新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
ハーメルンの街全土に、光が降り注ぎ、白と黄色の閃光が途絶えた瞬間、天地を揺るがす圧倒的な破壊と爆音が響き渡った。
皆はその衝撃と地鳴りに肩身を小刻みに揺らされ、思わず動きを止める。
皆の視線は自然と震源の方向に向けられ、その震源からは豪水が天高く吹き出したかのように、埃と土煙の柱が爆散し立ち昇っている。
激闘を繰り広げていた飛鳥とラッテンも例外ではない。
すべての動きを中断せざるを得なかった。
飛鳥はディーンの側頭部に掴まり、どうにかバランスを取りつつ、 視線は震源の方向に固定したままでいた。
「何なのいったい.........何が起こってるの!?」
飛鳥はふと視線を目の前の敵、シュトロムの肩に乗っているラッテ ンに移す。
ラッテンは目の前に敵が居るのにも関わらず無防備に飛鳥へ背を向け、震源の方向を見つめている。
飛鳥はその態度に怪訝な表情を向 け、誘っているのか、攻撃するべきか、タイミングを見計らい、観察していた。
そんな飛鳥を余所に、ラッテンは唇を噛み締めつつ魔笛を持つ手に力を込め、小さく笑う。
「マスターは怒るかもしれないけど、背に腹は代えられないわね」
ラッテンは飛鳥に向き直り、少し残念そうな表情を飛鳥に向けた。
「ごめんなさいね .........もう少し遊んでいたかったけど」
「........?」
飛鳥はハテナマークを頭上に浮かべながら、ラッテンを注意深く見つめる。
何か、仕掛けてくるだろうことは明白だ。
ラッテンは口に魔笛を添え、華を咲かせるように笑った。
「じゃあね♪」
魔笛の演奏が鳴り響く。
途端に飛鳥は巨大な影に囲まれる。それも全方位からだ。
「なっ............!」
合計、六体のシュトロムがドーム状に、紅い巨兵ディーンへ跳び掛かったのだ。
飛鳥は周囲を見回し、苦悶の声を漏らしながら、ラッテンが居た場所に視線を戻すが、
「き、消えた!?」
飛鳥の言葉通り、そこにはもうシュトロムが一体残るのみで、ラッテンの姿はなかった。
飛鳥は舐められた行動に対して歯ぎしりし、数秒の間で思考を切り替える。
「......っ......正面突破よ、ディーン!」
「ーーーDEEEEEEEEEEeeeeEEEEEEEEEEEEEEN!」
飛鳥の言葉に紅き巨兵は空気を叩くような雄叫びを上げて応え、前に突撃するのだった。
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「何だありゃ?」
十六夜はふと荒れ果てた川辺に立ちながら言葉を零す。
そんな無防備な十六夜を放って、十六夜と激闘を繰り広げていたヴェーザーも光源と震源に視線を向けていた。
ヴェーザーは十六夜に背を向けているので、十六夜以上に無防備である。
そして、修羅神仏に届きうる奇跡を持つ二人の、嵐のような戦いさえ、何の前触れもなく止めさせる程の圧倒的な破壊と事象が震源で起きていることを二人の態度が表していた。
でなければ、人外である二人が同時にその足と拳を止めるわけがない。
ヴェーザーは地に沈んでいく土煙と新たな敵を視界に収め、
(.........こんな所に、神群がいるとはな......驚くより先に受け入れちまったじゃねぇか)
少し思考した結果、ヴェーザーは十六夜に向き直り、十六夜も拳を構える。
しかし、十六夜はヴェーザーの纏う空気から、ある事を察した。
十六夜は呆れ口調で、
「オイオイ、どうしたァ ......ビビって意気消沈しちまったか?」
「............やれやれ、お前は変わんねぇな」
その言葉に十六夜は、はぁ と額にシワを寄せて、腕を胸の前で組んだ。
「......... おい、その言い方だとまるで、俺を知り尽くしたような口振りだが............まだ俺達が拳を交えたのは、たったの二回だけだぜ?それで何が」
「ああ、うっさい.........つぅか、そうじゃねぇよ」
「ああん?」
ヴェーザーは頭を掻き、思わずため息を吐く。
そんな態度に、十六夜は少しイラついたように眉を顰める。
「俺が言いてぇのは、お前は相も変わらず、めんどくせぇ糞ガキだってことだ」
「......素敵な挑発だな...それと.........言ってくれるじゃねぇか、 ヴェーザー」
だが、と十六夜は一泊置いて言葉を続ける。
