新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
第六桁 ○○○○○○外門。噴水広場。
昼と夕方の中間あたりの時間帯、女性店員は投げ飛ばした際に怪我をしてしまったリリを治療するために、先に〝サウザンドアイズ〞支 店に戻っていった。
その間、殺風景な噴水広場は立ち入り禁止区域となって、白夜叉、亜音、霊体達だけがその場に残っていた。
亜音がそこで、呟く。
「星々の輝きを喰らう生粋の魔王か............」 (星より生まれし膿、星雲のような、ガスのような存在。天災の代名詞であるだけのことはあるな)
そんな亜音に白夜叉が感嘆を漏らす。
「それにしても、よう犠牲者が一人も出なかったな。お主、ひょっとして」
「買いかぶりですよ、あそこで白夜叉様が来なければ最悪、死んでました」
「謙遜するでない。...............あやつの目的は定かではないが、今はそれより」
白夜叉はそう言うと、何もない眼下に視線を移す。
しかし、首を傾げて、困った表情をする。
「本当にここにおるのか?」
「白夜叉様」
「ん?なんだ?」
亜音は白夜叉と正面から向き直り、頭を下げた。
「いきなりどう」
「この人達の処遇は俺に任せて貰えないでしょうか?」
いきなりのお辞儀とお願い事に目を見開いた白夜叉。
しかし、間を置くことなく返答する。
「うむーーー私には見えんからの。私は何もできん。感知もせん。勝手にせい」
白夜叉は前からそう言おうとしていたかのように笑顔で即答した。
おそらく事情を聞いた後からそうしようと決めていたのだろう。
亜音は小さく礼を述べ、白夜叉は復興手続きを済ませてくると言って、そこから去って行った。
亜音はそれを見送ると〝輪廻眼〞の視線を霊体達に戻した。もち ろん、皆正座している。
「おそらくその様子からして、後…………五分程度で消えてしまうよ」
八人のニュンペーと獏、若様は俯き沈黙していた
亜音は地に座り、視線を合わせて微笑みながら聞いた。
「何か望みはないのか?」
「なら、私達とセッ」
「却下」
ニュンペー達からあからさまなため息が零れる。
流石に優しい亜音でも体をやるわけにはいかない。八人同時とか瀕死寸前だ。
そこで、若様が口を開く。
「おまえはーーーーあの魔王を倒せるか?」
若様以外、全員が複雑な顔をする。それは言っても意味がないことだとニュンペー達も獏も分かっていたのだ。だから、言わなかった。
最初にそれを言いたかったのにもかかわらず。倒せない魔王を、倒せるのか。
でも、若様は我慢できなかったのだろう。そんな若様に亜音は聞いた。
「君達のコミュニティの名を聞いてもいいか?」
「あ、はい」
「『
(馬鹿だ)
亜音は口に出さないよう心の中で呟く。なるほど、若様が言ってい た《調子に乗ったせい》とは、つまりこういうことか、と亜音は頭を 抱え左右に振って、呆れ返っていた。
その名では、魔王相手に戦争を仕掛けることと同じだ。いつ襲われてもおかしくない。それにニュンペーの感知力と神格、幻獣、あながち名前負けしてないところがタチが悪い、案の定、名を旗を掲げた途端、殺されたのだから。
亜音は少し息を吐くと、皆に視線を移す。
「榊原亜音、『魔王狩り』の名に誓って君達の仇、〝退廃の風〞を討ち取ろう、必ずな」
その言葉に霊体達は歓喜する。しかし、また複雑な表情に戻る。なぜなら、相手は無敵に近い〝退廃の風〞、勝算もないのに誓われても 意味をなさないのだ。そして、無理にお願いして、無茶されるのも困るのだろう。
それを見透かすように亜音は、口を開く。
「勝つ自信はあるさ。それに俺はあんな魔王ごときに手こずるわけにはいかない、だから、ついでだと思っておいてくれ」
迸る亜音の覇気は、有無を言わせない力があった。
そして、彼の力で一時といえでも、あの魔王相手に戦いらしい戦いを見せていた。
何より、人類種最強のプレイヤーの可能性は、彼らに奇跡の可能性を抱かせていた、なら託す以外の選択はないだろう。
「..................感謝する、くぅ」
