新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第二話「新たな目標」

 亜音は数分で、ここまでの出来事を振り返りながら、表に出せない己の激情と向き合う。

 

#####

 

 

 例えどんな理由があろうと自分をモノと言う奴を許したくない。

 そもそもこの状況を作り出したこと対しての不満の声が気に入らない。

 だったら、最初から所有権などというルールをつくらなければいいものを。なのに、自分の仲間が窮地、モノ扱いされたから、抗議……………寝言は寝て言え。一体この箱庭世界でどれだけの者達がその権力に苦しめられているか、容易に想像できる。その者達からしたら、〝ノーネーム 〞の意見は都合のいい話だ。魔王に奪われた人材はきっと数えきれないだろう。目の前で、手の届かない金額でやり取りされている仲間を見て、悔し涙を流しているにちがいない。必死に金を集めて、ようやく取り戻せた者もいるかもしれない。それを変えたいから、元の世界では奴隷制度の廃止運動の努力がされた。差別をなくす運動が行われた。一人一人小さな力しかないけれど、できる事をして世界と戦った。そして、その悲しみの数を減らしてきた。人権のルールを作った。動物の保護法も作られた。自分と同じ痛みを抱えている者がいるなら助けたい。海を越えて、国を越えて、人類はそうしてきた。

 自分のコミュニティに奪われた仲間はいない、でも横ではそのルー ルに苦しんでる者達がいる。けれど、力を貸す事をこの世界ではしないだろう。そんな余裕はないと、階層支配者に任せればいいと。

 そして、魔王だけがやっているなら解決方法は単純なのだが、そうじゃない。

 正規のコミュニティが、この世界が率先して、人身売買を促進させるように堂々と商売をしている。この世界の正義は無力過ぎる。

 時にこんな言葉がある。

 

《命を奪うのなら、逆に奪われる覚悟を持て》

 

 この言葉を参照するなら、

 

《自分も所有権を実装しているから、相手にも所有権が実装されるのは当たり前》

 

 という事だろう。嫌なら最初からそんなルール無くせばいいのにとしか言いようがない。なぜなら、それがこの世界での考え方だからだ。

 負けて失うのが怖いなら、最初からギフトゲームをしなければいい、という考えだ。

 つまり、この箱庭の世界に住む者達、少し譲歩するならば、箱庭創始者とそれに通ずる者達もルイオスと同罪だ。そうした世界を作り上げたのだから。一応譲歩したが、その他の者、『力がないからできない、しょうがないこと』、そんなの地球の中心人物からしたら言い訳にもならない。

 一人が闇の中で痛みに抗い立ちあがって、世界に声を掛けて、戦って、多くの仲間を集めた。世界全体を良くしようと、募金活動や広告、あらゆる努力をしてきたのだ。それは自分の先代達も例外ではない。

 一人でも多くの者を救おうと、必死に医療を人々に提供している。

 自分の母もまた、己の運命と向き合い、戦ってきたのだ。

 

 そこで、もう一つ。

 十六夜がこの世界に訪れた時に、黒ウサギへ言った言葉を思い出す。

 

『この世界は面白いか?』

 

 つまり、元の世界はつまらなかったということだ。

 それもそのはずだと、当然の如く納得できる。

  十六夜が元の世界をつまらないと感じたのはおそらく、力で並ぶ奴がいない、確かに半分はそうかもしれない、けれど、もう半分はやる事が目的がなかったからだ。

 

 なぜなら、十六夜はただ用意された、整えられた平地を歩いていたに過ぎなかったからだ。

 コンクリートの地面が元の世界だとすると、箱庭は形がバラバラの石が転がる河原の凸凹だ。

 それと、元の世界の方が優しいけど、箱庭の世界の方が甘い。なぜなら目的が明確に示されているのだ。そういう観点から見たら元の世界はとても厳しい世界なのかもしれない。自分で自発的に行動して星の数の選択肢からやりがいを見つけないといけないのだから。

 十六夜はこれまであまりにも恒久的な日常に退屈すぎて、空ばかり見てきたんだろう。

 だから、気が付かない。十六夜が踏みしめていた足元、つまらないと蔑んでいた世界を作ってくれた人達に。

 どうして、暇があるんだろうと考えた事はないのか?どうして、つまらないと思えるのだろうと考えたことはないか?どうして、安心して空を見ていられるか、考えた事はないか?自分たちは地があって初めて、立っていられるし生きていられる。

