ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第43話 選択

 カイルと彼の選んだ者たちが空高く浮遊したまま動けないギムレーの背の上に転移する。

「カイル様の進む道は私が切り開きます!」

 天馬に乗ったままカーシャが告げる。

「俺がギムレー退治に一役買ったと聞いたら親父たちも仰天するな」

斧を構えルッツがうそぶく。

「タグエルとラグズ、竜族……そして人間との共存をお前などに邪魔されてなるものか」

 ベルモットは獣石を握りしめ化身の構えをとりながらギムレーに布告する。

「ヴァルム騎士として最後の戦いか。相手にとって不足はない」

 馬上で槍を回しフェイスは息巻く。

「ではやるか! テリウスとアイク傭兵団、ララベル……俺の家族たちのためにも」

 アイクはギムレーの頭部に首元をむける。

「あれがギムレーとともにこの事態を引き起こした邪悪な意志ですか……酷い有様です」

 もう魔道士でないカイルたちにも見えるほど濃い瘴気となった赤いガルバザンの亡霊を見てセネリオはつぶやく。

「一度敗れながらも未だにヴァルム一の騎士と呼ばれるこの身、せめてカイル殿の戦端を切り開くぐらいのことはやり遂げて見せよう」

 ギムレーの上体に現れた十二体の屍を前にジーンは言う。

「ふっ! まるで千年前のアルムとドーマとの戦いの再現だな。この竜に本当にファルシオン以外の獲物が通用しないのか試してみるか」

 銀の剣を持ちファルスが息巻く。

「ギムレー、何としてもあなたを倒す! ……この力をすべて使い果たしても」

 ひび割れた神竜石のある懐に手を当てチキは覚悟を決める。

「ギムレー、ガルバザン、お前たちの暴虐はここまでだ。これで本当にすべてを終わらせる!」

 ギムレーの頭部とそこを守るガルバザンにファルシオンをむけカイルは宣言する。

「おのれええええええっ!!! 虫けらごときが赦さぬぞおおおおお!!」

 自らの体の上に乗りこみ無礼の限りを尽くす人間たちにギムレーは吼える。

 その直後ギムレーの体内から出てきた黒き稲妻がカイルたちを襲う。

「ぐあああ!」

 あまりの衝撃に彼らは全員膝をつく。まだ体中が痺れている。

 衝撃を受けたのはカイルたちだけではない。

(うぐ……)

 ナーガの精神体もうめきギムレーの制御を失い戒めから解かれたギムレーはあらぬ方角に飛んでいく。

(まだです……彼らを守るぐらいは……)

 それでも懸命に巨竜を抑えカイルたちを真下に振り落とす真似だけはさせまいとあがく。

 そんな中動けないカイルたちにとどめを刺そうと屍たちが殺到する。

『われらにおおいなるじひを! リザーブ』

 すかさずセネリオは杖を掲げリザーブの詠唱を唱える。カイルたちは光に包まれ立ち上がる。

「やあああ!」

 ガシァアアン!

 カーシャの槍が屍の一体を破壊する。

「ふっ!」

「はあああ!」

 彼女に続いてフェイスとジーンも槍を振るう。

 ガン!

 ドシュ!

「今だ! 奴の首の上まで一気に走れ!」

「ああ!」

 アイクの掛け声とともにカイルたちと屍を倒したカーシャたちはギムレーの首めがけて駆けていく。

 残りの屍たちもこれ以上進ませまいと彼らの前に立ちはだかる。

「おおおおお!」

 瞬時に大兎に化身したベルモットは屍を弾き飛ばす。

 ズガアアアアン!

「うらああ!」

 ガキィン!

 ルッツの振るう斧が敵の頭蓋骨をかち割る。

『ふきすさべ! すさまじきたつまきよ! トルネード』

 ビュオオオオ!

 セネリオの起こす竜巻が屍たち3体を吹き飛ばす。

『なんじ、死のふちよりきたれり! デス』

 ガキィィィン!

 ファルスの召喚した死神の幻影が鎌を振るい2体の屍の首を切り落とす。

「はああああ!」

 ズガアアン!

 アイクの斬撃とそこから発生した衝撃波が残り3体の屍を蹴散らしていく。

「おおおおお!」

 屍の全滅に目もくれずカイルとチキはまだ駆ける。

「うらああああ!」

 ズガン!