若様は涙を落とし、頭を下げていた。ニュンペー達も獏も同じく涙を流しながら、手を地につけて頭を下げていった。そこで、霊体達の 体に変化が訪れる。
体から小さな青い光が漏れ出していき、身体が透けていく。そこで、初めて実感したのだろう。一緒にいるのが当たり前だった仲間とのお別れを。
ニュンペー達は頬を濡らしたまま若様を抱きしめ、獏はただ泣き叫んだ。
若様はずっと正座したままプルプル震えて、別れを悲しまないよう我慢していた。
「みなのもの、すまんな。わらわはリーダーとしてなにもしてやれんかった」
それが合図のようにニュンペー達も若様と叫び、泣き喚く。
亜音はどうしたもんかと、頭を掻き、内なる者〝蚩尤〞に声を掛けた。
「なぁ、〝蚩尤”。あのさ」
『言うな、亜音がしたいようにすればいい。ワシは知らん』
「わかったよ……………」
霊体達がおしくらまんじゅうしながら泣いている所に近付き、亜音は言った。
「はぁー………………しょうがないからーーー」
その後、霊体達はこれまでで一番の歓喜の声を噴水広場に響き渡せ、その場から消え去るのだった。
#####
〝フォレス・ガロ〞居住区画。
久遠飛鳥は、背後に迫る殺意に臆することなく前に走り続けていた。
同士と別れてから、屋敷に赴き、ガルドを引っ張り出すために火を放った。
あっという間に火の手が二階まで駆け上がり、二階の部屋から白き虎が飛び出してきて、今に至る。
「はぁ、はぁ、……………ふぅ、さぁ、決着をつけましょう」
飛鳥の背後には、建築物の壁があり、左右を鬼種化の林が生い茂り、正面に白き虎。
だが、そのガルドが追い付いた瞬間、ガルドの背後を鬼種化した林の枝と蔓が絡み合い、逃げ道を塞ぐ。
この広さでは互いに、正面から突っ込むしかない。
(これで終わりにするッ!)
飛鳥の構える十字剣の剣先が揺れた瞬間、弾き出したようにガルドが地面を蹴り出した。
飛鳥のギフトが通用しない以上、女の子対森の王者、では賭け事にもなりはしないだろう。
だが、それはあくまでガルドにたいして、だ。
「拘束なさいッ!!」
「gaaaッ!?」
ガルドの足が止まる。
林の蔓が四肢に絡みついていたのだ。
飛鳥は黒ウサギから助言を受け、恩恵、物体を使いこなすことに成功していた。先ほど道を塞いだのもその力の使い方によるものだ。
だが、ガルドの膂力はもはや限界値を超えていた。
すぐにその拘束を食いちぎった。
それでもその間に飛鳥は、ガルドとの距離を縮めていた。この距離ならば、ガルドの加速は間に合わない。
飛鳥は最後の言霊を叫んだ。
「剣よ───────私に力を!」
空気を裂くように進む白き剣先。
ガルドもまたその鍵爪を振りかぶるが、振りかぶった鍵爪が彼女に届くことはなかった。
彼女の赤いドレスの裾がピシッと一筋裂けた。
それに対し、ガルドの額には見事に十字剣の剣先が刺さっていた。
すでに人語が語れないほどに怪物になっていたが、体から色が失われていくように灰色に染まっていく仲、溢れた一言。
「な、ぜだ、…なぜ……おrはぁ、ただぁッ……まっ…まもりたk………たdけな、のによォ」
溢れた一言と溢れた一雫を前に飛鳥はただ、ただ、見届けた。
同情はない、灰になって消え去るその瞬間まで彼女の口が開くことはなかった。
そして、空へ舞い上がる粉塵を前に、
「二度は言わないわ…………さようなら、森の王者様」
直後、戦闘の疲れが出たのか、膝がふらつくが、十字剣を杖代わりに体を支える飛鳥。
少し休みたいところではあるが、ゲーム終了のアナウンスが流れたのを機に、屋敷の方向へ足を進め始めた。
「火の元の後処理しないとね………あとは、魔王、ね」
#####
夕刻、ようやく、ギフトゲームを勝利という形で終わらせたノーネーム。
飛鳥が別行動中、別の森林では、ジンと怪我をした耀の元に黒ウサギが駆け付ける。そして、黒ウサギはすぐさま耀を抱えて地にヒビを作りながら、〝ノーネーム〞本拠へと駆けて行った。十六夜はそれを見送りながら、黒ウサギの本当の脚力に感嘆を漏らすのだった。
そんな十六夜にジンが、申し訳なさそうに頭を下げた。
「あん?どうして頭を下げる?」
「だって............僕は結局何も出来ず仕舞いでした」
