新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第九話「祖先」

 始まりは、高校二年の夏だった。

 医学を少し噛んでいた“俺”は、両親を追いかけて紛争地域へ、飛行機を乗り継ぎ向かった。

 両親を追いかけて、というのは“目標”として追いかけて、だ。

 俺は単独で森林のジャングルを抜け、砂場地帯に立つ豪邸な屋敷と教会に辿り着く。

 俺の手には募金箱と自分の荷物、食糧、薬を携えている。

 屋敷を尋ねてみると、扉が開き、中からまだ小学生にもなっていなそうな肌が黒い少年と白い少女が出てきた。

 

「日本語わかる?」

「「……うん」」

 

 俺は素直に関心する。前もって聞いてはいたが、異国のしかも紛争地域で日本語が喋れるなどほとんど聞いたことがない。俺とてここに来るまでに、英語、ドイツ語、ラテン語、などの言語を学んできた。だから知っている。日本語がすごく難しいことを。例えば、いいね、という言葉でも、いいね?…………いいね!とでニュアンスが変わるし、使い方も日本人では様々である。

 

「えーと、大人はいるかな?」

「うん、ちょっと待ってて」

 

 そう言って、二人は中にトトトト!と戻っていった。

 少し経って、俺が紛争地域にしては綺麗だな、と思った森林を眺め終わると、ちょうど扉が開いた。

 

「えーと、どなたでしょうか?」

「............」

 

 一目惚れだった。白いシスター服を着ているから身を隠しているものの、豊かで弾みのありそうな胸、そこから谷のようなくびれ、柔らかそうな肉付きをして、布を張るぐらい大きな臀部。顔は肌白く、唇は小さく桜色、赤と青が混ざり合ったような混沌の瞳、赤い髪を長く胸下あたりまで垂らしている美少女シスター。おそらく年は同じくらいだろう。

 

「あの〜、どうかしましたか?」

「あ、いえ、すいません。俺は、榊原亜音です。ボランティアで薬品と食料を提供しに来ました、これは食料です。受け取ってください」

「えーとすいません、信用できない人からは受け取ることは、」

「そ、それなら、怪我人を治療します! 中に入れてもらえませんか?」

「ダメですっ、それに怪我人もおりませんので帰っていただいて大丈夫ですっ!」

「ぐぬっ、」

 

 俺は予想外だった。いやまさか、ボランティアに来た人をここまで頑固に拒否するなんて思いもよらなかった。他のところは歓迎してくれたのに。

 だが、ここで引く俺ではない。ということで、話し相手を変えることにした。

 

「他にちゃんとした大人の方はいませんか?お話は団体の方から言ってるはずですが、」

「そんな話聞いてませんし、て!わ、私はちゃんとした大人なのですよ!ガキが!」

「が、ガキ?!.....ふぅー...ふざけないでくださいよ、............ちゃんと言葉が通じる人は他にいませんか?この際、あなたより少し年上でもいいです《精神年齢》……がッ!」

「アハ!喧嘩売っているようですねーニパァ!、その喧嘩、ちょっと生ゴミの様に腐った相手ですが買ってあげますのですよッ!!」

「ほう?、やろうってのか?。これでも俺は」

 

 刹那、俺の頬を拳がかする。

 俺はその鋭さに賞賛しながら、その腕を引き込み、そのまま背負い投げをしようとしたが、そのシスター少女は予想外に跳躍した。

 

「やるなーだけどーーーーってうわっ!」

「えっ?キャっ!」

 

 シスター少女が跳躍したせいで、俺は後ろに引っ張られ、十段以上ある扉の前の階段で二人一緒に転び落ちそうになる。

 

「ちっ!」

 

 俺はシスター少女を馬鹿力で無理矢理引っ張り抱き寄せ、彼女を庇う。

 俺が主に階段で体を打ち付けるが大して痛くはない。

 最後、砂地に着陸し、俺は一息をつき、胸の中のシスター少女に声を掛ける。

 

