Unhappy Toy【R-15版】   作:くけい 改め 鋭角三角形


原作:東方Project
タグ:R-15 ガールズラブ 東方Project
「……好き……」
 ――と、彼女――アリス・マーガトロイドは戸惑いながら、私――十六夜咲夜に告白した。
 ――好き。
 その感情は、私も持っている。
 ――でも。
 その対象は、貴女ではない。
 私が好きな人は、れいむ。
 ――博麗霊夢。

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Unhappy Toy【R-15版】

『Unhappy Toy』 

 

 

「……好き……」

――と、彼女――アリス・マーガトロイドは戸惑いながら、私――十六夜咲夜に告白した。

――好き。

その感情は、私も持っている。

――でも。

その対象は、貴女ではない。

私が好きな人は、れいむ。

――博麗霊夢。

艶やかな黒髪、髪を留めている可愛らしい大きな赤のリボン。

色の白い端正な小顔、大きな瞳にすらっとした鼻、柔らかそうな唇。

紅白の巫女装束は神聖な衣装でありながら、肩と腋の露出もあり、とても艶めかしい。

私の、私の特別な人。

「――私のどこが好きなの?」

告白する彼女に問いかける。

「私は咲夜さんの――」彼女はすぐに答える。

容姿、仕草、声、エトセトラエトセトラ……

だけど、その言葉は軽い。耳に入っても、すっと溶けるように消えていく。

どうでもいいのだ。

私は初めて、霊夢と出会ったのは、私の主人である主人の吸血鬼――レミリア・スカーレットが起こした異変だった。

 のちに紅霧異変として、幻想郷に記録されるこの事件を解決するために、主人の館――紅魔館で博麗霊夢と対峙した。

スペルカード。

そのルールに則り、私は霊夢と戦った。

どんな勝負であろうと、私は負けることなどない。そう思っていた。

だって、私の力は強力だから――

時を止める能力。

私だけの時間。

主人のレミリア様ですら、私を破れなかった力。

主人――レミリア・スカーレットは運命を操る。

自身の周囲の運命を弄び、望む未来へと導く力。

けれど、私だけの時間を操る事はできなかった。

強力な力を持つ理由。私はこの力を突破する者が、自分にとって特別な存在なのだと思った。

私だけの時間。

一人だけの……独りだけの時間。

それを崩される事が――

それを崩す者が、屈強な男性だと思っていた。

でも、それを崩したのが、博麗霊夢だった。

そして、その日から、私の日常が変わった。

少ない時間を使い、博麗神社に赴いたり、それとなく、霊夢に里に買い物に曜日や時間を伝え、二人だけで里で一緒に買い物や食事、おしゃべりをしたりできないかとやきもきした。

 けれど、そんな日は一度もなかった。

二人きりにはなれなかった。だから、告白なのできなかった。

霊夢の側にはいつも黒白の魔法使いがいた。神社でも、里で出くわした時も、だ。

目障りだった。

ブロンドの長い髪に、黒のワンピース。

――霧雨魔理沙。霊夢の友人だ。

霊夢ためだけに焼いたクッキーを、ぱっと手を出し、つまみ食いする黒白の魔法使い。あまつさえ、お前が霊夢より多く食べる。

里で楽しそうに買い物をする二人。

わざと、見せつけているのだ、と私は思った。

霊夢は私のものだ、と――

腹立たしい。

憎たらしい。

黒い感情が少しずつ、確実に頭の中に蓄積していく。

蓄積して、いつか、大きく爆発してしまいそうだ。

霧雨魔理沙を――

殺せば、どうなるのだろう?

霊夢は私を殺すのだろうか?

それは分からない。

「――そう、貴女の全てが好きなの!」と、一際大きな気な声でアリスが言った。

頬が赤い。

彼女と初めて出会ったのは雪の降る春だった。

――春雪異変。

異変解決に同行すれば、二人きりになれると思い、私は博麗神社を訪れた。しかし、霊夢はすでにいなかった。解決の為に行動を起こしていた。

神社を出て、手がかりを探す。アリスと出会ったのはこの時だ。

パチュリー様と同じ魔法使い。

異変解決の為に糸口として、少し言葉を交わしただけだった。手がかりはなかった。

私は幻想郷を当てもなく彷徨い――

結局、私は霊夢と出会うことなく、異変は霊夢一人の力で解決した。

博麗霊夢には不思議な力――勘がある。それが、博麗の血の力なのか、彼女自身が培った力なのかは分からない。

――だけど、その力で、私の心を、貴女を思うこの気持ちを見透かして欲しい。

けれど、そんな願いは叶わない。

いや、気づいていながら、何もしないのか――それは分からない。

ただ――

ようやく、春が訪れ――

それから、彼女と里で何度も出会うようになり、たびたび紅魔館を訪れるようになった。

彼女は主人の妹――フランドール・スカーレットの為に人形を持ってきた。人形作りが趣味らしい。妹様は彼女が作った人形を気に入り、そのせいだと思っていた。

普通の客人として彼女に紅茶を、ケーキあるいは焼きたてのお菓子でもてなす。

話を聞けば、黒白の魔法使いは一時期彼女に師事していたそうだ。魔法使いとして、彼女が古参であるということだからだ。

やがて、彼女は私を自分の家に招待するようになった。紅魔館でのお返しということで、だ。色々な話をした。

そして、5度目の今、私はこのアリス邸にいる。彼女とテーブルを挟む格好で――

ハーブティーの香りがする。

アリスが入れた紅茶の香り。

「……そう。本気なのね……」と、私は彼女の目を見て呟いた。

「ええ」

声のトーンが戻る。

「私、じゃあ……ダメ……かな?」

自信なさげに、問いかける。

私は黙って、アリスを見る。

アリスに魔理沙を殺させるのはどうだろう? あるいは、二人で心中してもらう? なんて事を考えたこともある。

仮にできたとして、霊夢は私に行き着くのか。

異変とは、どこまでの凶事を示すのだろう?

