新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第十話「知られざる亜音の日常」挿絵

 お風呂から上がってきた《レティシアとリリを除く》女性陣を待っていたのは、変態という名の問題児、十六夜だった。先ほどの白夜叉のように十六夜は、飛鳥、黒ウサギ、耀の女体をあらゆる言語を並べて褒めちぎり、盛大に黒ウサギと飛鳥に突っ込まれ、耀は無表情にそれを見つめていた。

 そのあとも来賓室に移動した七人、黒ウサギが耀の出るギフトゲー ムの審判するということで最初の話がまとまると、十六夜と白夜叉は 嬉々に黒ウサギの〝審判衣装〞をエロ可愛くと喚き、黒ウサギは雷光 のごとく二人の戯言を断じるのだった。

 そこでようやく本題に移り、議題はーーー耀のギフトゲームの相手の話になり、白夜叉から二つのコミュニティの名だけを耀は教えられた。

 その名はーーーーー〝ウィル・オ・ウィスプ〞と〝ラッテンフェンガー〞。

 白夜叉曰く、二つとも六桁の外門からの出場らしく、格上。耀に白夜叉は用心して挑むようにと注意していた。その言葉に耀は素直にコクリとうなづいてたので、亜音も少しホッとする。

 なぜなら亜音の意識の中では、飛鳥も含めて三人とも問題児と認定されているから だ。 あとで黒ウサギを怒らせた手紙のことも知り、よりその意識は根拠を持ち、凝固なものとなった。

 そこで、十六夜が二つのコミュニティの名を聞いて、物騒に笑う。

 

「へぇ.........“ラッテンフェンガー”、成る程、“ラッテンフェンガー(ねずみ捕り道化)”のコミュニティか。なら明日の敵はさしずめ、ハー メルンの笛吹き道化だったりするのか?」

 

 その言葉に飛鳥は小さく声をあげ、亜音も何かを思い出したかのような顔をしながら、視線を飛鳥とその膝の上に寝ている幼い精霊に視線を移す。

 亜音はレティシアより事情は聞いていた。飛鳥がネズミの大群に襲われたことを。

 その言葉で大体の予想がつき、十六夜の言葉で亜音は確信に近づいた。

 そして、なぜ、飛鳥が落ち込んでいる様子だったのかも、理解した。

 おそらくネズミに遅れをとってレティシアに助けられたのだろう。

 そこで重要なのは飛鳥がどうしてネズミごときに遅れを取ったのか、 だ。

 確定しているのは、飛鳥のギフトがネズミに効かなかったこと。

 その理由としては、ネズミの霊格が飛鳥より底上げされていたか、もしくは先に別の誰かの支配を受けていたかの二つに絞れる。

 そして、ここにきての、“ねずみ捕り道化(ラッテンフェンガー)”。

 亜音がそう思考している中、話は進んでいた。

 白夜叉は言った。〝ハーメルンの笛吹き〞とは、とある魔王の下部コミュニティだった者の名だと。

 その言葉のおかげで亜音はさらに先を読むことが出来ていた。

 敵は〝ハーメルンの笛吹き〞、そして、そいつらが馬鹿ではないのなら〝白夜叉〞を倒す手段を手に入れている筈だと。

 わざわざ、白夜叉に木っ端微塵にされにくるアホな魔王はいないだろう。

 それと今回の〝魔王襲来〞は北と東のホストによる共同祭典をピ ンポイントに襲うのだ。ならば、なおさら白夜叉は魔王の視野に入っているはずだ。しかし、それは可能性が高いという話で、確実性はない。それにそもそも、白夜叉を倒す方法があるのだろうか、いや、どうすればその手段が手に入るのかすら想像もつかない。こういう時、 自分だったらどうするかーーーーーうん、白夜叉とは戦わないな、と亜音は心の中でぼやくのだった。

 そこで黒ウサギと白夜叉が十六夜の言葉に説明を求め、その際に十 六夜はジンに耳打ちをしていた。

 

「............早速見せ場だ。成果を見せてやれ」

「は、はい」

 

 コホン、と咳払いをするとジンはダボダボのローブを整え、ゆっくりと語り始める。

 

「〝ラッテンフェンガー〞とはドイツという国の言葉で、意味はネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とは、グリム童話の魔書にある〝 ハーメルンの笛吹き〞を指す隠語です」

 

 ふむ、と頷く一同。ジンはそのまま説明を続ける。

 

