あのゲームの殺人鬼をクロスさせてみた。

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登場するのは殺人鬼一体のみです


仮面の男

 はぐれ悪魔・バイサーは空腹だった。

 悪魔は食事も睡眠も必要ないのだが、主の下を抜け出して辿り着いた人間界で試しに食してみた人間の肉の味が忘れられなかった。

 バイサーの周りは赤黒い液体・血で染まっていた。食した人間のものであった。

 しかし、最後に人間を食したのはかなり前であり、とっくに血は乾いて根城にしている廃屋を死臭で満たしていた。

 人間なら耐えきれないであろうが、悪魔であるバイサーにとっては更なる食欲をわきたてる要因にしかならなかった。

 現に今も食欲に駆られている。

 ここを出て自ら人間を捕まえる方法も考えたが、そうすればここの領主であるグレモリーの娘に見つかって滅される可能性がある。

 故に、バイサーはここに迷い込んだ人間だけを食らうことに決めた。

 悪魔は百年程度しか生きられない人間と違って何万年という永遠に近い時を生きられるのだ。焦ることはないしわざわざ急ぐ必要もない。

 

「んん?」

 

 ゆっくりと待てばいいし、長い間人間が来なければ場所を変えればいい。

 そう考えていたバイサーは、突如違和感を感じるのと同時に口の端を大きく歪めた。

 近くから人間の匂いがしたからであった。

 

「あぁ、久しぶりの肉だ」

 

 口の中に広がる人間の肉の味を想像しながら、下半身・獣の四脚を動かす。

 匂いは気配と同時にゆっくりと近づいてくる。

 ここに迷い込んだことで恐怖を感じているか戸惑っているのだろう。

 前の人間もそうだった。

 

 気配は扉の前で止まる。

 その扉を開けた瞬間に跳びかかり、逃げる暇を与えることなく息の根を止め、動かなくなった肉を時間をかけてゆっくりと食らう。

 バイサーは涎を垂らしながらその瞬間を待った。

 四脚に力を入れ、ギィ、とボロボロになった扉が音を立てながら開かれたその瞬間に勢い良く跳びかかる・・・

 

「あぁ?」

 

 ・・・ことはできなかった。

 視界にそれを捉えた瞬間に顔を歪め、身体が硬直したからであった。

 

 匂いと気配からして人間であることに間違いはない。

 しかし、今までに見た人間とは明らかに違っていた。

 

 身長はかなり高く、筋肉質な肉体にボロボロのインナーにオーバーオールを着ただけのような服装。右手には血で染まった大きな包丁。左腕も怪我でもしているのか同じく血で染まっている。

 そして、バイサーが一番目を留めたのは顔━━━否、顔を覆っている仮面であった。

 恐らく骨でできているであろうその仮面は不気味と言えるほどの笑みを浮かべており、目の部分は凍りつくような青白い光を放っている。

 

「・・・ハッ」

 

 バイサーは今までの人間とは明らかに風貌が違う人間に驚きこそしたものの、すぐに鼻で笑い、再び口の端を歪める。

 武器を持ってはいるが、それがどうした。

 相手は脆弱な人間だ、武器を持っていようが悪魔である自分に敵う道理はない。

 殺して、バラして、食らう、それで終わりだ。

 

 バイサーは両手に魔力で生成した槍を持ち、目の前で佇む大柄な人間に跳びかかった。

 

 

 

「二度と教会に近づいちゃダメよ!」

 

 駒王町、駒王学園の旧校舎、オカルト研究部部室で紅髪の少女であるリアス・グレモリーは最近新しく眷属となった茶髪の少年の兵藤一誠に説教していた。

 悪魔に転生した一誠が天敵である聖女を教会に案内したと知ったからだった。

 

「無事に帰ってきてくれたから良かったけど、神の祝福を受けた光の力は我々悪魔にとって猛毒なの。その身に受けたら魂ごと消滅する。輪廻転生の輪にも入れない、あの世へも逝けない、完全な無に帰ることになるわよ!」

 

「す、すいませんでした!」

 