「悪いが.........行かせねぇぞ、ヴェーザー」
「ちっ...............本当にめんどくせぇ糞ガキだな」
その瞬間、十六夜は空気を貫き、加速する。
拳を構え、ヴェーザーに肉薄した。ヴェーザーはそれを宙に跳ぶことで躱す。
途端に、ヴェーザーの元居た浸水されている岸辺は、またさらなる破壊を受け、地面は砕かれ、水飛沫と土煙が舞う。
その様子を見下ろしながら、ヴェーザーは笛の棍を構える。
「.........悪いな............だが、楽しかったぜ、坊主」
「っ!」
ヴェーザーが棍のような魔笛を横に鋭く振るうと、土煙の中、小さなクレーターに立っている十六夜の足元の地盤がドロドロに崩れ、十六夜の足を膝近くまで埋め尽くし、絡め取る。
脱出は容易いが、その間にヴェーザーは逃げてしまう。
十六夜はその場から去っていくヴェーザーの背を舌打ちして見送りながら、ため息を尽き、しばらく足を地面に埋めたままでいた。
「さて...............どうするか」
答えは決まっているのだが、どうにも、奴を追いかけて叩き潰す気が一欠片も起きない。
十六夜は腰に手をあて、天を仰いだ。
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ペストは屋敷の居間、フローリングの床で埃と瓦礫の中に埋もれな がら仰向けで倒れていた。辺りが土煙で覆われてるせいで、ペストは 少し咳き込み、腹の上や腕に乗っている瓦礫を黒い風で吹き飛ばし、 ついでに埃も周囲から弾き飛ばした。黒い風を戻した後は、周囲はクリアになっていた。ペストは瓦礫で散らばる屋敷だった平地を見渡しながら、先ほど何が起こったのか、思考を働かせ、お腹をさする。
(おそらく.........蹴られたのだろうけど、全く動きが見えなかった)
ペストは舌打ちしながら、瓦礫が散乱する平地から飛び上がり、注意深くゆっくりと金髪の女性と同じ高さまで滞空する。
金髪の女性は夜風でマントのように髪を靡かせ、華やかなドレスス カートの裾を揺らしている。だが、煌びやかな雰囲気と同時に、圧倒的な存在感を醸し出し、白き瞳は鋭さを増していた。
その鋭さはまるで、今にも心臓を貫きそうなほど近くに感じられ、 ペストは表に出さず、恐怖する。
そして何より、あの移動速度はとてもじゃないが、ペストでさえ捉えられない。
普通、それでゲームセットに近い話なのだが、一つだけ乗り切れる方法がある。
このギフトゲームには新たなルールがある。 それは、十六夜、亜音、ジンーーーそして、黒ウサギの四人のうち 一人でも殺せば、
「............ウサギ、欲しかったけど、仕方ないわ」
ペストの袖で隠れている両手が目下の、屋根の上に立つ黒ウサギに 向けられた刹那、これまでとはまた異質、黒い風から漂う殺気は空気を汚染していく。
黒ウサギとサンドラは突如のことに目を見開き、すぐにその場から退散する。
「これは............っ!」
黒ウサギは空を飛び交っていた小鳥達が黒い風に当てられ、地に落ちていく姿を目の当たりにし、たじろぐ。
小鳥達はもう微動だにすることはなく、その短い人生を終えていた。
「これは、〝与える側〞の力 ............死の恩恵を宿した呪いの風ですか......!」
「正解よ............そこの人」
ペストは少し離れた所に滞空する金髪の女性に強気な口調で忠告 する。
「死にたくなければ、大人しく、見てることね」
金髪の女性は一切態度を変えずに、その言葉を受け止めた。
その間にも、黒ウサギは屋根の上を飛び回り、触れることさえできない黒い風に追いすがれている。例え、圧倒的な脚力を有していても、逃げ道が無くなれば意味を成さない。
そして、ペストは自身の周囲にも死の風を球状に漂わせていた。そうすることにより、圧倒的な移動速度をもつ金髪の女性に手出しをさせずにいたのだ。
その様子と逃げ惑う黒ウサギ、死んでいく小鳥達を一瞥した金髪の女性は初めて感情らしきものを表に出した。
それはーーーーーーーーー小さな、ため息だった。
そして金髪の女性は、金の輝きを放つ剣の紋章が描かれた、漆黒の ギフトカードを指に挟み、肘を伸ばして前にかざす。
動作と共にーーーーーーーーー唱える。
「来い、〝
