新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
〝ノーネーム〞本拠地、談話室。
窓からオレンジ色の陽がさし、夕刻になっている時間帯。
十六夜、飛鳥、黒ウサギ、耀の四人は、亜音が帰ってきたことに対して驚きながら、さらに目の前の二つの宝珠を見て、驚愕していた。
「この短時間でどうやって.........!」
「少し楽しい“火遊び”したら、簡単にくれたんだ。もし、真正面からギフトゲームやってたら複雑な勝利条件に結構時間取られていただろうし」
微笑む亜音はそう言って、皆を見下ろす。それを納得顏の十六夜はさらに付け足す。
「おそらく帰ってくるとは思ってたぜ」
「そうだろうね」
亜音と十六夜は視線で会話する。
飛鳥と耀はまだ知らないので、二人は口に出さない。亜音がいつか 〝ノーネーム〞のコミュニティから出ていくことを。
その上で、飛鳥と耀には力を付けてもらわなければならない。
それが一番手っ取り早い、〝ノーネーム〞復興の足掛かりになると二人は思っていたので、なおさら口に出すようなことはしなかった。
亜音は視線を黒ウサギ移し、満遍の笑みで声を掛ける。
「さぁーて、そろそろ、黒ウサギ。景気よく宣戦布告............よろしく頼むよ?」
黒ウサギは少し呆気に取られつつも、気を取り直して、
「は、はい!ありがとうございます!」
黒ウサギはそう言って、二つの宝珠を手にし談話室から出て行った。
それを飛鳥と耀も笑顔で見送る。
それから少し経って、突然、飛鳥がなんの前触れもなく立ち上がり、咳き込む。
そして、亜音の前に立って、視線を泳がせながらそわそわしていた。
「あ、あのちょっといいかしら?」
「どうしました?飛鳥さん」
飛鳥は亜音の和かな笑顔に怖気づきながらも、意を決して勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさいっ、.........亜音君に酷いこと言ったわ、本当にごめんなさい」
「うんいいよ」
「亜音.........カル」
耀は呆れたように呟き、十六夜は至って興味なさげに窓の外を見ていた。
十六夜はそろそろ亜音の人格を理解してきた。見返りを求めない正義、といったところだろうと十六夜は勝手にレッテルを貼っていた。自分で言ってて寒気がしたのか、肩をさする。
亜音は犬の毛のようなモフモフな黒髪を掻きながら、耀の言葉に苦笑い。
「十六夜はともかく〜、女の子にここまで頭を下げられて許さない男はいないよ。謝ることでもないしね。十六夜!だったら許さないかもだけど」
「おい、喧嘩売ってんのか?」
十六夜が亜音にいじられてる様子を耀は三毛猫を膝に抱えながら小さく笑い、飛鳥も亜音の優しさに少し惹かれていた。
自分がまだまだ子供なのだと悟ると同時に、彼を見ていけば大人に近づけることを思いついた。
つまりこの時から亜音は飛鳥の目標になったのだ。
「亜音君」
「飛鳥さん?」
飛鳥は背を向けてすぐこちらに首だけを動かして振り向く。
スカーレット色の裾が夕日に反射して優雅に舞う。
亜音は不覚にも少し目を奪われ、飛鳥の笑顔は満点と言えるものだった。
「私のことは────“飛鳥”と呼びなさい!亜音」
「!──────はは、わかったよ、飛鳥」
少し高めで優しい声音で呼ばれた飛鳥は、照れ臭そうに微笑むのだった。
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〝ペルセウス〞本拠地。
謁見の間で、黒ウサギはルイオス達と向かい合っていた。
黒ウサギが見せた二つの宝珠を見て、側近の男とルイオスが驚愕する。
「馬鹿な、名無し風情が、クラーケンとグライアイを打倒したというのか?!それもこの短時間でっ!」
黒ウサギはまるで、自分のことのように彼を自慢した。
「『楽しい火遊びしたら、丁寧にくれた』と言っていました。 この際、利己的に、あなた方もゲームを始める前に敗けを認めてはどうですか?」
黒ウサギは挑発めいた言葉でルイオスと側近達を煽ると、案の定、 ルイオスは青筋を何本も額に立てて、声を上げた。
「あのくそ『クレーマー』ごときがぁ!............ハッ......いいだろう、 相手してやるよ。元々このゲームは舐め腐ったコミュニティに身の程を知らせてやるためのもの。二度と逆らう気がなくなるぐらい徹底的に............徹底的に潰してやる」
それに対して黒ウサギは、亜音の申し出通りに景気よく宣戦布告する。
「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。〝ノーネーム〞と〝ペルセウス〞ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます」
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契約書類─────文面。
ギフトゲーム名 │FAIRYTAIL in PERSEUS │
・プレイヤー 一覧
・逆廻 十六夜
・久遠 飛鳥
・春日部 耀
・榊原亜音
・〝ノーネーム〞ゲームマスター
・ジン=ラッセル