「………すまない、俺が悪かった。でも大丈夫だから君達に信用して欲しいんだ」

「あ、............は、はい」

 

 シスター少女は頬を染めあげながら俯き、俺は元気な姿を見て安心する。

 そこへ声を掛けるものがいた。その者も同じくシスター服を着ていて、おそらくこの屋敷で一番年が逝ってる人だと俺は予測する。

 普通にシスター服のおばさんだった。

 

「あらら、昼間からお熱いですねーセラリアちゃん?」

「ぬっ!こんの!!いつまでセクハラしているつもりですか!」

「えっ?ーーーぐっぉ!」

 

 男の大事な所をシスター少女は、躊躇なく膝蹴りする。

 少し痛い、鍛えることはできないから仕方ないのだ。

 そんな方法があるのなら教えてほしいね。

 俺は痛い素振りを見せず、立ち上がった。視線を動かすと、いつの間にか、俺と屋敷から離れた場所にシスター少女は立っていた。

 そして、一言。

 

「むむ、も、もしかして、貴方は............本当は………!」

「や、やっと分かってく」

 

 

「○○こないんですか?それとも矯正された男の娘?」

 

 

 矯正とは、欠点を正しく改めさせること。

 あながち間違ってないかもしれないが、男としてこれは認めてはいけない気がする。ある意味で沽券にかかわるわ!

 ちなみにそれを言うなら、去勢だろ!!!と色々言いたいが、とりあえず、

 

「黙れッ!!このくそ変態シスター!シスターの名が聞いて呆れるぞ!!神は今ごろ泣いているぞ?、変態野郎!」

「はぁー?私は野郎じゃないからッ!! この○○こを持たない男の娘に言われたくないわッ!このセクハラ不審者!」

 

 結論──────お互いに!

 

 

「「お前に言われたらおしまいダァッ!!!」」

 

 

 その後、三十分くらい俺達は出会ってすぐの相手に、下ネタを混ぜた最低級の侮蔑の言葉を、教会と幼い子供達の前で、言いふらしあうのだった。

 これが俺と初恋の少女との出会いだった。

 今、思えば、夢のような儚い刻だった。

 

 

 

#####

 

 

 

 

 朝、亜音の自室。

 風呂から退散したあと、亜音はいつもの私服に着替えた。

 紺色のズボンに、白の長袖Tシャツ、青の長袖ワイシャツ、治療用具などが入ったポーチを腰斜めに巻き、身支度を終える。

 最後に、榊原亜音と書かれた日の光で反射するギフトカードを手にし、ポケットにいれて、準備完了。

 

「今日は............最悪な夢を見たな」

『風呂場で眠るなんてよ............無理しすぎだろ?』

「止まる訳にはいかないよ、言葉を皆に伝えるには裏付けが必要なんだ、誰よりも俺は自分に厳しく、でなければ皆に強要、伝えることはできないんだ」

『...っ、そうかよ! 勝手に体調崩せ、このアホンダラッ!』

「............さてと、行くか」

 

 トントン!

 扉からそんな音が聞こえた。

 亜音は〝蚩尤〞を無視し、扉の方へ向かう。

 扉を内側に開けると、そこには先ほどの狐耳の少女がいた。

 

「えーと、確か、リリちゃん、でよかった?」

「は、はい! おはようございます.........ってさっきも会いましたよね、ごめ」

「おはよう、リリちゃん」

「あ、はい おはようございます!」

 

 なんとも可愛らしい黄色の狐耳をぴょこぴょこ、もふもふな二尾の尻尾、まさに〝狐美少女〞だ。

 亜音は彼女の元気な笑顔を見て、少し安心する。自分のことを誤解されていたままだったら、軍人と思われてたら、この先、自分を見るたびに少女は避けていただろう。こんな可愛い子に嫌われたら、世も末と思ってしまう。

 亜音は微笑みを絶やさず、問う。

 