 ただ道に迷っている女の子を案内しただけ、それだけの行為が自分の死に繋がるとこだったということを理解した一誠は、同じくリアス・グレモリーの眷属である金髪の少年と白髪の少女と黒髪の少女が見守る中で顔を青ざめさせながら自分の主に謝罪する。

 

「いえ、ごめんなさい、私も熱くなりすぎたわ。でも本当に気を付けてちょうだい」

 

「・・・そろそろお説教は済みました?」

 

 笑顔で見守っていた黒髪の少女が声を掛ける。

 

「どうしたの?朱乃」

 

「大公からはぐれ悪魔の討伐依頼が届いております」

 

「そう、わかったわ」

 

「はぐれ悪魔?」

 

 まだ悪魔になって日が浅く、初めて聞いた単語に何だ?それは、と一誠が首を傾げた。

 

 

 

「はぐれ悪魔というのは、主の元を離れて欲望のままに暴れ回る悪魔のことよ。だから他種族に犠牲が出る前に我々悪魔が責任を持って討伐しているの」

 

 はぐれ悪魔が根城にしているであろう廃屋に向かう途中で、リアスは一誠にはぐれ悪魔とは何なのかを説明していた。

 

「と、着いたわね」 

 

「・・・血の匂いがします」

 

 白髪の少女が鼻をつまむのと同時に可愛らしい顔を少しだけ歪める。

 どうやら、ここにはぐれ悪魔がいるのは間違いないようだ。

 

「イッセー、あなたは戦わずに見ていてちょうだい。いい機会だから悪魔の戦い方と駒の特性を教え━━━」

 

「ギャアアアアア⁉」

 

 リアスの言葉は廃墟の中から突如聞こえてきた絶叫によって遮られる。

 

「悠長に説明してる暇はないようね、行くわよ皆!」

 

「「はい!」」

 

「・・・ほら、行きますよ先輩」

 

「あ、ちょ⁉ 小猫ちゃん待って⁉ 引きずらないでくれえ⁉」

 

 リアスが女王である姫島朱乃と騎士である木場裕斗と共に廃墟の中へ走り出し、戦車である搭城小猫は絶叫に一番驚いて思考停止していた兵士の一誠を半ば引きずりながら三人に続く。

 

 誰かがはぐれ悪魔に襲われているなら助けなければならない。

 この駒王町の管理を任されている身として、無駄な犠牲者をだしてはならない。

 どれだけボロボロでも、瀕死であっても、死んでさえいなければ、生きてさえいれば魔力で治療できる。

 襲われているのが『こちら側』の事情を知らない一般人なら、助けた後にトラウマが残らないように記憶を消して元の日常に戻ってもらう。

 

(お願い! 間に合って!)

 

 グレモリーの名に懸けて必ず助けると、リアスは襲撃されている者の無事を祈りながら眷属達と共に走る。

 だが、もう声が聞こえなくなってしまった。絶叫も悲鳴も、自分達の足音以外何も聞こえない。

 

(やられてしまったの?)

 

 リアスも眷属達も最悪の展開を予想する。

 もしそうだというなら尚更はぐれ悪魔を許すわけには行かないと、湧き出てくる怒りをぶつけるようにはぐれ悪魔がいるであろう扉を勢い良く開いた。

 

 だが、視界に入った光景を見て、リアスの中の怒りは噓のように冷めていった。

 

 部屋の中には、下半身が四足獣の女性がうつ伏せで倒れていた。

 人間と同じ上半身の背中には無数の切り傷があり、そこからドクドクと血が溢れて血溜まりを作っていた。

 他にも傷や殴られたような打撲痕があったが、背中の傷が一番リアスの印象に残った。

 まるで抵抗できないところを滅多切りにされたような傷だったからだ。

 そして、下半身が四足獣の女性は、女王である朱乃から聞いたはぐれ悪魔・バイサーと特徴が一致していた。

 つまり、先ほど聞いた絶叫は一般人のものではなく、討伐対象であるはぐれ悪魔のものだったということを瞬時に理解した。

 

 リアスは次にもう一人の人物へと目を向ける。

 底冷えするような青白い光を目の部分から放ち、不気味な程の笑みを浮かべている仮面で顔を覆っている大男。

 その男は、おそらく既に物言わぬ亡骸となったであろうバイサーを見下ろしていた。

 右手に持っている包丁のような得物からは血が滴り落ちていることから、バイサーをやったのはこの男だろう。

 

