新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第五話「秘密結社の主催者権限?」

 東区画○○○○○外門。 コミュニティの宮殿内。

 

 〝ペルセウス〞との決闘の日の次の日の午前、榊原亜音はルイオスと待ち合わせをして、とあるコミュニティの本拠地に来ていた。

 昨日、ルイオスと約束した内容は、『二日後に君達が会う予定のコミュニティの本拠地に明日、そこまで俺を案内しろ。もちろん境界門 の金は〝ペルセウス〞が持て』という具合だ。あたりを見渡すと 一言で言えば不気味だ。長方形の部屋で、とにかく広い。まるで、 ゲームのボス部屋だ。左右には極太の柱が立っており、柱には青き炎のランプがぶら下がっている。その灯りのせいで、部屋は青く染め上がり、天上は真っ 暗、これにBGMでも流れたら雰囲気出るなと亜音は思う。

 二人が歩く地面は、綺麗に青く塗装された廊下で、歩くたびに軽やかな反発音が部屋中に響いていた。

 亜音は横目でルイオスを見る。ルイオスもやはり緊張している様子だった。

 〝ノーネーム〞は強かったとはいえ、名のせいでルイオスに舐められていたが、今回の相手は自分たちと同等以上のコミュニティ、嫌で も緊張してしまうのだろう。

 ようやく最奥が見えてきたところで、玉座とその後ろに貼られている弾幕のようなものが視界に映る、おそらく形からして旗印なのだろ う。段々と旗印の絵柄が姿を現し、同時になんの変哲もない白い玉座に座っている者も視界に映った。

 

「これはこれは〝ペルセウス〞のリーダー、ルイオス殿。............商談は明日ではなかったかな?」

 

 軽快で少し高めの男の声。声だけでおそらく美男だということが分かる。それでいて、他を見下すような口ぶり、男にとって最も友達にしたくないワーストスリーに入るだろう。もちろん、ルイオスもそのワーストスリーに入っている。

 亜音は冷静にそんなことを考えながら、男の外見に視線を向ける。

 暗がりの部屋ではよく見えないが、その男の外見はすごく目立つものだった。

 小顔で丸顔、ツヤのあるさらさらな赤い髪は輪郭に沿って弧を描いている。瞳も赤く、肌は白い、赤い薔薇を口に挟むのがよく似合いそうな美男だ。服装は白いスーツの礼服。途轍もなく正装だった。

 ルイオスは上からの物言いにすこし眉を潜めるが、それでも大事商談相手なのか、苦笑しながら言葉を濁していた。

 

「ええまあ............そうなんですが」

 

 亜音は仕方なく、

 

「ここまででいいです、一応礼を述べます」

 

 亜音はルイオスに横目で言い、ルイオスは機嫌が悪そうな顔つきで、玉座に座る男に一礼して来た道を戻って行った。

 それを見送った亜音は、赤髪の美男に向き直る。

 と同時にその男の後ろにあるーーーー赤い薔薇と赤い十字架の白い旗が目に映る。

 亜音は出来るだけ穏便に運ぼうとルイオスに紹介を頼みたかったが、板ばさみの状況に同情して帰したのだ。しかし、やはりすこし悔する。

 とその時、目の前の男は口角をあげ、部屋にパチンっという指を鳴らしたような音が鳴り響く。

 同時に亜音は黒い霧を発現、刀を生成し、後ろに振るう。

 そこで、亜音の視界に映ったのは、極太の黒刀を振り下ろす、首なし長身の鎧武者だった。亜音は軽々と相手の斬撃を横薙ぎに受け止める。金属の衝突ですこし周りに風圧が生まれ、亜音の髪を後ろに靡かせて、甲高い衝突音が部屋に響き渡る。さらに加えて部屋の入り口方向からルイオスの悲鳴が聞こえた。斬撃の衝突が部屋中に走ったのだろう。その証拠にいかにも特別製な亜音の足元にヒビが走っていた。

 

「Uhooo............!」

 

 亜音の余裕な笑みに、首なしの鎧武者はご不満のようで、イラついているかのように女性のような高い声で小さく唸り声を漏らしていた。

 その特別な鎧は金で縁取られた黒きアーマー、二メートル以上の長身で幅も亜音の三倍はあるだろうか、その背には裏地が赤いマントを靡かせていた。

 その外見から亜音は、一つの名を呟く。

 