「大本のグリム童話には、創作の舞台に歴史的考察が内包されているものが複数存在します。〝ハーメルンの笛吹き〞もその一つ。ハー メルンとは、舞台になった都市の名前のことです」

 

 亜音はその言葉に家に大量に保管されていた本を読んでいた頃を思い出す。

 その保管部屋は、もはやミニ図書館だった。医療の本に、保険についての資料、外国の言語本、先代の残してくれた榊原家の秘密資料、そ しておそらく先代の中に歴史や文化を趣味にしていた人もいたのだ ろう、百冊以上もの神話や歴史書、ついでにミステリー小説も挟み挟みに置いてあったのは覚えている。ミステリー小説は数える程しか読まなかったが、世界を回る上で、国の信仰している教えを知る必要があったので国の歴史書やそれにまつわる神話の本は読んでいた。なぜなら、紛争地域での戦争はほぼ、信仰する文化の違いなどから起こる争いなのだ。それに自分が他国に訪れた時、知らず知らずにその国の信仰する教えのルールを破れば、最悪その場で射殺される。その前に自分は逃げれるが、できれば余計ないざこざは起こしたくない。そして自分は人を救うためにそこへ赴いているのだ、断じて争い、逃げ惑うためじゃない。

 そこで亜音は思考を切り替え、グリム童話の〝ハーメルンの笛吹き 〞の原型となった碑文を思い出す。その頃、ジンはその碑文を読み上げていた。

 

##

 《一二八四年、ヨハネとパウロの日、六月二六日》

 あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三○人のハーメルン生まれの 子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した。

##

 

 この碑文はハーメルンの街で起きた実在する事件を示すものであり、一枚のステンドグラスと共に飾られている。後にグリム童話の一 篇として、〝ハーメルンの笛吹き〞の名で綴られる物語の原型である。

 それを聞いた白夜叉は、唸りながらジンに質問をした。

 

「うーん、ふむ。ではその隠語が何故にネズミ捕りの男なのだ?」

「グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」

 

 白夜叉の質問に滔々と答えるジン。その隣で、静かに息を呑む飛鳥。

 

(ネズミを操る道化師......... )

 

 先ほどの襲撃が飛鳥の脳裏を掠める。飛鳥はそういえばと、襲われた際、不協和音のような笛の音を聞いたことを思い出した。

 

「ふむ、そうか。何にせよ情報としては有益なものだったぞ。しかしゲームを勝ち抜かれてしまったのはやや問題ありだの。サンドラの顔に泥を塗らぬよう監視を付けておくがーーーーーー万一の際は、おんしらの出番だ。頼むぞーーー」

 

 とある二人を除く〝ノーネーム〞一同は頷いて返す。とある二人のうちの一人である飛鳥は、不安の影が胸中で渦巻いていた。

 なぜなら、今、飛鳥の膝の上でスヤスヤと寝息を立てるとんがり帽 子の精霊、彼女もまた自らの出身を〝ラッテンフェンガー〞だと語っ ていた。

 けれど、飛鳥の目に映る彼女はそんな邪悪な者には見えない。皆にその事を伝えようかと思った飛鳥は、視線を上にあげる。

 すると、皆が何か不思議そうなものを見たような顔をして何処かを見ていた。飛鳥は最初、とんがり帽子の精霊を見て、そんな顔をしているのかと思ったが、皆の視線を追うと成る程と理解した。

 

「.....................ゥ............スゥー」

「よくこんなシリアスな状況で寝ていられるな、亜音殿は」

 

 白夜叉は少し息を吐きつつ呆れていた。今までの亜音からは予想もつかない寝顔だったが、やはり高校生の年齢というべきかと、白夜叉は思う。少し安心したのも事実だが。

 そこで、十六夜は当然のような口調で口を開く。

「まぁ、亜音はここ毎日、夜から朝方まで鍛えてるからな、どこかで寝こけてしまうのは当然の生理現象だろ」

「やっぱりそうでしたか............」

「どうしたのだ?黒ウサギ」

 

 十六夜の言葉にしょんぼりした黒ウサギに白夜叉は心配そうに問う。

 黒ウサギは耳をへにょらせたまま言葉を紡ぐ。

 

「亜音さんは昼間は稼ぎに出て夜に修練していて朝の二、三時間寝るのみ。私たちの財政の為に無理しているみたいなのですよ.............」

 

 その言葉に場の空気が重くなっていく。

 だがその時、突如、ぶっきらぼうな声が響き渡る。

 