 何者なのか、何故ここにいるのか、予想外の展開に眷属達と共に暫し呆然としていたリアスだったが、とりあえず事情を聞かせてもらおうと声をかけようとする。

 

 そこで男が動いた。

 何を思ったのか、血が滴り落ちている得物を見ると、何も持っていない左手の腕で血を拭う。

 バイサーに近付き、左手で持ち上げて肩に担ぐと、気付いていないのか、それとも気付いていてわざと放置しているのか、リアス達には一瞥もくれることなく背を向けて立ち去ろうとする。

 

「待ちなさい」

 

 動きを見せた男に呆然としていたリアスがハッとなって我に帰るのと同時に声を掛けると、やはり自分達には気付いていたのか、男は大して驚く様子を見せることはなく、足を止めるとゆっくりと首だけを動かしてリアスたちを見る。

 

「ごきげんよう。私はこの町の管理を任されているグレモリー家の者よ。大公からはぐれ悪魔・バイサーの討伐依頼があってここに来たのだけど・・・」

 

 気配からしておそらく人間。しかし悪魔を相手に目立った外傷は一切ない━━つまりは無傷であることからこちら側の事情は知っている、そして神器のような人外に対抗できる力を持っているのだろうと思い、冷静に、警戒しながら、相手を刺激しないように言葉を紡ぐ。

 

「あなたがやったのかしら?」

 

 肩に担がれている亡骸となったであろうバイサーを一瞥しながら言う。

 男はリアスの質問に答えることはなく、無言でジッとリアスたちを見据える。

 

「・・・何か言ってほしいのだけど」

 

 男は黙ったままだ。

 しゃべれないのか、答える気がないのか。

 だが、領主を任されている身としてはこのまま大人しく返すわけにもいかない。 

 いっそのこと強引に聞き出すか?いや駄目だ。それで最悪の結果に繋がったら評価が落ちるだけでなくグレモリー家の名に泥を塗ることになってしまう。

 

 やはりここは何とか話し合いを・・・そう考えているリアスを背に、男が再び動き出した。

 ゆっくりと振り返り、リアスたちを正面から見据えると、肩に担いでいたバイサーを降ろす。

 地面に音を立てて倒れるバイサーだが、やはりもう死んでいるのだろう。うめき声一つ上げず、全く動かない。

 

「どういうつもりかしら?」

 

 リアスは『まさか』と嫌な予感を感じていた。

 何故わざわざ降ろした? 私と話し合うため? いや、そうとは思えない。

 今は邪魔だから? 何をするのに? 

 

 リアスの質問に、男は言葉ではなく行動で示した。

 

「「「「「!?」」」」」

 

 力を解放するかのように、男から溢れ出した威圧感がリアスたちを襲った。

 

「イッセー、下がって!」

 

 それが何を意味するのか理解したリアスはまだ悪魔になって間もない一誠に下がるように命じると、両手に赤く光る魔力を展開する。

 朱乃は全身に雷を纏い、裕斗は神器によって生成された剣を、小猫は拳を構える。

 リアスだけでなく全員が理解していた。

 

 この男は・・・やる気だ。

 

 できれば当たってほしくない予感だったが、こうなってしまっては仕方がない。

 この男は只者じゃない、おそらく私たちの誰よりも強い。

 リアス、朱乃、裕斗、小猫の四人は冷や汗をかき、リアスの命令通りに下がった一誠は顔を青くして気絶しかけていた。意識を保っているだけ流石と言えるだろう。

 ただそこに在るだけで感じる強大な威圧感は、リアスたちを圧力と緊張感で満たしていた。

 

 数秒の沈黙。

 それを破ったのは大柄の男だった。

 男はリアスに向かって歩き出す。

 

「!?」

 

 リアスは驚きを隠せなかった。

 歩いて近づいてきたというのもそうだが、ただの早歩きが走っているのではないかと錯覚させられるほど速いなど誰が想像できようか。

 リアスはほぼ反射的に魔力を男に向かって放つ。

 しかし、男は何も持っていない左腕を勢い良く振るう。それだけでリアスの魔力はかき消された。

 

