新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
「一つめ、ゲームに期限を付けます。今日をいれて三日後、つまり再開は四日目。ゲーム終了は、その日の夜中の零時。そして、ゲーム終了 と共に主催者の勝利とします」
「二つ目、我ら〝ノーネーム〞、黒ウサギ、逆廻十六夜、ジン=ラッセル、そして榊原亜音の四名のうち、一人でも降伏または死亡した場合 も主催者側の勝利とします」
その言葉に誰もが耳を疑った。
特に二つ目の条件は、相手に保険を用意してあげたようなもの。
最悪、一人を集中狙い、人質にしておけば、もはや勝ちは決まったも同然。
マンドラが机を叩き、険しい表情でジンに叫ぶ。
「おい、ふざけるなよ貴様!それで負けたら」
そんなマンドラを十六夜が手で制し、仲間割れを起こしてる様子に ペストは不敵に笑いつつジンに問い掛ける。
「へぇーでもいいの 、その四人のうち一人は、もはや死人でしょ?それにジン、貴方もその四人に入っているけど?」
そんなのは重々承知だ。
本当だったら、サンドラと耀を入れたかった。だけど、それでは相手が交渉に応じない。
だから、大丈夫な二人に、ハンデの二人をわざわざ入れたのだ。
ジンは頬に小さな汗を流しながら、口角を上げて言う。
「そちらこそいいんですか?これで負けた場合、恥をかくのは貴女方です。それともこれだけ譲歩しても、負けるのが怖いですか?」
「ふふ、言うわね.........いいわ。その条件、呑みましょう」
マンドラが苦い顔をする。
もはや、こうなっては撤回は不可能だ。
そして、ペストは怪しげな笑みを浮かべて、問う。
「ねぇ、ジン。貴方は本気で私に勝てると思っているの?」
「勝ちます、我々は魔王に屈する気は毛頭ありません」
間髪開ける事無く、ジンが即答する。
それは、脊髄反射に近い答えだったのかもしれないが、それでも自分の同士が負ける事など疑わない澄み渡った瞳をしていた。
ジン自身も負ける気は一切ない。
必ず謎を読み解く、そんな気迫をジンは放っていた。
それが余計に─────ペストの神経を逆撫でした。
「....................................そう。良く分かったわ」
ペストは不機嫌な顔を一転させ、にっこりと笑った。
そんな華が咲いた様な笑顔で、
「宣言するわ。貴方は必ず─────私の玩具にすると」
瞳は壮絶な怒りを浮かべた。
次の瞬間、激しく黒い風が吹き抜け、参加者達が顔を庇う最中、主 催者─────〝黒死斑の魔王〞は消え、一枚の黒い〝契約書類〞だけが残った。
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マンドラが物凄い形相でジンを睨みつけながらサンドラと共に貴賓室を出て行く。
貴賓室に残っているのは、十六夜、黒ウサギ、ジンの三人。
ジンは静かに、榊原亜音の余命宣告を二人に語った。 黒ウサギはそれを聞くや地に座り込み、十六夜自身も期限を一週間にしようとし、危うく亜音を見殺しにするとこだったので、肝を冷やしていた。
「そういうことは早く言っとけよ」
「うっ.........すみません」
十六夜は頭を掻き、つい悪態を吐いてしまうのだった。
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ーーーーー境界壁・舞台区画・暁の麓。美術展、出展会場。魔王側 本陣営。
交渉から三日目の朝。
ペスト、ラッテン、ヴェーザーの三人は交渉の後からずっと展示会場の奥、大空洞に居座っていた。展示会場の美しい造形のキャンドルランプや燭台、ステンドグラスを愛でていたラッテンは、気に入ったものを大空洞の中心に集め、うっとりと鑑賞している。
特に、〝ウィル・オ・ウィスプ〞制作の燭台はお気に入りらしく、優しく撫でていた。
しかし、ラッテンは一転してため息を吐き、
「あーあ、残念だなーあ、そうだ!今からでもジャックを巻き込もう」
「馬鹿か」
「ぬっ!」
「あのな、ジャックは俺達と同じ方法で祭典に“招かれ”てんだぞ。書き換えるのは種明かしをするのと同じだろうが」
「それはそうだけど、マスターはどう思いますー?」
「カボチャは匂いが嫌い」
そこか。マイペースなマスター少女に側近の二人は同時に苦笑した。
ペストは白黒斑のワンピースを整え、キャンドルランプの蜻蛉を静かに見つめ続けている。交渉テーブルではアレだけ饒舌だったというのに、此方から話しかけない限りは決して口を開くことはない。そんなツンデレなマスターを気遣ってか、ラッテンはよく彼女に話しかけていた。
「あれから三日。徐々に感染者が発症し始めているみたいですねぇ」