「ハァー見てやらんねぇなあーまったく。それに見当違いにも腹立たしい、いや、まだまだ足りねぇと言った方が是か。なぁ?鈍感で頭の悪い諸君?」

 

 この生意気な口調、皆が聞き覚えがあった。

 久しぶりに聞いたような気がする。十六夜は目を細めて言った。

 

「〝蚩尤〞か?」

「Oh!That's right!ーーーってつい英語で言っちまったぜ、これもガキどもに教えてるせいだな」

 

 その言葉に飛鳥が一番早く反応した。 机に手を置き、身を乗り出しながら〝蚩尤〞に飛鳥は問う。

 その際、幼いとんがり帽子の精霊は跳ね起きて、ひゃああと声を上げて机の下を転がるのだった。

 

「子供たちは、...その............元気なのかしら?」

 

 “蚩尤”は飛鳥の言葉を聞いて、悩む。正確には面白半分に焦らしていた。

 なぜなら、〝蚩尤〞の言葉に皆が期待して待っていた。白夜叉も亜音の力は知っているので、この状況を大体は理解していた。

 だが一変して〝蚩尤〞は少しつまらそうに言った。

 

「あの亜音が天国よりつまらん世界にわざわざガキ共を招待するか..........それが答えだ。」

「回りくどい言い方ね.........けど、そう。元気ならよかったわ............」

 

 飛鳥の言葉と共に皆が安心したようにホッとつく。

 “蚩尤〞はそれが気に入らないように立て膝で座り直し、偉そうに机を指先で叩く。

 

「話を戻すぞ...............駄ウサギだったか?」

「黒ウサギです!」

 

 黒ウサギはつい、いつものくせで突っ込んでしまう。

 だが、〝蚩尤〞はそんなの物ともせず笑みを浮かべて、

 

「ああ、そうだっけ?........頭悪い奴の名前覚えんのめんどくせぇから、こん中で覚えてんのは、そこの金髪のガキぐらいだ............あー 多分、あとの奴は名前の一文字ぐらいは覚えてやってるーーーーーーまぁ全くどうでもいいがな?」

 

 黒ウサギは思う。こいつは十六夜をも超える生来の問題児だと。

 その証拠に黒ウサギとジン以外、もれなく全員同時に怒らせていた 。特に白夜叉は笑っていない。もはやマジギレ寸前というのは誰でも分かるだろう。

 その様子を見て、満足げに〝蚩尤〞は口を開く。

 

「別に今から殺し合いを始めてもいいんだが、その前にワシの話を聞いてからだな、それでもワシが間違っていると言うのならば、よかろ う。戦神として全力で殺してやるわ」

 

 “蚩尤”の言葉と気迫は、何か言葉にできない裏付けがあるかのように皆を静かにさせる。

 まるで、話を聞く前から〝蚩尤〞が間違ってないことを知らされたかのように。

 そんな中、耀が〝蚩尤〞に静かに問う。

 

「亜音はつまり、別の理由があって夜に修練してるってこと?」

 

 〝蚩尤〞はその言葉に視線を上に移し、

 

「少し違うな、亜音は一石三鳥の如く、効率よくこなせてしまう人間だ。そして元来、普通の人間には一石三鳥はまず不可能だろう。奴は頭も良く、他を大切にし、精神も強い。力もある。そんな人間、いやワシが会ったことのある王族にすらいない。稀に見る天才を超えた人間だよ亜音は。故に全部、自分だけに跳ね返って疲れきっている...............まぁ、それも“計算”の内なんだろうがな」

「つまり、どういうことなの.........?」

「亜音は毎日、夜更かしして毎日修練している。駄ウサギ の言ったことはもう当然のごとく当たり前の理由だ、それにそんなふうに思うんだったら最初から仲間を増やすなって話だ」

 

 その言葉に飛鳥は口を開こうとするが、〝蚩尤〞がそこで口調を強めて言う。

 

「駄ウサギはそういう覚悟を持ってコミュニティの再興を願ったんじゃないのかぁ?そんな半端な気持ちでこの状況が覆ると思うな、アホ

共がぁ!命を掛けねば逆に命を軽く落とすことになるぞ?」

「っ............!」

 

 途轍もなくずっしりくる言葉だった。

 さすがの飛鳥もこれには返せない。

 十六夜もいつもの軽薄な笑みはしていない。誰もが真剣に〝蚩尤 〞の言葉を待っていた。

 

