新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第十三話「no more cry」

 夕日が空を染め上げた頃、居住区画の門前には多くの避難民が、鬼化 した木々が消えたのと“フォレス・ガロ”の解散令を聞きつけ、集まっていた。

 十六夜による演説とジンの旗の返還が行われ“ノーネーム”の名はさらに多くの地域に広まることになった。

 その様子を飛鳥は、静かに微笑みながら見つめる。

 そして、衆人から歓声が上がる中、そこへ、榊原亜音が一枚の紙を持ってやって来た。

  十六夜やジン、飛鳥、リリは不思議な表情をして見つめるが、それらを無視して亜音はジンの横に立つ。

 

「これから子供達の名前をあげていく。その御家族様だけこの場に残ってください。皆さんのお子様について重要なお話があります。それ以外の方は申し訳ないですが、今すぐにお暇してください」

 

 一斉にざわめきが波紋のように広がるが、やはり気になるのか、亜音が名前を読んでいくとその通りに皆が動いていく。

 先ほどまで千人近く居たのが、半分以下になった。その数を見て、 亜音は納得した表情をしていた。彼の行動が意味不明過ぎて、十六夜も首を傾げる。飛鳥は亜音がこれから何をするのか、少しワクワクした表情で見ていた。

 なにせ、爆弾から自分たちを守ってくれたあの力は間違いなく本物だったのだから。

 

「では、論より証拠、口で言うより見てもらう方が早いので───────始めます」

 

 亜音の身体が青白く光り、力場の渦が身を覆う。

 そして、風が辺り全体に爆散し、皆は視界から手をどけた。

 

「なっ、」

「どういうこと?!」

「亜音さんが────女の子に!?」

 

 リリとジンは横にいる女の子に視線をやるが、どう見てもリリと同い年かそれ以上の女の子。赤い髪と猫耳が特徴的な女の子。長袖の赤いひまわりを模したようなワンピースと赤い靴が良く似合っている。

 ただ当のその少女も信じられないかのように、目を見開き、小さな両手を見つめて呟く。

 

「うそ………わたし……ほんとうに……またっ」

 

 そこへ、叫びにも似た声が響く。

 

「ミリ…………ミリなの!?」

「ミリ、お前なのか……?」

 

 ミリの親だと思えるほど特徴が似ている若い夫婦が集団から抜け出して、やって来た。

 そして、その少女は涙を地に落として、手を可愛らしく胸の前で握りしめて、

 

 

「うん!お母さん、お父さん………わたしだよ 、ミリだよっ!」

 

 

 そこで、ようやく皆が理解した────………子供達にもう一度会えると。

 十六夜と飛鳥も空いた口が閉まらなかった。幻想?夢?、そうとしか思えてならなかったのだろう。

 だがミリの両親がもう一歩近づこうとした時、また小さな風が巻き起こる。

 そこには少女ではなく、無表情の亜音が立っていた。そして、厳しい声音で皆に告げた。

 

「勘違いしないでください。子供達は残念ながら、もうこの世にはいません。だから、死んだ者が生き返るなどという甘い考えは捨てて貰います。でなければ、子供達には会わせません。────文句はありますか?」

 

 亜音の厳しい声音に誰もが怖気づき、生きているという願望と望みを一瞬でねじ伏せられた。

 十六夜と飛鳥、ジンとリリは、今の亜音を見て、本当に歳が近い青年か疑いたくなる。なんというか、軍人の百戦錬磨の人がそこにいると思うと、つい納得してしまいそうな空気を亜音は纏っていた。

 そこで、亜音はいつも通り、微笑みながら、説明を続けた。

 

「俺の体に霊体だった子供達を仮・憑依させました、皆さんの子供は俺の中にいます。残念ながら帰ってもらった人達の子供はもう......... 。なので、ここでのことは他言無用でお願いします。ただし、面会は数分です、誤差があるのは我慢してください。その理由ですが、霊体に変幻できる時間が数分しかない────それで不服の人はいますか?」

 

 亜音は衆人を見渡す。誰もが待ち遠しそうな顔をして、亜音を見つめていた。

 それを見て、亜音はうなづくと、

 