「何か用があるの?」

「はい .........えーと、〝サウザンドアイズ〞まで、いえ、今日一日お供させて頂けないでしょうか?」

「ん 、別にいいけど、本拠地は大丈夫?子供達は?」

「大丈夫です、いつもジンくん達がいない時は、いい子にお留守番していますから」

「そうか............よーし、じゃあ行くか!」《これを機に俺の軍人属性を払拭しよう》

 

 亜音の明るさに自然とリリは惹かれ、自然に笑顔になる。

 

「はいです!」

 

 

 

###

 

 

 

 

 少し時間を遡り、風呂場での出来事の後すぐ、黒ウサギはリリを自室に招き入れる。

 そこで、秘密の話をしていた。

 いつもより真剣な黒ウサギに、少し喉を鳴らすリリ。

 

「リリ、貴方にミッションを与えます………!」

「み、ミッション?」

「そう、ミッション!それは今日、亜音さんに一日付き添い、見張ること」

「え?亜音さんってさっきの…………っ、」

 

 リリは少し顔を引きつらせ、強張る。先ほどの亜音を見ては無理もないかもしれない。

 リリは心の中で、嫌を言う準備をしていた。嫌いではないが、まだ会ったばかりの人と二人きり、しかも、軍人。

 だが、次に黒ウサギが述べた言葉は、リリを決心させた。

 

「亜音さんは、うちの大戦力。先ほどの出来事からしても隙がまったくない。上層クラスに近い実力者です。もし、亜音さんが〝サウザンドアイズ〞に行ってしまったら私は泣くのです。だから、リリ、今日の亜音さんの様子を観察して、帰ってきたら報告してください。できますよね?…………ね?」

 

 黒ウサギが凄く必死だ。顔が怖い。ウサ耳が不気味なほどに動きすぎて怖い!

 リリはその様子から事の重大さを悟り、なんとか笑顔を作って返事をした。

 

「は、はい!」

 

 

 

 

###

 

 

 

 そして、現在、亜音とリリは二人一緒に屋敷を出た。

 リリは当初、腹を括って、無理な笑顔を作りながら一日をなんとか乗り越えようとしていたが、今ではそんな事を忘れて亜音の横を歩い ていた。

 

「リリちゃん、行こうか?」

 

 亜音は右手を優しく差し出した。

 リリも笑顔のまま自然と自分の手を伸ば…………そうとして、ハッと我に帰った彼女は笑顔で、

 

「わ、私もう子供じゃないですから、、だ、大丈夫です」

「そう? それは残念」

 

 ついつい亜音の雰囲気に流されて手を伸ばしかけたが、みんながどこから見ているか分からないのだ。

 年長者としての自覚を持たねば、と胸に手を当てながら歩くリリを亜音はこっそり微笑むのだった。

 

 

 

 

####

 

 

 久遠飛鳥と春日部耀は街路を歩きながら、少し考え込んでいた。

 ついさきほど本拠の廊下ですれ違った“亜音”との会話を。

 

『久遠さんと春日部さんは…………人を殺したことはある?』

 

 あの風呂場での事件の後の第一声がこれだった。

 なんのつもりかは分からないが、失礼極まりないだろう。

 同じ世界で生きてきたのだから、大体はわかるはずだ。

 

『そんなことするわけないわ』

『私も人を殺したことなんかないよ?』

 

 二人の即答と言い方に亜音は少し苦笑する。

 

『あ、ごめん別に深い意味があってのことじゃない。ただ…………』

 

 しばし亜音は窓の外を見つめ、言葉を選んでいる様だった。

 もったいぶる様な態度に若干のイライラが募り始める二人。

 

『頑張ってとは言ったけど、………この世界のギフトゲームは元の世界とは別次元の話だ』

『そうね、いつかの黒ウサギが言っていた…………最悪の場合』

『命すらもチップになる』

 