「それを一番よく分かっていたのも亜音だ。元々、夜修練していたのは、ワシが亜音になんで昼間にやんねーのかって聞いたら、昼は闘うからだって、寝不足の奴がなに言ってんだって思ったぜ。つまり、この生活サイクルは、昼に働き戦うためでもあるんだ、昼に訓練したら疲れた状態で戦わないといけなくなるしな、時間を置きたいんだろう」

 

 その言葉に白夜叉は半信半疑に呟く。

 耀もそれに続くように疑念を〝蚩尤〞に問う。

 

「そうなのか?」

「そんなに私達信用されていないの?」

 

 皆はこう考えたのだろう。

 飛鳥や耀、十六夜達ではまだ力不足と亜音は思っているのではないかと。

 

「バーカ、が。違うに決まってんだろ?.........ヒントをくれてやる!いつも奴はどこで修練してる?金髪の小僧は知ってんだろ」

「............そういう事か」

 

 十六夜は顎に手をあて、そう言う。

 その様子に〝蚩尤〞は満足げに笑みを浮かべ、

 

 

 

「...............ずっとだ、ずっと毎晩、本拠を、子供達を警護してたんだよ、亜音はな」

 

 

 

 その言葉に黒ウサギは思わず手で口を抑える。

 ジンも全く気が付かなかったように驚愕していた。

 白夜叉も目を見開いて驚くが、これまで見てきた亜音ならおかしくない話だと抵抗なく受け入れていた。

 〝蚩尤〞は問題児三人に視線を向け、さらに言葉を吐いていく。

 

「それだけじゃない、今だってワシの恩恵を応用し子供達の安否を遠隔管理している。そしてこれから成長していくお前らに気を使わせないように、何一つ言わずにいた。速く強くなってほしいってな。にもかかわらずだ!貴様らはッ!!ワシは怒りで〝ノーネーム〞を滅ぼす衝動に駆られる。其れこそとっとと、気を使えねー頭の悪い鈍感な集まりの、アイツを少しも理解できない〝ノーネーム〞なんて見捨てるべきだ。それともワシが直々に滅ぼしてやろうか?.......................駄ウサギが献身的?あまりワシを笑わすな。勝手に人身御供をするような計算外のファンタジスタがぁ!吐き違えるな、たわけ。今だって誰にも文句を言わずに、疲れた体で目をこすりながら、同士のために“今”話を聞こうとした。気を使えない、周りが見えない、亜音をわかってないのは今この場にいる“全員”なんだよ」

 

 そう言った蚩尤もまた視線をあさっての方向にそらし、己を悔いているようだった。彼もまた気が付かなかった一人だからなのだろう。気付いたところで何もしてやれない、居候である立場でもあることがさらに辛いところに違いない。

 そして、彼の夜の修練にはあらゆる意味を含んでいた。

 まとめると、下記の通りだ。

 ・〝ノーネーム〞の夜の警護

 ・昼間に日銭を稼ぐため

 ・昼間の魔王襲来のため

 ・問題児三人の成長を妨げないために交代制にしない

 ・生活サイクルのリスクは自分に跳ね返り、自分一人でリスク管理ができる

 

「亜音は〝ノーネーム〞にいる誰よりも魔王に警戒している。まぁこれまで誰も襲う奴はいなかっただろうが、それでも油断をせず、お前らを見守っていた。それなのに誰にも感謝されない、誰も知らない。 あれでもまだお前らで言う所の学生身分だ。だが、亜音は自分のやりたい事を捨てて、これまでの学生生活を捨てて今日まで生きてきたのだ。報われなさすぎて、見てるこっちが耐えられん」

 

 その言葉に最初の怒りは一気に冷やされたかのように、皆が同様に俯く。

 十六夜と白夜叉だけは正面から蚩尤を見ていた。

 あからさまな落ち込み具合に、〝蚩尤〞は嗤う。

 

「そろそろワシも限界だ............テメーら、全員、皆殺しにしてやろうか?」

 

 その瞬間、突然、〝蚩尤〞が現人格の亜音が机に頭突きをした。

 その行動に皆が目を見開き、度肝を抜かれて驚愕する。

 いきなりあの偉そうな〝蚩尤〞がそんな行動をしたのだから、誰でもそうだろう。

 

 

 その頃、精神世界ーーーーーー王室の間では、〝蚩尤〞と亜音が相対していた。

 

『勘違いするな、俺は毎日、やりたい事をやって夢を追っている、それがただ皆とはスケールが違うだけだ、分かったか“蚩尤”?』

『お、怒るなよ』

 