「いない────………ようですね、物分りが良くてありがとうございます。子供達の育ちを見てもそう思っていましたからあまりその心配はしてなかったですが────では」

 

 また先ほどと同じように亜音を竜巻が覆い、爆散する。

 そこには先ほどの赤い髪の猫耳少女、ミリが立っていた。

 

 

 

######

 

 

 

 

 時間を遡り、第六桁、噴水広場での出来事。

 すべてが終わったあと、亜音は呟いた。

 

「────しょうがないから、君達、俺に“憑依”しろ」

「え?」

 

 ニュンペー、獏、若様は、はてなマークを頭上にチラつかせて首を傾げる。

 そんな霊体達に亜音は告げた。

 

「とりあえず、時間がない、いつでも出られるから、話しは〝蚩尤〞から聞いてくれ」

『じょ、冗談だろ、おい!』

 

 亜音は〝蚩尤〞のめんどくさそうな声を無視して、霊体達に触れていく。そして、霊体達は亜音の中に吸い込まれていった。

 亜音は最後、〝蚩尤〞の怒声を聞いたが、無視を極めたのだった。

 

 

 場所は変わり、亜音の精神内。これまで、説明してこなかった、精神の世界。

 それは『六道仙人の徒』のみが有する“一つの世界”だ。

 六道仙人の力を有する者は、世界を渡り歩くと同時に、あらゆる役割を担っているとされる。

 なぜ、霊体が見え、触れることができるようになっているのか、それを考えた時、簡単に答えが出た。世界中のあらゆる者と声を交わせる力を有している上に、霊体達とも触れ合うことができる。それがあるのは、世界中の者を救済し断罪するためなのだ。霊体にも種類があるだろう。勝手に成仏する者もいれば、一生自分の闇に縛られ、救われないまま人を呪う地縛霊などもいる。それを救うための力なのだ。ならば、この精神世界はなんなのだろうか?霊体を取り込み、自身の霊格を高めるためだけの力か 、違うはずだ。

 

 この精神世界はいわば、救いの世界なのだ。そして、いつかそこから霊体達は卒業する。報われてあの世に行くためのものなのだ。

 此処は、人間界と対して変わらない。森があり、川があり、 山があり、街があり、都市があり、学校があり、新幹線や電車も走ってたり、なぜかビル群の都市のど真ん中に黄金の王宮が立ってたり、 太陽があり、月があり、夜があり、富士山があり、雨が降ったり、晴天だったり、雷雨だったり、台風だったり、そうここは亜音の記憶から作られた世界なのだ。いわば、亜音が創造神である。

 記憶の中からなんでも作り出せる。生き物も人も動物もだ。だが、亜音は人と動物だけは創造しなかった。理由は言わなくもわかるはずだ。たとえ孤独だっだとしても、“そうでなくては”逆に意味がない。

 

 そして、視点は黄金の王宮内の王室。

 外の世界、つまり亜音が見ている景色を見ることができるスクリー ンが王室のど真ん中に下りており、それを背に八人のニュンペー、ア リクイの獏、若様がいた。

 その目の前には、玉座の代わりに黄金のソファーが鎮座されている。そしてそこには、ケンタッ○ーおじさんが黒いグラサンをして、横になっていた。

 

「若様」

「なんだ 」

「私達これから」

 

 とそこで、不意にグラサンの白髪おじさんが立ち上がり、目の前に立つと、怒声を上げながら、指をパチンとならして、服を召喚した。

 

「ようこそ、無限の世界へ。調子に乗ったらぶっ殺すから気をつけろよ?それと、さっさと服を着ろぉおおおおおお!!痴女どもがぁッ!!」

 

 ケンタッ○ーおじさんが凄み、ニュンペー達は急ぎ、統一された白の下着と白のワンピースを着る。そして、おまけに全員一列に並ん だ。軍隊か!