 わざわざ若者の未来のために、作り上げた綺麗な下地、けれど、つまらないと蔑まれた下地で支えられている世界。

 報われないものだなと思う。報われるものではないことも確かで、 元の世界とて、まだ紛争地域があり、奴隷もいるのだ。

 されど表向きは少なからず裁きがあり、取り締まりされている。取り締まる側がそもそも促進することなどありえない。

 

 

#####

 

 

 亜音は先ほどまでルイオスが座っていた場所に座り、皆と対峙し考える。

 もちろん、今考えたことをそのまま口に出すか、それとも端折るか、だ。

 

 

(そのまま口に出したら大乱闘になりそう.........だな)

 

 

 とりあえず、絶対に言っておかなければならないことを言うために、黒ウサギに視線を送る。

 皆もちろん、さっきの亜音の呟きを聞いて、呆然としている。十六夜も思うところがあるのだろう。真剣な表情で亜音を見ていた。

 

 

「黒ウサギ」

「は、はい.........!」

 

 

 黒ウサギは我に帰ったように姿勢を正し、身構える。

 一応の判断としては正しいが、相手が大きな組織にも物怖じしないような堅物で百戦錬磨だった場合、無駄になるのは目に見えていた。

 

「黒ウサギ。“自己満足な正義”を振りかざすのはやめろ。そろそろ見ていて反吐がでる………いい加減甘えるな、同情など誰もしない、この世はそういう世界のはずだ」

「く、黒ウサギは別にっ!」

「それが自己満足だと言ったんだ。誰もその結末を望んでいないし、それはただの独りよがりな妄想なんだよ、黒ウサギ」

「っ、.............はぃ………わかりました…………!!」

 

 亜音の厳しく責めるような声音に黒ウサギは肩を小刻みに震わせる。

 静かな返答をした後、勢いよく立ち上がって座敷を出ていく。

 

「黒ウサギ 」

 

 見かねた飛鳥も立ち上がって、座敷を出ようとし出入口で立ち止まる。

 亜音を睨みつけ、口を開く。

 

「亜音君..................貴方のそれは………八つ当たりしてるようにしか見えないわっ!」

 

 そう言い残して、飛鳥は黒ウサギを追いかけていった。

 この場に残っているのは、亜音、十六夜、白夜叉の三人。

 黒ウサギを見送った亜音は少し微笑み、 安心した様子を見せたが、対して十六夜は無表情、白夜叉は顔に影がさしていた。少年の言っていることは正しいのだろうが、他にもやりようがあった、そういう反応を示す二人。

 そんな二人を見て察したように亜音はまた独り言のように呟き始める。まるで自分には問題ないかのような、自分自身を見ない二人に。

 

「〝ペルセウス〞だけの問題じゃない、…………この世界の、……“名誉や誇り”なんていう全く役に立たない物など俺は“知らない”が、この世界がこの状況を許してる時点で皆“同罪”だ。少なからず箱庭に住む者には責任があるそう思いませんか、白夜叉様」

 

 静謐な声音で語りかけた少年の瞳には、二人の顔が写っている。

 一人は箱庭の階層支配者であり、東区域の守護を担うものであり、箱庭の経済にも影響がある者。

 一人は魔王とのギフトゲームに敗れ没落したコミュニティ、その窮地に喚ばれた、異なる世界の学生。

 この二人こそ未来につながる入り口、と亜音には見えていた。

 だからこそ、彼は誰よりも自分自身と向き合い、全てが本気だ。

 

「..............................確かにのぅ。」

 

 白夜叉は厳しい表情から一変して、何か思い詰めるような顔つきになっていた。彼女も心の隅で考えていたことなのだろう。

 亜音は笑みを浮かべて、話を続ける。

 

「箱庭の現状は、“ペルセウス”そのものと俺は感じた。“ペル セウス”と交渉したのは、皆に感じて欲しかったからだ」

「お主............」

「簡単に口に出していいことではないのは分かるよ。でも、…………だから俺が〝ノーネーム〞を復活させたあと、この世界に新しく法則を作る。..................また目標が増えちゃったけど、今日はいい経験ができたから」

 

 亜音はそう言いながら立ち上がる。

 白夜叉と十六夜もそれに応じて立ち上がる。

 曖昧な空気のまま、彼は白夜叉に頭を下げて、

 

「では、失礼します」

「おい、待てよ」

 

