新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第十六話「始まるーーーー舞い降りた白と金の輝き」

 

 ーーーーー境界壁・舞台区画・暁の麓。美術展、出展会場。魔王側 本陣営。

 

 

 ゲーム再開までーーーー残り二時間。

「ねぇマスター 、一つ気になるんだけど」

「何?」

 そろそろギフトゲームが再開される。

 そのためか、ラッテンは美術工芸作品を愛でるのをやめ、自分達の 〝契約書類〞、黒い羊皮紙に目を通していた。

 ペストは相も変わらず、ベンチに座ったまま無愛想にしている。

 

「榊原亜音って、誰?」

「ああ、それは俺も気になってた」

 

 ラッテンの疑問にヴェーザーが乗りかかり、ペストは少し肩を揺らす。

 ペストは視線を落としたまま、口を開いた。

 

「ゲーム開始時点で、このゲームの謎を解いていた者よ」

「なっ.........」

「ご冗談を、マスター。それは流石に」

「なぜなら、彼はこのギフトゲームの主旨ーーー『太陽への復讐』を知っていたわ」

 

 その言葉に今度こそ二人は唖然とする。

 その事実が本当なら、開始早々、敗北していたかもしれない。

 何処の馬の骨ともしれない者に、瞬殺されたとあっては、魔王人生に泥を塗るようなものだ。

 ペストはそんな二人の様子を横目に、付け加える。

 

「大丈夫。.........言ったでしょ?その人はもう、死人だと。でも、おそらくそのせいで謎を解かれちゃったんだろうけど」

「どういう......ことですか?」

「すでにゲーム開始前から発症していた............帳尻を合わせるために、開始の数日前から病原菌をばら撒いたのが仇になったみたい」

 

 ペストは思い出す。

 死人が口にしていたもう一つの言葉を。

 だが、そんなことはもうどうでもいい。自分はどんなことがあっても負けるわけにはいかないのだから。

 

「それにもし、私の見立てが正しければ...............明日が山場。勝手に勝敗が決するかもしれないわね」

 

 ラッテンとヴェーザーは少し不思議がる。

 マイマスターがたくさん喋っている!と。確かに必要事項に含まれるのだろうが、それでもいつものマスターならば、ただの死人、だけしか言わなそうなのだ。

 ラッテンは恐る恐る聞いてみる。

 

「マスター ..................もしかして、その人のこと............気に入ってたりします?」

「............」

 

 マイマスターが黙り込んでしまった

 ヴェーザーは、あーあ、と横目でラッテンを責め、ラッテンは頭を抱えた、のだが、

 

「.........そうね」

「え?」

「ん?」

 

 ................................シーン。

 え、終わり と、ラッテンとヴェーザーは呟きそうになるが、代わりに心の中で呟き耐える。

 そんな二人を余所にペストは、心の中である言葉を何と無く復唱して、小さく微笑むのだった。

 

『君達、全員、俺の仲間にならないか?』

 

 

「............ありえないわ」

 

 

 

#####

 

 ───────境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、大広間。

 

 

 ゲーム再開までーーーー残り三十分。

 真夜中になろうという時、闇に映える星と月夜が照らす舞台区画の歩廊は、今や人一人いない。赤いガラスの歩廊も閑古鳥が鳴き、祭の賑わいは面影すら残さず、綺麗さっぱり消えていた。

 紅いランプに照らされた宮殿の大広間、その場に集まった人数は、僅か五○○程。

 魔王のゲームが開催された日に屈服された者や、ジャックなどの『出展物枠』には参加資格がない事が判明し、病魔に冒されていないメンバーを集めたのだが、それでも全体の一割未満である。

