新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
星々が夜の空で輝く。その下、〝ノーネーム”本拠地前で黒ウサギと十六夜の二人と、亜音と飛鳥は合流する。黒ウサギと十六夜は亜音を見るなり怪訝そうな視線を送るが、十六夜だけは冷静に状況説明を行なった。
まるで、レティシアを貶したことを撤回させようとするかのように。
〝ペルセウス〞が箱庭の外では暮らせないレティシアを、箱庭の外のコミュニティに売ろうとした、そんな事情があった…………しかしそれでも亜音は、ただうなづき、先を歩き始めた。飛鳥は十六夜と黒ウサギの態度に違和感を感じ、声を掛ける。
「何かあったの?」
「............いえ、それより今は〝サウザンドアイズ”に向かいましょう」
「.........」
十六夜は無言で亜音の後ろを歩き、遅れて黒ウサギと飛鳥もそれについて行った。
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一晩遅れの満月が箱庭を照らし、街灯ランプは仄かな輝きで道を照らしているが、周囲からひと気らしいモノは一切感じられない。道中、残念ながら最高の景色とは裏腹に、皆終始無言だった。
そして、〝サウザンドアイズ〞の門前に着いた四人を迎えたのは、誰かを見てすぐ笑顔になった女性店員だった。
「お待ちしておりました。亜音さん、それとくだんの際は命を助けて頂きありがとうございます。」
「いえ、助けられたのはこちらの方です。白夜叉様が来なかったらたぶん俺は死んでいました」
その会話を聞いて、ちんぷんかんぷんではあったが、内容からして相当シビアな事が起きたのだろうと、飛鳥と黒ウサギ、十六夜は察する。そこで、黒ウサギはリリからの報告を聞き忘れた事に気が付く。でも今はそれどころではないと切り替えたとこで、女性店員と亜音は歩 き出す。その後ろを三人がついて行った。
女性店員の亜音以外は興味なし、のような対応が気に入らないと三人は不機嫌な表情で門の下を通るのだった。
「うわぉ!ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニス カにガーターソックスって随分エロいなぁー!ねー君、うちのコミュ ニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」
和室に入って開口一番、そのセリフだった。“ルイオス”と名乗る男は地の性格を隠す素振りもなく、黒ウサギの全身を舐めますように視線を動かし嗤う。黒ウサギは嫌悪感でさっと脚を両手で隠すと、飛鳥も壁になるように前に出た。そこから始まったコントは数分続き、その間、亜音はただ瞳を閉じ瞑想しているようだった。
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「──────〝ペルセウス〞が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」
「ふぅーん。〝ペルセウス〞の所有物・ヴァンパイアが身勝手に〝 ノーネーム〞の敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」
「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。〝ペルセウス”に受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」
両コミュニティの直接対決。それが黒ウサギの狙いだった。
レティシアを取り戻すために、使える手段は全て使う必要があった。
だが、あまりにも穴だらけの作戦ゆえにルイオスには何も響いていない様子だった。
「嫌だね、アホくさ」
「............はい?」
「嫌だと言ったんだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回った証拠があるの?」
「それなら彼女の石化を解いてもらえば」
「ダメだね。アイツは一度逃げ出したんだ。出荷するまで石化は解けない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃない か。そうだろ元お仲間さん?」
案の定、嫌味ったらしく笑うルイオス。
筋が通っているだけに言い返せない。
ルイオスはさらにヘラっと笑って畳み掛ける。
「まぁ、どうしても決闘に持ち込みたいならちゃんと調査しないとね。……………もっとも、ちゃんと調査されて一番困るのは全く別の人だろうけど」