「ぐあああ」

 だがギムレーの首元から来た赤い人魂が大剣の幻影を振るいカイルを斬りつける。

「ガーゼル神までが俺を見放したというなら二千年前同様俺自身がギムレーという器を乗っ取ってガーゼルとなるまで」

 ガルバザンはついに神にまで憎しみの目を向けカイルたちを殺そうとする。

「チキ……離れろ……ぐぉぉ」

 大きな傷を負いながらカイルは懸命に立ち上がる。

「カイル少し待ってください……『かのものにじひを! リライブ』」

 リザーブこそ用意したもののリカバーまでは持ってこれずセネリオはカイルにリライブをかける。それでも治癒魔法の効果をセネリオの魔力が補いたいていの傷はふさがる。

「こいつは私に任せろ……はあああ!」

 カイルの前に割り込みジーンが槍を握って馬ごとガルバザンに向かって駆けていく。

「ふっ……だああああ!」

 ジーンの槍がガルバザンを突き刺す。

 ――かに思われた。

 ピタ!

 ジーンの槍はガルバザンの前に止まりまるで動かない。

「フン、死ねええええ!」

 ズガン!

「ぐあああ」

 ガルバザンは一撃でジーンの馬の首を切り落とし、ジーンを馬から叩き落す。

「ぐぉぉぉ」

 背中を強打したジーンは立ち上がれない。

「とどめだあああ!」

『とべ! われのもとへ! レスキュー』

 ブォン!

 とどめに振り下ろしたガルバザンの斧はジーンに届かなかった。

 ジーンはガルバザンの前から姿を消し仰向けのまま後方のセネリオのところまで転移する。

 カイルたちは後方に戻り、ガルバザンから距離をとる。

 グォォォ!

 この間もギムレーは目的地も決めず飛び回る。そうすることで一層早く自身の動きを縛るナーガを消耗させようとしているらしい。

「攻撃できない? なぜだ」

 思わぬ現象にカイルはうなる。しかしチキは心当たりがあるようですぐにピンとくる。

「そうか! マフーと同じだ」

「マフー?」

 初めて聞く単語にアイクは聞き返す。アカネイア人のカイルたちやヴァルム人のファルスたちも知らないようでチキに耳を傾ける。

「昔アカネイア大陸に亡霊を操って相手に攻撃させない魔法があったんだけどあの蛮族は怨念の塊だからその魔法と同じ現象が働いてるみたい」

「相手に攻撃させない……そういえば以前ギムレーの背の上で戦った司祭は僕に斬りつけられた時、驚いたまま倒れていったな。同じような魔法を使えたからか……ならば!」

 以前の戦いを思い出したカイルはファルシオンを相手に向ける。マフー同様の力を持つザッハークを破ったこの剣ならガルバザンを斬れるはずだ。

「はあああ!」

「ふん」

 ギィン! 

 ガァン!

 カイルはガルバザンと切り結ぶ。だが生前は屈強な戦士だったガルバザンの筋力はすさまじく軽くあしらわれてしまう。

「はっ」

 ズガン!

「ぐあああ」

 とうとうカイルは圧し負けギムレーの背の上に叩きつけられる。

「とどめだ、死ねやあああ!」

 ガルバザンは大剣を振りかぶる。カイルが死ねばガルバザンにもギムレーにも攻撃できるものはいなくなってしまう。しかしこの場にガルバザンに通用する武器を持つものなど……。

「ぬううううん!」

 ズガン!

「何だと?」

 思わぬところからの攻撃をガルバザンはたじろぐ。剣で受け止められはしたものの特定の武器とプレリュードというリーベリア大陸の光魔法以外ではそれも叶わないはずだが?

「ちっ、一撃与えられなかったか」

 ガルバザンに斬り込んできたのはファルスだった。血を流しながら右手でバレンシアの聖剣ファルシオンの刃の破片を握りしめている。

 この遠征のときからファルシオンの刃の破片を持ってきていたのだ。こんなことまで予想していたのではない、戯れにげん担ぎとやらをしてみただけのつもりだった。

「ファルス……なんて無茶を」

 チキはファルスに気遣う声をかけるが意に介している余裕はない。

「この大陸の竜を封じた剣か。だがそんな芸当がいつまで続けられるかな?」

 グァン!

