新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第二話「VS戦神ーーーVS魔王残党」

  20xx年 10月10日ーーー12:22。

 

 日本の首都、全長がピンからキリまで並び立っているビル群、その首都を割るように大きく弧を描いて流れる巨大な河川、その河川を横断する幹線道路の巨大な大橋を辿った先の首都圏の境界線辺り、その場所からは多種多様な叫び声が、やまびこを返す暇もなく響き渡っている。

 そして唯一、台風の目のように不自然な静寂を漂わす首都の中心部、黒い霧と曇り空の隙間より晴天が見え隠れしつつ暖かな日光が降り注ぐ都市の、六車線の交通道路に堂々と二つの影が三十メートル程距離を開けて互いに相対するように鎮座していた。

 

「............ゥゥ」

 

 そのうちの一つの影は喉を鳴らし、全長何百メートルとあったはずの巨躯を高速で縮ませていく。と同時に首都の空を黒い霧で覆い尽くしていたはずなのだが、不自然に晴れていく空の様子を赤い瞳で訝しげに眺める。

 そして、すぐに二メートル弱まで縮み終わるとその影、戦神は鋭く獰猛な目つきを正面に向け、その正面からは若い青少年の声が掛けられる。

 

 

「……………中々の判断力ですね、さすがは“戦神”です」

「...............フン」

 

  戦神はすぐに相対する相手を自身に、特殊な事情に通ずる力を持つ ことを悟ってか、的にしかならない大きな図体を縮め、敏捷性を上げ ると共に目の前の人間を少なくとも敵とは見定めた。

 図体と共に縮まった片手包丁の剣を握る怪物の、逞しくも引き締まった腕と手に力が入り、鉄の軋む音が聞こえた。

 

「戯言は要らぬ…………“戦争”を始めるぞ、〝倭人〞」

 

 今のセリフで戦神が日本語が喋れてかつ、亜音を日本人と認識した のを亜音は把握し、安心して日本語で語る。

 

「その前にまずは自己紹介しようよ。互いに相手の名前くらいは知っておきたいでしょ?」

「…………」

 

 目の前の人間の言葉に、数秒間、戦神は呆気に取られたように沈黙し、少しして愉快そうに小さく笑った。その様子からだと、邪神と謳われ、魔王と同類の扱いを受けていた者とは到底思えない“青少年”のようだった。

 怪物は再び小さく笑うと、少し片手包丁の剣先でコンクリートの道路を削り、獰猛で血が沸き立っているような声を上げる。

 

「─────目の前の、いつ襲ってくるとも分からん“怪物(クリチャ)”に名を求めるか………ただの死にたがりか、あるいは余程の驕りか」

「............」

 

 亜音は鋭利に光る戦神の視線に口を開かず、ただ飄々と笑みを浮かべているだけだった。

 

「─────まぁいいだろう、久しぶりの殺しだ、王政を語るのも悪くないッ!」

「それはよかった」

 

 戦神は嵐の静けさを纏う不規則な風に下半身の黒毛を靡かせながら、相手を待つことを示すために片手包丁の剣を地面に突き刺す。

 コンクリの地面のはずなのだが、まるで剣を置くように刺した。つまり、怪物、彼の肉体は鋼以上、戦車以上まで鍛え上げられている証拠だろう。さらに鍛えて筋肉増量による敏捷性のダウンはなさそうで、しっかりとすべての筋肉が細く引き締まり、すべての筋肉が〝使う〞筋肉、無駄が一切ない様子が怪物の細い肉体からしっかりと伺えていた。その怪物の目の前に立つ少年、黒い革靴、黒いスーツズボン、そのベルトには見事な反りを描きかつ和風の装飾が為された刀の鞘が挿さっており、ブレザーのような黒い服を肘が隠れるくらいまで袖をたくし上げ、その下に白いTシャツを着込んでいる。

 少年は眼前の片手包丁を見つめて、後、優しい笑みを浮かべて口を開く。

 

「俺の名は榊原 亜音。まだ学生身分のひよっこです、なので“手加減”してもらえるとありがたいです」

「フム、手加減などゴミだが…………兵士や憲兵は来ないのか ?人類は数の暴力こそが真骨頂だろう?貴様一人では退屈しのぎにもならん」

「悪いが君の相手は俺一人だ。……………他の方々には悪いけど情報の遮断、封鎖をさせて貰った。俺のことがバレると後々めんどくさい事になるもんでね」

 

 実際には亜音は何もしていない。

 この世界には亜音の家のように特殊な家庭も存在し、政府軍の内部にもそれに通ずる者がいる。その者に頼んでから亜音はここに来ていた。その者とて表の軍事に直接干渉する程の権力はないが、内密に情報を遮断、情報の改変は可能だ。

 例えば、出動する必要性がなくなった。調査兵団を構成し、出来るだけ準備を整えてからそこへいく、というような方針を打診する。警察にはパニックの収集と、首都圏の一時的閉鎖、軍による調査が行われる。一応、テロという可能性もあるという事を肝に命じよ、という感じに。