「そうね」
素っ気ない返答をするペスト。何かこう頬をつねって見たくなるラッテンだったが、ツンデレの反発によって殺されるのはごめんだったので、ラッテンはやや拗ねたように唇を尖らせた。
「あーあ。何もかも順調なのに、消えた鉄人形と逃げ出したお嬢さんは見つからないですねー」
そう、実は捉えられていたはずの飛鳥は何処かに消え、それどころか、あの超巨大出展物さえも消え失せたのだ。
ラッテンは、まぁ、そんなことは今はどうでもいいという感じで、言葉を続ける。
「それにマスターは相手してくれないしぃ。暇だなー暇だなー。せめて〝白雪〞か〝灰かぶり姫〞の連中がいれば、傘下に入れた連中を使って面白おかしいオペラでも演じさせたのにぃ」
「............?〝白雪〞と〝灰かぶり姫”?」
珍しくペストが自発的に問い返す。
お?とラッテンはパァッと顔を明るくして主に説明した。
「魔道書シリーズのグリム童話出身で、私達と姉妹になる魔書です。 まあ賑やかな連中でしてね。毎夜毎晩、楽団気取って馬鹿騒ぎしてたんですよ。魔法の靴を小人に履かせて、灼熱の上でタップダンスを踊らせたりね」
「ああ、アレは笑えたな。灰かぶりの奴は陰気だったが、ユーモアのセンスは中々だった」
クックックと口を押さえて笑う側近の二人。 共有する思い出がないペストは小首を傾げるばかり。
「............〝幻想魔道書群〞って、楽しいコミュニティだったの?」
「それはもう!何せ前のマスターの場合は魔王になった理由からして頭悪かったですよ」
「〝俺が魔王になり、怠惰な神々に代わって箱庭を華々しく飾ってやろう 〞って......感じの人でな。初めはとんだ外れくじを引かされたもんだと頭を抱えたが.........イヤイヤどうして。最後のその一瞬まで、魔王の名に恥じない散りざまだった」
側近の二人から笑顔が消える。
幾星霜の彼方、過ぎた日を顧みる二人の瞳は、少し寂しげに遠いものとなった。
「.........ああ、そうだマスター。一つ大事な話をしておきます」
「何?」
「貴女は魔王としてギフトゲームを開催しました。今後、多くのコミュニティに狙われることになるでしょう。魔王として戦って戦って、そしてやがてーーー“必ず没します”」
「“必ず”な」
「...............」
「この神々の箱庭に於いて魔王とは、そういう“システム”だとご理解ください。如何に強大、如何に凶悪、如何に尊大であろうと............いずれ必ず、何者かに滅ぼされる。相手が英雄であるか、神仏であるかは問いません」
「何つっても、上を見たらキリがねぇ。上層は修羅神仏の蠢く魔境。しかし魔王となる以上、上を目指し続けなきゃ生き残れない。俺達は箱庭の秩序の外に身を置く代償に、いずれ秩序を正す者に〝滅ぼされる運命〞を背負うのさ...........ま、前のマスターの受け売りだがね」
ヴェーザーは展示の鉄柵に腰掛け、おどける様に肩を竦める。
「〝滅ぼされる運命〞.........そう。.........二人は前のマスターが好きだったのね」
「いい男でしたから。本拠だって、ノイシュヴァンシュタイン城に負けないぐらい豪奢な造りのをポポポーン!!と指先一つで召喚するような凄い人でーーーーー?」
と、嬉々と語っていたラッテンの声が止まる。
不意にそっぽを向いたペストを訝しげに思い、その顔を覗き込む。
すると彼女は愛らしい顔を、ぷくっと膨らませて拗ねていた。
「あらあら...............マスター?どうしました?珍しく仕草が可愛いですよ♪」
「そういう貴女は普段通りむかつくわね、ラッテン」
毒を吐いて展示会場のベンチに座り、パタパタと足を揺らす。ラッ テンも馬鹿ではない。
拗ねる理由が分からないわけではないが、今は素直に嬉しかった。
「やーですねえマスター♪ 今の私達は主一筋ですよー?」
「ああ。グリムグリモワールの名を担ぐ魔王なんざ、もうアンタを除けば他にはいねえだろうしな。...............故に最後まで忠を尽くす。それだけは決して違わねえ」
たとえ必滅を約束された魔の道であろうと、その一瞬まで尽くしてみせると契約する。
仄かに揺れる蜻蛉の向こうで、〝黒死斑の魔王〞は瞳を閉じ、その言葉を静かに噛み締めるのだった。
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ーーーーーー境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営。隔離部屋個室。
加工されたように濃くテカる木製の扉の前で、二人の少女が並んで立っていた。
一人はリリ、もう一人はメイド服のレティシアだった。