 ギィン!

 ファルスは激痛をこらえながら刃を離さず鍔迫り合いを続ける。

「ぬぅん……ぐぁ」

 ギシン!

「終わりだああ」

 ザク!

「こ、小僧おおお」

 ファルスの右手を切り落とそうとしたガルバザンの背をカイルが斬りつける。傷は深くファルス以上に創痍がひどい。

「よそ見をしている場合か」

 その隙を見てファルスが挑みかかる。

 グァン!

「く、くそ……ギムレーはまだ加勢できんのか?」

 グォォォォ!

 同意するようにギムレーはうなる。まだナーガの縛りが解けないらしい。

 グァン!

 ギィン!

 ガルバザンがギムレーに助けを求めた際にできた隙を二人は見逃さない。

「今だ……はあああああ!」

 必死に痛みを意識の片隅に追いやりファルスは全霊をかけて最後の一撃を見舞う。

 渾身の二撃を見舞おうとしているのはカイルも同様だった。

「いくぞ……はあああああ!」

 ズギィィィン!

 ファルスの奥義「月光」がガルバザンのわき腹を斬る。

「ぐあああああ」

 同時にカイルの剣も。

 ズゴォォォン!

「ぐあああああ」

 カイルが折を見てアイクから稽古をつけてもらった時にやり方を教えてもらっていた「天空」の1撃目がガルバザンの右手を斬り落とす。

 それと同時に、

 ブシュゥ!

 ファルスの右手の傷から勢いよく血が噴き出て感覚がなくなる。しばらく右手が使えないどころでは済まなそうだ。

(無念……我の代で覇道はならずか……)

 覇道の断念を悟った途端ファルスの意識は途絶える。

「これでとどめ……ああああ!」

 ブシュウウウウウ!

 天空の2撃目がガルバザンを両断する。

「そんな……馬鹿なああああ」

 ガルバザンは赤い霧となり霧散する。今まで戦った屍と同様に。

 

 

 

 

 

 だがガルバザンの意識は昇天せず未だ現世の空中を漂っていた。

「何故だ? 俺は我らゾーア人を迫害するユグド人に勝ち奴らに罰を与えていただけ……それなのになぜ同胞は俺を裏切り、我らが敬っていた神までもが俺の邪魔を」

「本当にそれだけでしたか?」

「お前は?」 

 ガルバザンは眼前に目を凝らす。

 そこにはいつの間にか金髪の少女がガルバザンを憐みの眼差しで見ていた。

「邪神皇帝と名乗って権威を振るい、ユグド人だけでなく同じ部族の人々まで奴隷とし、挙句神の力を得るためだと何十人もの少女を魔獣に捧げた」

「な…なぜそんなことを知っている?」

「その結果100年後にカーリュオンは奴隷を率いてあなたと戦い、私が助けたユトナも彼と合流しともに戦った。……あなたに彼らを逆恨みする資格はありません。ましてや八つ当たりに後世や他の大陸の人々をも巻き込むなど」

「ま、まさかあなたはガーゼル神? ではギムレーを止めたあの女は…?」

 少女、ミラドナはガルバザンからの問いに答えない。

「あなたをみたび現世に放つわけにはいかない。ガルバザンであったころの記憶を忘れるまで煉獄の炎に焼かれなさい」

「ま、待て……お待ちを…」

 ミラドナは詠唱も唱えずガルバザンの魂をいずこへ転移させる。

 それを見届けるとミラドナの分身は悲しげな表情のまま消失した。

 

 

 

 

 

 ガルバザンの魂は散った。後はギムレーを封じるのみ。

 だがナーガの力が弱まったらしく、ギムレーは頭をカイルたちの方にもたげる。

「全員避けろー!」

 カイルの怒声でその場で意識のある全員が散る。

 気絶していたファルスはベルモットが、ジーンはフェイスが抱えて逃げる。

 ブォォォ!