 

「ワシの名は、〝蚩尤”。ここの管理者だ。この世界は亜音の精神内にある世界だ。いわば、形的にワシは神の使者ってとこだろうな。この世界は味も痛みもある、怪我は数分で治るがな、死にもしない。無限の世界だ。欲しいものがあったら言え、亜音の記憶にあるものならなんでも創ってやる」

「「「若様 、私達、まだ一緒にいられるんですよ !!」」」

「ピギャア 」『若様 』

「うん、そうだな。だが、」

「ほう、どうやら、小僧はよく理解してるみたいだな」

 

 ニュンペーと獏は首を傾げる。若様は複雑な表情をして俯いていた。

 そんな若様に〝蚩尤〞は言った。

 

「ここに来てすぐそれを意識した者はそうはいない、と言いたいとこだが、小僧どもが初のお客だからな。だが、さすがはリーダーを名乗 るだけのことはある」

 

 〝蚩尤〞は若様に歩み寄り、しゃがみ込む。視線を合わせて、〝蚩 尤〞は伝えた。

 

「だが、今はそれを隅に置いといて構わん。それより先に多くの思い出を作れ。そして、無事に────とまぁ、口には出さないでおこうか。とりあえず、幸せを味わっとけ────……………お前らは救いを受けにここに来たのだからなぁ!!」

 

 〝蚩尤〞の言葉は、王室に響き渡り、若様の心の壁を砕いた。

 その直後、若様は年相応の声をあげて泣き叫び、ニュンペーや獏と心と体を温め合うのだった。

 

 

 

####

 

 

 

 

 ケンタッ○ーおじさんの格好をした〝蚩尤〞は王宮の食堂へ、ニュ ンペー達と獏、若様を案内して、あとは放って置いて一人、王室に戻っ てきていた。

 すると、そこへ亜音の声が〝蚩尤〞の脳内に響く。

 

『そっちに子供が四十人行くから、後よろしく』

「おい、マジか ガキは苦手なんだよ!!」

 

 それっきり、亜音の声は聞こえなくなり、王室に色とりどりな個性 が溢れた子供達が四十人ジャスト召喚された。

 〝蚩尤〞はグラサンを掛け直し、ため息をつくと、一番背の高い少女に告げた。

 

「名前はなんだ?」

「み、ミリと言います!」

「そうか、じゃあ、ミリ。全員、整列させろ。ワシから話をする」

「はい!」

 

 そう言うとミリは急ぎ、全員に声をあげて、自分より幼い子供達を並ばせて行く。

 “蚩尤〞はジッと並び終わるのを待ったが、意外と早く整列した。

 

「亜音から話は聞いているな?」

「あのんさん、…………ぁ、お兄さんのことですか!はい!ここは精神世界なんですよね?」

「そうだ。お兄さんからなんと言われた?」

 

 ミリが代表者のごとく子供達の前に立ち、“蚩尤”と話をして行く。

 

「世界を見て回ること、親ともう一度会えることを聞かされました」

「そうか、ここからは全員が大きな声で返事をしろ、わかったか?」

『はい!!!!』

 

 王室が揺れるほどの大きな声が響き渡る。自分で言っておいて〝 蚩尤〞は顔をしかめていた。

 とりあえず、グラサンを掛け直して、態勢を立て直す。そして、少し考える。子供達には少しキツく言った方がちょうどいいかもしれないと。さっきは自覚をしているみたいだったから甘くしていたが、 やはり今の場合は言わねばならないと、“蚩尤”は心を鬼にする。

 

「これから言うことはよく胸に刻んでおけーーーーーーーもし亜音が殺されたら、おそらくワシ達、霊体は消失し、あの世、いや天国にいけなくなる」

 

  子供達は少し顔を引きつらせる。

 そんな子供達に当然のことを〝蚩尤〞は聞いた。

 

「怖いか?」

『……は…はいっ!』

 

 子供達は遅れて、返事をした。さすがのミリも怖いのか、肩が怯えていた。

 “蚩尤”は言葉を続ける。

 

「それともう一つ、あいつの夢は、君達のような子供達をこれ以上出さないような世界を作ることだ、そのために世界を回り知らなければならない!いつか親と永遠に別れることになるだろう」

『………』

「ここに居ていい条件は、その覚悟と、亜音と生死を共にする覚悟、そしていつかここを卒業する覚悟だ」

『………』

 

 子供達は返事をしないが、いい顔をしていた。ミリも堂々と子供達 の前に立ち、大きな背を皆に見せている。〝蚩尤〞は口角を小さくあ げ、言葉を紡いだ。

 