・〝ペルセウス〞ゲームマスター
・ルイオス=ペルセウス
・クリア条件
・ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件
・プレイヤー側ゲームマスターによる降伏
・プレイヤー側のゲームマスターの失格
・プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合
・舞台詳細・ルール
*ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマス ターを除く)人間に姿を見られてはいけない
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〞はギフトゲームに参加します。 〝ペルセウス〞印
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夕方から月夜になりかけの狭間の時間帯、〝ペルセウス〞の門前で黒ウサギと合流したジン、飛鳥、十六夜、耀、亜音は“契約書”に承諾する。
直後、六人の視界は間を置かずに光へと呑まれた。
次元の歪みは六人を、箱庭から切り離された白亜の宮殿の門前に召喚されていた。
白亜の宮殿は未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌している。此処は最早、箱庭であって箱庭でない場所だ。
そのあとすぐ、亜音を除く五人は異変に気付く。
「亜音さんがいないのですが............」
黒ウサギが奇妙なデジャヴに襲われながら呟く。
「え?」
「はぁ〜」
「何か裏があると思ったが、そう来たか」
飛鳥は小さく驚き、耀は疲れたように嘆息をこぼした。
十六夜は小さく笑い、地に落ちている一枚のメモ用紙を拾う。
そこには『後は任せた』の一言。ジンも空いた口が閉じず、絶句していた。
とりあえず仕方ないので、五人はそれぞれの役割を決めて、ゲームを開始、十六夜は亜音への苛立ちを門の扉にぶつけ粉砕したのだった。
亜音はその様子を遥か上空から見下ろしていた。と同時に軽く苦笑いしながら頭を下げた。
「後で埋め合わせしなきゃだな............さてと、俺もやる事をやらないと」
一つ言っておくと、このゲーム亜音だったら瞬殺できていた。
その方法はチートと呼ばれてもしょうがなくしょうもない方法。まず、黒い霧で白亜の宮殿を覆い尽くす。それで真っ暗な世界の出来上がり、これで敵に見つかることはないが、それでも自分が見えないのでは意味がない。そこで〝輪 廻眼〞というわけだ。
〝輪廻眼〞はいわゆる見えないものを見るための目。
例え暗闇だろうと、サーモグラフィーのように建物の輪郭は見えるし、不可視のギフトも魂の火までは隠すことはできない。
だが、それでは意味はないのは明白だ。
亜音は手伝いたい気持ちを必死に抑え込み、自身のもう一つの目的を果たすべく気配を消しながら白亜の宮殿内に舞い降りるのだった。
亜音の瞳はもちろん、〝輪廻眼〞に変化している。
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四人はそれぞれの役割をしっかりこなしていた。
まず、ジン、十六夜、耀は不可視のギフトを手に入れるべく身を隠しながら行動を開始し、飛鳥は宮殿内を水樹を顕現させて荒らしまくる。飛鳥の役割はつまり、露払いと囮だった。少し機嫌が悪そうに飛鳥は宮殿内を水流で押し流す。その際、兵士達も道連れにしていた。
「ふふ............不可視の人間を除けば、あらかた集まったかしら?」
飛鳥は周囲を見回す。騎士達は空掛ける靴を履いていたが、水樹の生み出す圧倒的な水量とそれを自在に操る飛鳥に二の足を踏んでいた。
そこで、水樹しか操れない己の才能を思い出し、ムッとした表情で兵士達に八つ当たりするのだった。精々大暴れしてやろうと真紅のドレスを靡かせて。
その間に十六夜、ジン、耀は順当に不可視の兜を二つ入手し、十六夜は倒れているルイオスの側近の男に心の中で称賛を贈る。
そして、すぐに十六夜とジンは耀に見送られて、最奥に向かうのだった。 耀も飛鳥と合流すべく移動する。
誰もいなくなった庭園に突如、黒い霧が地を這い、側近の男に絡みつく。
そして、持ち上げると建物の壁に抑え付けられ、側近の男は意識を取り戻す。
「グッ............はぁ......っ、」
「質問する、正直に答えろ」
「誰だ.........貴様......!」
柱の影から伸びる黒い霧を見て、そこに視線を固定させて側近の男はなんとか声を発する。というより声が出るギリギリで手加減されていることは明白、側近の男もそれはわかっていた。そして、雰囲気でこの者は異質な存在、自身より遥か先を歩く実力者だと把握し、一種の覚悟を決めた目つきになる。そんな側近の男に、柱の影より声が発せられる。
「お前の部下に聞いたら、今度、あるコミュニティと商談の話があるらしいな?そのコミュニティの本拠地の場所を」
「ふざけ...る...な............誰が貴様などに」(我らのコミュニティに口を割るものなどいない!何人の部下が殺されたのか......っ!?)