 三人の間に冷たい風が吹いた。

 そうだ、もうこの世界において前の世界の常識は通用しない。

 加えて今回のギフトゲームは、相手が自由に内容を決めることができる。

 最悪は、これが三人の最後の会話になるかもしれない。その危険性と可能性はこの本拠地周辺を見れば明らかだろう。

 

『大丈夫よ、春日部さんも私もアイツと、少なくとも最初に会った時点では実力的に負ける要素はなかったわ。』

『それに黒ウサギが言ってたけど、あまりにも自分有利な設定にしたらゲームが破綻するって言ってたから』

『あー……………うん、そういう心配はしていないよ? そうだなぁ、これだけは言っておこうかな』

 

 亜音は小さく笑みを浮かべて、背中を向けて歩き始める。

 二人がそれに制止をかけようとした時、

 

『《迷ったら逃げる、そして必ず戻る》…………年長者のアドバイスとして受け取っておいてくれ』

『『??………“迷ったら逃げる??』』

 

 意味不明な言葉に二人は首をかしげる。

 どういうことか、聞こうとした時にはもう亜音の姿はなかった。

 

「…………まぁ、いいわ、あとで問い詰めましょう、春日部さん」

「そうだね、………初めてのギフトゲームに集中しなきゃ」

 

 

 それから、1時間ほどが経過し、黒ウサギ、十六夜、飛鳥、耀、ジン、三毛猫の御一行は噴水広場を抜けて、〝フォレ ス・ガロ〞の居住区画にやって来た。

 箱庭2105380外門。〝フォレス・ガロ〞の居住区画。

 

「見えてきましたね............ですが、」

 

 黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様。それというのも、“居住区画”が森のように豹変していたからだ。ツタの絡む門をさすり、鬱蒼と生い茂る木々、とても普通の居住区画とは思えない。どんな趣味だよって感じだ。

 

 

「............ジャングル?」

「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ」

「いや、おかしいです。〝フォレス・ガロ〞のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず............それに」

 

 ジンはそっと木々に手を伸ばす。その樹液はまるで生き物のように脈を打ち、肌を通して胎動の様なものを感じさせた。

 

「やっぱり────〝鬼化〞してる、いや、まさか」

「ジン君。ここに〝契約書類〞が貼ってあるわよ」

 

 飛鳥が声をあげる。門柱に貼られてた羊皮紙には今回のゲーム内容が記されていた。

 

 

『ギフトゲーム名〝ハンティング〞

 

 ・プレイヤー名一覧 ジン=ラッセル

           春日部 耀

           久遠 飛鳥

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 ・クリア方法 ホストが指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約”によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。

 ・敗北条件  降参かプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 ・指定武具  ゲームテリトリーにて配置。

 

 宣誓 上記を尊重し誇りと御旗の下〝ノーネーム〞はギフト ゲームに参加します。〝フォレス・ガロ〞印』

 

 

「ガルドの命をクリア条件に............指定武具で打倒?!」

「こ、これはまずいです!」

 

 ジンと黒ウサギが悲鳴のような声をあげる。

 飛鳥は心配そうに問う。

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操る事も耀さんのギフトで傷つけることもできない事になります......... 」

 

 ジンの言葉を受けた飛鳥は、険しい顔で黒ウサギに問う。

 

「............どういうこと?」

「〝恩恵〞ではなく、〝契約〞によってその身を守っているのです。これでは神格でも手が出せません、彼は自分の命をクリア条件に組み込むことで、御二人の力を克服したのです」

「すいません、僕の落ち度でした。初めに〝契約書類〞を作ったときにルールもその場で決めておけばよかったのに............ 」

 

  ルールを決めるのが〝主催者〞である以上、白紙のゲームを承諾するというのは自殺行為に等しい。ギフトゲームに参加したことがないジンは、ルールが白紙のゲームに参加することが如何に愚かなことかわかっていなかったのだ。

 

「敵は命がけで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白くていいけどな」

「気軽に言ってくれるわね............条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何かも書かれてないし、このまま戦えば厳しいかもしれない」

 

