新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

27 / 75
第十二話「魔王襲来、動き始める者達」

 ーーーー境界壁・舞台区画。〝火龍誕生祭〞運営本陣営。

 

 

 

 一言でーーーーー亜音は問題を先送りにした。

 つまり、いつも通りの笑顔で皆に声を掛け、昨日のことはなかったようにしたのだ。

 最初は皆、変に挙動していたが、元気な亜音の声に少し肩の力を抜けていった。

 でも一つだけ気になることがあった。それは、亜音がいつも腰に巻いている黒いポーチに入っていた白いマスクを顔につけていたからだ。時折、咳き込む様子もあった。風でも引いたのだろうかと心配したが亜音はそこで、『少し体調が崩れただけ、魔王との闘いを終えたら休ませてもらうよ』と言ったので、黒ウサギや十六夜、その他の者もそれ以上言及は出来なかった。したとしても、また突き放されるのがオチだと思っていた。

 まさにその通りで、ぶっちゃけ亜音の言葉は嘘である。睡眠時間は いつも通りの時間だけ取る、亜音はそう決めていた。

 その後、割れるような歓声が響く舞台区画、運営側の特等席に耀以外の〝ノーネーム〞一同が腰掛けていた。本当は一般席で見る予定だったのだが、サンドラの取り計らいにより、舞台を上から見ることのできる本陣営のバルコニーに席を用意してくれたのだ。

 その際、マンドラが亜音を見て、

 

『ふん、脆弱なクズが.........せめて足手まといにはなるなよ』

 

 亜音はそれに対して一切反論せず、それどころか笑顔さえ浮かべて小さく会釈する。その様子に白夜叉、飛鳥、十六夜は微妙な表情をする。言い返すべきなのだろうが、いかんせん、自分達もマンドラ同様、 彼のことに対して無知だったので人の事が言えない。

 バルコニーの席には、右奥から飛鳥、リリ、亜音、十六夜、白夜叉 という順で座っている。

 そこで、舞台中央に立つ黒ウサギが胸一杯に息を吸い、円状に分か れた観客席に向かって満面の笑みを浮かべつつ声を張り上げる。

 

『長らくお待たせいたしました 火龍誕生祭のメインゲーム・〝造物主達の決闘〞の決勝を始めたいと思います!進行及び審判は〝サウザンドアイズ〞の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお務めさせていただきます♪』

 

 黒ウサギが満面の笑みを振りまくと、歓声以上の奇声が舞台を揺らした。

 

「うおおおおおおおおおお月の兎が本当に来たぁああああああああ!!」

「黒ウサギいいいいい!!お前に会うために此処まで来たぞおおおおお!!」

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 割れんばかりの熱い情熱を迸らせる観客。

 黒ウサギは笑顔を見せながらもへにょり、とウサ耳を垂れさせて怯んだ。

 何か言い表せない身の危険を感じたのだろう。その様子に飛鳥と亜音は同時に心の中で同情した。

 十六夜はその有象無象の観客席の声を聞き、ハッと重要な事を思い出す。

 

「おい、白夜叉。黒ウサギのミニスカート、あれはどういう事だ?チラリズムなんて趣味が古すぎだろ、アホとしか思えねえぞ?」

 

 そう言われた白夜叉は、“双眼鏡”に食らいついていた視線を外して不快そうに一瞥する。その表情には、同好の士に対する明確な落胆の色が見え隠れしていた。

 

「フン、真の芸術を知らぬとは、その程度の漢だったか」

「なに?」

「真の芸術とは、謎という名の神秘性 、見えてしまえば下品な下着達も見えなければ芸術!つまり、何物にも勝る芸術とは即ちーーーーー 己が宇宙の中にある!」

 

 白夜叉の背景に無限の可能性を宿す銀河が広がり、ものすごい効果音を聞いたような錯覚を十六夜は感じて硬直する。

 

「なっ............己が宇宙の中に、だと............!」

 

  おまけに、

 

『白夜叉ーーーーーー貴様の名、真の芸術家として覚えておこう』

 

 亜音は内側から聞こえた声に表情に出さないで呆れ、十六夜と白夜叉のやり取りに言いようのないバカらしさを感じていた。

 リリも苦笑して、サンドラに至っては本気で白夜叉の身体を心配していた。そこは頭を心配してやるべきだろう。追加で十六夜の事も。

 しかし、そんな周囲に後ろめたさを一ミリたりも感じずに十六夜と白夜叉は、真剣に双眼鏡を覗き込み、奇跡の瞬間を見守るのだった。だから見えないから、と亜音は苦笑いを噛み締めた。

 

『それではご入場していただきましょう!第一ゲームのプレイヤー・〝ノーネーム〞の春日部耀と、〝ウィル・オ・ウィスプ〞のアーシャ=イグニファトゥスです!』

 

 

 黒ウサギの言葉を合図に、両者がバルコニーの目下、舞台上に入場 する。

 耀が先に手を振りながら現れ舞台に上がり、その直後ーーー耀の眼 前を高速で駆ける青き火の玉が横切った。

 