 戸惑うケンタッ○ーの白髪で黒いサングラスのおじさんを見て、眠りから目覚めた亜音がはぁーとため息をつき、小さく微笑む。

 

『怒ってないよ。それと............別に俺はもう報われてるからな?』

『どうしてだ?』

 

 亜音は最後に日向のような暖かさを持つ笑顔を、〝蚩尤〞に向けて言った。

 

『君が俺の頑張りを知ってくれてるーーーーだから俺はもう報われてる』

 

 亜音はそう言い残し、光の粒子となって消えた。

 つまりは意識を取り戻しに行ったのだ。

 それを見送る〝蚩尤〞の顔は少し寂しさが 漂っていた。

 

『...............亜音..................お前は嘘つきだ』

 

 報われたのならなぜこんなにも亜音の日々は辛いことばかりなのだ。

 まだ成人してもいない少年は、この時点で既に多くの死と戦争に慣れ過ぎている事は、はっきり言って異常だ。別世界に来てもなお異彩を放っている事がその証拠だろう。

 ケンタッ○ーおじさんの〝蚩尤〞は最後にそう呟くと、精神世界の王室の間から重い足取りで出ていくのだった。

 

 亜音が目を開き頭を上げると、皆が心配そうに見つめていた。

 そして、怪訝な表情でもあった。

 亜音はその様子を見て、静かに胡座をかき、呟く。

 

「はぁー……………戦神のくせに何故か、義理堅いんだよね、まったく」

 

 雰囲気が劇的に変わったことは誰でも分かった。

 皆がこの時、亜音が意識を戻したことを悟る。

 亜音も皆が悟ったことを悟ると、周囲を見渡し、これは時間を置かないといかん、という結論に至った。

 亜音は立ち上がり静かに伝える。

 

「とりあえず今のは全部聞かなかった事にしてくれ」

 

 そう言って返事を待とうとせず、亜音は来賓室を出て行こうとするが、亜音の目の前に、

 

「ちょ、ちょっと待ってください!亜音さん!」

 

 黒ウサギは声を上げて、立ちはだかる。

 亜音の目に映る黒ウサギは少し涙目だった。余程、キツく言われた のだろうと亜音は悟る。

 黒ウサギはというと、少し肩を震わせて、何を言えばいいかを考えていた。

 謝罪 、感謝 、今の亜音にどう声をかけたらいいか、全く思いつかない。まるで、真っ暗な奈落を覗いて砂粒を探すように。

 

「く、黒ウサギは............その............」

 

 だが、亜音は無表情に告げた。後ろにいる白夜叉や、問題児三人、ジンにも聞こえるように強く。

 

「みんな、大袈裟に捉えすぎだよ?たかだか俺だけの事に何を慌ててるの?別に夜の警護はついでだし、昼はギフトゲーム、夜はトレーニング、睡眠はちょくちょく、これが俺の日課だ、俺のやり方だ、誰にも感謝してほしいとは一切思ってもいないよ?同情なんて必要ないよ?、だから“皆は”気にする必要はない、以上、このお話は“終わり”だ」

 

 和やかなセリフだった。

 だがその言葉には確かな刃があり、皆の心を刺し、切り裂く。

 明確な拒絶を受けたような気がした黒ウサギは、目から色が消える。

 そんな黒ウサギに亜音は、いつもと変わらない微笑みで言った。

 

「じゃあ、俺は今からお風呂入りますから.........あとはお願いします」

 

 その言葉に皆が小さく声を漏らす。

 ようやく気がついたように視線を動かすと、亜音は私服のままだった。

 十六夜とジンも気付けなかったのだ、女性陣が気付けるわけもない。

 亜音は一度、風呂で寝てしまったことがある。風呂に入ればおそらくすぐに亜音は眠りについてしまう。だから亜音は風呂にも“一人”入らずに“笑顔”で皆を待っていたのだ。そのことにも気が付くと、黒ウサギはその場にへたり込んでしまっ た。

 亜音はもうその場にはいなく、貴賓室を出てすぐの所で亜音は女性店員と向かいあった。

 割烹着の女性店員の目を見る限り、全て聞いていたのだろうと亜音は悟った。

 

「あ、亜音さん......」

「どうしたの?困ったことでもある?....よかったら相談に乗るよ?」

 