 そう呟く飛鳥は厳しい表情で〝契約書類〞を覗き込む。彼女が挑んだゲームに責任を感じているのだろう。それに気付いた黒ウサギと耀は、飛鳥の手をギュッと握って励ます。

 

「だ、大丈夫ですよ 〝契約書類〞には『指定』武具としっかり書いてあります。つまり最低でも何らかのヒントがなければいけません。もしヒントが提示していなければ、ルール違反で〝フォレス・ガロ〞の敗北は決定!この黒ウサギがいる限り、反則はさせませんとも!」

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張る」

「...............ええ、そうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するためには、コレぐらいのハンデが必要かもしれないわ」

 

 愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギと、やる気を見せる耀。飛鳥も二人の檄で奮起する。

 これは売った喧嘩で買われた喧嘩、勝機があるなら諦めてはいけない。ただ…………一つ気になることがある。

 

(まるで、こうなることがわかってた様な口ぶりね………“榊原亜音”君)

 

 経験値によるものなのか、何か裏があるのか分からないが、ただ勝つ理由が増えたことには変わりはない。

 絶対に問い詰め方に手を抜くことはしないだろう。容赦などしない、もうコミュニティの同士なのだから。

 何を企んでいようと必ず、その企み事粉砕してやる、と飛鳥は胸の内で闘志を燃やす。

 その陰で十六夜がジンに小声で話しかける。

 

「この勝負に勝てないと俺の作戦は成り立たない。予定の変更はないぜ?御チビ」

「......分かってます。絶対に負けません」

 

 こんなことで躓くわけにはいかない。

 参加者三人は門を開けて、怪しげな森の中へと突入した。

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 門の開閉がゲームの合図だったのか、生い茂る森が門を絡めるよう に退路を塞ぐ。

 光を遮るほどの密度で立ち並ぶ木々は人が住んでいた場所とは到底思えない。

 耀はすぐに周りを警戒し、誰もいないことを二人に伝える。

 

「大丈夫。近くには誰もいない。匂いでわかる」

「そう、ありがとう、春日部さん」

「うん」

 

 安全を確認すると、三人は森を散策を始める。奇妙な木々は家屋を呑み込んで生長したらしく、住居のほとんどが枝や根に食い破られていた。昨日まで人の営みがあったとされる居住区は廃墟と化している。

 飛鳥とジンが探している間、耀は一番高い樹に飛び乗ってガルドを警戒していた。

 しかし、ジンと飛鳥は手かがりとなるものが見つからず、ため息をこぼし、飛鳥は切り替えた。

 

「気が乗らないけど、方針を変えましょう。まずは春日部さんの力でガルドを探」

「もう見つけてる」

 

 樹を飛び降りた耀に飛鳥とジンは近寄る。

 

「本拠の中にいる。影が見えただけだけど、目で確認した」

 

 彼女の瞳は普段の春日部耀とは違い、猛禽類を彷彿させるような金の瞳で本拠を見つめている。鳥の視力を持ってすれば造作もない距離なのだろう。

 三人は警戒しつつ本拠の館へと向かい始めた。侵入を阻むように道を侵食している木々はまるで命じられたかのように絡み合っている。

 

(これだけの量を鬼化させるなんて.........まさか彼女が.........?)

 

 ジンは一人だけその人物に心当たりがあった。

 しかし、すぐに振り払う。彼女が此処にいるはずがないのだ。

 そうこうするうちに本拠に着く。しかし、館まで森に呑み込まれて、虎の模様を施された扉は無残に取り払われ、窓ガラスは砕かれている。豪奢な外観は塗装もろともツタに蝕まれては剥ぎ取られていた。

 三人が中に入ったが、内装もやはり酷いものだ。贅を尽くして作らせた家具は打ち倒されて散財されている。

 三人のうち耀が疑問をこぼす。

 

「森は虎のテリトリー。外に罠がなかったから、有利な舞台を用意したのは奇襲のため..................でもなかった。それが理由なら本拠に隠れる意味がない。ううんそもそも本拠を破壊する必要なんてない、意味不明」