「YAッFUFUFUUUUuuuuuu!!」

「わっ..................?!」

『お嬢!?』

 

 ドスン、と耀は堪らず仰け反り尻もちをついた。それを舞台袖で見守っているジンとレティシアと三毛猫の内、三毛猫が声を上げた。

 耀はそのままの姿勢で、舞台上の周りを浮遊する火の玉を見る。すると、火の玉の上に仁王立ちしている人影があった。

 強襲した人物ーーーー〝ウィル・オ・ウィスプ〞のアーシャは、ツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートを揺らしながら、愛らしくも高飛車な声で嘲った。

 

「あっははははははははは!見ろよ、〝ノーネーム〞の女が無様に尻もちついてるぜ?ふふふ。さあ、素敵に不敵にオモシロオカシク笑ってやろうぜ?ジャック!」

「YAッFUFUFUUUUUUuuuuuuuuuuuuu!」

 

 ドッと観客席の一部から笑いが起きた。対戦相手であるアーシャ以外にも、栄えある舞台に〝ノーネーム〞が立つことを不満に思っている者達がいたのだろう。

 しかしそんなものを気にする者は〝ノーネーム〞の中に誰一人いなく、笑われた本人の耀はむしろ別の事が気になり、視線を自然と火の玉の中心に見えるシルエットに釘付けだった。

 

「その火の玉............もしかして、」

「はぁー何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒にすんなし。コイツは我らが〝ウィル・オ・ウィスプ〞の名物!幽鬼 ジャック・オー・ランタンさ!」

 

 アーシャは自分が立っている火の玉へ合図を送る。すると火の玉は取り巻く炎陣を振りほどいて姿を顕現させる。その姿に耀のみならず、観客席の全てがしばし唖然となった。

 轟々と燃え盛るランプと、実体のない浅黒い布の服。

 人の頭の十倍はあろうかという巨大なカボチャ頭。

 その姿はまさしく、飛鳥が幼い日より夢見ていた、カボチャのお化けそのものだった。

 途端に飛鳥は、嬉々に騒ぎ始め、十六夜とリリは小さくその様子に笑う。

 

 だが亜音は一人、目下の、“意思を持った創作物・ジャック・オー・ ランタン”を見て、眉を顰める。何かが亜音の中で引っかかっていた。

 そして、亜音は幾つか、重要な事柄を思い出す。

 

 白夜叉が魔王襲来対策のために、自身の〝主催者権限〞を用いて作り上げた祭典の参加ルールの条件。

 簡単に書き下すと、

 舞台区画内・自由区画内でのコミュニティ間によるギフトゲームは禁止。

 “主催者権限”を持つ参加者は、祭典のホストに許可なく入るのを禁止。

 祭典区画内で参加者の〝主催者権限〞の使用を禁止。

 祭典区域にある舞台区画・自由区画に参加者以外の侵入を禁止。

 この四つが条件である。

 ・今回の敵が〝ハーメルンの笛吹き〞の魔道書だという可能性。

 ・〝サウザンドアイズ〞旧支店から此処までの道の間に無数に置かれていた、ハーメルンの笛吹きを模したステンドグラス。

 ・金髪女性の残した『天災が迎え入れられる』という言葉。

 

 亜音が深い思考の海に囚われている間に、始まっていた耀のギフトゲーム、その模様が映っている宙に浮く水晶玉を少し見つめたあと視線を落とし、左手で右腕のある部分をさすっていた。

 亜音はそこで顔を上げ、横目でサンドラとマンドラを見る。二人はギフトゲームを静かに見つめていた。

 数秒で視線を水晶玉に戻した亜音は、先ほど上げた材料に、さらなる情報を付け加える。

 ・飛鳥が昨日、襲われた場所。それが……………“美術工芸の出展物”が飾られていた会場。

 

 

 もはや亜音は一人、〝魔王襲来〞という事件が起こる前にーーーーーー。

 

 

####

 

 

 春日部耀の降参宣言により、ゲームに決着がついた。

 その瞬間、会場の舞台はガラス細工のように砕け散り、円状の舞台に耀達は戻って きていた。その目下の様子に飛鳥は気落ちし、軽快に十六夜は笑って慰める。

 そして、中央に控えていたサンドラと白夜叉は励ましの言葉を〝 ノーネーム〞一同に掛けた。

 バルコニーは暖かい空気に包まれ、目下の耀とアーシャ、ジャック達も新たなライバルとして快く話していた。

 だが、その時だった。

 最悪な事に、ちょうど亜音が全てを悟り、皆にそれを伝えようとした時でもあった。

 亜音と十六夜は、同時に空を見上げて目を見開く。 十六夜は怪訝な表情で白夜叉に問う。

 

「..................白夜叉。アレはなんだ?」

「何?」

 

 白夜叉も上空へ目を向ける。観客の中にも異変を感じた者達が声 を上げていた。

 遥か上空から、雨のようにばら撒かれる黒い封書。黒ウサギはすかさず手にとって開ける。

 黒き封書の雨、黒く輝く〝契約書類〞、即ちそれはーーーーーー。

 