二人とも容姿端麗で可愛いのだが、纏う空気がそれを台無しにしていた。
まるで、お葬式の日のように重たい。まだ死人は出ていないのにもかかわらずだ。だがそれでも仕方がなかった。
今、二人が立つ扉の向こうには、〝 ノーネーム〞で誰よりも年上としての役割を確立してきた同志、榊原亜音が死の呪いを受けて瀕死、ずっと意識不明の重体なのだ。
そして─────何より、時折聞こえるのだ。
『う...............うぐぅっ、............くっ!............ぅ』
亜音が悪夢にうなされているかのように苦しい声をあげているのが。
今すぐにでも、側に行きたいのだが、隔離部屋に入ることはできない。
リリは思わず呟いてしまう。
「............大丈夫って、言ってたのに............どうして.........?」
「...............リリ」
レティシアは目を伏せ、優しくリリの頭を撫でることしかできなかったのだった。
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ーーーー境界壁・舞台区画。大祭本陣営、貴賓室。
今日の夜中にゲームは再開される。
しかし、参加者側の意見は以前として、まだ纏まっていなかった。
次々と倒れる同志が隔離されていく姿を見て、士気を高く持つとい うのは困難なことだ。
〝ノーネーム〞の同志の中にも黒死病を発症した者が二人いる。
耀と、そして明日が山場の亜音。
そして何よりも、勝利条件である『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』の一文の考察が、参加者内で未だに統一されていないことも原因の一つだ。
書類の山が積まれている貴賓室のテーブルでジンは一人、盛大にため息をつくのだった。
まさに満身創痍である。
その理由は上記の状況もはいっているのだが、何より、〝ノーネー ム〞の主力が三人も戦力外ということだ。二人は病気、もう一人、久遠飛鳥は囚われの身。
「まだ諦めるのは早い.........!」
ジンはそう言うとテーブルに二枚の紙を広げる。
一枚はーーーージンが考察したメモ。
二枚目、それは新たなルールが追加された黒き〝契約書類〞。
なぜ、二枚目がこれなのか、その理由は“白夜叉”封印の件で、箱庭の中枢に審議した時のことが要因だった。白夜叉の封印、あれは説明不 備には入らなかった。つまり、何処かにそのヒントが契約書類に書いてあるのだと、ジンは推察したのだ。
「とりあえず、復習しよう」
黒い羊皮紙を横にずらし、考察が書かれたメモ用紙に目を通していく。
ラッテン=ドイツ語でネズミの意。ネズミと人心を操る悪魔の具現。
ヴェーザー=地災や河の氾濫、地盤の陥没などから生まれた悪魔の具現。
シュトロム=ドイツ語で嵐の意。暴風雨などによる悪魔の具現。
ペスト=斑模様の道化が黒死病の伝染元であったネズミを操った 事から推測。黒死病による悪魔の具現。
・偽りの伝承・真実の伝承が指すものとは、一二八四年六月二十六 日のハーメルンで起きた事実を上記の悪魔から選択するものと考察される。
そして、確実に偽物なのが、ペスト。
神隠し、暴風、地災。どれもが刹那的な死因であるにも拘わらず、黒死病だけが長期的死因として描かれている。
〝ハーメルンの笛吹き 〞は一二八四年六月二十六日という限られた時間内で一三○人もの生贄が死ななければならない。
『立体交差平行世界論』─────箱庭に呼ぶ召喚式の一種で、多岐結集型。
『異なる自称が時間平行線で起きているにも拘わらず、結果が集約するクロスポイント』
簡単に言えば、サッカーが分かりやすい。
一つのゴールを目指すためにあらゆる戦術と方法を使う、まさにそれが今回、〝ハーメルンの笛吹き〞の召喚式。
子供達を殺すために、あらゆる方法を駆使する、その方法が悪魔として具現化。
それが彼らなのだ。
「だけど、偽りを砕く行為としてペストを倒すのは、第一条件と被っちゃうし...............」
あの契約書類に書かれていた勝利条件は二つ。
ハーメルンの魔王の打倒と、例の謎かけだ。
確かに、あの一文が盛大なブラフだと割り切ってしまうのは簡単だが、それは余りにもリスクが有り過ぎる。
『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』
「多分、この伝承は一対の同形状の物語で、〝砕き〞〝掲げる〞事が出来る物。考えられるのはハーメルンの碑文と共に飾られた、ハーメル ンのステンドグラス。つまり、街中に無数に置かれていたハーメルン の絵が描かれたステンドグラスのこと............」