 そして、今回、行動方針の問題となったのが、病魔に冒された榊原亜音とただの少年ジン=ラッセルのことだった。

 なぜなら、新たなルールのせいで二人のうちどちらかでも屈服、殺害した場合だけで、無条件敗北を喫する。

 ジン=ラッセルは現場の指揮監督として逆に動き回った方がいい、 ということになり解決した。だが、問題は榊原亜音だ。

 彼は逃げることも動くことも、隔離部屋から動かすことも不可能。

 最低戦術として、確実に三人の悪魔をその場で足止めし、大祭運営本陣には近づけさせないということ。

 つまり、まずは三人の悪魔を見つけることが、第一優先事項。

 そして、十六夜とレティシアでヴェーザーとラッテンを、黒ウサギとサンドラでペストを相手にし、他の者達はステンドグラスの捜索または破壊、または保護という方針に決まったのだった。

 

 

 

#####

 

 

 

 ゲーム開始時刻になり、主催者側は再開前の確認を行っていた。

 布の少ない白装束を揺らし、ラッテンは配下のネズミに情報を収集させていた。

 

「マスターマスター。どうやら連中、私達の謎を解いちゃったそうですよー?」

 

 軍服のヴェーザーは、黒い短髪を掻きながら愚痴る。

 

「チッ。ギリギリまで最後の謎は解かれないだろうと踏んでたんだがな、とは言うものの、死人が意識失ってなかったら、もっと早かったんだろうが」

 

 斑模様のワンピースを揺らしてペストは立ち上がり、後ろで両手を組む。

 

「......構わないわ。最悪の場合は皆殺しにすればいいだけよ」

 

 悠々としたその姿勢のまま、ヴェーザーとラッテンに振り返り、

「──────ハーメルンの魔書を起動するわ。謎が解かれた以上、温存す る理由はないもの」

 

 ペストの言葉に、二人は凶悪な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「ふふ〜ん。いよいよもって盛り上がってきましたねーマスター♪」

「おい、油断するなよラッテン。参加者側には〝箱庭の貴族〞もいる。」

 

 厳しい声音のヴェーザーに、片眉を歪ませて振り向くラッテン。

 

「.........やっぱり凄いの 〝月の兎〞って」

「ああ。一度戦っている所を見たが、並の神仏じゃ歯が立たん。アレは正真正銘、最強種の眷属だ。授けられているギフトの数が違う。俺やお前じゃ、とても抑えられんだろうな」

 

 苦い顔で呟くヴェーザーとラッテン。

 ペストはそんな二人に、微かに笑いかけた。

 

「そっ。なら魔書の他に、もう一つ策を設けるわ」

「策?」

 

 ペストは悠然と歩み寄り、綺麗な指先を伸ばしてヴェーザーの額に押し付ける。

 

「ヴェーザー。貴方に神格を与えるわ。開幕と同時に、魔王の恐怖を教えてあげなさい」

 

 

####

 

 

 

 ーーーーーー境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営。隔離部屋個室。

 

 

 ギフトゲーム再開まで、残りーーーー十分前。

 横に長い長方形の部屋。右奥にベッドが置かれており、大きな窓が枕横に配置されていた。

 部屋は全体的に朱色、雰囲気は閑散としていた。

 そのベッドには、数日前にレティシアとサンドラに運び込まれた榊原亜音が寝ている。

 だが、その時、窓が強引に開かれ、突風が吹き荒れる。

 閑散とした部屋に、白く輝く天使の羽毛が舞い散った。

 花びらのように舞う羽毛の奥に、金色の輝きが揺らぐ。

 天使の翼の羽ばたきにより邪魔な羽毛は吹き飛ばされ、消え失せる。

 白い羽毛の幕が消え、その者は現る。

 部屋を覆い尽くす程の白き翼、すべての光が薄らいでしまう程の輝きを放つ金色の髪。

 そして何より、すべてを射抜き怖気づかせる、気迫と覇気を纏う白虎を彷彿とさせる純白の瞳。

 その瞳に映るのは、苦しんでいる亜音の寝顔。

 彼女のーーーーーーー黄色く縁取られた白き純正の華やかなドレススカートは、窓から吹き込む夜風に優しく奏でられるのだった。

 

 

 

######

 

 

 

 