「魔王が、............... 魔王が現れたぞぉおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!」

 

 

 観客席より、一人の空気が弾けるような叫び声が響き、〝天災〞の 訪れを告げた。

 その叫びをBGMにしながら、亜音は盛大に舌打ちしつつ黒き羊皮  紙に目を通し、やはりと呟くのだった。

 

 

####

 

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〞

 

・プレイヤー・一覧

 

 ・現地点で三九九九九九九外門・四○○○○○○外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

 ・太陽の運行者・星霊 白夜叉。

 

・ホストマスター側 勝利条件

  ・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

・プレイヤー側 勝利条件

 一、ゲームマスターを打倒

 二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下に、ギ フトゲームを開催します。〝グリム グリムモワール・ハーメルン〞印』

 

 

 

 

######

 

 

 そして、亜音は知識量ではなく、国語の読解力と経験を駆使し、悟る。

 “誇りと御旗と主催者権限の名の下に、ギフトゲームを開催します”。の〝御旗〞という部分。

 十六夜と黒ウサギが命令権を賭けて行ったギフトゲーム、個人でやり取りした〝契約書類〞と見比べれば一目瞭然である。

 つまり、敵は、魔王と少数部下ではなく、旗と誇りを掲げる“コミュ ニティ”を背負う魔王。

 

 戦争が始まる……………………亜音は静かにそう呟いた。

 

#####

 

 

 境界壁・上空2000m地点。

 

 

 遥か上空、境界壁の突起に四つの人影があった。

 一人は露出が多く、布の少ない白装束を纏う女。白髪の二十代半ば程に見える女は二の腕程の長さのフルートを右手で弄びながら、舞台会場を見下ろす。

 

「プレイヤー側で相手になるのは............“サラマンドラ”のお嬢ちゃんを含めて四人ってところかしらね、ヴェーザー?」

「いや、三人だな。あのカボチャは参加資格がねぇ。特にヤバイのは吸血鬼と火龍のフロアマスター。ーーーーーあと事のついでに、偽りの〝ラッテンフェンガー〞も潰さねぇと」

 

 そう答えたのは、対象的に黒い軍服を着た、短髪黒髪のヴェーザーと呼ばれた男。その手に握られた笛は白装束の女とは違い、長身の男と同等の長さである。楽器としては明らかに常軌を逸した長さだ。

 そして三人目は、外見が既に人ではない。

 陶器のような材質で造られた滑らかなフォルムと、全身に空いた風穴。全長五十尺はあろうという巨兵のその姿を安易に例えるならば、擬人化した笛といったところだろう。顔面に空いた特に巨大な風穴は、絶えず不気味な鳴動を周囲に放っていた。

 その三体に挟まれる形で佇む、白黒の斑模様のワンピースを着た少女。

 斑模様の少女は三体の顔を一度ずつ見比べ、無機質な声で宣言する。

 

「ーーーーーギフトゲームを始めるわ。貴方達は手筈通り御願い」

「おう、邪魔する奴は?」

「殺していいよ」

「イエス、マイマスター♪」

 

 

#####

 

 

 東北の境界壁・自由区画。巨大な時計塔。

 尖塔の時計前。遠くから見ればおそらく、その大きな時計に白き翼が生えているように見えるだろう。だが、正確には違う。

 時計の前に一つの人影が浮遊して存在し、その者の背から生えていた。

 その者は、背を隠し満たすような金色の髪を後頭部で結い、長く垂らしてカーテンの如く靡かせる。さらに何処かの姫君のような白と黄色の華やかなドレススカートに、白きブーツを着用し、その背には艶のある金色のカーテンを押し退けて、白く天使のような翼が生えている。

 その者はふと、伏せていた瞳を開き、凛とした鋭い白夜の瞳で悲鳴が聞こえる舞台会場を見下ろす。そして、その女性は右手に持つ、金色の剣を模したような紋章が描かれた黒きギフトカードに目を落とし、顔に影を指す。

 何か思い詰めているのか、纏う空気が重い。

 

「始まった............か、......そして、今ここには三匹の魔王がいる.........」

 

 女性はクールな雰囲気を放ちながらギフトカードをしまい、朱色の街々を眺める。

 辺りからは断続的にあらゆる者達の悲鳴が聞こえ、〝天災〞の脅威さを伝えた。

 魔王こそが、箱庭に恐怖と悲しみ、理不尽を運び込む害虫。命の幸福を貪り尽くす悪魔。

 それを打ち払うのが、自身の役目だとでも言うかのようにーーーーー女性は宣言した。

 

「我、ワルキューレの騎士としてここに誓うーーーーーー全ての魔王を殲滅する」

 

 その言葉を心の中で再度復唱した女性の白き月のような瞳は、憎悪に満ち満ちるかのように紅く黒い艶を殺意と共に宿し、途端に天使の羽毛が舞い散る。

 

 

 そこにはもう女性の姿はなかった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。