 

「その覚悟はあるかね?諸君。ーーーーーーーあるのならば大きな声で返事!」

『はい!!!!!!!』

 

 

 これまで以上の大きな声だったが、“蚩尤”は顔をしかめなかった。

 それどころか、爽やかな笑顔を浮かべて、子供達を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 そして、時は現在へ。

 亜音はミリへと姿を変え、意識を受け渡した。

 ミリは自身の両親と向き合い、手を握り合う。両親の二人は頬を濡らし、ミリも涙を目元に貯めていた。

 

「ミリ、ミリなんだな」

「うん、」

「そうか、ごめんな、お父さんとお母さんは」

「いいの、私はもう大丈夫、それと“ごめんなさい”。時間がない。“子供達”を代表してみんなに言わないといけないことがあるの、私はみんなのお姉さんだから」

「ミリ.....................そうか、ミリ。よし、行って来い 」

「ミリ、」

「ごめんね、お母さん。もっとお話したかったけど、でも私が言わないといけないから」

 

 父親に母親は抑えられ、二人はミリを見送る。

 ミリはジンの近く、前に立つと緊張をほぐすように深呼吸し、自分がやらないといけない、そう覚悟を決めて声を張り上げた。

 

「皆さん、聞いてください、私達は確かに怖い思いをしました────……でも、それでも覚悟を決めたんです!私達はお兄さんと共にいることをっ!いつか、お兄さんを卒業して成仏することも、お兄さんと一緒に世界を見てくことも、辛くても大丈夫っ!!私達は皆で一緒に頑張りますから!だから、安心して生きてください、私たちの分も────」

 

 

 

「頑張って生きてくださぁああああい!!!」

 

 

 

 その声は皆の心に響く。確かな未来へと歩むための希望として。

 そこにいた他の親も涙を流し、その場に座り込む。後悔の念とミリの言葉に純粋に感動したせいだろう。それと同時にミリの父親は拍手をし始め、それに続くように全員が拍手をして行く。

 リリは鼻をすすりながら拍手をして、ジンも目元に涙を溜めて拍手を贈る。十六夜と飛鳥も笑顔で拍手していた。

 ミリはそこで、さらに急ぎ行動を開始する。走り寄った先には赤いドレススカートを身に纏う久遠飛鳥がいた。

 飛鳥は突然のことにきょどってしまいそうになるが、なんとか落ち着いた。

 ミリはそんな飛鳥に笑顔で声を掛けた。

 

「えーと、あなたが飛鳥さんですか?」

「え、ええ。そうよ」

「そうですかっ!────………あの時、私達は聞こたんです、飛鳥さんの声が」

「声?」

「『負けられない』って声がです!」

 

 飛鳥はその言葉を聞いて思い出す。森の中で呟いた言葉を。

 飛鳥はなんとか真剣な表情を保ち、ミリの言葉を待つ。

 

「みんなの代表として、お礼を言います。────ありがとうございましたっ!!」

 

 ミリは涙ながらにそんなことを言って、飛鳥の手を握りしめる。

 飛鳥は最初こそ戸惑っていたが、そのミリの手をさらに上から握りしめた。飛鳥は何か胸のつっかえが取れたような気がした。誰も気がついてはいない。────結果だけを述べれば、この戦いに意味を見出すのは本人だけでは難しいだろう────だからこそ、亜音は抱いた、この事件を終わらせられるのも救いあげられるのも“当事者たち”だけだと。

 故に飛鳥はこの時、ようやく先の戦いに決着をつけることができたのだ。ガルドの命をどんな経緯があれ奪い、そして死んだ子供達は一人として帰ってこない。ガルドを倒すことに意味があったのだろうか、ただの自己満足な正義を振りかざしただけなのではないのか 、そう思っていたのだ。罪を糾弾し、罵倒し、組み伏せ、追い込んで化け物にしてしまい、命を奪い、そして己の罪を糾弾し、ガルドの命を嘆いた。なにも救われない、終わらないそんなループに、“救われた者達”、被害者からの言葉が一つの未来を光差す。

 

