新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
挿絵あり
途中のところ
亜音の計画は最初の攻撃を防がれた後、ブリュンヒルデの初撃から 始まった。
瞬間移動の攻撃を受けて、最初からブリュンヒルデの戦闘技術を見抜けたわけではないが、ただの瞬間移動ではなく、何か種があることは理解していた。
だからこそ、敵を知る必要があった。
そして、このゲームには同士討ち禁じがある。
なので、亜音はブリュンヒルデが致命傷を与えるような攻撃はしないはずと考えた。そして、ブリュンヒルデが自暴自棄、殺しに来るまでは情報収集、観察と防御に徹していたのだ。だから、亜音は言った。
『我慢比べは俺の勝ちだ』と。
自分の体力が尽きるのが先か、ブリュンヒルデが自暴自棄になるのが先か、自分が敵を知り、動きを捉えるのが先か、という勝負だった のだ。 そして、亜音はこれまでカウンター狙いで戦い、一度も〝駆けた〞 ことはなかった。 これをブリュンヒルデは、『反応はできるが、速度にはついてこれな い』と判断したのだ。 ブリュンヒルデが騙されたと悟ったのはそういう事だ。 実は貴方より速いのよ 、と亜音はずっと笑っていたことであろ う。 そして何より、残像を使えるかもしれないことを分かっていれば亜 音の駆ける構えはすぐに残像だと見抜けただろう、だが、亜音が音速 以上で駆けられるのを隠していたので、勝手に《残像を使えない》、《動 きは遅い》を一緒に除外していたのだ。 亜音は情報操作、情報の隠匿を利用し、さらに同士討ち禁じのルー ルがあるから勝負を焦らず、一方的に相手の情報を天武の観察眼で収 集
そして、その情報から技術を〝盗んだ〞。
そう、亜音が行った一連の行動は、間違いなくーーー《ミラージュ・ テレポーテーション》。 残像は拙い、簡潔に言えば、子供の絵と天才作家の風景画ぐらいの差がある残像。
それでもこんな短時間で一切ブレがない残像を作り上げ、荒削りだが、ゼロ加速をモノにしたのだ。
亜音の観察眼と飲み込みの速さは、まさに驚天動地だろう。 十六夜が同じことをやれと言われても無理だと断言できる。ゼロ加速は、加速とはまた違う技術。ただ早ければできるというものではない。言い表しにくいので、簡潔に言えばダンスのキレのようなもの。その点で言えば、ブリュンヒ ルデは頂点だ。
全く無防備で、数多の態勢からゼロ加速とか、練習するだけ無駄というより、できる未来が見えてこない。手を少しでも一キロという数字を出したら、残像はブレる。ブレてしまえば、もはやその絵は残像 だと一発で見抜かれてしまうだろう。 さらに亜音はその残像の拙さや無音の恩恵を補うために、黒い霧で視線を誘導し、刀が放つ雷光の光と音を利用して注意を逸らす、簡単なミスディ レクションを行使したのだ。
つまり、亜音はたった一度限りのブリュンヒルデの戦闘技術を真似 たのだ。 おそらく二度目は成功しない、それほどまでにブリュンヒルデの技 術は遥か高みにある。だが、亜音もそれ相応の奇跡をその身に宿しズバ抜けた観察眼と技術を盗み体現できる才を持っているのだ。 これらが亜音の狙いだった。 残像を作る動きを真似るためにずっと観察し、血反吐を吐きながら も耐えて来た。 亜音の残した残像は駆ける動作の態勢だったが、それでも数秒の世 界でブレさえなければ残像と本物の見分けはつかない。 ブリュンヒルデは『今走り出そうとしている』と勘違いして剣を振るったのだ。
そして、空振るまで残像だとは気がつけなかった。
先ほども言ったとおり拙過ぎて二度目はないだろう。
それも亜音は分かっていたから、勝負を焦らなかったのだ。
建造物の屋根上に立つ十六夜は、数多の斬撃を放った亜音を見つめ ながら口角を上げつつ、心の中で賞賛していた。
(............まさか、本当にミスディレクションをミスディレクションで破るとはな)
そう、十六夜が真のミスディレクションを突破するのに必要と思っていたのは、閃きと勘、そしてーーーー同じ技術、ミスディレクションのことだった。正確に言えば、亜音はミスディレクションを破ったのではなく、ミスディレクション使いの〝当人〞を騙し破ったと言った方が正確だろう。
十六夜は心の底から湧き上がる熱いモノを抑えて、素直に称賛していたのだが、同時にこれからの事を考え、後始末をどうするか、そのことで頭を抱えるのだった。
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亜音は属性耐性、速度向上、消音機能を兼ね備えた〝白龍の鎧〞を 確かに打ち破った。
だが、世の中、そう上手くはいかない。
例え話をしたのを覚えているだろうか、マラソンの気力の話だ。
簡単に言えば、これは何も亜音だけの話ではない、という事だ。