「ああ、そういうこと。でも、お前達は勝ったんだろ?」
十六夜の声は皮肉でもなく、称賛でもない。かといって慰めですらない。
「お前達が勝った。なら、御チビにも何か要因があったんだろ。少なくとも春日部が生き残ったのは御チビが的確な処置を施したからだ。そうだろ?」
「は、はい」
「なら、それでいいんじゃねーの?それより、初めてのギフトゲームだったんだろ?御チビは楽しめたのか?」
「............いえ」
苦い顔で首を振る。勝利を飾ったものの、ジンにとってのデビュー戦は危機の連続ばかりで華やかさとは程遠い結果だ。その内容は幼さもあるのだろうが、それを差し引いても自分自身の無力さに失望していた。
「昨夜の作戦............僕を担ぎ上げて、やっていけるのでしょうか?」
「他に方法はないと思うけどな。御チビ様が嫌だと仰るのなら、止めるデスヨ?」
からかうような尊敬語で話す。ジンは一拍黙り、首を横に振った。
「いえ、やっぱりやります。僕の名前を全面に出すという方法なら、万が一の際にみんなの被害も軽減出来るかもしれない。僕でも皆の風よけぐらいにはなれるかもしれない」
「............あっそ」
ちょっと意外だった。つまりジンは、再建の方法が他にないからやるのではない。
ジンは進んで己の名前を売り、打倒魔王のコミュニティのリーダー になるというのだ。しかもこれから襲ってくる脅威を自分の名前に集められることを重畳だと生意気にも口にする。
本当に面白い場所に来たと、逆廻十六夜は哄笑を必死に噛み殺すのだった。
と、その時、真上から一つの影が舞い降りた。
その影の主は、リリをおんぶした榊原亜音だった。亜音は着地と同時にリリを丁寧に下ろした。
「リリ、それに亜音さんも!」
「へぇーようやくボコされに来たか、亜音」
「そう怒るなよ、十六夜。わざとじゃないんだから」
「ジン君、ゲームは勝ったの?」
ジンの顔色がすぐれないように見えたが、ジンはなんとか苦笑しながらリリに応えた。その様子を見て、亜音はなんとなく理解し、十六 夜を見る。十六夜は飄々と笑っていた。
「うん。勝ったよ」
「よかったぁ!」
すると、亜音は一人どこかへ向かって歩き始めた。ジンは気になって、亜音の背中に声を掛けた。
「どこに行くのですか?」
「.........散歩だよ」
皆に背を向けたままそう言った亜音に十六夜は笑って、
「お人好しだな、お前」
「人として当然だ」
亜音は背を向けたまま手を振り、一人森の中へと姿を消して行っ た。
#####
亜音は一人、屋敷が焼けた跡地にやって来ていた。
少し黒煙が立っているが、もはや残骸の山となっている。
そこへ踏み入り、亜音は一つの地下への階段を見つける。
そこを降りていき、石作りの壁を伝いながら暗い地下部屋へ降り立つ。
「よっと」
亜音は鬼火のような物を複数、周囲に作り、一定の距離に浮遊させて視界を明るくしていく。石が詰められた冷たい廊下を歩き、周りに視線をやる。一言で牢屋だ。
そして、そのうちの一つ、血がべっとりとつき乾いた地面が特徴的な牢屋、開けっ放しの鉄柵のドアを潜る。
「............ひどいな、これは」
亜音はしゃがみ、地に手をつける。手に血はつかない。ガルドの言う通り、連れて来てすぐ猛獣の牙に食いちぎられたのだろう。
彼は瞳を閉じ、想像する。子供達の味わった痛みと恐怖を。
牢屋に入れられたあと、牢屋に数人の獣がやってくる。そいつらは目の前で、生きた子供達の首を食いちぎり、血を噴出させ、他の子供 達に血をかぶせる。冷たい地面と血はさらに子供達を恐怖させるだろう。泣き叫び、助けを求めても助けて貰えない理不尽を味わいながら、子供達は死んでいった。それを見送った子供達も正気を保つことはできなかったに違いない。
自分が親だったらと思うと、亜音は歯を食いしばれずに居られな かった。
「無念だったろうにな、...............誰?」
とその時、背後から気配を感じた亜音はその人を輪廻に染めた。
しかしそれは杞憂に終わる。
「亜音君?!わ、私、飛鳥よ!」
「飛鳥、さん?…………あー火を付けたのはもしかして」