 いつも通り亜音は微笑み、女性店員に声を掛ける。だがその声には、明らかに他意を感じた、これ以上何も聞かないでほしい、と。

 故に声を掛けられた女性店員はさらに表情を曇らせる。

 

(なんで、亜音さんは............私は亜音さんを助けるために此処にいるのにっ!なんでこんなに遠いのですか………っ)

 

女性店員は少し息を吐くと、初めて亜音と出会った時のような冷たい表情で、事を伝える。

 

「いえ、どうぞ、お風呂に入ってください、服は後で洗濯して置いておきますので」

 

 それに対して流石の亜音も笑顔を消した。

 お互いに壁を作ったような対応をし始める。

 

「そうですか............ありがとうございます。............あ、」

「なんでしょうか?」

「予備の服はありますか?、できれば動きやすいものでお願いしたいのですが」

「どうしてですか?」

「トレーニングを少し…………日課なんだ」

「今日ぐらい休まれては?」

「休みは必要ないしいらないかな、今はただ前に進みたい」

 

 亜音はそう言うと、女性店員の横を通り歩き始める。

 そんな亜音の背に声が掛かる。その声は白夜叉のもので、白夜叉はふすまに背もたれして立っていた。

 

「亜音、お主が医者の関係者なら自己管理もお主の責任じゃろ、だったらしっかり体調管理は」

「だからこそですよ」

「なに?」

 

 亜音は背を向けたまま、後ろへ声を掛ける。

 白夜叉から見ると、亜音の進む先は真っ暗闇だ。まるで、現実の道と心の道が比例してるかのように。

 だが、亜音は光だろうが闇だろうが、“地獄”だろうが関係はない。

 

「だからこそ、俺は自分の体のギリギリのラインを知ってる、現在どうなってるかも誰よりも把握しています。だからこそ、俺は無理の一歩手前まで追い込める。ーーーーー白夜叉様のそれは」

 

 

 

 

「余計なお世話だ」

 

 

 

 

 とても低い声が廊下に響き渡る。

 亜音を止められる者は、誰一人として存在しなかった。いや正確には誰がこんな自分勝手な人間を止めようとするだろうか、答えは否だ、勝手に自滅しろと誰もが思うだろう。

 振り向いた亜音の横顔に光る瞳は、世界の輪廻を描く。

 それに対して白夜叉は少しビクッと肩を揺らす。

 

(少しちびりそうになったわ…………亜音の馬鹿ものが意地を張りよって)

 

 白夜叉は亜音が静かに歩いていく背中を見送り、女性店員の顔色を見て嘆息を天井に向かって溢す。

 その頃のノーネーム一同は沈黙が続いていた。

 飛鳥は、亜音の事を目標の存在で、親しい存在だと思ってた。

 耀は、亜音の事を同じコミュニティの同志、口には出さないけど“友達”だと思ってた。怪我した時も何回も見舞いと容体を見に来てくれていた。

 十六夜は、亜音の事を同志であると同時に、対等に近い存在だと感じていた。

 黒ウサギは、亜音の事を誰にでも優しくできる大切な同志だと思っていた。

 女性店員は、親しい関係で、特別な感情さえ抱いている。

 白夜叉は、素晴らしい逸材で友と言える存在だと思っていた。

 

 

 皆それぞれに、亜音と親しいつもりでいた。

 

 

 だが、今、明確な距離を知った。

 いや、亜音との間には大きな溝があり、一定の距離には近づけない。定められた距離があったのだ。近づいても、いつの間にか距離ができている。まるで、亜音が反射で距離をとっているかのように。

 例えるなら、視界は前に固定され首を動かせない者が、足元近くまで近づいてきたモノを見ようとして反射で後ろに距離を取るかのように。

 そして、白夜叉は亜音を明確に〝怖い〞と感じた。

 分からないからだ、闇に転ぶのか、光に転ぶのか。わからないこその恐怖。前にも似たような事を抱いたが、今回はより明確的だった。

 十六夜は貴賓室を見渡す。

 黒ウサギはヘタレ込み、飛鳥と耀も心ここに在らずだった。

 ジンはというと悔しそうに握りこぶしを作り震えていた。無理もないだろう。ここまで亜音に気を使わせていた事に、〝ノー ネーム〞のリーダーであるはずの自分は一切その事に気が付けなかったのだ。

 だが、十六夜自身を除いてなら、まだマシな精神状態だと、十六夜は感心するがーーーーーーさあて、こんな状態で魔王を倒せるのか先行きが怪しくなるのを十六夜は感じるのだった。

 

 

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