新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第十九話「天武の才............築いてきたもの」

 勝てない。

 なんだ、この化け物は。

 これが、天災ーーーー。

 魔王なのか。

 死にたくない、死なせたくない。

 だが、そんなの魔王には関係はない。

 魔王はただ、悪行を働き、星の営みと生命の輝きを貪る存在。

 我々に何ができる。

 我より強い屈強な騎士たちが容易く殺されていく。

 未来は決まっているではないか。

 我々は魔王に喰われるのだ。

 

 ではなぜ、我だけが生き残ったのか..................。

 それは我が誰よりも弱く、臆病だったからだ。

 我は本当は知っている。

 逃げる我の背を笑顔で見送る同士たち。

 我の逃げ惑う背を見て、興味を他の同志に向ける魔王。

 我が、我が.....................騎士だと!?

 自身より強き者に挑まぬ騎士が騎士と名乗り、一目散に逃げる。

 魔王以下のクズではないか。

 

 我はなぜ、こうも弱いのだろうか。

 その答えが、ここにあるのかもしれない。

 我は赤い血で汚れているボロ雑巾のようになっても立ち上がる青少年、榊原亜音を見て期待し、

 また誰かを頼ってしまう。

 榊原亜音に問いたい。

 貴様はなぜ、魔王を庇うために、死の呪いに苛まされながらも、立ち上がり、自分より強い相手に立ち向かうのだ?

 

 分からない、いや..................。

 魔王を庇う理由は分からない。

 

 だが、強者に立ち向かう理由は分かる。

 それは、自分の正義を掲げ、勝つためだ。

 

  だが、それは容易ではない。

 何より、この世界は逃げという道が数多と用意されている。

 この場合に関して言えば、頭を下げる、魔王を見捨てる、魔王を自らの手で殺す。

 考えれば色々と方法があるだろう。成功するかは別として。

 結果は誰にも分からないのだから。

 だから、我は、他の道をどうして選ばないのか、死人の少年に聞いてみた。

 すると、少年は頭から血を流し、刀に体重を預けながら笑っていた。

 

「決まってるだろ」

 

「俺はその先の未来を見据え、」

 

「その未来の形が納得できる未来、その道が俺が納得できる道」

 

「その未来だけを望んでいるからだ」

 

「その未来のためなら」

 

「どんな世界にだって一歩も引く気はないよ」

 

 

 我はーーーーーーーー聞かなかったことにした。

 

 

 できるわけがない、そう笑っていた。

 そんなの認めない。

 認めたら、我は、逃げた我は。

 

 

 

 ただの.....................クズではないか。

 

 

 

 

 

######

 

 

 一言でーーーーーー惨状だ。

 

 十六夜達は、思わず口を閉ざしてその暴虐を見ていた。

 助けに入るべきなのだろうか、そう悩んでいるが、今この状況で 割って入るのは途轍もなく躊躇われ、勇気がいるようだった。

 まるで、世界の偉人達の会議に堂々と反論するかの如く、重圧と躊躇い、そしてその光景に目を奪われていた。言葉も失っていた。

 亜音とブリュンヒルデの激闘の戦いはーーー戦いと呼べるものではなかった。

 その理由は、ペストがやられたのと同様、瞬間移動の移動速度、亜音の攻撃が全て霞を斬り伏せるだけに終わっていたからだ。

 亜音の鬼神の力、速度は十六夜、力は十六夜に及ばないにしても修羅並、刀も天雷を宿している。それでも、亜音は手も足も出せず、最初の攻撃と空中戦以来、一歩も動けずにやれらていた。