その言葉は強い力を持つように皆の視線を一片に集め、漆黒のギフトカードに描かれた剣の紋章が最大限の光量、その場にいる全て者の視界を黄色く染め上げるほどに発光し、一本の剣が顕現した。
剣の装飾は、黄色の一択、邪悪なる者が触れただけで焼けてしまいそうなほど聖域な柄、十字に別れた先、刀身は柄よりもさらに薄く濃
密な閃光を放っている。
その剣の名はーーーーーエクスカリバー。
エクスカリバーはアーサー王伝説に登場する、アーサー王が持つとされる剣だが、魔法の湖に住むと言われている『湖の乙女』達が、カムランの戦いで瀕死の重傷を負ったアーサー王の代理人であるベディヴィアからエクスカリバーを回収したので、持ち主と作り手は『湖の乙女』である。
そして、そのエクスカリバーを再度、手にするには『湖の乙女』達 の『願い』のギフトゲームをクリアしなければならない。さらにそのギフトゲームは、人を選ぶ。
結論を言えば、強き戦士であり気高い者、ちまたではそれが『湖の乙女』達の好みと言われている。
そして、その剣は現在、主である金髪の女性の手にしっくり収まっていた。
もはや、乱暴に加速していく状況に黒ウサギとサンドラは、口を開 くことさえできずに驚いていた。思考というのは、状況が突発的すぎると、容易く置いて行かれるものなのだ。致し方ないことだろう。
ペストもそうであったが、敵であるのと同時に少しは余裕がある。
自身の黒い風は鉄壁、死の恩恵を宿した風、例え聖剣だろうと容易く破れるものではないと自負していた。
しかし、それを無駄な努力というかのように、金髪の女性は剣を横薙ぎに内から外へ振るった。
その世界に描いた孤の剣閃から溢れんばかりの光が発散し、黒い風を全て弾き飛ばし、呪いは霧散した。
「なっ............!」
「茶番ですね...............魔王」
凛とした声はその場によく響いた。 ようやく会話が交わされるのか、そんな甘いことを考えていると、 ペストはようやく気がつく。その声は後ろから発せられたのだと。
「っ!?.....こんっの! 」
ペストは袖を揺らし後ろへ黒い風を吹き荒らす。
しかし、そこにはもう彼女はいなかった。
「こっちです」
ペストはその声に反応し、頭上に黒い風を展開するが、金髪の女性はエクスカリバーで黒い風を容易く斬り裂き、破壊の余波でペストは態勢を崩す。
「くっ.........!」
そして、金髪の女性は上からの勢いでそのまま加速し、膝蹴りをペストの腹にめり込ませる。惨い打撃音と破砕音が響き、ペストは苦悶の声を漏らし吐血する。
そこからペストはそのまま空中より叩き落とされ、流星の如く地面に落下していく。
その衝撃の余波で、突風が巻き起こり、少し離れている黒ウサギとサンドラをも巻き込む。
「ぐっぅ...っ...くっ 」
ペストは歯を食いしばりなんとか黒い風を身に纏い地面との衝突に備えるが、大気を突き抜ける速度で地面に叩きつけられ、ハーメルンの街々は更なる破壊音と地響きを打ち鳴らす。
言葉にならない衝撃が身体中に巡り、ペストは血反吐を散らばしながら意識が遠のくのを感じた。
「がっぁぁ ......ぁ...ぁ.........ハァ.........ハァ」
「フン...............」
金髪の女性は広範囲に土煙が舞い散るハーメルンの街を上から見下ろす。
土煙が高度を下げると瓦解したハーメルンの街々が姿を表し、ペストを中心に大きなクレーターができていた。クレーターができた余波で道は無くなり、クレーターに隣接していた建物は瓦礫の山となっている。耳をすませば、パラパラと砂埃が舞い落ちる音が、黒ウサギとサンドラにも聞こえてきた。
「ハァ.........ハァ.........くっ......私はまだ......ハァ」
ペストはなんとか四つん這いになり、血反吐を吐きながら呼吸を整える。
しかし、ペストがどんなに諦められないと思っても、状況は絶望的だった。
死の恩恵は効かない、動きを捉えることも不可能。
どうやって、そんなチート野郎に勝てというのか、ペストは半分やけにそう心の内で呟く。
その時、ペストの背後に金髪の女性が降り立ち、ペストは着地した際の足音で気が付く。
金髪の女性は降り立つと共に天使の翼を、羽毛を舞い散らせながら消失させた。
ペストの背からは冷や汗が流れ、心は恐怖に支配されていく。さらに背後からゆっくりと足音が聞こえてくるせいで、死までのカウントダウンのように錯覚し、身体中が震え上がる。