「そう、ね、私が火を付けてその後始末してとこよ。…………酷いわね」
「そうだな…………」
赤いドレスをなびかせた飛鳥は、警戒するように白い十字剣を右手に携えていた。亜音の周囲を見つめて、眉をひそめながら。
亜音はその剣から視線を外すと、立ち上がった。
お互いに色々聞きたいことがあったが、あまり此処に長居するのも良くないだろう。
だが、その時、亜音の使役していた光をかき消すように、周囲一面に青き灯が浮き上がった。
そして、牢屋に響いたのは、場違いな女の子の声だった。
『わたしは…………いえ………確かにじぶん達は無念でした.........』
飛鳥は一人で首を傾げ、少年はただただ声が発せられた一つの光を見つめる。おそらく飛鳥には見えていなく、聞こえてもいないのだろう。
そしてその目は輪廻と黒点、紫に染まった〝輪廻眼〞になっていた。その瞳に映っているのは小さな青い光、霊体の群体が宙に、二人の周りを浮いていた。
「霊体か......」
『はい。』
霊体の群体の中でも一際大きい青き光の球が亜音の目の前に漂う。
おそらく、この群体の中で一番年上の子供なのだろう。しかし、声からしてまだ前の世界なら小学六年生って所だ。
『でもね、………お兄さん。私達は声を聞いたの』
「声?」
『『負けられない、子供達のためにも』って声が、私たちのこころに………聞こえたの』
亜音はその口調からして、おそらく飛鳥だろうと推測し、隣の彼女をみて小さく笑う。
女の子の霊体は首を傾げたかのように、少し揺れて亜音に聞いた。
『お兄さん?』
「違うよ。俺の仲間がとても頼もしく思えてな、つい嬉しかったんだ」
『わたしもあの人が戦う姿を見て、とてもカッコいいと思いました。みんなであれぐらい立ち向かえたら、死なずに済んだかもしれない、そう思うと悔しくてーーーっ!』
「そうか............」
『わたしはただ泣き叫ぶことしか、目の前の事実を受け入れることしか、 やらなかったんです』
亜音は瞳を閉じ、しばし考える。この子達の死の運命に救いはないのか、どんな言葉をかければ、この先をやっていけるのか、思考した。 だが、何も思いつかなかったから亜音は一言告げた。
「俺と一緒に世界を回ろう」
######
辺りから青き灯が消え、二人の存在だけが残る牢屋。
亜音は少し息を吐き、飛鳥に声をかけようとしたが、その彼女の視線が痛かった。
「何回も無視されて、何も説明がない、はないわよね?」
「あ…あーうん、あとで説明するから、ごめんね」
小さな笑みで謝罪を述べた亜音に、飛鳥はため息をつきながら、牢屋の外に出た。
それを追いかけるように亜音も牢屋を出る。
そろそろ今回の事件に幕引きをしなければならないだろう。
そのために、十六夜とジンも準備をしている頃のはず。少し足早に歩こうとしたその時、
『やっはろ〜!! やあやあ! ウェルカム!──────ようこそ!!僕のスタジオへーッ!!』
耳の奥まで響いたのは、美少年の声、だがマイクのようなもので反響させすぎて、ノイズと耳鳴りが凄い。
何より、こんな場所で在っていい態度ではない。誰もがこの場に眠る死者へ静かな安らぎを祈る筈だ。なのに、あのテンションとあのセリフ、スタジオと言うからには、今回の件に──────無関係というわけではないのは決まった。
「っもう! 次から次へと、少しは場所を弁えなさいっ!」
『おっと、失敬!レディ、僕はあるエンターテイメントを提供する、いわば舞台の演出家兼供給もしている者!新たな事業を箱庭に先進しているものさ!!』
「…………話を聞いているようで聞いてないわ、この人」
嫌な臭いを発するものを見たときのように、眉をひそめる飛鳥。
亜音もまた表情から感情が、一瞬で消えた。──────こういう類はよく知っている。力とか出自、神性、それら全てがどうでもよく、実際わからない、だが、コイツらは俗に言う、《煮ても焼いても食えない》、そういう類の烏合の集だ。
『あははは、ソーリーソーリー!…………って、そっちの男の子の顔がこわーい!君は笑っている方が絵になると思うなぁ!それでさーこれから──────』