ブリュンヒルデとて数百年という年月を鍛錬してきた。
そして、無傷の生身に受けた攻撃は、たったの一撃。
たとえ鬼神以上の力が備わっていたとしても、ブリュンヒルデの存在はそう安くはない。
亜音に吹き飛ばされたブリュンヒルデは、脇腹の骨が何本か逝ったのを確認し、血反吐を吐きつつも、十六夜達のいる建造物を斜め後ろにして立っていた。
「ガッハァッ......ァ............フゥー............っ」
ブリュンヒルデは口角から血を垂らしながらも、ゆっくりと深呼吸をしていく。
この様子だとまだまだ戦えそうである。
ブリュンヒルデにして見ればこれからが本番だろう。
亜音は一発で意識を刈り取るつもりだったのだが、そう甘くはないのだ。
そして、呼吸を整えたブリュンヒルデはゆっくりと歩み、数メートルまで亜音に接近し、聖剣を拾っていた。
一方の亜音は自分の体力の無さと自身の限界に強く奥歯を噛み締め、どうにか膝に両手を乗せて体を支えている状態だった。
「ぬぅ............っ.........ぐぎ.........ぅ.........ぅぐ」
気を抜けば一瞬で意識を失う、恩恵による痛み止めもそろそろ限界だった。
さっきの数えきれない連撃と渾身の一撃で体力も使い果たした。
今度こそ、絶体絶命の満身創痍。 身体中から血と汗が大量に滲み、所々骨も逝かれているのか、紫色に腫れ上がっている。頭から紅く濁った水滴が止まることを知らず に溢れ、滴り落ちていく。
(なんて............ざまだ............情けないし...............笑えない .........っ )
ここ最近のトレーニングもあまり効果を示していない。
やはりここらが限界なのだろうか、亜音は悔しくて仕方がなかった。
そんな亜音を無表情に見下ろすブリュンヒルデは口から垂れてい た血を手で拭い、そのまま口を開いた。
「してやられた............我の負けだ」
「っ............ハァ............ハァ.........ハァ」
亜音はなんとか呼吸が出来ているほど辛そうで、ブリュンヒルデの言葉を俯いたまま聞いていた。
視界も不安定で、亜音の瞳は色を失いかけている。
ブリュンヒルデは厳しい空気を漂わせ、言葉を続けた。
「だが、我が魔王を見逃すかどうかは、〝個人〞の勝敗には関係ない。我個人は其方に負けたと思っている...............其方はよくやった............『榊原亜音』、その名は一生忘れぬ」
「...............」
ブリュンヒルデは数分経っても返事をせず、呼吸が小さくなった亜音を見て、意識がないようだと悟り、軽く頭を下げてから背を向けた。
その歩みの先にはーーーー宙に浮く黒い霧の雲に乗るペストがいた。
亜音の肩がブリュンヒルデの足音に反応し、揺れている。
亜音当人はもはや視界が真っ暗で、何も見えない、何も感じないほどに重症だった。
だが、それでも亜音は諦めるわけにはいかなかった。
(負けた……………ま、けた……………俺は負けたんだ………ぁ、)
体の感覚は無くなってきているのにも関わらず、負けた痛みが、胸の奥を容赦なく抉り、目にまでその影響が来ていた。
意地でも流したくなかった、それでも止めることはできなかった──────頬を雫が垂れていき、鼻の奥からも鼻血と一緒に水気のあるものが流れ出していく。
みっともない、誰もが見ている中で負けた奴が駄々をこねる様に涙を流す。
(俺は意地を通すどころか、一人の少女の願いすら守れない、のか…………)
ノーネームの一同も、サンドラも、ペストも、ブリュンヒルデも見ていられない、ダサい、とでも思っているのかもしれない。
それでも亜音にできることはもうーーーーーーーーーーー言葉しかなかった。
「ぁ、..................なぁ、頼むよ..............この子は......見逃してやってくれないか?」
言葉を紡ぎながら、袖で涙を拭う亜音。
その言葉にブリュンヒルデは足を止めた。
止める必要はなかった。だが、ブリュンヒルデにとって榊原亜音は立派な騎士だった。
だから、其れ相応の態度を示すために立ち止まっ たのだ。
だが、亜音の言葉は同時にブリュンヒルデの琴線に触れていた。
なぜなら、魔王は彼女にとってーーーーー憎むべき仇だからだ。
「............けるな」
「.........っ、」
「.....................ふざけるなぁぁあああああああああああ!!」
ブリュンヒルデは有りっ丈の怒りと憎しみを込めた叫びを上げ、 ハーメルンの街々に響かせた。木霊したその言葉は、十六夜達にも、 街中を走り回る捜索隊にも届いている。
亜音に至ってはその罵声を真正面から受けていた。だが、亜音は顔を俯かせたまま、ただいつもの癖で微笑む。