男は最後まであきらめず、ジタバタと足を動かし、縛りを解こうとするが、びくともしない。
それどころか徐々に壁にヒビが走り、めり込んでいく。
お互いに拉致があかないこのやりとり、しかし柱の陰から最後忠告が為された。
「貴様らの部下同様…………全員、死んでもか?」
「……………我らはペ…ルセウス………なめ……るなッ!」
強気な言葉に、柱の影にいる者はしばし考えて、大きくため息をつくと、黒い霧は霧散した。
縛られていた男はそのまま壁から引きづり落ち気を失った。
柱の影にいる者、榊原亜音は小さく呟く。
「尋問って苦手なんだよな……………はぁー、早々上手くいかないか」
その呟きに〝蚩尤〞が精神世界より返事をする。
『ワシにやらせればいいものを』
『君がやったら、最悪死んじゃうかもしれないからダメだ。俺は別に殺す気はないんだよ』
〝蚩尤〞は少し自覚しているのか、舌打ちして黙り込む。
亜音は仕方なく、顔も見たくなかった、割とすぐに口を割りそうなルイオスに会うべく、十六夜とジンの後を追うように最奥を目指すのだった。
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ちょうど亜音が、天井がない最奥、闘技場のような場所に辿り着くと十六夜とジン、黒ウサギが空に浮かぶルイオスを見上げており、一人黒ウサギは叫んでいた。
「まさか…………もう、使う気なのですか!」
ルイオスは獰猛な表情で首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。
そして、光が一層強くなり、ルイオスは叫んだ。
「目覚めろ─────“アルゴールの魔王”!!」
光は褐色に染まり、四人の視界を染めていく。 白亜の宮殿に共鳴するかのように甲高い女の声が響き渡った。
「ra……………Ra、GEEEEEEYAAAAAAAAaaaaaaa!」
それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。
冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。
現れた女は身体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせて叫び続ける。人の何倍もの大きさを誇る女は両腕を拘束するベルトを引きちぎり、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。
黒ウサギはたまらずうさ耳をふさぐ。
「ra...GEEEEEEYAAAAAaaaaaaaaaaaa!!」
「な、なんて絶叫を!」
「避けろ、黒ウサギ!!」
えっ、と硬直する黒ウサギ。十六夜は叫びつつジンと黒ウサギを抱えようとするが、二人とも抱えるには時間がなかった。
直後、空から巨大な岩塊が山のように落下してきたのだ。
十六夜は焦るが、その時─────横を駆け抜けた者を見て少し安堵する。
「で結局今ごろかよ」
その瞬間、黒い霧で作られた口しかない化け物が、闘技場を覆い尽くすほどの巨体で顕現され、空から降ってくる巨大な岩塊をすべて飲み込んだ。同時に黒い霧は闘技場の地の一点、一人の少年の足元に吸 い込まれ、消え去った。
その様子を見て、ルイオスは絶句する。たった数秒で空を埋め尽くすほどの岩塊を消し去るなど、馬鹿げているにも程がある。この場にいる誰一人同じ真似ができる者はいないどころか、箱庭にいる同じ人間の中でも一人だけだろう。
闘技場の地では、黒ウサギとジンが予想外の援軍に目を輝かせ、そしてもちろん怒る。
「今までどこで何をしていたのですか!!」
「黒ウサギの言う通りです!」
「ごめんごめん、それより十六夜」
「なんだよ?」
「あの化け物は任せるね、俺はルイオスに─────いろいろ借りがあるから」
亜音はそう言って、アルゴールの後ろに降り立ったルイオスを見つめる。
その様子に十六夜も何かを悟ったかのように、反論することもなく不敵な笑みを浮かべて拳を鳴らす。
「悪いな、それじゃあ遠慮なく─────ハハっ!」
十六夜は地響きを立て、空気に大穴を開けるほどの勢いで加速し、 真っ直ぐアルゴールの溝に膝蹴りを決める。