 現在時刻ーーーーーーー零時。ギフトゲーム名 The PIED PIPER of HAM ELIN。

 

 月夜の下、ゲームが再開された。

 その瞬間である。まるで、ゲーム再開の合図かのように、突如激しい地鳴りが舞台区画を揺らす。

 境界壁から削り出された宮殿は何処からともなく生まれた光に呑み込まれ、激しいプリズムと共に参加者のテリトリーを包み込む。

 見上げれば、天を刺し分かつ程の巨大な境界壁は跡形もなく消え去っていた。

 代わりに見た事もない別の街並みが宮殿の外に広がっていたのだ。

 誰かが見渡せば数多の尖塔群のアーチは劇的に変化し、木造の街並みに姿を変えている。

 黄昏時を彷彿させていたペンダントランプの輝きは失われ、パステルカラーの建築物が一帯を支配し街々を造り変える。

 ステンドグラスの捜索側に回っていたジンは、蒼白しながら叫ぶ。

 

「まさか、ハーメルンの魔道書の、..........ならこの舞台は、ハーメル ンの街!?」

「何ッ!」

 

 マンドラがその声に振り返る。

 その間も混乱は広がりを見せ、士気高く飛び出した参加者達は余りの劇的な変化に出鼻を挫かれたように足を止めた。

 これ以上、パニックを広げない為に、ジンは咄嗟に叫ぶ。

 

「教会を、教会を探してください!ハーメルンの街を舞台にしたゲーム盤なら、縁のある場所にステンドグラスが隠されているはず、〝偽りの伝承〞か〝真実の伝承〞かは、発見した後に指示を仰いでください!」

 

 

 パニックは収まった。だが、士気は高まらない。

 ジンは歯ぎしりしそうになるが、マンドラが怒声を張り上げる。

 

「迷っている暇はない!全員、教会を探せ!!」

 

 その声で捜索隊が一斉に動き始める。

 ジンはその様子にホッとするものの、マンドラが背中を叩き切り替えさせる。

 再び街全体を揺るがす地鳴りが起きたのは、その直後だった。

 

 

#####

 

 

 十六夜はハーメルンの街に流れる川の岸辺で、ペッ、と血反吐を吐き捨て立ち上がり、自身を上空から叩き落とした者を睨みつける。

 その者は、青白い膜を身体に纏い、クックックと悪魔の笑みを浮かべるヴェーザー。

 ヴェーザーは川を挟むように十六夜の対岸に立っている。

 

「............やるじゃねぇか。今のは相当効いたぞ」

「当たり前だ。前回と同じだと思って油断なんかすんじゃねぇぞ坊主。こっちは召喚されて以来、初めての神格を得たんだ。簡単に終わったら興ざめするってもんだ」

 

 なるほど、と十六夜は納得する。

 十六夜の超人的な身体を力任せに叩き落とした、その比類なき力は十六夜が戦った蛇神とは比べ物にならないだろう。蛇が〝神格〞を 得たモノと、悪魔が〝神格〞を得たモノでは、その地力が圧倒的に違うのだ。

 目に見えて立ち昇るヴェーザーの力に、十六夜は不敵な笑みを零す。

 

「............ハッ、なんだよ。少し楽しめればそれでいいと思っていたのに、随分と俺好みなバージョンアップをしてきたじゃねぇか。嬉しいぜ、本物の〝ハーメルンの笛吹き”!」

 

  本物の〝ハーメルンの笛吹き〞。

 そう指摘されて、ヴェーザーも笑みを返した。

 

「なんだよ。相手さんには優秀な奴が多いな、おい」

「まあな。だけど土壇場まで騙されてた。お前以外のメンバー全員は偽物。十四世紀後の黒死病の大流行と共に後付けされた、一五○○年

代以降のハーメルンの笛吹きの伝承だったのさ」

 