「な!?」

 

 リアスだけでなく眷属達もその表情を驚愕で染めた。

 リアスの扱う魔力は、バアル家の生まれである母から受け継いだ【滅びの魔力】である。文字通り対象を消滅させる効果があり、物理的にもかなり強力な魔力であった。

 それをたった腕の一振りで無力化された。

 その事実を前にして動揺するリアス。

 だが眷属達が黙っていない。裕斗が男から見て右に、小猫が左に回る。左右から攻撃を仕掛ければ、男は裕斗の剣を手に持っている大包丁で、小猫の拳を同じく素手で受け止めるだろう。

 両手が塞がり、がら空きになったその身に、王であるリアスを守るように前に出た朱乃の雷を叩き込む。

 言葉にせずとも各々がその作戦を理解していた。はぐれ悪魔の討伐は今回が初めてではない。長い間一緒に行動してきたからこそできる芸当であった。最も、今回の相手ははぐれ悪魔ではないのだが。

 しかし・・・

 

「っ!?」

 

「え?」

 

「裕斗くん!?」

 

 その作戦は失敗に終わった。

 回り込む途中で、バチン という音と同時に裕斗が膝をついたのだ。

 裕斗は、ギザギザした刃物に挟まれたような感触とともに激しい痛みを足首から感じていた。

 見てみれば、そこには【罠】があった。トラバサミであった。

 目で見た限りこんなものはなかったが、近くで見て何故気づけなかったのかを理解した。

 何かで色を染めたのか、『床と同化』していたのだ。

 それだけではない。悪魔は魔力を使った戦い方が基本であり、武器を生成するにしても、罠を仕掛けるにしても魔力を使うことがほとんどだ。その魔力を感じ取ることで事前に察知できるのだが、これは魔力的なものは全くない道具であるために察知できなかったのだ。

 リアスに向かっていた男はピタリと足を止め、痛みに表情を歪める裕斗に標的を切り替える。

 その様は、罠にかかった獲物を仕留めようとする狩人であった。

 

「させません!」

 

 いち早く我に返った小猫が裕斗に近づく男に蹴りを入れる。

 しかし、全力を込められたその蹴りは素手で容易く受け止められてしまう。

 

「!?」

 

 自身の滅びの魔力をかき消されたリアスと同じように小猫も驚愕する。

 小猫は悪魔に転生する際に攻撃力と防御力を底上げする戦車の恩恵を受けている。

 小学生のような小柄な体格とは裏腹に、小猫は王であるリアスも含めた眷属の中でも一番の力持ちだ。

 故に、感じた威圧感や滅びの魔力をかき消される瞬間を見てそう簡単にはいかないだろうと思ってはいたが、ここまで呆気なく受け止められるのは流石に予想外であった。

 小猫は何とか男の手から逃れようとするが、その前に小猫の身体が浮かび上がった。男が小猫の足を掴んでいる左腕を大きく振りかぶったのだ。

 空中では抵抗できないまま、小猫は勢い良く顔面から地面に叩きつけられた。

 

「んぐっ!?」

 

「小猫ちゃん!?」

 

 あまりに痛々しい光景に、見ていた一誠が悲痛な叫び声を上げる。

 男はそれだけでは終わらず、うつ伏せに倒れた小猫の足から手を離すと、背中を力強く踏みつける。

 

「ゔっ!?」

 

 小猫の身体がビクンと跳ね、喉が潰れたような声を出す。

 男は右手に持っている血で染まった包丁を振りかぶる。

 それを見た一誠は、背中に無数の切り傷があったバイサーの亡骸を思い出し、顔を青くする。

 

「雷よ!」 

 

 しかし、一誠の想像通りになることはなかった。

 魔力を集中させていた朱乃、トラバサミから何とか裕斗を助け出したリアスの雷と滅びの魔力が男に迫る。

 小猫に意識を集中していたのか、男は避けることも受け止めることもかなわず直撃する。

 

『ヴオ!?』

 