ブリュンヒルデは亜音に背を向けたままさらに語調を強めて、言葉を吐いていった。
「コイツは、魔王で、命を貪る災厄だ、見逃せばまた多くの者が命を落とす!」
「もう二度とあんな思いはしたくないのだッ!」
「.....................いや誰にもさせん 我の誇り、ワルキューレの名にかけて必ず、全ての魔王を駆逐する..................それだけだ。今ならばまだ」
途切れ途切れだが、亜音はなんとかブリュンヒルデの言葉を聞き捉えていた。
同時に亜音は自分の無力さに対しての悔しさを吐き捨てるようにただ、言葉を、思いを込めて叫ぶ。
「可能性を感じるんだッ!」
「..................っ、」
ブリュンヒルデは思わず、亜音に振り向きたじろぐ。
亜音は地面に向かって吐いていくように語っていった。
「.........この子は八千万もの命の理解者だ、凄い子なんだ、頑張った子なんだ」
亜音は、物静かで悲しみの風が吹き荒れるクレーターの真ん中でただ強く、自身の気持ちをブリュンヒルデだけでなく、この場にいる全ての者、十六夜や黒ウサギ、サンドラ、飛鳥、耀、そして、ペストに向けて伝えていく。
「この子ほど説得力がある子はそうはいない...........................違うか?」
「...っ......だが、亜音.........このままだと.........お前が死ぬんだぞ!」
「さぁ、.................まだ仲間が戦ってるからわから.........な」
亜音は最後、ジンの顔を思い浮かべて微笑み、意識を世界から閉ざした。
そして、亜音の体は重力に従って地面に力無く倒れそうになるが、 それをブリュンヒルデが抱きとめる。
その際、ブリュンヒルデのスタイルがグラマーかつ抜群な弾力性のおかげで、亜音は万全なクッショ ンの元、安全に受け止められて眠っていた。しかし、今すぐ治療を施さなければどんどん残りの少ない体力が血と汗と共に消えていく。
ブリュンヒルデは亜音の不格好で無邪気な寝顔を見つめながら、小さく呟いた。
「騎士の情けだ.........せめて貴方の運命だけでも見届けよう」
そこへちょうど、黒い霧から解放されたペストが舞い降りてきた。
「あ、亜音っ!………はぁはぁ」
ペストは心配そうにブリュンヒルデの背で隠れる亜音を覗き見る。
そんなペストにブリュンヒルデは亜音をしっかりと抱きかかえ、声を掛けた。
「おい、魔王」
「............っ、」
ブリュンヒルデは不意に微笑みを浮かべた横顔をペストに見せる。
「貴様が羨ましい............我にもこれほどの才能を持つ理解者が欲しいものだ」
「............」
先程と打って変わった優しい声音にペストは沈黙を返す。
そこで一転してブリュンヒルデは甘い空気を消し去り、厳しい表情になる。
「我は貴様を見逃そう............だが一つ言っておく。これは魔王としての貴様ではなく、一人の命あるものとしてだ」
ペストは静かにブリュンヒルデの言葉を待ち、周囲の空気は魔王と相対する時とはまた別の意味で真剣さを帯びていた。
その様子にブリュンヒルデは少し口角を上げ、
「後悔だけはしない選択をしろ」
「..................っ、」
ペストは少し肩を揺らすも、終始無言を保つ。ペストはとことんこの女が嫌いみたいである。
ブリュンヒルデは返事が返ってこないことを悟っていたかのよう にゆっくりとペストに振り返り、その横を歩んですれ違う。
少し離れた所でブリュンヒルデは立ち止まる。
「.........では我は去る、もう二度と貴方と出会わないことを祈っている」
ブリュンヒルデはそう言い残し、亜音を抱えながら白き翼を大きく広げて浮遊していく。
その先は十六夜達のいる屋根上である。
一人クレーター跡地に残ったペストは顔を俯かせて瞳を閉じ、ブリュンヒルデの言葉を心の底から強く噛み締めるのだった。
(私が亜音にできること、……………でも私は魔王、この道は通さなければならない)
#####
突然舞い降りて目の前に滞空してきたブリュンヒルデに飛鳥と耀、 黒ウサギ、サンドラの四人の女性陣はつい身構えるが、十六夜がそれを手で制し、視線を傷だらけの亜音に移して問うた。
「生きてるのか?」
「ええ、生きてはいます。ですが、このままだと余命が縮まり今すぐ死にます」
その言葉に黒ウサギと飛鳥が憤る。
当然といえば当然だろう。そこまで亜音を追い詰めた張本人は言った本人である、たとえ亜音が半分くらい悪いとしてもだ。言い方というものがある。
しかし、ブリュンヒルデはその二人を余所に話を進める。
「なので、今日一日は我の力で持たせ治療します、ここに来たのはこの方を預からせてもらうという報告をしに来ただけです」