 そしてそんなループを亜音は知っていた。だから、子供達に伝えたのだ。

 ────『君たちの両親の呪縛を解いてくれたのは、赤いドレススカートを着た飛鳥さんという女の子だよ』、と。

 

「私達の両親の呪縛を解いてくれて、本当にありがとうございましたっ、」

 

 飛鳥の瞳から雫が静かに溢れた。この瞬間、救われて、報われたのだ。彼女の頬が夕陽によって朱色に染まり、涙が幻想的に滴る。

 飛鳥は涙を流したまま笑顔で対応した。

 

「っ、……………そう、ならよかったわっ、」(私のしたことは自己満足じゃなかったのね......本当によかった)

「はい!」

 

 そうして、ミリは飛鳥から手を離し、光に包まれながら姿を消した。

 目の前に現れた亜音に、飛鳥は毒づきながらも、笑顔で伝えた。

 

「変なところまで気を使うのね、でも、…………ありがと」

「どういたしまして、だ……………フッ」

 

 亜音は満遍の笑みで、飛鳥にハンカチを渡し、彼女は乱暴に受け取った。

 そして、亜音は残りの三十九人の別れをミリと同様にしてあげた。

 終始、亜音は笑顔を絶やさず、それぞれの両親に同じことを繰り返し伝えた。

 

 

「責任を持って────立派に育てあげ、幸せにしますよ。だから、安心してください」

 

 

 

####

 

 

 

 きっと、彼女は一生ガルドの命と向き合うことになるだろう。

 悪夢にうなされ、幻想に恐怖し、心に闇をもたらすことだろう。

 だが、それは、それこそが彼女の在り方で、希望であり、道だ。

 二度はないと己を鼓舞するためのもの。

 彼女の選択肢に、逃げる、というのもあるだろうが、しかし彼女はそれを選びたくないのだ。

 

 人は原罪を前にした時、悪夢を、地獄を見る────だがその先にしか答えはないはずだ。

 

 久遠飛鳥は悪夢を見ることで、忘れないことを選び、恐怖することで命の重さを感じることを選ぶ。

 そして、己の壁を超えた時、彼女の前には最後の敵が現れるだろう。

 神群にして、人類に寄生する者達────正真正銘、人類の悪政から生まれた敵。

 

 亜音は一人、精神世界の中心に位置する、王宮内の王室の窓から都市を見渡していた。

 そんな少年に声をかけたのは、白ひげのおっさんこと蚩尤だった。

 

「ったく、ガキ共々押し付けが過ぎねぇか?亜音」

「……………ごめん、こういうのは苦手なんだ」

 

 背後の蚩尤に振り返りながら頭を掻く少年。

 先の演説も何気にギリギリだった故に、蚩尤には少し後ろめたさがあった。

 

「穴埋めは今度するから…………」

「フン、まぁいいだろう、それよかいいのか?ワシの力、躊躇なく堂々使っておるが」

「そう…だな、神装は問題ないけど、魑魅魍魎のとしての力、霧は少し悩みどころだね」

 

 魑魅魍魎の群体としての力、それこそが黒い霧の正体。

 存在を見抜かれればすぐに蚩尤だとバレるだろう。しかし出し惜しみをすれば、逆に自分の力を発露することになる。

 六道の力は、箱庭においてどんな立ち位置かわからないのだ。無闇やたらに行使すれば、敵を増やしかねない。

 

「少し様子見した方がいいか」

「ああ、あのゲス野郎との一件もある。ノーネームもあの子供の名で旗揚げしたばかりだろう?」

「おじさんの説教は耳が痛くなる」

「おじさん言うな!!」

 

 蚩尤はそう言うと亜音から踵を返す。

 それを見送った亜音は、静かに姿を消した。

 蚩尤は一人になり、廊下を歩いていた。

 

「…………この先、ワシ達はいったい、」

 

 そんな独り言を零しながら、足元を睨む蚩尤。

 本当に話したかったことは、これまでも“お互い”に話題に触れてこなかったことだった。

 この世界がもし六道に関わっているのなら、あの世界もあるということ。

 奇しくも光に形を与えられるのは、深淵しかない。

 

(ワシらは誰にも負けない、それでいいのか?、亜音)

 

 

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