 

 三人は異様な空気と不明確な状況に、今までとは違う緊張を抱いて、中を散策する。瓦礫を掘り起こして隅々まで調べるが、ヒントらしいものも武具らしい物も見つからなかった。

 指定武具、それが一体なんなのか、どういう形をしているのか、何処にあるか、それがわからない以上、闇雲に探すしかない。

 飛鳥は切り上げて、ジンに声を掛ける。

 

「二階に上がるけど、ジン君、貴方は此処で待ってなさい」

「ど、どうしてですか 僕だってギフトを持ってます。足手まといには」

「そうじゃないわ。上で何が起こるか分からないからよ。だから二手に分かれて、私達はゲームクリアのヒントを探してくる。貴方にはこの退路を守って欲しいの」

 

 理に適った回答だが、ジンはそれでも不安だった。しかし、退路を守らなければならない重要性も彼には分かっている。

 ジンはしぶしぶ階下で待つことにした。

 飛鳥と耀は根に阻まれた階段を物音を立てずにゆっくり進む。階段を上った先にあった最後の扉の両脇に立って二人は機会を伺う。

 意を決した二人が勢いよく突入すると、中から、

 

 

「ギ.................................GEEEEEYAAAAAAaaaaa!!!」

 

 

 言葉を失った虎の怪物が、白銀の十字剣を守るように立ち塞がっ た。

 

 

#####

 

 

 少し時間を遡る。

 “サウザンドアイズ”支店。

 

「いらっしゃいませー!こんにちは!」

 

 “サウザンドアイズ”支店前でそう声をあげていたのは、狐耳の少女リリだった。リリは箒で外を掃きながら、接客をしていたのだ。その理由は、白夜叉と亜音が話をしている間、暇だったからである。

 そんなリリに割烹着の女性店員が近づき、声をかけた。

 

「ありがとうございます、賃金はちゃんと出しますのでお願いします」

「いえいえ、手伝わせてもらってるのは私の方ですから」

「そうですか、.....................それで.........話は変わるのですが、んふんっ!」

 

 女性店員は何故かそわそわして、視線を泳がせながら、リリに問うた。

 

「あ、亜音さんは............その...............私の事何か言ってませんでしたか?」

「 ?.......いえ、何も言ってなかったですよ?」

「............まったく............ですか?」

「はい、全くです♪」

 

 リリは笑顔でそう答えた。

 女性店員はよかったのか、よくないのか、なんとも言えない心境に陥った。

 女性店員は、今日の朝、目覚めた時のことを思い出す。

 昨夜のあと、何故か、朝目覚めると〝サウザンドアイズ〞支店にいた。側には亜音のコートがあり、昨日の事が走馬灯のように駆け巡る。顔が急に火照ってくのを感じた。

 少し落ち着いてきたのだが、おんぶされてさらにそのまま寝てしまった場面を再度思い出し、少し照れ臭くなって、枕に顔を埋める。それと、 此処まで運んでくれたことを思うと、少なからず心が暖かくなった。

 

「.....................大きかった............亜音さんって、ああ見えて結構たくま」

「何が大きかったのだ?」ニヤリ

「し、白夜叉様!」

 

 女性店員はすぐに布団から起き上がり、横に扇子を持ってくつろぐ白夜叉を見て驚愕する。

 

「少し気になってのぅ..................先ほど布団に潜り込んで確かめたが、処女」

「だ、黙ってください!そんなわけないでしょうって、なに勝手に人の見てるんですかッ!」

「分かっておる、そう怒るでない、冗談だ」

 

 冗談に聞こえないから困るんだ、と女性店員はため息をつく。

 そんな女性店員を微笑みながら、白夜叉は見つめる。

 

「それとなお主。......昨夜、皆の前で寝言を言ったのだが、覚えておるか?」

「え 、私が寝言ですか?」

 

