!」

 

一閃!彼女の長い脚は、勢いよく振りぬかれ零の腹にめり込んだ!

 

「うグげァっ・・・!」

 

体をくの字に曲げ、宙に浮きあがった零の口から、一般男子高校生から漏れてはいけない危険な音があふれる。

声といっしょに、胃の中の物も溢れそうになるが、零はうずくまり、痛みに耐えながら

必死にそれを抑え込んだ。

 

(痛いっ・・・!死ぬ・・・!これ折れてないよな!?)

 

ラブコメ主人公なら、この程度・・・いや、ラブコメにしても過剰な気がしないでもないが

それでも、そういうジャンルの主人公ならば、この程度のダメージ、漫画で言う所の

次のコマになる程度の時間があれば、常人にはあり得ない回復力で即座に立ち直り、喉元すぎればなんとやらの精神で

謝罪するなり、口論するなりの行動に移る事が出来るだろう。

だが零はそれが出来ず、痛みに耐えるしかできなかった。

何故なら・・・彼にはそんな常人離れした行動がとれる主人公補正が無かったから、転生する際に神に頼み込んで、この世界から主人公補正という概念を消して貰ったからである。

主人公補正だけでチヤホヤされている男から補正がなくなれば、自分が簡単にその地位に納まり

ヒロインたちにチヤホヤされると思ったから。

いや、その思惑自体は上手くいった。

一夏の鈍感さを糾弾し、原作での一夏の行動を真似て、一夏に惚れるはずだったヒロイン達は

確かに一夏ではなく零に惚れたのだ・・・ヒロイン補正を持ったヒロイン達が、主人公補正を持たない零に。

 

ISのヒロイン達は、いわゆる暴力系ヒロインである。

主人公が耐久、あるいは回避できる事を前提に、時には兵器まで使って洒落にならない攻撃を繰り出すヒロイン達。

だが、そんな彼女達を責める者はいない、何故ならメカ+美少女を売りにしている作品の都合上

些細な事でもISを使用して貰わないと、話が盛り上がらないため、ヒロイン補正によって彼女たちは世界から守られているからだ。

そして・・・

 

(畜生・・・一夏が言ってたのは、こういう事か・・・!)

 

そんな非常識な存在が、破壊を振りまくキチ〇イ集団にならずにラブコメが成立するのは

ヒロイン補正と対になる補正・・・主人公補正によって、主人公が守られているから。

そんな補正を失った一夏は、箒の暴力に耐える事が出来なかった。

元より、友人に話しかけるなと言われて、本当に話しかけるのをやめるような、案外ドライな所がある一夏である。

箒が零に惹かれ、一夏をおざなりにするようになっても、耐えがたい暴力を振るってくる女との縁を維持したい訳もなく、あっさりと他の友人を作って

箒とは疎遠になっていった。

だが、それでも零に箒を押し付ける事の罪悪感を感じ、何度か零に箒との付き合い方を考えるように言ったのだが

零はそれを、幼馴染を奪われた一夏の嫉妬だと断じ、ロクに話を聞かずに無視したのだ。

うつぶせのまま、一夏をジっと見つめる零だが、一夏は同情するような視線を向けた後

そっと目を逸らした。

関わりたくなかったからである。

 

「いつまで蹲っているんだ、零!男ならさっさと起きんか!」

 

(好き勝手言ってんじゃねえよアバズレが!)

 

内心で毒づきながらも、なんとか体を動かして仰向きになる・・・が、それが不味かった。

IS学園の制服のスカートは短い。

脱ぎやすい構造になっているという設定や、ISスーツは下着としても優秀という設定から

恐らく、中が見えてもパンツじゃないから恥ずかしくないという前提でデザインされたのだろう。

だが、この時箒が制服の下に着ていたのは、ISスーツではなくパンツだった。

なので恥ずかしかった。

 

「貴様、どこを見てっ―!」

 

(やべっ死ぬっ!)

 

零の顔面に、全力で木刀を振り下ろす箒。

零は咄嗟に、専用機として支給されたラファールを起動させた。

ISは世界最強の兵器であり、IS以外の並の兵器では、傷一つつける事が出来ない。

当然、木刀など物ともせず、フィールドバリアによって箒の攻撃は防がれたが・・・

 

「刹那!またお前か!お前は何度言えば規則を理解出来るんだ!」

 

たまたま近くにいた教師が、ISを展開した零を怒鳴りつけた。

一見理不尽な叱責に見えるが、彼女は別に女尊男卑主義者ではない。

ただ、専用機に関する規則―――「緊急時以外には、定められた場所以外でISを起動してはならない」という常識に沿って叱責しただけである。

「えっそんな設定あったの?一夏たちはしょっちゅう起動してるじゃん」とか「頭部を凶器で狙われるのは緊急事態なのでは?」と思うかもしれない。

が、繰り返すが、一夏が許されるのは、メインキャラのISの出番を出来る限り増やしたい・・・

即ち、この世界では失われた主人公補正による賜物である。

そして、通常なら退学、下手すれば警察沙汰な過剰暴力も、ヒロイン補正さえあれば

照れ隠し、男が悪いという事になってしまう。

つまり、この場で許されざるべき存在は零だけになるのである。

 

「すぐに指導室に・・・」

「はいっ!行きます!反省文を書かせていただきます!」

 

教師が最後まで言い終わるのを待たず、零は痛みをこらえて立ち上がった。

流石のヒロイン達も、指導室にまでは突っ込んでこない、反省文を書いている間は、ヒロインの脅威から解放されるのだ。

 

零は反省文を書きながら、放課後のヒロイン達による特訓をどう乗り切るかを考えていた。

零は主人公補正の無い一般家庭の育ちである。

努力しても、パイロットとしての能力は、才能と環境に恵まれた代表候補生のヒロイン達に追いつけなかった。

零は主人公補正の無い、ただの学生である。

転生の時に神様に頼んだ最強機体は、零に支給される事は無く、国家代表候補に送られた。

ちなみにチート機体を与えられた代表候補は、国家代表がほぼ内定しており、次期モンドグロッソの優勝候補筆頭となっている。

零の放課後は、平凡な才能と、型遅れの機体で(シャル以外は)教導下手な代表候補生に嬲られる毎日になっていた。

それでも零は、ヒロイン達との縁を切らずに、己の不遇にめげず、決して諦めない漢を演じ続けなければならなかった。

 

主人公補正が無くても、姉が有用なコネを持っている一夏と違い

主人公補正が無い零を守る物は、各国代表候補のお気に入りという縁しかないのだから・・・




ちなみに一夏の専用機は打鉄です。

大雑把な流れで言えば
セシリア戦で一夏より先に零がキレる(ふりをした)ため
一夏は怒るタイミングを逃し、特に目立つ行動をしなかったので
セシリアからの認識は、一緒に推薦されたから自分と零の争いに巻き込まれただけの男で
クラス代表は原作の一夏の流れを零が乗っ取って零に。

鈴とは、原作の話かけるなと言われてマジ話かけなかった流れから
零が鈴を篭絡した事で疎遠に。

シャルの時も原作一夏と同様の展開(ただし自分から狙っていった)

ラウラは一夏を普通にフルボッコに出来たので、VT発動は無し
この頃には、零もヒロインと関わると死ぬと認識しているのでラウラとは関わらず
彼女は今もボッチ。

一般生徒は、そもそも素人の一夏がISで格好良く活躍する事なんて
最初から期待してないので、一夏が代表候補にやられても
別段失望とかは無いと言うか、むしろそれが普通だと思っているので
普通に一夏と仲良くし、一夏も原作のトラブルと関わらない充実した学園生活を送っています。

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