「.........首なし騎士...............〝デュラハン〞か」

 

 デュラハンとはアイルランドに伝わる首のない男の姿をした妖精だが、女性の姿という説も存在する。希少性の高い存在には違いない。

 そこで、赤い髪の美男が口を開く。

 

「ゾラーーーーーもういいよ、こちらに来なさい」

 

 ゾラ、そう呼ばれた首なし騎士は亜音から黒刀を戻し、左腰の鞘にゆっくりと収めた。亜音もその様子を見ながら、刀を霧散させる。

 とりあえずは休戦だとでも言うかのようにデュラハンはズカズカと亜音のすぐ横を通る。亜音はそれを苦笑いしながら横によけて道を譲 る。

 その背を見送りながら、亜音は少し息を吐くと。

 

「試すにしては、ずいぶん厳しいことするんですね」

「いやいや、これでも僕は人を見る目には自信があるんだ。ペルセウスを下した君ならこれぐらいワケないだろうとね」

 

 亜音と赤髪の美男が小さく会話をし終わり、少しして首なし騎士も玉座の斜め後ろに控える。

 同時に、美男の男は高らかに亜音へ告げた。

 

 

「ようこそ、東五桁コミュニティーーーーー〝薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)〞へ」

 

 

 

「僕の名は〝クリスチャン・ローゼンクロイツ〞、このコミュニティのリーダーだ」

 

 

 〝薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)〞、中世から存在すると言われる秘密結社。

 17世紀初頭のヨーロッパで初めて広く知られるようになった組織名。起源は極めて曖昧だが中世とされ、錬金術師や学者が各地を旅行したり知識の交換をしたりする必要から作ったギルドのような組織の一つだとも言われる。やがて薔薇十字団の存在は伝説化し、薔薇十字団への入団を希望する者だけでなく、薔薇十字団員に会ったという者が現れるようになる。また、薔薇十字団員を自称するカリオストロやサンジェルマン伯爵などの人物や薔薇十字団を名乗る団体、薔薇十字団の流れを汲むと自称する団体も現れるようになり、当時の人々を惑わせた。亜音の世界では現在でもそのような事例は続いている。クリスチャン・ローゼンクロイツがその組織の始祖であり、始祖の遺志を継ぎ、錬金術や魔術などの古代の英知を駆使して、人知れず世の人々を救うとされる組織だ。

 そして、クリスチャン・ローゼンクロイツはヨーロッパ中世の伝説上の魔術師である。古代の英知を守り伝え、人類を正しい方向に導くため密かに活動しているとされる。先ほど記したとおり、薔薇十字団の開祖とされている。ローゼンクロイツはダムカルで、アラビア語、数学、自然学を学び、奥義書『Mの書』と呼ばれる書物をラテン語に翻訳、その後モロッコ のフェズで四大精霊人と呼ばれる人物と出会い、多くの知識を得たあと、仲間を集い薔薇十字団を結成させたとされる。

 亜音は少しばかり赤髪の男のことを疑っていた。理由は上記にも書いてあるとおり、その名を語る詐欺師が多くいるからだ。

 だが、一言、亜音が追い求める者の名を告げればーーーーー。

 案の定、亜音が口を開いた瞬間、ローゼンクロイツは赤い瞳を見開き、纏う空気を変えた。

 亜音はその反応に手応えを感じる。そして、推測が当たったことに心の中で喜ぶ。

 

薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)〞は、いわゆるボランティア団体で正義のコミュニティだ。亜音が口にした事は、〝薔薇十字団〞にとって天敵、仇敵、天使と悪魔のような、それ以上の関係の者の名だ。そして、それを知っているのはごく少数、白夜叉も知っているかどうか怪しいほどだ。そのごく少数の者が見せる反応ならば一発で見分けがつく。

 亜音の目の前で、ローゼンクロイツは無表情、先ほどまで浮かべていた軽薄な笑みは、すでに面影すら残ってはいなく、怒気をはらんでいるようにも感じた。

 亜音は付け加えるように口を開く。

 

「そいつは魔王なんでしょう?それとそいつの居場所を」

「聞いてどうする?」

 

 ローゼンクロイツは厳しい声音で亜音に問う。

 亜音は逆に笑みを浮かべたまま、言葉を返す。

 

「とりあえず、倒すよ。ーーーーー運命を変えるためにね」

「無理だな」

 