 十六夜は腰に手をあて、謎解きの解を明かす。

 本来の伝承と碑文には、ネズミを操る道化師が出現してこない。

 資料にも、一五○○年代以降に初めて『ハーメルンの笛吹き』の物語にネズミの集団発生が追加されており、それ以前の記録ではネズミは登場しないと記されている。

 つまり、ネズミとネズミを操る道化師が現れるのは、黒死病の最盛期である一五○○年代の事なのだ。

 ネズミが一五○○年代のハーメルンの街に出てきた理由は、ちょうどその頃に『魔女狩り』が流行っていたことが起因する。

 魔女狩りとは、魔女や魔術行為に対する追及と、裁判から刑罰にいたる一連の行為のことで、「魔女」と称するものの犠牲者の全てが女性 だったわけではなく、男性も「男性の魔女」ともいうべき形で含まれていた。いわゆる、無差別処刑だ。少しでも怪しければ処刑される。

 思い付きで魔女と、誰かに言われただけで処刑された無実の者も少な くない。

 民衆の間から起こった魔女狩りは十五世紀から十八世紀までにかけてみられ、全ヨーロッパで最大四万人が処刑されたと推測されている

 そして、至る所でペストが発生しはじめた頃、「これは魔女の仕業に違いない 」と多くの人が思い、大規模な魔女狩りが行われた。

 これは、『黒死病と魔女狩りの悪循環』、と言われているものだ。

 と言っても先ほどの通り、実際に魔女がいたワケではなく、多くが冤罪で「あそこの家の娘は不思議な力を使って男をたぶらかしている」などと言う密告から、その真偽を問わずに捕らえ処刑したとされる。

 

【なんとしてもペストの根源を絶たないといけない】

 

 と思う人々は、密告情報をとにかく信じるしかなく、恐ろしいことに魔女だろうと魔女でなかろうと、疑わしき物はすべて処刑したのだ。その為にちょっとでも可愛くて男に人気のある女の子などは嫉妬の対象とされ、反感を持つ女性からの密告で処刑されたとも言われている

 その魔女狩りと平行して『猫は魔女の使いである』と言う話を信じ た人達によって、多くの猫が無慈悲にも虐殺された。その結果、街や村からネズミを食べる猫が減り、ペストを運ぶネズミを大量発生させ、さらにペストが蔓延していくようになったのだ。

 いわゆる生態系の崩壊だ。それに加えて寒冷期、その時代が黒死病の最盛期と言われた理由がよく分かる。

 寒冷期は飢餓や貧困、食物をダメにするだけでなく、猫の行動範囲も狭めたと推測できる。余計にネズミは繁殖していく原因になったわけだ。

 黒死病は寒冷期や上記のネズミ大量発生以外にも大流行した起因はまだあるが、とりあえず置いておこう。

 『資料にも、一五○○年代以降に初めて物語にネズミの集団発生が追 加されており、それ以前の記録ではネズミは登場しない。』

 上記の事柄から、ハーメルンの街に魔女狩りの風習が広まった時期がおそらくネズミ大量発生と同時期、そしてハーメルンの街で黒死病が爆発的に大流行した時期とも推察できる。

 だが、ここで一つ疑問が浮かぶ。

 なぜ、黒死病が魔女のせいだとされたのか。

 外見やイメージから不気味さをイメージして連想した、という説もあるが、黒死病は当初の一時期、死を運ぶ、〝不治と未知〞 の病と見られていた。

 ここで話は変わるが、魔女は皆の知るとおり魔術を扱う者たちの事だ。

 魔術は基本的に異世界の知識とされ、未知なる知識の代表だ。

 それを使えるようになるには、有名な説では、異世界の悪魔と契約し、悪魔より魔術の知識を授かることで、使えるようになった。

 極一般的な知識だろう。

 他にも、悪魔と人間の間に生まれた子供が魔術を使えるという説などというものがある。

 もう分かったかもしれないが、つまり不治と未知の病、黒死病は、未知と不治という部分から、『異世界の病』、『未知なる世界の病』、『未知なる知識』などと連想され、魔術の一種にされたのだ。

 