 一つの明確な理由は、ブリュンヒルデが身に纏っている〝白龍の鎧 〞にあった。

 最初の攻撃は亜音の気絶狙いの雷光一閃レーザーだった。

 しかし、それは電気が通らないように、鎧が放つ白い霊気の光に弾かれて木っ端微塵に霧散した。気絶する程度まで下げられた雷光だったが、それでも、神格を宿している。

 常人に跳ね返すのは不可能、最悪、感電死するだろう。

 その事からあの鎧には、属性耐性があると分かった。

 ブリュンヒルデ本人も、『雷は弾き、炎は燃えない』と言っていた。

 速度向上に属性耐性、空中戦に至っては亜音の自殺行為に終わってしまっている。

 亜音の飛行速度は自動車の速度と対して変わらない。その亜音が音速を超え、空中で瞬間移動する相手に勝ち目などあるわけがないのだ

 そして、何より..................思っていたよりもーーーーー。

 

「呪いのせいで体力が残ってねぇな、それどころかさらに浪費してや がる」

「あ、亜音さん............っ!」

 

 思わず、黒ウサギが目を背けたくなる光景。

 断続的に聞こえる呻き声。

 もはや、亜音は全身、血と黒点で塗りつぶされそうになっていた。

 そんな亜音は今だに反撃を試みていた。

 カウンターのように待ち伏せし、剣を振るう。

 だが、それも幻を斬り伏せるに終わり、亜音は背中を蹴られ、地面に転がる。しかし、それでも亜音は立ち上がっていた。

 皆、これを見て同様に思ったことがある。

 亜音は本当に人間なのか、と。

 黒死病の呪いで身体は冒され、服が深紅に染まり、骨は所々ヒビが走り、下手をすると折れているだろう。

 普通の人間ならーーーーーーーもう死んでいる。

 そう、断言できるほど、亜音はひどい有様である。

 ではなぜ、そこで立てているのか。

 これは経験談だが、十キロマラソンを死ぬ気で走りゴールで倒れ込むほど追い込んだ者がいる。

 その者は死ぬ気で走ったはずだった。

 しかし、数分経つとなぜかーーーーーーーー身体が軽くなってい た。

 疲れはしているだろうし、先ほどより速くマラソンを走ることはできないだろう。

 だが、スタートの一キロのタイムが縮まった。

 ただ、単にオーバーペースなだけかもしない。しかし、見て欲しいところはそこじゃない。

 なぜ死ぬ気で走ったのに、まだ走れる?

 体力が回復した 、確かにそれもあるだろう。

 酸素不足が治っただけかもしれない。

 だが、体力が残っていたのは明白。

 死ぬ気で体力を振り絞れる、そこがマラソン選手との差なのではないだろうか。

 マラソン選手との差ーーーーそれは、練習量だ。

 つまり、毎日、自分を律し、鍛錬し、鍛え上げられたのは何も肉体だけではなく、体力の一滴まで振り絞れる気力と精神。

 亜音が立てている理由はそこにある。

 人間の限界点、まさにその境地に亜音は辿り着いたのだ。

 肉体同様に、精神もタフになり、鬼神よりも修羅で不屈の闘志まで鍛え上げた。

 生半可な攻撃で、倒れるワケがない。

 全員がその闘志と不屈の気迫に圧倒され手出しができない、自覚できないだけで、それが主な本当の理由なのかもしれない。

 鬼神の気力と鬼神の精神、まさに人間の限界点を自力で越えようとしていた。

 それを静かに見つめる十六夜は冷や汗を流しながら笑い、呟く。

 

「..................天使のくせに随分とあざといな......」

「何がですか.........?」

 

 黒ウサギがそう聞くが、サンドラ、飛鳥、耀の三人も視線を十六夜 へと集中させた。

 十六夜はそれを横目で一瞥し、視線を目下のクレーターに戻して口 を開く。

 

「奴があたかも瞬間移動しているように見えたのは、主に三つの要素がある」

「三つ、ですか?」

「ああ、一つはミスディレクションと言われる手法だ。簡単に言えば、視点誘導、注意を逸らす技術だ。二つ目、奴の鎧、あの鎧はおそらく ハデスの兜と同様、消音機能を備えているはずだ」