 十六夜が亜音の背に制止の声を掛けた。

 肩を揺らし、座敷の出入口前に立ち止まる亜音。

 十六夜は静かに亜音を見つめる。

 

「金、集められるのか?」

「聞かなくても分かると思うよ十六夜なら」

「..................そういうことか、結局ハッタリかよ。で、アテは?」

「大丈夫だよ、責任は必ず果たすさ」

 亜音はそう言い残して部屋を出ていった。

 その背を見送った十六夜はすこしの緊張と共に盛大なため息を溢す。

 

「一人でやる気かよ、ったく。変なとこ律儀というか、めんどくさい性格だ」

「うむ...............よくよく考えれば、黒ウサギにああも厳しく言ったのも奴なりの優しさであり、厳しさであり、黒ウサギにもいい薬になったかもしれん。まぁ不器用なのか、器用なのか、分からん奴ではあるが、な」

「.........まったくだ、一周回って馬鹿正直すぎる」

 

 白夜叉は彼を見ていると、まるで、天に谷底があるような違和感を感じていた。

 人の心から隔絶された思考、大志を持ち、さらに彼は頭がよく回る。尚且つ効率がいいのだろうと白夜叉は推測する。

 例えるなら、袋に本当は入り切らないはずの物量なのに、効率いい方法を思いついて、そこにある物だけじゃなく、さらに入れる量を増やしていける。物理を超えまさに天才を越えた何かだ。

 だが、いつか必ず、遠からずの未来に無理が祟り、袋は破裂するだろう。

 その時、亜音の身に一体何が起こるのか。

 

「少し…………心配だな」

「あ?………何か言ったか?白夜叉」

「いや、なんでもない、それよか一応の情報はお前に教えておく─────」

 

 白夜叉は根拠のない寒気に襲われながらも、十六夜に向き直ったのだった。

 

 

 

#####

〝ノーネーム〞本拠地、黒ウサギの自室前。

 飛鳥と黒ウサギが、〝サウザンドアイズ〞支店から去って数時間が経過した。

 現在、飛鳥とジンの二人は黒ウサギの自室の扉の前に立っていた。

 二人とも表情はすぐれない。飛鳥は一応、耀とジンには“サウザンド アイズ”での出来事を一通り説明していた。

 

「...............おそらくだけど黒ウサギはもう、“ペルセウス”の交渉には乗らないとは思うけど、最悪の可能性もあるからここを動けない。でも、監視するような真似はやめて、今はそっとして置いた方が」

「─────亜音さんは正しいです」

「ジン君......... 」

「確かに黒ウサギの考えは正しく見えるのかもしれない、だけど、正しいは妄信しやすいんです。これまで黒ウサギには支えて貰ってきました。だからこそ、その場合は間違っていることをしっかり言葉にして伝えないといけない、黒ウサギのためにも。それにこれぐらいで仲間を手放す手段しか選べないのなら、先は見えてます。ここを最高の形で乗り越えなければ到底、魔王には勝てません」

 

 ジンはそれらを十六夜から学んだ。いや、盗み改良したというべきだろうか。

 十六夜が自分に対して厳しく、そして自分の曖昧な考えを粉々に砕いてくれたおかげで初めて、自分が甘かったことに気がつけたのだと、ジンはそう考えていたのだ。

 飛鳥は横に立つ、少し大きくなったように見えるジンに目を奪われていた。

「随分と変わったのね、ジン君」

「え?そうですか?」

 

 ジンの照れ臭そうにするところはやはり年頃の少年らしかった。

 飛鳥はフフと笑みを浮かべながら、後で亜音に謝ると決め、意を決し扉の取っ手に手を掛けようとした瞬間、扉が部屋の内側に開いた。

 

「黒ウサギ!」

「もう大丈夫なの?」

「はい。............ですが、今日はもう寝ましょう。明日また話し合いをします」

「そう……分かったわ、.................じゃあ、おやすみなさい、黒ウサギ」

「おやすみ、黒ウサギ」

 

 黒ウサギは小さく手を振って二人を見送り、部屋の中へと戻っていった。

 

 

 

######

 

 

 日にちが入れ替わった夜中の時間帯、黒ウサギは眠れず、ネグリジェのまま部屋を出て、本拠の屋敷の屋根に飛び乗った。

 屋根の上に体育座りで座り込み、月を見上げる。

 ジンの言葉は扉を介しても聞こえていた。

 なぜなら、扉に背を任せて座っていたからでもあり、聴覚は聞きたくないものほどよく聞き取る。

 ジンの言う通りだと黒ウサギは思った。と同時に恥ずかしくもなった。何を意固地になっていたのだろうかと。

 とそんな時だった。風の音に紛れて、何か風を切るような音が聞こえた。

 