「つまりだ。〝ネズミ捕りの道化は、十三世紀の伝承『ハーメルンの笛吹き』には出てこねぇから確実に偽物。それにこのハーメルンの、パ ステルカラーの街並みは、ルネサンス期、十五世紀後期からの出現だ。この事からこのゲームは」

 

 寒冷期の、黒死病が《ハーメルンの街で》大流行し始めた時期《一 五○○年代》のハーメルンの街が舞台。

 このゲームの主旨はつまり、『ハーメルンの偽物と偽舞台から一つの真実を見つけ出せ』が正確な勝利条件。

 それを難易度をあげたのが、『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』。

 見つける作業に、偽物の処分を付け加えたのだ。

 

「最初からハーメルンの魔書を開かなかったのは、年代を特定されない為だろ?これだけの大きな変化は、異変という糸口を参加者側にただで与えるようなもんだしな」

 

 十六夜は飄々と語り、ヴェーザーは肩を竦める。

 

「これで黒死病とネズミ使いの二人は偽物だと断定できる。ハーメルンの笛吹きの考察に黒死病が現れたのは、斑模様であること以上に、 伝染元のネズミが原因だったからだ」

「............」

「〝シュトロム〞も本物と見せかけて、フェイク。何故なら、碑文に記されていた〝丘〞とは、ヴェーザー河に繋がる丘を指し、天災で子供 達が亡くなった象徴とされる。つまりシュトロムもまた、ヴェーザー 河の存在を示す。ーーーよってヴェーザー。アンタだけが、本来のハーメルンの笛吹きの碑文に沿った悪魔だったということになる」

 

 十六夜は目を細め、ヴェーザーを睨む。

 

「そしてハーメルンの魔道書。あれは箱庭に召喚する際に、立体交差する時間軸のクロスポイントを、一二八四年から一五○○年以降までの〝ハーメルンの笛吹き〞に沿って発生させ召喚するギフト..............そもそもハーメルンの伝承と黒死病の年代記が同一視される様になった背景には、おそらく、ハーメルンの伝承にある道化師と、黒死病の伝染元のネズミ、その両者共通の異名のせいだろう」

 

 十六夜は背筋に心地よい冷や汗を流しながら、魔王の正体を指摘する。

 

「その異名こそ、死を運ぶ者。即ち............〝死神〞だ」

 

 ーーーー神霊・〝黒死斑の死神〞 それがあの魔王が持つ、真のギフトネームだと十六夜は推測した。

 考察を聞き終えたヴェーザーは、頭を掻いてため息をつくと、

 

「なぁ、やっぱり、お前」

「却下」

「即答かよ」

「悪いな、今は他に目標があるからな」

「そうかよーーーーーなら」

 

 ヴェーザーは一転して、鬼気迫る闘志を放出し、

 

「やっぱ死んどけ坊主ッ 」

「こっちのセリフだ木っ端悪魔ッ!」

 

 互いに譲れぬ勝利の二文字、それは自分のものだ 、という意思を強く表すような怒声を上げ、二つの突風は嵐を巻き起こしてぶつかり合う。

 圧倒的な力をぶつけあう二人の衝撃は、河川を破壊し、ハーメルンの街だけにとどまらず一帯の土地のすべてを暴虐に薙ぎ払う。

 地殻変動に比する力を前に、十六夜は拳一つで立ち向かうのだった。

 

 

 

#####

 

 

 

 その頃、ステンドグラス捜索隊は細かく分隊してハーメルンの街に隠されたステンドグラスを探していた。

 今のところ順調だったのだが、街道を走っていたジンに建造物の屋根上から声が掛かる。

 

「思い切ったことをしたわねぇ。まぁ、的を射ているのは確かだけど」

「お前はあの時の.........!」

「まさか、勝利条件である貴方がうろちょろするなんてね」

 

 屋根の上に立つ者ーーーーネズミを操る神隠しの悪魔、ラッテンはクスクスと笑い、仰々しくお辞儀をした後、魔笛を掲げた。

 