 

 そこで、耀と黒ウサギから疑問の声が上がる。

 

「え ..........でも、ちゃんと翼の音と剣の振るう音、聞こえてるけど」

「そうなのです、時折聞こえ............あ」

「そうだ、奴の鎧は自分の意思で消音できるんだろう。そして、三つ目これはもう傍目から見ていたら気が付くだろ?」

「..................残像使いね」

 

 十六夜の疑問に返事をしたのは飛鳥だった。

 その声は小さいものだったが、皆の耳に入り、緊迫感が増していく。

 

「奴は音と残像を自在に操り、動きに緩急を付けることでミスディレ クションを行ってる。だから、瞬間移動だと勘違いしたんだろ」

 

 ペストが知覚できなかったのは、音速越えの挙動で自然とステルスになり、ミスディレクションと残像によるもの。

 例えるなら、相手が手を動かし、その手のひらを開いた時、その上に何があるのか、それを確かめようとした瞬間にはもう肉薄しているのだ。だまし討ちの頂点だ。

 単純で圧倒的な神の力は、速度と聖剣、鎧、パッとしないかもしれ ないが、これはもはや一撃必殺、一撃しか打てないという意味はなく連発可能な一撃必殺の戦闘技術。

 魔王討伐のスペシャリストというのは伊達ではないらしい。

 

「そして、真に極めたミスディレクションの恐ろしい所は、そのネタ、逸らす行動さえわからないって所だ、何かをしている、だが、その何 かがわからない。観察していくと徐々にどツボにハマり、一つ一つの動作に意味があるように見てくる。結果、特定不能。そして、それらを特定されないために、わかりやすい行動を囮にしている」

 

「わかりやすい当たり前の行動、翼をうごかすこと、普段の仕草、それらすべてに緩急をつけ、敵を困惑させる。さらに自身の速度に慣れさ せない。初見で躱すせる奴がいたら、本物の全知全能の神ぐらいだ」

 

 十六夜が飄々と語るがそれに反比例して空気が重くなっていく。

 十六夜もまた苦い顔して、言葉を零した。

 

「それに加え、残像使いにステルス............抜け目ねぇ、マジで無理ゲーだ」

 

 

 

「このままだと亜音は間違いなく負ける」

 

 

 

 その言葉に皆は肩を揺らすも自然に視線を落とす。

 それは誰もが思っていたことで、口に出さなかったことである、当然の反応と言えよう。

 

「だが、絶対に殺されはしない」

「え?」

 

 その言葉に黒ウサギが反応し、十六夜は言葉を続ける。

 

「なぜなら、このゲームは同士討ちは禁止されているからな、最悪、半殺しで済む」

「そうですか.........って安心できません!ですが、加勢するのも」

「安心しろ、乱入する事は不可能だし、乱入した瞬間、奴に一発昏倒させられるだろうよ、亜音はその点、特別鍛えてるおかげで意識は保っ ているみたいだ、人外な精神力だな」

 

 その言葉に、皆が同様にうなづき、十六夜は付け加えた。

 

「それと........................亜音の目は、何か企んでる目だ」

「あの身体で?」

「まぁ、見てろ」

 

 飛鳥の問いにそう答えた十六夜は、目下の亜音を凝視する。

 亜音が纏う気迫はまだ諦めた様子ではない、だが、気力にも限界はある。

 おそらく次の激突で終わりだろうと十六夜は推測した。

 

(真に極めたミスディレクションを破れるとしたら、勘、あるいは閃き、もしくは...............だが、そんなことをすぐにやれと言われても無理だろうがな...)