 これは流石に効いたのか、うめき声を上げながら二、三歩ほど後退する。

 男が怯んでいる隙に、騎士の恩恵で速度が増している裕斗が小猫を回収してリアスと朱乃の傍に小猫を降ろす。

 

「小猫ちゃん、大丈夫かい?」

 

「・・・何とか」

 

 そうは言うが、手で押さえている鼻からは血が出ており、今にも意識を失いそうに身体がふらついている。

 戦車である小猫を超えるほどの力で顔面から叩きつけられたのだ。小猫じゃなければこの程度では済まなかっただろう。最悪死んでいたかもしれない。

 裕斗も無事とは言えず、あのトラバサミには色を染めること以外にも細工が施されていたのか、足首からの出血がかなり酷かった。そのお陰で裕斗は騎士特有の速さを活かすことが出来なくなってしまった。

 先程の救出も半ば無理やりであり、もはや全速は出せないことは本人が一番理解していた。

 まんまと敵の罠にかかってしまった自分を叱りつけたい心境だった。

 

 リアスたちは息を整えながら男を見る。

 滅びの魔力と女王である朱乃の雷が直撃したことに特に影響を受けているようには見えない。

 怯みこそしたが、大してダメージは通っていないようであり、戦闘が始まる前のように威圧感を放出させながら目の前で佇んでいた。

 王であるリアスの脳内に撤退の二文字が浮かび上がる。 

 裕斗と小猫は重傷を負い、こちらの攻撃はほとんど通らない。明らかに分が悪すぎる。

 しかし上級悪魔、グレモリーとしてのプライドと、こんな奴を野放しにするわけにはいかないという考えがリアスの中に迷いを生じさせる。

 この男が暴れ回ったりでもしたらどれだけの犠牲者が出るか分からない。

 かと言って倒せるのか?と聞かれれば言葉に詰まってしまう。

 というか何故今までこんな危険な存在に気付かなかったのだと自分で自分に文句を言いたい気分だった。

 

 考える余裕は与えないと言わんばかりに男が再び向かってくる。

 

 リアスが滅びの魔力を、朱乃が雷を、裕斗が剣を、小猫が拳を再び構える。

 

 最初と違うのは、四人の内二人が負傷したことぐらいであった。

 

 

 

「はぁ・・・」 

 

 オカルト研究部部室の部長の席に座ったリアスは、両手で顔を覆いながらため息を吐いた。

 

 あの後、結局リアスたちは撤退せざるを得ない状況まで追い込まれた。

 どれだけ攻撃しても、まるで『倒すことは不可能だ』と言わんばかりに攻撃が通らず、対してこっちはそこら中に仕掛けられていた罠にかかって負傷するのと同時に決定的な隙を晒してしまい、手に持った包丁で斬られるわ、眷属の戦車を超える力で殴り飛ばされるわ、魔力を使い果たしてしまうわで散々な結果で終わった。

 今までに何度かはぐれ悪魔の討伐で実戦を経験してきたが、ここまで一方的にボロボロにされ、じわじわと迫ってくる死に恐怖を覚えたのは初めてであった。

 

 リアスは手の平に自身の魔力・滅びの魔力を小さな球体で出現させ、それをジッと見つめる。

 脳裏に浮かび上がるのは、放った魔力があの男によって呆気なくかき消される瞬間だった。

 思い出すたびに自分の中の自信と自負が、同じようにかき消されるのを感じた。

 今まではこの力と才能で何事も上手くいっていたのだから。

 それと同時に、自分の力が全く及ばなかったことに悔しさも感じていた。

 

「次は・・・こうはいかないから」

 

 あの男は必ず私が・・・

 ぼそりと小さく呟かれた言葉は、確かに決意と覚悟が感じ取れた。

 

「・・・・・」

 

 この中でただ一人、部室のソファーに座っている一誠には。

 他の眷属達は治療のために今は部室にはいない。

 あの戦いで唯一無傷だった一誠だけがリアスと共に部室に帰還し、リアスの呟きを聞いていた。

 リアスが滅びの魔力を見つめるように、一誠も自身の左手・最近覚醒した龍の篭手を見つめる。

 そんな一誠の脳裏には、あの男よりもボロボロにされていく仲間たちが浮かび上がっていた。

 地面に叩きつけられる小猫、罠にかかって負傷する裕斗、殴り飛ばされる朱乃、斬りつけられるリアス。

 そして、そんな仲間たちの後ろでただ見ていただけの自分。

 あの戦いは、最近までただの一般人だった一誠に影響を与えるのに充分すぎた。

 リアスには、一度は堕天使に殺されたときに助けてもらった恩があり、その恩を返したいと思っているし、強くなって女性にモテたいという欲望もあった。

 だが、あの時の自分はどうだ?