ミシミシとアルゴールの溝から何かが破砕する音が聞こえ、アルゴールは苦悶の声を上げる。
「Gaa、a!!」
そして、十六夜はそのまま地面に足をつけると同時に、アルゴールの右足を掴み、腕力任せに巨体を楽々と持ち上げると、そのまま闘技場の壁に叩きつける。
「だらぁ!!」
「Gyaaaaaaaッ!!」
「おいおい、どうした元・魔王様!今のは本物の悲鳴かぁ?だらしなさすぎだろ!!」
闘技場のの壁が勢いよく瓦解していき、砂埃の風塵を巻き起こす。
それだけの破壊をもたらした十六夜はというと準備運動にもならなかったのか、溜め息すらついて肩を回していた。
亜音も目を見開いてその様子を見ていた。自分もできるにはできるだろうが、浪費するエネルギー量は十六夜の倍だろうなと亜音は予測する。ルイオスは十六夜の強さを肌で感じ取ると同時に動き出していた。
空を疾駆し、向かう先には、黒ウサギとジンがいる。
曲刀のハルパーを顕現させ、振りかぶるが、その間に、
「ルイオス殿、俺を忘れては困るよ」
「『クレーマー』如きが、図に乗るな!」
「クレーマークレーマーうるさいな、まったく」
空で亜音の首元にハルパーを振り下ろすが、亜音は簡単に首を逸らしていなし、ルイオスの溝うちに強烈な一撃の拳を入れる。
「っぐ 、がはぁっ!!」
「おいまだダウンには早いよ?」
腹の痛みに耐えかねて丸まろうとするルイオスの額に、デコピンを食らわして半身を起こさせ仰け反らせる。
「っんぐ!」
そして、亜音は呆れ顔と無表情の狭間のリアクションでそのまま回し蹴りを同じ溝うちに叩きつける。大分亜音は手加減しているものの、ルイオスは苦悶の表情を浮かべて、闘技場の壁際に倒れているアルゴールの所まで吹き飛ばされる。
亜音はそれを見送ると黒ウサギとジン、いつ間にか戻ってきていた 十六夜の三人の元に降り立つ。十六夜はそんな亜音に悪戯に聞く。
「坊っちゃまには容赦ないなぁーそんなに黒ウサギが悪く言われたことに腹を立てていたのか??」
「へ?」
黒ウサギは予想もしなかった単語が出てきたことに、自然と思考が 真っ白になる。
そんな黒ウサギを見て十六夜は悪戯に成功したように笑みを浮かべていた。亜音はというと、黒ウサギをまっすぐに見つめて、言う。
「すまなかったな、黒ウサギ。本当だったら侮辱さえも言わせたくなかったんだが、俺の力不足だった」
亜音の悲しげな表情に十六夜はなんとも微妙な表情をする。いや まさか、この状況で亜音がしんみりするなんて思いもよらなかったのだ。仕方あるまい。
黒ウサギはというと、胸の前で手を振って、ペコペコする。
「いえ、お気になさらず。黒ウサギは亜音さんに感謝しているのですよ!それに十六夜さん、耀さん、飛鳥さんも皆さんのおかけでこうして戦う事が出来たのですから!」
亜音はそんな黒ウサギの頭に手を置こうと伸ばすがやめる。だがその行動に誰も不思議がる者はいなかった。
なぜなら、亜音の後ろ、皆の目の前で褐色の光が集まっていた。
いつの間にか、ルイオスとアルゴールは起き上がり、最後の攻撃をしようとしていたのだ。
「アルゴール!こうなったら全員まとめて石にしてしまえ!!」
「GYAAAAAAAAA!」
その瞬間、褐色の光が爆発し、圧倒的なエネルギー量の奔流が四人に向かって解き放たれる。
亜音は咄嗟に炎を顕現させつつ、ジンと黒ウサギの前に立つが、それは杞憂に終わった。
いつの間にか、十六夜が空に躍り出ていた。
「ハッ.........今さら狡いことしてんじゃねぇ!!」
十六夜は褐色の光の奔流をかかと落としの要領で踏み潰した。
まるでガラス細工のように一撃で粉砕したのだ。
「ば、馬鹿な!」
ルイオスは叫ぶ。叫びたくもなるだろう。
後方で戦況を見守っていたジンと黒ウサギでさえ叫び声を上げていたのだから。
亜音とて思考が一度止まりかけた。石化の恩恵を宿す奔流を砕くなど亜音とて到底できることじゃない。自分だったら触れただけで石像になる。例え十六夜に近い筋力を持っていたとしてもだ。亜音はついにやけてしまう。恩恵を砕く力、それはいつか重要な役割を担う者が持つ力の代表だ。特にこの前、対峙した〝退廃の風〞、おそらくあの魔王を相手にするには十六夜の力が必要なのだと亜音は悟る。
その間に十六夜はとどめの一撃、アルゴールの額のど真ん中に馬鹿力の拳を叩きつける。