だが、その瞬間、飛鳥は地面を這いずる怪しげな存在を認知するとともに、亜音から大量の黒い霧が棘のように周囲に突き刺さったのを見た。全部で9つだろうか、牢屋の隅から隅まで、四方八方に伸びている。その棘の先端には飛鳥にも見えるように小さな火の玉が付いていて、照らし出されたのは、色とりどりの多くの水晶が設置されていた。
『…………凄いね、隠遁の恩恵を無効化したんだ?』
「そんなことはどうでもいい…………本題に入らないなら、全ての“カメラ”を射抜くが?」
『オーやっぱり外の世界の住人なだけあって知ってるねー!…………でも待ちたまえ、これから最後のネタバレとオチを話すところなんだ。ちなみに今、一部の箱庭の上層にこの映像が流れてるよ〜?』
「趣味が悪いわね」
「言っても無駄だ」
これ以上、待っても無駄だろう。
二人は踵を返して、立ち去ろうとした。
だがその時、二人の背中に何かが走る。その走る原因を作ったのは、
『皆の者よ、刮目したまえ、題して──────《僕の可愛い虎たちの餌やり場に色んな“子供と女”を入れてみた》』
『さあ、正義を翳し!持論を唱え!主張を展開したまえ!! 目の前には、無貌の家族のために戦った裸の王を下し、虎の餌になった人種のために若き英雄が凱旋しているのだからァ!!』
邪悪な笑みを浮かべた存在は、大手を振ってそう告げた。
####
二人の表情が凍りついたように固まり、謎の声の主はその反応を待っていたかのように告げる。
『これだからいいっ!…………素晴らしいなぁ、やっぱり、生の表情は!!』
飛鳥の肩が少し震え始め、亜音はその様子に焦る。
彼女はなによりもその正しさであろうとする、だからこそ、殺してしまった相手のことを知りたくなるのは当然だった。
少年の静止が間に合わず、彼女は問いかけてしまう。これ以上の問答ははっきり言って毒にしかならないのは明白だったのにもかかわらず。
「“無貌の家族のために戦った裸の王”─────そう言ったわね、どいうこと?」
『どういうことも何も、最初から最後まで僕の脚本、そのままの意味さ。─────居もしない家族のために、仮想の魔王の在り方を真似て女と子供を食い散らかし、ただの
スラスラと言っていたが、飛鳥の顔から生気が失せ、震える手から件の虎を殺した十字剣が落ちた。
奴が言うことが本当であれば、家族を捨てた自分とは違い、ガルドは家族のためにあの場に居たことになる。この構図だけ見れば、自分の方が悪者に見える。
加えて何も知らずに殺した、知ったところで結果は変わらなかったかもしれないが、もしかしたらガルドもまた被害者だったのではないか、その思考は飛鳥の心に強く、強く刺さった。
そして、容赦なく、現実が世界を染め上げる。
『“仮想の魔王の設定”と“作った家族の設定”、ガルドの記憶に“ぶち込む”順番、間違えたせいで一度あの雑種、ゴミみたいに壊れちゃった〜!』
「な………ッ!」
「……………………記憶改竄、口ぶりから催眠術の一種か?」
『あー?あ、よくわかったね? そうだよ、外の世界の技術を仕入れて応用したんだ、そうしたら効果テキメンでね? けど、家族の記憶のせいで、中々実験が進まなくてさ、“薬物”とか流行らせたり、無理やり記憶を改竄したりしてようやく退治されるまで持っていけたってわけ、』
「な…………なんてことをっ、」
とうとう飛鳥は膝をついてしまった─────そんな彼女の心に響くのは、ガルドの最期の泣き声だった。
ただ守りたかった、そう泣いていた彼の言葉を問答無用で斬り捨てた。
カフェテラスの時になぜ、その経緯を聞かなかったのか、これでは《ガルド》には何も罪はないではないか、それでは自分のしたことはいったいなんだったんだ。その問いに押しつぶされそうになる飛鳥。
亜音は瞳を閉じたまま、身じろぎひとつ取らずに声の主の言葉を聞いていた。
『コホン!家族の設定は、妻と子供のとある三人家族。女はその辺にいる奴の顔を拾って設定を作り、子供は二人の子供だからねー似てないと意味ないから、合成とかしてテキトーに見繕ったこともあるが、最悪それがきっかけで記憶改竄が壊れると困るから、裏設定で実はガルドの子供ではなく、前の男との子供にしようとしだが、まあ無駄だったかな?一回は壊れちゃったけど、なんとかなったよ!で、知らない人のためのダイジェストとして、壊れたときの音声でーす!!』