「ブンゲローゼン通りへようこそ皆様 、神隠しの名所へ訪れた皆様には、素敵な同士討ちを御体験していただきます♪」

 

 途端、屋根上から何十匹もの火蜥蜴が姿を現した。

 〝サラマンドラ 〞の同士達だろう。

 ラッテンは間髪いれずにフルートを振り、火蜥蜴達に命令を下す。

 

「さあ 仲間同士で戯れてごらんなさいな!」

 

 ジンの頭上一杯に火球が生まれ、街道を赤く照らす。

 だが、その火球は寸でのところで、黒い影の壁に阻まれる。

 火球は霧散し、黒い影は金髪の髪を靡かせる純血の吸血鬼、レティ シアの足元へ集約される。ジンは目の前に立つレティシアを見て、 ホッと胸を撫で下ろした。

 

「っ!...........って、うわおお!本物の、純血の吸血鬼じゃない!!」

 

 恍惚とした顔でレティシアを見下ろすラッテン。

 その隙に、ギフトカードから槍を取り出し、大気を撃ち抜くように槍を投擲するレティシア。

 ラッテンはステップを踏むようにクルリと避けて、再度レティシアとジンに向き直る。

 

「あら、せっかく褒めてあげたのに。この仕打ちは酷いんじゃない?」

 

 茶化すラッテンだが、その目は先程とは比べ物にならない程の鋭さを帯びていた。

 互いに睨み合う両者。

 その時、彼方で雷鳴と赤い炎、黒い風の奔流が数多の柱となり立ち昇る。

 黒ウサギ達がペストとの戦いを始めたのだろう。

 十六夜とヴェーザーの戦いもこの場まで震動が伝わる程に激化している。

「ふふ。いい感じに祭りっぽくなってきたじゃない。じゃあ私も、切り札投入といこうかしら?」

 

 ラッテンは魔笛を唇に当て、奏で始める。

 ハイテンポなリズムは、まるで何かを目覚めせようとするかのような曲調をしていた。

 すると、街道を塞ぐように陶器の巨兵、〝シュトロム〞が複数体も現る。さらに火蜥蜴達が街道に飛び降り、レティシア達を追い込む。

 

「ちっ............ジン、先にいけ、早く!」

「は、はい!」

 

 ジンを筆頭に捜索隊は、火蜥蜴とシュトロムの群体に背を向けて走 り出すのだが、ラッテンは不敵に笑う。

 

「させないわ♪」

 

 途端、魔笛の音が響き渡り、ジン達の走る街道を塞ぐようにまた新たなシュトロムが出現した。捜索隊の中には子供の姿も、そして、リ リも決死の覚悟で参加している。だが、このままではいとも容易く押しつぶされてしまう。

 レティシアは救援に行こうとするが、火蜥蜴達が火球をぶつけてくる。

 

「くっ.........!」

 

 それを〝遺影〞のギフトで影を壁のように作り、防ぐ。

 防ぐのは容易いのだが、いかんせん、敵が多すぎるのだ。

 レティシアの後方では、捜索隊をその手にかけようと、シュトロム が手を振り下ろすとこだった。

 

「ジン!!」

「くぅ............っ!」

 

 捜索隊の者達は思わず瞳を閉じ、絶望してしまう。

 だが、その時、聞き慣れた声と天地を揺らすほどの雄叫びが響き渡る。

 

「砕け...............ディーン!!」

「ーーーーーDEEEEEEEEEEEeeeeEEEEEEEEE!!」

 

 ジン達を襲おうとした陶器の巨兵は、横合いからの紅き鉄槌に一発 で粉々に砕かれる。

 その際に生まれた圧倒的な力量の衝撃は突風となりて、街道を吹き荒らし、火蜥蜴達を怯ませた。レティシアは振り返らずに微笑む。その微笑みはまるで、遅い!と文句を言っているようだった。

 ラッテンは乱入者達を見て、驚愕する。

 リリとジンはラッテンとは違う意味で驚愕し、嬉々として、乱入者の名を呼ぶ。

 

