新学期が始まって、未だ肌に刺さる空気に若干の慣れを感じながら改札を通る。部活のお陰であって無いような春休み明けの今日という日に、空を見上げたのは偶然では無かったのかもしれない。
駐輪場から見える星空は清々するほど曇っていて月明かりすら届かない。例えこの向こう側に遥か遠く、光年単位の光があろうと厚い雲には勝てないのだ。だが、それでも俺は真上に輝く星に手を伸ばさずにはいられないのだ。
自転車で帰る途中で歩く人を見掛ける。ふと、脳裏を過った考えにぞっとしながら隣を駆け抜けた。よもや『今、人を轢いたならばどうなるか』などと破滅衝動にも似たものが鎌首をもたげたが、マスクの内側で笑って否定する。そんな馬鹿な、と。
夜道は人通りなどなく、ただ帰路を急ぐ車のヘッドライトが大通りの方に見えるだけ。その最中に女の子の乗った自転車が見えた。――この道は人通りが少なく民家も無い――頭を横に振って追い越した。――今、ブレーキを掛けて自転車をぶつけたらば相手は――マスクを外して深呼吸して自転車を飛ばした。
こういう鬱屈とした日はこんな考えばかりが頭を支配する。今(誰や何)に(行動)をしたらどうなるか?という問いが延々と頭を駆け巡り、しかし他の事に目を向ければ露と消えるのだ。そんな刹那の考えに幾度と無く世界線への想像を余儀無くされては困りようもない。
帰宅すれば出迎えるのは寝る用意をしている家族。取るものを取ってシャワーを浴びて、リビングで寝ていた母を起こして寝室へ送り届け、夕飯であるカレーを温めながら換気扇の音に耳を傾ける。
カレーと水という食事に、暖かいだけ最高だぜ?なんて誰に言ってるでもない言い訳を並べながら食べる。そして、食べ終わると食器を片付け洗い終える。部活着と制服が洗い終わるのを待ちながら、最近行きつけの配信を聞く。
部活着と制服を干し終えると、カーテンの向こうから三日月の輝きがチラリと見える。ベランダへと出てみれば、帰宅途中まで何の代わり映えも無かった空が、一部だけ晴れているのだ。そんな奇跡に心を奪われつつ、時間を忘れてベランダから三日月を眺める。
何千何万何億光年の向こうの宇宙ならば、恒星も衛星も環境も生物も全く全然異なるのだろう。だからこそ俺はその宇宙に夢と希望を抱かずにはいられない。雲が流れて見えなくなった月明かりを名残惜しく思いつつベランダを後にする。
厚い厚い雲の向こう側に、俺は何ら変わりの無いこの言葉を捧げる。
星に、願いを。