 制限時間はおよそ三十分から、一時間あるか無いか。パニックが収まり、完全封鎖の後に調査兵団が派遣される。

 つまり警察次第で制限時間は決まる。

 

「ーーーーー貴様も苦労する立場のようだ」

「まあね、けどこの世界は好きだよ?ーーーー“守りたい”と思えるくらいには」

 

 亜音の、特に最後のセリフの方に力が入っていたのを戦神は肌で感じ取り、獰猛に強さを纏う笑みを浮かべた。

 獣のように醜く歯を見せるわけではなく、神、それも戦神、勝利を確約する力を持つと死んだ後世にまで謳われ続けられた誇りを深く感じられる笑みだった。

 

「ワシの名は─────〝蚩尤〞ッ!─────そして、“幾千年”の復讐をこの地に刻む者ダァッ!!」

 

 戦神こと、蚩尤は片手包丁をわき腹に槍を構えるように真っ直ぐ配置し、大気に波紋を呼び起こさせる轟音の加速を開始する。

 そして、 数十メートル近くあった亜音との距離は秒数を刻む前に埋め尽くされた。

 

「っ!」

 

 しかし、蚩尤の渾身の一突は空気を貫きに終わり、亜音は蚩尤が立つ場所より二十mまで圧倒的な、人間ではあり得ない反射神経で後退していた。だが、蚩尤とて戦神、攻撃はまだ終わらない。

 音速を隣に感じ始める世界で蚩尤は、今度は先ほどのような鋭い突きではなく、地面を踏み砕く力任せの加速で亜音に肉薄し、暴虐な右斜め上からの斬撃、爆弾頭並みの破壊力を宿した一撃を音速で振り下ろす。

 

「よっ!」

「ヌゥゥ......っ!」

 

 しかしまたもや亜音に後ろへジャンプ、後退され躱される。戦神の二撃目もたかが人間如きに躱されるなど蚩尤の予想を遥かに超えていたが、そのパターンも戦神は経験している。そして、蚩尤は戦いのエキスパート、戦いの常識、敵のできないこと、弱点、人間にできない動きをしっかりと理解している。

 その動きとは─────上下の動き、力を持つものといえど“空を飛ぶ力”を持つ人間はそうはいないだろう。

 だから、蚩尤は小手調べに、右手に爆弾頭並みの威力を宿した片手包丁をそのままコンクリートの地面に叩き下ろす。

 

「ガァアアアアア!!!」

「っ!?ーーーーっ野郎!」

 

 途轍もない爆音と風塵が巻き起こり、その中心の地はもはや隕石の飛来と誤解しそうなほどの破壊が生まれていた。水道管がぶち切られ、六車線の広い道路に宝石の基本形、逆さまの円錐のようなクレー ターができ、水が破裂した管より四方に舞い散る。

 その宙では風塵と水飛沫が漂い、そこに二つの影。

 蚩尤は足元より黒い影を発生させ、それを足場に、大気を貫くような電光石火で突撃をすると共に叫ぶ。

 

 

「終わりダァ!!」

 

 これこそ蚩尤の狙い、足場を失えば人間は無力、それは常識。

 だが亜音は刹那、小さな笑みを浮かべ、一瞬何かを煌めかせ、擦り切れるような金属音がその場に響き渡る。

 

「貴様...っ...本当に人間かッ!」

「............フッ!」

 

  刹那のやり取り、先ほど亜音は腰に収まっていた刀を音速で抜き、 蚩尤の片手包丁を後方へ逸らした。だがそれが意味するのは、人間で はありえない、神ですら怪しいほどの才を持つことだった。まず蚩尤の豪腕任せな一突を後方へいなすにはそれなりの態勢でなければならない。それが常識で、さらに宙に“ジャンプ”したままではまず不可能、宙で態勢を整えられる力を持っている、あるいは蚩尤が相手でなければできるかもしれないが、彼の本体は何百という巨躯で体重は聞かずもがな、だろう。そしてたった一撃で、それもフルパワーではない普通の動作でコンクリートの地にクレーターを作る斬撃は、もはや生半可な奇跡では防ぐことすら不可能だ。神話の中でも屈指のパワーだといえる。だが、亜音は余裕のある笑みすら浮かべて蚩尤の攻撃を逸らしたのだ。もはや今のやり取りで十分なほど蚩尤は亜音の規格外を把握し、だから咄嗟にすれ違い際に呟いてしまったのだろうーーーーーー本当に人間か?と。

 二人はクレーターを挟むように着地し、互いに闘志を高め始める。

 ここからはもはや様子見ではすまない、蚩尤が行使した戦闘技術はあくまで人より少し飛び抜いた人間相手をするときのもの、ならば自然とここからは神話に新たな歴史が生まれてもおかしくない、修羅神仏による“戦争”が幕を上げるだろう。

 両者は同時に武器を構え、音速の世界でぶつかり合い始める。

 

「あのさ、あんまり街を破壊しないでくれないか?!」

「ハッ!バカが!それをさせないのが貴様の役目だろう?!ならば守ってみせろォォオオオ!!」

「っぐ、言われなくともそうするわ!」

 

 ツッコミと剣の二刀流が冴えている亜音だった。

 