(くっ............どうすれば............どうすれば.........いいの )
ペストが意を決して後ろに振り返った頃にはもう、金髪の女性が聖剣を突き刺す構えを取っていた。そして、その構えを取る金髪の女性の白き瞳は黒い影が指して、殺意の色に染まっていた。
ペストの肩や手がビクビクと震え、恐怖と敗北感に支配されたペストはもはや反撃することも声をあげることもできないでいた。
「フッ!」
「っ!」
金髪の女性は小さな吐息を漏らしながら、その剣をペストの胸に突 き出し、ペストは思わず瞳を閉じる。
刹那、空を擦り切る音と共に、剣が胴体に突き刺さる鈍い音が鳴った。
少しばかりの静寂、数秒の間があった。
しかし、ペストは痛くも痒くもない。
意を決して、ペストは閉じていた瞳をゆっくり見開く。
すると、目の前にはペストの見慣れた白いマントと後ろ姿があっ た。
ちょうどその時、白いマントが風で舞い背中が露出するとそこには、淡い黄色に光る刀身の剣先が胴体を貫いて生えていた。
ペストは驚愕し、身体からサーっと血の気が一気に引き、蒼白する。
「どうして......どうして............!」
そんな呟きに白装束の女性は、口から血を垂らし、お腹を剣で抉られながらも優しい声音で応える。
「ど、どうして...って......そりゃあ...っ...ぅ.........私達はマスターの 部下ですから♪」
「............ラッテン...............」
マスターに声を掛けたラッテンは軽薄な笑みを消して、金髪の女性の腕を聖剣ごと抱え込む。
その行動に金髪の女性は奇想天外を目の前にしているかのように目を見開き驚いていた。
「.........っ、......魔王の部下のくせにと、思ってるでしょ?貴女」
「............ああ、心の底から驚いている」
「正直ね.........でも」
ラッテンは視線を斜め後ろに動かし、ありったけの力を込めて叫ぶ。
「私ごとやりなさい!ヴェーザー!!」
「ちっ、分かったよ!」
ラッテンの声に応える男の声はラッテンの斜め後ろより聞こえ、ペストの目の前に青白く光るヴェーザーが姿を表した。
二人とも自身のマスターのピンチに駆け付けてくれたのだ。
ラッテンは今まで以上に身体中に力を込めて、金髪の女性を拘束し、笑う。
「ごめんなさいね .........貴女にはここで私と一緒に死んで貰うわ ♪」
ヴェーザーは心の内でラッテンに謝りながら、自分の必殺の一撃、 青く光る棍の魔笛を上段に構える。
しかし、そんな詰み状態にも関わらず金髪の女性は悲しげな、ラッ テンに同情するような目を向けていた。
「...............その腐った根性だけは認めましょう、しかし」
「.........!」
「残念ですが..................滅ぶのは〝貴様ら〞、滅ぼすのはこの〝我〞だ」
金髪の女性はラッテンの腹部に向けて右足の蹴りを決め込む。
轟音が短く響き、ラッテンは剣が刺さっている腹部から大量に出血させ、口からも血を吐き捨てる。その際に拘束するラッテンの両手から力が抜け、難なくエクスカリバーを金髪の女性は引き抜く。
「ぐっう.........あああぁあああ!」
容赦ない金髪の女性はさらにラッテンに肉薄し、腹部にボレーをぶち込み、足を血で濡らしながらそのままラッテンをヴェーザーの方へ蹴り飛ばす。
「何ッ!?」
ヴェーザーは驚きの声を上げる。
一方、ラッテンにはもう、既に意識はなかった。その証拠に手に持っていた大事な魔笛を無造作に投げ落としていた。
その光景にペストは、ラッテンの死を悟る。
ここで自分も動かないといけない、ペストはそう思っていたのだが、もう遅い。
今この時のやり取りは、刹那でのやり取りだ。例え思考が早くとも、身体はそうも行かない
「くっ!?」
ヴェーザーはラッテンと衝突し、後方の上空へ一緒に打ち上げられる。
そして、その背後にはーーーーーーー天使の翼を生やした金髪の女性がいた。
ヴェーザーは苦い顔をして、なんとか態勢を立て直そうとするが、 そこで耳にはっきりと聞こえた。
「終わりだ」
その瞬間、ヴェーザーの視界は真っ二つ上下に割れ、黒く染まった。
ペストは地面に出来たクレーターの真ん中で、夜空を見上げてい た。