 亜音をその一言でバッサリ切り捨てたローゼンクロイツは、玉座を立ち上がり、亜音の目の前に立ち塞がるように歩み寄る。

 今のローゼンクロイツは殺気と哀愁が混ざり合ったような空気を纏っていた。まるで、力及ばずに負けた兵士のようなオーラ。そこから、亜音は悟る。

 

「戦った事があるんですね?」

「いやーーーーーー直接、相対することすら僕は出来なかった」

 

 ローゼンクロイツは顔を隠すように亜音に背を向けて、語り始める。

 

「僕はリーダーの顔すら拝めずに負けて逃げたんだ、文字通りの化け物なんだよ奴らは」

「奴ら?ということはその魔王には他にも仲間がいるのか?」

「いい機会だ、無駄に命を散らさせないために教えといてあげるよ」

 

 そこで、ローゼンクロイツは亜音に振り向き、真正面から告げる。

 

「今は箱庭の外の何処かで城を築き、隠居魔王として姿を消しているが、奴らが活発に箱庭で活動していたならば、おそらく第三桁の魔王として上層に鎮座していただろう。上層に食い込むなど奴らにはトイレにいくほど容易いものだ。神群でも怖くて手が出せん!!」

「三桁............夜叉より上層か」

「どうだ?無謀だということがよーく分かっただろう ...............であるならばさっさとここから失せるがいいッ!」

 

 亜音は目の前ではっきりと吐き捨てられたが、それでも一ミリたりとも笑みを崩さない。

 というより言われた事とは全く別なことを考えていた。ローゼン クロイツの人柄のことだ。案外、真面目で正義感のある者なんだなと亜音は素直に感心していた。てっきりルイオスと同類か近しい人種かと思っていたのだ。それによく喋る。

 そこで、亜音はローゼンクロイツの背に決定的な言葉を掛ける。おそらく誰もがそう声を掛けられたら、額に青筋を立てるだろう。

 特にローゼンクロイツのような立場なら、なおさらである。

 

「大丈夫だよ、俺は(・・)強いから」

 

 

 

 時代劇なら『であえーであえー 』と叫ぶシーンだろう。

 案の定、ローゼンクロイツの側近である首なし騎士、ゾラは黒刀を抜刀し、亜音のところまで低空跳躍する。

 

「ゾラ、やめろ」

 

 亜音まで残り数メートル、ちょうどローゼンクロイツの横で首なし騎士ゾラは黒刀を上段で構えたまま静止する。

 その影響で追い風の突風が、亜音の頬を撫で、髪を揺らがす。

 無表情に振り向いたローゼンクロイツに亜音は問い掛ける。

 

「どうしたら情報を渡してくれる?」

「...............戦えば確実に死ぬんだぞ?!..........奴らの前に散った命、奴らが生まれるためだけでも幾千という命が犠牲になった。今は隠居しているから犠牲者は増えていないが、それでも、もうこれ以上無駄に命を散らせたくはない。でなければ僕の同志達は......無駄死にだ......くっ......」

 

 ローゼンクロイツの肩が揺れる。それを俯いているのか分からないが首なし騎士が近くに、ギリ触れない位置まで寄り添う。

 亜音はなんと言われようと全く引く気はなかった。例え、神が勝てないと言っても、亜音は引き下がるつもりなど毛頭ない。

 なぜなら、それを、運命を、神殺しを乗り越えた先にーーーーーーあの子がいるのだ。

 

「俺は負けません、負けられないんですよ。そして、力に屈する気もない」

 

 亜音はそこで一度息継ぎをして、もう一度情報を聞き出そうとするが、そこでローゼンクロイツは赤いサラサラな前髪を右手で握り、払 う。

 そして、白いネクタイを少し緩めると、亜音に告げた。

 

「ハハ、いいだろう、そこまで言うなら教えてやる。だが、条件として、僕から君へ試練を与える。それをクリアしたら教えてやる」

 

 ローゼンクロイツはポケットから一枚の金貨を取り出し、亜音に向けて弧を描くように弾き飛ばす。軽やかな金属音と共に、その金貨はゆっくりと姿を変えていき、亜音の手元に舞い降りる時には、一枚の羊皮紙に変わっていた。

 

 

#####

 

 