 

 

 

####

 

 

 ペストは言葉を失い、ただその光景を見つめていた。

 そして、祈っていた。

 祈ることしかできない、という方が正確だろう。

 なぜなら、ペストは黒い霧の雲状のものに乗り、手と足を黒い霧の鎖で縛られていた。亜音によるものだ。

 だからせめて、祈った。

 

(......亜音.........亜音)

 

 ペストは頑張って、とも、早く楽にしてあげて、とも祈らない。

 そんなこと言える立場ではないのだ。だから、ただ亜音の名に自身の言葉にできない思いを乗せて祈るのだった。

 

 

#####

 

 

 

 ミスディレクションと残像と音操作による瞬間移動技ーーー《ミ ラージュ・テレポーテーション》とブリュンヒルデは名付けている。

 残像ーーーーストップ&ゴー、超加速だけで一つの残像を作れる。

 だが、そのクオリティは静止からの加速の鋭さによる。

 イメージ的には一枚の絵を作るようなものだ。

 複数の残像には、静止からの超加速と急停止の超絶テクニックが必要になる。正確な場所に残像を作る場合、どこで力を込めるか、タイミングを体に叩き込まなければならない。でなければ、残像を作りたい場所から通り過ぎたりしてしまい、残像がぶれてしまうのだ、カメラのブレのように。

 完全に静止、もとい、その一点で進んでいた方向への力量をゼロにしなければできない。減速とはまた違う技術。力技と超絶テクの組み合わせが、多重残像。

 加速にキレがなければ、残像はブレて拙くなる。つまり、残像を一 枚の絵にするには、どれだけゼロ加速に近付けるか、そして、残したい残像の絵の、無防備な態勢からどうやってゼロ加速するか、動作と 加速のキレが重要。

 ミスディレクションーーー普段の動きから緩急をつけ、天使の翼、 派手な攻撃、あらゆる事に織り込む事で、複雑かつ、核となっている タネを見つける事は困難とさせている。

 さらに鎧の恩恵、音操作により、複雑かつ難解、成功率の高いミスディレクションとなっている。

 その他にも、残像のブレをわざと残して利用し、軌跡に視線を誘導、その先にある残像に視点を固定、そのスキに駆ける方法なども行使し ていた。

 残像は三、四秒しか残らないが、音速を超えた速度で飛び回るので 十分だろう。

 まさに数百年にも及ぶ試行錯誤と鍛錬により編み出された誰にも真似できない彼女だけの、一撃必殺の戦闘技術と言えよう。

 ペストはただ遊ばれていた、亜音に至ってはルールに縛られているから殺されずに済んでいるのだ。

 

 

 

#####

 

 

 

 

 亜音はとっくにブリュンヒルデの戦闘技術を見抜いていた。

 なぜなら、亜音には幻を見抜く目、輪廻眼がある。

 だが、遅いのだ。幻だと見抜いた瞬間にはもう、寸での所まで肉薄されている。

 亜音は最悪、身体に神経を集中させて生身で防御はしていたが、もはや限界に近いようで、刀に体重を預けて立っているのが精一杯のようだ。

 それに反比例して、ブリュンヒルデは少し肩で息をしながらも無傷である。

 

「我の同志達は魔王に殺され、喰われた、魔王とはそういう存在なのだ」

 

 ブリュンヒルデは満身創痍の亜音にそう豪語した。

 亜音は血を汗のように垂らしながら、地面から刀を引き抜いた勢いで仁王立ちし呟く。

 

「そうか、君も俺と同じように目の前で.....................失ったんだな」

「貴様もか、ならば理解できよう、この世界のルールでは皆は救えない、現状のままでは魔王の思い通りだということに」

 

 まるで、亜音は自分に言われているかのような錯覚を覚え、思わず笑みを浮かべながら言葉を返した。

 

「ああ、分かるよ、この世界は穴だらけだとね......ッグッ...ぅ............世界を変えなければ、多くの者が悲しみに打ちひしがれる......」

 

 苦い笑みを浮かべる亜音の言葉にブリュンヒルデは静かに、そして 強く言葉を吐く。

 

 