そして、夜空には白き翼が映え、幾千もの剣筋が刻み込まれるよう に二つの影は肉塊ブロックに斬り裂かれた。棍の魔笛も同様に小間切れにされ、全て数多の蛍の光となりて散らばり消失していった。
その光景を見て、ペストは悲しむより、恐怖するよりも。
呆気なさを感じていた。
自分達は始まったばかりだったはずなのに。
自分達はこれからだったというのに。
ペストはようやく自覚した。
これがーーーー『滅びの運命を背負う』ことなのだと。
これがーーーーー『魔王』なのだと。
ペストは目の前に立つ金髪の女性の前で、頭を垂らし、女の子座り でへたり込んでいた。
もはや震えさえ止まり、ペストの瞳からは色が消えていた。
そんなペストの耳に、金髪の女性の声が入ってくる。
「魔王の分際で“復讐”とはな.........身の程を知り、分を弁えるべきだったな」
その言葉にペストは納得してしまいそうになる。
金髪の女性は独り言を続けた。
「それに、貴様が魔王でなければ、死という痛みを知る者同士、我々は分かり合えたかもしれん」
「.........っ!」
ペストはようやくそこで、金髪の女性を見上げた。
すると、金髪の女性は視線を横に逸らし、その白き瞳は少し揺らいでいた。
しかしそこで金髪の女性は瞳を閉じ、少し血で汚れたスカートドレ スの裾を翻すと、真っ直ぐペストに視線を向け、その瞳は仇を見るような鋭利さが宿っていた。
「だが、所詮は復讐に囚われ、魔王に成り下がった箱庭に蔓延る災害、ゴキブリ以下の存在だ」
金髪の女性は右手に持つ聖剣エクスカリバーを月夜に照らし、刀身を白く、黄色く煌めかせていた。剣先は地面からペストへと、ブレもなく真っ直ぐに向けられる。
「魔王になったからには................覚悟はできているのだろう」
ペストは最初のように頭を垂らし、口を開かず黙り込む。
そんなペストを見下ろす金髪の女性は、なぜかそこで小さく微笑ん だ。
「ふっ............魔王とは皮肉なものだな、我はそのおかげで安心できる」
どういう事だ?という目をペストは金髪の女性に向ける。
怒気をはらんだ視線を向けられたのにも関わらず、金髪の女性はそれを真っ直ぐに受け止め、笑みを消して告げた。
「
「貴様らの言い訳、言い分、過去、そんなものは聞く必要はない、度外視できる」
「魔王とは、そういう存在、生まれながらにして魔王は〝滅ぶ運命〞に あるのだ」
金髪の女性はそこで再度ーーーーー突き刺す構えを取る。
ペストは、金髪の女性に言われた事に反論する事はできず、ただその時を待った。
「聖なる光の前でーーーー死ね、箱庭の屑よ」
その言葉に応えるようにエクスカリバーは、さらに黄色く光る。
まさにこの瞬間は、天使が魔王を断罪する場面だった。
(...............私はこんなところで......死ぬわけ、には.........)
悔しい思いを胸に秘めていたペストは闇の中、ふと思い出す。
これまで、出会ってきた八千万もの同士と二人の部下を。
そして、あの男とあの言葉を。
『君達、全員、俺の仲間にならないか?』
その男は病に冒され死ぬほど辛い時に、その原因元であるペストに笑顔でそう言ったのだ。
今、思い出しても、馬鹿だと即答して笑える。
『ーーーーーー貴方達、私の仲間にならない?』
昔、自分が誰彼構わずそう声を掛けてきたことをペストは思い出し、その男と重ね合わせる。
ペストは小さく笑った。
(...............やっぱり、あり得なかったわね)
金髪の女性は夜空の下で頭を垂らす魔王へ、聖剣エクスカリバーを 真っ直ぐ突き刺す。
空気を切り裂き突き進む剣先は正確にペストの胸を狙っていたのだが、
刹那、キーン、という音が町中に響き渡る。
「っ!」(.....................やはり来たか)
金髪の女性はエクスカリバーの剣先を何かに弾かれ、そこから距離を取るように後方へ飛んだ。
金髪の女性は足元から埃を舞わせながら、立ち止まり真っ直ぐ、乱入者に視線をぶつける。
黒ウサギとサンドラはその乱入者を見て、幽霊が生き返った瞬間を見ているかのように驚き、二人ともあり得ないと思いつつも、黒ウサギは屋根の上からその名を呼んだ。
「亜音さん!?」
「え、」
黒ウサギの声にペストはすぐに目を開け、見上げる。
そこには自分に背を向けているーーー黒髪の少年、榊原亜音が刀を手にして立っていた。
ペストの目に映るその背中は、前にあった時よりもとても大きく見えたのだった。