「へぇー.........お前にそんなことができるのか?」
「できます」
ブリュンヒルデは強く断言する。
しかし、そこで複数の黒い声が上がった。
「信用できないわ」
「その通りなのです、確かに貴方ならできるかもしれませんが、黒ウサギも信用できません」
「ですが、亜音はもう、ただの治療だけではすぐに死んでしまうでしょう」
(ちゃっかり呼び捨て)
黒ウサギと飛鳥、耀は少し馴れ馴れしいのではと心の中でキレる。
自分達は多くの時間を掛けてようやく亜音と親しげ に話をすることができた。
そして、魔王とのギフトゲームが始まる前の時、亜音との親密度が大きく下がってしまったことがさらにその怒りに拍車を掛けていた。
痛ぶって置いて、親友気取る気か、ああん?みたいな感じである。
だが、そんな女性陣をほうって十六夜は選択肢がなかった様に即答した。
「それしか無いんだろ?、任せるよ」
「ありがとうございます」
ブリュンヒルデは軽く会釈するとジェット機の様に空気を貫いて加速して行き、瞬く間に米粒の光と化した。
それを見送るしかなかった三人は十六夜に侮蔑の視線を向ける。
十六夜はその視線にため息を尽きつつ、後始末に向かった。
後始末とはもちろん...............ペストのことである。
####
ーーーーーー境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営。隔離部屋個室。
音速を遥かに超えた速度で大気を駆け抜け、一分も掛からずこの部屋に戻ってきたブリュンヒルデは亜音の服を〝全て〞剥ぎ取り、自身のギフトカードから湿ったタオルを取り出した。そのタオルで綺麗に亜音の裸体を拭いたブリュンヒルデは、亜音に簡単な患者服を着せていく。
ようやく何かの準備が整ったところで、亜音をベッドの上に仰向けで寝かせた。
すると、ブリュンヒルデはもう一度、ギフトカードを取り出し、名を呼ぶ。
「〝癒しの鞘〞」
〝癒しの鞘〞とは、身につけているだけで傷が付かないと言われる伝説の鞘、の劣化版の魔法の鞘が天使の力を得て、最高速の治療道具となったものだ。本物は現在、行方不明になっている。
ブリュンヒルデの声と共に緑と黄色の小さな粒子が蛍の光のように舞い散り、聖剣エクスカリバーが収まった鞘がブリュンヒルデの手元に顕現する。ブリュンヒルデはその鞘を亜音の体の中心に優しく置いた。すると、見る見る青くゲンコツの如く腫れた痣や傷口が消えていき、亜音の顔色に少しずつ生気が戻っていく。
傷が治っていく様を見届けたブリュンヒルデは可愛く耳に、金色の髪束を右手で掛け押さえたまま、自身の小さな桜色の唇を亜音の口に吸い込ませた。
それと同時に、ブリュンヒルデの天使の翼が前と同様にバサッと広 がり、白く輝いては消え、輝いては消え、その光は亜音へと注がれていく。ブリュンヒルデは白き瞳を細く開けて、その様子を確認し、安心するとともにさらに深く口を動かした。
そして、ゲームが終わるその時までその部屋からは終始、ねっとり、 クチャクチュと、いやらしい音を立て続けるのだった。
#####
世界とはやはり、かくあるものだ、この状況と光景はまさにそれを示していた。
どうして、こうも単純に行かないのだろうかーーーーーー。
場所は戻り、十六夜に続く様に四人もクレーター跡地にやってきた。
少し寒い風が吹き荒れ、砂埃が地面を走っていた。その中央でペストは顔を影で隠して仁王立ちしている。
十六夜達は亜音の意思を尊重し、ペストが負けを認めてくれることを祈っていたのだが、当のペストはーーーーーまったくその気がなかったらしい。
ペストの顔は魔王の、邪悪な笑みを称えていた。
「ようやく、厄介な奴らが消えてくれたわ」
「あの男も馬鹿だね 、魔王を庇うなんて......フッ...笑えるわ」
「さあ、ゲームを再開しましょう、すぐに終わらせてあげる」
亜音の意思は、ペストには一欠片も届いてはいなかった。
十六夜達はそんなペストを説得する気もなく、なんの躊躇もなく黒ウサギのギフトで箱庭から消滅させた。
魔王に勝利した、しかし皆、素直に喜べる空気ではなかった。
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ーーーーー境界壁・舞台区画。〝火龍誕生祭〞、運営本陣営。
ゲーム開始より十時間後。
ネズミ捕りの男と、黒死病によって倒れた者たちが描かれているス テンドグラスが全て砕かれ、ヴェーザー河を描いたステンドグラスを一斉に掲げられる。〝偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ〞の一文が成された直後、参加者達の視界は砕けた様に開けた。
元に戻った朱色の街が参加者全員の視界に映った。