「だが、世界を変えた所でーーーーーー〝魔王〞は変わらない」

「............」

「世界と魔王はもはや異なる軸を中心に動いている。世界を変えたところで魔王は変わらん、倒してもまたゴキブリのように小さな綻びから繁殖する」

 

 もう一つの変わらないものそれはーーーーー世界が変わっても変わらない、〝天災・魔王〞。

 そう、全てが魔王のせい、我のせいではない。

 逃げた我のせいではない、魔王さえいなければ我の同士たちも今頃は、大事な剣でも磨いて鍛錬に励み、笑っていたはずなのだ。

 

 

 

「ならばもうーーー〝魔王〞はその宿命通り、正義の前で滅ぼす他にない」

 

 

 

 ブリュンヒルデは聖剣の剣先を真っ直ぐ亜音に向ける。 凛とした気迫は声と同調してさらに飛躍し、存在を大きく見せていた。

 

 

「だから我はーーーーーーこの世界からすべての〝魔王〞を駆逐するーーーー誰だろうと」

 

 

 

 

「我の邪魔はさせんーーーーー!」

 

 

 

 

 

 その言葉と共に亜音の瞳、輪廻眼は実態のないブリュンヒルデを捉え、本物のブリュンヒルデは真横に出現した。

 音速を遙かに超えた移動速度、完璧で無防備な絵を描いた残像、それに加えて無音の移動にミスディレクション。

 その全てが一つの戦闘技術に集約された《ミラージュ・テレポー テーション》。まさに瞬間移動と評されてもおかしくない技だ。

 そして、この戦闘技術は単純な瞬間移動よりも立ちの悪い長所を持っている。 亜音のように幻を見抜く瞳がないものは、ミスディレクションを突破しない限り、永遠と残像を追い、視点誘導させられる。さらにミス ディレクションを突破しようとして注意するほどミスディレクショ ンの罠にハマっていくのだ。

 突破するには閃きと勘、と十六夜が論した理由は、つまり誰にも縛られない運、ミスディレクションが及ばないのが、閃きだからだ 。

 心を見抜く奴でも、何を考えているか分からない運馬鹿には負ける、まさにその論と同じ定義である。

 さらに瞬間移動との違いを述べるなら、〝全ての動作が音速を超えている〞という所だ。

 瞬間移動というのは移動にかかる時間は刹那だが、速くなったというわけではなく、動きが遅くとも反応できるかもしれないが、この戦闘技術を捉えるのには〝最低限〞、圧倒的な身体能力、動体視力が必須だろう。ブリュンヒルデはその世界の住人なのだから。

 ブリュンヒルデは兜の下で口角を上げ勝利を確信し、剣の平面を剛力に任せて叩きつけようとする。

 だが、そこで雷光の斬撃が迸り、正確にブリュンヒルデの胴体を捉えた。う

 

「なっ............くっ...!」

 

 ブリュンヒルデは危うい所で亜音の刀をエクスカリバーで受け止め、甲高い金属音と剛力のぶつかり合いで突風が生じ、辺りの埃を地面の上を走らせるように舞わせた。

 正確無比のカウンター、これまでも亜音はカウンターばかり狙っていたが、一度も成功はしていなかった。ブリュンヒルデは兜の下で顔を驚愕に染めて、稲妻が迸る刀とエクスカリバーがせめぎ合うのを見つめていた。

 だが、驚いたのはそこではなく、亜音が自身を捉えた事にある。

 しかし、ブリュンヒルデは思考に囚われながらも旋風を纏うような 回し蹴りを亜音の右脇腹にブチ込み、盛大に吹き飛ばす。

 亜音は地面をバウンドしながらも何とか態勢を立て直し、刀を地面に刺しながら笑う。

 

「とうとう.........捉えたな」

「っ...!...........フッ.........だが、貴様の膝は大笑いしているぞ......その分ではもう、そこから一歩でさえ動く事はできまい」

 