 白夜叉は悪魔の笑みを浮かべて、顔に影を刺し、金色の目を鋭くギラつかせる。

 そのあと、東の下層に謎の絶叫が響き渡ったのは言うまでもないだろう。

 

「あのー大丈夫ですか?顔が赤いみたいですが?」

「いえ、なんでもないです......それにしても、今日は意外と暑いですね」

「そう......ですか? ......... わたしは少し肌寒いです、今日は珍しく気温低くて、風も吹いてますし」

 

 女性店員はサイレントモードで店の中に戻るのだった。

 リリの純粋さを前に、ボロが出ないうちに撤退したのだろう。

 

 “サウザンドアイズ”支店。

 白夜叉の私室、和室部屋。

 その頃、亜音はというと白夜叉と軽く挨拶して、二人っきりで話をしていた。

 

「では、そろそろ聞こうかの、お主のカラクリを」

「その前に、仕事の方は?」

 

 白夜叉はハッとなり、扇子を閉じて意気揚々に語った。

 

「ふふんーお主、頭は回る方か?」

「悪く見えます?」

「それもそうじゃな......ふむ.........おんしには私の仕事を手伝ってもらう」

「仕事っていうと..................〝階層支配者〞に関係してること、ですか?」

「ほう、鋭いな。そうじゃ。……………おんし、“階層支配者”の意味を知っているか?」

 

 亜音は少し整理するかのように視線を上に向け、整理し終わると、 視線をまっすぐ白夜叉に向けた。

 

「文字通りなら。おそらく、箱庭の東西南北にそれぞれ代表コミュ ニティを選出、そのコミュニティのリーダー、またはそれ相応の実力者、幹部にその役職が与えられる。白夜叉は“サウザンドアイズ”のリーダーではないのに、“階層支配者”だから、幹部でもその任を背負えると推測した」

「ふむ、ムカつくほど頭が回るようだ。だがもう少し付け加えるなら、“階層支配者”はあらゆる特権を得る代わりに、その該当する下層のコ ミュニティを援助し、魔王の脅威から守る。または厄介ごとを背負う。」

「つまり今日は、“魔王”または“頭を使わないといけない厄介ごと”のどちらか」

「当然、後者だ。内容はまた後で説明しよう、それより早よ本題に入らんか」

 

 白夜叉は話を逸らそうとする亜音の考えを悟り、強めに言ってくる。

 亜音は苦い顔になりながら、頭を掻き、少し息を吐くと、口を開いた。

 

「では、話します」

「うむ」

 

「宝くじが当たっ」

 

「消されたいのか?ああん!」

「じ、冗談ですよ、話します話しますから」

「次、冗談言ったら、私は“魔王”になるぞ?構ってちゃんだぞ?」

 

「あはは、ぁーごめんなさい」

 

 白夜叉がヤンキーのようにマジギレしてたので、悪あがきは諦めた。

 白夜叉の言葉は笑えないジョークである。

 

「そうですね、まずは一人の“祖先”から話しましょう」

「祖先?」

「最初に言っておきますが、祖先は元々“ただ”の人間だったそうです」

「何か功績でも打ち立てたかの?」

「その通りです、その試練の名は─────…………“六道”」

 

 白夜叉はそこで目を見開く。

 

「“六道”.........だ、と!?..........................数多の神群でさえ、その世界を乗り越えることができないとされてきた輪廻、まさに“生命の墓場 ”、“封鎖世界”、“満ち満ちた世界”、そこから出て来れた者はこれまでにいないとされている円環...............お主の祖先はそれを乗り越えたというのか………?!」

「神が作った世界、試練ですからね。それにクリアできない理由は、その六つの世界を“すべて”乗り越えないといけないですし、それぞれ異なった世界、地獄もあれば天国もある世界だからでしょう。そこで 一生を過ごそうと思った、思わされた人もいるらしいです。大抵、天道、人間道で躓いていたと、伝承には書いてありました。無理もありません、其処は己が“現実世界”と変わらないのだから。祖先はその時、見たんでしょうね、欲と現実に負けた者たちを────、」