「こんな時間にいったいなんでしょう?」

 

 黒ウサギは立ち上がり、別館の方に歩き始め、下を覗き見る。

 すると、そこには汗を散らしながら剣を振るっている亜音の姿があった。

 そこで、ようやく納得がいった。風呂場で亜音が寝ていたことに。

 つまりはそういうことなのだろう。夜中トレーニングをして過ごしていたのだと黒ウサギは知った。

 

「.........亜音さん」

 

 一生懸命な表情をした亜音は、黒ウサギの目には新鮮に映った。

 無理もない、これまで黒ウサギは、亜音の造り笑顔と冷たい表情しか見たことがないのだ。

 それに想像すらできなかった。あの亜音がこんな表情をするなんて、意外だった。

 黒ウサギはいつ間にか、時間を忘れて寝っ転がりながらその姿を目に焼き付けていた。

 しかし、流石に疲れたのか、三十分もしたら黒ウサギは屋根の上で夢の中に入ってしまった。

 それと、同時に亜音は剣を霧散させて、屋敷の屋根を見上げながら小さくため息をつくのだった。

 

 

######

 

 

 両手、両腕から伝わってくる命の重み、生きているという証である吐息、小さな仕草。

 自分が地面を踏みしめるたびに一定のリズムを刻みながら揺れ動く、長くも儚く、しかしそれでも透き通るような毛並みの兎の耳。

 その全てが己の心臓に多くの血液を激流させる。

 

(やれやれ、あまり心臓に良くないな、彼女は)

 

 瓜二つとは言えないことはよく見れば分かった。

 やはりどちらかというと黒ウサギの方が少し大人っぽくて、たくましい、声も黒ウサギの方が低くくも凛としている。

 全くの別人なのは間違いない、それでも己の目には全てがブレていた。

 

(………………未練タラタラの証だろうか、)

 

 屋敷の廊下を照らす仄かな明かりが、黒ウサギの頬をほんのり暖める、

 その暖かさに彼女は、気持ちよさそうにスリスリと亜音の胸に頬を擦る。

 不規則な動きがより一層リアルな生きている、ということを伝え、少年の瞳の奥から何かが溢れ出そうになる。

 

(………………、なんでなんだろう、な)

 

 ─────なんで俺は守れなかったのだろうか、

 そうこうしているうちに黒ウサギの自室前に辿り着くと黒い霧でドアノブをひねり、部屋に入る。

 掛け布団も霧で持ち上げて黒ウサギをベッドに寝かせる。

 その上に掛け布団を顔まで隠すようにかぶせる。

 

(その顔を見ると、俺が俺で無くなる……………まいったな、ほんとに)

 

 既にそうであったことに、亜音は苦笑を溢す。

 そして掛け布団を丁寧に掛け直し、彼女がぐっすり寝ていることを確認したら、そのままの勢いで静かに部屋を出る。

 部屋の前で立ち止まる亜音。

 一筋の滴が溢れてすぐに手の甲で頬をする。

 

 

(……………彼女が誰だろうと、関係ない…………そのはずだ)

 

 

 己の胸に灯る熱を掻き消すように、乱暴にシャツを掻き毟る少年。

 周りから見たら、おそらくひどい絵面だ。自暴自棄に見えなくもないだろう。

 

 

(だからこそ、………………“俺で”終わらせなくちゃいけないんだ)

 

 

 音を立てず足早に部屋へ戻る少年の顔は、全てがクシャクシャだった。

 

 

 

######

 

 

 

 朝、鳥がチュンチュン鳴く時間帯、黒ウサギは自室で起きた。

 寝ぼけているのでまだ状況が理解できなかったが、ようやく目が覚めたよ うに顔を左右に激しく振った。

 

「あれ、黒ウサギは確か............屋根の上で.........いったい誰が運んでくれたのでしょう?」

 

 黒ウサギはまだ寝ぼけていて思い出せないと諦めて、ベッドから起き上がり、いつもの服装に着替えていつも通りの朝を迎える。

 きっとこうしたつながることのない関係が逆に亜音と黒ウサギとの縁と立場を分らせているのかもしれない。

 

 

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