その掛け声を合図に二人の後ろの一番奥の水晶が怪しく光ると、
『わ、わたしにはできませんッ!!魔王様、どうかお許しをっ! 』
『わかっておらんなぁ、人質は生かしておいても耳障りなだけ、ではない、そいつらの食事、下の世話…………無駄な金を使うことは許さん』
『ならばこそ!!人質を解放し、私のこの力だけでこの地域をまとめてみせますッ!』
『うーん……………ラチがあかないかなぁ』
『え、今なんと………?』
『あーコホン! 黙れ、貴様の力などたかが知れておるわッ!だが、お前ができぬのなら、仕方がない』
『では………!』
『あーもうお前の“意思”などどうでも良いから、“やれ”』
『な、や、やめてください、私はわ、わわわ─────GYAAAaaaaaaァアアアアアアア!!!』
『一度、その味を知れば……………“次から大丈夫そうだね♪”って、食べてないじゃん?あーぁ、舌を噛んだだねぇ〜しかも』
『ぁ…………ぁが………ぁっ、』
『精神的にももうだめかぁーでも大丈夫、ちゃんと心も体もゼロから!全部元どおり治してやろう!…………まだまだ君はこれからなんだからッ!!』
バリンーッ!!
と、ガラスが割れたような音ともに音声も途絶える。
水晶は黒い霧によって内部から破壊されていた。
『あれ〜………最後まで聞いてもらわないと、ガルド君が可愛そうよー?』
声をかけられた一人の少年、瞠目したままだが、その背中が語っていた。
そう─────もうこれ以上、森の王の侮辱と羞恥はさせない、と。
せめてもの救いは、この侮辱が世界に出回っていることを本人が知らないことだろう。いったいどれほどの者達が見てしまったのかは定かではないが、生きていたら、これからの箱庭での生活は地獄以上のものを味わうことになるだろう。森の王について回るのは魔王よりもタチの悪い─────“畜生”の烙印、なのだから。つまりそれは人の生を否定し、烙印を押されたらもう死ぬしかない。
それをもたらしたのは、他でもない、コイツだ。亜音は優しく飛鳥の肩を叩いて、視線を奴へ戻した。
飛鳥はその背中を見上げ、己との差を感じた。おそらくガルドを殺していたのが亜音であっても、彼は立ったまま堂々としていただろう。己の器の小ささに悔しさがこみ上げてくる。
冷たい地面に拳を作る彼女は肩を震わせていた。
そんな彼女に亜音は告げた。
「そんなことはない、たとえ俺が立っていられたとしても、……膝をついた事を恥じてはいけない。だってそれが飛鳥の人間の矜持から出た─────彼、森の王ガルド・ガスパーに対しての精一杯の気持ちで、彼の鎮魂に繋がるはずだ」
「………あ、あのん………君」
「だから、後悔はするな。今は膝をついてもいい、だけど、次に立つときは自分のしたことに胸を張ってください、殺された子供たちもそれを願ってます」
亜音は敵から視線を動かさないまま、少しの目の端を擦る。
そして、敵に向かってその口を開いた。
「勘違いするな、貴様らと違い、俺は興味本位で聞いていたわけではない。明確な“敵”を見定めていただけだ」
『敵?………僕は魔王じゃないんだよ?だからそれは少しお門違いじゃないかな?それに?僕、なーんにも!─────悪いことなんてしてないんだからぁ!!!』
声の主は、胸を張ってそう告げていたことだろう。
亜音の、《煮ても焼いても食えない》は的を射ていた。
しかしここまでの奴が箱庭の上層にいるとは、
「なるほど、な。上層は娯楽が深刻なほど欠けているようだね、ここまでつまらないなんて、笑えないよ?」
『えーつまらないかなー今もリアルタイムで観てくれている人からは、絶賛のコメントが多いんだけどぉ?価値観の違いかな?こんなのただの遊びだょ?それにあの虎さんが子供達を殺したのなんて事故みたいなものじゃん?虎さんが“勝手”に家族と殺した子供達を天秤にかけ、現実から逃げるために薬物に手を染めて頭をイカれさせて殺し、まるごと食べて、部下にも食べさせたんだから、地獄に落ちるのは間違いないでしょ〜ウンウン!だからさ、もう少』
─────黙りなさいッ!!!