 ギムレーは己の首元にブレスを吐きかける。平気ではないはずだが弱点に辿り着かれて背に腹は代えられないのだろう。

 ブレスを吐き終わると同時にルッツが斬りかかる。

「うらああああ!」

 ガキィン。

 ルッツの斧は首元に鋭く当たる。だが硬すぎる。

「くそ……本当にここが弱点なんだろうな」

「よぉし! 私も……と言いたいとこなんだが」

 ルッツも続いてベルモットも攻撃に加わりたいと思うも突進という己の攻撃手段ではかなわず己の背で気絶しているファルスを守ることに専念する。

 そこにベルモットの背にもう一人押し付けられる。

「うぉ! ……こいつも私が守れってかよ」

 ベルモットに気絶したジーンを押し付けたのはフェイスだ。

「すまない。しかし彼を抱えたままでは思い切り攻撃できないのでな……おおおおおお!」

 フェイスは馬を疾走させる。ルッツは慌ててその場から離れた。

 ズガン!

 月光の秘技も加えたので多少ダメージは与えただろうがやはり硬い。

「ならば魔法で……『きせきのかぜよ! さけ! しっぷうのごとく! レクスカリバー』」

 ブォォォ!

 グォォォォ!

 今までよりダメージが聞いたのか、シューターなどの遠距離からの総攻撃でわずかについた傷に響いたのかギムレーはとうとううめき声を上げる。

「効いている! ……アイク今です!」

「わかっている。……あああああああ!」

 アイクは剣を振りかぶりながら首元まで疾走する。

「だあああああああ!」

 ズガン! ズギン!

 グォォォォ!

 天空の二撃にまたもギムレーはうめく。

「おおおおおお!」

 すかさずカーシャも槍を首に突き立てる。

 グアアアアア!

「よし……今ならこの一撃で……はあああ」

 カイルは剣を掲げ首元に狙いを定める。

「今だ!」

「なっ?」

 その時を待っていたようにギムレーの顔はカイルの眼前に迫る。

「しまった!」

 ブオオオオオ!

 至近距離からギムレーはカイルたちに己のブレスを吹きかける。

 だが――

「な、何いいいい?」

 ブレスはカイルたちの誰にも届かなかった。たった一人を除いて。

「金色の竜?」

 そこにはカイルたちをかばうように金色の竜が立っていた。

「ま、まさかチキ……チキなのか?」

 竜は答えず口を開ける。

 ビュオオオオオ!

 グオオオオオオオ!

 竜はギムレーの顔面に思い切り霧を吐き出した。ギムレーは思わず顔をのけぞらせ竜から離す。

「今だよカイル! ギムレーにとどめを」

 竜がチキの声でカイルに促す。

「ああ!」

 カイルはうなずき剣を振りかぶる。

(ぐぬ……こうなっては最後の手段だ。竜の姿は保てなくなるかもしれんが過去へ行けばこいつらをやり過ごして何も知らん過去のこいつらもろとも世界を滅ぼすことができる)

 その時ギムレーの前に青い円状をした何かが現れる。

「……? あれは!」

 カイルは剣を振りかぶったままその何かを見る。

(いけない。ギムレーは時空移動の秘技を使うつもりです。そうなればギムレーを過去に取り逃がすことになってしまいます。カイル! 急いでとどめを刺しなさい!)

 いつもの神々しい口調も忘れナーガはカイルに早くとどめを刺すように催促する。

 だがカイルの心中では、

(ギムレーが過去へ……あの中に飛び込めば過去に行ける? ……これは好機なのでは)

 ファルシオンでもチキでもギムレーを滅ぼすことはできない。

 でもギムレーを過去という異界に行かせれば奴はこの世界から完全に消失する。

 そして自分もともに過去の世界とやらに行けばそこでギムレーを倒すこともできる。

 危険な賭けでもある。そこにはすでにその次元のギムレーもいるのだから。

 でももし仮にその世界では教団がギムレーの封印を解いていなければ、このギムレーを倒した後教団が封印を解く前に奴らを倒せばその世界もギムレーの脅威から取り除ける。

 父も母もギムレーや教団に殺された多くの人が助かる未来もあるかもしれない。

 青い何か、時空の門はすぐそこに迫っている。

 僕はギムレーの首にファルシオンを……。

 

 

 

 

 

 

 今すぐに突き刺す→第44話

 過去に行くために今は待つ→第46話

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