そして、今回のゲームには参加者でも主催者でもないにも拘らず、 祭りに参加できる別枠が存在していた。
─────〝主催者権限を持つ者は、参加者となる際に身分を明かさねばならない〞
─────〝参加者は主催者権限を使用する事が出来ない〞
─────〝参加者でない者は祭典区域に侵入出来ない〞
これらのルールに抵触せず、尚且つ独立した意思を持つ参加枠とはつまり、
「...............美術工芸の出展物。魔道書の正体は複数枚で語られるステンドグラス状の魔道書だと思う」
これはまず間違いない。
なぜなら、サンドラに確認を取ったところ、十六夜達とは別枠の〝 ノーネーム〞名義で出展されたステンドグラスが、一○○枚以上も登録されていた事が判明したのだ。
ジャックがその一例だ。彼は出展されたギフトの一つでありながら、独立した意思を持って火龍誕生祭に参加している。
此処までは順調だったのだが、
「多分、展示された偽りのステンドグラスを全て砕いて、本物を掲げろって事なんだと思うんだけど......肝心の.........真偽の目処が迷走中、ペスト以外のどのステンドグラスを砕いて掲げればいいのか、........それにステンドグラスは...百枚以上もある......ハァ〜」
ジンは、口から魂が抜けそうになるくらい参っていた。
とりあえず、考察メモをどけて次に行こうと、切り替えようとした所で、
コンコン!
「ジン坊ちゃん、黒ウサギですが、入ってもよろしいですか?」
「あ、ああ、うん!」
「では失礼いたしますーーーお茶を持ってきました」
黒ウサギは丁寧に入室して扉を閉め、片手には二つのカップが乗っ たシルクのトレイを持っていた。
ジンは軽く資料を横に片付けて、そこに黒ウサギがカップを置く。
すると、紅茶のいい匂いがジンの鼻をくすぐり、疲れた身体に染みていく。
「はぁ〜...............あ〜」
ジンは匂いを堪能しただけで脱力する。
その様子に黒ウサギは苦笑して、話しやすいように反対側に座る。
ジンは何とか口に紅茶を含み、飲み込んだ。
「それにしても、驚きましたのですよ」
「ん?」
黒ウサギがジンを暖かい目で見つめて、そう言ってきたので、ジンはついそわそわしてしまう。
まるで、親子だ。実際には百年以上、年の差があるのだが。
「審議決議の時のことです」
「ああ〜............うん、ごめんなさい」
ジンは卑屈に口角をあげて言う。もはや哀愁さえ漂っていた。
それは無理もなかった。ゲームの条件を見た他のコミュニティからは、もれなく暑い視線を今日までずっと貰ってきたのだ。
その度に十六夜が助けてくれたのだが、やはり影ではひどい風当たりだった。
そんな中で不屈に、ゲームの謎を解いてこれたのは、昔の自分からしたら奇跡だった。
でも、そんな自分を成長させ、変えてくれたのは亜音と十六夜で、皮肉にも病気で倒れた亜音のおかげだったりもする。
ジンは自分が恥ずかしくて仕方なかった。
だが、そんなジンを黒ウサギは笑って、首を振り否定する。
「そうではないです............ジン坊ちゃんのおかげで、亜音さんが助かる可能性が残ったのですよ?だから、黒ウサギはジン坊ちゃんに感謝しているのです」
「黒ウサギが............僕に?」
「はい。だってもし、ジン坊ちゃんがいなければ、亜音さんは............だから、十六夜さんも耀さんもレティシア様も、リリも、みーーーんな感謝しているのですよ」
「黒ウサギ...............」
ジンは黒ウサギの元気な声にあてられて、心に力が湧き上がってく るのを感じた。
こんな頼りない自分が、仲間から感謝される。
初めての体験、この時、ふとつい思ってしまった。
リーダーの任を負ってよかったかもしれないと。
「ありがとう、黒ウサギ ............僕、頑張るよ、必ず亜音さんを救ってみせる」
「少し違います」
「へ?」
黒ウサギが人差し指を立ててそう言ったので、ジンは少し戸惑った。
そんなジンを見て、黒ウサギはにこやかに微笑みかけ、自信満々な態度で、
「皆で必ず亜音さんを、飛鳥さんを、耀さんを、皆を、全員で助けましょう」
「は、はい!」
ジンは姿勢を正し、気合いの入った声を上げるのだった。
三十分後〜
「もう...............ダメで、す...............頭が痛い、のです.........よ」
「分からない...............わからない、わから」チーン
二人は分厚い本に顔を埋め、盛大にダウンしていた。
さっきまでの威勢はどうしたよ、と外野から聞こえてきたような気がすると、二人は思うのだった。