 ハーレム王に俺はなる!などと言っておきながら、ボロボロになっていく仲間たちを助けなきゃと思いながらも恐怖で動けなかった自分が酷く情けなく感じた。

 

「俺は・・・」

 

 今のままじゃ駄目だ。

 こんなんじゃハーレム王になるどころかリアスに恩を返せないし、守りたいものも守れない。

 

「強く・・・ならないと」

 

 一誠は龍の篭手となっている左手をギュッと握りしめた。

 

 

 この二人の覚悟と決意が不死鳥とのレーティングゲームに勝利したり、堕天使幹部との戦いで禁手に至ったりと、本来の未来に少なからず影響を与えることになるのは別の話。

 

 

 

 バイサーを肩に担いで森の中を歩く仮面の大男・【罠使い】は先程の戦いを思い出していた。

 あの時、罠使いは歓喜と興奮を覚えずにはいられなかった。

 戦いたい欲求があったわけではない。

 忠誠を誓っている【あの御方】に捧げる生贄が自ら寄ってきてくれたからだった。

 嬉しい誤算に一人でも多く生贄を捧げようと、一対四という人数的には圧倒的に不利なのにも関わらずに戦った。

 罠使いにとって、あの四人はそこまで強いというわけでもなかった。

 リアスといった紅髪の女の赤い光は『同士』である【田舎者】と【人喰い】のチェーンソーの方が威力は上だった。

 コネコといった少女の戦い方は接近して殴る・蹴るといった単純な戦い方であり、力はそこそこあったが、あの程度では【あの御方】の下僕の中で一番の怪力である自分はおろか、【女狩人】にさえも及ばない。

 アケノといった女の使う雷も、ダメージだけでなく幻覚や幻聴などの症状を発生させて正気を奪う【医者】の雷の方がまだ恐ろしく、裕斗といった少年は確かに速かったが見切れない速度ではなく、速いだけでなく壁をすり抜ける【看護婦】や目視すらできなくなる【幽霊】と【怨霊】と比べれば可愛いものだった。

 イッセーといった少年は主の命令故か、それとも戦意が喪失していたのか、戦う気すらなかった。

 決して仕留めきれない獲物ではなかったのだ。

 しかし、全員生きたまま逃げられるという結果だけを見れば、罠使いの敗北であった。

 罠使いにも自分なりのプライドがあり、一匹も仕留めきれないまま逃げられるというのは罠使いにとって許せる結果ではなかった。

 

 罠使いは担いでいたバイサーを目の前にあるフックに吊るす。

 フックから蜘蛛の脚のような鋭い触手・【あの御方】の一部が現れ、バイサーを串刺しにする。

 そのまま上空に持っていかれ、黒い靄の中に消えていった。

 その光景を見ていた罠使いの脳裏にはあの時の五人の姿が浮かび上がっていた。

 一度は逃がしてしまったために、次に会う時は強くなっているだろう

 だがその時は、必ずこの手で仕留める。

 

 【罠使い】は森の奥に消えていった。

 

 




【罠使い】・・・【トラッパー】・・・【THE TRAPPER】

【田舎者】・・・【ヒルビリー】・・・【THE HILLBILLY】

【人喰い】・・・【カニバル】・・・・【THE CANNIBAL】

【女狩人】・・・【ハントレス】・・・【THE HUNTRESS】

【医者】・・・・【ドクター】・・・・【THE DOCTOR】

【看護婦】・・・【ナース】・・・・・【THE NURSE】

【幽霊】・・・・【レイス】・・・・・【THE WRAITH】

【怨霊】・・・・【スピリット】・・・【THE SPIRIT】

【あの御方】・・【エンティティ】・・【Entity】

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