そこへ霞の如く現れた白夜叉が自身の無力さを詫び、その後、サンドラがバルコニーより顔を出した。
その顔は少し凝視すれば具合が 悪そうだったが、一転して皆に笑顔を見せる。
「ーーーー魔王のゲームは終わりました。我々の勝利です!」
ワァッと歓声が上がった。マスター達の言葉を聞いてようやく勝 利を実感できたのだろう。
呪いから解放された者。
同志の命が救われて涙する者。
魔王の脅威が去ったことで安堵する者。
だが、サンドラは胸中を混沌とさせていた。
亜音が魔王を庇い、その影響で同志が五名死んだ。
正確には亜音が乱入する前にサラマンドラの同士は殺されたのだが、もし亜音が魔王を庇いだてしたと皆に知れ渡った場合、おそらく収集が付かない事態になる。
サンドラは馬鹿では無い。自分の兄が〝ノーネーム〞と侮辱していたが、彼らは強い。
いざ、決闘という事態になれば今回の比ではない被害が出るかもし れない。
しかし、それでも自分の未熟さは承知している。
サンドラが悩んでいたことは、兄に亜音の事を話すかどうかの事。
どこからか、その情報が漏れる前に兄に話し、上手く同士達やその 他の者達と上手くやる方法を考えるしかない。つまり、まず第一段階は兄の説得からだ。
サンドラはその状況を考えただけで、高熱にうなされ、頭を抱えた。
とりあえず、一ホストとして各コミュニティを指揮し、ゲームの後始末を開始するのだった。
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ーーーーーー境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営。隔離部屋個室。
ゲーム終幕より約一日が経過した夕方、亜音は目を覚ました。
そして、その部屋にはブリュンヒルデの姿はなく、その代わりに〝 ノーネーム〞一同が勢揃いしていた。
その中でも特にーーーーーーリリは激しかった。
「亜音さんのばかぁああああああああ!」
「リリ、」
「勝手に部屋を抜け出すなんて............死んだらどうするのですかぁ!」
涙目で顔を顰めたリリは鬼神の如く亜音に肉薄していた。
亜音は戸惑い、どうするべきか悩み、 黒ウサギ、飛鳥、耀、十六夜、 レティシア、ジンに困った様な視線を送るがーーーーー見事全員ス ルー、手厳しい人達である。
亜音はリリに視線を落とし、ホッとしたような切なげな表情を浮かべ、リリの頭を優しく撫でる。
そしてーーーーーたった一言告げた。
「..............................すまない」
その言葉は誰に対してなのだろうか、どんな意味を持っていたのだろうか、亜音の事だからより多くの意味を含ませているのだろうと十六夜やジン、女性陣の三人は思った。
なので、十六夜達は余計な事は言わずにただ亜音の胸の中で泣くリリを静かに見守っていた。
ただし、飛鳥だけは後で無茶した亜音を説教することだけは誓っていた。
(………………今だけは許してあげるわ、亜音)
#####
ゲーム終幕より四十八時間経過した。
外では祝勝会を兼ねた誕生祭に加え、終日宴の席が設けられていた。
これは余談だが、亜音の魔王庇い立てを知る者は、十六夜、飛鳥、耀、 黒ウサギ、サンドラ、ブリュンヒルデ、後から話を聞いたジンとレティシア、そしてサンドラからマンドラに話は伝わり、九人となっている。
マンドラはその話を聞いてサンドラの予想通りに憤慨したが、討ち取ったのも〝ノーネーム〞なので言及はしなかった。
これで話はまとまるはずだったのだが、噂は噂を呼んでいく。
「ただの噂だ、気にする必要はない.........それより祭りを楽しめ、これは命令だ」
「はっ!...............では失礼致します」
若いサラマンドラの憲兵はそう言い残して、マンドラの執務室より静かに出ていく。
マンドラはこれで何人目だー という意味を込めた嘆息を零し、視線を〝サウザンドアイズ〞からの手紙に移した。
執務室の席に独り座っているマンドラは、執務机の上に置かれたそ の手紙に目を通し、思わず呟いた。
「.........流石は〝サウザンドアイズ〞、何もかもお見通しか。悪い事は出来んな」
「何が?」
ガタンッとマンドラは立ち上がる。
周囲には誰もいない。だが聞き覚えのある嫌な声だった。
そして、突然、頭上の天井が破られ、十六夜がマンドラの前に姿を現す。
「何が悪い事なんだ?まさか、〝サラマンドラ〞が魔王を祭りに招き入れた事か?」
「..................なっ、」
「いやいや、驚くところかそこ?普通に考えれば分かるだろ。連中は出展物に紛れて現れたんだぜ ?それも一三○枚もの笛吹き道化のステンドグラスを出展していた。主催者側が意図的に見落としてない限りは、不審に思うだろ.........違うか?」
「くっ............」