 

 

 

#######

 

 

 

 

  ーーーー農園、休憩場。

 

 白いテーブルセットに座る三つの影のうちの一つ、赤いパーカーを着ている青少年、亜音が自身の過去話しから一区切りをつけるように呟く。

 

「蚩尤との出会いは…………まぁこんな感じだったよ」

 

  亜音は少し休憩するように茶を飲み、喉を潤した。レティシアはというと息を吐きながら感嘆を小さく漏らし、そのまま言葉を吐く。

 

「十六夜の話を聞いたあとだが、それでも息が止まるほどの気迫を感じる話だな」

「戦神………ハッ……亜音にしては随分面白い話を提供してくれるじゃねーか。金取らねーよな?裏でもあんのか?」

「あるわけないだろ、アホ。それにその言い方だと、俺が永続的につまらない、残念な男のように聞こえるんだが?」

 

 亜音が言っていた残念男は当たっているのかもしれない、まさか自分が知らないところで無法者の貴族になっていようとは思いもよらないことだろう。軽いショック状態になることは目に見えていた。

 そして、ギロリと互いに睨み合う両者だったが、レティシアがそんなことも気にせず、続きを促してきたので、亜音はもう一度落ち着きを取り戻すためにお茶を飲み、過去にタイムスリップしながら口を開くのだった。

 

 

 

 

#######

 

 

 

 

 アンダーウッドを訪れ、サラ議長との談話、〝ウィル・オ・ウィス プ〞のリーダーである〝蒼炎の悪魔〞についてや〝ノーネーム〞のこれまでの功績、主にペルセウスと北の一件が話題になり、大いに盛り上がり、最後はラビットイーターという黒ウサギをいじり倒すためのネタさえ用意されていた。犯人はもはや幼女にモザイクをかけてもわかってしまうだろう(HEY!YO!と決めポーズしてる様が目に浮かぶ)、S氏。その後も日が暮れるまで収穫祭を見学し、苗や牧畜について目処をつけることができ、とても順調に進んでいる様に見えていたのだがーーーーーーー。

 

「え......っと......っ、ぇ?」

 

  一時解散となった〝ノーネーム〞、その一人である耀は宿舎の自室で荷物の整理をしていた。楽しい気分、そして譲ってくれた十六夜のために早く出会いを探さなきゃという気持ちで荷物を整理していたーーなのにどうしてだろう、まるで悪魔が狙ったかのようなタイミ ングでーーーーそれが出てきてしまった。

 そうーーー十六夜の大事にしていたであろう、彼のトレードマークのヘッドフォンが。

 こんな物、絶対に、特に耀の鞄の中には、絶対にあってはならない物だ。そして、これが悪夢の、〝虫の知らせ〞のように、突如地震が起こる。耀はその場ですぐ立ち上がろうとしたが、尻餅をつく。しかし、尻の痛みなどもはや蚊に刺されたのと同じくらい些細なことでしかなかった。耀の目はただ地面に転がるヘッドフォンに引きつけられていた。

 少しして地響きが鳴り止み、さらに悪いタイミングで部屋の扉が勢いよく開かれ、聞き慣れた声が響く。

 

「耀さん 緊急事態でございますッ! 魔王の残党群が襲撃してきました!我々も今すぐにーーーーっ!?」

 

 黒ウサギの切迫とした表情と言葉は床に転がるその物によって、困惑と疑念に支配された顔つきに変わってしまう。

 耀にとってまさに最悪なタイミング、自分自身も状況が把握できていない、呑み込めていない中に黒ウサギが来てしまった。なにより耀自身、あまり説明が上手ではないし、とてつもなく不器用というのは自覚している。

 だが、さらに最悪なことにーーー時は待ってはくれない。

 

「ゴァアアアアアアア!!」

「きゃ……………!」

 

 突如、宿舎の壁が何か巨大な物にブチ抜かれ、宿舎が小さく瓦解する。そして二人の間に巨大な〝腕〞が煙の中から姿を現した。

 黒ウサギと耀は壁が破砕された際に地に跳ね飛ばされ、地に尻をつけながら外を確認するとギョロリと覗く巨大な目玉と視線が合うーーーと同時に二人は咄嗟に目玉から距離を取るべく飛び退いた。その直後、襲撃者がなりふり構わず巨腕を振るい、破砕していく。

 そして黒ウサギが攻撃を止んだ一瞬を見計らい、耀を抱えて宿舎の外 へ飛び出た。

 襲撃者の全身を目撃した耀は戦慄と共に呟く。

 

「きょ............巨人.........!」

 

 目の前にそびえ立つ存在ーーーーまさに巨人と謳われる程に、全長三十尺もある巨躯。巨大な長刀を片手に握る二の腕は、大木のように太く逞しい。

 そして、耀のつぶやきに黒ウサギが切迫した表情で豪語する。

「YES。彼らは人類の幻獣ーーーーーーそれが巨人族でございます!」

 

 

 始まるのはーーーーー奇跡による奇跡の奪い合い、ギフトゲームさえ無視された正真正銘の戦争であった。

 

 

 


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