「そ、それは.........、」
視線を白夜叉に移す。彼女の名前を出されては黒ウサギとしては手が出せない。
この三年間、〝ノーネーム〞を存続できたのは彼女の支援があったからだ。
今回の一件で更なる苦労をかけるのは避けたかった。
「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を外に売り払うか。愛想ない女って嫌いなんだよね、僕。特にアイツは体も殆んどガキだしねぇ、だけ どほら、あれも見た目は可愛いから。その手の愛好家には堪らないだろ?気の強い女を裸体のまま鎖で繋いで組み伏せ啼かす、ってのが好 きな奴もいるし、太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女ってのもエロくない?」
ルイオスは挑発半分で商談相手の人物像を口にする。
案の定、黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫んだ。
「あ、貴方という人は............っ」
「しっかし可哀想な奴だよねーアイツも。箱庭から売り払われるだけじゃなく、恥知らずな仲間の所為でギフトまでも魔王に譲り渡す事に
なちゃったんだからさー」
「............なんですって?」
声を上げたのは飛鳥だ。彼女はレティシアの状態を知らなかったから驚きも大きい。
黒ウサギも声は上げなかったものの、その表情にははっきりと動揺が浮かんでいる。
ルイオスはそれを見逃さなかった。
「報われない奴だよ。〝恩恵〞はこの世界で生きていくのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止めるために捨てて、ようやく手に入れた自由も仮初めのもの。他人の所有 物っていう極め付けの屈辱に耐えてまで駆け付けたのに、その仲間はあっさり自分を見捨てやがる。目を覚ましたこの女は一体どんな気分になるだろうね?」
「............え、な」
黒ウサギは絶句する。そして見る見るうちに蒼白に変わっていた。
同時に幾つもの謎が解けた。魔王に奪われていたはずのレティシ アがこの東側にいるのも、ギフトカードに記されていたネームのランクが暴落していたのも、それが理由だった。
魂を砕いてまで─────レティシアは、黒ウサギ達の元に駆けつけようとしてくれたのだ。
ルイオスはにこやかに笑うと、蒼白な黒ウサギにスッと右手を差し出す。
「てな訳で取引をしよう。吸血鬼を〝ノーネーム〞に戻してやる。代わりに僕は君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」
「なっ、」
「一種の一目惚れって奴?それに〝箱庭の貴族〞という箔も惜しいし」
再度絶句する黒ウサギ。
飛鳥もこれには堪らず立ち上がり怒鳴り声を上げた。
「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ!もう行きましょう黒ウサギ!こんな奴の話聞く義理はないわっ!!」
「ま、待ってください飛鳥さん!」
黒ウサギの瞳は困惑している。この申し出に彼女が悩んでいるのは明白だ。
それに気付いたルイオスは厭らしい笑みで捲し立てた。
「ほらほら、君は〝月の兎〞だろ?仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」
その時、亜音の肩が少し揺れているのを十六夜は見逃さなかった。
しかし、亜音は相変わらず瞑想中である。
そして、ルイオスは言葉を続ける。
「ねぇ、どうしたの??ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ ホラどうなんだよ黒ウサギ?」
「
和室に響いた飛鳥の一喝と共に突如、ガチン 、と下顎が閉じ、困惑するルイオス。
あまりにも見かねた飛鳥の力だ。
魔女に等しい人を操る言霊。
ルイオスは苦悶で顔を歪める。
「っ……………、」
「貴方は不快だわ。
混乱するように口を押さえたルイオスは体を前のめりに歪める。
だが、命令に逆らって強引に身体を起こす。何が起こったのかを少しずつ理解したルイオスは強引に言葉を紡いだ。
「おい、おんな。そんな、………のが、つぅじるのは────格下だけだ、馬鹿が!!!」
せき止めていたものが破裂したように激怒したルイオスが取り出したギフトカードから、光と共に現れる鎌。
振り下ろされた刃を庇うように受け止めたのは、傍に控えていた十六夜だった。変わらず亜音は瞠目したままだった。
「な、なんだよお前.........!」