私が霊夢と二人きりに、永遠に二人で一緒にいたい。それ願う事は叶わないのだろうか?

……

そこでふと思う。

アリスが、私が霊夢の事を好きだと知っていたら――

魔理沙が霊夢の事が好きで、それをアリスが知っていたら――

――いや、知っているからこそ、今の状況ができたのでは――

永夜異変の時、二人は一緒に行動していた。私は主人と共に解決に望んだが、あの異変も霊夢一人で解決した。

どうして、二人でいたのか――

……

私の中で黒い感情が肥大化していく。

肉の体を突き破りそうなほどに――

壊れてしまう。

いや――

壊してしまえ。

壊してしまえばいい。

こんな女。

「……私も貴女が……アリスが好き」

そういうと、アリスの顔が明るくなった。

「……でも、貴女は私のこと、全部……全部、受け止めてくれる?」

私は不安げに尋ねる。

「大丈夫。咲夜さん。私、貴女のこと、全部受け止めるわ」

「……本当に?」と、再度私は聞き返す。

「私が貴女を拒むわけないじゃない! だって、これだけ、貴女のことが好きなんだもん!」

これだけ?

私には、意味が分からない。

多分、聞き流した部分が該当カ所だろう。

私は立ち上がる、アリスに近づく。彼女も立ち上がる。

濡れた瞳でアリスを見つめ――

私はアリスの唇に顔を近づける。

アリスが目を閉じる。

私は両腕をあげ――

アリスの首を絞める。

彼女の眼がギョッと見開く。

私は首を絞める力を強める。

「ど……ぅし……て……」

呻く声。

どうして?

知っているくせに――

シッテイルクセニ――

金魚のように口をパクパクさせるアリスは、私を引き剥がそうとする。

私は両腕を伸ばし、足掻く。

声なき声を零しながら、アリスは激しく暴れる。

椅子が倒れ、テーブルが激しくずり動き、ティーカップが倒れた。

ハーブティ-がボタボタと音を立て、床に流れ落ちる。

アリスの指が、私の頬を引っ掻いた。

必死の抵抗の結果は、それだけだった。

アリスの両腕が力なく垂れ――

彼女は死んだ。

ただの肉塊になった途端、私の両腕に強烈な重さを感じた。

すぐに首から手を離す。

ゴトンッと重い音を立て、それが床に倒れた。

目を見開き、苦悶の表情を浮かべたまま動かない。

ポタッポタッ

静かな部屋に液体が流れる音が響くように聞こえた。

アリスを殺した。

でも、私の中の黒い感情は少しも収まりはしなかった。

それはまったく別のものに姿を変え、変質し、肥大化していく。

それは――

後ずさり、私は咄嗟に力を使う。

でも、そんな事をしても意味はない。

時を止める能力。

私だけの時間。

私だけしか、いない時間。

私だけの世界。

私だけの世界に、逃げ込む力。

――私は、臆病。

引っかかれた頬から、一筋の血が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……好き……」

私の口から、その言葉がでない。

私――博麗霊夢は、彼女――十六夜咲夜に告白できないでいた。

――好き。

彼女も私のことが好きだ――と思う。

これは私の勘だ。

私の勘は良く当たる。

いつも勘を頼りに動けば、異変の元凶へと一直線にたどり着く。

たから、彼女も私のことが好きだと思う。

――でも。

女の子同士ってどうなんだろう?

同性同士の恋人なんて、いままで見たことがない。

それを考えると、いつも不安になる。

――私は臆病で、言い出せず。

――彼女からの告白を期待してしまう。

「あぁ、早く来ないかなぁ」

ため息が漏れる。

咲夜に会いたい。

日の当たる縁側で私は膝を抱え、三角座りをする。

顔を膝に埋め、コロンと横になる。

髪飾りで束ねた髪が、頬を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Happy Joy』

 

訪れた博麗神社には、いつもの先客――霧雨魔理沙の姿はなく、縁側で霊夢が一人、お茶を飲んでいた。

霊夢は私の姿を見つけると、私に向けて微笑んだ。

邪魔者はいない。

私は霊夢に近づき、一度唾をのみ、勇気を持って告白する。

「……あの……私……霊夢のことが……好きなの!」

「嬉しい! 私も咲夜のことが好きなの!!」

やったね!!

「チュッ!!」

あっ!

この味! 玄米茶ねっ!!

 




某同人誌を読んで考えた話。なので、タイトルをもじった。
年齢指定本なので、タイトルは書きません。


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