勢いよくアルゴールは闘技場の壁に打ち付けられ、悲鳴さえ上げずに地にひれ伏した。
その惨劇を目の当たりにしたルイオスはもはや戦意損失、地面にヘタレ込む。
まさか自分が負けるなど微塵も思ってなかったような顔つきをルイオスはしている。
亜音はその様子に、もう手を下すことさえ億劫のような仕草をする。そして、ゆっくりと亜音はルイオスに歩みより、表情から予想だにもしない行動を取る。
「ちょっと来い」
「な、なん!」
ルイオスに有無を言わさず、亜音は勢いよく胸ぐらを掴み取り、壁際まで引きづり、壁に強くめり込むほどまでに叩きつけ持ちあげる。
「ぐっ!」
こういう時、普通は怒気をはらんだ表情をしているのが普通なのだ が、亜音はただなんとも哀れな者を見るような目でルイオスを見つめていた。逆にその雰囲気がルイオスに恐怖を感じさせた。口を開くことさえ躊躇わせる。
亜音は少し息を吐くと、黒ウサギには聞き取りされぬよう筆記とギアスを活用し、十六夜達には内緒でルイオスにある条件と約束をさせてから胸ぐらを離した。
ルイオスはただ怪物じみた異質な亜音の背を、某然と見送ることしかできなかった。
そして、そんなルイオスを十六夜はこれ以上攻撃する気にもなれず、同情の視線を贈り、亜音は皆に笑顔で声を掛ける。
「帰ろう、飛鳥と耀さんも待ってるだろうし、レティシアももう、モノじゃない」
「俺たちの大事な仲間だ」
今になってようやく黒ウサギは気付いた。
亜音はこの場にいる誰よりもこの場にいる仲間を重んじ、レティシアを助けたい気持ちが強く、誰よりも彼女のことを大事にしていたのだと。優しさがすべてじゃないのだ。亜音が厳しく接してくれたおかげで、黒ウサギも妄信せずにすんだのだ。この件において亜音は誰よりも優しさの意味を理解して皆に、平等に分け与えることができた存在。
だから、何を言っても手遅れなルイオスに対しても、悲しむような表情で相対したのだ。
おそらくルイオス本人は何も感じ取ることはないだろう。それが黒ウサギにとってルイオスに対する唯一の不満だった。
なぜ加減したのか、二度とノーネームに手出しさせず、歩けない体にもできたはずなのに。その意図がいつかルイオスに伝わるといいと思いながら、このゲームの終了を告げたのだった。
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〝ノーネーム〞本拠地、とある寝室。
レティシアがベットで目が覚めると、そこには問題児達が立っており、口を揃えて言った。
「じゃあこれからよろしく、メイドさん」
と言う具合に問題児達は問題発言をし、レティシアもなぜか使用人をすることにやる気を出していた。
黒ウサギとジンは困惑して、最終的に勝手にしろ状態、放置していた。
そこで、レティシアは一人の青少年、手頃な小さな本を読んでいる亜音に視線を向けた。
「榊原亜音、いや亜音殿」
「ん?俺は別にいらないぞ、使用人」
「いや、そうではなくてな.........亜音殿に言われ」
亜音はそこで本を閉じ、立ち上がると笑顔で告げる。
「今はゆっくり疲れた心を休めたほうがいいです。黒ウサギに癒して貰うのもいい、あ、でもとりあえず」
「お疲れ様」
亜音はそう言い残して、寝室を出て行った。
レティシアはその言葉を耳にいれた瞬間、何かが弾けたような気がした。どんな言葉よりも心に響いた。
〝ノーネーム〞のことが心配で気が気でない日々、モノ扱いされる日々、タイムリミットが刻々と刻まれていく感覚の中、さらに精神を削ってきた。魂を捨てた。己の無力を嘆き、同志を愛おしく思う毎日。もう失った物は戻らないのだと告げなければいけない厳しさと苦しさ。
まるで、ダムが瓦解して心の中にこれまで溜めてきた痛みがなだれ込んできたようにレティシアは、
掛け布団のシーツに顔を埋めて、小さく、小さく嗚咽を漏らしていた。
黒ウサギもそんなレティシアに涙目になりながら歩み寄り、小さく丸まり寄り添うのだった。
そんな様子を飛鳥と耀は少し涙目で、ジンは何かを決意したかのような目で、十六夜は窓の外を笑顔で見つているのだった。
亜音はというと一人これまで通りの日常、ジャージに着替えてトレーニングに励む。
いつか来たる試練に備えて。