怒号一喝だった。彼女の怒りが牢屋を軋ませ、亜音もまた口を閉ざした。
そして、ゆっくりと飛鳥は立ち上がり、その瞳からは一筋の雫が流れ落ちた。
『─────これはびっくり、今一瞬だけだけど、口が動かなかったよ。その力、見えてなくてもできるのかな?』
「そんなことはどうでもいいのよ、えー心底どうでもいい、面白い?持論?実験?自分は悪くない?もう何もかもがどうでもいいッ!」
彼女の怒りの発散に、亜音は一瞬目を丸くしたが、“彼女らしさ”が戻ったことに少し安堵し、嘆息をこぼす。
そして、飛鳥は落ちている十字剣を拾い、声の聞こえる水晶、先程の牢屋の前の天井に浮かんでいる側まで歩いていく。
「貴方はガルドが勝手にしたことだから、とそう言ったわね?」
『あー言ったね?それが何かな?』
「それなら、これ以上の問答は無用よ。だから私はここで伝えとくわ」
『ふーん、ガルド君を殺しちゃった君がいったい何を言うのか、楽し』
「今ここにいる全て者達に告げます、森の王ガルド・ガスパー、最期の最期まで彼は諦めなかった家族を、絶対に守るために戦ったその誇りを彼を討った者として私が取り戻します──────────覚悟なさいッ!この私が貴方達、全員纏めて手ずから引導を渡してあげるわッ!!!」
チャキ!と断罪の十字剣の剣先を水晶に向ける飛鳥。
静まり返る地下室に、またもや笑い声が聞こえる。
『ふ、ふふふ………ははは! 君さぁ、誰に向かって言ってるか分かってる?箱庭の上層だよ?!この世界を形作る修羅神仏達だよ?!水○黄門じゃないんだから、懲らしめるとかそういう次元じゃないんだけど?!!マジウケるー!─────でも、もう遅いよー君たちの顔と声は知れ渡ってるからね?』
「そうね、でも構わないわ。顔を隠している貴方と違って、ね?」
途端、空気に緊張が一気に走る。
相手の纏う雰囲気が変わった、おそらくこちらが本来の奴の化生だろう。
化けの皮が剥がれるとはこのことだ。
「なんなら今ここで引導を渡しても構わなくてよ?恥ずかしがり屋の弱虫さん?」
その言葉をトリガーに、あたりに散らばっていた水晶が高速で飛鳥に襲いかかる。
だが、それよりも早く亜音の剣戟が迸る。
双剣による剣舞により、水晶が切り刻まれ、最後は黒い霧で作られた怪物に喰われていった。
「ふぅ、」
「あ、ありがとう、亜音君」
こく、と頷く亜音。その覇気と背中から任せろ、というメッセージを感じた飛鳥は、最後の一つである水晶を睨みつける。
水晶ごしから放たれる重圧は生半可なモノではない。間違いなく、敵は恩恵を与えられた側ではない。外界に干渉できる存在は、大半が神群だ。おそらくその類だろう。
『最後の最後で台無しにされた…………覚えたよ、君たちのこと。僕も君たちのことは“敵”として記憶するとしよう。』
「それがいいわ、きっと “貴方たちとその文化” は、“私達” と箱庭での共依存も共生もできない。《弱肉強食》に則り、負けた方が」
─────“箱庭の世界から退場”
「シンプルに行くわ、貴方のことでもう何も考えたくはないもの。─────出会って5秒でバトルよ」
『構わないよ、僕も君が生理的に嫌いだからね、お互い殺し合うしかないだろうさ、それと─────そこの男の子』
「………亜音だ」
『亜音、ね。一応言っとくけど、ここの水晶は回収しないよ? 水晶に何か入れてあるんだろうけど、君の小細工は無意味だから』
「……………名を名乗る気は、」
だが、その瞬間、またもや水晶は高速で飛び回り始めるが、何か光を放ちながら、地下室の階段に向かって飛び始めた。