「ルーキー魔王VSルーキーマスター いやいや、偶然にしちゃ出来過ぎなくらい出来すぎだ」
「.........っ............ 」
歯噛みをするマンドラの手に汗が滲み、表情は険しい。
十六夜はそんなマンドラを冷めた瞳で一瞥し、飄々と語る。
「今回、死者は五名だったか?よかったなぁ 、死んだのが〝サラマ ンドラ〞の連中だけで............だがもし、俺の身内に何かあってたら、お前ーーーサンドラもろとも潰してたぞ?」
「サンドラは関係ないッ!」
「.........」
「............今回の一件はサンドラを除き、〝サラマンドラ〞全員が知っている............知った上で、同士達は命を落とした............ 知った上で恥じ入りながら、命を落としていったのだ」
マンドラは怒りと羞恥で震える声を上げながら、切迫した表情で十六夜を睨み返す。
「箱庭の外から来た貴様には分かるまい.........コミュニティの旗を!名を!名誉を守るという意味がッ!!失墜寸前のコミュニ ティを支えるために命を賭すなどッ!箱庭の外の、ましてや人間なんぞに分かるはずがないッ!何よりあの亜音とかいう人間は、外の世界の甘い考えを持ち出し、魔王に羞恥を晒したッ!!それが外から来た証拠だ!そんな奴らが知った風な口を聞くなッ!!!」
あらゆる罵声を受けた十六夜はただ静かにその言葉を噛み締めて、 当たり前のように告げた。
「知った風な口、か..................それはお互い様、だろ?」
「なに.........!」
「確かにお前らの言う秩序を守る、旗を守る、この世界についてはよく分からん。だがな」
十六夜は射抜くような鋭い視線をマンドラに向けて放ち、はっきり と言葉を紡ぐ。
「お前らが命を賭けて守りたい物があるように外から来た俺達にもある。そして、それを守るためならーーーー誰相手だろうと知らぬ存ぜぬのサンドラだろうと、俺はやるぞ?」
「.........っ!」
十六夜から部屋を軋ませるほどの殺気が生まれ、マンドラは思わず 肩を揺らす。
数分間、執務室は重い空気を放ったまま静止していたが、突如、執務室の扉が切り刻まれ、瓦解した。
「なっ............!」
「......!...........お前は」
「失礼するぞ」
十六夜級の問題児っぷりを発揮させ、舞い上がった埃を吹き飛ばしながら入室してきたのは、黄色のフリルが着飾る清白なドレススカート、ピンクの花が添えられた白のブーツを着こなす者。その者は、 ブーツの踵で地を叩き、軽やかな音を響かせて歩む、ブリュンヒルデ・ ラスターバだった。
相も変わらず無愛想で、クールな鋭さを放つ白き瞳と金色のポニー テールの髪束は、ワルキューレの孤高の美しさを放っていた。
ブリュンヒルデは十六夜に軽く視線を送り、静かにその横を通り、 執務机を挟むようにマンドラと真正面から相対する。
この一歩も引かない堂々とした姿はやはり、ワルキューレとしても、生命の樹の守護者としても流石である。
「我の事は知っているか 、マンドラ殿」
「あ、ああ、知っている」
マンドラがドアを破壊した事に対して追求しなかった理由はそこ にあった。
単純に逆らったら、瞬殺されていただろう。
そして、なんとなくブリュンヒルデが怒っているようにも二人には見えていた。
「そうか、ならば話は早い。ーーーーーーマンドラ殿、周囲をあまり舐めるなよ」
「.........っ!?」
ブリュンヒルデは右手に持っていた、聖剣エクスカリバーの剣先をマンドラの鼻先に、鋭く向ける。
マンドラはその剣先を見つめて、思わず喉を鳴らす。
十六夜は、軽薄な笑みを浮かべてその状況を見ていた、
(なるほど...............これは相当、お怒りのご様子で.........おそらく俺達の話を聞いてたな、.........さらに.........今回のゲームに魔王討伐のスペシャリストであるコイツが参加していたという事は、ここに魔王が〝招かれる〞ことを最初から知っていたのだろう。そして、コイツが主に怒っていることは.........顔を見れば明白か)
「それと榊原亜音は我の友にして、同志。もし〝サラマンドラ〞が魔王をかばったと友を侮辱した場合、 神群とワルキューレを同時に相手をすることになる、よく覚えておくことだ」
「幸先良くーーーーーー潰されたくなければな」
ブリュンヒルデはそれだけを言うと、ドアの反対側の壁に歩み始める。
マンドラは左に歩んでいくブリュンヒルデを目で追いながら嫌な予感に駆られた。
ブリュンヒルデは静かに朱色の壁の前で仁王立ちする。
そして、マンドラのその予感はーーーーーーーーー壁が四角に切り取られ、外の景色が姿を現すことによって当たった。