 誰もがそう思うだろう。

 亜音自身も限界だと悟っていた。

 だが、頭から血を垂らしながら不敵な笑みを浮かべて、その口を開く。

 

「わからねぇぜ 、もしかしたらもう一回ぐらいは走れるかもな......っ!」

 

 亜音はしゃべりながら態勢を崩し、何とか膝を柔軟にして倒れるの を堪えていた。

 見ている側からしたらヒヤヒヤしてしょうがないだろう。

 そして、亜音の言葉はもはや狂言でしかないのは明白だ。

 

(おそらく.........焦りを誘い込んでからの......カウンター狙い...............)

 

 ブリュンヒルデはつくづく諦めの悪い亜音を見て笑う。

 そして、思った。

 自分が追い求めていた真の騎士の姿がここにあるのではないかと。

 しかし、ブリュンヒルデは、今はそんな事よりも自分の動きを捉えられたことを考えるべきだと思考を切り替えた。

 

(あの目か.........多重の円形の線、紫の瞳.........見たことないな、だが瞳だけが問題ではない............音速を遙かに超える我を捉える反応速度、動体視力、さらにタフな所から察するに生半可な奇跡をその身に宿しているわけではなさそうだな.........)

 

 最低でも神格保持者級の力を持っていると見て間違いないとブリュンヒルデは考え、聖剣を持つ手に力を込め、ついでに内心で舌打ちする。イラついている原因は主に、同士討ち禁じのルールに対してだった。

 もしそのルールがなければ最初の一撃、数秒でケリがついていたのだ、イラつくのも無理はないだろう。身を隠していたのが、仇になった瞬間だった。

 だが、イラつくと同時に、心は高揚した。

 

 面白い、面白くて仕方がない!

 なんだ、こいつは!

 戦う中でなんで成長できる!

 まさに驚異的な進化だ。

 負けたくない

 純粋な闘争を我はしたい

 騎士?天使?、魔王?そんなこと関係ない、我のこの数百年のプライドを守るために我は此奴を倒す。

 それだけだ !!

 

 ブリュンヒルデは高揚しながらも冷静に一つの策を作成した。

 確かにこのゲームは同士討ちは禁じられている。

 だが、失格になるのは、命が消えた瞬間だ。

 ならば、即死さえさせねば、秒数コンマで駆けて魔王の首を落とせる。

 最悪、この者は死ぬだろう。惜しい人材だ。

 だが、ブリュンヒルデは覚悟を決め、エクスカリバーを腰横に待機、 腰を落として前傾姿勢に入る。

 同時にブリュンヒルデの天使の翼が大きく広がり、その存在を白く大きく輝かせた。

 そして何より、兜の下からでも分かる殺気と闘志に満ち満ちた猛獣の白き瞳は、巨大な龍の瞳と装飾ない存在感を放ち、全てを射抜く。

 十六夜達もペストもその大きな変化に気付き、思わず顔を歪ませる。

 間違いなく、亜音を斬り殺す気だ、と皆は確信する。

 そうなれば、手を出さないわけにはいかなかったのだが、

 

「...............っ!?」

 

 亜音の気迫はさらにそれを上回った。

 その気迫にブリュンヒルデは思わず肩を揺らす。

 

「フゥーーー..................スゥーーー.........」

 

 亜音は息をゆっくり構え、雷光が迸る刀を剣道の中段構えに配置する。

 迂闊に近づけない、まさにカウンター狙いだということを示していたからだ。

 そして、何より身体の芯がブレておらず、一切の震えもない。

 本当ならば、全身の傷の痛み、悪寒、意識障害によって立てもしないはずなのだ。

 まさに、鬼神を思わせる気迫と気力で全てをねじ伏せて、そこに立ちはだかっていた。

 ペストは誰にも触らせない、そう言っているようだ。

 ブリュンヒルデは思わず闘志が鈍りそうになるが、聖剣を握り締める手に力を込めて堪える。

 まさに、鬼神 対 龍、の気迫勝負が行われていた。

 世界はその気迫の影響を受けて止まり、両者の呼吸を待っていた。

 これが最後の激突になる、まさにそう思わせた瞬間。

 