その光と周囲の熱に亜音は経験則からすぐに感づいた。加えて、己の失態も、自分一人ならどーにでもなるが、此処には普通の女の子も一人いる。地下室では入り口の守護と崩落の危険性を警戒しなければならない、そんな常識を忘れていた。
飛鳥のそばに駆け寄り、有無を言わさず、抱き寄せ、抱えた。つまりはお姫様抱っこし始める。
「え、ちょ………!」
「今は黙ってて!!」
「あうん!?わかったわ!」
飛鳥は男の人に強く抱きしめられたことも、お姫様抱っこされたこともない。いつもなら気丈に振る舞えるのだが、いかんせん目的がわからないまま、抱きしめられたのだ。
そんな初体験に彼女の精神はなんとか、目をぎゅっと瞑り、受け答えをしていた。
だが、次の瞬間にはもう事態は深刻な状態になった。
『冥土の土産ってやつ?まあ、なんでもいいけど、とりあえず此処で死んでぇ!』
刹那、地下室を閃光が弾けると共に、水晶から爆音と共に衝撃波が放たれた!
と同時に、亜音から怒声が轟く。
「─────
巨大な人型の黒い霧が二人に覆いかぶさり、瞬時に黄金と蒼炎に彩られた装具を身に纏い始めた。
この装具のイメージは亜音が昔、子供の頃、父親に見せてもらったカードゲームの中でロボットのようで一番カッコいいと言っていたものから蚩尤と作り出したものだ。大きさは変幻自在で、力は言うまでもない。戦神の炎帝で鍛え、一から作り上げたものだ。この地下室くらいなら、爆弾ごと吹き飛ばせる。
地面が揺れるほどの衝撃が辺りを襲い、同時に地下室の上にあった焼け野原だった場所も跡形もなく吹き飛んだ。
そして一瞬の肥大化と共に地下室の崩落から二人を守りながら、爆弾の衝撃波を神装の背中から、阿修羅の数多の手の如く、新たに伸びた黒い霧の獣で覆い隠し、残すことなく食らっていった。
飛鳥と亜音は、アルカディアスの黒い霧の手の上に抱えられていたが、危険がなくなったのを機に、瞬時に降ろされ、神装は地面の陰に消えていく。
飛鳥は、館の跡地をみて、うわっと声をこぼす。
「完全にミステリーサークルじゃない、それに焦げ臭い」
「まあ、それだけで済んで良かったよ。もし爆弾を食らうのが遅かったら、おそらくこの辺の居住区画まで吹っ飛んでたんじゃないかな?」
「な、なんですって!?」
『あー間違いないな、これほどの火力が無けりゃあ逆に敵の力量を疑ちまうぜ。これぐらいやってもらわなきゃな?亜音』
蚩尤から脳内に響いた声に軽くうなづいて返す。
だが、問題はそこではない、これほどの爆弾をギフトゲームを介さず平気で使うあたりがこの箱庭においては異常ではないだろうか?
本来なら階層支配者の案件になるだろうが、言っても何も証拠もない。敵も形すら掴めていない。白夜叉に伝えることは逆に迷走させることに繋がりかねないだろう。
「とりあえずは…………終わった、のね」
「おっと、」
飛鳥が倒れかけたのを亜音が、肩を支える。
背丈に差があったので、すぐに黒い霧から椅子を出して座らせた。
「ありがとう、便利ね、その力」
「まあ、戦神の力だからね。こういう小回りも利くところが彼らしい」
「そうなの、」
少し笑っていた飛鳥だが、すぐに表情から感情が消えた。
おそらくこれからの事に加えて、自分より上の敵、ガルドを殺してしまった現実、その全てが今彼女の心を押しつぶそうとしているのだろう。これ事態はもう、自分でなんとかするしかない。
だからこそ、“当事者たち”で完結するしかないはずだ。
亜音はそう信じ、手を差し伸べて飛鳥に告げた。
「行こう、…………みんなが待ってる」