そこで、ふとジンは顔を上げて、黒ウサギに問う。
「そういえば、白夜叉様は?」
その言葉に黒ウサギはうさ耳を張り立たせ、本から顔を離し、視線を上に向けて考え込むように口を開く。
いつもならスラスラと言えることなのだが、いかんせん、資料の読みすぎで英語で発音してしまいそうなくらい頭がパンクしていた。
「えーと、確かですね.........白夜叉様はそこの〝契約書類〞通り、封印されたままバルコニーに居るのですよ、ただ封印されている間は接触 禁止なので、詳しい様子までは.........でもあのお方の事です......おそらく.........今頃は寝ていると思いますよ」
「さすが............白夜叉様」
ジンは苦笑して、手に黒い羊皮紙を持つ。
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『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〞
・プレイヤー・一覧 現地点で三九九九九九九外門・四○○○○○ ○外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニ ティ(〝箱庭の貴族〞及び〝箱庭の御子〞を含む)。
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊 白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)
・プレイヤー側・禁止事項
・自決及び同士討ちによる討死
・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出 を禁ず
・休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より500m四方に限る。
・ホストマスター側 勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害
・四日後の零時を迎えると無条件勝利
・黒ウサギ、逆廻十六夜、ジン=ラッセル、榊原亜音の四名のうち一人でも屈服または死亡した場合、無条件勝利
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスターを打倒
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ
・休止期間
・三日間を、相互不可侵の時間として設ける。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下に、ギ フトゲームを開催します。
〝グリム グリムモワール・ハーメルン〞印』
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「太陽の運行者・星霊 白夜叉......長いなぁ〜.............................. あああん!?」
「ひゃああ?!...ど...どうしたのですか、いきなり............」
黒ウサギはひぃっと、声を上げながら怪訝な表情でジンを見る。
ジンの頭の中が少し心配になる。
当の本人は、黒い羊皮紙をずっと真剣に見つめていた。
そして、呟く。
「どうしてわざわざ、〝太陽の運行者〞が入ってるんだ?」
「へ?」
「ほら、ゲームマスターの名前、〝白夜叉〞で充分なのに」
ジンの申し出に黒ウサギはピコんと、うさ耳を立て、あ!と声を漏らす。
ジンは一人、思考の海へと入り込む。
もし、自分の推察が正しければ、全ての辻褄が通る。
そのポイントは、彼女が神霊である可能性。
〝歴史の転換期〞を起こしたもの、あるいは重要な役割を占めるものは(後者はその信仰により)高い霊格を得る。
神霊はその性質から星の“年代記”に守られているため、生半可な方法では殺せない。
年代記に沿った倒し方をする、あるいは、一撃で人類史を破壊し尽くす大規模な超破壊能力。
つまりだ。 まさにこのギフトゲームは、“十四世紀から始まる寒冷期”に大流行した黒死病を舞台としたギフトゲームなのだ。
ペルセウス同様、伝承になぞられたギフトゲーム。
“寒冷期”という隠された年代記の設定に、太陽である白夜叉は封印されたのだ。
そして、ペストが大流行した理由は他にも幾つかあるが、彼女の黒死病の大流行が許されている理由は、太陽が寒冷期であること。
つまり、太陽の力こそ、彼女の弱点。
太陽が復活すれば、彼女の力は使えない。
たとえ、白夜叉が封印されたままでも、他にも太陽の力を持つ者は存在する!!