 

 最初に動いたのはーーーーー景色だった。

 

 

 ブリュンヒルデは突如の影に、デジャヴを感じ、思わず視線を上に向けた。

 その影は、亜音の足元から世界を覆い尽くさんばかりに生成された黒い霧だった。

 デジャヴを感じた理由は、その経験があったからだ。

 あれはーーー最初に二人が邂逅した時のこと、空に黒い鳥が描かれ、それに乗っていたのが亜音だった。

 ブリュンヒルデが動揺している間にも、亜音より生まれた大量の黒い霧が素早くクレーターをドーム型に覆い尽くし、暗黒世界を作り上げた。暗黒世界のことは覚えているだろうか、ペルセウス戦の時に亜音が手出しすれば、という話をした時に出したペルセウス攻略法だ。

 暗黒世界、文字通り一寸先にでさえ光が届かない闇世界、そんな世界を作り上げ、その中で亜音だけが輪廻眼で見えるので、チート技と評した。

 まさにイタズラし放題。上手くやれば内部崩壊も起こせるだろう。

 しかし、これには明確な弱点がある。それは、自分で光を放てる、懐中電灯の役割を果たせる者には効かない。

 確かにその物を黒い霧で塗り潰せば、無力化は可能だが、言わずとも分かるだろう。

 ブリュンヒルデがそうさせてくれるわけがない。

 

「ふん!」

 

 ブリュンヒルデは全方向から押し寄せる黒い霧の流動体を光り輝く聖剣エクスカリバーで正確に切り裂く。

 そして、同時に聖剣に意思を強く集中させ、言葉を乗せる。

 

「全てを照らせ、〝裁きの聖光(エクスカリバー)〞 !」

 

 旋風陣を撒き散らすようにエクスカリバーを一回転振り回し、光を拡散させる。

 そして、その光は黒い霧の壁を全て弾き飛ばし、跡形もなく消し去った。

 その余波として黄色い閃光が外に弾け、波紋の如くハーメルンの街々に広がり、全てを照らし回る。

 《エクスカリバー、裁きの聖光》は、元は魔法剣だったのが、ブリュンヒルデの天使の力を宿し、強力な聖剣へと昇華したのだ。『裁きの聖光』はそこから由来している。ブリュンヒルデが箱庭で湖の乙女の願いを叶えて打倒、全員漏れなく惚れさせ手に入れたもので、この昇華した聖剣は、闇と魔の者に対してだと剣の切れ味が極限まで上がる。死の概念などを斬り、呪いや闇を打ち払う力を宿しているとされる。

 

 まさに今、戦神〝蚩尤〞の力、黒い霧の闇を豪快に打ち払い、全てを照らしたのだ。

 伊達に生命の樹の守護を任せられているというわけではないらしい。

 ブリュンヒルデは不適の笑みを浮かべ、視線を亜音に戻そうとした 所で、背後から不吉な音が聞こえた。

 まさか背後から青と黄色の雷光が発散し、稲妻が弾ける音が聞こえるなど、ブリュンヒルデは予想だにしなかった。

 

「っ!...............なっ!」

 

 だが、後ろに振り向いて見れば、ただ雷光を放つ刀が地面に無造作に転がっていただけだった。ブリュンヒルデはすぐにその策略を見破る。おそらくブリュンヒルデが視線を上に向けた時に、刀を移動させたのだ。