四人分ぐらいの穴が壁に開けられてしまい、マンドラは蒼白し、言葉を失った。
流石の問題児、十六夜もその行動力には目を見張っていた。
そして、さらに次の言葉は、それ以上に二人を驚かせた。
「来い、天を掛ける者ーーー」
「《モコ》」
「「は?」」
ブリュンヒルデは聖剣をギフトカードに仕舞いながら、そう呼び、 ギフトカードから一人の少女が現れた。
「はーい!モコでーす!!......お、これはまたやらかしましたね、マス ター♪」
白い短髪の少女はブリュンヒルデの周囲をぴょこぴょこ走り回り、 楽しそうに声を上げていた。
十六夜とマンドラは、その少女を凝視し、口を開けたまま固まる。
それも仕方ないだろう、突如、クールビューティーの女性が『召喚!モコ!』と言って幼女を出したのだ。温度変化が激しすぎる。
(モコ.........って、こいつの割にはまた随分とファンシーな名前を付けたな)
十六夜は幼女を見て、顎に手を当てながらそう思う。
そんな二人をほうって、ブリュンヒルデは静かに口を開く
「行くぞ............次の仕事だ」
「えー今からバラキエルの所いくのー 、やだー」
「いいから、早くしろ」
「えー!はーい、そりゃ♪」
幼女は落ち込みながらテへペローと嬉々するという超絶テクを見せながら、煙を撒き散らし、その姿を晒した。
十六夜とマンドラはまたもや別の意味で驚かされた。
ユニコーン、バイコーン、それらの上位格、いや幻獣の中でも一際有名な幻獣。
天使の清白な翼を生やし、その翼からは光の特殊な素粒子が流れ、 爽やかな風を知らせるようなサラサラな白き毛皮と銀の鬣、一点の曇りもないつぶらな瞳、そして四つの逞しくも美しく締まっている四肢、まさに伝説と呼ばれる幻獣。
天駆ける馬ーーーーーーーー〝ペガサス〞 と謳われる幻獣の姿が、そこにはあった。
ブリュンヒルデは慣れたようにスカートの裾を翻しながらペガサス、ブリュンヒルデ曰く『モコ』に跨り乗り込む。
ブリュンヒルデは態勢を整えると、マンドラに横顔を見せて、再度忠告した。
「我の言葉は............虚言ではないぞ 、肝に命じておけ」
「あ、ああ、分かった」
ブリュンヒルデは返事を聞かずに執務室の穴からペガサスと共に空へ向かって駆けていった。ブリュンヒルデの重圧に当てられて、ようやくホッとしたようにマンドラは、ドスンと執務席に座り込み、自身が大量の汗を吹き出していたことに気がつく。
十六夜は腰を抜かしているマンドラを同情するような目で見つめて、貸し一つ諸々の話を告げて静かに執務室から去っていく。
そして、マンドラはすぐに〝サラマンドラ〞の同士達を集め、亜音の事情とその事情を隠さなければ自分達の秘密が漏れてしまうことを口止め代わりに告げた。あながち嘘でもないし、いい枷になるだろうとマンドラは考えていた。それにあまり余計な心配は掛けさせたくないのだ。
そして、できればブリュンヒルデとは二度と出くわさないことを祈り、そこでようやく心の底から安心するマンドラだった。
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ーーーーーー境界壁・上空2000m地点。
遥か上空、境界壁の朱色の尖塔のような突起に、新たな服で身を包 む榊原亜音が特有のもふもふな黒髪を天空の風で靡かせながら、街々を優雅に座って眺めていた。
新たな服はーーーーリリが選んでくれたもので、黒ウサギが買ってくれたもの。
リリのご機嫌を直すために一緒に祭りを回ろうとしたのだが、服がなく、急ぎで黒ウサギとリリが近場で買ってくれたのだ。
前とは正反対で、派手で明るい赤の薄手のパーカーと白のTシャツ、薄手で迷彩服のような、灰色や白、緑と黒など、主に四色が混ざったスウェットを膝小僧が隠れるぐらいまでたくし上げてシワを作り、着ていた。さらに靴も軽くて丈夫な黒と白の靴に変えていた。
亜音は派手過ぎないかなーと頭を抱えていたが、さずかに着ないわけにもいかなかった。
その姿を見て、女性陣が感嘆な声を上げてくれたから、とりあえずは安心してリリと一緒に街を歩くことが出来た。
そして現在は、リリと別れて一人亜音はーーーーーペスト達が見ていた景色を眺めていた。
もうすぐ夕方を越えて日が暮れる時間帯、祭りの賑わいと共に朱色の明かりが最高潮に高まっていく。
その様を見つめながら、今回の、もう一つのある仮説を亜音は思考 する。その仮説とは〝ハーメルンの笛吹き〞のもう一つの考察のことで ある。
一三○人の子供達が新たな土地で、自分達の街を一から造ろうとしたというもの。
親元を離れ、ヴェーザー河を下り、笛を吹きつつ、歌いながら未踏の地を目指した子供達。
他の誰でもない、自分達で一から創り上げた、街という名のコミュ ニティ。
笛吹き男は、新たに造られた街のリーダー的存在だったのだという伝承。