「飛鳥さん!」

 

 紅い巨躯の総身に太陽をモチーフとしたと思われる塗装と意匠を 凝らし、圧倒的な存在感を放つ巨兵。

 そして、その巨兵の肩で腕を組み、街々を見下ろし、スカーレット色のドレススカートを靡かせる気高きお嬢様、久遠飛鳥が微笑みを浮かべていた。

 もちろん飛鳥の肩には、とんがり帽子の精霊が腕を組んで立っている。

 

 その直後だった。

 

 ハーメルンの街に、光の柱が舞い降り、その“存在”だけで夜の街を照らした。

 

 

 

#####

 

 

 

 建造物の屋根に立つ黒ウサギとサンドラは、眼前の光景に目を奪われていた。

 ペストも思わず思考を止める。

 何故なら、三人の前にーーーーーーーー現れたのだ。

 

「ま、まさか、どうして......なんで......こんな下層に神群が.........!?」

「神群............!」

 

 サンドラと黒ウサギは空に映える白き翼を見て、そう呟く。

 ペストは声すら出なかった。

 圧倒的な存在感を放つその者は、後頭部で一つに結った金色の長髪を豪快に靡かせ、空からゆっくり舞い降りてくる。

 そして、その者はペストと同じ高さまで降りてくると滞空した。

 三人が喉を鳴らす。

 その途端だった。

 ペストは耳元で声を聞いた。

 

「大人しく死ね、災害の権化よ」

 

 ペストは知覚できなかった。

 防御 、そんなの間に合うわけがなかった。

 ペストが気がついた頃にはもう、ハーメルンの街々に向かって吹き飛んでいた。

 

「くっ.........ぁああ!」

 

 ペストは一つの屋敷に真っ直ぐ勢い良く突っ込み、爆弾が爆ぜたような轟音を響かせ、建造物を瓦解させる。その後すぐに土煙の柱が天を刺すように沸き上がった。

 その様子を金髪の女性はつまらなそうに見下ろす。

 それどころか、ペストを見る白き瞳はまるで、仇を見るかのような鋭さを放っていた。

 

「............」

 

 黒ウサギとサンドラは口を開けたまま某然と立ち尽くすことしか出来なかったのだった。

 余計な手を出せばどうなるか、予測不可能である。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 ーーーーーー境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営。隔離部屋個室。

 

 天に光が現る数分前。

 耀は患者服からいつもの私服に着替え、亜音の隔離部屋前に来ていた。

 理由は黒い羊皮紙に書かれた新たなルールだった。

 耀は、今は自分にできることをしようと思い、最低限、亜音を守るために、亜音の所に居ることにしたのだ。最悪の場合は、皆が戦っている間、亜音を抱えて逃げ続けようと。

 そのはずだったのだが、

 

「っ、................いない......!」

 

 耀が隔離部屋に入ると、白いベッドはもぬけの殻だった。

 耀は思わず口を押さえてベッドに歩み寄り、唖然とする。

 これは途轍もなくマズイ。

「.........攫われた.........?」

 皆から亜音の容態は聞いていた。

 もはや動ける状態じゃなく、意識は呪いが解けない限り取り戻すことはないと。

 そして、今日が山場なのだとも。

 

「亜音、............っ!」

 

 耀はすぐにベッドに乗り上げ、窓から飛び降りようとするが、その時ふと、視界の端に何かが映った。ベッドから降りて、床に手を伸ばし、それを拾った。

 耀はそれを眼前まで持ってきて、小首を傾げる。

 

「...............羽?」

 

 しかし、その手にあるものは、これまで見たことがない羽毛だったので、何の動物の羽毛なのか、見当もつかなかった。

 とりあえず、耀は羽毛をポケットにしまい、ベッドを踏み台にして窓の外に飛び出る。

 

「亜音は.................................渡さない!」

 

耀は決死の覚悟で、高熱を帯びた身体を無理矢理動かし、グリフォ ンの力で空を駆けるのだった。

 

 

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