 

 加えて踏破不可とされた一番の要因────挑む上で六道に関する知識の“記憶消去”、それぞれの“世界の記憶”も全ての試練を踏破しなければ恩恵として“与えられない”というシステムにあった。だから特別なことはいらない、“現在”の己をどこまで信じられるか、命の重みと生への執着、そして目的を忘れない強き志。すなわち、挑む前からすでに試練は始まっていて其処から試されていたのだろう。

 今となっては作り手の意図など理解はできないだろうが────挑むのも自由、死ぬのも自由、強くなるのも自由、と亜音は言われてる様な気がしていた。

 

「そう、か……………助けることは不可能だろうのぅ」

「出るのを嫌がるのがオチです、自分で出ようとしない限りは。それに遥か昔の事ですから、既にもう」

 

 白夜叉は少し切なく難しい顔をする。

 亜音も少し心が痛むが、仕方ないことなのだと割り切るしかないのだ。

 “六道”それは神が作りし世界。でも、それは少し違う。祖先が記した伝承によると、『神が作りし修行場』と書かれていた。なるほど、と亜音はこれを知った時、納得した。“試練”、《箱庭でいうところの》“ギフトゲーム”ではなく、祖先は“修行場”と例えたのは、長くそこに滞在し、肉体を鍛え、技術を盗み、乗り越えるためには何が必要か、を考える場所としたのだ。すぐに乗り越えようとすれば、失敗する。その世界を知ることが必要で、何を目的とした世界なのか、何がいけないことなのか、それを知って、鍛えて初めて乗り越えられるのだと。

 ────倒すべき敵、倒すべき世界、それらの正体を知らずして何を倒す? 何が正義?。その意味を吐き違えれば、いつか後悔することになるだろう。救世主として選ばれた自分にとって、これこそがいちばんの戒めだ。

 そして“六道”、その名の通り、六つの世界を表している。

 それぞれの世界には、形だけの人間や天人がそれぞれに生息している。形だけにしても、本物と変わらない。

 

  天道………天人が生息している世界。寿命は長くなり、苦しみは人間道に比べてほとんどないとされる世界。また、空を飛ぶことができ享楽のうちに生涯を過ごせる。しかしながら煩悩から解き放たれることはなく、仏に出会うこともないため解脱も出来ない。死を迎えるときは五つの変化が現れる。これを五衰(天人五衰)と称し、体が垢に塗れて悪臭を放ち、脇から汗が出て自分の居場所を好まなくなり、頭の上の花が萎む。頭の上の花とはおそらく髪の毛のことだろう。

 人間道………人間が生息している。四苦八苦に悩まされる苦しみの大きい世界であるが、苦しみが続くばかりではなく楽しみもあるとされる。また、唯一自力で仏教に出会える世界であり、解脱し仏になりうるとい う救いもある。

 修羅道…………修羅道は阿修羅が生息している。修羅は終始戦い、争うとされる。苦しみや怒りが絶えないが地獄のような場所ではなく、苦しみは自らに帰結するところが大きい世界である。

 畜生道…………畜生道は牛馬など畜生が生息している世界。ほとんど本能ばかりで生きており、使役されなされるがままという点からは自力で仏の教えを得ることの出来ない状態で救いの少ない世界とされる。

 餓鬼道…………餓鬼道は餓鬼が生息している世界。餓鬼は腹が膨れた姿の鬼で、食べ物を口に入れようとすると火となってしまい餓えと渇きに悩まされる。他人を慮らなかったために餓鬼になった例がある。

 

 地獄道…………地獄道は罪を償わせるための世界である。あらゆる種族が、生息?している。地獄の世界そのものとされる。

 

「『それを乗り越えた時、祖先(わたし)は『六道仙人』となった』」

 

 

 

「その者こそ、我ら〝榊原〞の祖先────“人の神”なんですよ」

 

 

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