これをさらに深く掘りさげたのが、亜音の仮説。子供達は魔女狩りと黒死病による悪循環に呑まれ、疑心暗鬼、狂気と化した、街と親を救うために、新たな文化と考えを生み出す革命家となったのだ。
そして、見えない敵を飢餓や貧困、人の狂気を通じて見据え、新たな革命の街を造りあげる。
亜音はそんな子供達に心から尊敬し称賛するとともに、死の世界で革命を起こした救世の少女のことを思い出していた。
その少女とはーーーーー白黒斑のワンピースを着たーーー。
切なげに街を眺める亜音の前に突如、白き閃光が突風を纏って駆け舞い降りた。
その閃光を放っていたのはーーーーー天馬に跨るブリュンヒルデ・ ラスターバだった。
「.....................君か」
「その顔から察するに、もう知っているのだな。ーーそれと誤解がないように」
「分かってる。なんとなく十六夜達の顔を見たら...............悟ったよ」
亜音は寂しそうに微笑み、朱色の空に視線を移す。
そうか、とブリュンヒルデは無表情に返事をしていた。
そして、少し沈黙して亜音の茜色に染まる横顔を見つめたブリュンヒルデは、何故かため息をついて、
「これは独り言だ」
「?」
「魔王が開催したギフトゲームは少し特殊でな、ギフトゲームの勝利条件をすべて満たすと、その魔王を隷属させることができるーーーーたとえ魂を砕かれたとしてもだ」
「...............生きているのか?」
「独り言だといっ............もういい。そうだ、おそらく白夜王から何かしらの形で通達が来るだろう」
「そうか..................」
しかし、朗報を聞いても亜音の表情は優れない。
亜音自身、その本当の原因には気付いておらず、ただ『自分の弱さ』 に対しての悔しさだと思っている。
そして、ブリュンヒルデにはもう掛けられる言葉はなかった。なぜなら、誰からであろうと敗者に掛ける言葉はーーーーーー棘にしかならないのだ。
しかし、それでも一言だけ、ブリュンヒルデは告げた。
「其方は、我が同志であり、我がライバル、そして我を変えた男だ。その意思、我の心にとても深く響いていたぞ」
「っ............、」
亜音は肩を揺らしてブリュンヒルデを凝視する。
その時のブリュンヒルデは少し女性らしい笑顔を浮かべていた。
ブリュンヒルデはそれだけを言い残して、天馬で駆け去ろうとするが、亜音がそこで口を開く。
「ありがとう...............〝俺の命〞を助けてくれて」
「っ ........................フッ」
ブリュンヒルデはその言葉に少し驚いて目を見開くが、一転して小さく笑う。
亜音も満遍のしてやったりーみたいな微笑みをブリュンヒルデに見せつけていた。
そして、満足したかのようにブリュンヒルデは、金色の髪のカーテンを翻し、亜音の視界を優雅に煌めかす。
それを合図にブリュンヒル デを乗せた天馬は、白き翼から特有の素粒子を風圧と共に生み出し、 遥か彼方へと大気を突き抜け一筋の閃光と成りて亜音の前より軽やかに去っていった。
亜音はその閃光を見送りながら、次は必ず自身の力で、望む未来を 掴み取ることを誓った。
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ブリュンヒルデは鬼神の如く迫る亜音を思い出しながら、こう思った。
其方と我、両者の違いの数が、勝負を分けたのだろう。 我はどこか其方と似ていると思った。 互いに失い、互いに世界を変えたいと思っていた。
この世界の事を、他の者達は素晴らしいと言うがーーーーそんなことはない。
そして、我と同じ思考を持つ者と会ったのは、其方が初めてだ。
だが、我と其方はたくさん違う。
勇気、誇り、他、平等。
この四つは我には無く、其方にあったもの。
勇気と誇りは同志を見捨てた時に自ら捨てたものだ。
これはきっと、覚悟の差を作っていた。
他は、他をよく見て、他を敬い、他から何かを得る。
我は自分の力だけを信じ、鍛錬してきた、我は他を見てこなかった。
そして平等。これまで全てを魔王のせいにしてきた我は、復習に囚 われ、誇りと勇気を取り戻そうとも考えず、なにも〝守るべき者〞を作らなかった。
だが、其方は違う。ちゃんと皆を平等に見つめ、それぞれにあった対応ができる。
だからこそ、榊原亜音は、魔王で会ったばかりの他、ペストを命懸けで守る事ができたのだ。
我は目の前の、新たなライバル、新たな友を見て、誓った。
一生を賭けて、勇気と誇り、騎士道を取り戻す事を。
だが、〝悪行をする〞魔王は許さない。
でも...............我もいつか、〝魔王〞を改心させるくらいの心意気を持ちたい。
ブリュンヒルデは自然と亜音を未来の目標として見据え、何かを吹っ切れた様な、小さな笑みを浮かべていた。