「十六夜様だよ色男。喧嘩なら利子付けても買うぜ?勿論トイチだけどな」
軽薄そうに笑うと、握った柄を蹴って押し返す。ルイオスは堪らず飛び退いた。
追撃のために距離を取ろうとするルイオス。しかし白夜叉がそこで、檄を飛ばす。
「ええい、やめんか戯け共!!話し合いで解決出来ぬのなら門前に放り出すぞ!」
「............ちっ、 けどその女が先に手を出したんだけどね!」
尚も殺気立つルイオス。飛鳥はガルドの一件からイザコザには慣れてきたとはいえ、恩恵が効かない相手に嫌な汗をかいていた。
そこに黒ウサギが間に入って仲裁をしようとする。
しかし、そこでようやく彼が動いた。
「十六夜、飛鳥さん。座ってください、交渉の邪魔です」
「ちょ、どういう」
今さら何のつもりだ、という飛鳥。
その気持ちは分からなくもない、なにせ今この時まで彼は何もしていない、そのくせ偉そうに口を開いたのだから。
ゆえに亜音の物言いに飛鳥は反論しようとするが、亜音の表情は以前のどの表情よりも隔絶された微笑みをたたえ、有無を言わせない覇気を纏っていた。飛鳥は咄嗟に口をとじ、十六夜は無表情のまま、二人とも元の定位置に座る。おそらく座らなければ、白夜叉の言葉を有言実行していた雰囲気があった。
「黒ウサギも座るんだ」
「は、はい............、」
そう言うと、亜音はルイオスの前に立ち、軽くお辞儀をする。
「申し訳ございません。失礼が過ぎました」
「はっ!分かればいいんだよ......で...お前は?」
割と素直に謝罪を受け取るあたり、ルイオスも矛を収める機会を見失っていたことが伺える。
亜音はそれを見抜いていたのだろう。ここからが見ものだな、と十六夜は口角を上げる。
「榊原亜音といいます。」
ルイオスは和かに笑い、何かを思い出したかのように亜音を見つめる。
「お前が『白夜叉に頭を下げさせたクレーマー』か?」
「……………はい、そうです」
「面白いな、お前」
「いきなりですが.....................先ほどの交渉の話をしませんか?」
「ウサギと吸血鬼の交渉かぁ?」
ルイオスはそう言いながら、自身の席につく。
亜音は黒ウサギ、飛鳥、十六夜の前に座り、代表者のように話を進めて行った。
飛鳥の怒りの表情を見せないためもあり、感情の余裕のなさを出さないために。
「ルイオス殿も知っているとおり、黒ウサギは〝ノーネーム〞の象徴で収入源です。だからたとえ“どんな理由”があろうと手放すことができません。手放すことはつまり、我々の飢え死にを意味します」
「大袈裟だけど、まぁ言えてるねー」
「そこで、吸血鬼を取引相手の1.5倍の額で譲っていただけないでしょうか?」
「............は?」
全員が唖然とする。
理由はない。ただ、亜音の口から出た言葉が奇抜過ぎたのだ。
それに黒ウサギは割と冷静なツッコミを思いつき、言おうとする。
「いったいどこにそんな大金が、」
亜音は身を乗り出そうとした黒ウサギに手で制し、黙らせる。
そして、亜音はさらに羞恥をさらした。亜音はルイオス相手に深々と頭を下げ、土下座したのだ。
「どうか、こちらにお譲りください。お願いします」
そう、亜音は交渉を成立させるために、敵であるルイオスに頭を下げていた。
十六夜も思考が斜め下すぎて真っ白である。白夜叉は扇を知らず知らずに手から落とし、その事にでさえ気がつかない。
ルイオスは無表情で、亜音に問う。
「.........相当な大金だぞ?用意できるの?」
亜音は顔をあげ、ルイオスと視線をぶつけ合い、
「二週間ください」
「いや、一週間だ。それ以上は待てないな」
「わかりました。」
「じゃあ、一週間後、よろしく。クレーマー君」
ルイオスは得したような気分で、満遍な笑顔を浮かべて座敷を出ていった。
その場にいる誰もが、ルイオスを見てなかった。ただ一人を、亜音を信じられないという目つきで皆が睨みつける。
それらに視線を動かした亜音は、息を少し吐くと、何かを懐かしむように呟き始めた。
「もし、此処が元の世界だったら、あの下衆野郎を一発で牢屋にぶち込めるのにね。そう思わない?飛鳥さん、十六夜」
その問いに二人は沈黙する。
この世界に前の世界の常識が通じないとはいえ、目の前で起きてる非人道的なことに目を背けることもできない。
地獄はいつでも転がっている、それがこの世界なのだろう。
「ここは一体、人類の何を体現した世界なんだろう。秩序のかけらもない。目の前で人身売買を豪語されても裁けない、許してしまう無能 な世界、人間を弱いと見下す割には、この体たらく。笑えないよ。────いったい人類史から何を学んだんだ、」
俺には全くわからないよ。