 さらに投げたのではなく、黒い霧で運んだのであろうから物音はしないし、稲妻の音と光も黒い霧で覆い隠していたのだろう。

 そして、黒い霧で覆われた雷光が突如、背後から光り火花の音を鳴らせば、そりゃあ振り向かずにはいられない。なぜなら、これまで亜音は肌身離さずその刀を持って振り回していたのだ。言わば、その刀は亜音の所在地を教えるようなもの、必然的に無意識に振り向いてしまうだろう。

 鉛筆を落ちた音が廊下から聞こえたら振り向く、誰かいるかもしれないと。それと同じだ、後からそのーーーーミスディレクションに気がついても遅い。ブリュンヒルデは舌打ちし、どんどん加速する展開に思考が飲まれながらも、気力で亜音が居た場所に視線を戻す。

 すると、亜音がそこで両手に二刀を持つ構えを取っていた。

 

(.........なるほど、見よう見まねのミスディレクションですか.........だが)

 

「そんな拙い誤魔化しが通用するとでも思っているのかッ!」

 

 一体、どれだけ我が鍛錬したと思っているのだーー !そんな思いが弾けるようにブリュンヒルデは天使の翼を広げ、大気の中をゼロ加速、超低空を音より速く、音を置き去りにして亜音に肉薄した。

 彼女の天使の翼、いや天使の翼は鳥とは違う原理で飛んでいる。 鳥達はその翼で空気を叩いて飛ぶが、天使の翼はその翼自体に浮遊力が備わっている。

 ブリュンヒルデの翼はさらにそれを超え、強大な霊格を宿した翼は音速を超える飛行を可能にしているのだ。

 だが、ブリュンヒルデはエクスカリバーを亜音に振り下ろしなが ら、ふと疑問に思う。

 ブリュンヒルデは今、なにも戦闘技術を行使していない、なのになぜ、亜音は“反応”を示さない 。

 その疑問はすぐに解消された。

 ブリュンヒルデのエクスカリバーの軌跡は亜音を斬り裂き、霞のように霧散させた。

 それと同時に背後より、声が聞こえた。

 

 

「我慢比べは俺の勝ちだな」

 

 

 それで全てを悟った。

 我は初めから騙されていたのだと。

 ここからは亜音の独壇場だった。

 

「はぁああああああああああ!!!」

「っ!?」

 

 気合の声と共に目にも止まらない神速の斬撃が幾重にも糸を縫うように放たれ、外からは斬撃の軌跡が残像のように残り、幾閃と煌めいていた。その斬撃は全て正確に鎧に吸い込まれ、外殻を削ぎ、剥ぎ取る。

 そして、最後の斬撃。

 皮を剥ぐように調整された距離と力で、両手の刀をクロスさせるように振るう。

 

「せいっやああああ!!」

 

 その斬撃の衝撃で、聖白の鎧は欠けた所からヒビが走っていく。

 同時にブリュンヒルデはその鎧が壊れていく様を見つめて、自身の負けを悟り、受け入れた。

 それを証明するかのように無数に走ったヒビが最高潮に光り、鎧は星々の煌めきを散らすように爆散した。

 そして、両者を、勝者と敗者を輝かせていた。花びらのように舞い散る光の中、亜音は刀を放り、拳を構えた。

 一方ブリュンヒルデに残ったのは、整えられた黄色と白のスカートドレスの軽装のみ。

 聖剣エクスカリバーも力無く地面に転がっていた。

 ブリュンヒルデにとっては酷な話かもしれないが、亜音も数十年、 独学で剣術を磨いてきた。そして、天武の才と先代達が何千年と築いてきた奇跡がある。

 つまり、戦闘技術でも亜音はブリュンヒルデに引けを取らないのだ。

 亜音はその拳に全ての思いと気力を乗せて、鬼神の腕力を発揮させ る。

 大気を纏い、加速する拳は一瞬だけ、第三宇宙速度を超えたかもしれない。

 

 その拳は正確に、ブリュンヒルデのお腹を捉えるのだった。

 その時のブリュンヒルデの顔は、満足そうな笑顔を浮かべていた。

 

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