契約書類ーーー文面。

ギフトゲーム名 〝島を解放せし英雄〞

・ゲームテリトリー

・ゲーム盤『〝擬似〞クレーテー島』《無人島》

 

・プレイヤー 一覧

・榊原亜音

 

・クリア条件

・島を守護、縄張りとする怪物を打倒

・怪物を使役、または隷属

 

・敗北条件

・プレイヤーによる降伏

・プレイヤーの戦闘不能、死亡

・舞台詳細・ルール

・怪物は三段階あり、時間経過と共に二回、変化する

・島の外にはプレイヤーも出ることはできない。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下にギフトゲームを開催します。     “    〞印

 

 

 

 

#####

 

 

 

「一言告げといてやる」

 

 

 

 

 光に包まれつつある亜音にローゼンクロイツは、静かに見つめながら口を開く。

 

 

 

 

「死にたくなければーーーーーーーーーー怪物の二段階以内で必ず倒せ」

 

 

 

 

 それを最後に亜音は今まで以上に光に包まれ、暗がりの部屋、ロー ゼンクロイツと首なし騎士ゾラの前から姿を消した。

 それを見送った二名はーーーーそこからすぐに立ち去る。同時に玉座の後ろに貼られていた旗印も綺麗に消え去っていた。

 ローゼンクロイツは最初から情報を提供する気はなかったのだ。

 そして、〝薔薇十字団〞は秘密結社、本拠地は確定されてはいない。亜音とローゼンクロイツは二度と相対することはないだろう、それ は決定事項だった。

 

 

「せいぜい、死ぬなよ。ーーー名無しの者よ」

 

 

#####

 

 

 

 昼間の日差しが照らす無人島。

 大きさは無人島の中では、中くらいだろう。その浜辺に亜音は召喚された。

 とにかく日差しが暑い。そう亜音は呟きながら、無人島を見回す。

 ジャングルがあり、その奥には山がそびえ立つ。遺跡もちらほら見えた。

 

「さてとーーーーー怪物は何処に」

 

 亜音は右手で目を日差しから庇いながら探す。

 ふと異変に気が付く。

 

「暗い...............いや、まさか」

 

  そう亜音の足元、その近辺にいきなり影が広がっていた。 亜音は冷や汗を掻きながら、後ろに振り向こうとする。が、その前に亜音はそこから退避する。

 同時に亜音が立っていた場所から爆弾が落ちたかのような爆音と 地響きが鳴る。

 

「っ!ーーーー来たか」

 

 亜音は宙返り、バク転、をして距離を取りつつ、ジャングルを背にする。

 亜音が顔を上げた先には、浜辺を覆い尽くすほどの砂塵が巻き起こり、その中で巨躯の影がギシギシと機械人形のような駆動音が聞こえ てくる。

 そこで、ようやく精神世界より亜音へ声が掛かる。

 

『こいつはやばいのを押し付けられたな............』

「知ってるのか?」

『兵器に関してなら、ワシはなんでも知っている。言っている意味分かるな?』

「あれは兵器ということか?」

『ワシが〝機動要塞〞なら、奴は』

 その時、砂塵が突如生まれた突風によって一瞬で弾け飛ぶ。

 亜音の前に、ようやくその怪物は、自慢の巨躯を見せつける。

 その姿は一言でーーーーー少年を模した巨大人形。拙い作りではあるが、纏う迫力は並みのものではない。というより不気味。鋼の肉体、ちゃんと胸板もあり、腹筋も割れている。口はカタカタと壊れたように蠢き、その度に口から機械が動いた際に発生する水蒸気みたいなのが漏れている。そして何より、目だけなぜか、人間のような生々しさ、それでいて赤く光っている。高さはおよそ、二階建ての家の二倍。

 

『〝超破壊機動兵器〞、オートマタの中でも最強の化け物。ギリシャ神の遺産と呼ばれた怪物だ』

「自動人形、怪物。つまりあれはクレーテー島を守っていたとされる自動人形〝タロース〞か」

 

 その瞬間、亜音目掛けて、石、いや大岩が隕石の如く速度で投げられた。空気抵抗の摩擦で軽く火花と炎を生じさせている大岩は正確に真っ直ぐ亜音を目指して落下。だが、亜音はよけるのではなく、逆に迎え撃ちに空へ踊り出る。そして、体を目一杯に引っ張り反らして、大岩に回し蹴りをぶち込む。

 