ジンは思わず立ち上がり、部屋を出た。
途中、後ろから黒ウサギの声が聞こえたが、ジンは無我夢中だった。
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ーーーーーー境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営。隔離部屋個室。
十六夜は耀の隔離部屋からいつも通りの勇ましい顔で出ると、そこへ息を切らしたジンがやって来た。
ジンは十六夜の目の前で立ち止まり、息を何とか整え、顔を上げる。
十六夜はジンの真剣な顔を見て、悟る。
「どうやら、御チビもゲームの謎を解いたようだな」
「え?じゃあ、十六夜さんも?」
「ああ、確信の領域に達したぜ?」
その言葉にジンは安堵しつつも、少し残念そうに口を開いた。
「さすがは、十六夜さんです。僕のは全部、推測です.........はぁ」
「推測?」
逆に十六夜は不思議がる。
自分の考えからすると、自然と確信の域にいくはずなのだがと。
それとも、別の方向から、その考えに至ったのか。
十六夜は興味深く微笑み、ジンの肩に手を置く。
「とりあえず、二人の考えを言い合い、まとめるか」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ、落ち込んでる暇も呆気に取られている暇もないはずだ。俺達は負けられないんだろ?」
「............」
十六夜はそう言いながらジンに背を向けて、手で早く来いと振り、 豪奢で明るい廊下を歩いていく。
その背を見てジンは表情を明るくして、確かな一歩を踏み出し、十六夜に告げた。
「次は負けませんよ!十六夜さん」
「へぇー .........おもしれえ............その言葉、宣戦布告として受け取るぜ」
「はい!」
今までとは違い、押されて前を歩くのではなく、自分の意思でジン は十六夜と並んで廊下を歩いていくのだった。
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審議決議が行われた日。とある暗き大空洞。
ジメジメと空気が支配する洞窟のような場所で、囚われの身だったはずの飛鳥は、蛍の光のような光球に囲まれ、その光球と会話をして いた。
その光球達ーーーー群体精霊。
天災によって命を落とした者達、ハーメルンで犠牲となった一三○人の御霊が精霊へと昇華した姿。
ーーーー〝ウィル・オ・ウィスプ〞のアーシャのように、天災や天変地異で亡くなった魂は、時にその魂の形骸を肥やしとして新たな超常存在へと昇華する。人の身から精霊へ、転生という新たな生を経て、霊格と功績を手に した精霊群。
それが彼ら〝群体精霊〞の正体。
飛鳥は見上げるーーーーー身の丈三十尺はあろうかという紅い鋼の巨人。
紅と金の華美な装飾に加え、太陽の光をモチーフにしたと思われる抽象画を装甲に描いているその姿は、例えようもなく派手だ。加えて人間の倍はあろうかという巨大な拳と足。寸胴な頭と体。
つい飛鳥は唖然とする。迫力が半端ではなかった。
そこへ群体の声が響く。
「決戦までの残り三日間。それまでに彼ーーーー〝ディーン〞を服従させること」
「それがこのギフトゲーム。貴女の〝威光〞で、鋼の魂に灯火を」
刹那、伽藍洞の巨躯に熱が灯り、気迫が迸る。
鳴動する紅い鋼は地響きを上げて、不気味な一つ目を輝かせる。
紅い巨人は天地を震撼させるような産声をあげ、機動する。
「ーーーーーDEEEEEEEEeeeEEEEEEEEEEEEEN!!」
伽藍洞の身体をしならせ、紅き鋼の巨人『ディーン』が吼える。
死の病にも倒れない、永久駆動の魔人が立ち上がる。
圧倒的な存在感を放つ『ディーン』を前にした飛鳥はーーー笑う。
不敵に素敵に飛鳥は笑う。こんな時を私は待っていたのだと叫ぶように!
「ふふーーーーいいわ。来なさい!ディーン!!」
対魔王に向けて、飛鳥の試練が始まった瞬間だった。