「ぐっ.........!!」

 

 重い。そう感じながらも右足に命令し続ける。圧倒的な力量と物量をねじ伏せて蹴り返せと。

 亜音は歯を食いしばり、右足を振り抜く。

「はぁあああ!おっらああ!!」

 珍しく亜音は気合いの声をあげて、大岩をタロースの腹筋目掛けかけて蹴り返す。

 十六夜には及ばないものの、それでも先ほどの落下速度より遥かに 超えた速度で大岩は大気を突き抜ける。途中、大岩は外殻にヒビが走 り、砕ける。それでも速度は衰えない。まさに亜音の肉体の持つ力は、鬼神そのものだった。

 だが、自動人形は残像を残すような横移動のステップで大岩をいなし、ひじの関節を後ろに曲げ、駆動音をギシンと鳴らして鋼の拳を構 える。そして、その拳を弾丸の如き威力と速度で、宙に浮く亜音目掛けて撃ち抜く。

 

「っ、っち!」

 

 亜音は拳を構えた瞬間には宙に浮くのを辞め、自由落下してその弾丸の拳を避けるが、 そのあとにやってきた追い風の爆風に身体の自由をいとも簡単に持ってかれ、ジャングルの中を木々を打ち倒しながら突き抜けていった。ジャングルからは木々と衝突した際に生じた砂埃が吹き飛ばされた軌跡より空に向かって舞い上がっていた。

 数百メートル近くぶっ飛ばされた亜音は、難なく地面から身体を起こし、砂埃を払う。所々、服が切れて汚れているが、外傷はなく、亜音は痛みも感じていなかった。

 

「いつぶりだろうな、俺が吹き飛ばされるの」

『人生で二度目ぐらいだろ?だが、分かってんだろうな』

「分かってるよ、もう油断しない」

 

 亜音はそう言って、靴の先で地面を叩き、視線を上げると同時に爆走を開始する。

 亜音が蹴った地面は蜘蛛の巣上に地割れが発生していき、クレー ターが出来上がり瓦解していく。因果論はゲーム盤では発生しないことが分かっている。ならば、遠慮する必要はないのだ。ただ真っ直ぐにジャングルを数秒で抜けきり、亜音はタロースのいる浜辺に降り立つ。

 だが、そこにいたのは、先ほどの銀色の肉体を持つ自動人形ではな かった。

 

「っ...........なるほど、これが変化、そして、二段目か」

 

 亜音の目の前には、大きさは半減したものの、先ほどよりも脅威を漂わせているケンタウロス型の自動人形。銀色に縁取られた真紅の鎧、瞳も鎧兜の下から一つの赤い光が自由に動いている。腕は左右に二つずつ配備され、その手にはそれぞれ真紅の剣が握られていた。

 亜音はローゼンクロイツの最後の言葉をふと思い出す。

 

 

『死にたくなければーーーーーーーーーー怪物の二段階以内で必ず倒せ』

 

 

 宣告通りならここで、倒さねば、亜音は死ぬことになる。

 亜音は両手に刀を生成、その両方に炎を纏わせていき、最後に瞳を 〝輪廻眼〞に切り替えた。

 そして、亜音の背には大量の黒い霧が発生し、戦いは次の佳境へと向かうのだった。

 

 

 

######

 

 

 

 亜音は負けられないのだ。 セラリアが死ぬきっかけを作った歴史と技術、奇跡の御業、それらを歴史から抹消するために、たとえそれが正義に反することでも、力をすべて失うことになっても、引くことだけはできないのだ。

 その先に、大切な人がいるから。自分の大切な人だけじゃない。もっと多くの、散っていった命が助かるかもしれないから。

 もちろん、ローゼンクロイツの同志達も然り。

 

 でも、それをしようとするたびに亜音の心は砕けていく。大切な人を助けようとするたびに、錆びつき心の外殻が剥がれていく。

 これまで、皆に正義を謳った自分、その自分を敵に回すのか、亜音は判断できないでいる。

 失ったものを拾うとするなら、持っているものを落とさなければ帳尻が合わないように、悲劇の後で培われた物を人類は失うかもしれない、命すらも。

 失ったものを取り戻す正義と今あるべきもの守る正義の狭間で亜音は必死に、果たして前なのか後ろなのか、 全く分からない方角へ進むしかなかった。

 セラリアという名を道標にして。

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